新 岡理論入門
複素多変数基礎
野口潤次郎
2021 年 5 月 5 日
新 岡理論入門
複素多変数基礎
A New Introduction to the Oka Theory
Basics of Several Complex Variables
Junjiro Noguchi
まえがき
本書は,岡潔による
3大問題の肯定的解決に特化して,できるだけ簡易化 した自足的証明を与えることを目標にしたものである.既書にはない特徴と して,
・ 弱連接定理
(著者,2019)を基礎に
・ 擬凸問題を史上初めて解決した岡の未発表論文
(1943)に沿った展開 をした点であろう.
多変数関数論あるいは多変数複素解析学の基礎は,
1900年代前半にその主 要部が岡潔により創られた.直後より,岡理論に動機付けられた新理論,解 釈,一般化などが行われて来た.理論の簡易化もなされてきたのだが,入り 口部分の段差は依然高いままであった.その段差を下げるべく,著者も
[24]を書いた.その過程で,岡潔の解決した
3大問題に限ればさらなる簡易化が 可能であることが分かって来た
([26]).
岡潔の解決した
3大問題
(ベーンケ・トゥーレン(Behnke–Thullen) [2], 1934)とは,解かれた順に述べると
(提示された順は丁度この逆),(i)
近似
(関数の展開)の問題.
(ii)
クザン
(Cousin I, II)の問題.
(iii)
擬凸問題
(ハルトークス(Hartogs)の逆問題,レヴィ(Levi) 問題).
3
大問題は当時,まずは解けるとは思われなかった問題であった
(R.レン
メルト
(Remmert) [33]).岡潔が,それを解くことを自分の人生の仕事と課したことを
H.カルタン
(Cartan [33])は,殆ど超人的
(quasi-surhumaine)と 評し,それに成功した
Okaは偉大な創造者
(grand cr´eateur)であった,と述 べている.また,岡の論文は読むのに大変困難であり,真の努力無くしては,
それ等を理解することはできないとも述べている.
vi
岡論文
Oka I∼IXは次の二つのグループに分けられる.
(i) Oka I∼VI+IX.
(ii) Oka VII∼VIII.
3
大問題は,第
1グループ
(i)で証明された.第
2グループ
(ii)は,その問題 を越えた展開を目指し
“岡の3連接定理” を証明したものである.
ここで「岡理論入門」としたのは,本書では第
1グループの成果に内容を 限定したことによる.証明は最近の結果である
“弱連接定理” (拙著[26])に 基づくもので,これまでのもの
(書籍は多い,例えば,[15], [13], [22], [24]な ど々) に比べて大幅に簡短化された.これまで,岡理論の展開法として大きく 三つの流れがあった.第
1は岡のオリジナルな方法によるもの.第
2に岡−
カルタン理論として連接層とコホモロジー理論によるもの.第
3にヘルマン ダーによる
∂¯方程式をヒルベルト空間
L2における直交射影法を用いて解く 方法である
(これは,
“岡理論
”というよりも岡理論の結果の別証明法である.
[16], [30]
など).本書の展開法はそれ等のいずれにも属さない.その意味で
“新” を付けた.具体的には:
(i)
ワイェルストラースの予備定理,およびこれを用いた一般の連接定理を 用いない.
(ii)
層係数コホモロジー理論を用いない.
(iii) L2- ¯∂
法も用いない.
つまり何か新しい道具を準備するということはなく,ほとんど無手勝流であ る.難しいといわれた岡理論が入門部分だけでもここまでやさしくなるとは,
著者にとっても感慨深いものがある.ただアイデアだけは岡による.特に,最 後の擬凸問題の解決
(岡の擬凸定理)における
‘岡の方法’は岡の未発表論文
(1943,
[34])に基づく.この方法は,本質的には
Oka IX (1953)にある方法 と同じであるが使われている連接定理は,Oka VII (1948/50) で示されたそ れではなく,その原型ともいえるある条件の付された,しかし問題を解くに
は十分な
‘原連接定理’ともいえる命題を証明することとある積分方程式を解
くことから構成されている.本書では,その
‘原連接定理’を初等的な巾級数
展開だけで証明できる
‘弱連接定理
’ (2019, [26])に置き換えて証明する.平
易な証明法を求めていたものが,結果的に弱連接定理
[26]を用いて岡の
1943年の未発表論文
[34],VII—XI,を再現することとなった.vii
第
2グループ
(ii)を含めた全体的進展については,例えば拙書
[24]を参照 されたい.
本書の内容は概略次のようなものである.第
1章は,多変数正則
(解析)関 数の定義と巾級数展開から始め,多変数解析関数論の出発点となったハルトー クス現象について述べる.後の準備のために凸柱状領域でのルンゲ近似定理,
クザン積分,解析的部分集合などを解説する.
第
2章では,解析層と連接性の概念を定義する.解析層は,位相空間とし ては導入せず,集合
(環・加群の集まり)としてのみ定義する.そして,岡の
3連接定理を紹介した後,弱連接定理を証明する.カルタンの行列分解補題,
岡シジジーを示し,岡の上空移行を証明する.
