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比較教育研究における国際標準教育分類( ISCED 活用の可能性

─ ISCED 2011の成立経緯・特徴・課題─

佐藤 裕紀・長島 啓記・日暮トモ子・吉田 重和

キーワード:国際標準教育分類、ISCED、ユネスコ、OECD、比較教育学

【要 旨】様々な違いを有する各国の教育制度について分析し、比較検討しようとする際、共通の分類枠組み、

基準を設定するという方法が考えられる。そのような基準の一つとして、ユネスコが開発した国際標準教育 分類(ISCED)がある。ユネスコは1950年代末から、教育統計の国際的標準化に取り組み始め、1970年代に 最初のISCEDを開発した。社会の変化に応じて変遷する各国の教育制度を適切に把握するために、ISCED は1997年に改訂され(ISCED1997)、それがさらに2011年に改訂されている(ISCED2011)。このISCED2011 は2014年からユネスコやOECDの国際統計等で使用されている。

ISCED2011は、教育プログラムを初等教育、前期中等教育などの「教育段階」と「教育分野(系統)」で 分類するだけでなく、教育プログラムを通して取得される「教育資格」に基づく「教育達成」のレベルから も分類している。また、ISCEDの教育段階に関する情報の国際的な比較可能性を確実なものにするための ツールとして、各国の教育プログラムの名称、入学年齢、就学年限、在学者数、授与される修了証・資格等 を整理したISCEDマッピングが作成されている。

ISCEDは、OECDの『図表でみる教育』、欧州委員会の教育データベース(Eurydice)、各国政府が示す教 育制度図などで活用されている。ISCEDは各国の教育制度に関するデータを比較可能なかたちで収集・整理 する手段の一つであるが、比較教育学研究においてISCEDを活用した研究はそれほど多いとはいえない。ま た、ISCEDの枠組みでは適切に分類できないプログラムが存在する、各国固有のプログラムをISCEDの分 類に当てはめることで実態との乖離が生じるなど、ISCEDに対する批判も存在する。

各国政府は国際的な潮流のなかで教育政策の立案・実施を求められるようになっており、ISCEDへの関心 も今後いっそう高まると考えられる。そのためにも、これらの批判も考慮しながら、比較教育学研究におい てISCEDを活用していくことが必要になると考えられる。

はじめに

社会・経済のグローバル化が進展する中、国境を越える人の移動が盛んになっている。とり わけ、高等教育の分野では、留学生の送り出しや受け入れ、単位互換やダブルディグリーの制 度の整備が進められている。しかし、各国の教育制度は歴史的・文化的背景により違いがあ る。そのような違いがある各国の教育制度を共通の枠組で分類し、比較可能なものにするため に、ユネスコにより国際標準教育分類(

International Standard Classification of Education

ISCED

が開発された。教育統計の国際的な分類基準である

ISCED

は、従来使用されてきた1997年版

(2)

ISCED

1997)に代わり、2011年に改訂された版(

ISCED

2011)への移行が進められている。今 後はユネスコや

OECD

による国際教育統計もこの分類に従い、集計されることになる。

近年、

OECD

の『図表でみる教育(

Education at a Glance

)』に代表される各種の教育インディ ケータ(教育指標)が開発され、人材育成も含めた各国の教育政策の立案等に活かされようとし ているが、この教育インディケータの開発にも、

ISCED

は重要な役割を果たしている。グロー バル化の進展する世界で、各国の教育制度を共通の枠組で分類し比較検討することは、これまで 以上に重要になってくる。

本論は、まず、国際標準教育分類(

ISCED

)がどのようなものであるかをその作成の経緯ま で含めて概観し、

ISCED

1997および

ISCED

2011の特徴、

ISCED

に不可欠なツールである

ISCED

マッピングについて明らかにしたうえで、それが各国・国際機関で実際にどのように用いられて いるか示す。また、

ISCED

を活用してこれまで行われてきた研究を概観するとともに、

ISCED

に対する批判等を整理し、比較教育研究における

ISCED

活用の可能性について検討する。

1 国際標準教育分類(ISCED)の概要

(1)ISCED の位置づけ

各国の教育制度はその構造やカリキュラム内容において多様である。それゆえ、教育の達成の 度合いを長期間にわたって国際比較したり、国内的・国際的な目標に向かって進展しているかど うかを点検するのは難しい。こうした各国ごとに異なる教育制度を客観的かつ適切に解釈し、比 較、分析するには、そのデータを比較可能なかたちで収集することが必要である。そのために ユネスコが作成した共通の分類枠組みが

ISCED

である。

ISCED

とは、各国の教育制度に反映さ れている組織化された教育活動としての「教育プログラム(

education programmes

)」及び教育活 動の結果として生じる「資格(

qualifications

)」を、「教育段階(

education levels

)」と「教育分野

education fields

)」といった変数を用いて比較可能なかたちで整理するためのツールである。こ

ISCED

は、ユネスコ総会において加盟国間の合意のもとで正式に承認、採用されている、国

際的にも通用性のある統計のためのフレームワークとして位置づく(

UNESCO-UIS

2012:6)。

(2)ISCED のねらい

ISCED

は、これまで定義や概念が国ごとに異なるために比較が困難であった教育プログラム

を、国際的な比較や解釈が可能となるような共通のカテゴリーに変換するものである。すなわ

ち、

ISCED

を用いることで、各国ごとに異なる教育制度のインプット(就学年齢、入学年齢)、

プロセス(教育段階間の接続)、アウトカム(学習成果、修得した学習内容や資格など)の状況 の比較が可能になる。

ISCED

は、各国の政策立案者や国際統計の利用者に対して、それぞれの 国の教育の段階などを客観的に解釈することを可能にするものであり、かつ、分類によって得ら れた結果を自国の教育政策の立案や教育の改善に役立てていくことが期待されている。

ISCED

は国際統計のための標準的な枠組みを示したものであり、量的な統計のためではない。

高等教育段階の

ISCED

分類に着目している舘も指摘するとおり、

ISCED

分類は組織化された教 育活動としてのプログラムに対するもので、教育機関に対するものではない(舘2011:92)。ユ

(3)

ネスコ統計局が作成した

International Standard Classification of Education

ISCED

1997 におい

ても、「

ISCED

における分類の基礎単位は教育プログラムである」と明示されている。ここで

言う「教育プログラム」とは、「教育内容に基づき、予め決められた目標や明確に規定された一 連の教育上の任務を達成するために組織された一定の配列と順序をもつ教育活動」を意味する

