製薬産業におけるライセンス・イン/アウトの難し さ
著者 冨田 健司
雑誌名 同志社商学
巻 66
号 1
ページ 240‑250
発行年 2014‑07‑25
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013684
製薬産業におけるライセンス・イン/アウトの難しさ
冨 田 健 司
Ⅰ はじめに
Ⅱ ライセンス・イン/アウトの定義
Ⅲ 製薬産業でライセンス・イン/アウトへの関心が高まる要因
Ⅳ 創薬ベンチャーと製薬企業とのライセンス・イン/アウトの実態
Ⅴ むすびにかえて
Ⅰ は じ め に
近年,製薬企業のなかにはオープン・イノベーション戦略を掲げる企業が多い。業界 で用いられる「オープン・イノベーション」とは,研究開発におけるライセンス・イン
/アウトを意味することが多い。二つの用語の違いは次節で述べるが,ライセンス・イ ン/アウトの関心が高まっていることは間違いない。
しかし,関心が高まっているからといって,ライセンス・イン/アウトが効果・効率 的に実行されているとは言い難い。あるいは,創薬ベンチャーの希望するライセンス・
アウトの大部分を製薬企業がライセンス・インしているとも言い難い。このライセン ス・イン/アウトは知識の取引であり,その取引においては両企業が置かれる状況や戦 略が大きく左右する。たとえば,売り手(多くの場合,創薬ベンチャー)は手元資金が 限られ,大規模な臨床研究に耐えられないため,探索研究段階で知識を販売したいと思 う一方,買い手(多くの場合,製薬企業)はリスクを回避したいため,探索研究段階の 知識を購買したがらない。そのため,臨床研究を始められないという理由で,有望な新 薬候補が創薬ベンチャーのもとで埋没するケースも多々存在する。
こうした要因でライセンス・イン/アウトが実行されないことが多いため,本稿では ラインセンス・イン/アウトが実行されにくい要因を整理していきたい。そして,実際 の件数を調査したい。
本章の構成は次のようになる。まず第
2
節でライセンス・イン/アウトについて定義 づけを行う。次に第3
節で,製薬産業でライセンス・イン/アウトへの関心が高まって いる要因をまとめ,第4
節で創薬ベンチャーと製薬企業とのライセンス・イン/アウト の実態を調査していく。240(240)
Ⅱ ライセンス・イン/アウトの定義
本節では,まずオープン・イノベーションについて定義し,その後,ライセンス・イ ン/アウトの定義づけを行う。さらに,オープン・イノベーションとライセンス・イン
/アウトとの類似点と相違点とを示していく。
Ⅱ−1.オープン・イノベーションの定義
従来の研究開発はクローズド・イノベーションと呼ばれる。それは企業の中央研究所 を中心に基礎研究から応用研究まで,製薬企業でいえば基礎研究,探索研究,前臨床試 験,臨床試験を一社で行い,新製品を上市する活動のことである。自己完結型による閉 じたイノベーションであるため,企業規模が大きいほど多額の研究開発費を投じること ができ,企業内の多様な知識を利用することができる。つまり,規模の経済性が作用す ることとなる。
こうしたクローズド・イノベーションは近年,限界を迎えているといわれることが多 くなった。それは,イノベーションの加速化や製品寿命の短縮化により,新製品開発の スピードが加速しているために,一社で最初からすべての研究開発を行っていては他社 との製品化競争に勝つことができなくなってきたからである。また,製品が高度化,複 雑化しているため,一社で全ての知識や技術を保有することも困難になってきたからで ある。そのうえ,開発コストが上昇しているため,コスト負担が大きくなっているから である。
これに対し,オープン・イノベーションとは,企業内部と外部とのアイデアを有機的 に結合させ,価値を創造することである(Chesbrough, 2003)。知識を独占するのではな く,知識が普及することにより,他の知識と結合して新たなイノベーションが加速度的 に生まれていくのである。この場合,必ずしも基礎から研究開発を一社で行う必要はな く,他社の知識を組み合わせることにより,期間の短縮化と費用の削減といったメリッ トを享受することができる。競合企業を排除するために知的財産権を管理するのではな く,競合企業に自社の知識を利用させることから,利益を得られるようマネジメントし ていくことが新しい課題となっている。
Arora, Fosfuri, and Gambardella(2001)は,製薬産業や化学産業を対象に,知識や技
術を売買する市場が発展していることを指摘し,導入した知識をもとに企業が製品開発 を行うことによって,イノベーションが加速化していくと述べている。また,Teece(2000)は,知識を創造する企業と知識を活用する企業とが分離することの可能性を示 唆している。オープン・イノベーション化により,知識を創造する企業と知識を活用す
