日本小児循環器学会雑誌 13巻6号 805〜810頁(1997年)
巨大右室憩室を合併した心室中隔欠損の1例
(平成9年7月1日受付)
(平成9年11月17日受理)
*埼玉県立小児医療センター循環器科,**同 上原 里程*
星野 健司*
金澤 俊行**
心臓[fl1管外科
中村 嘉宏* 北澤 小川 潔* 川田 山岸 正明**中村
key words:巨大右室憩室,心室中隔欠損,手術,収縮拡張動態
玲子*
典靖**
譲**
要 旨
巨大右室憩室を伴う心室中隔欠損の1例を経験した.心内修復術の際,憩室を温存した結果,術後憩 室の収縮拡張動態が検討し得た点で稀な症例と思われるので報告する.
症例は日齢3の男児で,胸部レントゲン写真で心拡大を認め当科紹介となった.入院後の心エコー検 査で右室流出路に開口する巨大な憩室を認めた.心臓カテーテル検査で憩室は真の右室とほぼ同等の容 量と駆出性を有し,右心系の駆出に関与していると考えたので,生後2カ月時に憩室を切除せず温存し,
心室中隔欠損を閉鎖した.
術後の心臓カテーテル検査において,憩室の容量は縮小傾向にあったが駆出率は術前と同様に高値を
示した.心エコー図Mモードで収縮拡張動態を比較すると,憩室は真の右室と比較し1心拍において収
縮期時間と拡張期時間の比率はほぼ同等であるが,収縮開始時間が遅延していた.またドップラーエコー法を用いて右室流出路の血流パターンを観察すると,1心拍内に2峰性のピークが得られた.これらの
結果から,右室,憩室間に収縮拡張時相の差があるといえ,この差が右心系の血行動態に影響し,血栓 形成や右室容量負荷などを合併する可能性が示唆された.はじめに
右室憩室は心室憩室のなかでも非常に稀な疾患であ り,報告例では他の心疾患に対する検査や手術時に偶 然発見されることが多い ).また右室憩室は心室中隔 欠損や肺動脈狭窄など,他の先天性心疾患に合併する
ことがほとんどであるため )〜4),合併する心疾患の手 術の際に憩室を手術的に除去すべきかどうかが問題と なる.今回,巨大な右室憩室を伴う心室中隔欠損の症 例を経験し,心内修復術の際には憩室を除去せず温存 した.その結果,術後の憩室の動態について興味ある 知見を得たので報告する.
症 例 症例:日齢3,男児.
別刷請求先:(〒339)埼玉県岩槻市馬込2100 埼玉県立小児医療センター循環器科 上原 里程
主訴:多呼吸,哺乳力低下.
現病歴:在胎39週6日,4,426g,頭位自然分娩にて 出生した.日齢1より哺乳低下,多呼吸がみられ,胸 部レントゲン写真で心拡大を認めたので,日齢3に当 科入院した.
家族歴:心疾患なし.母体は妊娠分娩に異常なく糖 尿病は認めなかった.
人院時現症:多呼吸および陥没呼吸を認め,胸骨左 縁第3肋間でLevine 3/6の駆出性収縮期雑音を聴取 した.II音は短く分裂し,肺動脈成分が元進していた.
腹部では右季肋下に肝臓を5cm触知した.
入院時検査所見:血液および尿所見に特記すべき異 常はなかった.
胸部レントゲン写真では心胸郭比63%,心陰影右第 2弓の突出が強く,肺血管陰影の増強を認めた(図1).
心電図所見は150回/分の正常洞調律,QRS電気軸は
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図1 入院時胸部レントゲン写真
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⊃ロごL V3R
1 II III aVR aVL aVF
璽嬢璽璽聲藍画
V4R VI V2 V3 V4 Vs V6 図2 入院時心電図
不定軸で,不完全右脚ブロック,右室肥大を認めた.
また1,II, aVL, aVF, V2からV6にかけて幅広いS波 を認め,非特異的心室内伝導障害が疑われた(図2).
心エコー図では,心室中隔膜様部に径8mlnの欠損孔 を認め,四腔断面をやや頭側にずらした面では,心室 中隔欠損に対面する形で右室流出路に開口した巨大な 筋性憩室を認めた.憩室の壁厚は7〜8mmであった.
通常の長軸断をやや傾けた面では,憩室の内腔が右室 流出路に連続している所見が得られた(図3).
