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ラグジュアリー・ブランドのマーケティング・ミッ クス : シャネル社の香水・化粧品事業のケースス タディ

著者 中谷 安男

雑誌名 同志社商学

巻 65

号 5

ページ 548‑562

発行年 2014‑03‑15

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013451

(2)

ラグジュアリー・ブランドの マーケティング・ミックス

──シャネル社の香水・化粧品事業のケーススタディ──

中 谷 安 男

Ⅰ はじめに

Ⅱ 研究の背景

Ⅲ マーケティング・ミックスとAIDMAによる検証

Ⅳ 日本におけるシャネルブランド構築のケーススタディ

Ⅴ まとめ

Ⅰ は じ め に

ココ・シャネル及びシャネル社(Chanel S.A.)とその関連事業に関しては様々な研究 や著書がある(例 西口,2011;山田,2008)。これらは,ファッションリーダーとし てのココ・シャネル自身に関する著書や,企業活動についての研究などである。本論で は,同社の香水・化粧品分野を中心に,日本市場でどのようなマーケティング活動を行 い,ブランドを構築していったのか考察を行う。先行研究において長沢・杉本(2010)

などは,詳細な資料と調査に基づきシャネル社の戦略を論じており,該当分野への貢献 は大きい。しかしこれまでの研究の多くは,欧米でのシャネル社展開の調査や,ブラン ドがある程度確立した後の日本における活動を中心に記述したものである。

現在,同社の香水や化粧品は,日本でも多くの顧客の支持を得ている。だが

1969

年 に香水の「シャネル

No.5(Chanel No.5)」が日本に輸入された時期は,高価格で一部の

富裕層にしか受け入れられなかった。特に,欧米の製品は香りが強いということで敬遠 されていた。70年代初めまでは認知度も低く,販売量も少なかった。やがて,70年代 の後半から

80

年代の前半にかけ,急激に顧客を獲得していった。この成功が今日の発 展に大きく寄与することになる。しかし,この時期に具体的にいかなる戦略を導入し,

ブランドを構築していったのか先行研究では明確にされていない。本論では,この初期 の拡大期において,マーケティング戦略を立案し実行した責任者への詳細なインタビュ ーに基づき,同社の発展のプロセスを明確にしたい。

まずラグジュアリー・ブランドの定義を行う。次に本論の考察の前提となるココ・シ ャネルの活動と企業のブランド拡大をマーケティング・ミックスの観点からまとめる。

80(548

(3)

その後に,日本独自のマーケティング手法がいかに成功し,全社的なグローバル標準と なったのか確認する。

これまでのマーケティング研究の課題として,物流や店舗展開をそれほど重要項目と して扱っていない。この分野では,市場調査やプランニングに関する研究が多く,具体 的にどのように店頭で消費者に届けるかに関して,あまり注意が払われていないと思わ れる。本論ではこの点も考慮し,ラグジュアリー・ブランドのマーケティング分析への 示唆も行いたい。

Ⅱ 研究の背景

1.ラグジュアリー・ブランドの課題

ブランドの中でも,同様の用途の製品に比べて価格が高く,高級品として取引される 物が一般にラグジュアリー・ブランドと呼ばれている。2011年の市場規模は

21

8

千 億円と考えられている(Ricca & Robins, 2012)。

しかし齊藤(2008)が述べているように,その定義はあまり明確でない。各研究者に 共通している要素は,①職人技のような優れた品質,②希少で高価,③伝統や歴史の裏 付け,④強いブランド・アイデンティティとブランドの連想性,という観点である(例

Arker, 1997 ; Kapferer & Bastien, 2012)。だが問題は,これらの項目には,いかに消費

者に届けるかという観点は,あまり考慮されていない点である。その理由として,かつ て高級なブランドは,富裕層間の口コミで,特定の顧客が買いに来るという前提があっ たからであろう。このため本論では,上の

4

つの条件を満たすものをラグジュアリー・

ブランドと見なすだけでなく,5つ目の要素として,⑤顧客に適切に届ける,という点 も考察する。適切というのは,無暗に流通させるのではなく,ブランド価値を損なうこ となく,顧客の満足度を維持し高めながらも,利便性も考慮するということである。

ラグジュアリー・ブランドの代表的企業には,ルイ・ヴィトン,エルメス,グッチ,

シャネルなどがあり,そのブランド価値は高く評価されてい

1

る。今日では,ラグジュア リー・ブランドの大衆化といった課題もある。たとえ高価な品であっても,日本では一 定層の消費者の購入が可能である。例えば,雑誌『JJ』などがきっかけで流行した「シ ャネラー」という現象は,若年層がブランドの一点物を無理して購入する消費行動であ る。日本では,高級ブランドを買う層が多く,各ブランドにとって魅力的な市場であ

────────────

1 以下の調査結果などが一定の基準の参考になる。

・ブランド調査会社WPPによるBrandZの評価

http : //www.wpp.com/wpp/marketing/brandz/china−100−2014/#

・World Luxury Associationによる評価 http : //www.top100 luxury.com/en/

ラグジュアリー・ブランドのマーケティング・ミックス(中谷) 549)81

(4)