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る企業とが共存することにより,ベンチャー企業の発展につながっていく。米国のバイ オ産業では多数のバイオ・ベンチャー企業が生まれ,製薬企業のなかには自社では基礎 研究や探索研究を行わずに,バイオ・ベンチャーの知識を導入して,それ以降の臨床試 験のみを行う戦略的な企業も存在している。
このように,オープン・イノベーションの重要性が叫ばれているが,オープン・イノ ベーションにもデメリットは存在する。それは,企業のイノベーション活動がオープン 知識ベースへの依存の拡大につれ,自社でコストをかけて知識を蓄積する必要が小さく なると判断してしまう企業が増える可能性である(伊丹,2008)。これは,内部蓄積の ダイナミクスを弱体化させる結果となりかねない。また,企業の経営トップはオープ ン・イノベーションを唱えつつも,中央研究所の研究員は
NIH
症候群により,企業外 部の知識の受け入れに抵抗感を抱くことも多い。そうであれば企業内の意識や考え方に ギャップが生じてしまい,組織としての一体感が薄れてしまいかねない。以上のように,クローズド・イノベーションとオープン・イノベーションとにそれぞ れメリットもあれば,デメリットもあるため,クローズド・イノベーションとオープ ン・イノベーションの二極化のどちらかを選択するというよりは,企業戦略として二つ の可能性があり,組み合わせることができると考えるべきであろう。基本的には,基礎 研究ではオープン・イノベーションを,応用研究や開発研究では知的財産権によるイン センティブ効果を重視するクローズド・イノベーションが適切である。しかし,小田切
(2007)は,医薬やバイオ・テクノロジーに代表される根源的理解の追及と実用化とを 同時に追求するような分野ではオープン・イノベーションとクローズド・イノベーショ ンのいずれもが重要であるとい
1
う。企業の置かれる状況や環境に応じて,企業戦略とし てオープン・イノベーションとクローズド・イノベーションとを選択するとことにな る。
Ⅱ−2.ライセンス・イン/アウトの定義
製薬産業において,ライセンス・イン/アウトという用語は一般的であるが,明確的 な定義は存在しない。そこで,業界で用いられている意味を示すと,ライセンス・イン とは「他の製薬企業との新製品開発競争のもとで,自社の知識よりも有用な他社の知識 を導入し,それ以降の新製品開発のプロセスを行うこと」である。導入する相手は同業 の競合企業ばかりでなく,基礎研究や探索研究を専門に行う創薬ベンチャーが増加して いる。そして,ライセンス・インするタイミングは,研究開発における
R(研究)の段
階が終わった時点(前臨床試験が終わった時点)や,多額の資金を要する臨床試験のフ ェーズⅡ後期の時点が多い(第1
図)。一方,ライセンス・アウトとは「自社で継続し────────────
1 小田切(2007)は「オープンサイエンス」と「クローズドサイエンス」と表している。
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242(242)
て開発するのが技術的,資金的に困難な時,自社で行ったそれまでの高度な知識や技術 を他社に供与(売却)して,利益を得ること」である。ライセンス・アウトするタイミ ングはライセンス・インの場合と同じになる。
こうしたライセンス・イン/アウトとオープン・イノベーションとは類似した概念で ある。ここでは類似点を三つ示していこう(第
1
表)。第一に,リニアの新製品開発プ ロセスにおいて,途中までをある企業が行い,それ以降のプロセスを別の企業が従事す る点である。第二に,そうすることによって,知識の提供者と受容者の双方にメリット を享受できる点である。具体的には前者には売却利益を,後者には新製品開発の短縮化 とコストの削減により,早期の製品化や,その製品市場で競争優位に立つことが可能と なる。第三に,取引は一時的で独立しており,戦略的提携や系列取引のように長期的な 関係ではない点が挙げられる。一方,ライセンス・イン/アウトとオープン・イノベーションとの相違点は次の三つ である。第一に,ライセンス・イン/アウトはあくまでも
1
対1
の企業間関係であり,取引相手以外にはクローズドである。一方,オープン・イノベーションでは多数の企業 に知識や仕様を公開することもある。第二に,ライセンス・イン/アウトでは形式知で ある特許部分の使用権が売買される。つまり,特許による占有権の売買となり,ライセ ンス・インした企業は独占的にその特許知識を用いて新製品開発を行うことができる。
一方,オープン・イノベーションでは必ずしも特許権の売買は付随しない。第三に,ラ イセンス・アウトする知識は売却する企業にとって中心事業の一つであるが,オープ ン・イノベーションでは自社が使用していない知的財産を販売することも含められ