UNESCO-UIS

2006:17)。つまり、教育活動としての教育プログラムの性質を解釈するための

分類枠組みであるところに、

ISCED

の特徴がある。

(3)ISCED 作成の経緯

ところで、多様な各国の教育制度を比較可能にする

ISCED

という分類枠組みはどのような経 緯で作成されたのだろうか。

各国の教育制度を共通の枠組みを用いて比較することについては、教育制度が成立した当初か らの関心事であった。例えば、比較教育学の祖と言われるフランスの教育思想家・行政官である ジュリアン(1775〜1848)はヨーロッパ各国の教育状況を把握するために共通の項目を用いた比 較表を作成することで、各国の教育改善に役立てようとした。また、各国の教育制度の類似と相 違の説明に当たり自然要因、宗教要因、世俗要因といった「要因」を分類のための方法概念とし て設定した比較教育学者のニコラス・ハンス(1888〜1969)も、比較をする上でその分類と術語

term

)に難しさがあること指摘していた。同じ術語でも国が違えば意味が異なるように、あら ゆる国に共通する人工的な術語(

artificial terminology

)を使わないかぎり、分類に伴う困難さは 解決しないと論じていた(

Smyth

2008:6)。このように、教育行政官や比較教育学者を中心に 各国の教育比較のために人為的に分析枠組みを作る必要があることは早くから提唱されていた。

しかし、戦前の各国間で共通の指標を用いた比較への関心は国際労働機関(

ILO

)などの国際機 関に限られ、教育分野は立ち遅れていた(

Bohliner

2013:23

-

24)。

教育分野における統計開発が本格的に着手されるようになるのは、戦後1946年にユネスコが創 設されたことを契機とする。これは、「万人のための基礎教育」を重点目標の一つに掲げていた ユネスコが、識字率向上や義務教育普及のための活動を推進していくうえで各国の教育状況を統 計上把握する必要が生じたことが背景にある。早くも1958年の第10回ユネスコ総会では「教育 統計の国際的標準化に関する勧告(

Recommendation Concerning the International Standardization of Educational Statistics

)」が採択されている。ここでは「教育に関する統計資料を編集し報告する ことに責任を有する国内当局が、その資料の国際的比較を容易にするため、標準化された定義、

分類および作表方法について、或る程度の基準により措置されることが極めて望ましい」ことが 確認されている。以後国際教育統計を整備する上で不可欠となる定義や概念の標準化についての 議論が重ねられる過程で、1970年代に

ISCED

が作成されることになる。

ISCED

は現在までに2回の改訂を経ているが、1976年版が最初のバージョンである。1975年

にジュネーブで開催された国際公教育会議(

International Conference on Education

)で

ISCED

「国内教育制度の国際的基盤における調和のための基準」として取り上げられ、かつ、「教育統計 の比較可能性を増大」させることを可能にするものとして評価された。これを受け、1978年のユ ネスコ総会第20回会議で1958年に採択された上記勧告の改訂案(「教育統計の国際的標準化に関

(4)

する改正勧告」)とともに、

ISCED

1976年版が正式に採択されることになった。

ISCED

作成に当 たりユネスコは、「

ISCED

は人材開発計画において教育統計や人材に係る統計の使用を促すもの になるはず」と考えており、

ISCED

を用いることで「各国の統計が比較可能なかたちになるよ うに設計、改善していくことを望んでいた」のである(

UNESCO

1976:1)。

しかし、

ISCED

が認識され、活用が進むのは、第1次改訂後の1997年以降である。

Rutkowski

(2008)は、採択当初国際機関や諸外国で

ISCED

があまり活用されなかった理由として、各国の 多様な教育の実態をカバーできていなかったことや、各国が到達点としての「スタンダード」を 指標に求めていたことを挙げている。さらには、

ISCED

分類枠組みの開発において、各国の教 育を比較するためだけでなく、国際機関としてのユネスコの地位を強化するために作成されたと いった政治性が背後に存在したと考察し、結局のところ「(指標作成において)ユネスコは政治 的にも実際的にも失敗した」と結論づけている(

Rutkowski

2008:474)。

このように枠組みとしても活用においても課題のあった

ISCED

1976は1997年に改訂され、同 年のユネスコ総会第29回会議で採択された。改訂についてユネスコは「二十年近くにわたって多 くの国で用いられてきた旧版の

ISCED

の経験に基づき、教育プログラムを教育段階に割り当て る規則やその基準をいっそう明確かつ厳格にし、教育分野への割り当ても、かなり手の込んだ、

細かいもの」としたとその趣旨を説明している(

UNESCO-UIS

2006:7)。1999年にはユネス コの統計担当部局としてユネスコ統計局(

UNESCO Institute for Statistics

UIS

)が創設され、

ISCED

分類に基づく各国の教育データの収集・整理が進められるようになった。国ごとに多様

な教育プログラムの比較において

ISCED

分類の有効性が次第に認識されるに従い、

OECD

も当 時開発を進めていた教育インディケータにおけるデータ収集において

ISCED

分類を用いるため のマニュアルを作成するなど、国際機関も

ISCED

分類を積極的に用いるようになった。2011年 には、各国の教育制度の進展状況と、より信頼性の高い比較可能な国際教育統計の作成に寄与す るために、ユネスコは1997年版の改訂版である

ISCED

2011を公表し、その使用も同年のユネス コ総会第36回会議で各国の合意が得られている1)。こうした経緯を経て作成された

ISCED

2011 で示されている分類枠組みは、現在、各国の教育統計や国際的な教育統計で用いられている。

2 ISCED2011の特徴

先述のとおり、

ISCED

は作成後から現在に至るまで2回の改訂を経ている。

ISCED

1997(第 1次改訂版)と

ISCED

2011(第2次改訂版)がそれである。現在使用されている第2次改訂版

である

ISCED

2011の特徴を説明する前に、第1次改訂版との違いを明らかにするために、先に

第1次改訂版である

ISCED

1997の特徴を概観し、その上で

ISCED

2011の特徴を説明する。

(1)ISCED1997(第1次改訂版)の特徴

ISCED

1997は、組織化された教育プログラムを、その内容に基づき「教育段階(

levels of

education

)」と「教育分野(

fields of education

)」といった二つの側面から分類している。この

点は

ISCED

1976と変わらない。変更点は、入学資格、最低入学要件、最低就学年齢、各教

科、読み書きの学習、教員資格などの分類基準(主要基準と補助基準の2つ)を新たに設けて

(5)

