1.はじめに
沖縄県は島しょ県であり、本島を除き大小39の有人離島で構成されている。離島における人口は 約13万人であり、全県に占める割合は9%となっている。また、経済規模(純生産額 2009年度)
では約10%を占めている。このように離島の占める割合は小さいものとなっている。しかしながら、
そこには人が住み生活を営んでいるのであり、島しょ県沖縄にとって離島振興は重要な政策課題で
ある。
2011年に策定された「21世紀ビジョン」でも離島振興については多くが割かれている。しかし、離島の現状についてみると、人口の減少と高齢化が進行し、高齢化率が30%を超えるような島もあ り、離島における主要産業である農業も農家人口の高齢化により産業としての存続も懸念されてい る。また、財政状況も経済基盤の弱さから地方税収の割合が低く、地方交付税などの国・県からの 補助金に依存するような財政構造となっている。
以上の背景を踏まえ、本稿では離島における財政に焦点を当てその持続可能性について検討する。
まず、人口、就業構造などの離島の社会経済の現状について述べ、次に離島財政の特徴について考 察する。さらに離島財政の持続可能性を見るために、簡単な離島財政モデルを作成し将来シミュレー
離島財政の特徴とその持続可能性
Features and Sustainability of Local Public Finance in Remote Islands
名嘉座 元一
Hajime Nakaza
【要 約】
沖縄県は、広大な海域に大小160の島々が点在する島しょ県であり、39の有人離島に約13万人の 人々が住んでいる。離島の社会経済を見ると人口は減少し続けており、高齢化も進んでいる。産業 の中心である農水業の従事者も高齢化しており、経済力の極めて弱い町村が多い。離島財政構造を 見ても地方交付税をはじめとする国や県への依存度の高い構造となっている。離島財政モデルを構 築し、将来シミュレーションを行ったところ、極めて厳しい離島の財政状況が明らかになった。
【目 次】
1.はじめに
2.離島の現状
3.離島財政の特徴
4.離島財政モデル
5.今後の展望
ションを行うことによって、具体的な離島財政の今後の姿を描いた。最後にそれらを踏まえ離島財 政の今後の展望について検討した。
2.離島の現状
本章では離島の現状について、まず沖縄の離島の概要を述べ次に人口や労働構造、経済産業構造 の観点から検討する。
1)離島の概要
沖縄県は、東西約1,000km、南北約400kmの海域に大小160の島々が点在する島しょ県である。
そのうち有人離島は39あり、約13万人の人々が住んでいる。この中で最も大きいのは西表島で面積 は289.28㎢となっており、次いで石垣島、宮古島と続く。最も小さな島は由布島で面積は、0.15㎢
で人口はわずか4人である。離島には15の市町村があり、人口規模では宮古島市が5万2,039人と 最も大きく、次いで石垣市の4万6,922人となっている。最も人口が少ないのは渡名喜村の452人で ある。
2)人口及び経済
まず人口の推移について見ておこう。2010年における離島全体の人口は12万7,766人となってお り、県全体の人口の約9.2%を占めている。これを1955年(昭和30年)からの推移でみたのが図1 である。1955年には17万人であったのが1970年までに約4万人減少し、急激な減少傾向となり、そ の後も緩やかに減少を続けている。次に全県に占める割合を見る(図2)。離島の中では宮古島市 と石垣市が最も規模が大きいがこの両市を除くと全県に占める割合はわずか2%となる。
図1 離島と沖縄県の人口推移
(資料出所)沖縄県統計課『国勢調査報告』
20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000 180,000
200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000
県計 離島計
次に離島の人口構造について見ておこう。 2010年において0~14歳人口は17.2%、15~64歳人 口は61.6%、66歳以上人口は21.2%となっている。県計と比較すると65歳以上人口比率が高く、離 島では高齢化が進んでいることが分かる。
離島における労働力状況を見ておこう(表2)。離島平均の失業率は7.9%であり、県計の11.0%
を大きく下回っている。離島の中では伊江村が14.9%と最も高く、最も低いのは北大東村の0.8%
であり、超完全雇用状況となっている。離島全体で失業率が低いのは、農業就業者の割合が高く 高齢者でも就業を続けているからだと推察される。また、粟国村に見られるように非労働力率が
51.4%と高く、非労働力率が高いことも失業率を低くしている要因だと考えられる。図2 離島人口の全県に占める割合