る。だが,あまりにも大衆化し,高校生や大学生などが多く持ち歩くようになると,ラ グジュアリー・ブランドとしての価値が低くなる。結果的に,富裕層の顧客が離れてし まうという問題に対処しなければならな

2

い。様々な企業がラグジュアリー・マーケット に参入し,多くの情報を発信する中,ブランドのイメージを守りながらも,いかに自社 の製品を手に取らせるかが重要な課題といえる。

日本は特に高級ブランド品に人気があり,一時期,世界の

4

割以上を消費していたと 考えられてい

3

る。シャネル社も日本市場を重視し,直営のブティック店が

8

店舗あり,

デパートなどの店舗が

30

店ある。本国フランスでも直営のブティック店は

5

店舗であ り,日本は世界的にも重要な拠点といえる。シャネル社は株式など公開しておらず,売 り上げや利益の情報を得るのは難しい。日本のシャネル法人の売り上げは

2005

年に

700

億円で,2008年には

1000

億円をほぼ達成し

4

た。

マーケティングを成功させるには,戦略上のいくつかの重要ポイントがあり,それら をバランスよく効果的に機能させる必要がある。これをマーケティング・ミックスと呼 び,ラグジュアリー・ブランドにおいても同様である。次の節ではこれについて考察を 行う。

2.マーケティング・コミュニケーション

かつてのマーケティングの定義は,個人と組織の目的を達成するための製品や価値を 交換することであった。また,この過程でアイディア,財,サービス,価格,販売促 進,流通を計画し,実行する過程と考えられてい

5

た。この主要素である,Product(製 品),Price(価格),Promotion(促進),Place(場所)の

4

つの

P

を最適に組み合わせ るマーケティング・ミックスが重要視され

6

た。何を作り,いかに値段を設定し,どのよ うに販売促進し,どこで売るかを主眼とした企業活動である。

しかし,時代とともに企業間の競争が激化し,単に製品を作って売ることに目標を置 くことには限界が生じてきた。ビジネス環境の多様な変化に伴い,マーケティングの定 義も見直された。これまでの企業側の視点ではなく,より顧客に注目した組織的な活動 と見なされている。新たな定義として,顧客に対し価値を創造し,その価値についてコ ミュニケーションを行い,製品・サービスを届けるための一連のプロセスとなった。

────────────

2 長沢・杉本[2]224−225ページ。

3 久繁哲之介「ブランド消費大国日本における都市ブランド化」『Urban Study』(都市開発推進機構),

Vol.46, 113−126ページ。

Nagasawa, S. Managing Organization of Chanel S. A.,Waseda Business & Economic Studies,Vol.47. PP.47−

66.

Rownd, M. and Heath, C. The American Marketing Association Releases New Definition for Marketing, American Marketing Association, 2008, pp.1−3.

McCarthy, E. J.(1960)Basic Marketing−A Managerial Approach,Illinois : Irwin.

同志社商学 第65巻 第5号(2014年3月)

82(550

(5)

この流れを受け,Productは

Customer Value

(顧客にとっての価値),Priceは

Customer Cost

(顧客の負担),Promotion は

Communication

(顧客とのコミュニケーション),Place

Convenience(顧客の利便性)に置き換えられ,4 C

として重要視されてい

7

る。特に コミュニケーションは,様々な活動を含むものと考えられている。例えば,直接の顧客 だけでなく,広く一般大衆や消費者,社内や取引業者,投資家などに統合的に働きかけ るものである。また,一方的な情報の伝達ではなく,双方向で取り組み,市場からのメ ッセージを解釈することも必要である。これらのプロセスを経て,企業のブランドイメ ージを構築することがマーケティング・コミュニケーションの目標と見なされてい

8

る。

3.高級ブランドにける顧客の利便性の課題

消費者の購入までのプロセスを評価するのに

AIDMA

という概念が用いられ

9

る。一 般に消費者の行動を動かすには,まず製品に注意(Attention)を向けさせて,興味関心

(Interest)を持たせる。認知度が上がった所で,製品を欲しい(Desire)と思わせ,記 憶させ(Memory)最終的に購買行動(Action)を起こさせる。日本の消費者の独自性 が指摘される中,外資系企業はどのように消費者の

AIDMA

を促すコミュニケーショ ン活動を統括し,ブランドを確立すべきなのであろうか。

ラグジュアリー・ブランドの課題は,特にどのように購買活動に結び付けるかであろ う。一般の消費財は,多くの流通拠点で扱うことができ,顧客は自然に,あるいは無意 識に該当製品を目にする機会が多い。その場で欲しいと思った記憶が喚起され,すぐに 手に取ることができる。しかし,高級品の場合は,店舗や販売拠点が極端に少ない。ま た価格も高いため,偶然に店舗に立ち寄り,手に取って衝動的に購入することは稀であ る。つまり,ある程度の覚悟があり,特定のブランドの限られた店舗を訪れ購入すると いう,かなりブランドにロイヤリティーの高い消費行動が必要になる。

AIDMA

を効果的にするための手法として,パブリシティーを積極的に活用し認知度

を上げたり,広告を多くしたりして消費者にブランドを訴求することも必要である。例 えば,長沢・福永(2012)では,グッチ社のブランド再構築のために,広告費は

1993

年度の売り上げの

2.9% から,2000

年には

13% まで増加したことが報告されている。

しかし,過度のブランドの露出は,1節で確認したように,高級ブランドの希少性から は,もろ刃の剣となりうる。このため,店頭での

Action

に結び付かせるための戦略構 築が重要な課題となる。自社のブティックを訪問し購入してくれるファッション関連商

────────────

Lauterborn, R.,(1990) New Marketing Litany : 4 P’s Passes ; C-Words Take Over ,Advertising Age,Oct 1, P.26.