教育プログラムを各段階(

level

)に分類した上で、国際比較を容易にするため、また、より適 切な分類をするために、教育段階をさらに再分割したところにある。再分割には「補助的要素

complementary dimensions

)」という観点が採用されている。この補助的要素は「後に続く進路

destination

)」や「プログラムの系統(

programme orientation

)」というもので、プログラム修了 後により高次の段階に進むことを想定して設けられた段階分類のための観点である。ここでは、

通算教育期間、当該国の学位体系や資格体系、プログラムの種類といった独立変数が用いられ、

例えば、上級学校に進学するのか、それとも卒業後労働市場に参入するのかといった進路の類型 から、あるいは、プログラムが特定の職業や業種に向けられているのかといった内容系統の観 点から、段階をさらにより細かく分けて分類するようになった点が

ISCED

1997の特徴の一つに なっている。

段階を再分割した理由は、

ISCED

1976では対象外であった職業教育を

ISCED

分類に組み込ん だためである(

Cusso & D Amico

2005:208)。

ISCED

1997では、各教育段階の教育プログラム 分類において職業志向が弱い順に

A

B

C

の類型が設けられることになった。具体的に言えば、

ISCED

5(高等教育)段階では、5

A

(大学型高等教育)、5

B

(非大学型高等教育)の分類が設

けられ、また、中等後教育段階においても成人職業プログラムを提供する

ISCED

4(中等後教育)

段階が設定されているところにそれが表れている。

(2)ISCED2011年版(第2次改訂版)の特徴

①教育段階の細分化、精緻化

第2次改訂版である

ISCED

2011は、2014年より

OECD

の国際統計等で使用されている。

ISCED

2011では就学前教育段階と高等教育段階を中心に旧バージョンに変更が加えられている。

就学前教育について言えば、従来3歳児以上を主たる対象としていたが、

ISCED

2011は0歳児 まで拡大し、新たに「

ISCED

01」及び「

ISCED

02」段階を設けている(表1参照)。これは、近 年プログラムやそれを提供する機関の拡大化、多様化が進んでいる就学前教育の状況に合わせた ためである。高等教育段階についても、多様化や拡大等を背景として、従来「

ISCED

5」(非大 学型と大学型の高等教育)と「

ISCED

6」(大学院レベル以上の高等教育)の二つの段階で示し ていた段階をより精緻化し、「

ISCED

5」(短期高等教育)、「

ISCED

6」(学士レベル)、「

ISCED

7」

(修士レベル)、「

ISCED

8」(博士レベル)として設定した(表1参照)。高等教育段階の改訂に ついては、「1999年以来のボローニャ・プロセスの進行の結果、これまで茫漠としていたヨー ロッパの高等教育のレベル体系が、アメリカ型に収斂しだしたことを反映していると考えられ る」との指摘もある(舘2012:24)。

(6)

②3桁のコード体系の導入

教育プログラムを「教育段階」と「教育分野」といった2つの変数で分類することに変更はな いものの、

ISCED

2011では、各教育段階で提供されている教育プログラムを内容面からだけで なく、「教育資格」に基づく「教育達成」(

educational attainment

)のレベルからも分類した点が 新しい。ここでいう「教育資格」とは「教育プログラムもしくはプログラム中のある段階の修了 を証明する、書類の形式で示される公的な承認」を意味する(

UNESCO-UIS

2012:8)。具体 的には「修了証明」「学位」「ディプロマ」などを指し、テストスコアなど個人の実際上の知識、

技能、能力を示す個人の「教育成果」(

educational achievement

)とは区別されている。旧版では、

学習者の「教育プログラム」への「参加」と「修了」との間に区別がなく、修了の段階(資格 の取得レベル)を問うことはなかった。

ISCED

2011ではプログラムの段階(インプット(入学)

とプロセス(参加)を含む)と教育達成(アウトプット(資格))の段階の双方から教育プログ ラム全体を分類できるよう構築されており、これにより、プログラム間や教育段階間の接続関係 や連続性をより精緻に、かつ明確に示すことが可能になっている2)

プログラム間や教育段階間の接続関係や連続性を明確化することをねらいとして改訂され た

ISCED

2011では、「教育プログラム(

ISCED-Programmes

)」の段階を「教育達成」(

ISCED- Attainment

)の状況を踏まえて分類するための新たな枠組みとして、「段階(

level

)」、「カテゴリー

category

)」、「サブカテゴリー(

sub-category

)」からなるコード体系を設けている。この点が旧 版との大きな違いである。段階に1桁目、カテゴリーに2桁目、サブカテゴリーに3桁目の数字 を割り当て、3桁の数字の配列によって教育プログラムの性質を把握できるようにしている。下 表2〜4は、教育プログラムと教育達成の状況をコード化するための表である。このコード化 に基づき、表5〜6の「サブカテゴリー」の欄には各教育段階の3桁のコードが示されており、

この3桁コードが教育プログラムの性質を表すことになる(表2〜6の出所はすべて

UNESCO- UIS

2012による)。この共通のコード体系に従って各国が自身の教育システム内のプログラムに

表1.ISCED2011と ISCED1997の段階の対応

段 階 ISCED2011 ISCED1997

幼児教育開発 ISCED01 ─

就学前教育 ISCED02 ISCED0

初等教育 ISCED段階1 ISCED段階1

前期中等教育 ISCED段階2 ISCED段階2 後期中等教育 ISCED段階3 ISCED段階3 中等後教育 ISCED段階4 ISCED段階4 短期高等教育 ISCED段階5

ISCED段階5

学士段階 ISCED段階6

修士段階 ISCED段階7

博士段階 ISCED段階8 ISCED段階6

 (出所:UNESCO-UIS 2012,p. 63。一部変更)

(7)

3桁のコードを割り振ることで、名称や年限が異なる各国の教育プログラムを国際的にも横断的 に比較することが可能になるのである。

表2.ISCED 段階コード化(1桁目)

教育プログラムISCED-Programmes(ISCED-P) 教育達成ISCED-Attainment(ISCED-A)

