九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
心理学から見た「決断科学」 : 意思決定研究をいか に現場の社会的問題解決へと繋げるか?
縄田, 健悟
九州大学持続可能な社会のための決断科学センター人間モジュール : 講師
https://doi.org/10.15017/1563557
出版情報:決断科学. 1, pp.35-41, 2016-01-27. Institute of Decision Science for a Sustainable Society, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
心 理 学 か ら 見 た ﹁ 決 断 科 学
﹂
意 思 決 定 研 究 を い か に 現 場 の 社 会 的 問 題 解 決 へ と 繋 げ る か
?
﹁決 断科 学﹂ とは 何な のか
︒私 が﹁ 持続 可能 な社 会の ため の決 断科 学セ ンタ ー﹂ の教 員と して 着任 して
︑お よ
そ1
年半 が経 つ︒ 私は 心理 学︑ 特に 集団 の社 会心 理学 を 専門 とし てい るが
︑﹁ 決断 科学
﹂と いう 言葉 を聞 いて 私 が最 初に 抱い た素 朴な 疑問 は︑
﹁決 断科 学﹂ とは 意思 決
定官官
E O
ロ自
ωE HM mU
の研 究と どう 逮う のか とい うも の であ った
︒未 だと れが 決断 科学 だと 明言 でき るよ うな 答 えは 出て いな いが
︑本 稿で は悩 みな がら 考え てき た私 な りの
﹁決 断科 学﹂ の理 解と
﹁決 断科 学﹂ への 心理 学か ら
縄 田
躍 悟
社告 品理 学
のア プロ ーチ に関 して 議論 して いき たい
︒ 意思 決定 研究 には
︑規 範的 アプ ロー チ︑ 記述 的ア プロ ー チ︑ 処方 的ア プロ ーチ とい
う3
つの アプ ロー チが ある と
される︵印南−−出田吋ま一広田・増田・坂上・NED
由 き ︶ ︒ 規範 的ア プロ ーチ とは
︑ど のよ うに 意思 決定 を行 うと 客 観的 に合 理的 で最 適な のか を理 解し よう とす る研 究領 域
嫌︒印商一路︷語却すぐれた意思理軍l判断と選択町心理学中央ハ量社
後吋 広回 すみ れ・ 増田 真也
E壇
上貧 立司 自由
︸心 理学 か描 くリ スク の世 鼻
﹇改
訂蹟
︺
1持
品誇 章思 決定 入門 慶応 綴塾 大学 出重 苦
である︒数理的な最適解を探ろうとする傾向が強 く︑ 経務 学や オペ レー ショ ンズ
・リ サー チで 主に 研 究さ れて いる
︒記 述的 アプ ロー チと は︑ 現実 の人 聞 が実 際に どの よう に意 思決 定を 行っ てい るの かを 研 究す る領 域で ある
︒焼 範的 アプ ロー チと は逆 に︑ 人 聞の 判断 の歪 ロ理 性か ら人 聞の 意思 決定 の特 徴を 記 述し よう とす る傾 向が 強く
︑心 理学 や認 知科 学で 主 に研 究さ れて いる
︒
3
つ自 の処 方的 アプ ロー チと は︑ 規範 的ア プロ ーチ と記 述的 アプ ロー チを 踏ま えた 上 で︑ 現実 の人 聞が より 的確 な意 思決 定を 行う ため の
﹁処 方舞
﹄を 提示 しよ うと する アプ ロー チで ある
︒
決断科学プログラムにおける﹁決断﹂とは﹁現
実の 社会 的問 題解 決に 向け た意 思決 定﹂ だと 私は 理 解し てい る︒ した がっ て︑
﹁決 断科 学﹂
3は
つ自 の 処方 的ア プロ ーチ が近 いも のだ ろう
︒そ のた め︑ 現 場体 験・ 現場 実践 を非 常に 霊視 した 教意 ノロ グラ ム が構 成さ れて いる