(資料出所)沖縄県統計課『国勢調査報告』
本島(91.9%)
27,790
98,961
1,387,780 その他離島(2.0%)
宮古島市・石垣市計(7.1%)
表1 離島の人口構造
0~14歳
15~64歳 65歳以上離島計
1985年 27.4 60.0 12.6
1990年 25.9 59.2 14.9
1995年 23.1 59.4 17.5
2000年 20.0 60.5 19.5
2005年 18.2 60.9 20.9
2010年 17.2 61.6 21.2
県 計
2010年 17.7 64.9 17.3(資料出所)沖縄県統計課『国勢調査報告』
就業構造について見たのが図3である。離島では第一次産業の割合が17.7%と県計の5.0%に比 べて高い、次いで建設業や公務の割合が高く、これらの産業が離島の中心産業となっている。離島 が小規模であればあるほど、このような傾向が強くなっている。
表2 離島の労働力構造
市町村 総 数1)
労 働 力 人 口 非労働力 人 口
労働力率
(%)2)
非労働力率
(%)2)
完全失業率 総 数 就業者 完全失業者 (%)
県 計 1,138,467 650,307 578,638 71,669 405,186 61.6 38.4 11.0
離 島 計 104,920 65,719 60,538 5,181 34,732 7.9 石 垣 市 38,169 24,076 22,275 1,801 11,465 67.7 32.3 7.5 宮 古 島 市 43,303 26,175 24,029 2,146 15,453 62.9 37.1 8.2 伊 江 村 4,072 2,596 2,210 386 1,472 63.8 36.2 14.9 渡 嘉 敷 村 632 474 451 23 156 75.2 24.8 4.9 座 間 味 村 714 513 477 36 200 71.9 28.1 7.0 粟 国 村 745 360 328 32 381 48.6 51.4 8.9 渡 名 喜 村 417 251 229 22 166 60.2 39.8 8.8 南 大 東 村 1,205 913 868 45 292 75.8 24.2 4.9 北 大 東 村 552 478 474 4 74 86.6 13.4 0.8 伊 平 屋 村 1,122 647 590 57 466 58.1 41.9 8.8 伊 是 名 村 1,325 808 689 119 516 61.0 39.0 14.7 久 米 島 町 7,094 4,421 4,025 396 2,651 62.5 37.5 9.0 多 良 間 村 963 669 645 24 293 69.5 30.5 3.6 竹 富 町 3,258 2,316 2,268 48 822 73.8 26.2 2.1 与 那 国 町 1,349 1,022 980 42 325 75.9 24.1 4.1 1)労働力状態「不詳」を含む。
2)割合の計算の際には、分母から不詳を除いている。
(資料出所)沖縄県地域離島課『離島関係資料』2014年
図3 離島の就業構造
(資料出所)沖縄県地域離島課『離島関係資料』2014年
0.010.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0
第1次 第2次 製造業 建設業 第3次 うち公務 離島計 県計
17.7
14.4
4.8
9.6
59.1
5.0 6.0
14.0
4.8 9.2
72.3
5.4
3.離島財政の特徴 1)財政規模
2010年度における離島市町村の歳出額は約996億円であり、全県の15.9%となっている。これを
1992年からの推移で見たのが図4である。 1999年までは増加傾向であったが2000年を境にして減少傾向に転じ、2008年の845億円まで減少している。その後2009年度から再び増加傾向にある。全 県もほぼ同様の傾向となっているが離島の方が減少の度合いが大きい。
2)財政構造
次に2010年度における歳出入構造について見てみよう。まず歳入構造であるが、地方税収は離島 計では10.6%で、県計(21.6%)の約半分しかない。その一方、地方交付税の比率は離島計が38.5
%となっており県計(22.7%)よりもかなり大きな割合となっている。また、国庫支出金は17.7%
であり、これは県計の22.3%より低い。地方債についても8.6%と県計(9.3%)よりやや低い。
このように離島の歳入の特徴は地方税収が少なく、地方交付税及び国庫支出金による国からの補 助の割合が高いことである。この特徴をさらに見るために、自主財源率と依存財源率について見た のが表2である。離島計は自主財源と依存財源の比率はほぼ2:8となっている。これに対して県 計では3:7であり、離島の国・県からの補助に依存する割合が高いことが分かる。ちなみに全国 平均の自主財源比率は42.4%であり、離島は全国平均の半分でしかない。