2
る
────────────
2 Rivette and Kline(1999)は,自社の知的財産を見直し,使用していない知的財産を見つけ,他社に !
第1図 新薬の研究開発プロセス
出所:長尾(2009),野口(2003)をもとに作成
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(Chesbrough, 2003)。
Ⅲ 製薬産業でライセンス・イン/アウトへの関心が高まる要因
近年,新薬開発に努める大手製薬企業のなかで,国内,国外問わずオープン・イノベ ーションを企業戦略に掲げる企業が増加している(これは前節の定義に従えばライセン ス・インである)。
第一の理由は,2010年問題の後,各企業は画期的な新薬の上市が急務となっている にも関わらず,新薬開発に行き詰っている状況だからである。つまり,新薬を生み出さ なければならない状況であるが,新薬を生み出すことができないという苦しい状況に立 たされているため,喉から手が出るほど候補物質が欲しいのである。
第二の理由は,アンメット・メディカル・ニーズが明確であり,たとえばがん領域で は多数の競合企業が類似した研究を数多く行っているため,他社の有用な知識を用いた 方が,早く新薬を開発できるからである。新薬の場合,最初に特許を取得してしまうと 他社は同様の特許を追随して取ることができないため,極端な先発優位の法則が働き,
二番手戦略は存在しない。
そして第三の理由は,探索研究はきわめて成功確率が低いために,自社だけでなく他 社にも探索研究を行ってもらった方が可能性が広がるからである。つまり,実験数を増 やすという数を打つ戦略である。製薬企業としては創薬ベンチャーにたくさん探索研究 を行ってもらい,うまくいったものだけを買い取った方が効果・効率的である。要する に,リスク低減戦略といえる。
以上の理由により,製薬企業ではライセンス・インに積極的であり,同様に創薬ベン チャーもライセンス・アウトを好む理由が二つある。一つは,臨床試験,特にフェーズ
Ⅱ後期以降では長期の期間と多額の資金が必要となり,企業体力のある企業でないと,
一社ですべての研究開発プロセスを行うことができないからである。反対にいえば,企
────────────
! 販売することで利益を得る可能性があることを指摘している。こうした知財戦略はChesbrough(2003)
によっても指摘される。
第1表 ライセンス・イン/アウトとオープン・イノベーションとの類似点・相違点 ライセンス・イン/アウト オープン・イノベーション
類似点
製品開発のプロセスの途中で実行者が交代 知識の提供者と受容者の双方にメリット
一時的で独立した関係
相違点
1対1の関係 特許権の売買に伴う占有可能性
中心事業の知識を売却
多数に公開することもある 必ずしも特許は付随しない 使用していない知識の売却も含まれる 同志社商学 第66巻 第1号(2014年7月)
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業体力のない創薬ベンチャーでは臨床試験を行うことができない。そのため,創薬ベン チャーは探索研究と前臨床試験(R&Dの
R
の部分)を行い,臨床試験(R&DのD
の 部分)は製薬企業に任せることとなる。これは資源の選択と集中の戦略といえる。もう 一つの理由は,創薬ベンチャーの多くは資金的に余裕が無く,資金繰りに困っている企 業も多いため,探索研究での有用な知識を素早く売却して,資金を手に入れ,次の研究 に移りたいからである。そのため,創薬ベンチャーはがん,精神疾患,高齢者の疾患など新規の需要可能性が 高い分野の研究に注力している。反対に,生活習慣病薬は製薬企業の研究開発能力が既 に高い分野であるため,こうした分野への後期参入は控えている。あるいは,希少疾患 である。希少疾患は市場が小さいため,費用対効果の問題があり,あまり大きな売上高 を見込めないため,多大な研究開発コストをかけることができない。研究開発への投資 に大手製薬企業が二の足を踏む希少疾患において,有望な新薬候補を見出すことができ れば,ライセンス・アウトが可能となる。
