Applying IFRS
仮想資産の保有者の 会計処理
2018 年 10 月
目次
1.
はじめに3
2.
仮想資産の分類の概要3
3.
分類及び測定6
3.1
現金及び現金同等物7
3.2
金融商品8
3.3
棚卸資産12
3.4
前払金14
3.5
無形資産14
3.6
自己の会計方針17
4
表示及び開示18
4.1
現金及び現金同等物18
4.2
金融商品18
4.3
棚卸資産19
4.4
前払金19
4.5
無形資産19
4.6
追加的な一般的開示19
5
特定の基準設定機関の活動20
重要ポイント
• Ø
仮想資産は多様な条件を伴う。仮想資産を保有する目的は保有する企業ごとに異なり、さ らに同じ企業であっても、そのビジネス・モデルにより異なる。よって会計処理もそれぞれ の事実と状況に左右され、これに対応する会計上の取扱いも、自ずと複雑なものになる。•
仮想資産が現金とみなされるためには、政府によって裏付けられた価値交換媒体とし て一般的に受け入れられることで、各国・地域で法定通貨として認識され、さらには保 有者がすべての取引を財務諸表において測定及び認識する際の適切な基準になり 得るとみなされる必要がある。•
一部の契約上の仮想資産は、以下のいずれか場合には金融商品の定義を満たす可 能性がある。現金、その他の金融商品又は有利な条件で金融商品を売買する権利を保有者に与 える。
実質的に特定の企業の純資産に対する権利を保有者に与える電子的な持分証書で ある。
•
一部の仮想資産の売買契約は、一定の要件が満たされることを条件に、仮想資産そ のものは金融商品でなくても以下のいずれかの場合にはデリバティブとして会計処理 される。契約が純額で決済できる。
対象となる仮想資産が容易に現金に転換できる。
•
無形資産の定義は比較的広範に及ぶことから多くの仮想資産がその定義を満たす可 能性がある。しかし、無形資産の定義を満たす全ての仮想資産がIAS
第38
号「無形 資産」の適用対象になる訳ではない。IAS第38
号は、他の基準が適用される無形資 産項目には、IAS第38
号は適用されないと明確に定めているからである。例えば、一 部の企業は通常の事業の過程で販売するために仮想資産を保有することがあり、そ の場合にはそれらを棚卸資産として認識することができる。主に価格変動又はその マージンから利益を創出するために仮想資産の取得及び販売を行うコモディティ・ブ ローカー/トレーダーは、棚卸資産である仮想資産を売却費用控除後の公正価値で測 定することを選択することもできる。•
仮想資産の保有者は、関連するIFRSの特定の規定に従うだけでは、財務諸表の利用者
が、仮想資産が企業の財政状態及び財務業績に及ぼす影響を理解するのに不十分とな る場合には、IAS第1
号「財務諸表の表示」に定められる一般的な開示規定を考慮する 必要がある。• IASB
は現時点では仮想資産をその基準設定計画に追加していないが、他の基準設定 機関と共に、引き続き仮想資産の普及と発展の状況並びにIFRS
報告企業にとっての仮 想資産の重要性を注視していくとのことである。1. はじめに
財及びサービスの売買をスムーズに行うために貨幣が何世紀にもわたり使用されてきた。貨幣の 形態、すなわちその成り立ちや法律上の位置付けは、文化圏によって違いはみられるものの、基本 的には3つの種類が存在する。商品貨幣、表象貨幣及び不換紙幣である。商品貨幣はその中に及 びそれ自体に価値(本源的価値)があり、貨幣としての使用価値を有する(例:貴金属から鋳造され るコイン、塩、たぼこ、コーヒー及び小麦)。表象貨幣は本源的価値をほとんどあるいは全く有しない が、価値の基礎となる項目に対する権利を有する(例:一定量の金又は銀との交換が可能になる金 証書及び預託証券)。不換紙幣は、政府が貨幣であると宣言をし、法定通貨であることにより価値を 見出す0F1。
さらに近年には、ビットコインが仮想通貨として登場した。その後、数多くの他の仮想通貨、仮想コイ ン及び仮想トークンが様々な目的で相次いで登場するようになり、その普及の度合いも様々である。
欧州中央銀行(
ECB
)は仮想通貨を「中央銀行、信用機関又は電子マネー機関が発行するものでな く、一定の状況では貨幣の代替として使用できる価値のデジタルでの表象」と定義している1F2。 仮想資産はまだまだ進化の途上にあり、本稿では、仮想通貨、仮想コイン及び仮想トークンの様々 な形態を説明するのに単純にそれらをまとめて仮想資産と称している。以前に公表されているEY刊 行物 「IFRS (#) Accounting for crypto-assets」では仮想資産、その特徴、特性及び形態をさら に詳細に定義している2 F3。本稿は、仮想資産の一般保有者向けの
IFRS
3F4上の会計処理に関するガイダンスを提供することを 目的としており、企業自らが発行し保有する仮想資産の会計処理については取り扱っていない。さ らに仮想通貨マイニング業者、仮想通貨取引所に関連する固有の論点及び新規仮想通貨公開(ICO)により生じる論点についても本稿では取り扱っていない。
2. 仮想資産の分類の概要
本稿執筆時点ではすでに
1,700
種類以上の仮想通貨、仮想コイン及び仮想トークンが、様々な仮 想通貨取引所で取引又は上場されている4 F5。これらの仮想資産に伴う条件及びその利用方法は大きく異なり、さらに時の経過と共に変化し得る。
条件が変化するのに合わせてその会計処理を見直すことが重要となる。
一部の仮想資産は、識別可能な相手方当事者からの基礎となる財又はサービスを受け取る権利を その保有者に与える。例えば、仮想資産の中には、保管銀行から一定重量の金を受け取る権利を その保有者に与えるものがある。その場合、保有者は、基礎となる財又はサービスと仮想資産を交 換することで経済的便益を得ることができる。本来の貨幣ではないが、これらの仮想資産は多くの 特徴を表象貨幣と共有している。
他の仮想資産(例:ビットコイン)は、基礎となる財又はサービスを受け取る権利を保有者に与えず、
また識別可能な相手方当事者も存在しない。そうした仮想資産の保有者は、仮想資産による経済 的便益を実現するために、現金、財又はサービスとの交換で仮想資産を受け入れてくれる自発的 な買手を見つけなければならない。
1 What is money, European Central Bank website,
www.ecb.europa.eu/explainers/tell-me-more/html/what_is_money.en.html, accessed on 6 August 2018.
2 Virtual currency schemes –a further analysis, European Central Bank website,
www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/virtualcurrencyschemesen.pdf, accessed on 6 August 2018.
