[報告] ハノイ理科大学地理学部の教育と研究事情
その他のタイトル [Report] Education ; Essay on Faculty of
Geography, Vietnam National University, Hanoi
著者 野間 晴雄
雑誌名 史泉
巻 99
ページ A42‑A54
発行年 2004‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/2522
〈報告〉
は じ め に
ハノイ理科大学地理学部の 教育と研究事情
野 間 晴 雄
筆者は 1996年以来,ベトナム社会主義共和国で最も伝統あるベトナム国家 大学ハノイ校理科大学地理学部°と,紅河デルタの農村研究を通じて学術交流 を進めてきた。(以下,簡略化して呼ぶ際はハノイ理科大学地理学部と記す)
筆者の前任校である奈良女子大学が学術交流協定を結んでいたことに端を発す る。これを契機として,日本から大学院生を留学生として送り出し,私自身も 農村開発や近年の変貌する農村像を描き出すための共同研究を行ってきた(2)。 今回の訪問は紅河デルタ沿岸部のタイビン省ティエンハイ郡を対象にした集 落・開発の歴史地理的研究や農村工業の進展, thituといわれる農村部の新興 の最低次の中心地町場(3)の形成過程を実証研究するための予備調査が主目的で あった叫関西大学大学院文学研究科博士後期課程に在学中のチャン・アイン
・トウアン (Tran Anh Tuan)氏(ハノイ理科大学地理学部講師)が紅河デル タをフィールドにした博士論文を目指す調査のための一時帰国に合わせ訪越し た。 2003年9月17 27日のわずか11日間の滞在であったが,その前半には 学部生・大学院生と教員に対して,「歴史地理学」の集中講義をした。 96年以 来ほぽ毎年相互交流をしてきたグエン・カオ・ファン (NguyenCao Huan)地 理学部長に懇願されていたもので,講義やその後の討議を通じて,情報交換・
国際交流などで大きな成果があった。
本報告は,その講義や調査の合間に垣間見えてきた 1つのベトナム地理学教 室の教育・研究事情を,私見を交えて述べてみたものである。考察に使用した 資料は,現地で入手したベトナム語の組織・制度やカリキュラムと,筆者の個 人的体験,後日ベトナムから取り寄せた補充資料や大学の公式Webサイトな
どである。
1. ベトナム国家大学ハノイ校
ベトナム国家大学 (VietnamNational University)は1993年10月19日の政 府決議97/CPによって制度的に成立した高等教育・学術研究機関の総称であ る。 2001年2月12日付けの政府決議14号/2001/QD‑TTG14によって,ベト ナム国内の主要大学(ハノイ校=旧のハノイ大学,ホーチミン市校=旧ホーチ
ミン総合大学,カントー大学)を総称する首相直属の国立大学を指す。ハノイ 校はその歴史をたどると, 1904年にフランス領インドシナの総督府があるハ ノイに設立されたインドシナ大学に遡るベトナム最古の高等教育機関である。
創立当初の中心は理学と医学であった。わが国の戦前の帝国大学のように,法 曹官僚養成をめざした法学や,応用科学としての工学が中心であったのとは様 相を異にする。
ベトナム国家大学は組織体としては日本の文部科学省に相当する教育訓練省 と同等レベルで,独立した機構である。他の国立大学(フエ大学など)が教育 訓練省の管理下にあるのとは,制度・機構上も異なる。現在,ベトナム国家大 学ハノイ校には,理科大学,人文社会科学大学,外国語大学,工科大学,経済 大学,法科大学,教育大学,ビジネススクール,大学院,ベトナム・ロシア国 際学院という 10の大学(カレッジ)・大学院,専門学校を擁する。
全体の専任の教職員数は約1万人で,学生数はパートタイムといわれる社会 人の再教育部門まで含めると 5万人を超える(5)。全体を統括する学長1名の下 に,研究・ 国際交流,計画・財政・施設,学術教育担当 3名の副学長がいる。
そのうちの 1名の研究・国際交流担当副学長が理科大学の地質学出身のマイ・
チョン・ニュアン教授 (MaiTrong Nhuan)である。キャンパスはインドシナ 大学創設の地である市内中心部のホアンキエム湖ほとりのレ・タイン・トン (Le Thanh Tong) , 西部のドンダー区にあるメー・チーキャンパス (MeTri), 本部のあるカウ・ザイ (CauGiay)の3個所に分かれる。ただし郊外のキャン パスも手狭であるため,ハノイの西北30kmのハー・タイ省の丘陵地に政府 系研究機関と一緒に2006年から順次移転し,学生4万人規模の研究学園都市 を造る計画が進行している。そのため教職員のなかには,地価の値上がりを見 越して大学予定地近くに宅地を購入したり計画したりしている者が多い。一部 は週末別荘として現在も利用されている。
2. 地理学部の組織と施設・設備
ハノイ理科大学のメインキャンパスはハノイ西郊のメー・チーキャンパス
