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雁木通りの変遷にみる「雪国」高田の暮らしと観光

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― 55 ― 修士論文要約

雁木通りの変遷にみる「雪国」高田の暮らしと観光

Daily Life and Tourism in the Snowy Takada District from a Viewpoint of Land Use Change of Gangi Streets, Joetsu City

松尾 奈々加 MATSUO Nanaka

キーワード:雁木,景観,観光,高田,上越市

Keywords: Gangi, Landscape, Tourism, Takada District, Joetsu City

1.研究の背景と目的

 近年,日本の各地では景観を基点としたまちづ くりの動きが見受けられる.西成(2009)は,「景 観は単なる見た目(表層的な)概念ではなく,地 域での暮らしや人々の所作と一体となった文化的 価値を有するものとして見直されている」として いる.すなわち,地域の景観とは,人々の暮らし の履歴が反映されたものであり,その土地の気候 風土と住民の営む生活が結びついたかたちで形成 されるものであると考えられる.

 本研究において研究対象に設定する雁木は,町 家の軒下が廊下のように連続していることから無 雪通路の役割を果たしており,冬季の通行区間と しての役割だけでなく,夏季には,社交場と遊び 場になって人々に貢献するなど,慣習上からも老 若男女問わず様々に利用されてきた.雁木は,自 由で安全な防雪道路というだけではなく,私的空 間を開放し,公的空間として利用する共有空間と して成り立っている.つまり,雁木は歩行路の側 面を兼ねているため,個々の自由と公共が調和す る半公共的なものである点が特徴である.

 以上を踏まえて,本研究は,住民の暮らしと観 光の関係性に注目し,日本の雪国を象徴する都市 景観としての雁木が,生活環境に応じていかに位 置づけられてきたかについて明らかにすることを 目的とする.具体的には,上越市高田を対象に空 間と住民意識の変化について,土地利用調査およ び聞き取り調査を通じて考察するものである.

2.研究の方法と手続き

 本研究では,地理学的な方法に基づき,景観の 形成と歴史的推移の要因に注目して研究を進め る.具体的な研究の手続きとしては,行政資料と ゼンリンの住宅地図を用いて,商業店舗の分布形 態と変遷過程について検討する.このうち雁木に ついては,住民と店舗経営者への聞き取りによっ て得られたオリジナルデータを参照する.また,

雁木にかかわる景観条例と取り組みについて検討 するために,小学校教科書ならびに新潟県の地方 紙「新潟日報」を資料として,雪国を象徴する景 観としての認知と位置づけを整理する.

3.研究の概要

 本研究は 5 章で構成されている.

 第 1 章では,研究の背景,研究目的と研究方法,

研究対象地の選定理由を述べた.

 第 2 章では,雁木との暮らしとの関わりに着目 した.雁木下の空間は,公と私の境界上に位置し,

共有空間として維持されてきた.具体的に「私」

としての位置づけとしては,土地に対する課税の 扱いがある.対して,「公」としての位置づけと しては,庇が連続することによって機能を果たす 通路という側面が挙げられる.雁木下は,唯一の 無雪空間であり,常に機能を果たしていた.その ため,学校教育の中では多雪という自然環境を背 景とし,雪国で暮らす人々がいかにして工夫を凝 らしてきたかについて触れられてきた.なかでも 雁木は,「寒い地方のくらし」の代表的な例とし

立教観光学研究紀要   第 22 号  2020 年 3 月 St. Paulʼs Annals of Tourism Research No.22 March ʼ20 pp.55-56.

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St. Paul’s Annals of Tourism Research (SAT) No.22

て章が組まれ,小学校教科書に掲載されていた.

このことから,当時の地理教育では,高田と雪と を関連づけ,雪国の暮らしの象徴が雁木であると いう図式を地域性とともに学習させていたことが わかる.

