防災教育を通して育てる支え合い,生き抜く力
―学校という場をいかした視点から―
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 阪 根 健 二 教職実践力高度化コース 実習指導教員 西 村 公 孝 古 川 和 恵
Ⅰ 課題設定の理由
1 学校アセスメントによる実習校の課題
(1) アセスメント資料
○教職員からの聞き取り○各種アンケート
○調査資料○避難訓練実施要項○学校要覧
○学校防災管理マニュアルなど
(2) 実習校の概要
○太平洋沿岸の大規模中学校
○災害時には市の防災拠点
(3) 実習校の実態
○災害への危機意識の低さ
○生徒の状況に合わせた教育方法
○多忙感,疲労感を感じる教職員
(4) 実習校の課題
実習校の生徒,教職員ともに,災害への危機 意識の低さが課題であり,災害時や日常生活に おいて実際に動く力,自分で危ない物を見つけ て回避する力が必要なことが分かった。
2 先行研究・先行実践事例
阪根(2012)は,“子どもたちの判断力”の 効果を「児童生徒は,今現在の学校防災におい ても強力な人材となる。子どもたちを守るとい う視点は子どもたち自身も動くという視点がな いと成立しない」と述べている。そこで,「学校 防災とは生徒,教職員自身が自分で判断し動く こと」と捉えて,今回の研究を進める。
また,自ら判断し動くには,防災を自分の問 題だと自覚する意識が必要である。この意識を
培うために「恐怖心」「子どもの関与」「自分に 起こるか」のリスク認知因子を効果的に使った 手立てを考えていきたい。同時に,中谷内(2013)
の「リスク評価を伝えるには信頼が必要で,そ の信頼規定因の中でも価値共有認知(同じ目線 に立つ,気持ちを共有する,何を重視するかが 一致している)が重要」から,体験して学ぶこ とによりその意識を育てていきたい。
Ⅱ 実践の目的
南海トラフ地震が想定されている中,協働な どチームでの活動をいかした学校生活の中で防 災教育を行うことにより,困難な状況の中で発 揮できる判断力や柔軟な思考を一人一人に付け ていく。そして,子どもを通して家庭,地域の 防災啓発活動につないでいくことで,社会で支 え合い生き抜く力の育成をめざしたい。
Ⅲ 実践の計画 1 全体計画
《 日常の学校生活 》
↓ ↓ ↓
図1 全体計画
〈啓発に向けて〉
学校安全ノート 視覚資料など
〈実践に向けて〉
教職員防災研修 避難訓練など
自分のこととして捉える意識
実際に判断し動くことできる力
地域社会で支え合い生き抜く力
2 「学校安全ノート」の開発
(1) ノート開発にあたって
[時間確保の難しさと家庭,地域への防災啓発]
日々の学校生活で防災教育の時間を確保す ることは難しく,具体的にどう指導していくか も手探り状態である。そこで,啓発用資料とし て,教職員用に「学校安全ノート」を作成し配 布することにした。学級での指導に使うことで 教職員と生徒がともに学び,家庭に持ち帰るこ とで保護者とも一緒に防災教育に取り組むこと をめざした。
(2) ワークシートのポイント
[短い時間で使える,基礎編・行動編の 二部構成,保護者サイン・コメント欄]
ワークシートは,朝や帰りの短学活で使える ように1枚につき約5~10 分で取り組める内 容になっている。対象は,小学校高学年から中 学校で,「基礎編・行動編」の二部構成である。
また,子どもを通して家庭への啓発もねらい,
全シートに保護者サイン欄,一部には保護者コ メント欄を設けた。
(3)避難訓練事例について [1日2回の避難訓練]
従来の避難訓練では,「きちんとやる」とい うことが目的になりつつあり,生徒の様子から は,「やらされ感」も伝わってきていた。これで は,自分のこととして捉えて判断し,行動する 力は育ちにくい。
そこで,「1日2回の避難訓練」を提案した。