3 IFRS (#) Accounting for crypto-assets, available on
https://www.ey.com/Publication/vwLUAssets/EY-IFRS-Accounting-for-crypto-assets/$File/EY-IFRS- Accounting-for-crypto-assets.pdf.
4 本稿はIFRSのみを検討しており、他の会計フレームワーク(例:米国基準)に基づく検討は意図していない。
5 Crypto Currency Market Capitalisation, CoinMarketCap website, www.coinmarketcap.com, accessed 6 August 2018.
本稿執筆時点ではすでに1,700種 類以上の仮想通貨、仮想コイン及 び仮想トークンが、様々な仮想通貨 取引所で取引又は上場されている。
企業は自己のウォレットに仮想資産を直接保有することができるが、他方、ジョイント又はシェアド・
ウォレットに自身の仮想資産を共同で保管することもできる。自己のウォレットに仮想資産を直接保 有することで企業は仮想資産の法律上の所有権を有することになる。
しかし、保管機関(例:仮想資産ブローカー)が企業の仮想資産を保有する、又は取引所が仮想資 産を
1
つないし複数のシェアド・ウォレットに共同で保管する場合には、法律上の所有権は当該他の 当事者に帰属する場合がある。その場合、保有者は仮想資産に対する独占的な権利を有さず、そ の会計処理は、仮想資産が保有される方法に対応して生じる権利と義務に左右される。例えば、仮 想資産取引所のシェアド・ウォレットに保管される仮想資産に対する経済的持分を有する企業は、取引所に対する請求権を通じて仮想資産を間接的に保有していることになる。その場合、基礎とな る仮想資産のボラティリティに加えて、保有者は相手方当事者の履行リスク(すなわち、取引所がす べての顧客からの請求に応じるのに十分な仮想資産を有さない可能性)にさらされる。さらに一部 の取引所は、保有者が仮想資産を他の取引所に又は自己の仮想資産ウォレットに振り替えること を制限する場合もある。それらの制限は、基礎となる仮想資産に対する保有者の支配及び経済的 便益を生み出す仮想資産の潜在能力を実質的に制限することになり、保有者の権利を変容させる 場合がある。保有者は、適切な会計処理を決定するために保有資産の性質を評価する際に、特に 仮想資産取引所に対する請求権を慎重に検討する必要がある。
本稿は仮想資産の直接保有を念頭に記述している。しかし、本稿の説明は、特に金融商品(セク ション3.2)、前払金(セクション3.4)及び無形資産(セクション3.5)などの多くの側面で、仮想資産 の間接的保有にも影響する。
弊社のコメント
仮想資産の条件は多くの場合、大きく異なる。保有者はいずれの
IFRS
を適用すべきかを判断 するのに個々の条件を慎重に判断する必要がある。保有者はまた、適用される基準によっては 適切な会計処理を決定するために、自身のビジネス・モデルも評価する必要がある。仮想資産が保管機関又は仮想資産取引所に保有されている場合、その所有権についての判 断はさらに難しいものになり、適切な会計処理の決定に影響を及ぼす可能性がある。
以下の図は、仮想資産の保有者が検討すべき、現行IFRSに基づく考え得る分類の概要を示してい る。図のそれぞれの円は、関連するIFRS規定及びその他の留意点を詳細に分析している本稿のセ クションと対応しており、我々が本稿で様々な会計上の分類を以下で考察していく順に記載している。
仮想資産の分類の概要
現金及び 現金同等物
金融商品
棚卸資産
前払金
無形資産
自己の 会計方針
デリバティブ その他の
金融資産 資本性
金融商品
下記3.1を参照
下記3.2を参照
下記3.3を参照
下記3.4を参照
下記3.5を参照
下記3.6を参照
下記3.2.4を参照 下記3.2.5を参照
下記3.2.3を参照
3. 分類及び測定
仮想資産は多様な条件を有し、その保有目的も保有者間で異なる。したがって、仮想資産の保有 者は、自身の事実と状況を評価することで現行
IFRS
に従っていずれの会計上の分類及び測定を適 用しなければならないかを判断する必要がある。保有者はまた、基準によっては適切な分類及び測 定を決定するのにビジネス・モデルを判断する必要がある。下記セクションでは、保有する仮想資産に適用され得る様々な会計基準に関して、その定義及びそ の他の規定、並びにそれぞれの測定規定に照らすことで、それぞれの会計基準の適用対象に当た るのか否かを検討している。
仮想資産に固有の特性は、それがデジタルで表象されることにあり、したがって本質的に無形であ る。以下の会計基準は有形資産にのみ適用されるため、これらは仮想資産には適用されない。
•
IAS
第16
号「有形固定資産」は有形項目に適用される5F6•
IAS第40号「投資不動産」は土地、建物(その一部)又はその両方に適用される
6F7•
IAS第41号「農業」は生物資産(すなわち生きている動物又は植物)に適用される
7F8さらに
IFRS
第6
号「鉱物資源の探査及び評価」は、鉱物資源(鉱物、石油、天然ガス及び類似の再 生不可能な資源)の調査において発生する探査及び評価費用に適用される8F9。一部の仮想資産は「マイニング」と呼ばれるプロセスにより創出されるが、
IFRS
第6
号は、採掘前の 鉱物資源の調査に関連する探査及び評価費用にのみ適用される。したがって、企業は仮想資産の 会計処理においてはIFRS第6号を適用してはならない。そのため仮想資産については、以下に関する会計処理を検討することになる。
• 現金及び現金同等物(下記
3.1
を参照)•
IFRS
第9
号「金融商品」(下記3.2
を参照)•
IAS第2号「棚卸資産」(下記3.3を参照)
• 前払金(下記
3.4
を参照)•
IAS第38号「無形資産」(下記3.5を参照)
•
IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って会計方針を策定する(下記
3.6
を参照)。弊社は、上記セクション2に示した概要は、仮想資産に関する分類、測定、表示及び開示規定を企 業が検討する際、その考え方を効果的に整理する上で役立つであろうと考えている。
6 IAS第16号第6項 – 定義 7 IAS第40号第5項 – 定義 8 IAS第41号第5項 – 定義 9 IFRS第6号 – 付録A 用語の定義
3.1 現金及び現金同等物 3.1.1 現金
IAS
第7
号「キャッシュ・フロー計算書」は現金を「手許現金及び要求払預金」と定義しているが、IFRSはそれらの用語についてそれ以上詳しく定義していない。
欧州中央銀行、国際通貨基金(IMF)及び米国連邦準備制度は、貨幣には次のような3つの機能が あることに留意している。
• 価値交換媒体(決済機能)
• 会計単位(価値の尺度機能)
• 価値の保存機能9F10
IAS第32号「金融商品:表示」は現金と通貨を同様の意味で使用している。実社会でも、通貨という