︒そ れに 対し て︑ 上で 述べ たと お り私 の専 円で ある 心理 学は
︑
2
つ自 の記 述的 アプ
ロl
チで ある
︒心 理学 では
︑人 関デ ータ を収 集す るこ と で︑ 意思 決定 に関 する 基礎 的な 心理
・社 会的 メカ ニズ ム の解 明に
ζれ
まで 取り 組ん でき た︒ した がっ て︑ 現実 の 人間 の意 思決 定現 象の 記述 を行 って きた 心理 学の 記述 的 アプ ロー チか ら︑ 現場 の社 会的 問題 解決 に役 立つ 処方 婆 の提 示を 目指 す﹁ 決断 科学
﹂を 構築 する には
︑そ の溝 を 超え るた めの リン ク付 けと 飛躍 が必 要と なる とい える
︒
そζ
で︑ まず 記述 的ア プロ ーチ にお ける 心理 学を 中心 と する 記述 的な 意思 決︐ 短研 究の 特徴 を理 解し た上 で︑ 次に 心理 学の 意思 決定 研究 を踏 まえ た﹁ 決断 科学
﹂の 構築 の 方向 性を 議論 した い︒ 記述 的研 究と して の心 理学 にお ける 意思 決定 研究
決断科学が目指す社会的問題解決に向けた処方議を
提示 する ため には
︑ま ず現 実の 人閣 の意 思決 定の 特徴 を 理解 する 必要 があ るだ ろう
︒心 理学 の視 点か らは
︑意 思 決定 過程 には
︑大 まか に
2つ
のプ ロセ スが ある と考 えら
れる
︒個 人の 意思 決定 と対 人・ 集団 の意 思決 定で ある
︒ 個人 の意 思決 定
人間には意思決定を行う際には︑人間が共通して持
つ傾 向や 癖の よう なも のが ある
︒こ れは 認知 心理 学︑ 認 知科 学︑ 行動 経済 学な どで 主に 研究 され てき た︒ この よ うな 心理 傾向 は日 常場 面の 大半 では 大き な問 題は なく
︑ むし ろ労 力を かけ ずに 認知 判断 を行 う
ζと
を助 ける
︒し かし
︑そ れは とき に歪 んだ 誤っ た判 断の もと とな ると と もあ る︒ この よう な誤 った 判断 を導 く偏 った 認知 傾向 は︑ 認知 バイ アス と呼 ばれ る︒
人間の認知過程は︑直感システムと熟慮システムの
2つが同時に働いているとされる突如
E S S E
−N
GH
N︶
︒ 自分 では 意識 的に 熟慮 して もの ごと を判 断し てい ると 考 えて いて も︑ その 背後 では 同時 に無 意識 的・ 直感 的に 判 断す るシ ステ ムが 動い てい る︒ その ため
︑熟 慮し て意 思 決定 を行 った つも りで も︑ 笑は 誤っ た直 感に 基づ いた 拙 速な 意思 決定 を下 して しま うと とが ある
︒
ζれ
が認 知パ
イア スの 原因 の一 つで ある
︒己 れま での 研究 で︑ 例え ば︑ 思い 浮か べや すさ と実 際の 数量 判断 を混 同し てし まう と と︑ 質問 の枠 組み によ って 判断 が変 わっ てし まう こと
︑ 提示 され た数 値情 報に 過度 に引 きず られ た判 断を する
ζ
と︑ とい った 特徴 が指 摘さ れて いる
︒
他にも︑例えば︑確率・統計情報を人聞は適切に認
識す るこ とが 難し いと と︑ 人間 の判 断は 自己 中心 的な も のと なり がち なこ とな ど︑ 人聞 には 多く の認 知的 特徴 が 存在 して いる
︒社 会的 な問 題解 決に 向け た決 断科 学の 構 築の ため には
︑人 間の 心理 傾向 とし ての 認知 バイ アス に 陥ら ず︑ 適切 な意 思決 定を 行う
ζと
ので きる 方策 を組 み 込む 必要 があ るだ ろう
︒ 対人
・集 団の 意思 決定 社会的な意思決定場面では︑個人が一人だけで意思 決定 する わけ では ない
