問題と目的
平成22年度,筆者らは,愛媛大学教育学部のディプロー マ・ポリシーに即して教員養成の質を保証することを視野 に入れつつ,学生の教職への動機づけを入学時から卒業時 にかけて縦断的に調査し,その変化に影響する要因を多面 的に検討することを最終的な目標としてプロジェクトを開 始した。本論文は,その試みの一部として行われた分析の 一部を報告するものである。
当プロジェクトの特色及び独創性としては(1)動機づけ の時系列的変化を中心とした多面的な評価資料の収集:入 学時の動機づけの状況,在学中の授業科目の履修,各種実 習への参加,ボランティア活動,その他の課外活動など,
動機づけに関連する幅広いデータ収集を縦断的におこなう 点,(2)長期的展望に耐える研究設計:本プロジェクトは,
まずは,1年間という短いスパンでの実施になるが,これ を継続的に発展させていくことで,入学時から教員採用後 までをも視野に入れた質の高い教員養成課程のための評価 システムへと展開できる点,(3)統計的手法によるデータ 解析:各種推測統計を用いることや長期間に渡って今後蓄 積されたデータに対してはデータマイニングや構造方程式 モデリングなどによって評価資料の解析をおこなうこと,
などが挙げられる。
本プロジェクトを進めることによって,各学年の学生が いつの時期にどのようなイベントによって教員採用に向け た動機づけが変化するのかが明らかになり,動機づけを高 めるための方策を提案することができる。さらに長期的に
は,長期の縦断的なデータ収集体制が構築されることによ り,エビデンスに基づいたカリキュラムや修学指導内容の 評価・改善をおこなうことができる。本研究は在学生を対 象とする試行的予備的段階に位置づくものであり,評価項 目と分析手法の模索検討,研究仮説の検証をおこなうが,
ここで得られた知見を教育評価資料の1つとして活用する ことも可能である。
また,本計画の提案する包括的データ収集体制は,平成 25年度より開講する「教職実践演習」実施にも有益である。
教職課程の最終的な仕上げをおこなう「教職実践演習」で は,本学の場合,各自が「学修」,「実習」,「省察」から成 るポートフォリオを作成し,それを資質能力のエビデンス データとするが,入学時の教職課程の履修指導と「教職実 践演習」が有機的関連をもって効果的に機能するために本 計画で得られるデータは貴重である。
これまで,以上に示した試みの最初の取り組みとして,
愛媛大学教育学部学校教育教員養成課程の2年生及び3年 生を対象にオンライン・アンケート調査を実施した。上述 のように,この試みでは学生が在籍している間に起こる 様々な教育関連イベント等が学生の教職動機づけに影響を することと想定している。このようなイベントとして,4 年間で最も影響力の大きなものは本学部では3年次の9月 に実施される教育実習であると考えられる。このようなこ とから,本プロジェクトを始めた年に当たる本年において は,この3年生の教育実習の前後で,教職動機づけがどの ように変化するか検討することを最も中心的な事項とし た。本年度は,このほか主に2年次の夏期におこなわれる
教職への動機づけを規定する要因の探索
富田 英司,吉村 直道,山本 久雄,田中 雅人,川岡 勉 原田 義明,竹永 雄二,隅田 学
愛媛大学 教育学部
Exploration of Factors That Determine Change in Teaching Motivation
Eiji T
OMIDA, Naomichi Y
OSHIMURA, Hisao Y
AMAMOTO, Masato T
ANAKATsutomu K
AWAOKA, Yoshiaki H
ARADA, Yuji T
AKENAGA, Manabu S
UMIDA Faculty of Education, Ehime University23 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
「ふるさと実習・プレ教育実習」及び主に3年生の希望者 が参加するフィリピン大学附属学校でおこなわれる教育実 習の前後において教職動機づけがどのように変化するか検 討した。なお,後者の教育実習は「平成22年度 愛媛大学 国際連携推進事業(愛大国際GP)「国際性を備えた教育 人材を育成する海外インターンシッププログラムの開発」
(代表者:隅田学准教授)として実施されたものである。
教育実習という学生にとって非常な大きなイベントが教 職動機づけに与える影響は大きいと考えられるが,学生が もともと持っている教育に関わる信念や教育実習先の体験 の質によっても,この影響の大きさは変化すると考えられ る。そこで本研究は,先行研究を参考にして「教育実習に 関する認識」「子ども観」「学習観」「教授観」「教師観」「授 業展開観」についても調査し,これらの変数がどのように 教職動機づけの高さに影響を与えるかについても検討し た。