第
3章は,正則領域と正則凸領域を扱う.基本となるのは,カルタン・トゥー レンの定理である.これにより,単葉な場合に両領域の同値性が示される.解 析的多面体が導入され,岡の近似定理が第
2章で準備された上空移行の定理 を用いて証明される.続いてクザンの問題が扱われる.ここで,‘連続クザン 問題’ が定式化され,
∂¯方程式
(関数に対して)も含めてクザン
I・II問題は,
連続クザン問題に集約される.岡原理もここに含まれる.これらの問題が,
正則
(凸
)領域上で可解であることを証明する.同様な方法で,補間問題も解 く.最後に,C
n上の多葉
(リーマン)領域の概念を導入する.正則包を構成 し,正則領域の定義を与える.スタイン領域を定義し,その上では単葉正則
(凸)領域上で得られた結果が成立することが示される.
第
4・5章では擬凸問題を扱う.まず,第
4章で多重劣調和関数を定義し,
擬凸性の概念を解説,幾つかの擬凸性の同値性を示しつつ擬凸問題の定式化 を行う.そして,
Cn上の不分岐正則領域では
‘−log(境界距離)が多重劣調和’
であるという
‘岡の境界距離定理
’を示す.岡はこの命題文のために多重劣調 和関数の概念を導入した,と言って過ぎることはないであろう.これが,擬 凸問題解決への重要なステップになる.境界距離定理の応用として管状領域 の正則包に関する
クダ
管定理
(Tube Theorem,S.ボッホナー,K. スタイン
(2次 元)) を証明する.
最後の第
5章では,前章で定式化された擬凸問題を肯定的に解決する.は
じめに,セミノルム空間,ベール空間,フレッシェ空間が定義され,バナッ
ハの開写像定理が示される.これを用いて,評価付きの岡の上空移行を与え
viii
る.強擬凸領域のスタイン性の証明を岡の方法と
H.グラウェルトの方法で二 つ与える.岡の方法は,既に述べたように
1943年に著された未発表論文に 基づくもので,そのオリジナルな型が書籍の中で扱われるのはおそらく初め てであろう.積分方程式を逐次近似で解くのであるが,収束は結局優級数法 という基本的なものである.このような方法でこの難問が解けるということ が,驚きである.二つ目のグラウェルトの方法は,よく知られた
L.シュヴァ ルツのコンパクト作用素に関する有限次元性定理と
‘膨らまし法
’を用いる証 明である.そのために,1 次コホモロジー
H1(⋆,O)を導入する.以上の準備 の後,C
n上の不分岐擬凸領域はスタインであること
(岡の擬凸定理)の証明 がなされる.
本書を読むに当たっての予備知識について,大学初年次に習う一変数およ び多変数の微積分学と線形代数学の基本的な部分は仮定し,特に引用無しで 用いる.また,位相空間,環,加群の基礎的な内容は必要事項は解説してあ るが,適宜手近にある教科書を参照すれば十分であろう.一変数関数論につ いては,基本事項について種々引用することになるが,例えば拙著
[23]を参 照されたい.
本書は,多変数関数論あるいは多変数複素解析学の基礎として網羅的な内 容を目指したものではない.関連した基礎的な内容は演習問題などで触れて いるので自ら解いて欲しい.さらには,所々で引用されている図書にも目を 通されることを薦めたい.その基礎理論の中心的内容を成す
3大問題の解決 に初等的な証明を与える本書を通して当該分野に興味を持たれる読者が増え,
岡潔博士の創造性溢れる数学への貢献について認識がより深まれば,それは 著者にとって望外の喜びである.
本書を書き進めるにあたって,定例の東大数理における複素解析幾何セミ
ナー
(通称,月曜セミナー)とそのメンバーには,何度か話しを聞いてもらい,
交わした種々の質問,議論には大いに助けられ,励みともなった.
2017年
5月
には濱野佐知子氏のお世話で大阪市立大学で本書の粗原稿にもとづく集中講義
を行った.同年
7月には
Filippo Bracci氏の招きでローマ大学・Tor Vergata
におけるセミナーで講演をした.
2019年
3月静岡市,日本・アイスランド研
究集会
“Holomorphic Maps, Pluripotentials and Complex Geometry”にて
足立真訓氏
(静岡大学
)のお世話で講演をおこなった.同年
5月にはモントリ
ix
オール大学にて
Steven Lu氏のお世話で連続セミナー講演をした.同年
7月
に
Min Ru氏
(Houston大学) のお世話で上海復旦大学数理科学研究センター
における
“Summer Program on Complex Geometry and Several ComplexVariables”
にて連続講義をおこなった.擬凸性に関する文献については阿部
誠氏
(広島大学
)から種々の論文をご教示いただいた.お世話になった諸氏に,
ここに記して深く感謝の意を表したい.
また,このような複素解析学の基礎部分の研究に対する科学研究費補助金
基盤
(C)課題番号
19K03511からの援助にも大変助けられた.ここに記して
感謝する.
