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遠藤周作の病跡学 : 『沈黙』を書かせたもの

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Academic year: 2021

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1 .はじめに

スコセッシ監督の映画『沈黙』が2017年に公開され た。筆者はキリシタン迫害のシーンなどを予想してなか なか足が向かなかったのだが,見てみると映画は感動を 覚えるものだった。監督が長い年月をかけ遠藤周作の 『沈黙』に向き合い理解していった軌跡が感じられたか らである。筆者が遠藤周作の『沈黙』を読んだときに は,小説の終わりの宣教師のロドリゴの踏み絵について いろいろ考え,こういうことか,いやこういう解釈もな どずっと考えていたが,スコセッシ監督もそのようだっ たのだろうと思えた。『沈黙』は,発表当時には,キリ スト教徒は読んではいけない本だった。宣教師の踏み絵 を肯定しているところが受け入れ難かったようである。 これはノーベル文学賞を逃した 1 つの要因ともなった。 しかし,グラハム・グリーンのように熱烈に支持する人 もいた。『沈黙』は,キリスト教徒のこころをざわざわ 不穏にさせ,自分にとってのキリスト教とは何かを考え させるところがあるのだろう。遠藤周作はキリスト教作 家として,日本人にとってのキリスト教をテーマに小説 を書いてきた。筆者にはそれがキリスト者としての歩み でもあったように感じられる。この体験を遠藤自身は, 母からもらった「ダブダブの服」を仕立て直したと述べ ている。留学経験を経て,日本人にとってのキリスト教 を書くことがライフワークとなったわけだが,遠藤周作 は日本人にとってのキリスト教の 1 つの道を切り開いた と言えるだろう。 遠藤周作のキリスト教をテーマにした小説の主なもの には,『白い人』,『黄色い人』,『海と毒薬』から『おバ カさん』,『沈黙』があり,それから宗教観の集大成とな る『深い河』などがある。『白い人』,『黄色い人』は, 留学体験の影響が言われている(辛,2009)。海外では 自分が日本人であることを強烈に感じるが,日本で洗礼 を受け,さらにキリスト教作家について研究しようと 思っていた遠藤にとっても,留学は自らの日本人性を強 く意識させるものだった。そしてその体験が小説家の道 を歩ませることにもなった。宗教性を正面から取り上げ るようになったのは『沈黙』からだが,筆者は『沈黙』 の前と後では作者の精神生活に何か違いがあるように感 じられた。というのは,『海と毒薬』では葛藤が重苦し く感じられたが,『沈黙』以降は,自分の到達したイエ ス像を伝えようという使命のようなものが感じられるか らである。遠藤自身は,『沈黙』までが第 1 期の仕事で あると,次のように述べている。「第二期の最初の仕事 として,『沈黙』で私自分の第一期の仕事は終わったと 思っているんですが,それじゃあこれからの第二期の出 発点となる自分の,そのイエス像というものをエッセイ もしくは小説でちゃんと基礎付けておこうと」(小潟, 1997)。つまり,『沈黙』で日本人のキリスト教を書い て,『沈黙』で描いた寄りそい共に歩むイエス像は,そ の後『死海のほとり』や『イエスの生涯』でよりはっき 受稿日2019年12月16日 受理日2019年12月23日

1  専修大学人間科学部心理学科(Department of Psychology, Sens-hu University)

遠藤周作の病跡学―『沈黙』を書かせたもの

高田夏子

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Pathography of Endo Shusaku―what made “Silence” written

Natsuko Takata1

Abstract:The main novels by Endo Shusaku’s Christian themes are “White People”, “Yellow People”, “Sea

and Poisons” “Wonderful Fool”, “Silence”, and then a compilation of religious views, that is “deep rivers”. Endo was baptized in Japan and went to Lyon In France to study Christian writers. Studying abroad made him feel strongly that he was Japanese overseas. And that experience also led the way for novelists. It was from “silence” that he began to take up religiousness from the front, but I felt that there was some differ-ence in the author’s mental life before and after “sildiffer-ence”. Endo had a tuberculosis operation several years before writing “Silence”. I think that the experience of “Fumie”(Tools used for persecution of hidden Chris-tians In Edo era)seen at the time of hospitalization was a kind of religious experience, and it was a turning point that would determine the direction of subsequent works. It seems like a mission to convey the image of Jesus that he reached.

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10.おわりに

遠藤は,「日本人はやはり日本人として基督教の伝統 も歴史も遺産も感覚もないこの日本の風土を背おって基 督教を摂取していくことです。そうした試みがさまざま の抵抗や不安や苦痛を日本人の基督教信者に与えるとし ても,それに目をつぶらないこと。神は日本人に,日本 人としての十字架を与えられたに違いないのです」と述 べている(遠藤,1963)。 キリスト教は異文化だった。ヨーロッパの文化に憧 れ,追従するものの一部でもあっただろう。その異文化 性を考え,咀嚼し,日本人としてキリスト教をどのよう に信仰していけるのかを示してくれた人たちがいる。キ リストに倣って日本人的に生きていくことはできるので はないだろうか。それはキリスト教の本質を外れるもの ではないのだと遠藤は言っているように思う。

引用文献

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Jung, C. G. (1958) “Answer to Job” CWX 1 Routledge 野村 美紀子訳(1981)『ヨブへの答え』ヨルダン社 笠井秋生(2012)「『沈黙』をどうよむか:ロドリゴの絵踏み 場面と「切支丹屋敷役人日記」遠藤周作研究第 5 号 片山はるひ(2011)遠藤周作の文学における「母なるもの」 再考―かくれキリシタン」とフランスカトリシズムの霊性 ―」遠藤周作研究第 4 号 熊井啓(1997)深い河の向こうへ インタビュー①「遠藤周 作の世界」朝日出版社 小潟昭夫(1997)「インタビュー②わが思索のあと」『遠藤周 作の世界』朝日出版社 奥村一郎(1988)キリスト教の神秘主義と座禅の共通点・相 違点はなんですか『遠藤周作と語る 日本人とキリスト 教』女子パウロ会

参照

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