本論文は初期的な試みとして,(1)教育実習の種類に よってどのような認識が変化するのか,その違いを明らか にすること,そして(2)どのような認識が教育実習後の教 職動機づけの高さを規定するのかを明らかにすること,を 目指して実施した分析の結果を報告する。
方 法
全体構想
本研究の実施は次の4段階から成っている。
(1)調査項目の決定
教員採用への動機づけを測定するための質問項目,そし てこの動機づけの高さに影響すると考えられる各種変数を 想定し,それらを測定するための質問項目を考案した。
(2)調査実施体制の確立
本研究計画では,Eメールを用いたアンケートを長期間 にわたって繰り返し実施することを想定している。そのた め,Eメール等を使った効果的なアンケート実施体制を確 立する必要があった。このために,Eメールでのアンケー トの実施・集計を支援するジャストシステム社製ソフト ウェアTRUSTIA /R.2を用いた。
(3)データ解析
蓄積されたデータを使って,各種統計的手法を駆使して 分析を進める。
(4)研究とりまとめ
以上から得られた知見に関してとりまとめたものが本論 文である。しかし,これはごく初期の報告であり,最終的 には学生が4年間という長いスパンの中で,いつどのよう なきっかけで教職動機づけを変化させるのかを明らかにす ることが本来の目的である。
教育実習の全体像
本学部は「教員の資質向上」という社会的要請に応える ため,教員養成カリキュラムの実習科目を体系的に組織し,
平成18年入学生より適用している(表1)。教育実習は,
学校教育教員養成課程のすべての学生に履修を義務づけら れているように,体系的な実習科目群の中で核となる最も 重要なものである。
この教育実習は,該当の実習のみならず事前指導及び事 後指導も含めて履修し合格することが単位認定の条件とな る。そのため,確実な履修と実ある実習の保障のため,5 月上旬の事前指導ガイダンスより学生は具体的な準備を始 める。そして,幼稚園・小学校・中学校・特別支援学校の 学校種ごと2〜5回の事前指導(5・6・8月)を受け,
学校教育教員養成課程の学生は5週間の実習,特別支援教 育教員養成課程の学生は小学校教育実習Ⅰ(4週間)の後 ただちに特別支援学校教育実習(3週間)の実習に取り組 む。実習後は,学生生活担当教員による事後指導と実習カ リキュラム委員会がおこなう事後指導(11月頃)を受け,
一連の教育実習が終了する。
この教育実習において,多くの場合,学生はチームとし て学級配属され,そのチームで授業実践を構想・実践・評 価に取り組み,そうした実際の活動とその省察を指導教員
(附属教員)と同僚の実習生とで分析的に繰り返す。この ような協同活動を通して,実践力のある教員を養成するの が,3年次に実施する教育実習である。
年次(履修の型) 実習科目名称 実施校 目 的
4年次(選択) 応用実習 公 立 校 教科指導力,生徒指導力等の向上 4年次(選択) 教育実習Ⅲ(他校種) 附属校園 学校種間の連接を考えるための実習
3年次(必修) 教育実習Ⅰ・Ⅱ 附属校園 教科指導力,生徒指導力を主体とし,学級経営や生活指導も含めて,それまでの学びを 実践する機会の提供
2年次(選択) プレ教育実習 附属校園 教育実習への動機づけ,教科指導・授業の展開法について考える機会の提供
2年次(選択) ふるさと実習 出身校等 学校現場全般(学級経営,学校と地域の連携,教科指導以外の教師の仕事等)の観察,
子どもの理解,授業の展開法・支援法の観察 1年次(必修) 観察実習 附属校園 授業や子どもの活動の観察を通じた児童・生徒の理解
表1 本学部で実施している実習科目
24 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
ふるさと実習・プレ教育実習の概要
2年次でおこなうふるさと実習の正式名称は「教育実践 体験実習」(以下,ふるさと実習)である。このふるさと 実習は,下記の3つをその目的として行われるものである。
(1) 学校現場全般の観察をし,教師の仕事全般について 正しく理解する。
(2) 児童・生徒に対して,適切な接し方を身につける。
(3) 授業の補助を務め,授業の展開法や児童・生徒への 適切な支援の方法を学ぶ。
そして,その実施時期と期間は,2年次の夏季休業中(9 月前半)または春季休業中(3月上旬頃)であり,受入校 と調整してその日程を決める。実習期間は1週間である。
対象学生は,教員志望の2回生であり,実習の主旨を十 分理解していること(事前指導の受講義務)と,「地域連 携実習」に3回以上参加しているか,「実践入門」(1年次 後期)の単位を修得している者に限られている。実際の参 加人数は,平成21年度では86名(内,生涯学習群の学生13 名)である。
