国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度
著者 嶺 学
出版者 法政大学社会学部学会
雑誌名 社会労働研究
巻 33
号 1
ページ 149‑183
発行年 1987‑01
URL http://doi.org/10.15002/00007432
(1) 別稿において、筆者は、国際労働基準が伝統的社会政策論では把握できないような発展を一示しているため、その理解には新しい観点が必要であることを指摘するとともに、それに基いて最近の国際労働基準の分析を行なった。新しい観点においては、ILOが国際機関であり、国家が憲章的文書に掲げる目的に同意し、またはこの国際機関が果たしている機能に利益を見出して、加盟している(しかし国連専門機関であるため加盟国は普遍性をもつ)こと、また、
他の国際機関とは異り、三者構成原則という優れて労使関係的な手続上の原則に依っていることが特徴であることを指摘した。三者構成原則においては、労働者および使用者が、国家または政府から独立した主体であり、結社の自由を有することが不可欠である。ILOはその発足以来、国際労働基準をその活動の基本としてきた。最近やや変化はあるが、依然ILOの存在理由となっていると考えられる。その重要性にかんがみ、ILOは、これまでも何回か、国際労働基準のあり方や手続について検討と討議を行なってきた。最近では、’九八四年、第七○回総会に事務局長報告が提出され、これを巡って全体会議の場で、多数の代表が意見を表明した。さらにこの討議をうけて、理事会が
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一四九
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度
国際労働基準再評価の背景
嶺
学
最近改めてILO自体が国際労働基準を取り上げた理由は、事務局長報告によれば、ILOの使命にとってのその重要性、改善を要する諸問題の累積、環境条件の変化(技術革新、南北格差等)である。組織体としてその主要活動の有効性(の牙&ぐのロのmの)、手続の合理性などを再評価しようとしたと言えよう。有効性は特定の目標と関連する。(4) 事務局長報告はその序文で「人間の必要が経済を形成し、経済に従属してはならないこと」を明確にしてゆくこし一が
ILOの使命であると述べた。これは先進国におけるデレギュレ1ション、社会的目的の財政支出の削減、発展途上国の一部にみられる経済開発優先の政策態度の進展するなかで、ILOの目的を再定義したものと言えよう。以上のほか、次の事情を見落とせない。すなわち第一に、’九六○’七○年代を中心に、新興独立国が多数加盟し、加盟国数は戦前のほぼ三倍となり加盟国の構成が一変したことがあげられる。他方で、条約・勧告の大部分はこれらの発展途上国の加入前に採択されたものであり、その政策課題からみて必ずしも関連性(円の}のぐ四月の)を有していな 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五○
中心となり手続の改善などについて具体的検討に着手している。一方、われわれのグループでは、国際労働基準に対する国内の対応を検討するひとつの手段として国内において(2) 「ILO条約・勧告に関する労使リーダ1の意見調査」を行なった。この調査票作成の段階で、前記の事務局長報止ロを参照することができた。その後、総会における討論の詳細と事務局によるまとめ、理事会の設置した委員会による(3) 中間報止口等を参照することができたので、これらによって、国際労働基準に関して最近問題とされていることと、加盟国および労使の反応が明らかになった。意見調査の設問の相当部分は、これらと対応している。以下可能な限り国際労働基準の主要な問題点と国際的反応を述べ、これと対照して、調査結果を掲げることとする。全体の編成は頭書の観点によるものである。
七○回総会討議において、ILOないし国際労働基準の目的や、現実に果たしている機能について言及した者があ(6) ったが、憲章やフィラデルフィア宣一一二口における公式目標、事務局長の前掲の再定義のほか、①公正競争、②国際的関連における労働条件等福祉の向上および人権の保障、③平和と軍縮なども掲げられた。また、④国際労働基準が最低基準か到達目標かについて理解が分かれていることが示された。①は、先進国の使用者を中心に古くから唱えられて(7) 来たものである。総会の討議のなかにも登場しているものの、しばしばではない。総会の主要関心事はこれと対立する可能性のある基準の柔軟性にあったからであろう。しかし、国内の意見においては、経済大国に相応しく、ILO条約批准をすすめる必要があるといった表現の意見がしばしば表明された。不公正な競争者として貿易摩擦に関し非難をうけないように自戒を奨めるものである。②は、①と不可分に結びついているが、日本の労働組合の一リーダーが記した、国際的に労働条件等が改善するなかで日本の労働条件等も改善できるという理解に代表される。新興独立
国は国連加盟とともにILOに加盟することが多いが、国連傘下の国際社会は基本的人権の擁護に意欲的である。発展途上国もILO条約のうち基本的人権に関するものを批准し、また、関連条項に柔軟性を与えることに反対してい (5) いことである。つぎに、社会主義諸国が加盟して以来しばしば問題となってきた種類の問題であるが、東欧諸国から、条約の適用監視のあり方について、国際労働基準の根幹にふれる批判が提出されていることである。その内容については四項に述べる通りである。総会の討議においても主要論争点のひとつとなった。
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。
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度 二基本的機能と限界
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一
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五二
④は、②とも関連するが、総会の討論をまとめる過程で問題が鮮明となってきたものである。すなわち、理事会によって任命された作業委員会で、使用者グループは国際労働基準が伝統的に最低限の基準とされてきたことを強調した(「中間報告」)。国際労働基準が最低限であることは、もともと憲章の規定(第十九条第八項)で、国内の既存の法令等がILO基準より有利な場合に、条約の批准によって引き下げられてはならないことを意味していたので、やや異った文脈にある。他方、発展途上国の中には、条約・勧告を国内政策のモデルないし目標とみなす考え方が少な(8) くなく、しかも国内法令の適合状況を慎重に検討することなく条約を批准してしまう場ムロもあることが、総会討議からも窺われる。このような諸国にとっては、条約と国内法の突き合わせによる監視の制度は見当外れなものとなる。③は、東欧諸国の主張するもので、平和を実現し、軍拡競争をやめることが労働者の福祉の前進の不可欠な条件で
あり、ILOはこれらについて責任があるとする。』)の主張に促されたILOの決議も過去にはあったが、七○回総会では東欧グループのみの主張にとどまった。この命題が正しいとしても、取り上げれば東西の政治対立を明確化することになるであろうし、社会正義を通じて平和を実現するというILO創立以来の、目的と手段に関する考え方を