︒企 業に せよ 行政 にせ よ︑ トッ プ・ マネ ジメ ント
・チ
1
ムや政 治家 たち が︑ 相互 に議 論を し なが ら意 見を すり 合わ せ︑ 合議 のも とで 一つ の意 思決 定 を行 う︒ した がっ て︑ 社会 的な 意思 決定 を理 解す るた め
には
︑対 人・ 集団 の意 思決 定過 程の 特徴 を理 解す ると
・と が必 要と なる
︒
ζれ
は︑ 主に 社会 心理 学の 分野 で研 究さ れて きた
︒こ れま での 研究 では
︑例 えば
︑集 団意 思決 定 は多 数決 の意 思決 定に 陥り やす く︑ 少数 派の 意見 が適 切 に考 慮さ れる とと は少 ない とと
︑意 見の 多様 性を 認め な
い閉鎖的な集団では集団浅慮
SB
吾岳皆
ε
と呼 ばれ る 衆愚 状態 に陥 る
ζと
があ る己 と︑ 共有 情報 ばか りに 話合 いの 時闘 が費 やさ れて しま うこ と︑ など の特 徴が 指摘 さ れて きた
︵市 開亀 田呂 田由 主︸
︒
また︑意思決定場面においても︑集団状況全般に関
する人聞の判断や行動傾向を考慮する必要があるだろ
う︒ 社会 心理 学の 集団 研究 では
︑多 数派 同調
︑説 得︑ 交 渉︑ チー ムワ ーク
︑リ ーダ ーシ ップ
︑紛 争解 決と 合意 形 成に 関し て多 くの 研究 知見 が蓄 積さ れて いる 営問 釘原
−
NO
ニ 2
・ 山 口
NO
D
∞
EJO
﹁決 断科 学﹂ は︑ 社会 レベ ルの 問題 解決 を目 指し てい
亀田 撞也
35
A円盛田掴を求めてグループの意志決定共立出版
苗扇 直紺 由
04
4︸グループ・ダイナミックスl
集団 と群 集由 心理 学
有聾閣後40
山川
署幸
︷一
8 m q
チームワークの心理単ーよりよい集国Jくり務理Lし
て サイ エン ス社
鋭 機
、 島 田
るた め︑ 個人 のみ なら ず︑ 必ず 社会 的意 思決 定過 程︑ 合 意形 成過 程を 経る 必要 があ る︒ した がっ て﹁ 決断 科学
﹂ には
︑社 会心 理学 にお ける 集団 意思 決定
︑集 団行 動過 程
に関する知見者適切に組み込むととが必要となるだろ
vつ ︒
社会 的問 題解 決に 向け 存決 断科 学へ の結 実を 目指 して
以上のような心理学における意思決定研究から︑現
場の 社会 的問 題解 決に 向け た決 断科 学へ と結 実し てい く には
︑少 なく とも 次の よう なハ lF ルを 越え てい く必 要 があ るだ ろう
︒本 稿で は︑ 以下
の2
点を 指摘 した い︒ 実践
・応 用を 目指 した 現場 の知 商品 の利 用と 理論 化 心理 学の 意思 決定 研究 は基 礎的 なメ カニ ズム 理解 の研 究が 多い
︒乙 れを 現場 の社 会的 問題 解決 に向 けた
﹁決 断 科学
﹂へ と結 実す るた めに は︑ より 応用 商を 重視 した 形
で取 りま とめ てい く必 要が ある
︒
心理学の研究では︑主に実験室での実験やアンケー
トに基づいた実証研究から原理原則を明らかにしてき
た︒ 例え ば︑ 典型 的な 集団 意甲 設定 の実 験研 究は 次の よ うな
−も ので ある
︒学
生4
名を 集め て︑ 集団 を形 成し
︑あ る意 思決 定課 題に 従事 して もら う︒ その 際に
︑こ の学 生 集団 は︑ 複数 の条 件の いず れか に割 り当 てら れて いる
︒
条件聞で意思決定課題のパフォーマンスがどう異なる
かを 検討 する 乙と によ って
︑ど のよ うな 条件 が優 れた
/ 劣っ た集 団意 思決 定を 生み 出す のか を解 明す ると いっ た もの であ る︒ 一読 して 分か るよ うに