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で,数学,数理情報学,物理学,水文学,気象学,海洋学,地質学,環境科 学,生物の 8学部と学部の基礎教育を担う外国語部,自然科学基礎教育部から なる。総学生数は約 1万人で,約700人の教職員が3つのキャンパスで働く。
学生・教職員ともホンダのモーターバイクが主要な通勤・通学手段となって いる。市内の公共交通は旧共産圏諸国からの援助が途絶えて以降,新規にハン ガリーなど旧東欧からのバス供給が途絶えたため,これまでは運行頻度も少な く,ほとんど用をなしていなかった。しかし,今年再訪してみると,乗用車と モーターバイクの増加を抑制して環境を改善する目的で,市内バスが数年前に 比べると増加していた。ハノイでも交通渋滞が深刻な問題となってきており,
市当局も積極的に公共交通導入を図っている。中心部から約22キロ北のノイ バイ国際空港までのルートも含め一律2000ドン(約20円)と格安であり,今 後は公共交通の利用も高まると思われる。
1976年にベトナムで大学院制度が発足したが,当初は博士課程のみの設置 であり,修士課程が設置されたのは 1991年である。それ以前は毎年100人以 上が旧ソ連や東欧諸国の大学に留学し,外国で博士の学位を取得することが一 般的であった。彼らの人的ネットワークは今なお大変強い。現在でも学部を卒 業してこれという優秀な学生に助手をさせながら(公務員待遇),修士課程に 在籍させ修士論文を書かせることもよく行われている。そのため,修士課程(6)
修業年限は制度上2年となっているが,社会人も含めてさまざまな年齢・経歴 の大学院生が在籍し,修士論文完成まで相当の年限を要することがも多い。
教員は3名の教授 (P), 8名の助教授 (S), 20名の講師 (L), 5名 の 助 手 (A)ー研究助手,秘書,製図技官ーからなる。その内訳と教員数を示すと次の ようになる。職階は上述のアルファベットで示す。地形学科5(Geomorphology S‑2, L‑2, A‑1), 地固学・リモートセンシング学科8(Cartography and Remote Sensing S‑1, L‑6, A‑I), 人文地理学• 生態経済学科5(Human Geography and Ecological Economics: S‑1, L‑3, A‑1), 土地行政学科8 (Land Administration : P‑3, L‑4, A‑1), 景観生態学・ 環境学科8(Landscape Ecology and Environment S‑2, L‑5, A‑1)の5学科からなり,総勢スタッフは34名である。
なおベトナムでは教員の職階は旧ソ連のそれを踏襲しているため,教授は半 ば管理職で名誉職的なところがあり,人数が非常に少ない。地理学科では3名 の教授がいるが,うち 2名が土地行政学科に所属しており,政府の地域計画策 定に関わるなど社会的影響が大きい(7)。地理学部は中庭を囲んで口の字型校舎 の4階の一角,廊下をはさんで学科のゼミ室を兼ねた共同研究室が並ぶ(図 1)。5学科にはそれぞれ共同研究室があり,パソコンやプリンター,事務書 類,参考図書などが配置され, l学科l名の秘書がいて学科事務を行ってい る。製図技官は2名いるが,ほぼすべてがコンピュータと GISソフトによる
図1 地理学部での講義における受講生との討論 (2003年9月21日,地理学部の共同研究室)
Fig. 1 A Snapshot on Classroom Discussion in Faculty of Geography, University of Science, Vietnam National University, Hanoi
地図化であり,その入力と図化の中心を彼らが担っている。カナダ,ベルギ ー,フランス,アメリカ,日本などとの国際学術交流が盛んで,学部予算が理 学部の中では 2番目に潤沢であるため,地理学部は理科大学の中での発言力は 大きい。
このほかに地理学科に関係の深い施設としては,旧市街の重厚なフランスの 建築様式を継承するレ・タイン・トン (LeThanh Tong)キャンパスには 1995 年設立の国立環境学研究センター (Center for National Research Environment Studies 通称CRES)がある。このような機関は学部と同等の位置にあり,全 学的な学際的研究センターである。初代の所長が烏類の専門家であったため,
生物多様性と環境問題,持続的開発に関わる問題に関心が深い。 51名の専任 スタッフ・大学院生を抱えるが,主たる機能は,海外の援助機関,国際的機関 の資金の受け入れ先となっている(8)0
3. カリキュラムから見たベトナム地理学の動向
