時間の試験飛行を行い,離着した都市は,北京,ハルピン,ウルムチ,鄭州,合肥,広州,昆明, 成都などの中国の主要都市に離着陸したのみならず,チベット政府の所在地のラサにも7回行った。 しかし,1986年,中央政府が3,000万元の開発予算を否決し,その開発プロジェクトを中止した。 そこには技術的・経済的要因のみならず,政治的要因もある。技術面の要因は,主に専門的技術者 の人数不足や技術者の技術水準が遅れたことである。これは,文革の際に多くの中華民国時代に育 ったものや海外から帰国したものが厳しい政治批判や人身攻撃を受けて亡くなったことや文革の影 響で大学教育が一次ストップしたことに関連している。経済面の要因は,研究開発に対する政府予 算が減ったことである。研究開発への予算削減の理由は,人材不足や研究能力が弱かったので,沢 山の国家研究プロジェクトが失敗したのである。そこで,中央政府は,国家プロジェクトを整理し, 非効率な研究プロジェクトを中止したことによって,1986年に中央政府は,研究開発の予算を以前 より1.3%から0.65%へと半減し,多くの研究チームを解散した。政治面の要因が文革のときに形 成された政治派閥としての四人組の失脚に関連している。運10の開発基地が上海市にあり,当時の 四人組のメンバーである張春橋氏・王洪文氏・姚文元氏が上海市の責任者を務めたことがある。し たがって,文革の後,四人組の失脚も運10の開発中止の原因の一つになるだろうといわれている。 3.2 MD の共同開発 1980年代半ばから政府は,自力による開発よりも,外資企業と共同開発した方がよいとのように 政策転換を行った。1985年4月に上海飛行機製造所,上海飛行機研究所,上海航空エンジン製造所, 上海遠東航空技術輸出入公司,上海航空工業公司,上海航空建設工程公司,上海航空経営服務公司, 上海航空鍛造鋳造公司といった中国民間航空機産業の大手企業と政府の研究機関は,米 McDonnell -Douglas 社との共同開発を開始した。 1994年共同開発プロジェクトの終了までの10年間,MD82,83の35機,MD90の2機は,上海で 建造された。飛行機の製造史において決して長くない10年間には蓄積された貴重なノウハウは,そ の後の中国の民間航空機産業の発展に大いに役立っているだろうと思われている9) 。 3.3 ジェット旅客機の自主開発 米国企業との共同開発の契約終了後,中国は再び民間航空機の自主開発の道を歩んできた。その 成果として,2008年3月30日に上海飛行機製造工場で中国初の自主開発のジェット旅客機―ARJ21 が誕生したものである。ARJ は Advanced Regional Jet,21は for the21st Century の略である。
3.4 大型旅客機開発への再挑戦 2007年に中国政府は,再び大型旅客機開発にゴーサインを出し,C―919という大型旅客機の開発 を始めた。現在,中国政府は,中国民間航空機産業の発展を促進するために,すでに航空業の発展 を中国の「第十二回5カ年計画」に盛り込み,「国家の戦略的新興産業」として位置付けている。 中国民間航空機産業において,大型旅客機の製造は最大の目玉事業とされている ARJ21の開発と同様に,胴体部分は,中国の企業によって生産されている。成都飛行機工業集団 は先端胴体を,中航工業洪都集団は前後胴体を,中航工業瀋陽飛行機工業集団が尾端胴体を,中航 工業西安飛行機工業集団が中部胴体(主翼,副翼を含む)を製造している。上海飛行機有限公司は, 主に組み立てを担当している(表3を参照)。 一方,コアの部品・システムの製作は,相変わらず欧米企業に依頼している。例えば,ターボフ ァンエンジンを CFM International(米仏合資)に,エンジンフード(反推進力装置を含む)とエ ンジン排気システムを Nexcelle(米仏合資)に,APU,起動エンジン,ホイール,タイヤー,ブ レーキを Honeywell Aerospace(米)に,発電・配電システムを Hamilton Sundstrand(米)に作 ってもらっている。