ふるさと実習を希望する学生は,受入校に対して自ら電 話連絡し日程の連絡調整をするなど,主体的に活動するこ とが求められ,実際の実習においては,朝の校門での挨拶 指導からはじまり放課後対応まで,特定の教員に張り付き ながら学級経営や授業の補助などをする。そうした活動の 中での現場教員とコミュニケーションから教職についての 理解を深めていく。しかも9月頃の実施ということもあり,
運動会・体育祭や文化祭などの運営にも携わる学生も多 く,参加学生の多くは,行事を通した教育の意義も実感し ているようである。
加えて,2回生は,このふるさと実習が終わった直後か らプレ教育実習が始まることになる。このプレ教育実習 は,「実践省察研究Ⅰ」(2年次,集中授業)の一環のプロ グラムである。この実践省察研究Ⅰは,(1)事前指導,(2)
プレ教育実習(於:附属校園),(3)省察授業(於:教育 学部),(4)事後指導の4つのプログラムから成る。(2)
プレ教育実習において,実際に3回生が取り組んでいる教 育実習,特に研究授業と授業協議会の実践をそれぞれ3回 観察し,観察したものについてそれぞれ大学教員と観察学 生とでその振り返りをおこなう。この3回の振り返りが
(3)省察授業である。
一連のこれらのプログラムを通して,次年度の教育実習 に向けて意識の高揚と今後の取り組みに対する課題を明確 にすることが,この実践省察研究Ⅰの目的である。そうし た目的のもと,多くの学生がこのプログラムに参加し,実 際の3回生の教育実習の様子を見て,より具体的に自分自 身の教育実習のイメージを膨らませるとともに,授業運営 ならびに子ども理解の難しさを知り,大学での学びの大切 さを再確認しているようである。また,授業協議会を実際
に見ることは学生にとってこれが初めてであり,貴重な機 会となっている。平成21年度の参加人数は103名,平成22 年度は120名であり,選択履修の実習であるが,学校教育 教員養成課程の学生のほぼ全員が参加しているのが実態で ある。
フィリピンでの教育実習の概要
フィリピン大学附属学校での教育実習については,本学 の大学教育実践ジャーナルに「愛媛大学における海外教育 実習プログラムの開発と実践」(隅田ほか,2011)として 既に詳細が説明されているので,ここでの説明は割愛する。
質問紙の作成
今回,主に用いられた質問項目は表2の質問項目リスト に示す通りである。これらは5つのカテゴリーすなわち
(1)実習に関する認識についての項目(3回生:教育実 習,2回生:ふるさと実習・プレ教育実習),(2)子ども 観についての項目,(3)学習観についての項目,(4)教師 活動観についての項目,(5)職業意思決定についての項目 に大きく分かれている。(1)は,調査対象期に行われる各 種実習などの主な学習イベントに直接関連した質問であ り,(2)〜(5)の質問は4年間の中でどのように子ども観,
学習観,教師活動観,職業意志決定について教育学部生の 意識が変わっていくのかを捉えようとしたものである。ど の質問も1:全くそう思わない,2:少しだけそう思う,
3:ややそう思う,4:そう思う,5:とてもそう思う,
の5段階での回答を要求し,その調査に取り組んだ。以下,
それぞれについて概説する。
(1)実習に関する認識
この質問項目群は,学生が実習に何を期待しているのか を探るものである。具体的には,表3のような質問項目で ある。できる限り比較調査ができるよう質問は同じにして いるが,イベントの特徴よりその内容が少し変わる場合(表 3,番号2)や,単独の質問(表3,番号4)を設けてい る場合がある。
経験的には,例えば3回生の教育実習であれば,実習前 このイベントを楽しみに思うと同時に自身の教員としての 適性に疑いを持たない学生が,実習後教職の難しさを実感 し自身の適性に疑いを持ったり,逆に,教職に余り興味を 持っていなかった学生が実習を通して教職に魅力を感じ始 めたり様々である。各イベント前後での学生の認識の変化 を明らかにすると同時に,(5)の職業意志決定に関する回 答との関連を探ることを目的としてこれらの質問項目が用 意された。
(2)子ども観
三島(2007)は,教育実習経験によって授業イメージ,
25 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
項目内容 具体的な質問(教示文言) 実施対象
1 実習 に 関す る 認識
子どもとの関わりへの期待 教育実習,ふるさと実習
授業・授業準備への期待 教育実習,ふるさと実習
生徒指導・相談への自信 教育実習,ふるさと実習
他の実習生との協力への期待
表3を参照 教育実習
実習指導教諭への期待 教育実習,ふるさと実習
体力や精神力の不安 教育実習,ふるさと実習
資質・能力への自信 教育実習,ふるさと実習
