九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
POI : 自己実現尺度の展望と試論
亀石, 圭志
九州大学教育学部
冷川, 昭子
九州大学健康科学センター
https://doi.org/10.15017/452
出版情報:健康科学. 8, pp.15-28, 1986-03. 九州大学健康科学センター バージョン:
権利関係:
POI ―自己実現尺度の展望と試論
亀 石 圭 志 * 冷 川 昭 子 * *
A Review on S c a l e C o n s t r u c t i o n o f t h e P e r s o n a l O r i e n t a t i o n I n v e n t o r y
K e i s h i KAMEISI and Akiko HIY AKA W A
SummaryA review was made on the construction of the Personal Orientation Inventory (POI). And we proposed our opinion on the development of a test measuring the extent of a individual's self‑ actualization. This paper consists of five parts as follows :
1) Arranged the process of which POI was constructed and the studies which used POI, 2) the papers which were classified as validity studies were reviewed. And this led to the conclusion that POI has some validity as a whole. We, however, couldn't prove whether sub‑scales of POI were all valid or not. 3) We examined the relation between POI and other tests. It seems that POI has something to do with some of other tests.Those tests measure locus of control, anxiety, social desirebility or factorial personality. As we studied above, there seems to be some problems on the scale construction in POI. Therefore, we examined these problems in terms of'factor'in the two senses. We discussed the better solution to the problems concerning the concept of self‑actualization.
Last, the remained problems, such as the translation into Japanese, were briefly discussed.
I は じ め に
本論文は, POIの尺度構成について,文献展望を 行なうことを目的としている。
Shostrom (1963, 1964)は,個人の自己実現の程 度を測定する質問紙, POI (Personal Orientation In
、
!entory)を提出した。このPOIの出現によって,「自己実現」に対する,より実証的な検討が可能に なったのである。
ここでは,まず, POIに関する歴史的な経緯につ いて,簡単に整理しておこう。
I, POIの作成以前
巨己実現に関する論議は,もっぱら,思索的・了解 的な文章の中で展開されてきた。
「自己実現」は, Goldstein (1939, 1947), Mas‑
low (1954, 1962)らの有機体理論において提唱され た。 Maslow (1954)が提唱した「第3勢力」,つま り,人間性心理学において,自己実現は重要な概念的 基礎を形成していた。そして,多くの研究者によっ て,自己実現に関する議論が展開された。
人間性心理学の発展とともに,「自己実現」は,
種々の自己実現理論には必ずしもとらわれない,より 一般的な用語となっていった。自己実現は,ヒューマ ン・ポテンシャル運動,エンカウンター・ムーブメン ト,地域精神衛生が掲げる目標の一つとなったのであ る。
しかし,自己実現概念に対する,実験心理学的なア プローチは,ほとんど行なわれなかった。 Maslow は,行動主義を排斥しようとした。そして,当時の実 験心理学は,行動主義をその主流としていた。人間性
* Faculty of Education, Kyushu University, Hakozaki, Fukuoka 812, Japan.
* * Institution of Health Science, Kyushu University, Kasuga 816, Japan.
16 健 康 科 学
心理学は,行動主義の思想ばかりでなく,その方法論 をも否定していたように思われる。
2. POIの作成
POIは, 150対の項目からなる質問紙である。各項 目は,それぞれ2個の文からなり,回答者は,その文 のいずれか,自分によりあてはまる方を選択する。
150対の項目は,「論理的」に, 12個 の 尺 度 (Table 1)に対応づけられる。
POIの作成は, 1972年に開始された,数名のセラ さストが,そのもととなる項目を提出した。その項目 は,臨床的に問題のある患者の「価値判断」に関する 観察に基づいていた。集められた項目は, Humanis‑
tic, Existential, あるいは, Gestaltセラピーの研究 や理論的な考え方に一致しているとされるが,その,
項目との対応などの詳細な報告はなされてはいない。
POIは, Shostrom (1963, 1964)に発表された。
彼の,より理論的な記述は, Shostrom (1968, 1972, 1973 a, 1973 b, 1973 c)に見ることができる,また,
POI質問紙,マニュアル (Shostrom, 1968; Knapp, 1975), プロフィールシートの販売,そして,採点の サービスが, Educational and Industrial Testing Service (EdITS)社によって行なわれている。
3. POIを用いた研究
POIの作成によって,「測定」をともなう自己実現 研究が可能となった。 POIを 測 定 用 具 と し て 用 い た 多くの調査・研究が行われてきた*。それら諸研究は,