特に,燃料不活性化システムから,燃料タンク・不活性化システム,油圧圧力 システム,フライバイワイヤ・システム(FBW),水平安定板調整システムまでの製作はすべて米 国の Parker Aerospace 一社のみに任せている。そのほかに,Eaton(米)は,燃料油圧圧力輸送シ ステムを,Kidde Aerospace & Defense(米国)は,統合型防火と保護システムを,Liebherr Aerospace Toulouse SAS(仏)は空気管理システムを製造している。これらも,高等な技術を要するコア部 品の製造において欧米企業が相変わらず支配的な地位にあることを示唆している(表3を参照)。 部品・システム メーカー 先端胴体 成都飛行機(中国) 前端,中端胴体と機翼 西安飛行機(中国) 尾端胴体,機尾,方向舵,機体ハンガー 瀋陽飛行機(中国) 水平尾翼,リフト舵,最終組み立て 上海飛行機(中国) レーダー装置 済南特殊研究所(中国) エンジン GE グループ(米国)
発電・配電システム,補助動力,APU Hamilton Sundstrand(米国)
空気管理システム Liebherr Aerospace Toulouse SAS(仏) 燃料システム,油圧システム Parker Hannifin Corporation(米国) エンジン振動モニター Vibro-Meter SA(スイス)
主要操縦システム Honeywell-Parker(米国) 操縦室システム SAGEM SA(仏) 防火システム Kidde Aerospace(米国)
照明システム Goodrich Hella Aerospace(米国) 水・廃水システム EnvirovacInc(米国)
出所:百度百科 http : //baike.baidu.com/view/696731.htm。
4.中国民間航空機産業の構造と民営企業の活躍 4.1 中国民間航空機産業の構造 2009年に全国の民間航空機産業における企業数は合わせて99社となっている。そのうち,巨大な 国有企業の中国航空工業集団公司10) の傘下企業は48社,もう一つ巨大な国有企業の中国商用飛行機 有限責任公司11) の傘下企業は5社である。それに対して,地方の民間航空機製造企業は46社,その うち,香港・マカオ・台湾系企業および外資企業は13社,民営企業は8社となっている。つまり, 地方の民間航空機産業において私有企業は50%弱を占めている。 業務分野を見てみると,中国航空工業集団公司と中国商用飛行機有限責任公司の傘下企業は,主 に大型航空機の製造,および民間航空機機体や民間航空機エンジンを含むコアの部品の製造に集中 している。それに対して,地方の民間航空工業企業は,主に小型航空機と航空機一部の部品の製造 や民間航空機と民間飛行機エンジンの修理を行っている 2010年の全国の民間航空機産業において,中国航空工業集団公司の傘下企業の売上高は83.6億元, 全体の48.95%,中国商用飛行機有限責任公司の傘下企業の売上高は4.1億元,全体の2.38%を占め る。地方の民間航空機産業の企業は,83.2億元の売上高を作り出し,全体の48.67%を占める12) 。 2010年の全国民間航空機産業における売上高のトップ10の企業をみると,珠海摩天宇航空エンジン 部品・システム メーカー 先端胴体 成都飛行機工業集団(中国) 前後胴体 中航工業洪都集団(中国) 尾端胴体 中航工業瀋陽飛行機工業集団(中国) 中部胴体(主翼,副翼を含む) 中航工業西安飛行機工業集団(中国) ターボファンエンジン CFM International(米仏合資) エンジンフード(反推進力装置を含む) Nexcelle(米仏合資) エンジン排気システム Nexcelle(米仏合資) APU Honeywell Aerospace(米国) 発電・配電システム Hamilton Sundstrand(米国) 起動エンジン Honeywell Aerospace(米国) 燃料不活性化システム Parker Aerospace(米国) 燃料タンク・不活性化システム Parker Aerospace(米国) 油圧圧力システム Parker Aerospace(米国) フライバイワイヤ・システム(FBW) Parker Aerospace(米国) 水平安定板調整システム Parker Aerospace(米国) 燃料油圧圧力輸送システム Eaton(米国)