表現は、特定の国で物理的に流通している貨幣、及び電子的に流通している貨幣の双方を指すも のとして扱われている。IAS第32号はまた、「現金」は価値交換媒体として機能する金融資産であり、したがってすべての取引が財務諸表において測定され認識される基礎になると説明している10F11。要 求払預金は通常、事前通知や違約金なしに、要求すれば引き出し可能な預金である。
現在、財務諸表で現金として表示されているものは、様々な国や地域の政府により発行、又は信任 されている不換紙幣の物理的な保有及び要求払預金から構成されるのが通常である。不換紙幣は 本源的価値をほとんど又は全く有していないが、それぞれの国や地域において政府が信任した法 定通貨として認識されていることから、価値交換媒体としてその国や地域で一般的に受け入れられ ている。
法定通貨の地位は国の法律により授けられ、通常、中央銀行又は政府が認可した組織が発行する 紙幣や硬貨の形で実現される。イングランド銀行は、次に示すとおり、非常に狭義かつ厳密な意味 を有するものとして、「法定通貨」を捉えている。すなわち、「債務者がその債務の全額を法定通貨 で決済することを申し出る場合には、債務者が不履行により訴えられることはない11F12。」
さらに、何が法定通貨に該当するかは、通常、その国や地域の法律の問題である。したがって、仮 想資産がある国や地域の一定の企業により決済手段として受け入れられるとしても、それが自動 的にその国や地域の法定通貨になる訳ではない。
IAS
第32
号は、現金は、すべての取引が財務諸表で測定され認識される場合の基礎になると述べ ている。 現在、仮想資産が、企業の項目を財務諸表で測定し認識する際の適切な基礎になるとみ なされる可能性は低い。弊社のコメント
現金に該当する可能性があるとみなされるようになるためには、仮想資産は法定通貨になるこ とが必要であるが、法定通貨の地位それ自体で十分という訳では必ずしもない。
保有者は、仮想資産が価値交換媒体及び保有者がすべての取引を財務諸表に認識及び測定 する際の基礎を表すか等、その他の要因も考慮する必要がある。
10 What is money, European Central Bank website,
www.ecb.europa.eu/explainers/tell-me-more/html/what_is_money.en.html, accessed on 6 August 2018.
The International Use of Currencies: The U.S. Dollar and the Euro, International Monetary Fund website, www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/1998/06/tavlas.htm, accessed on 6 August 2018.
The Location of U.S. Currency: How Much Is Abroad?, The Federal Reserve System website, www.federalreserve.gov/pubs/bulletin/1996/1096lead.pdf, accessed on 6 August 2018.
11 IAS第32号AG3項
12 What is legal tender? The Bank of England KnowledgeBank website,
http://edu.bankofengland.co.uk/knowledgebank/what-is-legal-tender/, accessed on 6 August 2018.
仮想資産がある国や地域の一定の 企業により決済手段として受け入れ られるとしても、それが自動的にそ の国や地域の法定通貨になる訳で はない。
一部の政府は自身で仮想資産の発行、又は他の当事者が発行する仮想資産に対して信任を与え ることを検討していると伝えられるが、現時点ではそうした仮想資産が法定通貨になるかどうかは 不明である(すなわち、それらは、既存の債務を法的に消滅させるための決済手段として受け入れ られなければならない)。
民間の仮想資産の発行体は、法定通貨としての地位を与える権限を有しない。したがって、それら の仮想資産が決済手段に使用される、又は決済手段として受け入れられることがあっても、
IFRS
に おいて現金とみなされることはない。それらの仮想資産はある意味、幅広く店舗等で受け入れられ ているものの、決して現金とみなされることのない、民間で発行される商品券に似ている。3.1.2 現金同等物
IAS第7号は、現金同等物を「短期の流動性の高い投資のうち、容易に一定の金額に換金可能であ
り、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わないもの」と定義している。IAS第7号はさらに 続けて、現金同等物は短期の現金支払債務に充当するために保有されるものであり、投資又はそ の他の目的で保有されるものではなく、当該投資は通常、満期が取得日から例えば3ヵ月以内と いった短期である場合にのみ現金同等物に該当する、と説明している。現金同等物は表示上の分類であり、資産の認識又は測定を決定づけるものではない。したがって、
仮想資産は、表示目的で現金同等物に該当するかを検討する前に、適用される会計基準に従って 分類及び測定される必要がある。
IFRS解釈指針委員会(旧国際財務報告解釈指針委員会)は2009年
12F13に金融商品が現金同等物 の定義を満たすためには、投資開始時点で、将来受領する現金の額が判明していなければならな いということを確認している。したがって仮想資産は、短期債務に充当される、短期間に満期を迎える、価値の変動リスクが僅少 である、及び満期時点で受け取る現金の額が仮想資産を最初に取得する時点で判明している場合 を除き、それを現金同等物と考えることはできない。
弊社のコメント
とりわけ仮想資産は、通常、判明している現金の額に交換されることはなく、また価値の変動リ スクが僅少ということはないので、それが現時点で現金同等物の定義を満たすことはない。
3.2 金融商品
IAS
第32
号は、金融商品を「一方の企業にとっての金融資産と、他の企業にとっての金融負債又は 資本性金融商品の双方を生じさせる契約」と定義している。3.2.1 契約上の権利
金融商品の定義の最初の部分は、当事者間に契約又は契約上の関係が存在しなければならない と定めている。この点はIAS第32号の適用指針でも強調されており、法律上の要求事項に由来する 資産又は負債(例:法人所得税)は金融商品ではないと説明されている。同じように流動性が高い 金地金も現金又はその他の金融資産を受け取る契約上の権利を生じさせないので、金融商品には ならない。
契約は
IAS
第32
号により、「通常、法律により強制可能であるという理由により、当事者には回避す る自由裁量が(仮にあっても)ほとんどないという明確な経済効果のある複数の当事者間の合意」と 定義されている13F14。契約は様々な形態を取り、文書である必要はない。13 IFRIC Update July 2009 IASB website,
http://archive.ifrs.org/Updates/IFRIC-Updates/2009/Documents/IFRIC0905.pdf, accessed on 6 August 2018.