ベトナムの教育制度は日本と異なり,小学校5年,前期中学4年,後期中学 3年であり,大学入学までの通常 12年間の教育が必要となる。地理学部は4 年の就学年限である。大学が実施する入学試験に合格すれば許可される。少数 民族枠や遠隔地枠もあり,表面上は機会均等が確保されているかに見えるが,
実際はハノイからの自宅通学者が多数を占める。
基礎必修科目 (65単位)は 1 2年次に学ぶ。マルクス・レーニン主義など 唯物史観やホーチミン思想,ベトナム共産党史,社会主義史,英語,情報科
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学,軍事教練(集中講義)などである。そのほかに,人文社会科学5単位,物 理,数学,生物学,化学などの自然科学の基礎科目35単位,地理学専門科目 82単位,地理学専門科目(特殊科目) 16単位,卒業論文 10単位をとって,合 計212単位が学士卒業の資格要件である。 1単位は45分授業の半期であるか ら,日本流に直すとほぽこの半分の単位数が同じとなり,時間数では両国は大 差はない。ハノイ理科大学地理学部では地理学関連科目が5割弱 (48.6%) で,日本ではほぽ 4割以上が教養,外国語,保健体育科目で占めるのと類似す る。しかし,実質はこの専門科目のほぼすべて地理学部の独自科目であるた め,わが国の地理学専攻よりも専門科目の比率が高いといえる。学部間の壁は 高いが,学科間の壁は低い。
教育組織と学部組織は異なり, 1年次の基礎必修科目の多くは人文社会科学 大学の教員が提供する。語学は理科大学内に設けられた外国語部が担当する。
地理学部では英語のみで,日本の第二外国語にあたるものはない。近年,ベト ナムでは英語学習熱は大変高いが,今回接した学部や大学院生クラスの学生の 英語カ・会話力は必ずしも高くない。知識・暗記中心の学習が初等・中等教育 では蔓延していることの裏返しでもある。
現在の教員のうちで40歳代以上の教員が旧ソ連や東欧諸国に留学し,彼ら にはロシア語が標準学術言語となっている。とりわけ50歳以上の教員では,
一部を除いてほとんど英語ができない。その一方で,現役学生の多くは外国語 としては英語しか知らない。それにもかかわらず,英語で書かれた地理学の専 門書や学術雑誌は大学図書館ではまったく不十分であり,定番ともいえるジョ
ンストンらの編による『人文地理学辞典」ですらも,コピーでしのいでいる状 況である。ただ一部の若手教員や大学院生は,地理学の新しい世界の動向を英 語で書かれた著書や論文から貪欲に吸収しようとする意欲をみせている。
GISに関しては,地理学部がアメリカ,カナダ,フランスなどの援助を受け て,パソコンやGISソフトはここ数年で急速に充実してきている。旧ソ連流 の地理学や地図学の方法論が現代風に蘇生した手法がGISであるといえなく
もない。理学系・地学系教育を背景にもつベトナム地理学のシフト先としては きわめて自然な成り行きであり,第三者からも理解しやすい。
以下に,基礎教育科目を終えた学部2年次生以降の地理学部のカリキュラム を示した表1によって,ベトナム地理学の進もうとしている道筋について,私 見を交えて述べたい。
なお,ベトナムではベトナム国家大学ホーチミン市校やフエ大学などでも地 理学の専門教育が行われているが,その質量や教員の供給先も含めてハノイ理 科大学地理学部が他大学を圧倒しており,ー大学の寡占状態である。ベトナム 地理学会の会長は歴代ここから輩出してきた経緯があるが,不思議なことにい
表1 地理学部の学部2 4年次のカリキュラム
Table 1 Curriculum of Faculty of Geography, Vietnam National University, Hanoi
科 目 名 2年次生
学 年
I I
3年次生 4年次生 前期 I後期 I前期 I後期 I前期 I後期 A. 地理学入門科目(必修26単位)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 自然地理学 巡検 地質学 気象学 水文学 地形学 土壌地理学 生物地理学
自然地理学巡検 人文地理学 海洋地理学 人口地理学
B. 学部専門科目(必修82単位)
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3 1
*
3 2 2 3 2 2 2 3
2 2 B 1. 地図学・リモートセンシング論(必修18単位)
地図学 測量学 測量学実習
リモートセンシング GIS
衛星写真判読
B2. 地域地理学(必修18単位)
ベトナムの地形I ベトナムの地質・鉱物 ベトナム地誌 巡検 世界地誌 海洋資源と環境
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・
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~242i
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3 . 3 2 5 .