逆にしようとするものでもある。国内の意見調査では、約一○の項目(前掲③は含まない)をあげて、ILO条約・勧告が現実にどのような役割を果たしていると思うかについて質問したが、多肢選択の回答で、「普遍的な最低基準の設定」「労働における基本的人権の保障」「各国社会・労働立法への示唆」と答えた者が多かった(各五分の四)。全体としては、ILOの条約・勧告が国内における社会・労働立法がそこに到達すべき目標と意識されている傾向にある。前掲②④に近いと言えよう。
「国連専門機関として国際協調を労働分野で実現する」がこれに次いでいた。ILOの公式目的「社会正義を通じて
平和に寄与する」(一一一七%)や古典的見解ともいうべき公正競争の実現(三一%)はこれよりかなり低い。総会において日本政府代表は、政労使三者による討論の場としてのILOに期待すると発言しているが、これは国際労働基準に政策のモデルを求める考え方と解釈できよう。政府の見解がこれに尽きるのかどうか、明らかでない。総会の討議では、国際労働基準によっては覆い得ないような経済的問題があることが指摘された。ひとつは、発展段階の低い途上国におけるもので、これらの国では伝統的農業、都市におけるインフォーマル・セクターの産業構造上の比重が高く、また失業・半失業がこれらの産業と結び合って存在している実態に対して、近代的雇用関係のルールたる国際労働基準は関連性をもたないのではないかという問題である。経済開発や雇用の拡大、そのための技術協力が対策となるが、これらは国際労働基準とはどのような関係にあるべきなのか、多様な見解が示された。国際労働基準は、雇用拡大にとって支障となるとみなすバングラデシュ使用者と、経済開発のために国際労働基準とその監視がないがしろにされてはならないとのフィリピン労働者の意見は対照的である。また、国際労働基準(a)と経済開発、雇用拡大ないし技術協力(b)の関係において、bがaに優先すべきだ(シンガポ1ル政府、インド使用者)。aとbがともに追求されるべきだ(セネガル政府、インド政府)、aの実現のためbがなされるべきだ、aを補足するようにbが位置づけられるできだ、aとbの関係を検討すべきだなどの意見が出されている。このうち、バングラデシュ使用者、シンガポール政府等の見解は、国際労働基準の否定に展開する可能性をもつものである。もっとも、発展途上国の使用者の中にも労働条件等の改善が経済上の利益をもたらすことを認める見解もあり(パキスタン)、否定的な見解が支配的なわけではない。ILOの行なっている技術協力活動は、最近ILO活動のうちで予算、人員という側面からすれば比重が高く、さらに発展途上国の拡大要求があり、労働基準設定と並ぶ
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五三
ところで、ILOの技術協力は、その名称に伴うイメージとやや異り、会議、フェローシップ、専門家の派遣と人材の養成等がその手段であり、職業訓練や発展途上国の労働・社会政策の立案等広範囲の課題に取り組んでいる。資金源は、ほぼILO固有の予算以外に依存している。ILOでは専門家に対して国際基準との関連について指示する
など、国際労働基準と技術協力は相補うよう努めてきたが、総会における事務局長答弁においてもこの方法をさらに前進させるとのことであった。現在、両者の関連についての検討作業が進展中である。今のところ、ILOが発展途
上国への政策との適合性を求めて、単なる技術協力機関に転化する可能性は少ない。日本政府の立場は、国際労働基準を実施するに当たり、また経済開発一般について必要とされる人材の教育訓練のため援助に努力するというものであった。労使リーダーの意見調査では、条約・勧告以外で日本から貢献を高めるべき活動分野としては、調査研究などへの専門家による貢献、各種会議での役割強化、事務局への人材の選出に次いで技術援助があげられており、技術援助は回答者の過半数に及んでいるものの第一順位ではなかった。これを、発展途上国への専門家派遣が困難である実態を反映すると考えることも可能であろうし、また回答者が、ILOの情報機能や国際労働基準設定を重視しているためとも考えられる。国際労働基準の範囲外にある経済問題の他のひとつは、債務国の経済状況が、国連傘下の国際金融機構の圧力によって悪化し、失業が発生したり、労働条件が切り下げられるなどの問題であった。これについては、IMF、世界銀行等との協議を目指すこととなった。 重要な活動となっている。
ところで、ILOの技》 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五四
多数の発展途上国の参加による加盟国の構成の変化が今回の国際労働基準の自己評価の背景のひとつとなっていた
ことから、評価の基準としては、国際労働基準が、加盟国全体、特に発展途上国の関心や要求をとらえているかどうかが問題となった。これは主として課題への関連性の問題である(①a)。このほか今日の他の諸条件に即応しているかという問題があった(①b)。また、各国政労使が、それぞれの利害関心にもとづき、国際労働基準の目的ないし主要機能をイメージし、これを実現しているか否かを問題とする(②)。この顕著なあらわれは、「中間報告」で使用者グループが、条約による規制をできるだけ少なく、かつ低く11普遍性という言で’し、条約は加盟国の大多数が批准できるようにすることを提案したのに対し、労働者グループは、条約・勧告は労働・社会政策の目標であると把握して、批准は判断基準とならないとしたことであった。一方、ILOは国際労働基準の制定と実施について詳細な手続と形式を漸次形成し、これらはきわめて能率的に運用されてきた。制定段階での、準備のための文書と各国への照会、二回討議の手続によって、議題として取上げられたものは、ほとんど例外なく条約・勧告となってきた。国際労働基準はこの手続と形式によって形成されるから成立した条約・勧告の評価は、これらにも及ぶ必要があった
(③)。
1評価の基準国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度 三条約・勧告の評価と採択手続の改善
一五五
2基準整備の方針総会において①aについては、多くの発展途上国にとって、その加盟前に出来た条約・勧告の大部分は適合しないところがあり改訂が必要であるとの意見が出された。①bについては、条約・勧告は三○○を超えたものの、時代遅れのもの、批准数の少ない条約等があり、現状に即した改訂、統合などが必要であるとの意見があり、今後は既存条約・勧告の改訂を重視すべきであることについてはほぼ異論がなかった。他方、①bに関し、労働者代表などから、今日の状況に対応するため多数の新たな主題を取扱わねばならないとの意見が表明されたのに対して、使用者グループおよび日本を含む多数の政府は、新規主題はなるべく抑制し、改訂を中心とすることを主張した。政府が新規主題に消極的な理由は、イギリスが率直に述べているように、かつての経済の拡大期と異り、意欲的な基準を求めることは非現実的になったと言うことであろう。イギリス政府は既存基準を改訂するにあたっても向上ではなく抑制を目指