人格理論,心理臨床,感受性訓練やエンカウンター・
グループ,文化間比較など,種々の領域に及んでい る。また, POIの 特 性 そ れ 自 体 , つ ま り , 尺 度 構 成 に関する研究が行われ,知見を蓄積してきた。
POIを , 測 定 用 具 と す る 場 合 と , 測 定 用 具 と し て の特性を扱う場合では,その研究における志向性は異 なる。両者は, POIを 用 い る と い う 意 味 で は 同 じ で あ る 。 だ が , そ の 志 向 性 に 基 づ く と , 前 者 を 「POI を用いた研究」,後者を「尺度構成に関する研究」と
して区別することができる。
本論文は,その後者として位置づけられる諸研究を 展望することによって, POIの 尺 度 構 成 上 の 問 題 点 を検討しようとするものである。
* DIALOGの PSYCINFO (MASISセンター,
1979)で, 'palsonal orientation inventory'な いし, 'POI'をキーワードとして検索すると,該 当する論文数は, 461編にのぼる (1985年11月 現在)。
第8巻
4. POIの尺度構成
一般に,質問紙(テスト)を用いた研究は,その質 問紙の完成度によって,結果の評価に制限が加えられ る。したがって,所与の質問紙の尺度構成について,
十分な検討が加えられなければならない。
POIが作成され, 20余年を経た。この間の,テス ト構成に関する理論や技法の発展には,著しいものが ある。そこで,筆者らは, POIの 尺 度 に つ い て , 現 時点における問題点の検討を行っておこうと考えた。
その検討は, POIを 用 い た 諸 研 究 の 解 釈 や , 新 た な 自己実現尺度の構成のための基礎的な資料となるだろ う。
II
POI
とその妥当性POIが , 意 図 さ れ た 内 容 , つ ま り , 個 人 の 自 己 実 現の程度を実際に測定しうるかどうかが検討されなく て は な ら な い 。 こ れ は , テ ス ト の 妥 当 性 の 問 題 で あ る。
POIは , わ が 国 に , ま だ 十 分 に は 紹 介 さ れ て い な い。そこで,本章では, POIの 概 略 に つ い て 述 べ た 後,この妥当性の問題を検討していくことにする。
1. POIの尺度
POIは, 2個の主尺度と 10個の下位尺度からなっ ている。
主 尺 度 (main scale)は, Time Competence (TC)とInner‑Directedness(I)である。それらは,
各々, time‑orientationとsupport‑orientationに関 する「比率」で表わされることから, Time ratio, Support ratioとも呼ばれている。
TCは,過去や未来よりも「現在」に生きている程 度 を 示 し て い る 。 自 己 実 現 し た 人 (self0actualizing person)は,充分な気づきや,触れあいを持って,
まず,現在に生きている。そして,過去や未来と現在 を意味のある連続したものとして結びつけている。彼 らは, リジットな,あるいは,過度に理想化した目標 を持つことなく,未来に信頼をおいているのである。
Iは , 行 動 の 様 式 が 「 自 分 」 に 向 け ら れ て い る の か,「他」に向けられているのかの程度を示している。
それが自分に向けられた人は,内在化された原則や動 機に第一に (primarily)基づいて行動するが,他に 向けられた人は,仲間や外的な力に影響されやすい,
とされる。
POIの下位尺度は,次のように規定されている。
SAV: 自己実現した人が持つ「価値」をどの程度肯定
しているか。
Ex : 原則 (principles)に対してリジッドに固執せ ず , 状 況 に 応 じ て , あ る い は 現 実 に 合 わ せ て (existenitally)行動する能力。
Fr : 自分自身の欲求や感情に対する感受性。
s :
自発的に行動する,あるいは,自分自身でいる ことができる (tobe oneself)程度。Sr : 価値や強さ (strength)か ら く る 自 己 の 確 信 度。高得点者は,一人の人間としての強さゆえ に,自分自身を好きでおれる能力を,低得点者 は,低い自己価値の感情を示す。
Sa : 自分の弱さや欠点にもかかわらず,自分を受け 入れ,確信できる程度。
Ne : 人間の性質に対する建設的 (contsructive)な 見方。高得点者は,人間の本性を善と考え,ま た,善一悪,男性性ー女性性,利己的ー利他的な どの二分律をのりこえる (resolve)能力を持っ ていることが示唆される。
Sy : 統合的でおれる―二分律を越える能力。統合 的であれば,労働と遊び,肉欲と愛などの二分律 は,実際には,対立するものではないと考えるよ うになる。
A : 防衛的・抑圧的にならずに,自分の持つ自然な 攻撃性を受容する能力。
C : 期待や義務感に惑わされるこ七なく,他者と,
触れ合いのある親密な関係を発展される能力。
150項目に対する反応のうち23項目からTCの得 点が,残り 127項目から Iの得点が計算される。ま た,下位尺度の得点化は,それぞれ, 9,....̲,,3z項目の反 応を用いて行なわれる。この時,項目によっては複数 回用いられるものがあり,得点化に使用される項目数 はのべ219である。
2, 妥当性研究の方法*
「妥当性」は,テストのもっとも本質的な問題に関 連している。だが,その概念は単ーでない。また,妥 当性の検討に対して,一定の操作的方法が定められて いるわけでもない。
妥当性は, (1)内容的妥当性, (2)基 準 関 連 妥 当 性, (3)構成概念的妥当性に区別される。内容的妥当 性は,「テストに用いられる課題内容が,それを用い て結論しようとする測定内容のいかにいい見本となっ
*本節の記述にあたり,池田 (1973)を参考にし た。
Table 1 POIの尺度 主尺度
Time ratio (Time Competence : TC) Support ratio (Inner‑directed : I) 下位尺度
Self‑Actualizing Values (SA V) Existantiality (Ex)
Feeling Reactivity (Fr) Spontaniety (S) Self‑Regard (Sr) Self‑Acceptance (Sa)
Nature of Man ‑ Constructive (Nc) Synergy (Sy)
Acceptance of Aggression (A) Capacity for Intimate Contact (C)
ているか」を示す概念である。この内容的妥当性は,
複数の専門家による評定の一致度によって検討され る。