8 マーケティング・コミュニケーションの基本的な概念は,以下の研究で提示された。

Delozier, M. W.,Marketing Communications Process,McGraw-Hill, 1976.

Strong, E. K., Theories of Selling ,Journal of Applied Psychology9, 1925, pp.75−86.

ラグジュアリー・ブランドのマーケティング・ミックス(中谷) 551)83

(6)

品とは違い,香水や化粧品では,ライバル製品も並ぶデパートなどの売り場で,いかに 顧客を取り込むかが重要な戦略となってくる。

このような問題に関連し,Nakatani(2008)では,Avlonitis and Gounaris(1997)や

Traill and Meulenberg(2003)の先行研究を基に,ブランドの構築には,以下の 3

つの イノベーションが必要であることを示唆した。

(1)製品・サービスのイノベーション

(2)消費者マーケティングのイノベーション

(3)企業内・物流販売のプロセスのイノベーション

既存のマーケティング研究に課題があるのは,(1)の製品・サービス,(2)の消費者 マーケティングを中心に議論されているからであろう。だが,マーケティングの究極の 目的が売り上げを伸ばし,利益をあげることなのであれば,(3)の企業内や物流・販売 にもイノベーションが必要となり,それを研究課題とすることにも意義があると思われ る。

以上の議論より,シャネルなどのラグジュアリー・ブランドは,その製品の特異性の ため通常の消費物とは異なるマーケティング・ミックスが必要となる。だが,これまで

4 C

の概念や,AIDMA,およびブランド構築の

3

つのイノベーションの観点から同社 を検証した研究はない。このため本論では,まずシャネルのマーケティング戦略を

4 C

の観点から先行研究をまとめ,イノベーションの(3)の課題を中心に検証してみる。

Ⅲ マーケティング・ミックスと AIDMA による検証

1.顧客にとっての価値(Customer Value)

前述のように日本では高級ブランドがよく売れるが,1970年代以降,様々なブラン ドが参入しており競争は厳しい。特に日本の消費者は,満足させるのが最も難しい顧客 と考えられている。シャネル(株)の現代表であるコラス氏自身も,「日本人は

2000

年 以上も前から品質の高いものを好み,創造し続けており,歴史的にラグジュアリーの本 質を理解する能力に長けている」と述べてい

10

る。このような中,単に有名ブランドとい うだけでは成功はおぼつかない。シャネル社の場合は,いかに顧客にとっての価値を創 造してきたのであろうか。この章は香水・化粧品部門を中心に同社のマーケティング手 法を考察する。

────────────

10 2013930日 日経トレンディネット掲載『シャネル社長, ちょっとした危機 を脱するために 繰り出した秘策とは?』

http : //trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20130924/1052568/

同志社商学 第65巻 第5号(2014年3月)

84(552

(7)

1. 1

製品イノベーションの連続性

シャネルは,「技術は必ず最良の物から出発しなければならない」という言葉を残し ている。山田(2008)や西口(2011)が指摘しているように,フランス貴族のご用達 であったエルメスやルイ・ヴィトンとは異なる歴史が,シャネルの製品開発の大きな特 長となっている。彼女は裕福でない環境で育ち,孤児院に預けられた体験もあり,それ までの伝統やしきたりを破壊することを厭わなかった。他の一流デザイナーのように,

有名なメゾン(ファッション関係の店や会社)での修行をしていないため,デザインな どは,より独自性を追求できた。その根源は,既成概念にこだわらず,自分が行動しや すい,着心地の良いものを作り出すことであった。

素材では,馬の調教師が着ていたジャージーや,男性ファッションに使われていたツ ィードを女性服に取り入れた。色使いもそれまでの華やかなものから,黒と白を基調に したり,下着の色とされていたベージュを積極的に使ったりした。デザインの特徴とし ては,後のシャネルスーツの原型となる「リトル・ブラック・ドレス」など,シンプル で機能を重視したものを開発した。服だけでなく,足が小さく見え,汚れが目立たない ように,爪先部分を黒にし,それ以外をベージュにした「バイカラー」という

2

色のハ イヒールを生み出した。さらに,女性が自由に行動できるように,肩にかけることで手 が自由になるショルダーバッグや,携帯できる口紅としてリップスティックの原型も発 案した。

1. 2

香水のイノベーション

フランスでは,17世紀から君臨したルイ

14

世の時代から,体臭を消すための香水の 使用が盛んになり,製法にも伝統的な手法があった。花などの天然素材を主原料として おり,香りは長持ちしなかった。容器も,例えばマイセン焼の陶器やクリスタルなど,