すべきことを示唆した。アイルランド政府は、新しい欲求を起こす基準に反対するとともに、労働時間と雇用、社会保障と雇用の関連のような、停滞する経済のもとでの新しい主題を取り上げる必要があると興味ある主張を行なった。事務局長は、これまで相当数の改訂を手懸けてきたし、大部分の条約・勧告は有意味であるとした上で、一九七九年に行なわれたような既存条約・勧告の分類(批准・適用を促進するもの、改訂するもの、その他)と新規主題のリストアップについて再度検討すると述べた。その後、この分類作業が進行し、「中間報告」に暫定案が示された。国内の意見調査では、分類作業を行なうべきだとの意見が六三%に達し、理事会の行き方を支持している。事務局長報告に可能性が示されていた「中期計画により主題を体系的に取り上げる」は三分の一の者が支持した。統合化は 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五六
3発展途上国の参加と議題の決定発展途上国とくに小国が、十分な規模の代表団を送り得ないため、財政的援助を与えることなどが従来から問題となっていたが、総会でもそれを支持する意見があった。また、基準に関する諸手続に慣熟するような援助や事務局とのコミュニケーションの必要性も説かれた。しかし、発展途上国が、審議に参加し得ないとされる理由はこれにとどまらない。ひとつの重要なものは関心ある議題が選ばれないことである。理事会の議題を決定する際、これまでの理事会は発展途上国の代表が少なかったこともあって、発展途上国の必要と関心に適合した議題が選択されないという不満があり、このことは総会においてもいくつかの政府代表(中国、インドネシア、タイ、ナイジェリア、フラン
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五七 ほぼ同数が必要と認め(使用者が相対的に多し、「今日の必要に対応した主題を取り上げる」(労働者側が多い)がこれに次いでいる。これらの国内の意見は、総会の討論および理事会がその後採用した方針に沿ったものであったと言える。ただし新規主題を取り上げるとの意見はかなりあり、その多くが新技術導入に関するものをあげたことが注目される。そのほか取り上げるべき主題として多国籍企業の労働問題などがあった。総会における討議をみると、国際労働基準の制定に消極的な態度は、ILO総会における議題数を減らし、制定の・ヘースを落とすことが望ましいとの見解に連る。労働者側はこれに反対である(例えばICFTU)。日本を含む各国使用者と政府は議題を減らすことにより、審議を十分行なうことができ、また、小国が討議に参加することを可能にするとしている。後の点は、総会において議題ごとに委員会がおかれ、実質審議はここで行なわれるため、大きな規模の代表団を送れない国は審議に加われない現状を改善する趣旨である。
国の政労使は、そ』(9) すべきこと、その庁
前述の通りである。 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五八
ス)や使用者(インド、バングラデシュ)によって主張された。理事会の構成を全構成国の実態を反映するように改革する試みは、多年の努力を経て、’九八六年に一応結着をみたから、今後は議題の選択にあたり、発展途上国向けのものが多くなる可能性が生まれた。八四年の段階では当時の理事会のもとで、地域諸会議を用いるとか、文書によ
って照会するとか、各種の方法で、事前に協議した上、憲章の定めるところにより理事会が決定することが、事務局長から示唆されており、これら協議を支持するとともにその具体化についての意見が総会の席でも相当数出ていた。国内の意見調査でも、反応は類似していた。すなわち、「事前に地域会議等で意見をきく」(六三%が賛成)、「各国労使が理事会に対して独自に意見を提案する」(五二%)、「議題選択についても各国政府に質問書を送る」(四○%)となった。何らか形の事前協議を支持する者が多いといえる。しかし、従来方式の方が意見がまとまり易く能率的であるとの少数意見があった。質問書方式の賛成者が少ないのは、議題審議にあたっての協議について政府回答に労使の意見が反映されにくい事情を反映しているであろう。
以上、何らかの基準制定に事実上連る議題の選択をめぐっては、総会では1項の①aとの関連で論じられたが、①
b、②とも関連している。①bとの関連では、ベルギー政府が、発展途上国の関心に合わせて議題を決めると工業国は関心を失うだろうと警告したのが注目される。②と関連しては、使用者グループが、好ましい労使関係、有能な労働行政、生産性と産業の成長と調和しうる社会進歩をもたらすような基準を形成すべきことを説いている。社会主義国の政労使は、それらの国で保障されている勤労権(国、宮S弓・『穴)こそもっとも基本的な権利でありこれを議題と(9) すべきこと、そのほか多国籍企業の規制を取り上げるべきことを一致して説いた。日本の労使の国内における意見は
総会において日本政府代表は、審議にあたり発展途上国の意見がよく反映されるとともに、条約が柔軟性をもつべ
きことを主張した。この見解が直接意味するところは、国際労働基準が、低い発展段階の国にとって高過ぎる場合、これは関連のない文書となってしまうが、柔軟な条項がおかれる可能性があれば、発展途上国も審議に積極的に参加するということであろう。その結果、自らに適した条項が実現され、成立した条約が広く批准されて、適用国の範囲において普遍的となると考えられている。この論理は総会において広く受け入れられ、柔軟性について多数の発言があった。しかし、そこには、おのずから一ニァンスの違いがあった。発展途上国の政府および使用者が柔軟性条項の必要、さらには拡大を説き、工業国政府は概して普遍性を原則とし、柔軟性を譲歩として容認するとか、慎重に限定すべきであるとしている。例えばイタリア政府代表は、過度の柔軟性は国際基準を無意味とすると発言している。他方、基本的人権については柔軟性を認めるべきでないとの意見はコンセサスを得た。ナイジェリアの使用者は有害物質の規制についても画一的であるべきであるとした。柔軟性をもつ条項はそれが恒久的である場合は、一一重の基準の存在を意味するが、これは、従来からILOの討議では否定されて来た考え方で、総会でもWCL代表がこの趣旨を
強調していた。インド政府は、条約において原則に関する規定、最低の基準および高位の基準をおいて、批准後漸次水準を高めてゆく興味深い提案を行なった。国内の意見調査においては、関連する若干の質問を行なった。日本のことを離れて一般的に、新しく設定された国際労働基準の水準が現状追認的な低さであれば、柔軟性の要望がおこる可能性は少ないが、改善をもたらさないであ
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一五九 4普遍性と柔軟性
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一六○