2020(
令和
2)年 夏 鎌倉にて
著者記す
xi
目 次
第
1章 多変数正則関数
11.1
多変数正則関数
. . . . 11.1.1 Cn
の開球と多重円板
. . . . 11.1.2
多変数正則関数の定義
. . . . 31.1.3
関数列・関数項級数
. . . . 61.1.4
多変数巾級数
. . . . 81.1.5
多変数正則関数の基本的性質
. . . . 111.1.6
解析接続とハルトークス現象
. . . . 151.2
凸柱状領域でのルンゲの近似定理
. . . . 201.2.1
クザン積分
. . . . 221.3
陰関数定理・逆関数定理
. . . . 251.4
解析的部分集合
. . . . 27問 題
. . . . 32第
2章 解析層と連接性
34 2.1解析層の概念
. . . . 342.1.1
環と加群の定義
. . . . 342.1.2
解析層
. . . . 362.2
連接性
. . . . 402.2.1
定義
. . . . 402.2.2
岡の連接定理と弱連接定理
. . . . 422.3
カルタンの融合補題
. . . . 502.3.1
行列・行列値関数
. . . . 512.3.2 H.
カルタンの行列分解
. . . . 54xii
2.3.3
融合補題
. . . . 592.4
岡の上空移行
. . . . 622.4.1
岡シジジー
. . . . 622.4.2
岡の上空移行
. . . . 67問 題
. . . . 70第
3章 正則
(凸)領域とクザン問題
72 3.1定義と基本的性質
. . . . 723.2
カルタン・トゥーレンの定理
. . . . 753.3
解析的多面体と岡の近似定理
. . . . 823.4
クザンの問題
. . . . 873.4.1
クザン
I問題
. . . . 893.4.2
連続クザン問題
. . . . 913.4.3
続クザン
I問題
. . . . 983.4.4
クザン
II問題と岡原理
. . . . 993.4.5 ∂¯
方程式
. . . .1043.5
補間問題
. . . .1103.6
リーマン領域
. . . .1133.7
スタイン領域
. . . .1213.8
補足:領域の境界
. . . .124問 題
. . . .125第
4章 擬凸領域
I –問題の設定と集約
128 4.1多重劣調和関数
. . . .1284.1.1
劣調和関数
(一変数) . . . .1284.1.2
多重劣調和関数
. . . .1314.1.3
滑性化
. . . .1344.2
擬凸性
. . . .1384.2.1
擬凸問題
. . . .1384.2.2
ボッホナーの管定理
. . . .1494.2.3
擬凸境界
. . . .1534.2.4
レビ擬凸
. . . .158xiii
4.2.5
強擬凸境界点とスタイン領域
. . . . 163問 題
. . . .169第
5章 擬凸領域
II –問題の解決
173 5.1評価付き上空移行
. . . .1735.1.1
線形位相空間からの準備
. . . .1735.1.2
評価付き上空移行
. . . .1785.2
強擬凸領域
. . . .1795.2.1
岡の方法
. . . .1795.2.2
グラウェルトの別証明
. . . .1895.3
岡の擬凸定理
. . . . 205問 題
. . . .209あとがき
213参考図書・文献
215索引
219記号
223ことわり
(i)
標準的な集合,写像の記法は既知のものとする.
“∀x”は
“任意の
x”,
“∃x”
は
“あるx”,あるいは“存在するx”を意味する.集合の元,写像
の像,元像などの用語も既知とする.
(ii)
自然数(正整数)の集合
N,整数の集合Z,有理数の集合Q,実数の集合
R,複素数の集合C,虚数単位
i等は慣習に従って用いている.
C∗ =C\ {0}
と書く。Z
+ (またはR+)で非負整数
(または非負実数)の集合を表す.
(iii)
定理や式の番号は区別せず統一的に現れる順に従って付けられている.
ただし,式は
(1.1.1)のように括弧で括られている.1番目の数字は章 を表し,2番目の数字は節を表す.
(iv)
単調増加,単調減少という場合,等しい場合も含める.例えば,関数列
{φν(x)}∞ν=1が単調増加とは,定義域内の任意の
xに対し
φν(x) ≦ φν+1(x),ν = 1,2, . . .が成立することである.
(v)
有限集合
Sに対し,その元の個数を
|S|で表す.
(vi)
写像
f :X →Yが,1対1のとき単射と呼び,上への写像であるとき 全射と呼ぶ.単射かつ全射であることを全単射という.
(vii)
部分集合
E⊂Xへの
fの制限を
f|Eと記す.対応
f 7→f|Eを制限射 と呼ぶ.
(viii) Rn
の開集合
U上の,k
(0≤k≤ ∞)階連続偏微分可能関数の全体を
Ck(U)と書く.関数は,特にことわらなければ複素数値である.
Ck級 とは,k 階連続偏微分可能であることを意味する.k
= 0ならば,単に 連続を意味し,k
=∞ならば任意回連続偏微分可能であることを意味 する.C
0k(U)は,台が有界な
Ck(U)の元の全体を表す.