図4 離島と全県の歳出額の推移
(資料出所)沖縄県市町村課『市町村財政概況』各年度
60,000,000 70,000,000 80,000,000 90,000,000 100,000,000 110,000,000 120,000,000
300,000,000 350,000,000 400,000,000 450,000,000 500,000,000 550,000,000 600,000,000 650,000,000
全県 離島計
離 島 計
沖 縄 県
(注)自主財源は、地方税、使用料・手数料、財産収入、分担金・負担金などの合計であり、依存 財源は地方譲与税、地方交付税、国庫支出金、県支出金、地方債および各種交付金等の合計 である。
次に歳出構造について見てみよう。2010年度で最も構成比の高い項目は普通建設事業費で
26.4%、次いで人件費の18.5%、物件費18.3%、扶助費および公債費の11.2%となっている。県計に比較して普通建設事業費、公債費、人件費の割合が高いことが特徴となっている。
表3 歳入構造(2010年度)
単位:千円、%
離 島 計 構 成 比 県 計 構 成 比
地 方 税
11,199,913 10.6 140,227,267 21.6使 用 料・ 手 数 料
2,099,709 2.0 11,442,192 1.8地 方 譲 与 税
1,051,598 1.0 4,235,196 0.7地 方 交 付 税
40,850,072 38.5 146,923,851 22.7国 庫 支 出 金
18,773,520 17.7 144,489,255 22.3地 方 債
9,148,631 8.6 60,307,525 9.3そ の 他
22,932,433 21.6 140,928,597 21.7歳 入 合 計
106,055,876 100.0 648,553,883 100.0(資料出所)沖縄県市町村課『市町村財政概況』
表4 自主財源と依存財源(2010年度)
単位:%
離 島 計 県 計 自主財源 依存財源 自主財源 依存財源
2005年度 21.0 79.0 33.5 66.5
2006年度 19.7 80.3 34.7 65.3
2007年度 21.2 78.8 37.4 62.6
2008年度 21.6 78.4 36.1 63.9
2009年度 19.0 81.0 35.3 64.7
2010年度 20.1 79.9 33.3 66.7
3)財政指標に見る離島財政
表5は財政諸指標のうち、市町村の借金返済の比率を示す実質公債費比率、自立度を示す財政力 指数、財政の硬直度を示す経常収支比率を示したものである。
実質公債費比率が25%以上を超えると一般単独事業にかかる地方債の起債が制限されるが、伊是 名村、座間味村が25%を超えている。財政力指数については宮古島市、石垣市を除いてどの市町村 も小さく、特に伊平屋村、渡名喜村、渡嘉敷村が0.1を切り、極めて厳しい状況である。経常収支 比率では90%を超えるのは粟国村、渡名喜村、座間味村となっている。これらは収入のほとんどが 人件費や公債費等の経常支出に流れ、インフラ整備のための公共投資支出など自由に使える割合が 小さく、そのため硬直性の高い財政構造となっている。
表5 歳出構造(2010年度)
単位:千円、%
離 島 計 構 成 比 県 計 構 成 比
人 件 費
18,446,332 18.5 96,939,039 15.5物 件 費
18,234,866 18.3 68,501,916 11.0維 持 補 修 費
723,221 0.7 3,560,850 0.6扶 助 費
11,138,666 11.2 137,182,025 21.9補 助 費 等
4,812,479 4.8 46,125,366 7.4普 通 建 設 事 業 費
26,249,227 26.4 131,608,029 21.0災 害 復 旧 事 業 費
209,136 0.2 489,937 0.1失 業 対 策 事 業 費
0 0.0 0 0.0公 債 費
11,120,503 11.2 55,366,309 8.9積 立 金
6,452,814 6.5 29,694,553 4.7投 資 及 び 出 資 金
179,555 0.2 227,055 0.0貸 付 金
29,080 0.0 1,087,620 0.2繰 出 金
8,003,890 8.0 54,799,961 8.8歳 出 合 計
99,591,769 100.0 625,582,660 100.0(資料出所)沖縄県市町村課『市町村財政概況』