 一方,2001 年の小学校 5 年の教科書では,雁 木からアーケードへの変容に関する記述が確認で きる.しかしながら,以降,雁木をめぐる雪国の 暮らしの描写は,小学校の地理教育から次第に姿 を消すことになる.

 第 3 章では,高田の雁木の歴史的経過を考察し た.既往研究において,雁木通りを有する市街地 は,日本全国で減少し続けてきたことが指摘され てきた.そこで,高田における雁木通りの縮小に ついて,その要因を外部要因と内部要因に分け,

それぞれ考察を加えることとした.

 まず外部要因として,中心市街地の活力低下と 産業の郊外移転,モータリゼーションの発達,アー ケード型商店街への改装・建て替え,都市計画に ともなう道路拡幅,降雪量の減少および雪処理技 術の発展,火災の発生について検討した.

 つぎに,内部要因として,中心市街地内外に位 置する 2 つの商店街を研究対象地域に設定し,双 方の土地利用について検討した.本町 6 丁目・7 丁目では,1970 年において専門物販店に限らず,

多様な物販を行う商店と百貨店,サービス機能を 担う病院と理容院・美容院,行政施設が集積して いた.しかし,1980 年以降,本町 6 丁目・7 丁目 では,モータリゼーションの進展にともなって,

駐車場の需要が高まり,ホテル,百貨店の付随型 駐車場へと土地利用が変化した.つまり,駐車場 の需要と拡大が雁木通りの縮小のおもな要因と なっている.

 一方,南本町 3 丁目では,1970 年から 2019 年 まで住宅の割合が全体の 50% から 60% を占めて いることから,従来から職住一致の商店街で居住 機能の割合が高く,住宅の利用密度もきわめて高 いものとなっている.このことは,雁木の残存率 に深く関連している.すなわち,住民にとって雁 木の形態と機能は切り離されておらず,あくまで も自分の家の一部として捉えている.加えて南本 町 3 丁目では,観光客向けのサービス機能の集積 がみられないことから観光の余波は乏しく,中心

市街地の周縁に位置することが,雁木の保存に結 びついていると考えられる.

 第 4 章では,観光・保全にともなう地域住民の 認識とその変化について検討した.雁木の保存に 関する取り組みは,多様な市民団体と行政の連携 によって展開されてきた.なかでも,雁木整備補 助金制度は,雁木の機能性や安全な生活空間とし ての利便性の向上を図るため,2004 年に設けら れた制度である.本町 6 丁目の住民によれば,

2013 年に市の補助を受け雁木を改修した際,雁 木の施工には,間口 3 間当たり 120 万円から 130 万円(補助金の限度額は 45 万円),約 60% は自 己負担であったという.したがって,官民一体と なった保存整備活動が進められているにもかかわ らず,雁木の整備は,自らで行わなければならな いという思いが住民間では強いと捉えることがで きる.

4.結論

 行政は,自らが歴史的建造物の所有者になるこ とによって,町家の保存・活用および拠点施設と しての整備を行い,観光協会,NPO 法人などと ともに地域文化の商品化を試みていた.一方,住 民は日常的な通路空間の維持を雁木の保存の目的 としていた.とくに若年層の職住分離傾向が進ん でいることから近隣の結びつきが弱まり,雁木を めぐる共同体としての意識が培われにくくなって いることが明らかとなった.

 また,断続区間が発生することによって,雁木 の歩行路としての本来の機能が失われ,住民のみ ならず観光客も車道を歩く様子が確認できた.こ れは,雁木の生活道路としての有用性が失われて いることを意味している.したがって,雁木の保 存の意識を高め観光地化の促進を期待する行政側 と,そこに暮らす地域住民側との間に,雁木の位 置づけにかかわる共通点を見出し得るか否かが,

今後の課題となるであろう.■

参考文献

西成典久(2009):「観光」と「景観」の施策的連携に対す る一考察―社会的認識の変容に着目して―.立教大学 観光学部紀要,11,130‑139.

参照

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