(ix)
集合
Sの二元
x, y ∈Sに対し関係
“x∼y”が次の条件を満たすとき,
関係
“x∼y”(あるいは
“∼”)は同値関係と呼ばれる:
(i)x∼ x(反射 律): (ii) 任意の二元
x, y ∈Sに対し
x∼yならば
y ∼x(対称律); (iii)任意の
3元
x, y, z∈Sに対し
x∼yかつ
y∼zならば
x∼z(推移律
).
(x) “A:=B”とは,記号
Aを
Bで定めることを意味する.
(xi) “近傍”
は,特に断らない限り開近傍を意味する.
xv (xii) Cn (
あるいは
Rn)の部分集合
A, Bに対し,
“A⋐B”とは,閉包
A¯が
コンパクトかつ
A¯⊂Bが成立することである.
第 1 章 多変数正則関数
多変数正則関数の定義をし,基本的性質を調べる.変数の数
nが
2以上になることで現れる顕著な性質は,解析接続に関するハル トークス現象であろう.これの説明の後,多変数正則関数の基本 的な性質を述べると共に必要となる基礎概念の準備をする.
1.1 多変数正則関数
1.1.1 C
nの開球と多重円板
n∈N
として複素平面
Cの
n直積の複素ベクトル空間を
Cnと表す.その 自然な座標を
z= (z1, . . . , zn)∈Cnと書く.
(1.1.1) ∥z∥=√
|z1|2+· · ·+|zn|2(≥0)
を
(ユークリッド
)ノルムと呼ぶ.
(1.1.2) B(a;r) ={z∈Cn:∥z−a∥< r}, B(r) = B(0;r),
は,a
∈Cnを中心とする半径
r(>0)の開球または単に球と呼ばれる.特に,
B := B(1)
を単位球と呼ぶ.
n= 1
のときは,これらを円板と呼び
(1.1.3) ∆(a;r) ={z∈C:|z−a|< r}, ∆(r) = ∆(0;r),
と書く.
点
a= (a1, . . . , an)∈Cnと正数
rj>0,1≤j≤nに対し集合
(1.1.4) P∆(a; (rj)) ={z= (zj)∈Cn :|zj−aj|< rj, 1≤j≤n}2
第
1章 多変数正則関数 を
aを中心とする多重円板と呼び,(r
j)を多重半径と呼ぶ.
以上の記号は,本書を通して使われる.
Cn
の非空連結開部分集合を領域と呼ぶ.また,領域
Aの閉包
A¯を閉領 域と呼ぶ.例えば,多重円板
P∆(a; (rj))自身は,領域である.その閉包は
P∆(a; (rj)) ={z= (zj)∈Cn :|zj−aj| ≤rj, 1≤j≤n}
で閉多重円板と呼ばれる.
集合
A⊂Cnが柱状であるとは,各座標平面に部分集合
Aj⊂C(1≤j≤n)が存在して
A=∏nj=1Aj
と表されることをいう.特に,
Aが領域の場合は,
柱状領域と呼ぶ.
実
m次元ベクトル空間
Rmの部分集合
B⊂Rmが
(アファイン
)凸である とは,任意の二点
x, y ∈Bに対しそれらを結ぶ線分が
Bに含まれることで ある:つまり,
(1−t)x+ty∈B, 0≤t≤1.
また,
Bを含む最小の凸集合を
Bの凸包と呼び,
co(B)と表す.部分集合
A⊂Cnが凸であるとは,C
n ∼=R2nと見て凸であることとする.
命題
1.1.5コンパクト凸部分集合
E⋐Cとその近傍
U ⋑Eがあるとき,凸 開多角形
Gで
E⋐G⋐U
を満たすものが存在する.
証明
Uは有界として一般性を失わない.
Eが凸であることから,
p∈∂Uに 対し
pと
Eの間の最短線分
ℓ0が一意的に存在する.ℓ
0の中点を通りそれに 直交する直線を
ℓ1とする.E
∩ℓ1=∅であるので,ℓ
1は平面を
Eを含む開 半平面と
Eと交わらない開半平面に分ける
(図
1.1を参照
).後者を
Hとす ると,H
∩∂U ∋p. ∂Uはコンパクトであるから,有限個のかかる開半平面
H1, . . . , Hkが存在して
∂U ⋐
∪k h=1
Hh, E⋐
∩k h=1
(C\H¯h)⋐U.
G=∩k
h=1(C\H¯h)
とおけばよい.
□1.1.
多変数正則関数
3図
1.1:凸多角形近傍
1.1.2 多変数正則関数の定義
部分集合
A⊂Cn上の関数
φ:A→Cを考える.
φが連続とは,任意の点
a∈Aで,任意に与えられた
ε >0に対し多重半径
(δj)が存在して
|φ(z)−φ(a)|< ε, ∀z∈P∆(a; (δj))∩A,
が成立することである.