0 幼児教育 0 初等教育未満

1 初等教育 1 初等教育

2 前期中等教育 2 前期中等教育

3 後期中等教育 3 後期中等教育

4 高等教育以外の中等後教育 4 高等教育以外の中等後教育

5 短期高等教育 5 短期高等教育

6 学士またはそれと同等の段階 6 学士またはそれと同等の段階 7 修士またはそれと同等の段階 7 修士またはそれと同等の段階 8 博士またはそれと同等の段階 8 博士またはそれと同等の段階 9 どこにも分類されない 9 どこにも分類されない

表3.ISCED カテゴリー・コード化(2桁目)

教育プログラムISCED-Programmes(ISCED-P) 教育達成ISCED-Attainment(ISCED-A)

0 定義されない 0 定義されない

1 幼児教育開発 1 教育プログラムに不参加

2 初等前教育 2 幼児教育の一部

3 使用されない 3 初等教育の一部(ISCED段階1の修了なし)

4 普通/学術 4 普通/学術

5 職業/専門職 5 職業/専門職

6 系統が特定されない 6 系統が特定されない

7 使用されない 7 使用されない

8 使用されない 8 使用されない

9 どこにも分類されない 9 どこにも分類されない

(表注)1.プログラム:プログラムのタイプ(ISCED-P段階0)、系統(ISCED-P段階2−8)、定義されない(ISCED-P 段階1)。

達成:参加(ISCED-A段階0)、系統(ISCED-A段階2−5)、定義されない(ISCED-A段階1および段 階6−8)

2.ISCED-P6−8段階で使用される。

3.ISCED-P5−8段階で使用される。

(8)

表4.ISCED サブカテゴリー・コード化(3桁目)

教育プログラムISCED-Programmes(ISCED-P) 教育達成ISCED-Attainment(ISCED-A)

0 定義されない 0 定義されない

1

プログラムの修了認定はISCED段階の 修了または部分的修了には不十分である

(上位のISCED段階のプログラムへの直 接的アクセスはない)

1 使用されない

2

プログラムの修了認定はISCED段階の 部分的修了を満たしているが、上位の ISCED段階のプログラムへの直接的アク セスはない

2 上位のISCED段階のプログラムへの直接 的アクセスがない部分的段階修了

3 プログラムの修了認定はISCED段階の修 了を満たしているが、上位のISCED段階

のプログラムへの直接的アクセスはない 3 上位のISCED段階のプログラムへの直接 的アクセスがない修了

4 プログラムの修了認定はISCED段階の修 了を満たしていて、上位のISCED段階の

プログラムへの直接的アクセスがある3,4 4 上位のISCED段階のプログラムへの直接 的アクセスがある修了3,5

5 第一学位プログラム−学士またはそれと

同等の段階(3−4年間) 5 使用されない 6 長期の第一学位プログラム−学士または

修士またはそれと同等の段階 6 使用されない 7 学士または同等のプログラム後の、第二

学位または継続学位プログラム 7 使用されない 8 修士または同等のプログラム後の、第二

学位または継続学位プログラム 8 使用されない 9 どこにも分類されない 9 どこにも分類されない

(表注)

1.プログラム:修了/アクセス(ISCED-P段階2〜5と8)、国の学位/資格体系における位置づけ

ISCED-P段階6−7)、定義されない(ISCED-P段階0〜1)。

  達成:修了/アクセス(ISCED-A段階2〜4)、定義されない(ISCED-A段階0〜1と5〜8)。

2. ISCED-A段階1と5〜7、プログラムの修了、または上位のISCED段階において不十分または部分的段

階修了のプログラムを含む。

3.ISCED段階3の場合、上位のISCED段階はISCED-P段階5〜7が当てはまる。

4. ISCED段階5と8の場合、上位のISCED段階へのアクセスを与えるか否かには関係なく、すべての(十

分な)プログラムはタイプ4に分類される。

5. ISCED-A段階2から4において、プログラムの修了または上位のISCED段階において不十分または部分

的段階修了のプログラムを含む。

(9)

表5.ISCED2011(ISCED0段階~ISCED4段階)

段階の表示 段階 カテゴリー サブ

カテゴリー サブカテゴリーの説明 幼児教育開発

0 01 010 3歳未満の子どもを対象とした教育プログラム 就学前教育 02 020

初等教育 1 10 100

前期中等教育 2

普通24

241 後期中等教育への直接的アクセスがない、段階修了もしく は部分的段階修了に不十分

242 後期中等教育への直接的アクセスがない、部分的段階修了 243 後期中等教育への直接的アクセスがない、段階修了 244 後期中等教育への直接的アクセスがある、段階修了

職業25

251 後期中等教育への直接的アクセスがない、段階修了もしく は部分的段階修了に不十分

252 後期中等教育への直接的アクセスがない、部分的段階修了 253 後期中等教育への直接的アクセスがない、段階修了 254 後期中等教育への直接的アクセスがある、段階修了

後期中等教育 3

普通34

341 高等教育への直接的アクセスがない、段階修了もしくは部 分的段階修了に不十分

342 高等教育への直接的アクセスがない、部分的段階修了 343 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがない、段

階修了(しかし、高等教育以外の中等後教育への直接的な アクセスは提供することがある)

344 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがある、段 階修了(高等教育以外の中等後教育への直接的アクセスも 提供することがある)

職業35

351 高等教育への直接的アクセスがない、段階修了もしくは部 分的段階修了に不十分

352 高等教育への直接的アクセスがない、部分的段階修了 353 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがない、段

階修了(しかし、高等教育以外の中等後教育への直接的ア クセスは提供することがある)

354 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがある、段 階修了(高等教育以外の中等後教育への直接的アクセスも 提供することがある)

高等教育以外 の中等後教育 4

普通44

441 高等教育への直接的アクセスがない、段階修了に不十分 443 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがない、段

階修了

444 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがある、段 階修了

職業45

451 高等教育への直接的アクセスがない、段階修了に不十分 453 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがない、段

階修了

454 最初の高等教育プログラムへの直接的アクセスがある、段 階修了

(表注)1. ISCED段階3のプログラムと同等であれば、以前にISCED段階4に分類されていたプログラムを含むことがある。

2.ISCED段階3のプログラムと同等であれば、以前にISCED段階4に分類されていたプログラムを除く。

(10)