表6 財政指標(2010年度)
実質公債費比率 財政力指標 経常収支比率 実質公債費比率 財政力指標 経常収支比率 伊平屋村
22.6 0.08 78.4南大東村
12.8 0.15 70.6伊是名村
26.2 0.11 92.7宮古島市
10.5 0.31 86.5伊 江 村
6.2 0.16 74.8多良間村
14.6 0.12 72.2粟 国 村
13.4 0.10 99.2石 垣 市
13.2 0.38 81.9渡名喜村
13.2 0.06 91.8竹 富 町
8.4 0.17 78.0座間味村
25.3 0.10 93.1与那国町
8.8 0.14 80.6渡嘉敷村
15.3 0.09 83.0離島平均
12.5 0.15 83.2久米島町
13.6 0.19 80.1県 平 均
11.8 0.34 84.5北大東村
17.1 0.11 88.9(注)実質公債費比率について
起債の際、協議でなく許可が必要・・・18%以上
一般単独事業に係る地方債の起債が制限される・・・25%以上
(資料出所)沖縄県市町村課『市町村財政概況』各年度
4)財政格差と財政効率性の差
表7は離島間の財政格差を見たものである。離島は人口規模の大きい宮古島市から最も小さい渡 名喜村まで多様な島々で構成されているが、まず一人当たり歳出額を見ると北大東村の355万円が 最も大きく石垣市は49万円と約7倍の差がある。地方税比は石垣市が20.1%で最大、最小は渡名喜 村の2.1%である。国・県からの財政移転比率は伊是名村が94.0%と最も依存度の高い自治体である。
財政力指数については石垣市が0.38と県平均を上回っている。渡名喜村はわずか0.09しかなく極め て財政力の弱い構造となっている。このように離島の財政は大きな格差構造を持ったものとなっている。
図5は人口規模と人口1人当たり基準財政需要額の関係をプロットしたものである。基準財政需 要額は地方交付税の交付額を計算する際に用いられるもので、地方自治体が標準的な行政を行う際 に必要な税などの一般財源額のことである。人口規模が大きくなるにつれて一人当たり基準財政需 要額は減少する。これは規模の経済性によって供給コストが軽減されるからである。また、人口と 1人当たり地方交付税額をプロットしても同様な傾向が見られ、離島においては供給のコスト高を 補助によって埋め合わせていることが窺える。
表7 離島における財政格差
人 口 1人当たり歳出額 地方税比 国・県からの財政移転比 財政力指数
(人) 市町村 (万円) 市町村 (%) 市町村 (%) 市町村 市町村 M A X 52,039(宮古島市) 355(北大東村) 20.1(石 垣 市) 94.0(伊是名村) 0.38(石 垣 市)
M I N 452(渡名喜村) 49(石 垣 市) 2.1(渡名喜村) 66.0(石 垣 市) 0.09(渡名喜村)
離島平均 - 78 10.8 75.9 0.15
県 平 均 - 48 24.9 54.8 0.34
(資料出所)沖縄県地域離島課『離島関係資料』、沖縄県市町村課『市町村財政概況』
図5 人口規模と1人当たり基準財政需要額
(資料出所)沖縄県地域離島課『離島関係資料』、沖縄県市町村課『市町村財政概況』
0 200 400 600 800 1,000 1,200
0 10000 20000 30000 40000 50000 60000
人口
宮古島市 石垣市 久米島町
北大東村
竹富町
4.離島財政モデル
ここでは、これまでに考察してきた離島財政の特徴を踏まえて、離島財政モデルを作成する。離 島財政の特徴は、 ①地方税収比率に格差があり、それは経済力の差を反映している。 ②地方交付 税に依存する離島が多いこと、また国・県からの財政移転に依存する割合も高い。 ③このため基 準財政収入と基準財政需要に大きな差が生じ、その結果、財政力指数の差となって表れる。例えば、
渡名喜村では地方税収比率が2.1%と小さく、財政力指数も小さい。逆に地方交付税比率は36%で あり高依存型の財政構造となっている。このように高い地方交付税依存型の離島財政が持続可能か どうか検証するために、離島財政モデルを作成し、将来の地方交付税の動向を踏まえながら、将来 シミュレーションを行った。
1)モデルの体系
離島財政モデルは、離島財政の持続可能性を検証するために作成するもので、本稿では依存型の 離島財政の特徴を反映した地方交付税に焦点をあて、地方交付税を中心にしたモデルを作成した。
まず、地方交付税を算出するため基準財政需要額と基準財政収入額を求める。次にこの2変数から 地方交付税を算出する。地方税は基準財政収入額の説明変数であり、同時に市町村民所得で説明さ れる内生変数でもある。また扶助費は人口減少および高齢化による福祉関連支出の増大を勘案し離 島の負担を示す変数として追加した。したがって、本モデルは5本の回帰式で構成され、内生変数 は5個、外生変数は4個となる。
