レギュラトリーサイエンスってなに?
1. はじめに–開発技術に必要な 承認取得
技術開発された機器が,製品として 社会に受け入れられるためには,何ら かの法律をクリアしなければならない ことが多い.たとえば医薬品・医療機 器は薬事法(2014 年 11 月より医薬品・
医療機器等法と改名)による,原子力 機器は原子炉等規制法による,航空機 は航空法による審査をパスしなければ ならない.その審査には客観的な尺度 が必要である.
2. 人工心臓の例
医療機器の代表例ともいうべき人工 心臓の技術開発は,1957 年クリーブ ランドクリニックでのコルフ・阿久津 による動物実験から始まったといわれ るが,この技術が日本社会に受け入れ られるには,薬事承認が必要であった.
当時,空気圧拍動型の体外式補助人工 心臓として,東洋紡績製および日本ゼ オン製が,1990 年に 1 箇月使用の製 造承認を取得した.2004 年,技術は 進み体内埋め込み型補助人工心臓とし て,テルモ(株)製および(株)サン メディカル技術研究所製が,臨床試験 レベルに達していた.しかしどのよう に薬事承認を取得するか,見通しがな かった.わが国の薬事審査には時間が かかり,かつ厳しいことが有名であっ たからである.そもそも何を指標に評 価すればよいのかがわからなかった.
このような状況下で,専門学会および 産業界の協力により,「高機能人工心 臓システム開発ガイドライン」(経済 産業省 2007 年)(1)および「次世代高機 能人工心臓の臨床評価のための評価指 標」(厚生労働省2008年)(2)が制定され,
一気に審査体制が整い,2010 年には 上記 2 機種の埋め込み型補助人工心臓 に製造販売承認が下りた.2013 年ま でに追加で 2 機種,合計 4 機種が承認 された(図 1).人工心臓以外にも,
DNA チップ,人工股関節,ナビゲー ション医療装置,細胞培養加工装置な ど,さまざまな審査前例のない新医療 機器について,開発ガイドライン(1)・
評価指標(2)が制定されている.
承認取得後,市販後も安全調査は大 切である.市販後調査として J-MACS という埋め込み型補助人工心臓のレジ ストリーが学会協議会(6 学会 1 研究 会)と(独)医薬品医療機器総合機構 の連携によって運用されている.今後 は人工心臓以外の品目にも拡大される 予定である.
3. レギュラトリーサイエンスとは
この例のように,製品化を目指す医 療機器について,品質,有効性,安全 性の何を評価指標とするか,何をもっ て良しとするかの客観性を担保する必 要がある.規制当局の裁量に任せるの ではなく,誰が見ても疑念のない,客 観的,合理的な評価を行い,承認を獲 得することが「レギュラトリーサイエ ンス」である(図 2).この概念の提 唱者である元国立医薬品食品衛生研究 所長の内山充博士は「レギュラトリーサイエンスとは,科学技術の進歩を,
真に人と社会に役立つ,最も望ましい 姿に調整(レギュレート)するための,
予測・評価・判断の科学である.」と 定義されている.
もちろん現状科学の限界を知って,
未知なることは未知として審査を終了 し,後に有害事象が生じたときには,
直ちに適切な対応をとるのが科学のあ るべき姿である.科学的判断に必要な のは,科学の現状レベルを認識して,
科学的エビデンスに基づいた判断をす ることである.
(原稿受付 2014 年 3 月 7 日)
〔山根隆志 神戸大学〕
( 1 )経済産業省:医療機器開発ガイドライン,●文 献 http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/
report/entrust/iryoukiki/2012/guideline.html
( 2 )厚生労働省:次世代医療機器評価指標,
http://dmd.nihs.go.jp/jisedai/H24_jisedai_
gaiyou.pdf
㈱サンメディカル 技術研究所 EVAHEART
2010 年 12 月に承認 2010 年 12 月に承認 2012 年 11 月に承認 2013 年 11 月に承認 テルモ㈱
DuraHeart
Thoratec Corp./
ニプロ㈱
HeartMateⅡ
JarvikHeart,Inc./
センチュリーメデイカル㈱
Jarvik 2000
図 1 承認された埋め込み型補助人工心臓
開発・臨床・薬事 全容がわかる 研究者・教育者・
行政官の育成
開発・臨床・薬事 に関わる学会連 合の構築 医療機器
レギュラトリーサイエンス 医療機器の有効性・
安全性・品質に関する 評 価 医療機器ガイドライン,
標準(JIS,ISO,IEC),
承認基準
技術開発 臨床応用
医師・コメディカル・患者 検査・診断 処置・治療 リハビリ・介護 工学者・企業
機械電子システム系 人工材料系 生物由来材料系
図 2 レギュラトリーサイエンスとは
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日本機械学会誌 2014. 7 Vol. 117 No.1148 444
TOPICS.indb 46 2014/06/25 21:06:41