複素変数
zjの実部,虚部をそれぞれ
xj = ℜzj, yj = ℑzjとする.変数
zj =xj+iyj,1≤j ≤nに関する正則偏微分と反正則偏微分を次の様に定義 する.
∂
∂zj = 1 2
( ∂
∂xj +1 i
∂
∂yj )
, 1≤j ≤n, (1.1.6)
∂
∂z¯j = 1 2
( ∂
∂xj −1 i
∂
∂yj )
, 1≤j ≤n.
関数
φ(z1, . . . , zn)が
Cr級
(r∈N∪ {∞})であるとは,実変数
(x1, y1, . . . , xn, yn)の関数として
Cr級であることを意味する.このとき,さらに変数
zjが
ξ= (ξ1, . . . , ξm)の
C1級関数
zj(ξ) =zj(ξ1, . . . , ξm)になっていると,次 が成立する.
∂φ(z(ξ))
∂ξk =
∑n j=1
(∂φ
∂zj(z(ξ))· ∂zj
∂ξk(ξ) + ∂φ
∂z¯j(z(ξ))· ∂¯zj
∂ξk(ξ) )
, (1.1.7)
∂φ(z(ξ))
∂ξ¯k
=
∑n j=1
(∂φ
∂zj
(z(ξ))· ∂zj
∂ξ¯k
(ξ) + ∂φ
∂z¯j
(z(ξ))· ∂¯zj
∂ξ¯k
(ξ) )
.
4
第
1章 多変数正則関数 これは,実変数の合成関数の偏微分についてのライプニッツの公式から従う.
α= (α1, . . . , αn)∈Zn+
を多重添字として
|α|=
∑n j=1
αj, α! =
∏n j=1
αj!,
とおく.α 次正則偏微分を
(1.1.8) ∂α=∂αz = ∂|α|
∂z1α1· · ·∂zαnn
と定める.
定義
1.1.9 (正則関数) (i)開集合
Ω (⊂Cn)上の関数
f : Ω→Cが正則で あるとは,
fが
Ωで
C1級で,かつ
(1.1.10) ∂f
∂z¯j(z) = 0, 1≤j≤n,
が成立することとする.この方程式は,コーシー・リーマン方程式と呼 ばれる.
(ii)
一般に関数
f : Ω→Cが変数毎に正則であるとは,任意の点
a= (a1, . . . , an)∈Ωの近傍で各
j (1≤j≤n)について,他の変数を固定して
zjの みの複素
1変数の関数
zj7−→f(a1, . . . , aj−1, zj, aj+1, . . . , an)
が,
zj =ajの近傍で正則であることとする.
以下で示すように,正則関数は各点の近傍で巾級数展開され
(定理1.1.32),全変数に関して解析的になる.その意味で,正則関数は解析
(的)関数ともし ばしば呼ばれる.本書では,もっぱら
“正則”を用いる.
Ω
上の正則関数の全体を
O(Ω)で表す.
点
a∈Cnがある関数
fの定義域
Aに含まれているとき,f が
aで正則で あるとは,
aのある近傍
V(⊂Cn)と
g ∈O(V)があって,
g|A∩V =f|A∩Vとなっていることとする.
1.1.
多変数正則関数
5定理
1.1.11 (コーシーの積分公式
)閉多重円板
P∆(a; (rj))の近傍上の連続 関数
f(z)が,各変数毎に正則ならば,次の積分表示が成立する.
f(z1, . . . , zn) = ( 1
2πi
)n ∫
|ζ1−a1|=r1
· · ·
∫
|ζn−an|=rn
(1.1.12)
f(ζ1, . . . , ζn)
(ζ1−z1)· · ·(ζn−zn)dζ1· · ·dζn, z∈P∆(a; (rj)).
証明 一変数のコーシーの積分公式を繰り返す.
□ (1.1.12)に現れる
1
(ζ1−z1)· · ·(ζn−zn)
を
(n変数
)コーシー核と呼ぶ.
定理
1.1.13 Ωを領域とする.
(i)
連続関数
f : Ω→Cについて,正則であることと変数毎に正則である ことは,同値である.
(ii)
正則関数
f ∈O(Ω)は,C
∞級である.
(iii) f ∈O(Ω), P∆(a; (rj))⋐Ω
とする.任意の多重添字
α= (αj)に対し次 が成立する.
∂αf(z1, . . . , zn) =α!
( 1 2πi
)n ∫
|ζ1−a1|=r1
· · ·
∫
|ζn−an|=rn
(1.1.14)
f(ζ1, . . . , ζn)
(ζ1−z1)α1+1· · ·(ζn−zn)αn+1dζ1· · ·dζn.
証明
(i), (ii):定理
1.1.11より従う.
(iii):
積分表示
(1.1.12)より,例えば
∂
∂z1
f(z1, . . . , zn)
= ( 1
2πi
)n ∫
|ζ1−a1|=r1
· · ·
∫
|ζn−an|=rn
f(ζ1, . . . , ζn)
(ζ1−z1)2· · ·(ζn−zn)dζ1· · ·dζn.