進路決定への期待 教育実習,ふるさと実習
2 子 ど も観
自己中心的子ども観 子どもは自己中心的でわがままな存在である 教育実習,ふるさと実習,国際GP 創造的子ども観 子どもは無限の創造性・可能性を持っている 教育実習,ふるさと実習,国際GP
無秩序的子ども観 子どもは何を考えているか分からない 教育実習,ふるさと実習,国際GP
現実的子ども観 子どもは現実的に物事を考えている 教育実習,ふるさと実習,国際GP
純粋的子ども観 子どもは純粋である 教育実習,ふるさと実習,国際GP
3 学 習 観
受容的学習観 学習とは,児童生徒が教師から知識・技能を受け取ることである 教育実習,ふるさと実習,国際GP 能動的学習観 学習とは,児童生徒が自分たちで考え,表現し,話し合うことで
成し遂げられるものである 教育実習,ふるさと実習,国際GP
個別的学習観 学習とは,児童生徒一人一人が個別に取り組むものである 教育実習,ふるさと実習,国際GP 協同的学習観 学習とは,授業に参加する人たちが協同で取り組むものである 教育実習,ふるさと実習,国際GP
4 教 師 活動 観
反省的実践家としての教師像 教師にとって大事なのは授業を通して自らも学び続けることであ
る 教育実習,ふるさと実習,国際GP
古典的専門家としての教師像 教師にとって大事なのは身につけた知識を最善の方法で教えるこ
とである 教育実習,ふるさと実習,国際GP
直線的授業観 授業は最初にたてたプラン通りに進めるものである 教育実習,ふるさと実習,国際GP 権威的な教師イメージ 教師は子どもにとってなんでも知っている存在である 教育実習,ふるさと実習,国際GP 影響の大きい教師イメージ 教師は子どもに強い影響を与える存在である 教育実習,ふるさと実習,国際GP 自立を促す教師イメージ 教師は子どもの自立を促す存在である 教育実習,ふるさと実習,国際GP 教え導く教師イメージ 教師は子どもを教え導く存在である 教育実習,ふるさと実習,国際GP 自由で創造的な教師業 教師の仕事は自由で創造的なものだ 教育実習,ふるさと実習,国際GP 関心を追求できる教師業 教師は自分の興味関心を追究できる仕事だ 教育実習,ふるさと実習,国際GP
やりがいのある教師業 教師の仕事はやりがいがある 教育実習,ふるさと実習,国際GP
忙しい教師業 教師の仕事は忙しい 教育実習,ふるさと実習,国際GP
5 職 業 意思 決 定
教職動機づけ あなたは教師になりたいですか 教育実習,ふるさと実習,国際GP
進学動機づけ あなたは大学院等へ進学したいですか 教育実習,ふるさと実習,国際GP
教師外公務員動機づけ あなたは公務員等になりたいですか 教育実習,ふるさと実習,国際GP 学校外教育企業動機づけ あなたは教育関連企業へ就職したいですか 教育実習,ふるさと実習,国際GP 教育外企業動機づけ あなたは教育関連以外の企業へ就職したいですか 教育実習,ふるさと実習,国際GP
進路の迷い あなたは今進路について迷っていますか 教育実習,ふるさと実習,国際GP
質問番号 3回生:教育実習 2回生:ふるさと実習・プレ教育実習
1 子どもと関わることが楽しみだ 子どもと関わることが楽しみだ
2 授業準備や授業をおこなうことが楽しみだ 授業や授業準備の観察が楽しみだ
3 生徒指導や児童生徒の相談にのることに自信がある 生徒指導や児童生徒の相談にのることに自信がある 4 ほかの実習生と協力することが楽しみだ
5 指導担当教諭からの助言・指導を受けるのが楽しみだ 実習先の先生から色々教わるのが楽しみだ
6 体力や精神力が耐えられるか不安だ 体力や精神力が耐えられるか不安だ
7 教師としての資質・能力には自信がある 教師としての資質・能力には自信がある 8 進路決定に繫がる体験ができることが楽しみだ 進路決定に繫がる体験ができることが楽しみだ
9 授業外活動への参加が楽しみだ 授業外活動への参加が楽しみだ
表2 質問項目リスト
表3 実習に関する項目における質問内容
26 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
教師イメージ,子どもイメージなど様々なイメージが変容 することに注目し,社会的に望ましい回答を避けるため に,学生が実習に対して持つイメージを比喩生成課題に よって捉えてきている。三島(2007)は因子分析を用いて,
子どもイメージに関して6つの因子,「ア:自己中心性」,
「イ:創造性・積極性」,「ウ:批判性」,「エ:悲観的・不 信」,「オ:現実的態度」,「カ:楽観的・信頼」を抽出した。
そして実習前後の回答の比較によって,「創造性・積極性」,
「悲観的・不信」,「現実的態度」において有意な変化が見 られたことを報告している。
そこで本調査では,この三島(2007)の結果を参考にし て,子どもを捉えるイメージ概念として,子どもの否定的 行動傾向を示す「ア:自己中心的子ども観」と,三島(2007)