ろう。’九八一’八四年に採択された基準について社会進歩と現実性のバランスが崩れているという印象をもつものがあるか質問した答では、バランスが崩れているという答は一割程度であった。三者構成の全世界的討議の結果は、とりたてて問題とされていないと言えよう。理想的にすぎたと感じた意見は、ほぼ八一年の家庭責任をもつ労働者条約(一五六号)に集中した。日本の実情を超える規定を含んでいたためである。同じ期間について、普遍性と柔軟性のバランスについて印象を聞いたところ、バランスが崩れていると答えた者は、前問の半分以下で回答者は、同じくILOの審議に問題を感じていないことが判明した。柔軟性がなさすぎたと感じた条約は、’五六号条約および一五五号条約(職業上の安全と健康、一九八一年)であった。つぎに、柔軟性が認められるべきでない分野についてチェックしてもらったところ、強制労働の禁止、結社の自由、安全と健康を、労使を含め大多数が指摘した。児童労働の規制(六七%)、職業生活における差別撤廃(五八%)も高かったが、基準労働時間については使用者を中心に普遍性を認めない見解がかなりあった。労働者の一七%はいずれの領域についても柔軟性を認めるべきでないとしている。ILO総会の場の論議と、大筋において似ていると言ってよいが、ただこの調査で職業生活における差別撤廃についての意識が日本ではやや厳格でない可能性もある。重要条約で世界的に批准の多い一二号が未批准であることが想起される。他方、児童労働の規則についての右の高い比率は、発展途上国で児童労働が今日なお広汎に用いられていて、条約の批准もすすんでいない一方、日本では教育の普及の半面として事実上児童労働はほとんど姿を消している実態を反映するものであろう。
憲章上の国際労働基準には条約・勧告の二形式があるが、その最近の利用状況の実態とそれにどのような問題があり、それをどうすべきかについて、事務局長報告と総会討議でいくらかふれられている。まず、批准すれば履行義務
を伴う条約を政策のガイドラインである勧告より重視する考え方があり、労働者代表に特にその傾向が強い。総会で、WCL代表が条約でなくては労働者は満足しないと発言しているのが典型である。反面として事務局長報告が言うように、勧告は、現在では第二級の基準とみなされがちな状況である。かっては、独立の勧告が相当数あり、|般的または、実際的政策プログラム、経験不十分な先行的政策などに用いられ、また各国で団体交渉、企業内労使関係で処理されるような事項について用いられてきた。必ずしも第二級基準ではないことは、わが国における労働時間短縮勧告(二六号、一九六一一年)の影響からでも明らかである。総会では、ベルギー使用者代表が勧告の受入れを宣言する制度を設けるべきだと発言した。使用者グループは勧告の独自機能を「中間報告」で強調している。これは、条約を補完する勧告が近年、数の上で支配的になって来ていることへの反省に立つものであろう。補完的勧告は、条約で原則を定め、詳細を勧告に譲ったり、条約より高い水準を高めるため用いられたりしている。もっとも有効な役割関係について研究が必要であるとの意見もあった(カナダ政府)。条約と勧告を併存させ、条約には原則的な少数の事項を規定し、他を勧告に譲る考え方を総会で、政府と使用者の若干の代表者が唱えた。つぎに条約の中に、宣言的条約(己【・日・は。g}8目の貝]・ロの)が現われて、条約と勧告の役割区分を複雑にしている。批准国は一定の原則を実施する義務を負うが、具体的内容が確定しておらず、監視が困難である。条約が勧告に
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一一ハー 5条約と勧告
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一一ハ一一(、)接近したものと一一言えよう。この種の条約については、義務の不明確から批判がある一方(イギリス政府)、義務づけを嫌う使用者は積極的に評価している(中間報告)。条約については、本来批准を予定しているにもかかわらず、平均して五分の一程度の国しか批准していない。この
ことが国際労働基準の有効性、関連性の反省のひとつの端緒となった。しかし、未批准の条約も政策の目標となり、勧告と同じ効果をもつことはありうる。中間報告における労働者グループと同様、フィンランド政府も多数国の批准は望ましいが目的とすべきではないとの見解を表明している。他の注目すべき発言として、未批准の条約について批准の困難や各国の受入能力の検討を行なうべきであるとの指摘があったミルギー政府)総会の討議で、条約批准が少ないことと関連し、使用者グループは、採択にあたって政府代表は、将来の批准を見通して、賛成投票を行うべきであるのに、現実はそうなっていないことを批判している。日本の政府代表の場合も、(u) 賛成投票と批准とは区別し、大綱において承認できる場ムロ、賛成投票するようである。その後、批准の意思があっても国内法との具体的突き合せを行なうと支障を生じ、容易に批准が進まないこととなっていると推定される。
条約・勧告の関係についての国内の意見は次の通りであった。まず、条約や勧告について、これまで関係者によって表明されてきた主要な見解をあげ、労使に賛否を尋ねた。
賛成の多かった考え方は「基本的・普遍的事項は条約とし、細目や各国の法・慣行に差異があるものは勧告とすべきだ」が約一一一分の二、「条約と勧告の関係はこれまでも多様である。今後もケース・バイ・ケースで両者を使いわけてゆくべきだ」「批准されない条約を作っても無意味だから重要で基本的な事項にしぼって条約とすべきだ」がこれに次いでいる。これらの回答は労働者も賛意を示しており、併立型勧告のメリットを認めているものである。他方、
ILOはその長い歴史のなかで、国際労働基準の適用監視について、複合した諸機関と手続を備えるようになった。他の国際組織と比較すればこれらは充実しており、批准された条約の実効の確保に寄与してきた。これらのうち、経常的ないし継続的な活動となっている条約勧告適用専門家委員会、条約勧告適用総会委員会および結社の自由委員会の組織と活動が、主として七○回総会で討議された。このうち、前二者については、前年、東欧諸国の根本的な批判(、)がメモランダムの形で提出されていたため、総会においても多数の代表がこれをめぐって論じた。東欧諸国の批判は、論理的には適用監視の制度のみでなく、国際労働基準さらにはILOの存立意義にも関わるものであり、また、体制を超えて客観的な法律的判断は成立し得るかなどの原理的問題に関わっている。また、実際的には東西の政治対立を反映するものである。当然と言うべきであろうが、このような批判は従来からあり、総会で決着せず、解決が持ち越
東欧諸国の主張の要旨は次の通りである。すなわち専門家委員会の構成がILO加盟国の現状を反映したものになっておらず、社会的・政治的システムの相違を無視して西側諸国の価値基準によってケースが取扱われるため、偏った判断になっていること(①)、一部のグループはこれを政治的に利用し総会委員会は、社会主義諸国を非難する場となっていること(②)、これらは、主権の侵害となっていること(③)。これらの問題を是正するには、適用監視機関の
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一一ハーーー されている。 「批准して拘束力を生じる条約でなければ意味はないから、可能な限り条約とすべきだ」の考え方は、全体としては比率は低いものの労働者の六割が同意している。ILO総会討議同様国内でも労使の意見は明確に割り切れていない。
四適用監視をめぐる対立
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一六四