これを繰り返せば
(1.1.14)を得る.
□6
第
1章 多変数正則関数
注意
1.1.15 (i)上の定理の
(i)で
fが連続であるという条件は,実は不要
である
(ハルトークスの定理).その証明は,いささかこみ入っていて劣調和関数の概念を必要とする.本書では,割愛するが興味を持たれた読 者はヘルマンダー
[16],西野[22]等を参照されたい.
(ii)
実解析関数の範疇では,各変数毎の解析性だけでは,連続性も従わない.
実際,次の
2実変数
(x, y)∈R2の関数を考えよう.
f(x, y) =
0, (x, y) = (0,0), xy
x2+y2, (x, y)̸= (0,0).
f(x, y)
は,一つの変数を任意に固定するとき,もう一方の変数について
解析的であるが,原点
(0,0)では連続でさえない.なぜならば,y
=kx (k∈R)とおくと,x
→0とするとき,f
(x, kx) =k/(1 +k2)となり,
k∈R
によって異なる値をとる.一方定義により
f(0,0) = 0である.
(iii)
さらに,実解析関数の範疇では,連続性を仮定しても各変数毎の解析性
だけでは,全変数に関する解析性は従わない.例えば,
g(x, y) =
0, (x, y) = (0,0), x2y2
x2+y2, (x, y)̸= (0,0),
とおく.g(x, y) は,R
2上で連続であり,各変数毎に解析的であるが,
原点では解析的ではない.なぜならば,g(x, y) が原点の近傍で解析的 とすると,g(0, y) = 0 である.よって,g(x, y) =
xg1(x, y) (g1(x, y)は解析的,以下同) と表される.g
1(x,0) = 0であるから同様にして
g1(x, y) =yg2(x, y).よって
g(x, y) =xyg2(x, y).これより
g2(x, y) = xy/(|x|2+|y|2).同様の議論で,g2(x, y) =xyg3(x, y)なので,
g3(x, y) = 1/(|x|2+|y|2)となり矛盾である.
1.1.3 関数列・関数項級数
部分集合
A⊂Cn上定義された関数列
{fν}∞ν=0, fν :A→C, ν= 0,1, . . . ,1.1.
多変数正則関数
7について
(各点)収束,コーシー列,一様収束,一様コーシー列,A が開集合 のとき広義一様収束,広義一様コーシー列等の概念が一変数の場合と同様に 定義される,特に次の定理を述べておこう.
定理
1.1.16開集合
A⊂Cn上定義された正則関数列
{fν}∞ν=0が広義一様収 束すならば極限関数
f(z) = limν→∞fν(z)は,A 上の正則関数である.
証明 まず,
f(z)は連続関数列の広義一様極限であるから連続である.正則 性は,各点
a∈Aの近傍で調べればよい.多重円板近傍
P∆(a; (rj))⋐Aを とり,
fν(z)に
(1.1.12)を適用する.
{fν(z)}∞ν=0は
f(z)に
P∆(a; (rj))上一 様に収束するので,f
(z)も
f(z1, . . . , zn) = ( 1
2πi )n∫
|ζ1−a1|=r1
· · ·
∫
|ζn−an|=rn
f(ζ1, . . . , ζn)
(ζ1−z1)· · ·(ζn−zn)dζ1· · ·dζn, z∈P∆(a; (rj)),
を満たす.右辺の被積分関数は
z∈P∆(a; (rj))の正則関数であるから,f
(z)は正則である.
□A
上の関数列
{fν(z)}∞ν=0が与えられたとき,その形式和
∑∞ ν=0
fν(z)
を関数項級数と呼び,N
∈Z+に対し
sN(z) =
∑N ν=0
fν(z), z∈A,
を
(N-)部分和と呼ぶ.部分和の関数列
{sN(z)}∞N=0が収束するとき,関数項 級数
∑∞ν=0fν(z)
は収束すると言い,極限を
∑∞ ν=0
fν(z) = lim
N→∞sN(z), z∈A,
8
第
1章 多変数正則関数 と書く.一様収束,広義一様収束等も同様に定義される.
{sN(z)}∞N=0が
(一様) コーシー列であるとき,級数
∑∞ν=0fν(z)
は
(一様)コーシー条件を満た すという.
∑∞
ν=0fν(z)
が,絶対収束するとは,
∑∞ ν=0
|fν(z)|, z∈A,
が収束することである.絶対収束すればもとの関数項級数は収束し,極限は 和の順序に依らない.
関数項級数
∑∞ν=0fν(z) (z∈A)
に対し,非負定数
Mν ∈R+, ν = 0,1, . . .が
|fν(z)| ≤Mν, ∀z∈A, ν= 0,1, . . . ,
を満たすとき,
∑∞ν=0Mν
を
∑∞ν=0fν(z)
の優級数と呼ぶ.
∑∞ν=0Mν < ∞ (収束)
であるとき,
∑∞ν=0fν(z)
は,優級数収束するという.