基準関連妥当性は,何らかの基準測度を設定し,そ の基準測度とテスト得点を比較することによって判定 することができる。基準測度として,訓練・養成期間 中や期間後の成績,他者の評定,対照群との比較,他 テスト結果との比較などが,よく用いられる. この基 準関連妥当性は,平均値の差の検定や相関係数の有意 性検定によって,数量的な検討を行なうことができ
る。
構成的妥当性は,「そのテストがどの程度あらかじ め計画された心理学的構成体を測定しているか」とい う問題を扱っている。
POIの妥当性研究では,そのほとんどが,基準関 連妥当性について行なわれている。その内容について は本章の残りの部分と次章で記述する。内容的妥当性 は,テスト作成時に検討されるべきものだが, Shos‑ trom自身,その報告を行なってはいない。構成的妥 当性は,「因子性」の問題を含んでおり,後に章を改 めて言及することにする。
3. 専門家の評定とPOI得点
「自己実現」に関する専門家の評定と, POI得点 との一致度が高ければ, POIは妥当性を持つと考え ることができる。
Shostrom (1964)は,臨床心理学者の評定を基準 に,被験者が相対的に「自己実現した」群と「自己実 現 し て い な い 」 群 と を 設 定 し た 。 彼 は , 両 群 間 で POI得点を比較し, Neを除く全尺度で,仮定される 方向の有意な差を見出した。 McClain(1970)は,ヵ
18 健 康 科 学
ウンセリング訓練において,スタッフの評定した自己 実現の程度と POI得 点 の 関 連 を 調 べ た 。 両 者 の 相 関 係数を求めた結果, TC, I, SAVなど7尺 度 で 有 意 な値を得た。 Jansenand Garvey (1973)は,聖職者 を対象としたカウンセリング訓練で同様の検討を行な い, Ex, Fr, A, Cを除く 8尺 度 で 有 意 な 相 関 を 見 出した。
ま た , 自 己 実 現 と 関 連 が 深 い と 考 え ら れ る 特 性 (ex. facilitativeness)に関する専門家の評定とPOI 得 点 の 相 関 を 求 め た 研 究 が あ る (Foulds, 1969 ; McClain, 1970; Graff and Bradshaw, 1970)。それら の結果は,評定された特性と, POIの尺度間に,幾 つかの有意な相関を見出している。しかし, POIの どの尺度との相関が有意となったかは,必ずしも一致 していない。
4. POI得点の集団間比較
異なる母集団におけるPOI得 点 を 比 較 す る こ と に よって, POIの妥当性を考えることができる。
Fox et al. (1968)は,精神療法のために入院して い る 患 者 にPOIを 実 施 し た 。 そ し て , Shostrom (1964)のデータと比較したところ,入院患者の得点 は,「自己実現した」群の得点よりも,全ての尺度で 低いという結果を得た。 Zaccariaand Weir (1967) によると,アルコール症の患者と,「自己実現した」
人々との間に, POI得 点 の 有 意 な 差 が 存 在 す る5ま た,重罪犯 (felon)は,対照群 (normal)に比べ,
POI
の
10個 の 尺 度 で 低 い 値 を 示 し た (Fisher, 1968)。Lessner and Knapp (1974)は, merchandishing 志向とcraft志向の経営者間のPOI得点を比較した。
その結果, Iなどの尺度で前者の経営者がより高い得 点を示した。彼らは,この研究を, POIの 妥 当 性 研 究として位置づけている。
種々の集団を対象としたPOI得点が報告されてき た。それらは, POIの 特 性 に つ い て , 多 く の 情 報 を もたらしてくれる。年令や性,疾病の種類,あるい は,文化要因や社会的活動といったさまざまな特性 と, POI得 点 と の 関 連 が 明 ら か に さ れ て き た の で あ る。
しかし,これらの「集団」が,自己実現とどのよう にして,あるいは,どの程度関連しているかについて は,明確な情報がない。その意味において,種々の集 団のPOI得点は, POIの 妥 当 性 に 対 す る 間 接 的 な 支 持を与えるにとどまっている。
第8巻
5. 治療・訓練の効果とPOI
治療・訓練の効果に関する研究は,一般には,「効果 研究」として位置づけられる。効果研究で用いられる POIは,効果を測定する用具としての役割を果して いる。 POIに よ っ て , 治 療 や 訓 練 が 自 己 実 現 に 及 ぼ す効果の,より詳細な分析を行なうことができる。
POIを用いた効果研究は,同時に, POIの 妥 当 性 研究と考えられる。治療や訓練の効果と, POI得 点 の変化に対応関係があれば, POIに妥当性があると 結論づけることができる。
個人セラピー,グループ・セラピー,感受性訓練,
エンカウンター・グループなど,治療や訓練の前後で,
POI得点の変化を見る多くの研究が行なわれてきた。
その数は,筆者らの集めたものだけで50編 を 超 え て いる。それらは, POIのいずれかの尺度において,
治療・訓練の前後で有意な差の生じたことを報告して いる。しかし, POIの12個 の 尺 度 別 に 見 た 場 合 , 諸 研究の結果は,心ずしも一貫しているとは言えない。
効果研究は,「POIが自己実現の程度を測定する」
という前提のもとに行なわれる。また,その同じ研究 を, POIの妥当性研究として考えた場合,そこには,
「治療・訓練は,自己実現をもたらす」という仮定がな されている。その意味で,この種の妥当性研究は,効 果研究と,一種のトートロジーを形成している。
この領域に関する個々の文献レビューは,それだけ で1つのテーマを形成するだろう。したがって,それ については別の機会にゆずりたい (cf.Knapp, 1976; Tosi and Lindamood, 1975)。
6. ま と め
専門家の評定と, POIの 各 尺 度 が 有 意 に 相 関 し て いた。また,集団間や,治療・訓練の前後で, POIの 得点に,予想される方向での差が見出された。これら の研究結果をもって, POIは , 個 人 の 自 己 実 現 の 程 度 を 測 定 し て い る , と 結 論 づ け る こ と が で き る だ ろ
う。
しかし,それは「全体として」,である。つまり,
個 々 の 尺 度 に つ い て , 妥 当 性 が あ る と ま で は 言 え な い*。個々の尺度が妥当かどうかは,個々の尺度につ いての検討がなされねばならない。例えば,下位尺度 の一つ, Synergyが , 実 際 に , そ の 意 図 さ れ た 概 念
*各尺度について,例えば,有意な相関や差を見出 した研究の数から,その妥当性を推測することが で き る か も し れ な い 。 し か し , そ の よ う な 方 法 は,十分な根拠を持つとは思われない。
を測定していることが確かめられなくてはならないの である。