民主化等の改革が必要であり、総会に委員会を設け検討すべきこと(④)等である。東欧側の立場に対し、西側先進国の政労使は、わずかな一三アンスの差はあるものの、|致して真向うから反対し、(凪)現状を肯定する。発展途上国の相当数は東欧側の意見に好感を一示し、一部は西側に同調を示した。
①l専門家委員会のメンバーは、個人の資格で選ばれ、批准された条約と国内法令の対比等を客観的にまた不偏の立場で行なうことが任務である。中国政府代表は、専門家も価値基準から自由でないと主張したが、西側の人々は、そのように考えない。中国政府のような批判がある以上、専門家の構成について配慮することが妥当であろうが、総会における事務局長回答によると、既にバランスが考慮されているという。東欧の主張は体制の違いに応じて判断基準を変えるべきであるということであり、アジア諸国を含む相当多数の発展途上国は、発展段階に応じたものであるべきだとし、適用における柔軟性を主張する。これに対する反論は、この主張は、二重の基準を認めることとなり、それぞれ独自な解釈を許せば条約批准の意味もなくなるというものである。発展途上国の若干は、適用監視があまりに法律的であってはならないと主張し(インドネシア、ナイジェリア)、パキスタン政府は、国際労働基準を究極目
標としている国については、条約の要求を全部満たし得なくても非難さるべきではないと発言した。これらの見解は、ILO条約をも、法律的性格のない社会・労働政策の目標とみなしているもので、憲章の考え方を遥かに超えている。②と関連し、総会委員会には、条約未批准の国lアメリカは特に批准数が少ないlも加わって西側の問題は
放置したまま、社会主義国における人権関係条約の問題等をしばしば取り上げ、政治的宣伝を行なっていると東欧側は主張する。監視の本来の性格は問題解決のため協力することにあり、違反を非難することではないとも主張する。総会委員会における手続の主要部分は、専門家委員会の報告による批准条約の適用上問題のある一定のケースを選ん
適用監視の機能とくに総会委員会のそれが、現実には制裁の色彩をもった運用となっており、対立激化や批准抑制の効果をもつというのが東側の判断であるが、フォロ1アップによれば西側諸国は、公式手続を避けるための道義的圧力と解している。一方、本来あるべき機能としては、総会では、東西の別をこえて、対話、問題解決の奨励・援助などであるとの発言があった。このような考え方によれば、既に試みられてきた直接接触(&局のR8pSO〔)や、問題解決のための技術援助が好ましいということとなる。この方法には広い支持がみられた。③に関しては、東欧諸国は、その社会的・政治的システムに適合する法の解釈適用を行なっており、異った社会・政治システムにおける解釈を圧しつけることは、国家の主権を侵害することになると理解している。これに対して、西側の主張は、自らの意思により条約を批准する以上、批准に伴う義務lその中に国際的監視を受入れることを含むlを履行すべきことは当然であるとする.なお、フランス政府代表は、適用監視の機構は労働者の権利を擁護するためのものであるのに、東欧諸国は国家主権を問題としていると批判した.基本的人権l東欧における問題はい(u) ずれも基本的人権に関するlについて、国家主権を超えて国際的な関与を指向する考え方に連る発言と考えられる.④は、理事会の構成が西側工業国中心であった当時の状況から、総会の委員会で、改革案を審議せよと、東欧諸国④は、理事会の構成が
が主張するものである。この問題についての、 で、当該国政府による釈明と参加者の質問によって討議を進め、報告書を総会に提出することである。報告書には、特別。ハラグラフ、特別リストがあり、重要なケースについて叙述される。この部分の取扱いがこれまでも論争点となって宍)た。
についての、総会における日本政府の発言は、体制を超えた画一的適用と現行制度を支持するものであっ
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一六五
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一一ハーハ
たが、しばしば弁明の場に立たされる立場からか、ILOは裁判所ではなく、専門家会議意見は特定国を非難するものであってはならず、直接接触のような問題解決方法が好ましいとした。使用者代表は、使用者グループ同様に、画一的適用、現行機構支持を表明した。事務局長報告は、最近、結社の自由委員会への申立事件が大幅増加していることを指摘したが、日本の労働代表は、重大な労働組合権の侵害が起こっており、それへの対処が必要であると述べた。これは適用監視機構の実効性に関する批判とも考えられる。適用監視の実効性については、前述の論議の中で、現行機構が有効に機能し、指摘された違反が長期的には相当数解決されていることを根拠として、これを擁護する意見があった。ILOの適用監視活動の結果、投獄されていた労働組合リーダーが釈放されるといった例もあった。しかし、解決に時日を要し、その間に活動家が処刑されてしまうかも知れないと結社の自由委員会について、WFTUの代表は述べ実効ある措置を考慮すべきだとしている。この点については冒頭に述べた国際組織の性格から、実効ある措置は加盟国がメンバーとしてとどまる意欲を失なわせる
ほど強いものではありえない。
以上のような点を踏まえて、適用・監視について国内で意見を調査した結果は次の通りである。まず、適用監視活動について、|応知っている人は六五%程度となるが、意見を言いうる人は、全体の四分の一程度であった。制度が複雑で専門的なことのためであろう。専門家委員会、総会委員会、結社の自由委員会について、それぞれ委員の構成は適切か、審査手続は公正か、判断は公正妥当かと質問したが否定的意見はほとんどなかった。しかし、効果があがっているかという質問に対しては、否定的な意見が相当あった。専門家委員会については、コメントからみてその性格が広く理解されていない可能性があるが、否定的意見がかなり多かった。総会委員会についても、否定的意見が若
げられる。
これは、 後者の場合に影響が強かった分野としては「団結権」が別格というべき頻度であげられている。そのほか、男女の機会均等と平等、婦人の保護、最低賃金制、労働時間、週休制、有給休暇、安全衛生、三者構成、社会保障などがあ 干みられたが、政治色が強く出る、強制力がなく時間がかかるなどのコメントが付されている。結社の自由委員会の効果についての否定的見解は少なかった。以上、国内の意見では、総会における西側諸国の意見同様に、現行機構と手続は公正なものとみなされている。実効については疑義を感じている向きがあり、総会委員会の政治化を感じている者もいることも、総会における討議と同様である。
1影響についての評価国内の意見調査では、条約・勧告の日本への影響、とるべき態度等について一連の質問を行なった。これらの質問
のうち、総会における討論と関連のある少数のものについては、それも考慮しながら述べる。ILOの条約・勧告の制度(制定、批准、監視など)は、日本に対してこれまでどのように影響してきたと考える
かについて質問したところ、「全般的に影響、しかし弱い」が最も多く、二部の分野に強く影響」がこれに次いだ(三○%)。
前掲の国際労働基準の現実的機能についての支配的な考え方、社会政策・労働立法のモデルを最低基準な
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一六七 五条約・勧告と日本の関係