定理
1.1.17優級数収束する関数項級数は,一様絶対収束する.
証明 一様コーシー条件による.
□1.1.4 多変数巾級数
a= (aj)∈Cn
とし,多重添字
α= (α1, . . . , αn)∈Zn+に対し
(z−a)α=∏n j=1
(zj−aj)αj (1.1.18)
とおく.多重半径
r= (r1, . . . , rn) (rj >0)に対しても
(1.1.19) rα=r1α1· · ·rnαnである.
(1.1.20) f(z) = ∑
α∈Zn+
cα(z−a)α, cα∈C,
1.1.
多変数正則関数
9と書かれる関数項級数を
aを中心とする
(n変数) 巾級数と呼ぶ.(1.1.20) は,
項を並べる順序を指定しないと収束の意味を持たないが,絶対収束性は項の 順序に依らずに定義されることに注意する.
以下しばらく,a
= 0とする.
補題
1.1.21 (i) z = (zj)∈ (C∗)nが存在してある並べ方で
∑α∈Zn+cαzα
が収束するならば,
{cαzα:α∈Zn+}は有界である.
(ii) w= (wj)∈(C∗)n
に対し
{cαwα:α∈Zn+}が有界ならば,
∑α∈Zn+cαzα
は,多重円板
P∆(0; (|wj|)) ={(zj) :|zj|<|wj|,1≤j ≤n}で広義一 様絶対収束する.
証明
(i)は,明らかであろう.(ii) を示す.仮定よりある
M >0が存在して
|cαwα|< M, ∀α∈Zn+.
0< θ <1
を任意にとり,
|zj| ≤θ|wj|(1≤j≤n)とする.
∑
α∈Zn+
|cαzα| ≤ ∑
α∈Zn+
|cαwα| ·θ|α|
≤M ∑
α1≥0,...,αn≥0
θα1· · ·θαn=M ( 1
1−θ )n
<∞.
したがって定理
1.1.17から,
∑α∈Zn+cαzα
は,P∆(0; (
|wj|))で広義一様絶対
収束する.
□巾級数
(1.1.20)が,補題
1.1.21 (i)の条件を満たすとき
f(z)を収束巾級数と 呼ぶ.このとき,次の様におく.
Ω∗(f) ={r= (rj)∈(R+\ {0})n:|cαrα|, α∈Zn+,
は有界
}◦, (1.1.22)Ω(f) ={(zj)∈Cn: ∃(rj)∈Ω∗(f),|zj|< rj,1≤j≤n}, log Ω∗(f) ={(logrj)∈Rn: (rj)∈Ω∗(f)}.
ここで,
{·}◦は内点集合を表す.Ω(f
)を巾級数
f(z)の収束域と呼ぶ.
定理
1.1.23 f(z) =∑α∈Zn+cαzα
を収束巾級数とする.
10
第
1章 多変数正則関数
(i) f(z)は,Ω(f
)で正則である.
(ii) (対数凸) log Ω∗(f)
は,凸集合である.
(iii) f(z)
は,Ω(f
)において項別偏微分可能で次が成立する.
∂f
∂zj
(z) = ∂
∂zj
∑
α1≥0,...,αj≥0,...,αn≥0
cα1...αj...αnz1α1· · ·zαjj· · ·zαnn (1.1.24)
= ∑
α1≥0,...,αj≥1,...,αn≥0
αjcα1...αj...αnz1α1· · ·zjαj−1· · ·zαnn,
Ω(f)⊂Ω (∂f
∂zj
) . (1.1.25)
証明
(i)cαzαは,正則であるから定理
1.1.16と補題
1.1.21 (ii)より
f(z)は
Ω(f)で正則である.
(ii)
二点
(logrj),(logsj)∈ log Ω∗(f)をとる.それ等は内点に含まれてい るということより,ある
rj′ > rj, s′j > sj (1 ≤ j ≤ n), M > 0が存在し,
r′= (r′j), s′= (s′j)
として
|cαr′α| ≤M, |cαs′α| ≤M, ∀α∈Zn+. 0< θ <1
を任意にとるとき
(1.1.26) θ(logrj) + (1−θ)(logsj)∈log Ω∗(f)
となることを示せばよい.(r
′j),(s′j)について,
|cαr′θαs′(1−θ)α|= (|cα|r′α)θ·(|cα|s′α)1−θ≤Mθ·M1−θ=M.
よって,(1.1.26) が示された.
(iii)
項別偏微分の証明は一変数の場合と同様である
([23]定理
(3.1.10)参照
).
(1.1.25)を示そう.任意に
(zk)∈Ω(f)をとる.定義により,ある
(rk) ∈ Ω∗(f)が存在して,
|zk|< rk, 1≤k≤n,
|cαrα| ≤M, ∀α∈Zn+.
1.1.
多変数正則関数
11ここで,M は正定数である.
|zk|< tk < rk (1≤k≤n)と
(tk)をとる.任 意の
α= (αk)∈Zn+, αj≥1に対し
|αjcα|tα11· · ·tαjj−1· · ·tαnn≤ |cα|rααj tj
(tj rj
)αj
.