3 ISCED マッピング

ISCED

2011は、①国際的に同意された概念と定義、②分類システム、③世界各国の教育プロ

グラムおよび関連する資格の

ISCED

マッピング(

ISCED mappings

)から成る。

ISCED

マッピン

グは、

ISCED

の教育段階に関する情報の比較可能性を担保し、国際統計に関する目的の解釈を

支援するために、各国の教育制度、教育プログラムおよび関連する資格に関する情報を整理する にあたり必要不可欠なツールであるとされている(

UNESCO-UIS

2012:6)。

ISCED

マッピングは、

ISCED

分類基準を各国の教育プログラムおよび関連する資格の特質

properties

)に結びつけることによって、各国の教育プログラムおよび関連する資格を国際統

計の使用のための比較可能なカテゴリーにコード化していくプロセスの透明性を担保するもの である。なお、ユネスコ統計局(

UIS

)は各国の

ISCED

マッピングをウェブサイト(

http://uis.

unesco.org/en/isced-mappings

)のデータベースに示しており、各国の教育制度の変化を適切に反 表6.ISCED2011(ISCED5段階~ISCED8段階)

段階の表示 段階 カテゴリー サブ

カテゴリー (サブ)カテゴリーの説明 説明

高等教育短期 5

普通54

541 段階修了に不十分 544 段階修了に十分 職業55

551 段階修了に不十分 554 段階修了に十分

学士または

同等の段階 6 66 系統なし特定の

661 段階修了に不十分

665 第一学位(3年間〜4年間)

666 長期第一学位(4年間以上)(学 士またはそれと同等のプログラム)

667 第二学位または継続学位(学士ま たはそれと同等のプログラムの後 で)

すでに段階6に分類さ れているプログラムと 同等である場合

修士または

同等の段階 7 76 系統なし特定の

761 段階の修了に不十分

766 長期第一学位(最低5年)(修士 またはそれと同等のプログラム)

すでに段階6で分類さ れているプログラムと 同等でなければ、666 767 第二学位または継続学位(学士ま

たはそれと同等のプログラムの修 了後)

768 第二学位または継続学位(修士ま たはそれと同等のプログラムの修 了後)

博士または

同等の段階 8 86 系統なし特定の

861 段階修了に不十分

864 段階修了に十分 博士学位に直接つなが るプログラムのみ

(表注)1. ISCED段階6、段階7、段階8の学術的および専門職的プログラムの対応(または一致)は、系統が特定されていな

いプログラムの場合と同一。

(11)

映するためにマッピングは更新される。そしてマッピングが

ISCED

分類に従い、必要に応じて 更新されることを保証するために、各国およびパートナーである

Eurostat

OECD

などのデータ 収集機関と密接に協働している。

具体的な

ISCED

マッピングの例として、ここでは日本の教育プログラムが

ISCED

マッピング

によってどのように示されているのか確認したい。まず、項目をみると、①国、②学年度、③新 しいプログラム(どの学年度から)、④プログラムナンバー、⑤プログラムの名称(当該国の言 語)、⑥プログラムの名称(英語)、⑦フォーマル教育プログラムか否か、⑧最低限の入学要件

ISCED

2011、3桁レベル)、⑨理論上の入学年齢、⑩理論上の修学年限、⑪

ISCED

1の開始か

ら理論上のプログラム修了の通算修業年限、⑫プログラムの系統(

G

:普通、

V

:職業)、⑬国 の学位体系における位置づけ、⑭より上位の教育段階への直接的アクセス(

ISCED

6と7のみ)、

⑮フルタイムまたはパートタイムプログラム(

FT/PT

)、⑯

ISCED-

97レベル、⑮

ISCED

2011

レベル(

ISCED-P

、3桁)、⑱在学者数、⑲授与される主たる資格(当該国の言語)、⑳資格の

名称(英語)、㉑

ISCED-

97における資格・教育達成、㉒

ISCED

2011における資格・教育達成

ISCED-P

、3桁)、㉓教育達成の

EU-LFS

コード化(

ISCED-

97、2014年以前)、㉔教育達成の

EU-LFS

コード化(

ISCED

2011、2014年から)、㉕

E

Q

F

段階、㉖備考となっている。日本の短期 高等教育(

ISCED

5)および学士またはそれと同等の段階(

ISCED

6)のマッピング(一部省略)

は、次頁の表7のようである。

4 ISCED の活用

本節では、

ISCED

が国際機関や各国政府によってどのように活用されているのか、

OECD

EU

、デンマークを例として示す。

(1)OECD 及び EU による ISCED の活用

OECD

の『図表でみる教育2017(

Education at a Glance

2017)』において、教育段階の分類は、

ISCED

2011に基づいて行われている旨が記載されており、表8に示すような分類がなされている。

『図表でみる教育』には、教育・学習の効果、教育への支出と人的資源、教育機会・在学・進 学の状況等について多数の教育インディケータが示されているが、その基礎となっているのは

表8.OECD『図表で見る教育2017』での ISCED を用いた教育段階の分類

用語の標記 ISCEDでの分類 用語の標記 ISCEDでの分類

幼児教育 ISCED0 短期高等教育 ISCED5

初等教育 ISCED1 学士またはそれと同等の段階 ISCED6

前期中等教育 ISCED2 修士またはそれと同等の段階 ISCED7 後期中等教育 ISCED3 博士またはそれと同等の段階 ISCED8 高等教育以外の中等後教育 ISCED4

 (出所:OECD 2017,p. 19。)

(12)

表7.ISCEDマッピング 日本の短期高等教育(ISCED5)及び学士又はそれと同等の段階(ISCED6)(一部省略)  (http://uis.unesco.org/en/isced-mappingsJapan 20112018/09/25

(13)