このことに関するコメントで、ともかくも批准に向けた基本的態度が重要とする見解や、国内法の整備に名を借りた改悪の例もあるという意見がみられた。別論文(注1のもの)掲載の主要条約批准状況についての表を示した上、批准について自由意見を求めたところ、三分の一の回答があった。批准が少ない(単に少いとするもの、経済大国として、ILOにおける地位から言って、など)と言う意見、および重要条約が未批准であるとの意見が多かった。これらは主として労働者側の意見である。使用者の中に、批准の現状を肯定する意見、批准数は問題でないとする者も少数いた。末批准を問題とする立場では、当然もっと批准せよ、重要条約を批准せよということになるが、批准すべき条約としてあげられたものでは労働時間 日本政府は、国内法令を》者側は、妥当とみている者が断している者も少なくない。 2条約批准についての考え方ILO条約批准についての基本的考え方についての回答(もっとも近いもの一つ)では、使用者の場合、適切なものを選択して批准するとする者が多く(五七%)、労働者側では、できるだけ多く批准するとの意見が多い(六九%)。労使の立場から予想される傾向と言える。そのほかの考え方は少ない。日本政府は、国内法令を整備してから条約を批准する方針をとってきたが、この態度について尋ねたところ、使用者側は、妥当とみている者が相対的に多い。労働者側も同様であるが、同時に未批准の理由となり望ましくないと判 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一六八
いし標準として提供し、労働における基本的人権を保障することに対応した影響が、日本にも及んでいるという評価を示すものであろう。ILOと言えば八七号条約というイメージが強いが、それは労使リーダ1にも当てはまる。
3監視機構の利用日本では、公務・公共部門の労働組合がしばしば、結社の自由委員会に事件を持ち込み、また、条約・勧告適用専門家委員会に問題を通知したりして、ILOの監視機構を利用してきた。ILOは、八七号条約を批准した国はもちろん、末批准の加盟国についても、結社の自由を擁護するために制度を準備してきた以上、国内で団結権をめぐり困難な問題が生じた場合、これらの制度を利用することは不自然なこととは思われない(①)。他方、監視活動の役割は、既にみたように、適用上問題があれば指摘し、道義的圧力なり協力によってギャップを埋めさせることにある。ギャップを埋めることは当該国内の努力によると考えられる。そこで国内における自主的解決が不可欠である。そうであれば、最大限に国内で問題解決を図ることが期待されることとなる
(②)。この問題について、労使はどのように考えているであろうか。調査結果では、使用者は②、労働者は①の考えを支持する傾向があった。調査票における全体的コメントの中で、ILO監視機構を利用することについての批判が
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一六九 関係が群を抜いていた。その他は一四四号条約、女子労働関係などであった。批准の進まない理由についてふれる回答が若干あった。その内容としては政府の消極的姿勢、労働組合の取組みの弱さなどを指摘している。個々の意見で示唆に富む意見もあった。日本の特殊性を主張する時期は終った(使用者)、批准できない場合に理由を明示すべきだ(使用者)、三者構成の専門委員会(労働省が設置したもの)に期待する(労働側)、国内実態が整わないで批准はあり得ぬ、労働組合の力量不足が末批准に反映している(労働側)、一般の人にも知られるようにすることが批准に連るなど。
4国内諾活動との関連ILOは、三者構成原則に立っているが、これは、加盟国の国内でもこの原則またはこれと適合的な手続を推進す
ることになった。個別の条約・勧告の中に、三当事者間の協議についての条項がおかれることが多い。国際労働基準に関する諸手続についてもこの原則を適用しようとしたのが、’四四号条約である。これは批准すれば、未批准条約が定期的に点検されるとともに、条約・勧告の制定・実施についての労使の参加がより実質化され、手続自体の質も高まると期待されるところから、七○回総会の討論の終末でも事務局長が、各国の批准を要請した。討論の中でも、 このほか、公務・公共部門で、ILOの監視機関に訴えることについて、労働者では、これが日本政府が団結権に関する普遍的権利を受け入れないことから生じると考えている者(四一一%)、使用者では、政府の行動は、ILOの団結権に関する政策と矛盾しないとする者がかなりみられた(三一一一%)。ILOは、団結権を擁護する立場上、またさらには、労働者を国家から独立した主体と認める基本的傾向から、公務員の範囲を狭く限定する考えに立っており、そのため、国内の公務員労働者は労働基本権につき国内で争うよりはILOの場で争う方が有利となる傾向があるため、監視機構に訴える傾向を生ずるのではないかと考えて、関連の質問を行なったが、この考え方を支持した者は全体の一三%にとどまった。概してこの項目では、労使の意見の懸隔が目立つと言えよう。 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七○
出ていた。主なものは、ILOが恩恵を施す機関であるとの錯覚を止めよ、ILOは具体的な紛争を解決する裁判所ではない、ILOは提訴機関ではなくカウンセラーであるというのもので、いずれも国内における自主的解決を本筋
とみなすものであった。
ILO条約・勧告と関連して今後国内でしてゆくべきこととしては、末批准条約と勧告実施状況についての定期的
点検、成立した条約・勧告が国会に報告されるとき実質審議すること、一四四号条約批准、解説書の刊行、労使団体内部での啓蒙活動などを指摘するものが多い。 この一一つの意見を述べた者は、その理由として、ILOが三者構成原則に立つ以上国内でもそれを実現するのが当然である、国内での三者構成または、労働組合の政策参加が望ましい(保障される)ことをあげる者が多かった。直ちに批准すべきだとの考え方では、このほか、条約の批准が促進されると期待する者が多かった。|方、批准に消極的な意見が使用者を中心に若干みられる。政府が労使の意見を聞いてILOに伝えているから現状で差支えないという意見のほか、条約が国内のことに介入し過ぎる、団体の自治と三者協議は一致しないところがあるとの意見があっ 考えられる。 自国の経験として、’四四号条約の批准、あるいは国内における三者構成会議の設置によって、手続が円滑となり関係者を満足させるようになった(イタリア政府)、国内政策形成に寄するようになった(インドネシア政府)などの発言もあり、とくにベルギー政府代表は、この条約の、国際労働基準の各国への普及の手段として期待を表明してい
このように、一四四号条約が批准される場合、条約・勧告は制定から批准、実施の各段階について国内でもシステ
マティックに検討されることになる。’四四号条約は「直ちに批准すべきだ」(全体の四三%、労働側の六四%)、「批准について検討すべきだ」(全体の一一一一一%、使用者側の三一一一%)となり、リーダーの見解は批准にかなり積極的と
た。 る
0
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度
一
七
一