にあるように変容の傾向が見えやすいと期待される,「イ:
創造的子ども観」,「ウ:無秩序的子ども観」,「エ:現実的 子ども観」を,本研究の子ども観として採用した。ただし,
三島(2007)は「考えていることが分からない・興味が持 続しない・自分の意思がそのまま伝わらない・反抗的であ る」を「悲観的・不信」というカテゴリーで表現している が,本研究では「何を考えているか分からない・道理が通 用しない・反抗的である」というように表現し,その名称 を「ウ:無秩序的子ども観」とした。最後に,楽観・信頼 にも通じる,「オ:純粋的子ども観」をイメージし,表2 に示すような質問を構成した。
三島(2007)の研究によれば,3回生の教育実習をまた いで「創造性・積極性」「現実的態度」の子どもイメージ が有意に高く,「悲観的・不信」において有意に低くなる ことが指摘されている。本学の実習に関するイベントがこ れらの子どもイメージにどのような影響を与えるか,ま た,教員志望学生はどのような子どもイメージを形成しそ の志望を現実的な目標に変えていくのか,長期的なスパン の中で調査していく。
(3)学習観
チャンとエリオット(2004)は,香港の教員養成学部学 生の教員としての適性を評価する自己評定尺度として,教 授学習概念尺度(The Teaching and Learning Conceptions Questionnaire)を開発した。この尺度は,2つの要素か らなっている。1つは,構成主義的概念であり,学習者中 心で,学習者による主体的な議論への参加や探索によって,
学びが進むものであるという学習観である。もう1つは,
伝統的概念であり,授業は教師が知識伝達の役割を中心的 に担うもので,個別の努力が重要であるというものである。
今回,この枠組みを参考に質問項目を作成した。教授学 習概念尺度には,誰を学びの中の主体と考えるかという次 元と,個別か協同かという次元の2つが含まれるため,「受 容的学習観」「能動的学習観」「個別的学習観」「協同的学 習観」の4つの質問項目を作成した。
(4)教師活動観
秋田(1996)は,一般学生,教員志望学生,新任教員,
中堅教員を対象として,比喩生成課題を使って「授業の場」
「1時間の授業展開」「日々の授業」「教師役割」「授業に伴 う感情」に関して持つイメージの同定に取り組んだ。その 結果,学生は「授業の場」を伝達の場として捉える者が多 いのに対し,教員は共同作成の場として捉える者が多いこ とや,「教師役割」については,学生の方が現職教員より
「権力者・手本・知識を持つ者」の比喩生成率が高く,「育 てる・導く」とした比喩は現職教員の方が高いことを明ら かにした。
今回の調査では,本学部の実習プログラムがいかに学生 に教職活動に対する認識の変容を促し,その葛藤の中で実 践力を育んでいるかについて明らかにするため,表2に示 した11の質問項目を用いる。
(5)職業意思決定
この項目によって教職動機づけの高さを測定する。ただ し,本学の学生の進路は教職に限るものではない。教育学 部での学習や実習を通してスポーツ・インストラクターや 各種支援員となって,地域社会に貢献し活躍する者もいる。
そうした学生にも対応できるよう5種類の進路に対応した 質問を用意した。また加えて,どの程度意思決定に迷って いるかについて尋ねる項目も作成した。実際の質問内容に ついては,表2の通りである。
調査手続き
学部3回生,2回生には授業の際にアンケート調査の協 力のお願いとアンケートの集計に用いるTRUSTIAへの 登録依頼を行った。TRUSTIAは,登録されたメールアド レスに一斉にアンケートを送ることができ,そのメールに 対して回答を行い,返信すると自動的に回答を集計してく れるソフトである。今回のアンケートではこのソフトを用 いることに加えて,登録ができていない学生に対しては,
紙で配布し回答してもらい,手作業で入力した。また,回 答のメールに不備があったためにTRUSTIAで集計でき なかった回答については,手作業で入力した。最終的には,
それぞれのアンケートについて,それぞれ1つのデータ セットとしてまとめ,1回目,2回目のデータを比較でき るようにした。
結果と考察
1.教育実習の種類による認識変化量の違い
それぞれの教育実習において,1回目と2回目の質問項 目得点の差を比較するために対応のあるt検定を行った。
教育実習に参加した3年生は,表4に示されるように,質 問項目1の「子どもとの関わりへの期待」,2「授業・授
27 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
