A. 研究目的
近年、 摂食・嚥下障害を有する高齢者が増加してい る。 また、 スモン患者においても高齢化に伴う摂食・
嚥下障害の増加が懸念されている。 我々は、 平成 13 年から岡山県下のスモン患者を対象に摂食・嚥下障害
のアンケートによる実態調査を行い、 早期発見に努め てきた。 今年度も従来通りアンケート調査および希望 者を対象に嚥下造影検査 (以下 VF) を施行し、 その 特徴ならびに経時的変化について検討した。
― 205 ―
スモン患者における嚥下機能評価
花山 耕三 (川崎医科大学リハビリテーション医学教室) 西谷 春彦 (川崎医科大学リハビリテーション医学教室) 平岡 崇 (川崎医科大学リハビリテーション医学教室)
研究要旨
【目的】岡山県下のスモン患者を対象に、 摂食・嚥下に関する実態調査を行う。
【方法】岡山県下のスモン患者 196 名に摂食・嚥下に関するアンケート調査を行った。 また 希望者には嚥下造影検査 (以下 VF) と嚥下内視鏡検査 (以下 VE) を行った。
【結果】105 名から回答を得られた。 5 項目以上空欄があった 2 名・年齢の不明であった 14 名・歯の本数が空欄であった 1 名を除いた 88 名のアンケート結果を解析した。 88 名中 46 名 (52、 3%)に何らかの自覚的異常を認めた。
年齢の増加に伴って嚥下障害の割合は増加していた。
歯 の 本 数 は 10 本 未 満 が 27 名 (30.7%)、 10〜19 本 が 27 名 (30.7%)、 20 本 以 上 が 34 名 (38.6%) であった。
年齢ごとの歯の本数が 20 本以上の者の割合は厚生労働省 「歯科疾患実態調査」 とほぼ同 等であった。 歯の本数の減少に伴って嚥下障害の割合は増加していた。
歯の本数の減少による嚥下機能全体の影響と準備期・口腔期の影響を比較すると嚥下全体 への影響が大きかった。
義歯を使用しているものは 51 名 (58.0%) であった。
VF は 10 名に施行した。 VF 上全例で誤嚥は認められなかったものの 6 名に、 準備期・口 腔期・咽頭期に何らかの異常を認めた。
【結論】岡山県下スモン認定患者に対し摂食・嚥下に関するアンケート調査及び希望者には VF を行った。 加齢と共に歯の本数の減少を認めたが、 20 本以上の者の割合は厚生労働省
「歯科疾患実態調査」 とほぼ同等でありスモンは歯の本数に影響を及ぼさない可能性が示唆 された。
これまでの研究で年齢の増加に伴って嚥下機能の低下が示されていたが、 今回の研究でも 同様の結果が確認された。 また歯の本数の減少に伴って嚥下機能が低下する事も示された。
歯の本数の減少による嚥下機能全体の影響と準備期・口腔期の影響を比較では、 歯の減少の 影響は嚥下全体に及ぼす影響が強いことが示された。
B. 研究方法
岡山県下スモン認定患者 196 名を対象とした。 方法 は対象者全員に郵送で摂食・嚥下に関するアンケート を送付し回答を得た。 送付したアンケートを表 1・表 2に示す。 アンケート内容は、 摂食・嚥下に関する 17 項目の質問からなり、 肺炎の既往・栄養状態・咽頭機 能・口腔機能・食道機能・声門防御機構などが反映さ れる項目となっている。 これは、 大熊るり1)および藤 島一郎2)らの発表した摂食・嚥下障害のスクリーニン グテストを参考に作成した。 一般的に摂食・嚥下は運 動学的に先行期、 準備期、 口腔期、 咽頭期、 食道期の 5 つのステージに分類して評価する。 アンケートでは、
既往症や全身状態に関する質問である 1−4 が先行期 を反映している。 咽頭残留や嚥下時のむせに関する 5−
10 および 17 の質問が咽頭期を反映している。 送りこ みや義歯の問題などに関する質問 11−13 は、 準備期 および口腔期を評価している。 胸につかえる感じや胃 からの逆流といった症状などの質問 14−16 は、 食道 期を反映している。
それらに対して症状の出現する頻度を A (頻繁に) B (時折) C (症状なし) の 3 段階で回答を得た。 そ の内 A (頻繁に) と回答されたものを異常と判断とし た。
また質問 18 で歯の本数、 19 で義歯の有無について
質問を行っている。
またアンケートには、 川崎医科大学附属病院を受診 し、 VF を希望するかどうかの意思を問う項目を加え て郵送された。 検査を希望した患者を VF の対象とし た。 検査の手順として、 VF では安楽な椅子に普段の 食事姿勢で座り、 ストレート水分、 全粥、 バナナ、 クッ キーを自由に嚥下してもらい、 側面から撮影する方法 で行った。 検査を受けた者の検査結果と、 アンケート 結果を比較した。 なお本調査は川崎医科大学倫理審査 委員会の審査を受けて行った。
C. 研究結果
アンケートの回収が可能であったのは、 105 名であっ た。 5 項目以上の空欄があった 2 名・年齢の不明であっ た 14 名・歯の本数が空欄であった 1 名を除外し 88 名 のアンケートを解析した。
解析には JMP を使用した。
質問 1−17 のアンケート項目に 1 つでも A (頻繁に) があれば嚥下機能低下とした。
88 名 中 46 名 (52.3%) に 何 ら か の 嚥 下 機 能 低 下 を 認めた。