5産業委員会・類似委員会産業委員会・類似委員会は、産業レベルで国内の労使代表が各国の労使およびILOと接触する場となっている。国際労働基準に関連した質問で、委員会の決議等の位置を高めてゆくべきだとの考え方に約四割の者が賛成していた。また回答者の約半数が産業委員会・類似委員会の出席経験をもっている。委員会では、まず主要関係国労使が当該産業の労働問題について、情報交換し、相互理解する機能があるが、この機能は有効であったとする見解が支配的である。以前の決議等の各国における実施状況や問題点の把握は出来たという意見が多いが、個別議題について妥当な政策を打ち出せたかについては、肯定的意見は出席経験者の半ばに達していない。また、回答によると、委員会の従前の決議・結論は十分に知られておらず、会議出席者は産業別団体との意見疎通
なしに会議に出席することが少なくない。しかし、回答者の経験として、帰国後の報告はよく行われ、他産業へ情報
が流されることもある。総括して、委員会の決議・結論の影響が国内に少しまたはおおいにあるとする意見は、ほと
んどまたは全くないとする意見を若干上回る。 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七二
ILO条約・勧告に関連して、日本側からILOに働きかけたり、利用したりすることについての質問では、条約・勧告のあり方について抜本的再検討が行われる機運なのでこれに積極的に参加することをあげる意見が多く(六六%)、地域活動で日本が積極的役割を果たすこと、日本の慣行をILO事務局・理事などによく理解させること、各国と共通の問題を労働基準に取上げてもらうことをあげる者も少なくない(四割以上)。しかし、コメントのなかに、各国が慣行を主張すればILOは成立しない、慣行の国際化が必要であるとの記述もみられた。
ILOの活動全般から日本がうけている利益としては、労働問題についての示唆や情報を得られるとする者が多い。また、国際社会の一員として相応しい位置づけや評価が与えられるとの見解も半数近い。労働側ではさらに政策のモデルが与えられたり、日本の労働条件が改善されると期待している者もある。これに対し、日本にとって不利な国際競争がILO活動で緩和されるとみる者は少ない。また、この質問に関するコメントとして、この質問設定に同意できないと言う意見および貢献の方が大事であるとの意見があった。また、さきに紹介したように(二)、労働条件、社会政策の国際的レベル・アップの中で日本も利益をうけるという労働者側の見解もあった。最後に、全体としての自由記述欄を設けたが、ILOの活動全般について、およびILOと日本との関係について
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七三 すべきこと(特に産業-材の派遣があげられた。 6ILOの活動全般との関連条約・勧告以外で、ILO活動に対して日本側から貢献を高めるべき分野についての意見は、さきに二でふれた。自由回答でみると、全体的なこととして、日本がアジア諸国の中でリーダーシップを発揮すること、ILO事務局の果して来たような役割吉本がアジアで行なうべきこと、運営に関して、各種会議にl内容的にl積極的に参加すべきこと(特に産業委員会での日本語使用の要望が多しが主張された。また、事務局や各種分野で活躍できる人 出席者の会議に対する評価は高いといえようが、これらの委員会は開催頻度が少ないことをはじめ、国内の労使産業組織との有効な結びつけに困難があるものといえよう。
ILOとしては、発展途上国が多数加盟してきたことから、条約・勧告をその必要性をとり入れたものとしてゆくこと、これらの国の要望として技術協力への要請が強いが、その位置づけが問題であること、条約の適用監視につき批判がでていることが主要な問題で、いずれもILOまたは国際労働基準の根本に関わっている。第一の点については、基準に柔軟性を与えて、条約の地理的普遍性を高める方向にコンセンサスがあると思われ、これに伴い、国際労働基準の機能を公正競争の実現とみなす考え方は後退した。コストに関連するところの大きい労働・生活の最低限よ 重要な差もある。 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七四
叙述があり、後者が格段に多かった。後者の内容としては、ILOへの関心、ILOへの関与のスタンスと貢献、監視機構と利用、ILO主要活動(とくに条約・勧告について)に関するもの、国内活動などであった。ILOへの関心については、回答者自身、労使それぞれに関心が低いことが指摘され、国内活動として会議出席者が報告の機会をもつべきこと、広報・啓蒙・教育の必要性、労働組合の日常活動との結合の必要性が説かれた。ILOの関与のスタンスについては、アジア・太平洋地域でのリーダシップをとるという意見のほか、ILOでは政治的利害が絡み合う中で、発展途上国と先進国の仲介の役割を果たすべきだとの労使の意見があった。そのほかの意見は、ほぼそれぞれの項目で述べてきたことにつきる。
国際労働基準についてILOと構成国の間で現在問題となっている基本問題とそれについての意見と対比させつつ、日本の労使リーダーの意見を検討してきた。調査で表明された意見は、国際舞台におけるものとほぼ並行しているが、 六結び
国内においては、ILOに関する知識の普及度が低く、関心が低いことが問題であると指摘されている。回答者自身についてそう述べているものもあった。適用監視や産業委員会の活動等について、十分に知識のある者は、労使リーダーのなかでも少ないと見受けられる。
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七五 りは、基本的人権について普遍性を認めようとしている。日本の労使では、当面する貿易摩擦から、公正競争の原則に関心が強いようであるし、基本的人権関係の重要条約(’○五号および二一号)を批准していない点で、世界的な傾向からのずれを示している。第二の点は、技術協力自体を強化するとともに、国際労働基準との相互補完を図るというのが、総会における平均的意見と言えよう。日本政府代表もこのような方向で協力を約束した。意見調査には、このような政策を実現しようとすると人材を得るため努力が必要であることなどが暗示されている。第三はILOおよび国際労働基準の原則に関わるため、西側諸国の政労使が一致して現行の監視機構や手続を支持し、日本も同様である。一方、日本では、「ILO提訴」をどう評価するかという問題があるが、これは、ILOの適用監視の性格をどう理解するかの点で関わる。ILOは裁判所ではないと言われるが、この際若干表明されている監視機構が実効性をもたないという意見の実効性の内容が問題である。条約について法律専門家による判断を示した上これに基き当該国に従うよう助言・援助すること、せいぜい国際世論の圧力により道徳的説得をすることが専門家委員会、事務局長等の理解である。これが効果を生じる場合も生じない場合もあった。判断が示されるとしても、問題の解決は国内で自主的になされねばならない。国内における自主解決の努力なしにILO監視機構を利用することは問題があろうが、問題の一定段階で、普遍的基準と照査し、それを参照してその解決に努めることは、この制度の予定するところである。
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七六