︑か なり 人工 的で 統 制さ れた 環境 の下 で解 明さ れて きた 知見 であ ると いえ る だろ う︒ した がっ て︑ 心理 学の 研究 では
︑実 験で 得ら れ た知 見を 現実 世界 の問 題解 決に どこ まで 一般 化と 応用 が でき るの かが 問題 とな る︒ もち ろん 実験 宅研 究で 得ら れ た知 見の 蓄積 は体 系的 なも ので あり
︑有 用な もの も多 い だろ う︒ だか らと そ︑ 現場 の社 会的 問題 解決 を目 指し た
﹁決 断科 学﹂ とし て︑ 現実 に活 かす ため には
︑よ り現 場
で汎 用性 の高 い手 法に 応用 して いく
ζと
が必 要と なる だ
ろ つ ︒
そのためには︑決断科学の理論化のために︑現場の
知恵 を取 り込 み︑ 学術 的理 論と リン クさ せて いく とと が 重要 とな るだ ろう
︒そ のた めに は︑ 決断 科学 プロ グラ ム にあ る︑ 環境
・災 害・ 健康
・統 治と いう 現場 での 問題 解 決に 携わ るモ ジュ ール があ り︑ そと で得 られ た知 見か ら ボト ムア ップ 的に 理論 化を 図っ てい くこ とが 必要 とな る だろ う︒
その一つの取り組み方としては︑認知科学・社会心
理学 等で 解明 され た人 聞の 意思 決定 の特 徴に 関す る知 識 を元 に︑ 環境
・災 害・ 健康
・統 治モ ジュ ール での 取り 組 みと リン クを 行い
︑現 場で の活 動を 踏ま えた 各モ ジュ ー ルで のガ イド ライ ンづ くり を行 って いく 乙と が挙 げら れ るか もし れな い︒ 未だ 具体 化の ため には 超え るべ きハ ー ドル は多 いが
︑モ ジュ ール 問の 連携 を取 りな がら
︑
1つ
ずつ 取り 組ん でい く必 要が ある だろ う︒
行政
・政 治的 プロ セス
また︑決断科学の体系化・理論化において︑特に心
理学 のア プロ ーチ に欠 けて いる と考 えら れる 点と して
︑ 行政
・政 治的 なプ ロセ スを 組み 込む
ζと
が挙 げら れる
︒ 心理 学は 主に 個人
︑な いし 複数 人の 心理 とい う視 点か ら アプ ロー チす る学 問で あり
︑視 点が どう して もミ クロ に なり がち であ る︒ しか し︑ 社会 的な 意思 決定 は︑ 行政 シ ステ ムの 一環 とし て行 われ ると とが 多く
︑社 会シ ステ ム の制 度設 計の ため のマ クロ な意 思決 定の 側面 か考 慮す べ きだ ろう
︒と のよ うな 行政 的・ 政治 的な プロ セス は︑ 心 理学 の守 備範 聞外 であ るた め︑ 政治 学︑ 行政 学︑ 法学 の 専門 家と 協働 し︑ ミク ロな 個人 の判 断・ 意思 決定 から
︑ マク ロな 社会
・政 策的 な意 思決 定ま でを 網羅 する 形で の 体系 化が 求め られ るだ ろう
︒ 終わ りに
以上︑私なりに悩みながら考えている︑心理学の視 点か らの
﹁決 断科 学﹂ への アプ ロー チに 聞し て記 述し た︒ しか し︑ 具体 的に 形に する には どの よう な道 のり を辿 れ ばよ いの かは
︑未 だ明 瞭と はい えな いの が率 直な 感想 で ある
︒幸 いに も︑ 本セ ンタ ーに は多 様な 専門 性を 持つ 学 生と 教員 が集 って いる
︒試 行錯 誤を 練り 返し なが ら︑ 協 働し てい くこ とが 必要 だろ う︒
なわた けんご 偶田健悟
先JH大学鵡獅持続可前な掛金のための決断科学センター人間モジュール 1甥ヰ年山口県生まれ.カ洲大学敏育学留率、同大学院人周環鳩学府修7.
得士(11}理学~).専門は省会心理学、申華民集量樋躍を対象としている.