ISCED

なのである。

また、欧州委員会による教育データベース(

Eurydice

)の「各国の教育制度」(

National Education

System

)には、各国の教育制度図において

ISCED

段階も併記されている。図1は、デンマーク

の教育制度図である。

生後半年から6歳になるまでが

ISCED

段階0であり、国民学校に入学した6歳から12、13歳 の国民学校第6学年までが

ISCED

段階1、そして国民学校第7学年から第9学年ないし第10学

年までが

ISCED

段階2、ギムナジウムと職業系教育機関が

ISCED

段階3と分類されている。

(2)各国政府による教育制度図での活用

図2は、初等教育段階以降を示したデンマーク教育省による教育制度図であり、

ISCED

活用している例である。この教育制度図では、成人教育を含んだデンマークの各教育段階と

ISCED

の対応関係、そして欧州資格枠組み(

E

Q

F

)との対応関係が、簡易的ではあるが表記さ

れている。

(3)欧州資格枠組み(EQF)と ISCED の関係性、差異

ここで、近年注目されている欧州資格枠組み(

European

Q

ualifications Framework

E

Q

F

)と

ISCED

の差異及び関係性についても述べておきたい。2000年のリスボン戦略を受け、職業教育

訓練分野ではコペンハーゲン・プロセスが、高等教育分野ではボローニャ・プロセスが進展する 中、2005年に欧州高等教育領域資格枠組み(

European Higher Education Area

EHEA

)が構築さ れた。その後、高等教育にとどまらず職業教育を含むあらゆる領域をカバーする資格枠組みとし て2008年に

E

Q

F

が構築された経緯がある。

この

E

Q

F

は、教育プログラムや職業を分類するためではなく、資格制度・枠組みに焦点を当 てて設計されている。一方、

ISCED

と国際標準職業分類(

International Standard Classification of Occupations

ISCO

)は、教育と職業を分類するために設計されている。もちろん、

E

Q

F

で高

図1.Eurydice「各国の教育制度」におけるデンマークの教育制度

(出所:https://eacea.ec.europa.eu/national-policies/eurydice/content/denmark_en

(14)

段階の資格は、

ISCED

の高段階にほぼ合致することや、

E

Q

F

で低段階の資格は、

ISCO

での技 能レベルが低い段階の職業活動にほぼ接続するであろうという傾向、側面はある。しかし、あ くまで

E

Q

F

は、教育プログラムや職業の階層については部分的に暗示するのみである。すなわ ち、

E

Q

F

ISCED

ISCO

をつなぐツールとしての機能を果たしている(

European Commission

2008:9)。

5 ISCED を活用した研究

本節では、比較教育研究における

ISCED

活用の在り方を検討すべく、和文・英文の主たる先 行研究において、

ISCED

がいかに言及され、また活用されているかを概観していく。なお主た る和文の先行研究の題目及び概要について、資料として末尾に掲出する。

先行研究における

ISCED

活用の在り方は、活用の度合いという観点から2種類に大別される。

すなわち、比較教育研究などを展開する際に、研究対象の情報を捕捉するための指標として部分 的に活用する在り方と、

ISCED

自体を研究対象に設定しその妥当性を検討したり、研究手法な どの点でより広範な研究に繋げたりするなどして、

ISCED

を全面的に活用する在り方である。

図2.デンマーク教育省による教育制度図

(出所: The Ministry of Higher Education and Science, The Ministry for Children, Education and Gender Equality and The Ministry of Culture (2016), p. 2)

(15)

研究数としては前者の部分的な活用が多く、たとえばスロヴェニアの言語教育政策を検討した 脇田(2008)や、世界各国の職業教育機関の特徴を明らかにした堀内・伊藤ほか(2013)、東ア ジアにおける女子学生の専攻分野に着目しジェンダー分析を行った財部・河野ほか(2014)など を挙げることができる。これらの研究では、対象とする教育機関の

ISCED

コードを併記したり、

教育機関の分類を

ISCED

に基づいて行ったりするなどの方法が取られており、活用の方途が限 定的ではあるものの、先に確認した

ISCED

策定の本来の目的に則ったものとして評価すること が可能である。さらに、高等教育段階における教育機関の位置づけや役割を研究テーマとした舘

(2012)や吉田(2017)のように、比較研究や国際研究などの文脈で

ISCED

に着目し、研究対象 の史的展開を整理したり、国際比較の妥当性を担保しようとしたりする研究も、近年見られる。

これらの研究は、上述した部分的な活用の発展型と見なすことが可能であり、今後の広がりが期 待されるものである。

では、後者の全面的な活用とはどのようなものだろうか。ここでは二つの事例を取り上げてみ たい。一つは、

ISCED

を活用してコードによる並置を行うことで、比較教育研究が進展する可 能性について言及した吉田・佐藤(2018)の研究である。吉田・佐藤は、

ISCED

におけるコー ドが二国間の比較分析を試みる際の始点として機能すると考え、オランダ及びデンマークにおけ る前期中等教育から後期中等教育への接続状況を検討事例として設定した上で、両事例を分析の 俎上に載せた比較教育分析を試行し、その在り方について検討を加えている。その結果、両国の 接続状況を模式図として示しつつ、

ISCED

活用の利点として、研究対象が一つのコードとして 可視化されること、また情報の信頼性と比較の妥当性が国際的に担保されていることにより、比 較教育分析を行う上での「並置」の困難さが低減しうることを明らかにしている(吉田・佐藤 2018:106)。他国の事例やテーマ等を用いたより詳細な検討が求められるものの、吉田・佐藤

(2018)の研究は、

ISCED

活用の可能性について、事例を用いながら検証しているという点で重 要である。

もう一つは、

ISCED

を研究対象として設定し、批判的にこれを検討した

Hippach-Schneider et al.

(2017)の研究である。先行研究の多くで

ISCED

の存在や分類が自明の前提として扱われて

いる中、

ISCED

2011に対し批判的な検討が加えられたこの研究により、

ISCED

では正確に分類

できない事象が各国において存在することが明らかにされている。すなわち、高等教育段階に おける職業教育の分類が統合された結果、オーストリアの高等職業達成率が、大きな制度変更 がなかったにも関わらず統計上大きな差異となって表れた点や、職業教育に関し特徴的な制度 と伝統を有するドイツについては、

ISCED

の分類ではそれらが表されないため、その実態が描 かれていない点などである(

Hipaach-Schneider et al.

2017:38)。

ISCED

が国際統計上のツール である以上、分類指標としての妥当性の検証は継続されるべきものである。

Hippach-Schneider et al.