モデル式は以下のように推計された。
基準財政需要額
FD=14239697+53.7486*(POP1564)+1110.71*(POP65)
(2.30)
(1.57)
(3.37)
R
2=0.887 SD= 643,410.6 DW= 1.564
基準財政収入額FS=2628224+0.504613*(TT)
(2.02)
(5.90)
R
2=.754 SD= 336,854.0 DW= .728
地方交付税TA=13607630+0.725727*((FD-FS))
(4.88)
(8.49)
R2
=.816 SD= 1,052,319 DW=1.626
地方税TT=-19159671+109.760*(YI)+1938989(DUM02)+2623909(DUM08)
(-4.60) (6.74) (3.54)
(4.77)
R2
=.817 SD= 529,512.7 DW= .689
扶助費
FUZ=14905754+703.337*(POP65)-100.946*(YI(1))
(2.17) (5.14)
(-2.82)
R
2=0.863 SD= 750,811.1 DW= 1.06
FD:基準財政需要、FS:基準財政収入、TA:地方交付税、TT:地方税、FUZ:扶助費
POP1564:15
~
64歳人口、POP65:65歳以上人口、YI :市町村民所得、DUM02、DUM08 :
2002年、2008年ダミー、R2
:決定係数 DW :ダービンワトソン比、
SD:標準偏差、各パラメーターの下の( )
内の数値はt値
2)モデル式の説明
以下で推計された各回帰式に対して説明する。
ア.地方交付税
地方交付税制度は、地方団体間の財政力格差による不公平を解消することを目的とした財政調整 制度である。財源としては、国税である所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税の一定割合を地 方団体に配分するものである。また同制度は財政調整機能と同時にナショナル・ミニマムの確保と いう財源保障機能を持たせている。実際の配分の方法としては、以下の式に示すように基準財政需 要額から基準財政収入額を引いた差額(財源不足額)として算定される。
地方交付税額=基準財政需要額-基準財政収入額=財源不足額
モデル式では、この関係を回帰で反映させている。
イ.基準財政需要額
「消防費」、「道路整備費」といった行政費目を積み上げて算定した額である。各費目を算出する 際はかなり複雑で算出根拠が分かりにくくなっているが、概ね人口や面積に応じて配分する様に なっており、ここでは高齢化に伴う福祉関連経費の増大を反映することができるように人口を15歳
~64歳人口と65歳以上人口に分けて推計した。
ウ.基準財政収入額
基準財政収入額は、標準税率で課税した場合の収入見込み額のことである。自治体の標準的な収 入である地方税の75%を対象として算出される額である。標準的な地方税収入とは、市町村民税、
固定資産税など法定普通税の全てである。したがって、説明変数を地方税とした。
エ.地方税
地方税は市町村民税、固定資産税、軽自動車税、たばこ税で構成されるが、ここではまとめて1 本の方程式で示した。説明変数は市町村民所得である。
オ.扶助費
扶助費は 性質別歳出の項目であり、社会保障制度の一環として生活困窮者、児童、老人、身体
障害者等を援助するための支出である。したがって、説明変数として65歳以上人口と市町村民所得 の2つの変数を用いた。
3)離島財政の将来シミュレーション
次に離島財政のパフォーマンスを考察するため、将来シミュレーションを実施した。本モデルは 歳入歳出構造を方程式で体系化した本格的なモデルではないが、地方交付税の動向を見ることに よって、大よその離島財政の姿を見通すことができる。そのため、
外生変数に2025年までの想定値を設定し地方交付税を中心とする項目がどう変化するのか試算した。
なお、外生変数の想定値は以下のようになる。
ア.外生変数の想定
人口については、社会保障・人口問題研究所の市町村別人口予測値を用いた。それによると、図 6に示すように、離島人口は2010年の12万7千人から2025年には12万人に減少する。また、
15~64歳人口は減少する一方、
65歳以上人口は増加すると予測される。市町村民所得は、過去の推移を踏まえて設定した。 1992年からの推移で見ると、最も伸び率が 高かった期間は1992年から2000年にかけての年平均1.2%の伸び率であった。直近の5年間はわず か0.4%の伸び率でしかない。そのため景気回復したケースとして年平均1.2%の伸び率を想定し、
現状維持ケースとして、0.4%の伸び率を設定した。