尺度の各々についての妥当性は,これまでほとんど 検討されてはこなかった。また, Shostrom自身, 12 個の尺度について,簡単な説明を与えているにすぎな し)
゜
POIの持つ尺度が,何を意味し,また,その妥当 性はどうなのか。この問題については,より堀り下げ た検討を必要とするように思われる。次のIII章では,
他の諸テストとの実証的な研究のレビューを通して,
その各々の尺度の問題を扱うことにしよう。
III POIと他のテストとの関連性 POIと,他のテスト(尺度)の関連性を検討する ことによって, POIの持つ特性を,より明らかなも のにすることができる。それには,主に, POIの12 個の尺度と他テストとの相関係数を算出するという方 法が用いられる。
, . 人 格 検 査
まず,因子論的な人格検査との関連を見ていくこと にしよう。 Comrey・(CPS:Knapp and Comrey, 19 73 ; Jansen at al., 1979), Eysenck (EPI : Knapp, 1965 ; Doyle, 1976), Cattel (16 PF: Meredith, 1967), Gordon (GPI : Braun and Asta, 1968), Edwards (EPPS ; LeMay and Damm, 1969), MMPI (Shos‑ trom and Knapp, 1966)などの人格検査は,それぞ れ, POIの尺度と有意に関連していることを示して いる。そして,,POIの12個の尺度はすべて,何らか の人格検査(複数)と関連している。しかし,その相 関値は,同じ人格検査でもその測定対象によって異 なっている場合が多い。これら諸研究の結果から,
POIの尺度について,簡潔な解釈を導くことは,実 際上,困難だと思われる。
POIは,自己実現を測定する目的で作成された。
その自己実現概念は,従来とは異なる「新たな」もの だとされていた。だが, POI は,•いわば「古い」タ イプの人格検査と相関を持っている。しかも, 12個 の尺度は,すべて,何らかの人格検査と関連していた のである。
次に,測定の目的が,より限定されたテストとの関 連性を見ていこう。
2, Locus of Control
Rotter (1966)は,.社会的学習理論の立場から lo‑cus of control 論を展開した。そして,個人の
controlの所在を測定するテスト, 1‑E尺度を提出し た。
Warehime and Foulds (1971)は, 1‑E尺 度 の 得 点とPOIの各尺度間の相関係数を求めた。その結果,
女子大生の場合, 1‑E尺度得点は, I, TC, NCの3 尺度と有意に相関していた。しかし,男子学生の場合 には,有意な相関は見出されなかった。彼らの研究を 追試した, Bassand Stek (1972)は, 1‑E尺度とPOI の各尺度の間に有意な相関を見出してはいない。
また, Wall (1970)は, 1‑E尺度と, POIのSr, SAV, Neの間に有意な正の相関を得ている。 Hjelle
(1976)は, Rotterの1‑E尺度に加え, Nowicki‑
Stricklandの1‑E尺度を用いた研究を行い,後者の 方がより POIと関連が大きいとしている。
これら, POIと1‑E尺度の関連についての諸研究 は,有意な相関を得たものが多い。しかし, POIの 下位尺度に関する結果は,一貫しているとはいい難 ぃ。 Wall (1970)は, POIと1‑E尺度は,概念的に 異なる変数を測定していると結論づけている。
3. 不 安
不安を測る尺度と POIの関連を見た幾つかの研究 がある。 Dabrowski (1972)や, deGrace (1974) は,その両者の間に関連がないと考えた。しかし,
Wilkins et al. (1977) , Wilkins and Krauss (1978) は, Institutefor Personality and Ability Anxiety ScaleとMASを用いた研究で, POI得点と不安の程 度の間に負の相関を見出している。
また,「死の不安」とPOIの間には負の相関が存在 する (Lester and Colvin, 1977 ; Pollak, 1978 ; Vargo and Batsel, 1981)。Vargoand Baste! による
と,死の不安尺度は, Saで一.54, Neで一.54, TC で一.38の相関を持っている。
Dodez et al. (1982)によると, POIの33項目が不 安に関連しており,これらの項目を除いてPOI得点 を算出したものは不安と正に相関していた。彼らは,
POIは,不安に関しては,理論的な歪み (bias)を 持っていると結論づけている。
4. 社 会 性
自己実現の程度と,その個人の社会的行動・態度に は,何らかの関連性があると考えることができるだろ う。ここでは, POIと,社会性に関連したテスト間 の関連を見ていこう。
Olczak̲ and Goldmc¥.̲n (1975)は, Eriksonの言う
「心理社会的成熟」と自己実現の関係を検討した。彼
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は, Inventoryof Psychosodal DevelopmentとPOI の84個の相関係数のうち60個に有意な正の方向での 相関を見出した。
Kinder (1976)によると,
J
ouraid's Self ‑ Disclosure Scaleの得点が, POIのTC尺度と関連し ている。また, Lombradoand Fantasia (1976)は, 同じ尺度を用いた研究で, self‑disclosureと, POIの TC, S, Ex, Sa, Cの間に有意な相関を見出してい る。Marlowe‑Crowne Social Desirability Scale (War‑ ehime and Foulds, 1973; Nielsen and Fleck, 1981; Ginn, 197 4), Social Interest Index (Mozdzierz and Semyck, 1981)など,,社会性に関係した幾つかのテス
トも, POIの各尺度との関連性を示している。
それらの結果は,断片的な知見を与えてくれる。だ が, POIのどの尺度が,どのような社会的行動,態 度と関連しているのかについて,明確な解答は示され てはいない。
5. 知 的 活 動
自己実現した人は,統合的であり自律的な人であ る。そういった自己実現の定義によると,自己実現し た人は,その知的な活動においても高い能力を示すと 考えられるだろう。