宝飾を凝らしたものが主流であった。

シャネルはこれに対して,既存の香水では満足できず,より実用的なものを求めてい た。当時の愛人であったロシア皇族のドミトリー大公から,かつてロシアで活躍してい たフランス人調香師のエルネスト・ボーを紹介された。シャネルは彼に複雑で奥深い香 りを要求した。ボーは様々な原料を調合した幾つかの試作品を作り,それぞれ

1

番から

5

番と,20番から

24

番の番号をつけシャネルに提示した。この中で,シャネルはジャ スミンやバラなど

80

種類以上の原料を混ぜ合わせた

5

番を選んだ。ネーミングも画期 的で,「Chanel No.5」と単純に数字名をつけ,飾られた名前より,製品そのものの価値 を訴求することにした。容器も四角いガラスのボトルにし,製品名を記したラベルを付 けただけの物であった。香水には,それまで使われなかった合成香料のアルデヒドが調 合されており,長時間に渡り香りが維持される。このためシャネル

No.5

を使うと,そ

ラグジュアリー・ブランドのマーケティング・ミックス(中谷) 553)85

(8)

れまでの香水のように何度も付け直す必要はなくなった。以上のように,シャネル

No.5

は,イノベーションを追求した製品であり,1921年の発売以来,香水でもっとも 強いブランドになった。

以上のように,シャネルは顧客に様々な新しい価値を提供してきた。

2.顧客の負担(Customer Cost)

ラグジュアリー・ブランド製品の価格は,他の商品のように,単純にコストに見合う 利益を乗せるという図式では当てはまらない。例えば,高級ブランドのバッグは原価の

10〜12

倍の値段設定になってい

11

る。このため,一般的な製品とは異なり,消費者が持 つ満足度や虚栄の代価といったものに影響される。西口(2011)が指摘しているよう に,ブランドに付随する「評判効果」の影響が大きい。小川(2004)はこれを,「上層 吸収価格づけ(Skimming Pricing)」として,利益性の高い富裕層向けのプレミアム価格 を付ける戦略としている。逆に値段が安いと大勢が購入でき,上層の消費者は他の消費 者との差別化ができない。このため,精神的な優位さが持てず,満足度は低くなる。Ⅱ 章で述べたように,90年代後半に「シャネラー」という若年消費者が増えた。このた めブランドのイメージを損なうということで,シャネル(株)はメディアへの露出の管 理を厳しくした。だが,このような統制が一般客離れの要因の一つとなったとして,メ ディアをうまく活用する方針に変えていく。

化粧品専用メーカーであるロレアル社では,高級品のランコムから,一般消費者向け のロレアル・パリのようにチャネル別に価格帯を設定している。このことで,上級顧客 だけでなく,ボリュームゾーンである中級消費者層もターゲットにできる。だが,シャ ネル社の化粧品はプレミアム商品に限定しており,値段は高いラインしかなく,あまり 大きな消費者層は狙えなかった。このため同社は,長沢・杉本(2010)が報告している ように,日本の消費者向けに化粧品の価格を安くし,顧客の負担を少なくしている。

3.顧客とのコミュニケーション(Communication)

3. 1

シャネル初期のコミュニケーション活動

上流階級でもなく,特定のメゾン出身でもなかったシャネルが,初期段階で顧客へ製 品を訴求するには特別の手法が必要だった。当時は,エルメスなどに比べ,前述のラグ ジュアリー・ブランドの条件である,③の伝統や歴史の裏付けはなかった。この問題を 解く鍵は,④の強いブランド・アイデンティティやブランドの連想性の活用である。高 級ブランド商品は,ごく一部の富裕層が購入するものであり,雑誌などのマスメディア

────────────

11 Nagasawa, S., and Sugimoto, K.(2009)The Succession of Technology and Production of the Technology Management Brand Chanel Waseda Business & Economic Studies,Vol.45. PP.51.

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(9)

だけでなく,特定層の口コミによる評判の伝播が欠かせなかった。ここで有効だったの は,西口(2011)の指摘するように,シャネル自身の築いた人的ネットワークである。

シャネルは,自宅で頻繁に芸術家を集めたサロンを開いた。画家のパブロ・ピカソ,サ ルバドール・ダリ,作家ではジャン・コクトーやレイモン・ラディゲ,作曲家のイーゴ リ・ストラヴィンスキーなどがメンバーであった。これらの芸術家と交流を深め,資金 援助をするだけでなく,自分のデザインにも刺激を受けた。しかし,何より「一流の芸 術家が集うサロンの中心であるシャネルの製品」というのは,最高の口コミ効果があっ た。また,前述のドミトリー大公と愛人関係にあったことや,宝飾品のデザインにはロ シアの亡命貴族を雇ったことは,上流階級との関係を連想させるハロー効果があった。

3. 2

第二次大戦後のセレブによるハロー効果

シャネルは,第二次大戦中のナチスドイツとの交流問題などでスイスへ亡命し,一旦 事業を閉じる。戦後ヨーロッパでの復帰は順調ではなかったが,シャネルブランドは米 国で復活した。特にその高級なイメージやデザインがアメリカのセレブにとても好まれ た。映画女優では,イングリッド・バーグマン,エリザベス・テーラー,ロミー・シュ ナイダーなどが愛用した。またケネディ大統領夫人のジャクリーヌ・ケネディもシャネ ル社の常連だった。ケネディ大統領が暗殺された時,彼女のピンクのシャネルスーツに 血痕が飛び散った映像は世界中に衝撃を与え,シャネルブランドの話題性を高めた。

また香水は,女優のマリリン・モンローの発言により一層有名になった。彼女は,

1952

年にライフ誌のインタビューで

What do you wear to bed?