入院後強心剤および利尿剤投与を開始したが,心不 全症状が増悪したため,生後1カ月で心臓カテーテル 検査および心血管造影を施行した.心内圧は右室圧72/
egmmHg,左室圧72/e81nmHg,主肺動脈圧57/16/m31 mmHgで肺高血圧を認めた. Qp/Qsは3.80と高値で,
左右シャント率は76%であった.右室造影では右室流
出路の右外側に張り出し,肉柱形成を呈する憩室を認 めた(図4).左室造影では,心室中隔欠損を通過する 血流は右室から憩室を経て流出路へ流れていた.右室 拡張末期容量は10.Oml(85%of normal)であったの に対し,憩室容量は10.6mlとほぼ同等で,駆出率は 87%と高値を示した.以上の結果から巨大右室憩室を 伴う心室中隔欠損,肺高血圧と診断し,生後2カ月で 心内修復術を施行した.
術中所見は右室流出路の前上方に巨大な憩室を認 め,憩室と右室の間溝に右冠動脈の走行を認めた.憩 室表面は正常心筋と変わらず,線維化の所見はみられ なかった(図5).右室憩室は真の右室と同等の容量を 有し,駆出率も高いことから右心系の駆出に関与して いると考え,手術的に除去せず,温存する方針とし,
心室中隔欠損に対してパッチ閉鎖術のみ施行した.
術後2カ月で施行した心臓カテーテル検査では右室 圧32/e4mm}lg,主肺動脈圧29/13/m18mmHgで肺高 血圧は改善していた.右室拡張末期容量は13.9ml
(85%of normal)であるのに対し,右室憩室の容量は 7.3mlと術前より縮小傾向がみられた.一方,駆出率は 右室が65%であるのに対し,右室憩室は85%と高値で あり術後も高い駆出性を有していた.
術後憩室の動態について,心エコー図および造影所 見を観察した.まず心エコー図Mモードを用いたが右 室と憩室を同一面で描出できないため,心電図を指標 に1心拍での収縮拡張動態を比較した.計測時,心拍 127回/分(RR間隔472mS)であった.最大拡張時から 最大収縮時までの間隔すなわち収縮期時間は真の右室 236mS(50%of RR interval)に対し憩室で248rnS
(53%of RR interval)とほぼ同等であった.一方,
収縮開始時間は真の右室はR波と一致していたが憩
室ではR波より80mS遅延しており,これはRR間隔
の17%に相当していた(図6).またドップラーエコー 法を用いて右室流出路の血流パターンを観察すると,1心拍内に2峰性のピークが認められた(図7).右室 および憩室から駆出される血液が,時間差をもって右 室流出路を通過する結果と判断した.
造影では,右室から造影斉1」が憩室内に一度流入し,
肺動脈弁を通過する収縮後期には憩室から右室へ逆流 する所見を認めた.心エコー所見とあわせ,右室と憩 室との収縮拡張時相に差があると考えられた.
考 案
憩室の定義は報告により様々であり,Hallaliら2},
Hamaokaらs)は心内膜,心筋,心外膜の3層からなり,
平成9年12月1日 807−(77)
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図3 心エコー図
A 四腔断面をやや頭側にずらした面,B;長軸断をやや傾けた面. D;憩室, RV 右 室,LV;左室, RVOT;右室流出路, VSD;心室中隔欠損.
図4 術前右室造影 D;憩室,RV 右室, mPA;主肺動脈.
外側へ突出しているものとし,収縮能は正常か軽度低 下したものと定義している.右室憩室は心尖部や右室 流出路に存在することが多く,右室流出路に認める場
図5 術中写真
正耐象写真上が頭側,下が尾側.D;憩室, RV 右 室,mPA l主肺動脈.
合,心室中隔欠損,肺動脈狭窄,ファロー四徴などに 合併する )一 1).本症は他の心疾患に対する心臓カテー
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図6 心エコー図,Mモードでの収縮拡張動態の比較
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A;憩室でのMモードスキャン.収縮期時間(2−1)は248mS, よ り80mS遅延している.
B;右室でのMモードスキャン.収縮期時間(21)は236mS,2はR波と一一致して
いる.
A,Bいずれも心拍数127回/分(RR間隔472mS).1;最大収縮時,2;最大拡張時,
矢印;R波
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図7
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継轟劇
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▲計裟1心拍内に2峰性のピーク
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ドプラーエコー法による右室流出路血流パターン (1.2)が認められる.
テル検査や手術時に偶然発見されることがほとんど で,症状も合併する心疾患に依存するため早期診断が 困難である.本症例では心エコー検査で右室流出路に 存在する異常な腔をHallaliら1)の定義にあてはめ,新 生児期に右室憩室と診断し得た.