Stewart (1968)は,大学堂の GradePoint Aver‑ age (GAP)とPOIの 関 連 を 調 べ た 。 そ の 結 果 , GAPとPOIと の 間 に 有 意 な 相 関 を 得 て い る 。 LeMay (1969)は, GPAとPOIに 明 確 な 関 係 を 見 出さなかった。そこで彼は, 「自己実現と達成は,他 の変数との別個の関係 (separaterelationship)を通 した二次的な関係を持っている」とする Leib and Snyder (1968)の知見を支持している。
また,自己実現した学生は,高い水準の自己概念を 持つと結論した研究がある。 Wills(1974)は自己概 念とPOIの関係を調べ,両者の間に密接な関係があ る こ と を 示 し た 。 ま た , Ibrahimand Morrison (1976), Hageseth and Schmidt (1982)も同様の知 見を得ている。
知的活動の前提となる,より知覚的なレベルにおい ても,自己実現との関連があることが知られている。
rod‑and‑frame testを用いた Doyle(1975)による と, fielddependanceを測るそのテストはPOIの9 尺度と有意に相関していた。
Maslow (1954)は,創造的自己の概念を提出して いるが,それによると自己実現した人は,より高い創
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も,自己実現との関連があることが知られている。
rod‑and‑frame testを用いた Doyle(1975)による と, fielddependanceを測るそのテストはPOIの9 尺度と有意に相関していた。
Maslow (1954)は,創造的自己の概念を提出して いるが,それによると自己実現した人は,より高い創 造性を示すと考えることができる。 Mathes(1978), Yonge (1975)は,この命題に沿った研究結果を提 出している。
6. その他のテスト
上記の分類に適合しない他のテストと, POIの関 連 性 を 調 べ た 研 究 が , か な り な さ れ て き た 。 Rational Behavior Inventory (Shorkey and Reyes, 1978), Repression‑Sensitization Scale (Foulds and Warehime, 1971), Bern Sex Role Inventory (Ginn, 1975 ; Cristall and Dean, 1976), A‑B Therapist Scale (Treppa and Dods, 1978)などである。各々の 研究は,そのテストとPOIの関連性を見出している。
7. ま と め
本章の,多くの文献を挙げたレビューは, POIの 各尺度が,他の種々のテストと関連していることを示 している。そして,その知見は, POIの尺度の持つ 意味について,さまざまな情報を与えてくれる。
しかし, POIの尺度構成を考えるという立場から 見た場合,それらの知見は断片的である。以上のレ ビューから, POIの諸尺度について,統合的な解釈 を行なうことは,かなり困難なことだと思われる。
POIと他のテストとの「有意な相関関係」は,それ らの間の,実に入りくんだ関係を示していると思われ る。
この「入り組んだ」関係を,われわれは, どのよう に考察すればいいのだろうか。可能な一つの答えは,
「自己実現概念が,それ程に複雑な内容を持っている」
とするものである。自己実現概念が,他のテストの測 定しようとする概念と複雑な関係を持っているなら,
その測定結果がその複雑な関係を反映することは,当 然考えられることである。だが,その自己実現概念 は,操作的には, POIによって測定されたものであ る。したがって, POIと他のテストとの入り組んだ 関係を,すぐさま,自己実現概念に帰着することはで きない。
この問題を考えるために,再び, POIの各尺度は 何を測定しているのか,という問題に立ち返らなくて
はならないように思われる。
そこで,次章において, POIの尺度構成に関する 一つの問題ーー「因子性」の問題を検討することにし
よう。
N 「因子性」の問題
POIは, 2個の主尺度と 10個の下位尺度からなる 質問紙である。本章で,これら尺度間の関連性を見て いくことにしよう。
1 • 項目のオーパーラップ
POIでは,各項目の反応が,複数の尺度の得点化 に用いられる。つまり,尺度の間には,項目がオー バーラップしているのである。
これは, POIの 尺 度 構 成 に お い て 大 き な 意 味 を 持っている。 Knapp (1976, P. 2)は , こ の 方 法 に よって,「明確な人物像 (extremeprofiles)」が得ら れると考えている。例えば,個人は, 12個の尺度の すべてにおいて,高い,あるいは低い得点をとりう る, とされる。
「明確な人物像」が得られることは,確かに,大き な利点である。しかし,項目がオーバーラップするこ とで,各尺度が測定する内容の区別が,明確さを失う ものとなる。 POIは,その作成の段階から,「因子 性」が考慮されてはいなかったのである。
項目のオーバーラップは, POIの内部相関を高い ものにするだろう。 Knapp (1965)は,大学生を被 験者とした研究で, POIの各尺度間に.02から.64の 相関があることを示している。 Jansenet al. (1973)
は,聖職者を対象とした研究で,各尺度間の相関は,
平 均.51だったと報告している。
尺度間の高い相関は, POI自体が,その尺度間に
「入り組んだ」関係を持っていることを意味している。
このことは, POIの統計的な検討に,さまざまな困 難をひきおこすだろう。第III章で検討した, POIと 他のテストとの関係が「入り組んでいた」という結果
氏 か な り な 程 度 , PO̲Iの尺度構成にその原因があ ることが示唆されるのである。
2. 主尺度・下位尺度の設定
POIの12個の尺度は, Shostromの設定した,「自 己実現」の下位概念 (Table1)にそれぞれ対応して いる。 POIの尺度間に,項目のオーバーラップが存 在することは,これら下位概念も,何らかのオーバー ラップした部分のあることを意味している。
Shostromは,これら下位概念の理論的区別に,そ れ程,熱心ではなかったように思われる。彼は,その
各々について,簡単な説明を与えたにとどまってい る。 12個の概念が,それぞれどのような内容を持ち,
また,それらがどのような関係にあるのかを,彼は,
明らかにはしていない。
POIの下位尺度が持つ概念的な不明確さは,自己 実現研究の歴史の浅さに帰着できるだろう。 POIの 作成当時,自己実現に関する議論は,それ程多く蓄積 されていたわけではない。また,より実証的なレベル での自己実現研究は,このPOIの登場によって可能 となったのである。その意味では, POIの概念構造 に不明確さが存在するのは当然だ, と言えるかもしれ ない。