2回目の訓練は生徒に知らせず,それぞれの場 所にいる清掃時に設定した。生徒は,緊急地震 速報を聞き自分自身で避難態勢を取らねばなら ず,個々の判断が必要となってくる。避難につ いて,失敗から学び,自分で課題を見付けるこ とで生き抜く力を育てていくことが目的である。
Ⅳ 実践の結果
1 学校課題フィールドワークⅠ
(1) 学校全体への啓発
〇「学校安全ノート」の配布,紹介
職員会で研究目的を話し,「学校安全ノート」
を配布し紹介した。また,市内の小中学校 14 校と地域フィールドワークで実習させていただ いた上板町の小学校にも数冊ずつ配布した。
〇防災の視覚資料作成,掲示
1 年生が授業で使った写真などを廊下に掲示 した。正面玄関には,「浸水想定深」などを表示 した。天井近くの表示を見上げる生徒の姿がよ く見られた。また,市ハザードマップを市役所 から頂き,全 20 クラスに配布した。
(2)1学年での取組
〇「学校安全ノート」を使っての学び
1年生全6クラスが4月の参観日に,遠足の 事前学習として「学校安全ノート」を使って防 災教育を行った。ワークシートを使いながら
“学校で地震にあった時,どう身を守るか”の 学習を進めた。
〇授業参観での防災授業
授業の最後に担任から,宿題のワークシート は家族と一緒にするようにとの説明があった。
後日,授業の感想とともに「一緒に部屋の中を 点検できてよかった」など,保護者の意見が書 かれたシートが多く返ってきた。家庭とともに 取り組むよいきっかけになった。
〇遠足での防災教育
5月に1年生が淡路島の北淡震災記念公園 を訪れた。生徒は,阪神・淡路大震災によって できた野島断層などをしおりで一つずつチェッ クしながら丁寧に見学した。震災体験館では,
実際に南海トラフ地震で想定される“震度7の 揺れ体験”をほぼ全員が体験した。
2 学校課題フィールドワークⅡ
(1)避難訓練の実施
〇事前学習を兼ねた防災講話
南海トラフ地震では,阪神・淡路大震災の“揺 れ”と東日本大震災の“津波”に似たものが予 想されるということで,避難訓練前日に実際の 映像などを使った防災講話を行った。
〇1 日に2回の避難訓練
5校時の訓練では,3階への避難の際に生徒 による防災用品の運び上げも同時に行った。予 告なしの清掃時の訓練では,学校内のあちこち で避難態勢をとる生徒の姿が見られた。
〇「学校安全ノート」を使っての学び
訓練後にしたワークシートでは,「3階へ向 かう途中のガラスの多さ」や,「避難先の特別教 室でコンピューターが倒れてくる恐れ」など実 際の場面を予想した意見が多くあった。
(2)チームをいかした取組
〇教職員研修での消火訓練とウォークラリー 防災研修では,小松島市消防本部の指導の下,
消火栓を使った放水訓練を行った。その後,チ ームで防災機器ウォークラリーを行い,校舎内 の消火栓,防災倉庫などを確認して回った。
〇安全委員会による防災意識アンケート集計 生徒会が夢プロジェクトとの関連で9月に 設定した“防災意識 Before After”に併せて アンケートを全校で2回実施した。安全委員会 が集計した結果を防災だよりに載せ,家庭と一 緒に防災意識の変化を確認した。
〇美術部による災害時用ヘリサイン制作 大災害が発生すると県内外からのヘリコプ ターでの捜索や救助が考えられる。そこで,空 から位置関係が分かるように校舎3階の屋上通 路横に学校名をかいた災害時用ヘリサインを美 術部が 10 月に制作した。
〇人権部との連携
実習校で行われた市人権教育研究大会では,
「災害時の人権を考える」との演題で,学校が 避難場所になった際の具体的な取組についての 講演があった。また,人権子供会の1日県外研 修では,神戸市「人と防災未来センター」を訪 れ,語り部の方から阪神・淡路大震災の話を直 接聞くことができた。
(3)家庭,地域への啓発活動
〇「学校安全ノート」を通しての啓発
生徒が防災の授業や避難訓練の事前事後学 習で使ったワークシートを宿題として家庭に持 ち帰り,家族で一緒に考えてもらった。
〇オープンスクールでの防災講演