(夜寝る時は何を着る のか),という質問をされ,

Just a few drops of No.5

(シャネル

No.5

を数滴),と答え たとされる。

wear

は,服を「着る」にも香水を「付ける」にも使われる動詞であり,

モンローのウィットをきかせた回答であった。2013年シャネル社は,ホームページで,

この発言が事実であるというモンローの生の声を使ったプロモーションビデオを流し,

宣伝活動を行ってい

12

る。以上のように,セレブが好むブランドという強いアイデンティ ティとその連想性の活用が成功し,現在もその資産をうまく利用している。

3. 3

メディアを活用したパブリシティーや広告

一部の富裕層向けの高級ファッション雑誌であった『ヴォーグ』に

1926

年にリト ル・ブラック・ドレスが掲載された。だがシャネルの場合,より発行部数の多い大衆紙 の『マリ・クレール』にも掲載されることで,一般大衆に対する認知度も上げている。

早くからマスメディアの宣伝効果の重要性を認識していたといえる。現代でも香水事業 のリーディング企業として,巨額の広告費用を注ぎ込み,消費者の認知度を高めてい

────────────

12 以下がこの事例を示すURLである。http : //inside.chanel.com/ja/marilyn/video

ラグジュアリー・ブランドのマーケティング・ミックス(中谷) 555)87

(10)

る。

また,他の企業と違うのは,創設者シャネル自体が今もブランドのアイデンティティ となっている点である。単なるデザイナーではなく,一流芸術家や貴族との華やかな交 流関係や恋愛により,時代の先端を行くキャリアを持つ有名人というカリスマ性を保持 していた。初期のスポンサーであり愛人の実業家カペルとの死別や,世界有数の資産家 である英国ウェストミンスター公爵との長い恋愛関係などは,それ自体が話題となる。

このため,シャネル個人に関する書籍も多く,映画も

4

本製作されている。特に

2009

年の『ココ・アヴァン・シャネル』はシャネル社の全面協力で制作された。これは,シ ャネルのブティック誕生

100

年目の前年であった。翌

2010

年には,『シャネル&ストラ ヴィンスキー』というシャネル

No.5

の誕生に関する映画も上映された。これらへの協 力は,記念の年を狙った同社のプロモーション活動の一環であろう。シャネル自身がさ らに有名になることで,ブランドのアイデンティティが強まるという効果がある。これ は,他社には真似できない同社の最大の武器であり,起業

100

年の節目をねらった顧客 へのコミュニケーション活動である。

4.顧客の利便性(Convenience)

どこで売るかというのが,マーケティング・ミックスの

Place

の概念であった。だ が,消費者にとって高級品も選択肢が多いため,利便性を考え,いかに消費者の手の届 く所へ配置するかを考える

Convenience

の概念が必要となる。進出国での初期の店舗展 開,物流ネットワークの整備,顧客に直接対応する社員の商品・サービスへのコミット メントなども,実際の利益を伸ばす重要な課題である。前述したブランド構築におけ る,(3)の企業内や物流販売のプロセスのイノベーションの観点である。既存のラグジ ュアリー・ブランドのマーケティング研究の問題として,この点を十分に議論している ものは多いと言えない。

井上(1988)によると,シャネル社は他のブランドに比べて慎重な戦略を取ってき た。ディオール社は

1970

年に東京でブティックを開いている。イヴ・サンローラン社 も,ほぼ同時期である。シャネルの香水は

1969

年にリーベルマン・ウェリシェリー社

(Liebermann Waelchli S.A.)が輸入販売を始めた。だが,日本での服の販売は,1978年 の秋以降であり,日本法人の設立も

1980

年と早くない。

この背景には,創業者シャネルのブランド・コントロールの姿勢がある。他の企業は 服の型だけでなく,そのブランド名のついた印であるグリュフを付けて売ることを許可 して高額な利益を上げるライセンス販売をしていた。だが,シャネルブランドの服は,

全てパリの店でのオーダーメードのオートクチュールであり,既製服のプレタポルテの 販売はしなかった。服の型を販売してコピーすることは認めたが,シャネル製品のグリ

同志社商学 第65巻 第5号(2014年3月)

88(556

(11)

ュフは使わせなかった。このためシャネルの服を手に入れるには,パリまで行き直接注 文するしかなかった。顧客にとっては不便で排他的であるが,そのことがブランドの希 少価値を高めた。シャネル社がプレタポルテの事業を開始するのは