外生変数の想定(年平均伸び率)
15~64歳人口:-1.1%
65歳以上人口:1.9%
市町村民所得:1.2%(景気回復ケース)、0.4%(景気低迷ケース)
図6 離島人口の将来予測
(資料出所)社会保障・人口問題研究所予測より作成
0.00 10,000.00 20,000.00 30,000.00 40,000.00 50,000.00 60,000.00 70,000.00 80,000.00 90,000.00
2011 2015 2020 2025
15~64歳人口 65歳以上人口
4)シミュレーション結果の検討
シミュレーション結果は以下に示す通りになっている。まず景気回復ケースでは、基準財政需 要は2010年の424億9千万円から2020年には483億8千万円となり、
2025年では516億5千万円と 2010年からの年平均伸び率では1.3%となる。基準財政収入については2010年の103億6千万円から 2025年には131億5千万円まで1.6%の伸び率となっている。その結果、地方交付税は2010年の408億5千万円から2020年には438億1千万円、
2025年には454億7千万円となり、2025年までの年平均伸び率は0.7%となった。さらに扶助費は2025年までに0.9%の伸びと予測された。
一方、景気低迷ケースでは基準財政需要は変わらないが、基準財政収入は地方税収の落ち込みに よって0.5%の伸び率となっている。その結果、地方交付税は2025年に468億6千万円と0.9%の伸 び率となった。扶助費は2025年に158億9千万円と年平均伸び率が2.4%となった。扶助費の伸び率 が高くなったのは経済成長の低迷により生活保護等の支援が必要となったためだと推察される。
地方交付税は国の財政事情も厳しいことから、景気回復によってもこれまでのように大きな伸び は期待できない。むしろ伸び率は減少傾向にあり、
92年からの年平均伸び率で全国はマイナス1.7%、沖縄県市町村計でみてもマイナス1%の減少率となっている。全国の地方交付税の動向をみると、
90年代にかけては地方の景気浮揚対策もあり大幅に増大したものの、その後も景気低迷が続いたた
表8 景気回復ケース
単 位
2010年 2015年 2020年 2025年年 平 均 伸 び 率
2010-2015 2015-2020 2020-2015 2010-2025
基準財政需要(百万円)
42,489 44,388 48,378 51,652 0.9 1.7 1.3 1.3基準財政収入(百万円)
10,361 11,236 12,166 13,152 1.6 1.6 1.6 1.6地 方 交 付 税(百万円)
40,850 41,593 43,814 45,474 0.4 1 0.7 0.7地 方 税(百万円)
11,200 12,935 14,776 16,731 2.9 2.7 2.5 2.7扶 助 費(百万円)
11,131 11,205 12,223 12,664 0.1 1.8 0.7 0.9市町村民所得(百万円)
257,188 272,994 289,772 307,580 1.2 1.2 1.2 1.215~64歳 人 口(千 人) 78.4 75.7 70.9 66.7 -0.7 -1.3 -1.2 -1.1
65歳以上人口(千 人) 27.2 29.0 32.8 36.0 1.3 2.5 1.8 1.9
表9 景気低迷ケース
単 位
2010年 2015年 2020年 2025年年 平 均 伸 び 率
2010-2015 2015-2020 2020-2015 2010-2025
基準財政需要(百万円)
42,489 44,388 48,378 51,652 0.9 1.7 1.3 1.3基準財政収入(百万円)
10,361 10,648 10,941 11,240 0.5 0.5 0.5 0.5地 方 交 付 税(百万円)
40,850 42,020 44,703 46,861 0.6 1.2 0.9 0.9地 方 税(百万円)
11,200 11,769 12,350 12,942 1 1 0.9 1扶 助 費(百万円)
11,131 12,056 14,215 15,890 1.6 3.3 2.3 2.4市町村民所得(百万円)
257,188 262,373 267,663 273,059 0.4 0.4 0.4 0.415~64歳 人 口(千 人) 78.4 75.7 70.9 66.7 -0.7 -1.3 -1.2 -1.1
65歳以上人口(千 人) 27.2 29.0 32.8 36.0 1.3 2.5 1.8 1.9
め、地方交付税の収入項目である国税が減少し収入と支出に大きな差が生じた。このため、2000年 以降は大幅な減少となっている。