0< tj/rj <1
であるから,lim
αj→∞αj(tj/rj)αj = 0.よって,あるL >0があって
αj (tj
rj
)αj
≤L, ∀αj≥1.
したがって,
|αjcα|tα11· · ·tαjj−1· · ·tαnn≤ LM tj
となり,
(tk)∈Ω∗ (∂f∂zj
)
,
(zk)∈Ω (∂f∂zj
)
が従う.
□上述
(ii)の性質を,Ω
∗(f)は対数凸であるという.
1.1.5 多変数正則関数の基本的性質
Ω
を領域とし,
f ∈O(Ω)とする.閉多重円板
P∆(a; (rj))⋐Ωを任意に とる.簡単のため,座標の平行移動で
a = 0とする.コーシーの積分公式
(1.1.12)により
f(z) = ( 1
2πi )n ∫
|ζ1|=r1
· · ·
∫
|ζn|=rn
f(ζ1, . . . , ζn)
(ζ1−z1)· · ·(ζn−zn)dζ1· · ·dζn, (1.1.27)
z= (z1, . . . , zn)∈P∆(0; (rj)).
被積分関数内のコーシー核を次の様に展開する.
1
(ζ1−z1)· · ·(ζn−zn)= 1 ζ1
( 1−zζ11)
· · ·ζn
(
1−zζnn)
= ∑
α1≥0,...,αn≥0
1 ζ1
(z1
ζ1 )α1
· · · 1 ζn
(zn
ζn )αn
. (1.1.28)
12
第
1章 多変数正則関数
|zj/ζj|=|zj|/rj <1 (1≤j ≤n)
であるから,(1.1.28) の巾級数は絶対収束 し,P∆(0; (r
j))内で広義一様収束する.これと
(1.1.27)より
f(z) = ∑
α∈Zn+
cαzα, (1.1.29)
cα= ( 1
2πi )n ∫
|ζ1|=r1
· · ·
∫
|ζn|=rn
f(ζ1, . . . , ζn) ζ1α1+1· · ·ζnαn+1
dζ1· · ·dζn, (1.1.30)
α= (αj)∈Zn+.
偏微分
∂αについて次が成立する.
(1.1.31) ∂αf(0) =α!cα, α∈Zn+.
したがって,係数
cαは
f(z)により一意的に決まる.
定理
1.1.32 (巾級数展開) f ∈ O(Ω), P∆(a; (rj)) ⊂ Ωとすると,f(z) は
P∆(a;(rj))
で一意的に
f(z) = ∑
α∈Zn+
cα(z−a)α, (1.1.33)
∂αf(a) =α!cα, α∈Zn+,
と広義一様絶対収束する
aを中心とする巾級数に展開される.
証明
0 < r′j < rj (1 ≤ j ≤ n)を任意にとると
P∆(a; (r′j)) ⊂ Ωとなり,
(1.1.29)
と
(1.1.31)より,定理は
P∆(a; (r′j))上では成立している.巾級数展 開の係数
cαは一意的で
r′jのとり方によらないので,r
′j ↗rjとすれば定理
が
P∆(a; (rj))上成立することが従う.
□(1.1.33)
を次の様に同次多項式の級数に表す:
Pν(z−a) = ∑
α∈Zn+,|α|=ν
cα(z−a)α, (1.1.34)
f(z) =
∑∞ ν=0
Pν(z−a).
1.1.
多変数正則関数
13これを
f(z)の同次多項式展開と呼ぶ.
注意
1.1.35同次多項式展開は,巾級数展開の和の順序を一つ指定した級数展
開と言えるが,それによって収束域が変わる場合があることに注意しよう
(章末問題
4参照
).
Cn
で正則な関数は
(n変数
)整関数と呼ばれる.定理
1.1.32より次が分かる.
系
1.1.36整関数
f(z)は,C
nで
(1.1.37) f(z) = ∑
α∈Zn+
cαzα
として,広義一様絶対収束する巾級数に展開される.
定理
1.1.38 Ωを領域とする.K
⋐ Ωをコンパクト集合とし開近傍
Uを
K⋐U ⋐Ωととる.K, U と
α∈Zn+にのみよる正定数
Cがあって
|∂αf(a)| ≤Csup
z∈U
|f(z)|, ∀a∈K, ∀f ∈O(Ω).
証明 十分小さな多重半径
r= (rj)をとれば,
P∆(a; (rj))⋐U, ∀a∈K.
a∈K
に対し
(1.1.31)と
(1.1.30)より
|∂αf(a)|=α!
( 1 2πi
)n∫
|ζ1−a1|=r1
· · ·
∫
|ζn−an|=rn
(1.1.39)
f(ζ1, . . . , ζn)
(ζ1−a1)α1+1· · ·(ζn−an)αn+1dζ1· · ·dζn
≤ α!
rαsup
z∈U
|f(z)|, rα=r1α1· · ·rαnn.
したがって,C
= α!rα