14 IAS第32号第13項
ブロックチェーン又は分散型台帳(distributed ledger)技術の使用は、自動的に当事者間に契約 上の関係を生じさせるものではない。一方、識別可能な相手方当事者が提供する基礎となる財、
サービス又は金融商品を受け取る権利を保有者に与える仮想資産は、契約の定義を満たす可能 性がある。他方、財、サービス又は金融商品を受け取る権利を保有者に与えず、識別可能な相手 方当事者が存在しない仮想資産は契約の定義を満たさない。例えば、ビットコイン・ブロックチェー ンに関係する個々の当事者には、ビットコイン・ブロックチェーンおける他の参加者との契約上の関 係は存在しない。すなわち、保有者は、ビットコインの保有によって、ビットコイン・マイニング事業者、
取引所、他の保有者、及びその他の当事者に対する強制可能な請求権を有することはない。そうし た当事者は、ビットコインを保有することによる経済的便益を実現するためには、自発的な買手を見 つける必要がある。
それ自体は契約で定められていない場合でも、仮想資産が契約の対象になる場合がある。例えば、
一定の相手方当事者からビットコインを購入する拘束力のある合意は、たとえビットコインそのもの が契約上の関係を表すものでなくても、契約に該当する。したがって、「ブロックチェーン外で」仮想 資産を売買するために締結される合意は、上記に定義される契約になり得る。
弊社のコメント
仮想資産の保有者は、仮想資産の条件により契約が生じるかどうかを慎重に検討する必要が ある。契約が存在しない場合、仮想資産は金融商品ではない。
3.2.2 金融資産か前払金か ?
金融商品の定義の2番目の部分は、金融商品は(1)一方の企業にとっての金融資産と(2)他の企 業にとっての金融負債(又は資本性金融商品)の双方を生じさせるものでなければならないと規定 している。したがって金融商品となるためには、仮想資産は保有者にとっての金融資産を表すもの である必要がある。
IAS
第32
号は、金融資産は次のいずれかに該当するものと定義している。• 現金
• 他の企業の資本性金融商品
• 次のいずれかの契約上の権利
• 他の企業から現金又は他の金融資産を受け取る
• 金融資産又は金融負債を当該企業にとって潜在的に有利な条件で他の企業と交換する
• 企業自身の資本性金融商品で決済されるか又は決済される可能性のある契約のうち、一定 の他の要件が満たされる契約14 F15
仮想資産が金融資産に該当する可能性があるのは、現金(上記3.1を参照)、他の企業の資本性 金融商品、現金又は他の金融資産に対する契約上の権利、あるいは金融商品を潜在的に有利な 条件で売買する権利(例:デリバティブ)の場合である。
15 詳細はIAS第32号第11項(d)を参照
それ自体は契約で定められていな い仮想資産であっても、それが「ブ ロックチェーン外で」締結される、当 事者間の売買に関する合意の対象 である場合は、契約になり得る。
15F
以下のセクションでは、それらを順番に考察しながら仮想資産が現金以外の金融資産の定義を満 たし得るかを考察している。
識別可能な相手方当事者が提供する基礎となる財又はサービスを受け取る権利を保有者に与える 仮想資産は、契約上で定められているが、金融資産の定義を満たさない。というのも、将来の経 済的便益は、現金又は他の金融資産に対する権利ではなく、財又はサービスの受領により得られ るからである16。例えば、契約によるものであっても、クラウド・コンピューティング・サービスに対す る権利を保有者に与える仮想資産は、将来の便益は金融資産に対する権利ではなくサービスであ るので、金融資産には該当しない。そうした仮想資産の保有者は、関連するIFRSの基準書に基づ き、適切な会計処理を検討しなければならない。この場合、前払金(下記セクション3.4)と無形資産
(下記セクション3.5)の説明が、有用になると思われる。
仮想資産の保有者に基礎となる財及びサービスを受け取る契約上の権利が存在しているかどうか は、固有の事実と状況及び契約の強制可能性を慎重に検討しなければならない。
3.2.3 資本性金融商品
IFRSは資本性金融商品を「企業のすべての負債を控除した後の資産に対する残余持分を証する
契約」と定義している。よって、そのような権利を生じさせる仮想資産は、実質的に電子的な持分証 書であり、結果として金融資産になる。仮想資産が一連の変動するキャッシュ・フローを生じさせる場合であっても、それによって資本性金 融商品の定義を自動的に満たすことにはならない。例えば、無形資産(例:オンラインゲーム)から 生じる一連のロイヤルティ総額に対する持分を受け取る権利を保有者に与える仮想資産は、資本 性金融商品にはならない。さらに、仮想資産の発行体側で生じる推定的債務は、その保有者にとっ て資本性金融商品の要件を満たす残余持分に対する契約上の権利を生じさせない。最後に、仮想 資産の価値は、それが使用される基礎となるプラットフォームの人気度に相関することもあるが、そ のこと自体が基礎となるプラットフォームの純資産の残余持分に対する契約上の権利を表すことに はならない(すなわち、それが資本性金融商品になることにはならない)。
弊社のコメント
仮想資産は、特定の企業の純資産に対する残余持分を受け取る契約上の権利を表象する場 合にのみ、IFRS上の資本性金融商品となる。
保有する資本性金融商品は、取得当初に取引手数料を調整せずに公正価値で計上し、その後は
IFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定する。しかし、発行体の観点から資本の定義を
満たし、トレーディング目的以外で保有される資本性金融商品の保有者は、事後的な公正価値の 変動をその他の包括利益に表示する(その後の純損益へのリサイクリングはなし)という取消不能 の選択を当初認識時点で行うこともできる16F17。その場合、当初認識時の公正価値は、取得に起因す る取引手数料について調整される。3.2.4 現金又は他の金融資産に対する契約上の権利
資本性金融商品(上記
3.2.3
を参照)又はデリバティブ(下記3.2.5
を参照)ではない仮想資産であっ ても、契約から生じるものであり、現金又は他の金融資産を受け取る権利を有することの両方が満 たされる場合には、金融資産の定義を満たすことになる。例えば、現金の支払い又は債券や株式 の引渡を受ける権利を保有者に与える仮想資産は、金融資産の定義を満たす。その場合、仮想資 産は実質的にデジタル預託証券に類似し、保有者は基礎となる金融資産から生じる経済的リスク 及び相手方の信用リスクにさらされることになる。16 IAS第32号.AG11項
17 IFRS第3号「企業結合」に定められる企業結合において取得企業が認識する条件付対価に関しては、この選択肢を
利用することはできない。