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4 2 3 3 i
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3
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B3. 応用地理学・生態学・喋境論(必修18単位)
景観生態学
自然資源の利用と環境保護 自然のリスクと災害 環境評価
地域計画 景観学入門 応用地形学
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・'・・・・・・・・・'・・・・・・ B4. 応用地理学・生態学・環境論(選択2 6単位)
天文学 土地行政
アグロフォレストリー
3 3 2
2 2 3 3
2 2 2
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C. 分野別専門科目(必修 15単位,選択6‑14単位)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ C 1. 景観生態学・環境学(必修9単位,選択6‑13単位)
植物学 景観評価
環境汚染とその評価対策 レポート
微気候*
応用GISとリモートセンシング*
環境経済学*
毒物学*
自然地理の主題図作成法*
土地利用計画*
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C2. 自然地理学(必修9単位,選択6‑10単位)
熱帯地理学
自然地理学の主題図作成法 植物学レポート
微気候*
ベトナムの自然資源と環境*
農芸化学*
応用GISとリモートセンシング*
ベトナムの自然資源・エコツーリズム*
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ C3. 地形学(必修9単位,選択6‑14単位)
動態地形学 地形学研究法 海洋地形学 地形学レポート
応用 GISとリモートセンシング*
地形学図*
自然災害研究における地形学の応用*
テクトニクス論*
ベトナムの地形 II* 古地理*
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C4. 海洋地理学(必修9単位,選択6‑12単位)
海岸地形学 海洋地形学 海洋生態学 海洋地形の調査方法
レポート
ベトナムの海洋経済学*
河口のエコシステム*
海洋学入門*
応用GISとリモートセンシング*
沿岸管理*
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cs. 地図学・リモートセンシング(必修9単位,
地図学のための数学 地形図地図デザインと編集
..........................
選択6‑12単位)
3 2 3 1 2 2 2 2 3 2 3 2 3 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 3 2 2 3 2 2 2 2 2 2 1 2 2 2 3 3 2 2 2
応用GISとリモートセンシング レポート
地図の自動図化*
測地学*
主題図作成*
土地管理地図*
地図編集*
地図学の方法*
誤差論*
.測地学*.................................................し............................,......
C6. 人文地理学・生態経済学(必修9単位,選択6 14単位)
経済学基礎 生態経済学
ベトナムの文化・民族集団 ベトナムの海洋経済
レポート 政治地理学基礎*
ベトナム農業・農村地理*
都市・工業地理学*
ベトナム家族経済学*
生態経済学の方法*
景観の地球化学・栄養・衛生*
ベトナム地誌・地域経済の方法*
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・'・・・・・・・・』・・・・・・・・・'・・・・・
C7. ェコツーリズム(必修9単位),(選択6 12単位)
ェコツーリズムと余暇 観光地理学
ベトナムの景観生態学・風景 旅行ガイド・エコツーリズムガイド論
レポート
観光のプラニング*
ペトナムの歴史・文化*
余暇とエコツーリズムの生理学*
生態気象と公衆衛生*
ベトナムの海洋ツーリズムと洞窟観光*
ェコツーリズムの美学・心理学*
レポート*
ー
2122622222~
ー
222212222222~
2 2 2 2 1 2 2 2 2 2 2 1 D. 最終試験(必修10単位)
•• 最終試験ン卒粟論文・c"io単位)•••••••••• ・1・........ r ....... l ....... ・1・...... ・r・. io . .・1・......