POIの各尺度の設定は,もちろん,自己実現概念 の精緻化と深く関係している。 POIは,自己実現概 念に対して,初期の操作的定義を与えてくれた,今 後,自己実現概念の明確化とともに,その測定用具で あるPOIも精緻化されていかなくてはならないだろ ぅ。
3. 尺度の因子性
POIの各尺度は,統計的にも概念的にも相互に関 連していた。これは,尺度構成論からは,因子的妥当 性の問題として考えることができる。
複数の下位尺度からなるテストにおいて,各尺度が
「因子性」を持つことは,望ましい特性の一つであ る*。各尺度が,なるだけ少数の共通成分を測定する ように設計されていれば,そのテストの構造は単純化 される。「節約の原理」にしたがった,因子的により 純粋なテストとなるのである。それに対し,各尺度の 測定値が,多くの共通成分を持てば,その測定する内 容は,一義的には定められなくなる。
POIは,その設計思想として,この因子性の問題 は考慮されていなかった。その結果,各尺度の内容は 多義的なー一つまり,あいまいなものになってしまっ た。この「あいまいさ」が, II章 お よ びIII章で扱っ た, POIに対する結果に反映しているように思われ る。つまり,得られた結果が示す「入り組んだ」関係 は, POIの尺度の特性に,かなり原因があると考え
*各尺度が,因子的に独立しないモデルを構成する ことも可能である。例えば,尺度間に階層的構造 を設定することができる。また,因子間に「直 交」ではなく「斜交」の関連をもたせることもで きるだろう。しかし,自己実現概念に,そのよう なモデルを仮定するのは,現時点では,困難なこ とだと思われる。
22 健 康 科 学
られるのである。
この「因子性」の問題を考えるために, 2つの意味 を区別しておこう。その第1は,各尺度の持つ共通成 分 の 量 に 関 係 し て い る 。 こ れ は , 各 尺 度 が , そ れ ぞ れ,どの程度異なる内容を測定しているか,の問題で ある。これは,尺度間の「独立性」の問題だと換言す ることができる。第2は,各尺度が測定する独自な成 分 の 量 に 関 係 し て い る 。 つ ま り , 各 尺 度 が , ど の 程 度,単一の概念を測定しているのか,あるいは,その 概念の測定に,どの程度, sensitiveなのか,という 問題である。これは,各尺度の妥当性・信頼性の問題
として考えることができる。
POIが,より精緻化したものになるとすれば,こ の2つの特性を備えていることが望まれる。しかし,
それは,実際には困難だ,と言っていいだろう。
4. ま と め
POIは,各尺度に対する「因子性」が満たされて はいない質問紙である。もちろん,この因子性が,テ ストにとって,絶対不可欠の条件というわけではな い。実際,市販されているテストの多くが,因子性を 満たしているとは言えないであろう。その意味では,
POIの設計方針が誤りだ,と考えられるべきではな い。しかし,より高度なレベルの統計的検討のために 用いようとするならば, POIは , よ り 明 確 な 因 子 的 構造を持つように改訂されなくてはならないだろう。
POIの 尺度構 成について,特にその因子的側面を 扱った研究が行なわれてきた。次章において,それら をとりあげ, POIの今後の展開について検討しよう。
V
POI
―その後の展開POIは, 2つ の 意 味 で , そ の 因 子 性 に 問 題 を 持 っ ていた。この問題点を解決していくことによって,自 己実現の程度を測定する,よりよい尺度を構成するこ とができるだろう。
この2つの問題点の解決は,研究のストラテジーと しては,いささか異なる方向性を持っている。本章で は,まず,この2つの異なる方向性に言及しよう。そ して,その各々について,文献のレビューを通した検 討を行ない, POIの 今 後 の 展 開 に つ い て 考 察 を 試 み ることにしたい。
1. 2つの方向性
POIは, 2つ の 意 味 で , 尺 度 構 成 上 の 問 題 点 を 持っていた。その第1は,採点システムにおいて,尺 度間の独立性が仮定されていなかったことである。そ
第8巻
の第2は,各尺度が,そこに措定された概念をどの程 度測定しているかという問題,つまり,各尺度の妥当 性・信頼性の問題である。
第1の問題は, POIの 統 計 的 な 分 析 に よ っ て , 解 決することができる。これは, POIの項目を用いて,
独立性を持つ尺度を再構成していくという研究の領域 を作り出す。
多変量解析,特に因子分析を用いた研究が行なわれ てきた。それは, POIの 各 項 目 に 対 す る 反 応 に 基 づ いて, POIが 測 定 し よ う と す る 自 己 実 現 概 念 の 因 子 構造を明らかにしようとするものである。
POIの 諸 項 目 か ら , 所 与 の 因 子 構 造 が 導 か れ た な ら,その結果によって, POIの 新 た な 採 点 シ ス テ ム を作成することができる。そして,各尺度の独立性が 高いテストを得ることができる。また,そのような統 計的分析は,自己実現の下位概念についても情報を与 えてくれる。得られた因子構造が,自己実現概念の構 造モデルだと考えることができるのである。
第2の方向性は,自己実現の下位概念の一つに焦点 をあて,その概念と尺度の精緻化を目ざそうとするも のである。
第III章で, POIと 他 の テ ス ト の 関 連 性 に つ い て 検 討した。その結果, POIの 各 尺 度 は , 他 の テ ス ト と
「入り組んだ」関係を持っていることが示された。こ の結果は,また, POIないし自己実現の持つ概念が,
他の種々の概念と連関していることを意味している。
POIは,不安, locusof control, あるいは,社会 的な態度要因などに関するテストと,何らかの相関関 係を持っている。 POIが 持 つ , 自 己 実 現 と い う 心 理 学的構成体は,他のテストが持つ心理学的構成体と,
重複した部分を持っているのである。自己実現に関連 する概念をとりあげ,その心理学的構成体と概念的な 精緻化,そして,それを測定する尺度を構成しようと するのが,この第2の方向性である。
ここで述べた2つの方向性が,同時に満たされるこ とが,自己実現研究にとっては望ましい。しかし,現 実の研究においては,そのコスト・パフォーマンスの 点から,その両方を,同時に扱うことは難しい。した がって,研究者は,いずれかの方向を持つ研究に関与 することになるだろう。
2. POI項目の因子分析
POI項 目 の 反 応 に 基 く 因 子 分 析 は , 各 尺 度 が , ょ り独立した尺度構成をもたらしてくれる。同時に,そ の 結 果 は , 自 己 実 現 の 概 念 的 な モ デ ル を 与 え て く れ
る。 センサスを得た解が,実際上,最適な結果として取り Lorr and Knapp (1974)は, POIの項目に基づく 扱われるだろう。