国際労働基準の日本への影響は、社会・労働政策全般に対して弱い影響を及ぼすが、公務・公共部門の団結権の問題のみについては強いと考えられている。国際労働基準は、政策のガイドラインとして、また基本的人権を含む普遍的最低基準として受け取られているわけであるが、国内の政策とシステマティックに結合されておらず、それゆえ一般に関心も低く、影響は全般的であっても弱いことにならざるを得ない。労働側リーダーは、なるべく多く条約批准を要望しているが、政策のガイドラインとしては勧告がより重要である場合もあろう。しかし、実際は、少数の例外を除き勧告について論じられることは少ない。回答者の相当数が望んでいるように一四四号条約が批准されれば、勧告を含め、国際労働基準の扱う個々の主題について、国際基準に照らした問題点が明らかになり、また国内政策に関する示唆が得られるであろう。
(注)(1)「国際労働基準の基本性格l組織論的・労使関係論的考察」『社会労働研究』第三一巻第三・四号(2)最近、ILO総会、産業委員会に出席した労使のリーダー、および労使の中央組織でILOまたは国際労働問題を扱う委員会のメンバー等のリーダー、労働者側一五四名、使用者側七七名、計二一一一一名に調査票を送り、回答を依頼した。’二○名(使用者側四一一名労働者側七八名)から回答が寄せられた。実施期間一九八五年二月~五月。付表参照。(3)円P胃ミミ言冒Rg・ミS蟇曹尽の§§萱吾の③翰書薯の§、冒忌屡宛§員。『⑮。§(誉圏』や設・どきg,這旦o・ミミRb易;吻言・贄ミミミミミドg・ミの甘言ミ号(の国・呂吟一一一画.z・弓の日ワ円』①震)(以下「フォローァップ」)。、。固§meミ『ミミミ・悪蒼困、ロミ・言冒厭きロ言菖aEs・ミ旨量s号(○国・邑一]一一画]》三口目三℃、③(以下「中間報告」)
(7)例えばカナダ政府、ナイジェリア使用者。(8)例えば、セネガル、バーレイン、パキスタン各政府。中間報告における労働者グループの立場もこれに当る。オーストラリア政府は国際基準が直ちに実施されなくとも目標となりうるとした。これは、最低水準か最適水準かの二者択一でなく、両者を関連つけるものである。(9)ILOも、重要条約として一雇用政策条約(一二二号、’九六四年)と関連勧告をもち、特に後者については一九八四年に補足的勧告を採択している。しかし、一二二号条約では、批准国が自由に選択された仕事による完全雇用を目指す政策を樹立し追求すべきこととしており、個人の権利を保障していない。他方、ILOにおける西側の使用者等は、自由な経済活動が否定されていることから、東欧の雇用保障に疑惑の念をもっているようである。(、)最近の条約における批准国の義務を柔軟ならしなるもうひとつの措置は、実質的同等条項(のgのB呂巴①C三ぐ巴のpCの (6)七○回総会ではILOを明示的に組織体として把握する見解や、ILOないし国際労働基準と自国または労使の目標や利害関係をどのように見ているかを示す次のような発言がみられた。イタリア使用者代表は、ILOを組織体として把え、国際労働基準と監視の機能を強化しつつ、他の組織体と同様安定と変化をなしとげなければならないと論じた。フランスの使用者は、各国政府が自国のことのみでなく世界のための立法に参加していることを自覚すべきだと述べた。インドネシア政府は経済発展と労働者の保護も両立するように国際労働基準を選択してきたとする。ベルギー政府は、国際労働基準の監視に関して、加盟国が自国の主権を主張するよりは国際基準に従うことが共通利益となると認める傾向が強まったと述べてい (4)閂PC冒二、ミミミミトg・ミO・菖司蔚菖R「三一冒吻言・宛倶冒弓&言□、Rミー(卍ミミ》]①詮も.こ・なおこの文書は事務局長報告と呼ぶ。総会出席者も注目して何人か引用しているこの表現は、アルベール・トマ以来のものである。(ニコラス・バルティコス箸、吾郷真一訳『国際労働基準とILO』三省堂一九八四年、一五~一六。ヘージ。)フォローアップでは経済と社会の調和ある発展と表現している。(5)の芹&ぐのロの⑩の.『の一のぐ目、①の用語は、総会の発言その後の報告にしばしば登場している。国際労働基準の評価基準となっ
巳目の①)である。 る。 の魚のO画くのロの⑩の)・ていると思われる。
国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七七
〔付記〕本稿の準備のため、文部省科学研究費補助金二般研究(B))を利用した。 国際労働基準の基本問題とわが国労使の態度一七八
(、)『衆議院外務委員会議事録』一九七一一一年六月一日、『参議院外務委員会議事録』一九七三年六月一九日(皿)閂PC冒鷺冒菩ミヘドg・ミS曹司忌魯Bの賃]‐琶萱s、⑯量冨の§8.]①毘宛§ミミコ。§譽璃ご墨「亘~】①(Ⅲ)東欧諸国の代表的見解は、ソビエト政府、ブルガリア政府、西欧の見解はフランス(政府、使用者)、西ドイツ(政府、労働者)などにみられる。、)高野雄一『国際社会における人権』岩波書店、一九七七年。
(付表)
ILO条約・勧告に関する 労使リーダーの意見調査(抄)
一ILO研究プロジェクト1985年2月一
1回答の数字を○で囲み,空欄をみたして下さい.
2設問の必要上,およびあまり知られていないことについて参考資料
を作りました.
質問に*印のあるものには説明があります.
3所属組織の公式見解というよりは,個人の見解によりお書きくださ
い.
配布計231労154使77 集計計120労78使42 ILO条約・勧告について
(日本のことを一応離れて一般的に)伺います。
問1ILO条約・勧告は,社会正義を通じて世界の平和に寄与するとい う公式目的をもっておりますが,一般的に言って,現実にどのような 役割を果しているとお考えですか.(すべてに○)
計労使 1社会正義を通じて平和に寄与する44836 2普遍的な最低労働基準の設定913259 3国際的公正競争の実現37730 4労働における基本的人権の保障892861 5国際間で特に生じる労働問題(例: 441430
海事,移民)への対処
180
6各国社会政策・労働立法への示唆893059 7社会進歩の実現32527 8国連専門機関として国際協調を労581246
働の分野で実現する
9その他(説明: 413
10積極的役割を果たしていない 945 1lよく考えたことがなく答えられない 000 問5*条約は普遍性をもつと同時に経済発展の程度や社会I慣行の違い等を
考慮した柔軟性をもつべきだとされてきました.1981年以降成立し た条約で御存知のもののうち,このバランスが崩れているという印象 をおもちのものがありますか.(日本のことを一応離れて)
計労使
ある413
条約に関して,どのような領域について,普遍性(最低基準として どこの国にも,誰にもあてはまること)をもつべきだと考えられます か.(すべてに○)
労使労使 結社の自由70257完全雇用の理念424 職業生活におけ8その他01 る差別撤廃56149そのような領域はない01 強制労働の廃止692810すべての分野で
安全と健康6328普遍性が必要134 児童労働の規制562411よく考えたこと
基準労働時間4810がなく答えられない05 経常的に監視のため機能している委員会についてどのように判断な さいますか.(日本のことを一応離れて)〔「効果があがっているか」
に否の者の数〕
問6
1 2
93456問