本節で述べてきたように,製薬産業でライセンス・イン/アウトへの関心が高まって いるのは,製薬企業と創薬ベンチャーとの両者にそれぞれ理由が存在するからであり,
さらに新薬開発プロセスにおける特徴的な要因も一つ存在する。それは研究開発(R&D)
の
R
の研究者とD
の研究者は互いに独立していることである。たとえ製薬企業内で研 究開発を行うとしても,Rの研究者は探索研究や前臨床試験に特化しており,Dの臨 床試験を行うことはあり得ない。つまり,RとD
はそれぞれ専門の研究者,部署が存 在しているのである。そのため,RとD
を別の企業が行い易い状況にあり,このR
とD
の境界でライセンス・イン/アウトが行われ易くなってい3
る。
以上のように,製薬産業においてライセンス・イン/アウトは行われ易い環境にあ る。それでは実際にどれくらいの数のライセンス・イン/アウトが行われているのだろ うか。これについて次節で論じていきたい。
Ⅳ 創薬ベンチャーと製薬企業とのライセンス・イン/アウトの実態
Ⅳ−1.創薬ベンチャーの定義
ここではまず,創薬ベンチャーについて定義していく。
医薬品は,従来の医薬品である低分子(化合物)医薬品とバイオ医薬品とに分けられ
────────────
3 最近ではライセンス・インする立場の製薬企業は,臨床試験に入っていない候補化合物の購買を避ける 傾向もある。それは,製薬企業はリスク回避の傾向にあるからだ。しかし,創薬ベンチャーは臨床試験 を行う人員や設備を保持しておらず,臨床試験を行うにはまずそのための人員や設備を整備しなければ ならない。そのため,企業体力の無い創薬ベンチャーが臨床試験を行うことはきわめて困難であり,こ れが今日,ライセンス・イン/アウトを難しくしている要因である。
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る(第
2
表)。低分子医薬品とは化学合成技術を活用して化合物を作成したり,天然物 由来の成分を活用する。これに対して,バイオ医薬品とは遺伝子組み換え医薬品や抗体 医薬など,元来生体内にある分子やそれを一部改変したものを活用す4
る。バイオ医薬品 として,1980年代から,遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などニュー・バイオ・テ クノロジーを利用したタンパク質医薬が実用化され,また,ゲノム解析によるヒト遺伝 子の網羅的探索などにより,開発ターゲットが多様化し,抗体医薬や副作用が少ない分 子標的薬が増加している。バイオ医薬品は,薬価が高くなる傾向にあるため,希少疾患 での収益を確保し易く,またバイオ医薬品の創薬プロセスは低分子医薬品とは大きく異 なり,専門的知識が必要となるため,そうした知識に長けたベンチャー企業の参入が起 き易
5
い。そのため,近年,バイオ領域に特化した創薬ベンチャーが増加している。
創薬ベンチャーは
2002
年以降,著しい伸長を示しており,創薬ベンチャーの売上高の約
90% がバイオ医薬品となっている(高鳥,2009)。そのため,「創薬ベンチャー=
バイオ・ベンチャー」のように錯覚するが,創薬ベンチャーのなかにはバイオ医薬品と 並行して低分子医薬品を扱っていたり,あるいは低分子医薬品のみを扱う企業も存在す る。バイオ医薬品の対象疾患領域は限られているため,低分子医薬品がいきなり消滅す ることはなく,疾患領域によってはまだしばらく低分子医薬品が主流を占め続けるので ある(佐藤,2010)。
ところで,バイオ・ベンチャーに関して,小田切(2006)は次のように四つに分けて いる。
・創薬型:大学等の研究機関の研究シーズを導入して,自社研究を加えて医薬品候 補物質に仕上げ,大手製薬企業に供与する
・創薬シーズ探索型:創薬そのものではなく,医薬品候補物質へのシーズとなる材 料を探索・発見,創薬ターゲットの特定をする
────────────
4 抗体医薬とは,がん細胞や病原体のような特定の抗原に結合して免疫作用を発揮する抗体を医薬品化し たものである。
5 たとえば,バイオは培養法が未確立であり,品質管理が難しいため,培養や管理の専門的な知識が要求 される。