仮想資産の価値は、それが使用され る基礎となるプラットフォームの人気 度に相関することもあるが、そのこと 自体が基礎となるプラットフォームの 純資産の残余持分に対する契約上の 権利を表すことにはならない。
そのような仮想資産は、IFRS第9号の分類及び測定規定に従うことになる。すべての金融資産は、
取得に起因する取引コストを加えた公正価値で当初に計上することになるが、事後的に純損益を通 じて公正価値で測定される金融商品はその限りではなく、取引コストは発生時に費用処理される。
事後測定は資産のキャッシュ・フロー特性及びそれが保有されるビジネス・モデルに左右される。資 本性金融商品(上記
3.2.3
で説明)以外の金融資産は、元本及び利息のみの支払い(SPPI
)に該当 するキャッシュ・フローの特性テストを満たさない、又はトレーディング目的で保有される場合は、純 損益を通じて公正価値で測定される。金融資産を保有するビジネス・モデルにより、SPPI
テストを満 たす金融資産の測定が決まる。「回収目的で保有」するビジネス・モデルに該当する金融資産は、IFRS
第9
号に従って償却原価で測定される。一方、「回収及び売却目的で保有」するビジネス・モデ ルに該当する金融資産は、その他の包括利益を通じて公正価値で測定され、認識の中止時点で純 損益にリサイクリングされる。しかし、IFRS
第9
号では、SPPI
キャッシュ・フロー特性テストを満たす場 合であっても、会計上のミスマッチを大幅に低減又は除去する場合には、金融資産を当初認識時に 純損益を通じて公正価値で測定するものとして取消不能の指定をすることができる。3.2.5 デリバティブ
IFRS第9号はデリバティブを金融商品又は本基準の範囲に含まれる他の契約のうち、次の3つの特
徴のすべてを有するものと定義している。• その価値が、次のもの(「基礎数値」と呼ばれることもある)の変化に応じて変動する。すなわち、
特定の金利、金融商品価格、コモディティ価格、外国為替レート、価格もしくはレートの指数、
信用格付けもしくは信用指数又はその他の変数。非金融変数の場合には、当該変数が契約 当事者に固有ではないことが条件となる。
• 当初の純投資を全く要しないか、又は市場要因の変動に対する反応が類似する他の種類の 契約について必要な当初の純投資よりも小さいこと
• 将来のある日に決済されること
したがって、デリバティブは、金融資産又は他の契約(IFRS第9号の適用範囲に含まれることが前 提)のいずれからも生じる。この他の契約について以下で説明する。
純額決済できる、又は対象となる非金融項目が容易に換金できる場合の非金融項目を売買する一 定の契約上の権利は、金融商品(すなわちデリバティブ)であるかのように会計処理される。ただし、
当該規定は、
IFRS
第9
号第2.5
項に従って当初認識時点で純損益を通じて公正価値で測定する金 融商品に指定する場合を除き、「自己使用17F18」の契約には適用されない。自己使用の契約に該当し ない場合、そのような権利の保有者は上述のデリバティブの3
つの特徴のすべてを当該権利が満 たしているかを検討し、満たす場合には当該権利をデリバティブとして会計処理する。仮想資産を売買する契約上の権利(例:投資銀行と締結されたビットコインの先渡契約)は、たとえ 仮想通貨それ自体が金融商品でない場合であっても、仮想資産が容易に現金に換金できる、又は 契約が現金で純額決済できる場合にはデリバティブになり得る。これは、トレーディング・ビジネス・
モデルにおいて保有されるコモディティ契約の会計処理に類似する(例:石油自体は金融商品では ないが、石油の先渡契約は
IFRS
第9
号の適用範囲に含まれる場合がある)。測定
デリバティブは公正価値で当初計上され、事後的には売却又は処分コストを控除せずに純損益を 通じて公正価値で測定する。しかし、キャッシュ・フロー・ヘッジにおいてヘッジ手段に指定されるデ リバティブについては、ヘッジの有効部分に関連する公正価値の変動をヘッジ対象が純損益に影 響を及ぼすまで、その他の包括利益に計上する。
18 これは、IFRS第9号第2.4項に規定される企業が予想する購入、販売又は使用に関する要求事項に従って非金融 項目の受取り又は引渡しを目的として結ばれ、引き続き保有される契約に言及している。
弊社のコメント
企業は、契約が
IFRS
第9
号の適用対象であるか、したがってデリバティブとして会計処理しなけ ればならないのかを判断するために、純額決済できる、又は対象となる仮想資産が容易に現金 に換金できる場合の仮想資産の売買契約に関して、その契約上の権利を評価する必要がある。しかし、活発な市場で売買されていない、非金融資産である仮想資産を売買する総額決済型の 契約は、仮想資産が容易に現金に換金されないため、IFRS第
9
号は適用されないであろう。3.3 棚卸資産
多くの場合そのように考えられている可能性もあるが、
IAS
第2
号は、棚卸資産は有形でなければな らないと定めてはいない。IAS第2号は棚卸資産を次のような資産と定義している。• 通常の事業の過程において販売を目的として保有されるもの
• そのような販売を目的とした生産の過程にあるもの
• 生産過程又はサービスの提供にあたって消費される原材料又は貯蔵品
例えばコモディティ・ブローカー
/
ディーラーは、仮想資産を通常の事業の過程で販売することを目的 として保有し得る。仮想資産が通常の事業の過程で販売を目的として保有されているかどうかは、保有者固有の事実と状況により決まる。実務上、仮想資産が棚卸資産の生産に使用されることは 通常なく、よって生産過程で消費される原材料及び貯蔵品とはみなされないだろう。
IAS第2号は金融商品(上記セクション3.2を参照)には適用されない。したがって、金融商品の定義
を満たす場合、仮想資産は、IAS第2号に従って棚卸資産としてではなく、IFRS第9号に従って金融 商品として会計処理されなければならない。通常、
IAS
第2
号は、原価及び正味実現可能価額のいずれか低い方での測定を求めている。しかし、主にその価格の変動又はブローカー・トレーダーのマージンにより利益を得るために仮想資産を取 得し販売するコモディティ・ブローカー
/
トレーダーには、売却費用控除後の公正価値で仮想資産を 測定するという選択肢もある。3.3.1 原価又はそれより低い正味実現可能価額
棚卸資産に該当する購入した仮想資産の原価は、通常、購入価格、還付されない税金及び棚卸資産 の取得に直接起因するその他のコスト(例:ブロックチェーン処理手数料)から構成される。その他の コストは、棚卸資産に該当する仮想資産が現在の場所と状態に至るまでに発生したものに関しての み、その原価に含められる。予測される販売コスト及び保管費用(例:ウォレット又はその他の仮想資 産口座を維持するコスト)は原価に含められない。しかし、生産段階で生じる保管が生産過程におい て必要不可欠な場合はその限りではないが、これが仮想資産に当てはまる可能性は低い。