業準備への期待」,3「生徒指導・相談への期待」,5「実 習指導教諭への期待」,6「体力や精神力の不安」,7「資 質・能力への自信」,9「授業外活動への期待」で有意な 差が認められた。質問項目6「体力や精神力の不安」は2 回目の方が有意に低かったのに対し,それ以外の項目は2 回目の方が有意に高い値を示した。
2年生の参加したふるさと実習においては,表5に示さ れるように,質問項目6の「資質・能力への自信」のみに おいて,1回目に比べて2回目の方が統計的に有意に高い 平均値を示した。その他の項目においては,有意差が見ら
れなかった。
国際GPでは,表6に示されるように,質問項目5「純 粋的子ども観」,9「協同的学習観」,17「自由で創造的な 教師像」において2回目の方が有意に高くなっている。
以上3つの分析結果をあわせて考えると,2年生と3年 生の両方において,質問項目6「資質・能力への自信」は 2回目の方が有意に高くなっていることが分かる。また,
国際GPの効果は,教育実習やふるさと実習の効果とは異 なり,子どもや教師に対するイメージに関する項目で有意 差が見られた。国際GPの実習前後では,教育実習に関す
1回目 2回目 差 t値
No 項 目 M (SD) M (SD)
1 子どもとの関わりへの期待 4.10 (1.04) 4.61 (.89) .51 3.12 **
2 授業・授業準備への期待 3.00 (1.21) 3.65 (1.02) .65 3.64 **
3 生徒指導・相談への自信 1.81 (.79) 2.67 (1.02) .86 5.57 **
4 他の実習生との協力への期待 3.74 (1.00) 3.91 (1.06) .16 .83 5 実習指導教諭への期待 3.43 (1.06) 3.93 (1.20) .50 2.31 * 6 体力や精神力の不安 3.88 (1.22) 3.14 (1.21) −.74 2.69 * 7 資質・能力への自信 1.67 (.87) 2.49 (1.14) .81 6.07 **
8 進路決定への期待 3.67 (1.48) 3.86 (1.20) .19 .86
9 授業外活動への期待 3.21 (1.23) 4.05 (1.02) .84 4.14 **
10 自己中心的子ども観 2.12 (1.00) 2.28 (1.05) .16 .77 11 創造的子ども観 4.26 (.95) 4.49 (1.05) .23 1.11 12 無秩序的子ども観 2.79 (.86) 2.81 (1.01) .02 .11 13 現実的子ども観 2.91 (.84) 2.91 (.89) .00 .00 14 純粋子ども観 3.58 (1.05) 3.65 (1.13) .07 .43 15 受容的学習観 2.37 (.90) 2.40 (1.03) .02 .18 16 能動的学習観 3.91 (.78) 4.16 (.81) .26 1.76 17 個別的学習観 2.30 (1.06) 2.26 (.93) −.05 .26 18 協同的学習観 3.70 (.91) 3.72 (1.01) .02 .14 19 反省的実践家としての教師像 4.69 (.56) 4.81 (.40) .12 1.40 20 古典的専門家としての教師像 3.77 (.84) 3.72 (1.08) −.05 .34 21 直線的授業観 2.12 (.98) 1.84 (.87) −.28 1.74 22 権威的な教師イメージ 2.98 (1.10) 2.84 (1.15) −.14 .75 23 影響の大きい教師イメージ 4.38 (.88) 4.48 (.71) .10 .55 24 自立を促す教師イメージ 3.63 (.82) 3.93 (.88) .30 1.87 25 教え導く教師イメージ 3.51 (.80) 3.63 (.95) .12 .82 26 自由で創造的な教師業 2.91 (.97) 3.12 (.85) .21 1.05 27 関心を追求できる教師業 2.95 (1.09) 3.12 (1.03) .16 .98 28 やりがいのある教師業 4.37 (.98) 4.49 (.94) .12 .70 29 忙しい教師業 4.70 (.56) 4.56 (.59) −.14 1.43 30 教職動機づけ 3.30 (1.60) 3.51 (1.50) .22 1.24 31 進学動機づけ 2.07 (1.39) 2.26 (1.52) .19 .94 32 教師外公務員動機づけ 2.51 (1.32) 2.09 (1.31) −.42 1.85 33 学校外教育企業動機づけ 2.47 (1.14) 2.14 (1.08) −.33 1.66 34 教育外企業動機づけ 2.19 (1.03) 2.23 (1.13) .05 .26 35 進路の迷い 3.07 (1.56) 2.47 (1.50) −.60 3.02
表4 3年生の教育実習前後における評定値の比較(N=37−43)