1978

年であり,シ ャネルが亡くなって

7

年後のことである。

長沢・杉本(2010)では,現在の銀座,青山のシャネルビルに関連し,売り場につい ての報告が詳細になされている。だが,これまで日本におけるシャネルのビジネスの研 究は,現日本法人社長のリシャール・コラス氏が入社した

1985

年以降の報告が多い。

彼の貢献は大きく,95年の社長就任以来,13年間で売り上げを

3

倍にし

13

た。これらの 報告はラグジュアリー・ブランド研究に多くの示唆を与えている。

しかしながら既存では,同社が日本に参入した初期の頃の店舗展開に関する考察はほ とんど行われていない。シャネル社が,日本でいかに顧客への商品の提供を開始し,ビ ジネスを軌道に乗せ,今日の繁栄の基礎を作ったのかについて検証は十分でない。たと え海外で有名なブランドであっても,後期に参入した企業が,進出国で成功を収めるま での当初のプロセスには,様々な課題があったはずである。同社のマーケティング戦略 を確認する上で,重要な市場である日本での初期における発展段階の検証は意義がある と考える。

Ⅳ 日本におけるシャネルブランド構築のケーススタディ

1.手法

先行研究で報告されていないシャネルの日本での初期の展開を調査するため,本研究 では,1974年から

1986

年まで日本でシャネル社に勤務し,セールスのマネージャーと して活躍したハンスピーター・カプラー氏にインタビュー調査を行った。彼は,1988 年から

1999

年の間パルファン・クリスチャン・デイオール・ジャポン(株)(Parfums

Christian Dior KK, LVMH Group)に勤務し日本法人の代表取締役社長を務めた。また 1999

から

2007

年はウォーターフォード・ウェッジウッド・ジャパン(株)(Waterford

Wedgwood Japan KK)に勤務し,日本及びアジア地区の代表取締役社長を務めた。この

ように,日本におけるラグジュアリー・ブランドの構築,および再生の第一人者として 活躍してきた。

面談は

4

回に渡り,インタビュー内容はレコーダーで録音しテープ起こしを行っ

14

た。

────────────

13 長沢・杉本 前掲論文 216ページ。

14 1回目 20124108thSwiss-Japanese Roundtable 19 : 30−21 : 00 於 法政大学ボアソナードタワ 26A会議室

2回目 2012525日 インタビュー 13 : 00−15 : 00 於 法政大学ボアソナードタワー19階経

済学部資料室 !

ラグジュアリー・ブランドのマーケティング・ミックス(中谷) 557)89

(12)

以下にその結果を報告する。

2.日本でのブランド構築前

スイス人であるカプラー氏は,最初はバック・パッカーとして

1972

年に渡日した。

日本中を旅行し,風土や文化に魅せられ,当初は滞在を伸ばすという経済的理由でキャ リアを始めた。ロレックスなどを輸入していたスイス系商社リーベルマン・ウェルシェ リー社が,前述のように

1969

年からシャネルの香水の輸入代理販売を開始していた。

カプラー氏は

1972

年に同社に入社し,シャネル輸入代理店のスイス人の代表に誘われ,

74

年にシャネル部門に移った。

日本におけるシャネル製品は,遠い国の有名なブランドであり,ごく一部の層にしか 認知されていなかった。当時シャネルの服はオーダーメードであるオートクチュールの みで,購入するにはパリ本店に出向くしかなかった。商談,採寸,仮縫い,完成品の受 け取りのために,何度もフランスに渡航しなければならなかった。当時の円の価値は低 く,このような行動ができる顧客はごくわずかであっ

15

た。またシャネル

No.5

も,前述 したようにマリリン・モンロー人気のおかげで話題にはなった。だが,一部の富裕層が 海外旅行をした時にお土産に買う程度で,日本の一般消費者にはほとんど親しみがなか った。先の

AIDMA

から分析すると,一時的に注意や興味を持つ人はいたが,それを 自分が購入する商品として欲しがるまでには至っていなかった。

3.ブランド構築の課題

カプラー氏がシャネルの香水のセールスを開始した

1974

年は,輸入代理店として東 京都と大阪に事務所があり,担当者は

7

名だけであった。彼はトレーニングの一環でパ リのシャネル本社に赴き,記録映像などを通してブランドの基本理念を学んだ。黒と白 を基調とし保守的で,シャネル自身のブランドのアイデンティティの維持を重要視して い

16

た。

カプラー氏は現場主義で,売り場や顧客を訪ね,直接自分の目で見て確かめることを モットーとしていた。シャネル

No.5

の日本での認知度は低く,取引先のデパートや化 粧品販売店を訪問しても,多くの輸入香水の

1

品としてショーケースに並んでいるよう な状態であった。また,一般の消費者は,輸入品は値段が高い上に香りが強いという認

────────────

! 3回目 2012712日 レクチャー及びインタビュー 15 : 00−17 : 00 於 法政大学多摩校舎経済 121教室

4回目 20121215日 法政大学産学協同マーケティングプレゼン大会 14 : 00−17 : 00 於 法 政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎S 306教室