正味実現可能価額は
IAS
第2
号において「通常の事業の過程における見積売価から、完成までに 要する原価の見積額及び販売に要する見積額を控除した額」と定義されている。棚卸資産として計上される仮想資産の原価は、(当該仮想資産やそのアプリケーションに対する関 心の下落により)それが全体的又は部分的に陳腐化する場合や、販売価格が下落する場合には、
回収可能でなくなる可能性がある。同様に、棚卸資産に該当する仮想資産は、それらを販売する見 積コストが上昇した場合にも全額回収可能でなくなる場合がある。
棚卸資産である仮想資産を保有する企業は、各報告期間に正味実現可能価額を見積もる必要が ある。それが原価を下回る場合、棚卸資産を正味実現価額まで評価減し、当該金額は純損益に計 上される。状況が改善した場合には以前の棚卸資産の評価減は戻し入れられるが、帳簿価額が当 初の原価を上回ることがないよう、戻入れは以前に評価減した金額を限度とする。
弊社のコメント
棚卸資産に分類した仮想資産の販売コストの見積りが保有者にとって困難な場合がある。それ らのコストは、特定のブロックチェーンでの処理の現在の需要に応じて著しく変動する場合があ るからである。
この点は、ビットコインのブロックチェーンを例にとるとわかり易い。2017 年
12
月時点では取 引手数料は平均で55
ドルを超えていたが、本稿の執筆時点では平均でほんの0.5
ドル程度 である。3.3.2 売却費用控除後の公正価値
上述のとおりコモディティ・ブローカー
/
トレーダーは、その棚卸資産であるコモディティを売却費用控 除後の公正価値で測定することができる。ブローカー/
トレーダーとは、顧客の勘定又は自己の勘 定でコモディティを売買する者をいう。それらのコモディティが、主に近い将来に販売し、価格の変動 による利益又はブローカー/
トレーダーのマージンを生み出すことを目的に取得される場合、売却費 用控除後の公正価値で測定されるコモディティ棚卸資産に分類することができる。ブローカー/トレーダーが棚卸資産を売却費用控除後の公正価値で測定する場合、認識金額の変 動はその期の純損益に認識しなければならない18F19。仮想資産のブローカー/トレーダーである保有 者は、関連するブロックチェーンの取引コスト及び仮想資産を現金に転換するために求められるそ の他の手数料を考慮に入れ、各報告日時点で仮想資産の売却費用を見積もる必要がある。これら の手数料は、関連するブロックチェーンにおける処理に対する現在の需要に応じて、期間ごとに著 しく変動する可能性がある。
DigitalX
社は、2017
年6
月30
日に終了する年度の連結財務諸表で、自身を売却費用控除後の公 正価値を用いて保有するビットコインのブローカー/トレーダーと判断した理由を説明している。DigitalX
社の 2017年アニュアル・レポートからの抜粋連結財務諸表の注記(抜粋)
2. 重要な会計方針の要約(抜粋)
2.13 ビットコイン棚卸資産(抜粋)
ビットコインは、ビットコインと呼ばれる特有の会計単位を用いて公開管理された台帳に支払いが記録さ れる、オープンソース型ソフトウェアベースのオンライン決済システムである。当グループは、主に近い 将来に販売し、価格の変動による利益又はブローカー/トレーダーのマージンを生み出すことを目的に ビットコインを売買するため、ビットコインのブローカー/トレーダーである。当グループはビットコイン棚卸 資産を売却費用控除後の公正価値で測定し、当該公正価値の変動は、変動が生じた期の純損益で認 識している。当グループは、所有に係るほとんどすべてのリスクと経済価値を移転した時点でビットコイ ンの認識を中止する。
19 IAS第2号第3項(b)
棚卸資産を売却費用控除後の公正 価値で測定するブローカー/トレー ダーは、認識金額の変動はその期の 純損益に認識しなければならない。
3.4 前払金
前払金とは、企業が財又はサービスの引渡しを受ける前に財又はサービスの支払いを行ったとき に計上される資産をいう19F20。現金又は金融資産に対する権利もしくは金融資産を有利な条件で売買 する権利ではなく、将来の財又はサービスを受け取る権利を企業に与えるので、前払金は金融商 品ではない。しかし、現金に容易に転換できる原資産を売買する権利を保有者に与える仮想資産 の場合には、デリバティブに関するガイダンス(上記3.2.5を参照)が適切となる。
将来の財を受け取る権利を保有者に与える仮想資産は、電子バウチャーにより似ている。そのよう な「バウチャー」の適切な会計処理を決定する際、企業の意図及びビジネス・モデルが関係する。仮 に企業の意図が基礎となる財の引渡しを受けるために仮想資産を保有することでないとしたら、そ れを前払金として会計処理することは通常適切でなく、無形資産に関するガイダンス(下記3.5を参 照)を検討しなければならない。
測定
前払金に関しては、IFRSに非常に限られたガイダンスしか存在しない。実際、多くの場合、前払金 は原価で認識され、
IAS
第36
号「資産の減損」に従って減損判定を行うことになる。IFRS
に非常に限られたガイダンスしか存在しないことを考えると、企業は会計方針を策定し、同様 の項目及び各期間を通じてそれを継続的に適用する必要がある(下記セクション3.6を参照)。弊社のコメント
仮想資産の経済的便益を実現する唯一可能な方法が、事後に基礎となる財又はサービスの引 渡しを受け入れることである場合、保有者はそれを前払金として会計処理することができる。し かし、保有者が仮想資産の売買によっても経済的便益を実現できる場合には保有者はビジネ ス・モデルを評価しなければならない。保有者が仮想資産を売買する意図を有する場合、通常 それを前払金として会計処理することは適切でないだろう。
3.5 無形資産
IAS第38号は資産を「過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が企業へ
流入することが期待される資源」と定義している。無形資産は、このグループ(資産)のサブセクショ ン(一部)を構成し、さらに「物理的実体のない識別可能な非貨幣性資産」と定義される20F21。 貨幣性資産は、保有する貨幣、又は固定ないしは決定可能な貨幣の金額を受け取れる資産のい ずれかをいう。現金又は金融商品の定義を満たさない仮想資産は、通常、非貨幣性資産である。3.5.1 無形資産の定義
IASBは無形資産の不可欠な特徴を次のように考えている。
• 企業により支配されている
• 将来の経済的便益を企業に生じさせる
• 物理的実体に欠ける
• 識別可能である