28 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
る認識を調査していなかったことから,国際GPの実習が 教育実習に関する認識にどのような影響を与えているかに ついては明らかではない。しかしながら,国際GP独自の 教育効果として,子ども観や学習観,教師観に影響が見ら れることが示唆された。
また,すべての調査対象において,教職動機づけそのも のが統計的に有意に上昇するということがなかった。これ は実習において顕著に変化するのは,教職動機づけそのも のよりも,実習に対する認識や子どもや教育に関する様々 な認識であるということを示している。
2.3年生における教職動機づけに影響を与える項目の検 討
比較的多くの回答を得た3年生のデータを利用して,教 職動機づけの高さに他の変数がどのように寄与しているか 検討した。具体的には,目的変数に2回目に測定した「教 職動機づけ」,説明変数に1回目と2回目の質問項目を設 定し,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。その 結果を示したのが表7である。表7が示すように,1回目 の「教職動機づけ」,2回目の「資質・能力への自信」,1 回目の「体力や精神力の不安」,1回目の「他の実習生と の協力への期待」のみが有意な説明変数として残った。
1回目 2回目
平均値の差 t値
No 項 目 M (SD) M (SD)
1 子どもとの関わりへの期待 4.69 (.63) 4.46 (1.13) −.23 1.15 2 授業・授業準備の観察への期待 4.38 (.65) 4.23 (.73) −.15 1.48 3 生徒指導・相談への自信 2.00 (1.15) 2.31 (.85) .31 .89 4 実習指導教諭への期待 4.54 (.88) 4.46 (.78) −.08 .29 5 体力や精神力の不安 2.69 (.75) 3.23 (1.36) .54 1.20 6 資質・能力への自信 1.77 (.60) 2.54 (.88) .77 2.99 **
7 進路決定への期待 3.92 (1.04) 4.08 (1.04) .15 .37 8 授業外活動への期待 4.00 (.82) 4.46 (1.13) .46 1.58 9 自己中心的子ども観 2.35 (.79) 2.59 (.87) .24 1.17 10 創造的子ども観 4.42 (.77) 4.37 (.68) −.05 .44 11 無秩序的子ども観 2.68 (.95) 2.79 (1.08) .11 .42 12 現実的子ども観 2.58 (.69) 2.79 (.71) .21 1.46 13 純粋的子ども観 3.84 (.83) 3.84 (1.12) .00 .00 14 受容的学習観 2.84 (.83) 2.84 (1.01) .00 .00 15 能動的学習観 4.05 (.62) 4.11 (.81) .05 .37 16 個別的学習観 2.68 (.95) 2.68 (.89) .00 .00 17 協同的学習観 3.58 (.61) 3.89 (.66) .32 1.84 18 反省的実践家としての教師像 4.74 (.45) 4.68 (.48) −.05 .57 19 古典的専門家としての教師像 4.11 (.81) 4.26 (.73) .16 1.00 20 直線的授業観 2.26 (.99) 2.16 (1.07) −.11 .36 21 権威的な教師イメージ 3.16 (1.21) 3.53 (1.12) .37 1.33 22 影響の大きい教師イメージ 4.74 (.45) 4.79 (.42) .05 .44 23 自立を促す教師イメージ 3.89 (.81) 3.74 (.87) −.16 .68 24 教え導く教師イメージ 4.11 (.88) 4.00 (.88) −.11 .42 25 自由で創造的な教師業 3.05 (.78) 3.16 (1.01) .11 .44 26 関心を追求できる教師業 2.79 (1.23) 3.05 (.91) .26 .96 27 やりがいのある教師業 4.63 (.83) 4.47 (.84) −.16 1.37 28 忙しい教師像 4.47 (.77) 4.53 (.77) .05 .57 29 教職動機づけ 3.84 (1.46) 3.84 (1.42) .00 .00 30 進学動機づけ 1.84 (1.34) 1.74 (1.15) −.11 .81 31 教師外公務員動機づけ 2.00 (.94) 2.26 (1.15) .26 1.32 32 学校外教育企業動機づけ 2.00 (.88) 2.05 (1.13) .05 .18 33 教育外企業動機づけ 1.84 (1.17) 1.68 (.95) −.16 .90 34 進路の迷い 2.53 (1.39) 2.47 (1.43) −.05 .19