因子分析を行い, 15個の因子を抽出した。それらは, 項目分析,標準化の作業を経ることによって,新た Self esteem, View of performance, Self acceptance, なテストが構成される。それが, POIと呼ばれるか Acceptance of aggression, Adherence to moral どうかは,また,別の問題である。
principles, Obligation to self, Freedom of self ex— わが国においても, POIの翻訳,あるいは, POI pressionなどだと解釈した。 項目をもとにした,自己実現を測定する尺度の構成が
また, Stewart (1977)は, POIの因子分析的研究 行なわれている。
についてのレビューを行い,自らも因子分析の結果を 村山ら (1982)は, POIの項目を日本語化し,自 提出した。彼は, 8個の因子を見出したが,その一つ 己実現に関連する 160個の項目を作成した。そして,
を 解 釈 不 能 だ と し , 他 の 7個の因子を, Feeling 反応率の検討および因子分析を行なった(村山ら,
reactivity, Expressive autonomy, Positive view of 1983, 1984, 1985)。その結果, 10因子解が最も適当 human nature, Achievement striving, Openness to ふとみなされ, 60項目からなるテストが構成され,
experience, Self acceptanceと名付けた。 「SEAS」と名付けられた。 SEASを用いた幾つかの Batie (1981)は, POI項目に対する 'four stage 研究が行なわれている(山田ら, 1985:亀石・山田,
factor analytic study'を行い, Sensitivityto self 1986)。
and to others, Perception of reality, Acceptance of 4. 自己実現の下位概念
present self, そして, Stronglyprincipled yet flexi‑ POIの問題の一つ,つまり,尺度間の独立性の問 ble when confronting othersと名付けられた因子を 題は,上述のような方法で解決することができるだろ
抽出した。 う。残るもう一つの問題は,各尺度が,そこに措定さ
因子分析は,情報の集約に大きな効果を持つ数学的 れた概念をどの程度測定しているか,である。この問 な手法である。以上のような, POI項目の因子分析 題は,自己実現の下位概念の精緻化と深く関係してい は, POIが測定しようとする内容に,より因子的な る。
解釈を与えてくれる。その分析によって,自己実現概 POIの下位尺度と,それと関連すると思われる他 念に対する,新たなモデルを提出することが可能であ のテストとの比較・検討をすることによって,複数の
る。 テストに共通する概念を測定する尺度を構成すること
しかし,因子分析は「ただ1つの解」をもたらして ができる。次に,このような研究をあげておこう。
くれるわけではない。その計算結果は,求める因子数 Collins et al. (1973)は, 1‑E尺度, EPI, POIぉ などの計算条件によって異なる。そして,複数個の因 よび彼らの作成した項目を用いて,「外向性ー内向性」
子分析の結果を,照合し,統一的な解釈を求めようと に関する研究を行った。因子分析の結果, other‑dir‑ すると,幾つかの困難な点が存在する。 ection, inner‑direction, lack of constraints on be‑ 3. テストの構成 havior, そして, beliefin the predicability of be‑ 因子分析の結果は,それが対象とするデータによっ haviorの4因子を抽出した。
て変動する可能性がある。異なるデータをもとにし また, Thaubergeret al. (1982)は,実存性を測 た,複数の因子分析結果を思索的な方法で統合するの 定する因子分析的研究を行い, 4つの因子に集約化し ぱ難しい。しかし,この問題は,テストを実施する対 ている。 Webster(1971)は,家族の態度の問題に,
象(母集団)を大きくすることで解決されるだろう。 Stwart and Webster (1970)は保守主義の問題に,
あるいは,注意深いサンプリングによって,かなりな それぞれPOIの尺度を利用した因子分析的研究を行 租度,広範囲の母集団に共通した因子構造を抽出する なっている。 Young(1974)は,時間知覚について,
ことができる。 同様の方法による研究を提出している。
また,因子分析は,同一のデータをもとにしたとし このような検討は,自己実現の下位概念について,
ても,計算条件によって,結果が大きく変化する。そ より厳密で,他のテストとの共通性が高い測定用具を ねらの結果のうち,どれがより適切かは,研究者の評 与えてくれるだろう。しかし,個々の概念に特化され 定によって決めることができる。多くの研究者のコン た研究は,必ずしも自己実現研究として位置づけられ
24 健 康 科 学
ているわけではない。
例えば, POIの'supportratio'は, Rotter(1966) の理論と多くの共通点を持っている。しかし,その理 論 は , 社 会 的 学 習 理 論 の 枠 組 に お い て , locus of control論として展開されている。
このように,自己実現の下位概念だと考えられる諸 概念が,種々の理論的な立場から検討されてきた。だ が,それらは,現在のところ,一つの統合された体系 を構成してはいないのである。
VI 結 語
本論文では,まず, POIの概略を述べ,そして,
その妥当性研究,他テストとの関連について文献展望 を行なった。次に, POIの持つ問題点を「因子性」
の観点から検討し, POIの 今 後 の 展 開 に つ い て 考 察 を試みた。
本章では,残された問題について,簡単に言及し,
本論文の結語としたい。
1. 広域深狭のジレンマ
狭い領域についての信頼性の高いテストを作成する か,信頼性を犠牲にしても広い領域をカバーするテス トを作成するか,テストの作成者は,その選択を迫ら れることになる(池田, 1981)。これは,広域深狭の ジレンマ (bandwidth‑ii曲litydilenma)と呼ばれて いる。
前章において, POIの 今 後 の 展 開 に つ い て 考 察 を 試みた。そして,その展開の可能性は, 2つの異なる 方向性を持つ研究領域を形成していると考えた。これ
ら2つの方向性を同時に満足するテストを作成するこ とは,実際上,不可能なことのように思われる。それ は,テストの作成における,広域深狭のジレンマの問 題である。
実験心理学的な立場からは,それが要求する厳密さ や普遍性という点から,「広域」であるよりは「深狭」