これらの特徴を備える項目は、企業が当該資産を保有する理由に関係なく無形資産に分類される21F22。 支配 – 支配とは、他者による将来の経済的便益へのアクセスを制限しつつ、当該項目から生じる 経済的便益を取得するパワーをいう。支配は通常、法律上の権利により証されるが、IAS第38号に おいて、企業が他の方法で経済的便益へのアクセスを支配できる場合には法律上の権利が求めら れないことは明確である。
20 IAS第38号第70項 21 IAS第38号第8項 ‐定義 22 IAS第38号BC5項
IAS第38号は、法律上の権利が存在しない場合、類似の非契約項目の交換取引の存在が、企業が
それにも関わらず、期待される将来の経済的便益を支配できることの証拠になる、と説明している22F23。 将来の経済的便益–
多くの仮想資産は、経済的便益に対する契約上の権利を提生じさせない。つまり、経済的便益は自発的な買手への将来的な売却又は仮想資産と財又はサービスとの交換 により生じる可能性が高い。
物理的実体に欠ける – 仮想資産はデジタルの表象であることから、その性質上、物理的実体は存 在しない。
識別可能
–
識別可能であるためには無形資産は分離可能である(保有者から分離して売却又は 移転できる)、又は契約もしくは他の法律上の権利により生じるものである必要がある。大半の仮想 資産は自由に自発的な買手に移転することができるので、通常、分離可能であると考えられる。ま た、契約上の権利により生じる仮想資産の場合、当該権利が譲渡可能なのかどうかや、企業又は 他の権利及び義務から分離可能なのかどうかは問わない。弊社のコメント
仮想資産は通常、比較的広範な無形資産の定義を満たす。識別可能で物理的実体に欠け、保 有者により支配され、保有者に将来の経済的便益を生じさせるためである。
3.5.2 IAS 第 38 号の適用範囲
他の基準が適用される場合を除き(例:IAS第32号の金融資産の定義を満たす仮想資産又はIAS 第2号が適用される通常の事業の過程で販売を目的として保有される仮想資産)、無形資産はIAS 第38号に従って会計処理される。IAS第38号の適用範囲に含まれない仮想資産の会計処理につ いては、上記
3.1
から3.4
で解説している。IAS
第38
号は、活動や取引があまりにも専門的であるため、他の方法で対処する必要性があり得 る会計処理上の論点を生じさせる場合には、IAS
第38
号の適用範囲から除外されることがあると述 べている。IAS
第38
号はさらに、採掘産業における石油、ガス及び鉱物の探査又は開発及び採掘 で生じる支出の会計処理、並びに保険契約の会計処理には同基準が適用されないと述べている。しかし、この除外は通常、採掘活動と保険契約に限られる。したがって、基準設定機関によるガイダ ンスが追加でないことに鑑み、保有者はこれらの特定の除外規定が仮想資産にも適用されると仮 定すべきでない。
3.5.3 認識に関する規定
将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、そのコストを信頼性をもって測定できる場合に のみ、無形資産は認識される。
IAS
第38
号は、取得価格は将来の経済的便益の期待を反映してい ると仮定しており、個別に取得された無形資産は通常、認識される。よって、企業は常に、時期又は 金額について不確実性が存在する場合でも、これらの無形資産について将来の経済的便益を期待 する。3.5.4 当初測定
無形資産は取得原価で当初測定される。仮想資産を取得するための原価には通常、(該当あれば、
値引き及びリベート控除後の)購入価格と関連する取引コストが含まれる。取引コストにはブロック チェーン処理手数料が含まれ得る。無形資産が他の非貨幣性資産との交換で取得される場合、原 価はその公正価値で測定されるが、取引が経済実体に欠ける、又は取得した資産又は譲渡した資 産のいずれもが信頼性をもって測定できない場合はその限りではない。その場合、無形資産の取 得原価は譲渡した資産の帳簿価額で測定される。
23 IAS第38号第16項
他の基準が適用される場合を除き、
無形資産はIAS第38号に従って会計 処理される。
3.5.5 事後測定に関する規定
それぞれの種類の無形資産に適用し得る会計方針の選択として、以下の2つの事後測定アプロー チがIAS第38号に定められている。
• 原価モデル
• 再評価モデル(後述する要件の充足が条件)
異なるタイプの仮想資産を保有する企業は、それらの仮想資産の権利や基礎となる経済的特性が 大幅に異なることにより、それらを異なる種類の無形資産とするべきかを評価する必要がある。
3.5.5.1 原価モデル
IAS第38号の原価法では、償却及び減損を控除した原価で事後測定を行うことになる。
耐用年数及び償却
ビットコインなど多くの仮想資産は失効日が存在せず、自発的な相手方当事者との現金もしくはそ の他の財又はサービスの交換が可能な期間に予測可能な限度は存在しないように思われる。
したがって保有者は、仮想資産が正味キャッシュ・フローを企業に創出すると見込まれる期間に予 測可能な限度があるかどうかを検討する必要がある。限度が存在しないと予想される場合、そのよ うな仮想資産は確定できない23F24耐用年数を有していると考えられ、その結果、償却は要求されない。
しかし、耐用年数を確定できない無形資産は毎年、及び減損の兆候が見られる場合にはいつでも、
減損テストを行う必要がある。
仮想資産が正味キャッシュ・フローを保有者に創出する期間に限度が存在すると予想される場合、
耐用年数を見積もり、仮想資産の残存価値を控除した取得原価を、耐用年数にわたり規則的な方 法で償却しなければならない。さらに、そのような仮想資産は、減損の兆候が見られる場合は常に
IAS第36号の減損テストを実施しなければならない。
減損及び減損の戻入れ
減損テストの結果、無形資産が減損していると判断される場合、保有者はその帳簿価額を回収可 能価額まで評価減して、その金額を当期の純損益に計上しなければならない。
その後の期間について保有者は、減損損失がもはや存在しない(又は減損が減少している)ことを 示す兆候の有無を評価する必要があり、そのような兆候がある場合には、回収可能価額を算定す る必要がある。戻入れ後の帳簿価額が、減損が仮に認識されなかったならば計上されたであろう償 却額控除後の資産の帳簿価額を上回ることがない範囲で、
IAS
第36
号は保有者に減損の戻入れ を計上することを容認している。3.5.5.2 再評価モデル
企業は公正価値が
IFRS
第13