(2017)の研究は、

ISCED

2011に対し本格的な検証を加えた研究の嚆矢として評価されるも のだといえる。

本節では先行研究における

ISCED

活用の状況を確認した。その結果、複数の先行研究で

ISCED

の更なる活用の道筋が描かれつつある点が確認された。しかしその一方で、日本国内の

学術誌や専門学会が編纂した事典、文部科学省の刊行物等において

ISCED

が取り上げられたり、

(16)

言及されたりする機会は極めて限られているという側面もある。たとえば、日本比較教育学会が 発行する『比較教育学研究』第41号(2010年)から第56号(2018年)に掲載された論文におい

て、

ISCED

に言及している論文は1件のみである。また日本国際教育学会が発行する『国際教

育』の第17号(2010年)から第23号(2017年)に掲載された論文において、

ISCED

を活用ない し言及している研究は確認されなかった。さらに日本比較教育学会(2012)が編纂した『比較教 育学事典』や、文部科学省が定期的に発行する『諸外国の教育動向』、『諸外国の初等中等教育』、

『世界の学校体系』などの刊行物においても、2018年度におけるそれぞれの最新版を確認する限

り、

ISCED

への言及や

ISCED

の表記はみられなかった。また比較・国際教育情報データベース

Research Information for International and Comparative Educaiton

RICE

)にて「

ISCED

」あるい は「国際標準教育分類(国際教育標準分類)」をキーワードとして検索したが、2018年9月現在 において、こちらも該当データはゼロ件という結果であった。

上記の現況を踏まえたとき、今後

ISCED

の活用が進展するか否かは、これらの媒体に掲載さ れる論文や記事等において、

ISCED

がどれほど言及されるかどうかにかかっているとも考えら れる。

6 ISCED に対する批判

上述のとおり、活用の程度の差はあるが、

ISCED

を活用した研究は近年増えている。

Cussó &

D Amico

(2005)の研究でも、

ISCED

を含むいわゆる指標は単に国の教育システムを比較するた

めに使うのではなく、政策決定の比較にも用いられるとして、「新しいタイプの比較には、統計 を(中略)客観的な結果として捉え、それを政策立案や決定に役立てていく視点が必要」と指摘 している(

Cussó & D Amico

2005:199)。つまり、統計指標で得られた結果を政策立案にいかに 活かしていくかといった視点が統計を見る上で不可欠であり、その統計の枠組みとなる

ISCED

への関心は今後さらに高まると考えられる。

ISCED

活用への関心が高まる一方で、

ISCED

の枠組みやその活用についての批判も存在する。

ISCED

1997を用いてヨーロッパ15か国の教育制度を整理した

Schneider

(2008)の研究では、他 国間を比較するためのツールとして

ISCED

を評価しているものの、

ISCED

が有する課題も併せ て指摘している。その課題には、①

ISCED

1997で用いられている概念が狭い(その国に固有の、

様々な教育の在り方に対応できていない)、②各国で異なる資格を

ISCED

の枠組みに当てはめる ことが難しい、などがあり、

ISCED

を用いることで各国の教育システムが有するその国独自の 多様性が無視され、均質的に処理されている点を挙げ、批判している(

Schneider

2008:43

-

44)。

また、

ISCED

1997は教育プログラムの段階のカテゴリー分類において教育年限による比較に依

存しがちで、その結果、正確な分類ができていないとの指摘もある(

Smyth

2008:38)。

こうした批判や指摘を受けて

ISCED

2011が作成されたが、課題をどこまで改善できたのだろ うか。先に示したとおり、

Hippach-Schneider et al.

(2017)の研究でも、

ISCED

枠組みで正確に 分類できない事象がヨーロッパの各国において存在することが指摘されている。それぞれの国 固有の教育プログラムを

ISCED

分類に当てはめることで、実態と乖離するケースが生じている。

とりわけ、職業教育を含む、多様な教育プログラムが提供されている高等教育段階で顕著にみ

(17)

られる。同様に、

Lester

(2018)の研究でも、高等教育段階における職業教育の文脈において、

ISCED

の枠組みは、制度を比較するには概略的すぎる(

too skeletal

)きらいがあること、また職 業教育の現実を反映していないことなどが指摘されている。改訂を重ねるに従い

ISCED

は職業 教育や資格といった変数を増やし、プログラムの分類の精緻化に努めてきた。これはデンマーク の教育制度において

E

Q

F

との対応関係が示されているように、歴史や文化に基づき構築された ヨーロッパの教育制度、とりわけ高等教育段階で提供されてきた複雑かつ多様な教育プログラム を分類するためであったと考えられる。しかし、

ISCED

という共通の分類枠組みを設定するこ とで、ヨーロッパの国々の特徴の一つとして見られる、職業教育を含んだその国の多様な教育プ ログラムの特徴が見えにくくなってしまっているのである。

だが、こうした

ISCED

分類と実態・現実との乖離については、

ISCED

に限らず、統計指標そ のものが有する問題ともいえる。

Manuel & Steiner-Khamsi

は、教育システムそれ自体は比較でき ないことを理解した上で標準化された尺度を用いて比較することが必要と指摘している(

Manuel

& Steiner-Khamsi

2017:401)。分類のための枠組みを精緻化し実態に近づけるとともに、こうし た指標そのものに内在的に有する問題を認識した上で、

ISCED

分類をどのように活用していく かが今後求められることではないだろうか。

おわりに

国際標準教育分類(

ISCED

)の第2次改訂版である

ISCED

2011は、2014年から

UNESCO

OECD

等で用いられている。その基本的な役割は、歴史や文化の違いを背景にして異なる各国の教育制 度に関するデータを比較可能なかたちで収集・整理することにある。

OECD

の『図表でみる教 育』に代表される、教育の現状分析や施策立案に必要な各種のインディケータを分析・活用して いくためには、

ISCED

に関する理解が不可欠である。また、比較教育学研究において対象とす る各国の教育について、その基本となるのは教育制度であるが、その分析に際しても

ISCED

有用である。比較教育学研究において、教育制度の全体像に関する理解が基本にあって個別の研 究テーマが設定されるとすれば、

ISCED

は一層有用なはずである。とりわけ、

ISCED

マッピン グは重要な役割を果たす。しかし、

ISCED

に対するいくつかの批判にみられるように、

ISCED

それ自体が問題・課題を有している。それらの問題・課題を認識しつつ、比較教育学研究におけ

ISCED

の活用を進めていく必要がある。

1)2013年にユネスコはISCED-FISCED Fields of Education and Training)を公表している。これ は、近年複雑化、多様化している「教育分野」(fields of education)の分類枠組みを示すことで、