表5 2年生のふるさと実習前後における評定値の比較(N=13−19)
29 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012
当然ではあるが,教育実習後の教職動機づけの高さを最 も大きく規定する変数は,教育実習前の「教職動機づけ」
の高さである。次に寄与の程度が高いのが,実習後の「資 質・能力への自信」と実習前の「体力や精神力の不安」で ある。実習に参加した後に,将来の教師としての資質・能 力に自信を持つという体験をすることが重要であるという ことは直感的に理解しやすい。しかし,実習前に体力や精 神力への不安が高い方が教職への動機づけを高めていると いうことはどういうことだろうか。これはおそらく実習前 に,実習を大変なものであると認識するほど真剣に捉えて
いる学生だからこそ「教職動機づけ」が高いという見かけ 上の相関を示すのかもしれない。寄与率は少し小さいが,
実習前の「他の実習生との協力への期待」も「教職動機づ け」に影響を与えている。他の実習生と協力して実習に取 り組むということを楽しみにしている学生ほど,教職に就 きたいという気持ちが高いということから,協同的な態度 が「教職動機づけ」を高めるために重要であることが示唆 される。これらを集約すると,実習をシビアなものとして 実習前には考えながらも,他の実習生との協力に期待し,
実際に実習に参加してみると自らの資質や能力に自信を
1回目 2回目
平均値の差 t値
No 項 目 M (SD) M (SD)
1 自己中心的子ども観 2.10 (.91) 2.05 (.83) −.05 .27 2 創造的子ども観 4.80 (.41) 4.50 (1.24) −.30 1.24 3 無秩序的子ども観 2.60 (.88) 2.35 (.88) −.25 1.10 4 現実的子ども観 2.95 (.83) 2.75 (.85) −.20 1.16
5 純粋的子ども観 4.15 (.75) 4.55 (.60) .40 3.60 *
6 受容的学習観 2.50 (1.00) 2.95 (1.19) .45 1.58 7 能動的学習観 4.15 (.67) 4.10 (.97) −.05 .29 8 個別的学習観 2.40 (1.19) 2.30 (.98) −.10 .36
9 協同的学習観 3.45 (1.05) 4.00 (.79) .55 2.15 *
10 反省的実践家としての教師像 4.85 (.37) 4.75 (.72) −.10 .70 11 古典的専門家としての教師像 4.05 (.94) 4.15 (.99) .10 .35 12 直線的授業観 1.80 (.77) 1.90 (.85) .10 .70 13 権威的な教師イメージ 2.95 (1.39) 3.10 (1.33) .15 .68 14 影響の大きい教師イメージ 4.70 (.73) 4.70 (.73) .00 .00 15 自立を促す教師イメージ 3.85 (1.09) 4.00 (.92) .15 .83 16 教え導く教師イメージ 3.50 (1.00) 3.70 (.73) .20 1.16 17 自由で創造的な教師業 2.90 (.97) 3.30 (1.08) .40 2.18 * 18 関心を追求できる教師業 3.05 (1.19) 3.55 (1.00) .50 1.70 19 やりがいのある教師業 4.75 (.72) 4.95 (.22) .20 1.29 20 忙しい教師像 4.30 (.86) 4.45 (.76) .15 1.14 21 教職動機づけ 4.75 (.55) 4.75 (.64) .00 .00 22 進学動機づけ 1.85 (1.23) 2.05 (1.23) .20 1.29 23 教師外公務員動機づけ 1.50 (.83) 1.50 (.89) .00 .00 24 学校外教育企業動機づけ 2.50 (1.28) 2.25 (1.25) −.25 1.04 25 教育外企業動機づけ 1.75 (1.07) 1.60 (1.05) −.15 .57 26 進路の迷い 1.60 (1.10) 1.80 (.95) .20 1.45
従属変数:教師になりたい気持ち(2回目)
30 教職動機づけ(1回目) .65 **
7 資質・能力への自信(2回目) .45 **
6 体力や精神力の不安(1回目) .40 **
4 他の実習生との協力への期待(1回目) .27 *
R2 .81 **
表6 国際 GP の実習前後における評定値の比較(N=20)
表7 教職動機づけの高さを説明する諸要因
*p<.05,**p<.01
30 大学教育実践ジャーナル 第10号 2012