統合型防火と保護システム Kidde Aerospace & Defense(米国) 空気管理システム Liebherr Aerospace Toulouse SAS(仏) ホイール,タイヤー,ブレーキ Honeywell Aerospace(米国)
出所:新浪航空 http : //www.weibo.com/sinaair。
者たちは予想している。したがって,中国の大手国有企業や欧米からの外資企業のみならず,技術 力や資金調達力が比較的弱い中国の民営企業も積極的に中国の民間航空機産業へ参入している。 1970に運10という大型旅客機の開発に取り掛かってから,現在の C―919という大型旅客機の開 発・製造まで,中国は,民間航空機の開発・製造に携わってすでに42年になった。その間で中国の 国有企業は,民間航空機の開発・製造に関する多くのノウハウを蓄積したと思われるが,しかし, いまだにエンジンのみならず,他のコアの部品やシステムも自力で生産できないのである。中国の 企業の技術力を強めるために,中国政府は,国有企業よりもむしろ経営効率性が比較的よくチャレ ンジ精神が旺盛な民営企業の研究開発にはさまざまな奨励政策を提供した方がよいのである。また, 中国の民間航空機産業の参入規制をさらに緩和すると同時に,中国の民営企業の参入には銀行融資 や土地使用などの面で優遇政策を提供し,産学連携や技術者の研修の面でも支援する措置をとるべ きと考えている。 注 1)本稿は平成23年度専修大学研究助成(研究課題「中国の民営企業の発展と産業政策の転換」)による研究成果の一 部である。 2)中国国家統計局(2009)を参照。 3)劉世錦・張文魁・林晨輝(2007)を参照。 4)厳氷・陳海燕(2009)を参照。 5)中国民用航空網(2009)を参照。 6)肖瑋・張慧敏(2012)を参照。 7)第3期中国民用飛行機大会(2011年11月2日∼4日)における各国の航空機大手メーカー代表者のスピーチによ る。 8)欧米の先進諸国では一般に300人乗り以上の旅客機を「大型旅客機」と呼ばれるが,中国では150人乗り以上のも のを大型旅客機と見なされている。 9)百度百科を参照。 10)国務院が直轄し,そして100%出資で作った巨大な国有企業である。 11)国務院が資本金の31.58%,上海市政府が資本金の26.32%,中国航空工業集団が資本金の26.32%,上海宝鋼集団, 中国アルミ公司,中国中化集団がそれぞれ資本金の5.25%を出して作った国有企業である。 12)『中国民用航空工業統計年鑑2011』p.4を参照。 13)『中国民用航空工業統計年鑑2011』pp.1―4を参照。 参考文献 劉世錦・張文魁・林晨輝(2007)「中国民航業発展的歴史・現状和改革方向」中国改革論壇,http : //www.chinareform. org.cn/。 中国国家統計局(2009)「系列報告之十四:多種方式的綜合運輸網絡基本形成」,2009年9月23日。http : //www.stats.gov. cn/tjfx/ztfx/qzxzgcl60zn/ t20090923_402589513.htm。 厳氷・陳海燕(2009)「中国航空市場有多大?」『人民日報海外版』,2009年9月24日。
中国民用航空網(2009)「専訪波音民用飛機集団(Boeing Commercial Airplanes)中国事務副総裁庄博潤(John W. Bruns)」,2009年9月23日。
焦静波(2010)「民企,外資‘殺’入中国民用航空業市場」『中国航空報』,2010年11月25日。 矯陽(2010)「民営企業開始試水航空製造業」『科技日報』,2010年11月22日。
肖瑋・張慧敏(2012)「私人飛機提上民航発展日程」『北京商報』,2012年7月13日。
中国国務院(2012)「国務院関於促進民航業発展的若干意見」中央政府網 http : //www.gov.cn/zwgk/2012−07/12/content _2181497.htm,2012年7月12日。