第2表 医薬品の種類
・低分子医薬品
・化学合成技術の活用(化合物の作成)
・天然物由来の成分
・バイオ医薬品
・タンパク質医薬(遺伝子組み換え医薬)
・抗体医薬・分子標的薬
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246(246)
・リサーチツール型:製薬・バイオ関連企業が研究開発に用いる機器類,材料,ソ フトウェアなどの生産・販売を行う
・支援サービス型:製薬・バイオ関連企業が行う研究開発をさまざまな形で支援す るサービスを提供する
創薬型では,大学の研究室から自身の研究知識を持って,スピンアウトしてベンチャ ー企業を設立するケースが増えている。つまり,研究シーズを導入するのではなく,自 分の知識をベースとする形態である。二つ目の創薬シーズ探索型では探索研究のみを行 い,臨床研究を行わないこととなるが,近年において,臨床研究のフェーズⅡ前期くら いまでを目指す企業が増えている。そうした意味では,近年の「創薬ベンチャー」とは 小田切(2006)の創薬型と創薬シーズ探索型とを合わせた形といえる。
つまり,本研究における創薬ベンチャーの定義は「創薬を目的として,医薬品候補物 質のシーズとなる材料の探索・発見,創薬ターゲットの特定を行う。そして,医薬品候 補物質を他の企業にライセンス・アウトして利益を得る企業である」とな
6
る。
また,現実において,創薬ベンチャーのなかにはデータ解析などの受託事業を行う企 業も多い。これは創薬に必要な資金を稼ぐことを目的とした副業であり,あくまでも本 業は創薬事業である。
Ⅳ−2.ライセンス・イン/アウトの実態
高鳥(2009)によると,創薬ベンチャー起源で製薬企業がライセンス・インを担うケ ースが増加している。日米欧主要製薬企業各
10
社の開発品目を起源別に分けてみると,日米欧いずれにおいても
40〜50% が導入品(ライセンス・インによる品目)で,その
うち
75〜90% が創薬ベンチャー起源の品目であるという。創薬ベンチャー起源のバイ
オ医薬品の開発品目に絞れば,2009年では日本企業では
79.2%,米国企業 67.5%,欧
州企業
65.9% と高い割合である(高鳥,2009)。
さて,近年における国内創薬ベンチャーの代表的なラインセンス・アウトは第
3
表に 示されるが,がん領域のライセンス・アウトが多いことが特徴的である。大手製薬企業 の多くはアンメット・メディカル・ニーズの一つであるがんを重点領域としており,他 社よりも早い製品化,特許の取得を目指しているため,企業間の競争が激化している。新薬開発においては先に特許を取得しなければならず,類似した製品を追随することが できないため,開発のスピードが求められる。そのため,製品化の候補となりそうなも
────────────
6 小田切(2006)の分類における創薬型の極端な形は,企業内でまったく研究開発を行わずに,知識のラ イセンス・イン/アウトを繰り返す形態であり,投資の対象として知識が扱われることとなる。米国で はそうした企業が数多く存在し,日本でも広まりつつある。まさに,知識のマーケティングを営利目的 とする企業であるが,まだ国内の成功事例は少ない。
製薬産業におけるライセンス・イン/アウトの難しさ(冨田) (247)247
①
②
③
④
④
③
②
①
のを製薬企業が買い求める傾向にある。こうした要因により,創薬ベンチャーにはがん 領域に特化した企業が多い。
それでは,実際のライセンス・アウトの件数をカウントしたいが,正確な数を掴むこ とはきわめて難しい。なぜなら,創薬ベンチャーの多くが上場しておらず,取引情報を 公開していないからである。そのため,国内大手製薬企業
10
社の有価証券報告書から,ライセンス・インの件数を数え
7
た(第
2
図)。第2
図から,製薬企業の導入元としては────────────
7 Chesbrough(2006)によると,企業間の技術ライセンシングは予想以上に頻繁に行われているが,ほと
んどの企業の財務情報開示ではライセンス条件が明らかにされることはないため,結果的に,ライセ!