15 1973年は1ドルが260円−300円を推移していた。

16 カプラー氏によると製品コンセプトのおよそ8割は変えずに2割をモードに合わせて変化させていた。

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識を持っており,一部の人を除いて身近な商品として考えていなかった。前述のように

70

年から既にブティックを持つディオールなどは,消費者との接点もありブランドは 認知されていた。一方,後発のシャネル製品に関しては,目に見て触れる機会も少な く,遠い存在で,興味も持たれていなかった。シャネルブランドのアイデンティティや 価値はうまく消費者に伝わっていなかった。

輸入代理店の小部門として,大きな広告・販促費もかけられない状況で,いかに商品 やブランドの特性を消費者に伝えるかが課題であった。顧客を観察し続ける中で実感し ていたのは,商品の売り場でのブランドの見せ方が消費行動を左右するということであ った。ある時,米国の化粧品会社がブランドカラーの青色をショーケースの中に使用し ているのを見つけた。カプラー氏はすぐにインスピレーションが湧き,早速シャネルの ショーケースの中に黒色を取り入れようとした。だが,デパートの売り場の担当者に は,化粧品のフロアーは全体的に明るいので黒色の使用は歓迎されなかった。75年か ら説得を始め,少しずつ黒色の使用を認めてもらった。彼の信念通り,黒こそがシャネ ル製品を象徴するもので,ショーケースの中で白色がメインのシャネル

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のパッケ ージを際立たせた。観察をすると,以前に比べて明らかにシャネルのショーケースに立 ち寄る客が増えていった。

売り上げが伸びていく中で,カプラー氏は,より一層黒色を目立たせる売り場を作ろ うと思った。今度は小さなショーケースの中だけでなく,デパートの一角を借り上げ,

ケース全体やカウンターも全て黒色に変え,黒のゾーンを作ろうと考えた。まだシャネ ルのブティックは日本にはなく,デパートの売り場が最大のシャネル商品の発信の場所 だったからである。しかし,このアイディアは,ことごとく断られた。ショーケースの 中ならまだしも,明るいイメージを大切にするデパートのフロアーの一角に黒いスペー スがあると,他とのバランスが悪く,見栄えも良くないというのが主な理由であった。

4.黒色使用への交渉とブランドの現地化戦略

交渉は難航し続けたが,絶好の機会が訪れた。シャネル社は,1975年から化粧品事 業を開始しおり,78年の春から日本でも販売を始めることを決定した。シャネルの化 粧品の販売は,日本のデパートにとっても魅力的なものであり,全国の優良デパートか ら問い合わせがあった。カプラー氏は次のようなアプローチで交渉に臨んだ。

「日本の代表的なデパートの

10

店舗だけで化粧品の販売を行いたい。東京

5

店,大阪

5

店を考えている。この選定には,シャネル社の黒のスペースをデパートの一角に設置 することを認めてくれることを条件としたい。」

結果的に三越,高島屋,阪急などの有名店

10

店舗がこの条件を受け入れてくれた。

それまでの明るいフロアーに,突如としてシャネルの黒いコーナーが出現した。シャネ

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は白いパッケージだが,化粧品の容器は黒を基調にしているため,売り場その ものがブランドのアイデンティティを具現化することになった。シャネルの言った「黒 はすべての色に勝つ」というのが日本で実現していくことになる。

カプラー氏は,商品自体にも工夫をした。フランス人と日本人の肌の色が異なるた め,似合う色も違う。日本の店舗では,可能な限り日本人の肌に合いそうな色合いの商 品も揃えてもらうようにした。また,フランスと日本の違いは,顧客に対するサービス の概念である。日本では,単に商品を売るだけではなく,有形無形のおもてなしを提供 する必要がある。このため,フランス本社とは異なるトレーニングを行う必要があっ た。例えば,お辞儀の仕方や,買い物が終わった客が立ち去るまで頭を下げるなどであ る。このような流儀はフランス本社では考えられないことだった。一流のブランドには 一流の接客が,日本では特に重要だと考えたのである。また,従業員のモチベーション の与え方も,現地に沿った方法が必要であった。優秀な社員にリベートを高くするとい う欧米の手法だけでは十分機能しなかった。チームとして団結して,目標に取り組むこ とも大切であると考えた。このため,日本人に合ったチームとして協力して目標を達成 するやり方を導入し,グアムへの社員旅行なども行った。このように,販売手法の改善 や,社員のコミットメントの向上の方法も現地化させた,前述の(3)のプロセスのイ ノベーションにより,日本でのラグジュアリー・ブランド構築を目指したのである。

5.成果

以上のように,シャネルブランドを現地化する戦略を行い,経営手法も日本に合わせ た。提供する商品の適合や,取扱う店員の対応を改善し,売り場での体験を通して顧客 の満足度を高める工夫は実を結んだ。黒いコーナーのデパートへの設置は日本初であ る。これは,フランスでの化粧品の売り方は日本とは違っていたからである。当時のパ リでは,化粧品は専門店で取り扱うのが通常であり,デパートの一角を仕切るという手 法はなかった。だが,やがてパリのプランタンなどのデパートでも,日本の成功に従 い,この手法を取り入れることになる。子会社の成功手法を本社が取り入れるリバー ス・イノベーションの一例ともいえる。