号「公正価値測定」により「資産又は負債の取引が、継続的に価格付 けの情報を提供するのに十分な頻度と量で行われる市場」として定義される活発な市場を参照して 算定できる場合のみ、再評価モデルを適用することができる。無形資産の公正価値を間接的に24F25、例えば企業結合で取得された無形資産の公正価値を見積も るための評価技法や金融モデルを用いて算定することを容認する規定はIAS第38号には存在しな い。したがって活発な市場において同一の資産に関し観察可能な価格(すなわちIFRS第13号のレ ベル1インプット価格)が存在しない場合、保有者は保有する仮想資産に原価モデルを適用する必 要がある。
24 無限の耐用年数と混同してはならない(IAS第38号第91項)
25 IAS第38号第75項及びIAS第38号第81から82項
無形資産の公正価値を間接的に算 定することを容認する規定はIAS第
38
号には存在しない。レベル1
イン プットが存在しない場合、保有者は 保有する仮想資産に原価モデルを 適用する必要がある。弊社のコメント
仮想資産に関し活発な市場が存在するかどうかを評価する際、保有者は、観察可能な取引に 経済的実体がみられるかどうかを評価する必要がある。これは、仮想資産取引所における多く の売買が非現金取引であり、1 つの仮想資産と別の仮想資産とが交換され、保有者が仮想資 産を現金に転換するのが困難な場合が存在するためである。
再評価モデルにおいて無形資産は、再評価日時点の公正価値から事後的な償却及び減損損失を 控除した金額で測定される。
無形資産の当初原価を上回る公正価値の正味増加額は、その他の包括利益を通じて再評価剰余 金に計上される。原価を下回る正味減少額は純損益に計上する。再評価剰余金の累計額は、認識 の中止時点で利益剰余金に直接振り替える、又は再評価額を基に追加で計上された償却費相当 額を資産の使用に応じて利益剰余金に直接振り替えることが認められる。しかし、
IAS
第38
号は再 評価剰余金を、純損益を通じて振り替えることを認めていない。3.6 自己の会計方針
IAS
第8
号は、あるIFRS
基準が取引、その他の事象や状況に適用される場合、当該項目に適用す る会計方針は、当該IFRS
を適用し、IASB
公表の関連する適用ガイダンスを考慮して策定しなけれ ばならないと定めている25F26。例えば、仮想資産が、IAS
第38
号が適用される無形資産であると適切 に評価される場合、保有者は、当該仮想資産の会計処理にIAS
第38
号を適用しなければならない。その場合、
IAS
第40
号又はIFRS
第9
号の金融商品に関する規定など他の基準を類推適用すること は通常適切でない。しかし、取引、事象又は状況に具体的に適用する基準が存在しない場合、IAS第8号の会計方針選 択のヒエラルキーは、以下に該当する情報を結果としてもたらすことになる会計方針を策定するに 際して、企業が判断を行使することを認めている。
• 利用者の経済的意思決定のニーズに対する目的適合性がある
• 財務諸表が以下を達成するという点で信頼性がある
• 企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローを忠実に表現する
• 単に法的形式だけでなく取引、その他の事象及び状況の経済的実体を反映する
• 中立である、すなわち偏向が存在しない
• 慎重である
• すべての重要な点で完全である26 F27
この判断を行うにあたり経営者は次に掲げる根拠資料を上から順に考慮することを求められる。
• 類似及び関連する論点を取り扱っている
IFRS
の規定及びガイダンス•
IFRSの「財務報告に関する概念フレームワーク」における資産、負債、収益及び費用の定義、
認識要件及び測定概念27F28
経営者はまた、上記の根拠資料に反しない範囲で、会計基準を開発するために類似の概念フレー ムワークを用いているその他の基準設定主体の直近の公表文書、その他の会計文献及び一般に 認められている業界実務を考慮することもできる28F29。
26 IAS第8号第7項 27 IAS第8号第10項 28 IAS第8号第11項 29 IAS第8号第12項
弊社のコメント
他の基準を適用せずに、企業が
IAS
第8
号のヒエラルキーに従って保有する仮想資産に関する 自己の会計方針を策定する場合、類似及び関連する論点を取り扱うIFRS
のガイダンス及び概念 フレームワークにおける関連する定義及び認識要件が仮想資産を資産として認識することを妨 げるものであるかどうかを検討する必要がある。資産の認識が妨げられると判断される場合、仮 想資産を取得する際に発生するコストは、発生した時点で費用処理しなければならない。4 表示及び開示
仮想資産の保有者の開示は、当該仮想資産の会計処理に適用される
IFRS
の開示規定により決定 される。下記セクションは、それぞれの分類及び測定に関する特定の開示規定をさらに詳細に説明 すると共に、仮想資産の保有者に関連し得るIAS
第1
号の一般規定を説明する。弊社の「IFRS
開示 チェックリスト」は、作成者が期中及び年度のIFRS
財務諸表においてIFRS
の表示及び開示規定を 満たすことを支援する29F30。仮想資産の保有者は、特定の状況においてどの開示が必要になるのか、財務諸表本体及び注記 においてどのような場合に金額を集約すべきかを判断する際に、重要性を考慮する必要がある。財 務諸表の理解可能性が損なわれることになるので、企業は重要ではない情報で重要な情報を覆い 隠してはならず、異なる性質又は機能を有する重要な項目を集約してはならない30F31。
4.1 現金及び現金同等物
仮に仮想資産が将来において現金又は現金同等物(上記セクション3.1を参照)の定義を満たすよ うになるとしたら、保有者は、IAS第7号の表示及び開示規定を参照し、その変動をキャッシュ・フ ロー計算書に含める必要が生じる。
キャッシュ・フロー計算書は、現金及び現金同等物に該当する項目間の振替は除外する。それらは、
営業活動、投資活動及び財務活動の一部ではなく企業の資金管理の構成要素に該当するためで ある。したがって仮想資産が現金又は現金同等物の構成要素と考えられる場合、その他の現金残 高と仮想資産の間の振替は、キャッシュ・フロー活動の一部にはならない31F32。
しかし、現金又は現金同等物と判断されない仮想資産に関連する現金取引は、その性質に従って キャッシュ・フロー計算書に営業活動、投資活動又は財務活動によるものとして表示される。
保有者はまた、仮想資産がその他の財又はサービスの決済に使用される場合には、重要な非現金 取引の開示を要求される場合がある32 F33。
4.2 金融商品
金融商品(例:金融資産、資本性金融商品又はデリバティブ)の要件を満たす仮想資産の保有者は、
関連する公正価値及びリスクの開示を含め、IFRS第7号「金融商品:開示」に従う必要がある。
30 当該チェックリストはIFRS総合DBから入手可能である。
31 IAS第1号第30A項 32 IAS第7号第9項 33 IAS第7号第43項
仮想資産の保有者の開示は、当該仮 想資産の会計処理に適用されるIFRS の開示規定により決定される。