であるテストの作成が望まれるであろう。しかし,臨 床心理学としては,「深狭」なテストが,必ずしも有 用 で あ る と は 考 え ら れ な い 。 つ ま り , テ ス ト の 結 果 が,何らかの臨床実践と結びついていかなくてはなら ない。テストは,何らかの効用性を持たなくてはなら ないのである。したがって,臨床心理学は,多少の厳 密さを犠牲にしても,「広域」なテストを要求するだ ろう。
「広域」と「深狭」は,概念的には対立している。
だが,テスト作成におけるコストを増大することに
第8巻
よって,両方の条件を,より満足することが可能だと 思われる。
本論文でみてきたように, POIについて,多くの 研究が行なわれてきた。それを参照し,また,ある程 度以上のコストを投入することによって,自己実現の 程度を測る,より精緻化されたテストを得ることがで
きるだろう。
2. テストで測る「自己実現」
「自己実現」は,哲学・思想領域を含め,多様な意 味で用いられる概念である。心理学では,人格を内的 成長・統合傾向をもった全体的体制としてとらえ,そ の固有の成長•発展の意味で用いられることが多い
(水島, 1981a)。ところが,テストで自己実現の程度 を測定しようとする立場は,この「全体的体制」をと らえようとする視座と,背反した部分を持っているよ うに思われる。
テストは,そこに措定された, 1つないしはそれ以 上の次元に着目し,個人の属性を記述しようとするも のである。したがって,そこで記述される個人像は,
「全体的体制」というよりは,「部分」に着目したもの となる。
POIの よ う な テ ス ト に よ っ て , 自 己 実 現 の 程 度 を 測定しようとすることは,方法論上は,因子論的な人 格理論と同じ立場をとることになる。つまり,「全体 的体制」そのものをとらえようとするのではなく,幾 つかの因子の得点をもって,所与の個人の全体像を構 成する。
自己実現は,人間性心理学において,概念的に重要 な位置を持ってきた。その自己実現に対して,テスト からのアプローチを行なおうとするなら,当然,テス ト理論に準拠することが求められる。そして,それ は,実験心理学的な方法論による研究となる。テスト による自己実現研究は,人間性心理学においてではな く,結果的に,実験心理学の領域において行なわれる ことになるのである。
人 間 性 心 理 学 と , 現 象 学 的 方 法 論 の 関 連 に つ い て は,多くの議論が行なわれてきた。だが,実験心理学 的方法論との関連については,初期の行動主義に関す る批判を別にすれば,ほとんど論議されてはこなかっ たように思われる。
テストは,その方法論上の制約から,部分に着目せ ざるを得ない。自己実現概念は,全体的体制をとらえ ようとする人間性心理学を,その背景として持ってい る。この,背反した立場を,より明確に区別し,また
統合していくかは,今後の課題として残されたままで ある。
3. 日本語化の問題
POIは英文の質問紙である。それを,われわれが 用いるためには,その日本語版を準備しなくてはなら ない。 POIを日本語化する作業は,幾つかの難しい 問題を含んでいるように思われる。
その困難さは,まず,単語のレベルに見ることがで きるだろう。例えば, 'god'は,日本語では「神」で ある。それは,あるいは,「神様」と訳した方が適切 かもしれない。しかし,どのように訳した方がより適 切かについて,客観的な基準があるわけではない。
また,構文上の差異からも,日本語化の持つ問題が 生じてくる。英文の直訳的な翻訳は,いわゆる逐語訳 として,かなりな程度の意味の対応関係を維持した日 本語化を可能にする。しかし,より日本語的な文章に するためには「意訳」が必要となる。たとえば,受動 態構文を持つ英文を,能動態の日本文に翻訳するなど である。だが,意訳の過程において,意味の変質する 可能性がある。原文が慣用表現の場合,その可能性は さらに増大するだろう。
単語や構文レベルの問題は,翻訳の技術的なものだ と考えることができるだろう。それは,一般的な文章 の場合には,注意深い検討によって,かなりな程度解 決しうる問題である。一般に,言語的な表現は,繰り 返しの説明などで,ある程度の「冗長性」を持ってい る。 ところが,質問紙の文章は,短文で,しかも短時 間に,相手(被験者)に意味を伝達しなくてはならな い。したがって,その冗長性を利用することは,ほと んど不可能である。しかも,被験者は,所与の質問紙 に関する予備的な知識を持っているとはかぎらない。
むしろ,それを持っているほうがまれだと考えた方が よい。
すみやかに相手に意味を伝達するには,明快で簡潔 な表現が必要である。そのためには,国語として「こ なれた」ものにしなければならない。しかし,その結 果,原文とその翻訳との間の,意味上の乖離が大きく なる。 POIの「こなれた」翻訳が, POIと同じであ る可能性が減少するのである。
質問紙法は,言語の使用をその前提としている。言 語は,常に,その背景としての文化を持っている。し たがって,他の文化圏で作成された質問紙を日本語化 する場合,技術的なレベルでは解決できない問題の生 ずることがある。 POIの項目の中には,この文化的
な差異ゆえに,日本語化のかなり難しいものが含まれ ているように思われる。
POIは英語で作成された質問紙である。それは,
日本語化の難しい項目を含んでいる。そのような項目 の存在は,理論的な問題とも関連しているように思わ れる。つまり,日本語化の難しい項目は,日本の文化 とはなじみにくい概念を測定していると考えられる。
POIの持つ自己実現理論を,わが国に適用するに あたっては,そこに存在する文化的背景の差異を考慮 しなくてはならないだろう。この,より概念的な検討 は,今後の課題として残されている。
要 約
POIの尺度構成に関する文献展望を行ない,自己 実現を測定する尺度の今後の展開についての試論を提 出した。その記述は5つの部分にわけられた。
まず, 1) POIの作成過程と研究領域について整理 した。次に, 2) POIの妥当性研究に関する論文を展 望した。その結果, POIは,全体としては,妥当性 を持つと結論づけてよいように思われた。しかし,下 位尺度のすべてが妥当かどうかについては,明確な結 論を得ることができなかった。また, 3) POIと他の テストとの関連性について検討した。 POIは,幾つ かの種類のテストと統計的に関連しているとして整理 された。それらは, locusof control, 不安,社会性,
知的活動,および,因子論的人格論に関する検査であ る。以上の検討から, POIは,未完成な幾つかの問 題点を持っていると考えられた。そこで, 4)尺度構 成上の問題点について,「因子性」の観点から検討し た。そして, 5)それらの問題の解決について,自己 実現概念との関連において論議した。
最後に,日本語化の問題など,残された問題につい て,簡単に言及した。
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