これに対して離島では全国及び沖縄市町村計よりも高い伸び率で推移してきている。これは地方 交付税の算出において離島の特殊事情が配慮されているためだと推察される。しかしながら、地方 交付税を取り巻く環境を踏まえると、このような高い伸びを維持するためには厳しい状況となって いる。
さらに、景気回復ケースと景気低迷ケースを比較すると、離島財政の厳しさがより鮮明になる。
財政ニーズは高齢化等に伴い増大するのに対し経済低迷により地方税収が減少するため、その差額 である地方交付税額はさらに増加するとの予測結果となる。また、扶助費も失業者や生活困難者の 増大等によって景気低迷ケースにおいてその額は増大する。しかしながら、国の財政力は伴わない ことから、地方交付税等、国の補助金の増大は困難であろう。そのため、離島市町村は大きな財政 負担を強いられることになろう。
5.今後の展望
これまでに考察してきたように、離島財政の特徴は地方交付税を中心として国や県への依存度の 高い財政構造となっていることである。これは離島が農業や建設業を中心とした産業構造であるた め、経済が脆弱であり、そのために地方税収が少なく、自主財源が小さいことが要因である。今後 は人口減少と高齢化がさらに進む。それに伴い福祉関連費や介護・医療費など行政ニーズが増大す ることが予測される。そのため地方交付税がこれまで以上に必要となる。これは財政シミュレーショ ンでも明らかになった。
しかしながら、アベノミクスと言われる経済政策が成功して景気が大幅に立ち直らない限り、日 本の財政事情は厳しくなるものと想定される。国の累積債務もGDPの2倍近くとなっており、こ れまでのように地方に対して十分な補助を与えるような余裕はなくなる。そのため、地方交付税や
図7 ケース間の比較
(地方交付税) (扶助費)
38,000,000 39,000,000 40,000,000 41,000,000 42,000,000 43,000,000 44,000,000 45,000,000 46,000,000 47,000,000 48,000,000
2011 2015 2020 2025
景気回復 低成長
0 2,000,000 4,000,000 6,000,000 8,000,000 10,000,000 12,000,000 14,000,000 16,000,000 18,000,000
2011 2015 2020 2025
景気回復 低成長
国庫支出金等の地方への財政移転は抑えられる方向にある。政府は消費税率を上げることによって 財源不足を補っていくことや税制度の見直し等を図り、財政のバランスを回復することを目指して いる。またTPPへの参加は、離島経済にとって大きなマイナスとなることが懸念される。つまり、
さとうきびの関税撤廃による離島農家への影響である。これは農業が中核となっている離島経済に 深刻なダメージを与えることになろう。
このように離島財政を取り巻く環境は厳しくなると考えられる。もともと離島財政は規模が小さ いため、供給面においてコスト高となるような構造を持つことを余儀なくされている。陸続きの地 域におけるように、合併により規模の経済を追求するようなことは、広大な海域に点在する沖縄の 離島では実現不可能である。おそらく今後とも地方交付税を中心とする離島への補助の必要性は高 い。かといって、上述したような厳しい財政状況によりこれまでのような補助は期待できない。離 島としてもこのような状況を手をこまねいているだけでなく、多少とも税収を上げることや効率的 な財政運用を行う努力をする必要があろう。ただ離島のみにこの様な負担を強いる事は酷である。
県民の理解のもと、県として離島振興をどう展開していくのかが、離島市町村の努力と同時に問わ れている。
なお、本稿では離島財政の持続可能性を考察するために計量モデルを作成したのであるが、今後 は、福祉関連費用や介護・保険費用、生活保護費用などをモデルに導入し、歳出・歳入構造を詳細 に表現できるモデルを作成していく予定である。それによって、離島財政の課題を詳しく検証する ことができる。
参考文献
1.沖縄県地域離島課『離島関係資料』各年度 2.沖縄県市町村課『市町村財政概況』各年
度
3.沖縄県統計課『市町村民所得年報』各年度
4.沖縄県統計課『国勢調査報告』各年
5.岡本直樹・吉村恵一共編著(2002)『[論・説]地方財政シミュレーション』ぎょうせい 6.株式会社沖縄計画研究所(2001)『沖縄県経済社会の将来予測調査報告書』
7.只友景士(1999)「沖縄振興開発政策と離島市町村財政」『彦根論業』第318号 79-104 8. ― (2008)「沖縄の自治体財政の諸相に関する考察」『環境と公害』Vol.37 No3 34-41 9.武田宏(2006)『高齢者福祉の財政課題』あけび書房