質問 10−13 のアンケート項目に 1 つでも A (頻繁 に) があれば準備期・口腔期能力低下とした。
88 名 中 32 名 (36.3%) に 準 備 期 ・ 口 腔 期 機 能 低 下 を認めた。
図 1はアンケート回答者の年齢と分布を示しており 61 歳から 97 歳までの平均年齢 80.3 歳で正規分布であっ
― 206 ― 表 1
図 1 表 2
た (P=0.358)
図 2はアンケートの質問 1−17 で 1 つも A (頻繁に) が無いものを正常群、 1 つ以上 A があるものを嚥下障 害群としている。 各群の母分散は等しく、 年齢の増加 に伴って嚥下機能が低下していることが示された。
図 3は 年 齢 ご と の 歯 の 本 数 と 厚 生 労 働 省 「2011 年 歯科疾患実態調査」 の比較を行った。
歯の本数は年齢の増加に伴って減少する傾向が見ら れ た (P=0.0064)。 ま た ア ン ケ ー ト の 歯 の 本 数 20 本 以上の者の割合と歯科疾患の割合を比較した所酷似し た結果になっており、 スモンは歯の本数には影響を及 ぼさない可能性が示された。
表 3と図 4は嚥下低下の有無と歯の本数の関連を調 べたものである。
嚥下機能の低下しているものほど歯の本数が少ない 傾向が見られた。
表 4と図 5は準備期口腔期の機能低下の有無と歯の 本数の関連を調べたものである。
準備期口腔期機能の低下しているものほど歯の本数 が少ない傾向が見られた。
表 5と図 6は歯の本数の変化と嚥下機能低下の有無 の関連を調べたものである。
歯の本数が少ないものほど嚥下機能の低下の割合が 多かった。
表 6と図 7は準備期口腔期の機能低下の有無と歯の 本数の関連を調べたものである。
歯の本数が少ないものほど準備期口腔期機能の低下 の割合が多かった。
歯の本数の減少による嚥下機能全体の低下と準備期 口腔期機能の低下の影響度を比較すると
(非対称ラムダ 0.3810 VS 0.2813)
― 207 ―
0 10 20 30 40 50 60 70
65-74ᱦ 75-84ᱦ 85ᱦ- 10ᧄᧂḩ 11㧙19ᧄ 20ᧄએ 20ᧄએ(ᱤ⑼∔ᖚታᘒ⺞ᩏ)
図 3 年齢あたりの歯の本数の割合と歯科疾患実態調査の比較
表 3
歯 10 本未満 歯 10−19 本 歯 20 本以上
嚥下機能低下 18 11 3
嚥下機能良い 9 16 31
0%
20%
40%
60%
80%
100%
ྚਅᯏ⢻ૐਅ ྚਅᯏ⢻⦟
ᱤ10ᧄᧂḩ ᱤ10-19ᧄ ᱤ20ᧄએ
図 4 嚥下機能全体と歯の本数の比較
(P<0.001) 図 2
表 4
準備期口腔期悪い 準備期口腔期良い
歯 10 本未満 22 5
歯 10−19 本 15 12
歯 20 本以上 9 25
0%
20%
40%
60%
80%
100%
⢻ജૐਅࠅ ⢻ജૐਅήߒ 10ᧄᧂḩ 10-19ᧄ 20ᧄએ
図 5 準備期・口腔期能力と歯の本数の比較 (P<0.001)
嚥下能力全体への影響が大きく、 歯の本数の減少の 影響は口腔期準備期のみならず嚥下機能全体に影響を 及ぼす可能性が示された。
D. 考察
嚥下機能に対する加齢の影響として、 食物輸送能力 の低下、 嚥下反射のタイミング異常、 咽頭内圧上昇不 全など、 準備・口腔・咽頭期の異常が指摘されている。
今回の調査でも加齢に伴う嚥下機能の低下は示された。
アンケートと厚生労働省の歯科疾患実態調査の歯の
本数の比較ではほとんど差は見られず、 スモンは歯の 本数に影響を及ぼさない可能性が考えられた。
また歯の本数の減少は嚥下機能の低下と相関が見ら れた。 しかし歯の減少でもっとも嚥下機能のうち影響 があると考えられた準備期・口腔期は全体との比較で それほど影響が無い事が示され、 歯の減少は嚥下機能 全体への影響を及ぼす可能性が考えられた。
今後の調査では嚥下機能のどの部分に大きな影響を 及ぼしているかを調べていく必要があると考える。
E. 結論
前年度と同様に岡山県下スモン認定患者に対し摂食・
嚥下に対するアンケート調査及び希望者には VF を行っ た。 歯の本数の低下と嚥下機能の低下に相関があり、
義歯の作成など摂食嚥下障害に関する啓蒙を行う事で、
誤嚥性肺炎や窒息の予防が出来ると考えられる。
I. 文献
1 ) 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 6 巻 (1), 3-8, 2002
― 208 ― 表 5
嚥下機能悪い 嚥下機能良い
歯 10 本未満 18 9
歯 10−19 本 11 16
歯 20 本以上 3 31
0 5 10 15 20 25 30 35 40
ᱤ10ᧄᧂḩ ᱤ10㧙19ᧄ ᱤ20ᧄએ
ᖡ ⦟
図 6 歯の本数あたりの嚥下機能の変化
(P<0.001) 非対称ラムダ (CIR)=0.3810
表 6
準備期口腔期悪い 準備期口腔期良い
歯 10 本未満 22 5
歯 11〜19 本 15 12
歯 20 本以上 9 25
0 5 10 15 20 25 30 35 40
ᱤ10ᧄᧂḩ ᱤ10-19ᧄ ᱤ20ᧄએ
ᖡ ⦟
図 7 歯の本数あたりの準備期口腔期機能の変化 (P<0.001) 非対称ラムダ (CIR)=0.2813