第3表 創薬ベンチャーのライセンス・アウトの例
年月 創薬ベンチャー(売り手) 製薬企業(買い手) 導出品目
2007年3月 キャンバス 武田薬品工業 抗がん剤(ペプチド医薬)
2008年2月 セルシード テバ等3社 再生医療 2008年3月 エムズサイエンス エーザイ 中枢神経薬
2008年8月 シンバイオ エーザイ 抗がん剤
2008年10月 イーベック ベイリンガーインゲルハイム 抗体技術 2008年11月 カイオム・バイオサイエンス 中外製薬等4社 抗体作製技術
2009年1月 アリジェン 大鵬薬品 潰瘍治療薬
2009年2月 オンコセラピー・サイエンス 塩野義製薬 がん治療用ワクチン 出所:『バイオテクノロジー等で医薬品産業を支える中小企業の事業展開』,2011年12月22日,日本政策
金融公庫総合研究所(日本公庫総研レポートNo.2011−6)
第2図 国内大手10社のライセンス・イン件数
有価証券報告書より作成
・武田薬品工業・アステラス製薬・第一三共・エーザイ・田辺三菱製薬,大塚 製薬・中外製薬・大日本住友製薬・塩野義製薬・小野薬品工業の10社
・その年に新規に契約した研究開発に関するライセンス・イン(導入)の件数
・企業の合併のため,2007年より作成
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248(248)
海外ベンチャー企業が多く,国内ベンチャー企業はあまり多くないことが読み取れる。
また,件数が少ないことも読み取れる。業界では提携という括りで捉えられることも 多く,そうするともう少し件数が多い認識にあるが,これには注意が必要である。ま ず,業界で用いられる「提携」にはさまざまな意味が含まれる。本稿で扱うライセン ス・インの場合もあれば,共同研究,資本提携なども含まれる。本稿での定義に該当す るライセンス・インだけの件数に限定すると第
2
図のような数でしかない。多数の創薬 ベンチャーが存在する昨今において,ライセンス・アウトを希望する創薬ベンチャーは 相当数存在するはずである。しかし,第2
図で見るように,現実的な件数はかなり少な いため,大半の創薬ベンチャーはライセンス・アウトすることができずにいることが明 らかとな8
る。
また,製薬企業にとってライセンス・インや共同研究の手段以外には企業買収があ り,さらには研究費援助を数多く行っている。この研究費援助はいわゆる「ひも付き」
であり,ライセンス・インや企業買収よりも製薬企業にとってリスクが少ない。本来で あれば,臨床試験まで進んだ,製品化の可能性の高い知識を製薬企業としては買いたい が,こうしたライセンス・インにおいても企業間競争が激しくなり,競争劣位な国内企 業は,臨床試験よりも前の段階である探索研究の興味深い研究に対して,研究費を援助 する形態を近年は多く取っている。
このように,製薬企業と創薬ベンチャーとのライセンス・イン/アウトはグローバル 化し,また形態そのものも多様化しているのであ
9
る。
Ⅴ むすびにかえて
本稿では,これまで行われてこなかったライセンス・イン/アウトの定義づけをまず 行い,製薬産業でライセンス・イン/アウトへの関心が高まる要因をまとめた。そし
────────────
! ンシングの全体的動向や技術の適正価格を知ることが困難になってしまう。国内の有価証券報告書で は,ライセンシングの事実は掲載されているため,全体的動向を掴むことは可能である。しかし,同様 にライセンシングの条件やプライシング(価格付け)に関して把握することは不可能である。
8 国内創薬ベンチャーには海外の製薬企業へライセンス・アウトを行っている企業も数多く存在するが,
その実数の把握はとても困難であり,今後の研究課題としたい。
9 高鳥(2008)によると,1998年から2007年までの10年間では,探索研究におけるシーズ創出から臨 床試験までのライセンス・イン/アウトは製薬企業間が最も多いが,大学からバイオ・ベンチャー,バ イオ・ベンチャー間,製薬企業からバイオ・ベンチャーへも行われている。しかし,大学から製薬企 業,バイオ・ベンチャーから製薬企業へは少ないと指摘する。一方,臨床研究から販売段階ではバイ オ・ベンチャーから製薬企業へのライセンス・アウトが多い。これに対し,共同研究に関して,Pisano
(2006)は,大手製薬企業はリスクの少ない臨床研究のプロジェクトにしか関心が無いと思われがちだ が,そうではないことを指摘する。1998〜2002年の平均データを見ると,製薬企業とバイオ・テクノ ロジー企業との共同研究の48% は,研究開発の最初のプロセスである候補物質の探索研究で契約が結 ばれている。
製薬産業におけるライセンス・イン/アウトの難しさ(冨田) (249)249
て,ライセンス・イン/アウトの実態として件数を数えたが,売り手の意思とは裏腹に 件数は多くないことが分かった。そうしたなか,売り手である創薬ベンチャーはどのよ うにしてラインセンス・アウトをしていけばいいのだろうか。その際のマーケティング 戦略は特に重要であり,冨田(2014)で稿を改めて論じていきたい。
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