ISCED2011による分類をより精緻に行うために出されたものである。

2)なお、ISCED2011では対象とする教育の範囲を広げ、フォーマル教育だけでなく、それに匹敵す るノンフォーマル教育のプログラムまでを対象としている点も特徴の一つである(UNESCO-UIS 2012:8、11)。

(18)

引用・参考文献

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斎藤里美(2015)「OECD国際調査にみる移民の子どもの教育成果とその分析─Thematic Review on Migrant Educationの意義と課題─」『比較教育学研究』第51号、pp. 50-60。

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財部香枝・河野銀子・小川眞理子・大坪久子(2014)「東アジアにおける女性学生の専攻分野に関する ジェンダー分析─日本・韓国・台湾の比較をとおして」『貿易風』第9巻、pp. 152-165。

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舘昭(2012)「『研究』を組み込んでこそ大学の学び─国際標準教育分類(ISCED2011)の示唆する学 士課程」IDE『現代の高等教育』第543号、pp. 23-29。

張琳(2012)「中国高等職業教育教員のための教育実習と企業実習─教員養成課程発展の2つの方向─」

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堀内達夫・伊藤一雄・佐藤史人・佐々木英一(2013)『日本と世界の職業教育』法律文化社。

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吉田尚史(2017)「ISCEDにおける『非大学型高等教育』プログラム要件と教員養成制度理念について」

『福岡女学院大学紀要人間関係学部編』第18号、pp. 63-70。

吉本圭一(2016)『第三段階教育における職業教育のケーススタディ』九州大学「高等教育と学位・資 格研究会」ワーキングペーパーシリーズNo. 2。

脇田博文(2008)「スロヴェニア共和国の言語(外国語)教育政策」『龍谷紀要』第29巻、第2号、

pp. 115-131。

「ISCEDの活用と分析」研究会(2018)『国際標準教育分類(International Standard Classification of Education)2011年版(ISCED2011)仮訳 1997年版(ISCED1997)仮訳』

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Hippach-Schneider, U., Schneider, V., Ménard, B. & Tritscher-Archan, S. (2017) The underestimated relevance and value of vocational education in tertiary education – making the invisible visible, Journal of Vocational Education & Training, 69: 1, 28-46.

Lester, S. (2018) Sequential Schooling or Lifelong Learning? International Frameworks through the Lens of English Higher Professional and Vocational Education, Education & Training, 60(2), 213-224.

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(19)

de Paris to the 2030 sustainable development goals, Compare: A Journal of Comparative and International Education, 47(3), 388-405.

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UNESCO (1978) Revised Recommendation concerning the International Standardization of Educational Statistics.

UNESCO-UIS (2006) International Standard Classification of Education: ISCED1997. UNESCO-UIS (2012) International Standard Classification of Education: ISCED2011.

UIS (2009) Review of the International Standard Classification of Education (ISCED 97): Proposal on the revision of ISCED 0 and Early Childhood and Education Programmes.

UNESCO-UIS (2008) ISCED Review Concept Note.

(20)

資料 和文の先行研究における ISCED の活用状況

1.竹村景子(1995)「試論:教育と女性問題の関係について:タンザニアとケニアを例に見る」

『大阪外大スワヒリ&アフリカ研究』第6巻、pp. 138-156。

ケニア、タンザニアと日本の高等教育への進学率や学生数を比較する際に、ISCEDの5、6、

7の分類を活用して示している。

2.脇田博文(2008)「スロヴェニア共和国の言語(外国語)教育政策」『龍谷紀要』第29巻、第 2号、pp. 115-131。

スロヴェニアの教育制度での各教育段階を言及する際に、「後期中等教育(15−19歳:

ISCED3)」のように記載し活用している。

3.舘昭(2012)「『研究』を組み込んでこそ大学の学び─国際標準教育分類(ISCED2011)の示 唆する学士課程」IDE『現代の高等教育』第543号、pp. 23-29。

学士課程に関する国際的な理解を、ISCEDを読み解くことで示し、学士課程に研究を内包 することの意義を述べている。また大学における学士課程の位置づけと、そこでの学びと 研究との関係を問い直しながら大学改革を進めていく必要性が述べられている。

4.堀内達夫・伊藤一雄ほか(2013)『日本と世界の職業教育』法律文化社。

日本の工業高校の職業教育の性格をISCEDを用いて明らかにし、これが職業準備教育に該 当することを指摘している。また第3章では、日本の専門学校、ドイツの職業専門学校、

フランスの職業リセについて、ISCED2011を手がかりに整理している。

5.財部香枝・河野銀子ほか(2014)「東アジアにおける女性学生の専攻分野に関するジェンダー 分析─日本・韓国・台湾の比較をとおして」『貿易風』第9巻、pp. 152-165。

日本、韓国、台湾の女子学生の専攻分野について経年的な比較を行う際に、ISCED97の分 類に即して各国の公式統計を再集計し、比較可能な7専攻の結果を分析した。

6.斎藤里美(2015)「OECD国際調査にみる移民の子どもの教育成果とその分析─Thematic Review on Migrant Educationの意義と課題─」『比較教育学研究』第51号、pp. 50-60。

移民の子どもの教育へのアクセス状況をOECDの移民教育調査から示す際に、OECD 調査結果の表を訳出し、その表に「ISCED1,. 2」と記載している。

7.吉田尚史(2017)「ISCEDにおける『非大学型高等教育』プログラム要件と教員養成制度理 念について」『福岡女学院大学紀要人間関係学部編』第18号、pp. 63-70。

ISCED97とISCED2011における非大学型高等教育あるいは短期第三段教育機関の要件を確

認し、後者に該当する日本の専門学校が教員養成を担っている現状に対して、教員養成制 度の基本理念との齟齬を指摘し、今後の在り方について問題提起している。

8.吉田重和・佐藤裕紀(2018)「ISCED(国際教育標準分類)を用いた比較教育分析の試み:

学校種間の接続を検討事例として」『早稲田教育評論』第32巻、第1号、pp. 95-108。

オランダとデンマークにおける前期中等教育から後期中等教育への接続状況について、

ISCEDを活用してコードによる並置を行いながら示し、次いで比較教育分析を行うことで

両国の特質を際立たせている。

本論文は、早稲田大学教育総合研究所一般研究部会「『国際標準教育分類(

ISCED

)2011』の 分析と活用」(2016−2017年度、部会主任:長島啓記)の成果の一部である。

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