11 月のオープンスクールでの防災講演は,映 像やエフエム徳島制作の『防災ハンドブック』
を使った分かりやすい内容で,今までの防災教 育の学びを再確認することができた。
〇防災だよりと生徒引き渡しカードの活用 オープンスクールの日に“防災だより”と
“生徒引き渡しカード”を各家庭に配布した。
“防災だより”には初めて実施する“生徒引き 渡しカード”についての説明も載せた。
〇自衛隊による災害時用ヘリサインの撮影 完成した災害時用ヘリサインを生徒による
「SOS」の人文字とともに地元の海上自衛隊第 24 航空隊がヘリコプターから撮影してくれた。
写真は中央廊下に飾ってあり,生徒や教職員,
来校者など誰でも見ることができる。
写真1 災害時用ヘリサインと人文字の SOS
Ⅴ 実践の成果と課題 1 学校内
(1) 生徒
防災意識アンケートや避難訓練の様子から,
防災を自分のこととして取り組む意識が育ちつ つあることが分かった。防災講演の感想には,
「家族に話してみる」「近所の人への声かけはま ず日頃のあいさつから」など,生徒自ら動き出 そうとする意見が多かった。それをこれからど う形に結びつけていくか,実際に役に立つ実感 が得られれば,災害時に避難所となった学校で も,協力して様々な役割が担えるであろう。
(2)教職員
教職員全員での放水訓練やウォークラリー など,体を動かす研修が,効果的な防災教育の 実践につながったと感じる。後に生徒に見られ た「自分のこととして考え始めた意識の変化」
は,これら研修を通して教職員にも見られたこ とである。実際に消火栓ホースを持って放水し,
歩いて防災機器を確認して回ったことへの自信 や真剣さが無意識のうちに生徒に伝わったのだ ろう。学校という場で一緒に生活し,活動する 生徒と教職員の関係が生んだ成果だと思われる。
2 保護者・地域
「学校安全ノート」のワークシートを通じて,
子どもが学校で学んだ防災教育をきっかけに,
家庭での話し合いや防災の見直しが行われたこ とが分かった。“生徒引き渡しカード”の活用 も始まったばかりであり,これから家庭や地域 と一緒に取り組む防災教育が更に必要となる。
Ⅵ 修了後の課題と取組の構想
1 チーム力をいかした防災教育の必要性 日常生活から一気に非日常の世界になるの が災害時である。その状況下では,我慢したり 一人で抱え込んだりする場面が多くなるであろ
う。そこで,つらくなったら任せて休めるよう な,お互いに頼れるチーム力が防災でも必要だ と考え,「チーム総合演習Ⅰ・Ⅱ」「実習校」「地 域フィールドワーク」などで学んだチーム力を これからより一層防災教育の取組にいかしてい きたい。
2 チーム力をいかした防災教育の構想 実際の災害においては,登下校中の避難や各 避難所での生活,学校との連絡など,家庭同士 がつながることで防災,減災の成果を生む可能 性が高い。そして,それは,そのまま地域のつ ながりにもなる。
学校に通う子どものいる世代がチームになる には,やはり顔の見える活動が必要で,学校が そのきっかけを作る場にもなり得るだろう。そ こで,次のような取組を提言したい。
(1) 愛校作業と防災訓練
愛校作業と防災訓練を一緒に実施すること で,保護者とともにTシャツを使った担架作り など日頃できない防災活動ができる。
(2) 家族も一緒に自転車下校
一緒に自転車下校することで,生徒と家族が 同じ目線で通学路での避難場所やルートの確認 をすることができる。
(3) 想定外の避難訓練
想定外の災害に対応すべく,校舎外への避難 訓練を地域の方に立哨などで協力してもらいな がら実施する。
(4) 防災行事とフリーマーケット
地域の防災行事に子育て世代が参加しやすい ようなイベントを併用する。学校を離れた活動 だが,場の提供や広報,また,生徒もボランテ ィアとして活躍できると思う。
〈引用文献〉阪根健二(2012)学校防災最前線,教育開 発研究所,(1章,pp86~88)