デパートでの黒いコーナーによる販売は,やがて

30

店舗ほどに拡大し,売り上げも 拡大した

1980

年に,シャネルの日本法人を設立することになった。十分に利益を創出 したため,輸入代理店方式からのステップアップである。カプラー氏は

1978

年秋から の日本におけるプレタポルテの販売開始も手伝った。1987年まで在職し,この時には デパートの販売店は

50

店舗近くまで拡大していた。関連する従業員は

200

名以上にな っていた。

ビジネス拡大の中で,どの局面が一番大変かということは一概に言えない。しかし,

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後発のラグジュアリー・ブランドが,日本のような厳しい消費者のいるマーケットでビ ジネスを立ち上げ成功するには,相当な努力が必要である。この章の考察で明らかにな ったのは,いかに有名な高級ブランドであっても,その本質をよく理解した上で,進出 国特有の事情に合わせてマネジメントの現地化を実践しないと成功は難しいということ である。

Ⅴ ま と め

本論では,ラグジュアリー・ブランドの代表とされるシャネル社の事例をマーケティ ング・ミックスの

4 C

の概念を活用し検証した。この中で,特に

4

つ目の

C

である顧 客の利便性という観点では,先行研究では十分確認されていなかった。いかに消費者に 届けるか,という物流や店舗展開の議論は,既存のマーケティング検証では,それほど 重要視されていないように思われる。だが,どのように製品自体の価値を高めようと も,実際にそれを消費者が手にしなければ成果は望めない。当初シャネル社は,服飾な どは本社だけの販売であり,排他的なコミュニケーション活動を行い,日本への進出も 早くなかった。後発のブランドとして,最初は看板商品の香水も売れなかった。しかし 日本のマーケティング責任者が,独自のアイディアや経営の現地化を行ったことで成功 を収めることができた。

進出した国では,他国のブランドは,最初からブランド力を持っているわけではな く,特定の戦略を実施し,適切な戦術を導入し現地化して構築できるものである。本研 究はこのことをシャネル社の事例で確認した。ここでの議論は一社のケーススタディで あり,ラグジュアリービジネスのマーケティング手法として普遍的な議論はできない。

またシャネル社は,株式を公開しておらず,特定の企業情報は入手しにくい。このため 本論では,貴重な先行研究を参考にし,詳細なインタビュー形式を取り入れ議論を進め た。

結果として,ブランド構築の第

3

のイノベーションである,企業内・物流販売のプロ セスにより注目し,今後のラグジュアリー・ブランド研究を進めていく必要性を示唆で きたのではないかと考える。

付記 亀田先生には国際ビジネスコミュニケーション学会での活動を中心に,長きに渡りご丁寧なご指 導やアドバイスを様々な形でいただいた。その研究に対する熱心なお姿と,後身への温かいご支援 はいつもたいへん感銘を受けております。

ここに付して,心からの感謝を申し上げると同時に,ますますのご発展を祈念いたします。

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参考文献 日本語文献

1]井上隆一郎『パリのファッションビジネス』筑摩書房,1988年,1−298ページ。

2]長沢伸也・杉本香七『シャネルの戦略』東洋経済新聞社,2010年,1−356ページ。

3]長沢伸也・福永輝彦「ラグジュアリーブランド「グッチ」にみる経営戦略とブランドマネジメン ト」,『早稲田国際経営研究』(早稲田大学WBS研究センター),Vol.43, 97−108ページ。

4]西口敏宏『ココ・シャネルの「ネットワーク」戦略』祥伝社黄金文庫,2011年,1−253ページ。

5]小川孔輔『ブランド戦略の実際』日本経済新聞社,2004年,1−196ページ。

6]齊藤通貴「ラグジュアリー・ブランド購買モデル:規範的因子としての社会階層」,『三田商学研 究』,(慶應義塾大学),Vol.51, No.4, 2008年,93−106ページ。

7]山田登世子『シャネル−最強ブランドの秘密』朝日新聞社,2008年,1−209ページ。

外国語文献

1]Avlonitis, G. J., and Gounaris, S. P. 1997. Marketing Orientation and Company Performance.Industrial Marketing Management,12, PP.275−293.

2]Arker, L. J.(1997)Dimensions of Brand Personality,Journal of Marketing ResearchVol.34, No.3, PP.347

−356.

3]Jean-Noel Kapferer, J-H., and Bastien, V.(2012)Luxury Brands. London, Kogan Page.

4]Nakatani, Y.(2008)Innovative Strategies in the Confectionery Industry : A Case Study Approach Evaluating Brand Leadership in a Regional Market.Studies in Liberal Arts and Sciences Vol.40, PP.183−

202.

5]Ricca, M., and Robins, R.(2012)Meta-Luxury : Brands and the Culture of Excellence. London, Palgrave Macmillan.

6]Traill, W. B. and Meulenberg, M. 2003. Innovation in the Food Industry.Agribusiness,18, PP.1−21.

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参照

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