右室憩室は合併する心疾患の手術の際に切除すべき
かどうかが問題となる1)3)4)6)7).症例では心臓カテーテ ル検査で右室憩室が容量,駆出率とも右室とほぼ「コ等 であったため右心系の駆出に関与していると考えら れ,切除せず温存した.
Teraiら7)は術前の心臓カテーテル検査で右室拡張 末期容量が53%normalと右室の低形成を認める例
平成9年12月1日
で,憩室の容量が大きいことから憩室を温存したと報 告している.一一方積極的に憩室の切除を薦める報告も あり1),その理由として憩室の組織学的性状を知るこ とができる点や憩室を切開することで真の右室心筋の 損傷を避けることができる点を挙げている.本症例に おいても,術前の右室容量が85%でかつ収縮も良いた め,憩室を余分な腔として切除するという考え方も成 り立っ.しかし切除例の報告では,憩室が右室と同期 して収縮することは確認しているが,憩室の容量や収 縮率については検討されていない.これらの点から本 症例のみから憩室を切除すべきかどうか結論づけるこ
とは困難であり,今後の症例の積み重ねが必要と考え
る.
憩室を温存した例において,術後における憩室の動 態は興味ある点であるが,詳細な報告はない.本症例 では温存した右室憩室の術後における収縮拡張動態 を,心エコー図および心臓カテーテル検査で検討する ことができた.
筋層を有する憩室は真の心室と収縮が同期している といわれている.Mモードで収縮拡張動態を比較する と,憩室の収縮期時間は真の右室とほほ伺等で,1心 拍内での収縮期時間と拡張期時間の比率は憩室と真の 右室とほぼ同じといえる.しかし収縮開始時間が真の 右室より80mSすなわちRR間隔の17%に相当する時 間の遅延があることより,収縮拡張時相のずれが生じ ている.このことは真の右室が拡張期に入ってから80 mSは憩室がまだ収縮末期の状態であり,憩室の高い 駆出率を併せて考えると,憩室から右室への逆流が生
じる可能性が考えられる.実際,心血管造影で憩室の 収縮開始が遅れるため,造影剤が右室から憩室内に一 度流入し,続いて肺動脈弁を通過する収縮後期には憩 室から右室に逆流することが認められた.またドプ
ラーエコー法を用いて右室流出路の血流パターンを観 察すると,1心拍内に2峰性のピークがみられたこと からも,右室と憩室の収縮時相に差があるといえる.
これらのことより,右室と憩室との収縮拡張時相の差 が右心系の血行動態になんらかの影響を与えることが 予想される.Higginsら8)は右室憩室が心室同様の収縮 をしていたにもかかわらず,肺動脈塞栓を認めた例を
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報告している.本症例においても右室と憩室との収縮 拡張時相の差により,右室内での血栓形成や右室容量 負荷などを合併する可能性が示唆される.本症例では 右室内血栓の予防のため,アスピリン内服をおこなっ ている.以上の点から,今後も温存した憩室が右心機 能にどのように関与するか経過を厳重に観察すべきと 思われる.
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tricle:Clinical and angiographic features. Br J Radiol 1976;49:188 190
ACase of Giant Right Ventricular Diverticulum with Ventricular Septal Defect Ritei Uehara*, Yoshihiro Nakamura*, Reiko Kitasawa*, Kenji Hoshino*,
Kiyoshi Ogawa*, Noriyasu Kawada**, Toshiyuki Kanasawa**,
Masaaki Yamagishi**and Yuzuru Nakamura**
*Division of Cardiology,**Division of Cardiovascular Surgery,
Saitama Children Medical Center
We reported a newborn infant who had a giant right ventricular diverticulum with ventricular septal defect.
It was an important question whether the diverticulum should be resected by surgical operation. In this case, the diverticulum was not resected at the intracardiac repair for ventricular septal defect in 2 months old, because the diverticulum had as high contractility and considerable amount of volume as true right ventricle.
After the operation, the right ventricular diverticulum showed hemodynamically characteris−
tic performance. In M−mode echocardiogram, the starting point of systolic phase of the diver−
ticulum delayed 80 ms,17%of RR interval, from the QRS wave when the heart rate was 127 bpm.
In the angiocardiogram, at systolic phase of right ventricle the diverticulum was imaged, then at the end systolic phase of the diverticulum, contrast medium flew back into true right ventricle and pulmonary valve was imaged at the same time. On Dopplar echocardiogram,2 peak−flow was detected at the right ventricular outlet tract.
These results showed that there was a difference of the systolic−diastolic interval between true right ventricle and diverticulum. Thrombosis or volume overload in right ventricle might be caused by these characteristic hemodynamics of true right ventricle and diverticulum.