i訟)単位, 1年 次 前 ・ 後 期 " 単 位+3I豆i~叫ii叫乱;i叫:::I:;り乱 10
注)*は巡検(エクスカーション)科目。
*は選択科目。
2年次前後期に配当の軍事教練は,かつては実戦訓練が中心であったが,現在 では軍隊史・地政学などの集中講義が主となっている。
ま だ ベ ト ナ ム 地 理 学 会 の 学 術 雑 誌 は 刊 行 さ れ て い な い 。 以 上 の こ と を 踏 ま え る と , こ の 学 部 で の 専 門 の 地 理 カ リ キ ュ ラ ム は ベ ト ナ ム で の 最 も 完 備 し た も の と みなしてよい。
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まず,地理学部の5学科は教育システムとして,自然地理学諸分野の各科目 を中心に2年次で広く学ぶ(表lのA系列)。いずれも必修であるが,人文地 理学に関しては「人文地理学入門」 1科目のみである。 3年次以降は5つの学 科ごとに必修科目が異なる。巡検(エクスカーション)は充実しており,まず 2年次前期で複数教員による 1週間の巡検(「地理学巡検」)を行う。総勢100 名近くとなり,教員も 3名がつく。大学のバスをチャーターして,北部ベトナ ムの農村で農家に分宿し自炊することが一般的である。 2年次後期の巡検は 2 週間あり(「自然地理学巡検」),さらに測量学実習が 3年次必修であるなど,
自然地理学の観察(露頭や河川,山地,北部ベトナムに特有な熱帯カルスト地 形)とその記録,地図化が重要な技術となっている。その際の測量学や測量誤 差の知識は,土地行政学科でも主要な技術となる。
人文地理学に関してはもともとアングロサクソン系の方法論がこれまでほと んど移入されてこなかった事情もあり,現在もなお模索状態である。そのた め,学科名称にも人文地理学に加えて生態経済学 (Ecological Economics) と いったあまりなじみのない名称が付加されている。これも環境のコストを考え る環境経済学的アプローチではなく,自然条件を加味した経済現象の地域分析 の性格が強い。
わが国の人文地理学も近年再び環境を視野に取りこもうとしているが,言説 分析や運動論との関わりなどが中心で,ある意味では環境データの裏付けや解 釈に対しては常識的な分析の一線を越えていない。それに対してベトナムで は,人文地理学を専攻した者でも自然環境諸要素の関係を読み取る傾向が強 い。人文景観は man‑made landscapeであり,このような人工改変地形やツー リズムも人間の営為によるものとして,ベトナム地理学部では関心の高い分野 となっている。そのため,地形学科の学生でも地形の分析という自然プロパー を研究テーマとするほかに,エコツーリズム,国立公園の管理,人工改変地形 など人文現象に一部はオーバーラップしている。
一方,景観生態学・環境学科は, ドイツのC. トロールに始まる自然諸要素 の相互関係を追求する景観生態学やソ連の土壌学などの方法論の影響を受けて いる。景観計画は自然諸要素のレイヤー(層)を重ねて,その最後の局面のレ イヤーに人間を加えるといった自然地理学重視の傾向が強い。 1994年までは 地質学と地理学が同じ地球科学部の所属であったこともあり,教員の間にも,
人文現象をとりこんで地域計画に活かそうという発想には強い親和性をもって いる。地図(とりわけ植生図,土地利用図など),リモートセンシングは景観 生態学でも重要な手法であるが,この技術論により特化した分析的なアプロー チが地図学・リモートセンシング学科である。 GISはいずれの学科でもきわめ て頻繁に用いる技術である。
私が今回の訪問でいちばん印象に深かったことを述べたい。紅河デルタの歴 史的開発過程を堤防や水路の建設年,集落の形成プロセスなど事細かな事例に ついて,私の興味に対応してもらえる研究者が地理学部にはなかなか見つから ないことに内心フラストレーションが溜まっていた。土地行政学科にこの要望 に応えるべき人材と教育システムが存在したことは新たな発見であり,今後の 調査研究や農村開発の実践にも潜在的な力を発揮すると思われる。紙幅の関係 で表lのような形式では掲載できないが,以下に土地行政学科の専門科目名で 特色のあるものを列挙する。
①入門科目:自然地理学入門,自然地理学巡検,人文地理学入門,自然資源 の合理的利用と環境保全,ベトナムの地理,②専門科目:地図学入門,測量 学,測量学入門,リモートセンシング入門,誤差論,土地管理測量における測 地学, GIS,衛星写真判読,土地管理,土壌学と土壌,土地管理測量,同・実 習,土地利用図作成,地図作製,土地評価,土地利用計画都市計画,土地政 策と法律,土地統計,地価論,土地管理記録,土地情報システム,レポート,
土地記録の管理,地形図,土地測量,計画図,地名,都市の測量, GPS,デジ タル画像技術,測量ネットワークの構築,ステレオ画像,衛星写真判読,測地 学,土地管理の歴史,土地経済学,景観生態学,土地測量官論,農地経済学,
農家経済と不動産,巡検,卒業論文と最終試験。
ベトナムではドイモイとよばれる経済開放政策により土地の実質的な土地の 私的利用,相続,権利の売買,抵当の設定などが認められた。地籍図,農村や 都市計画図の作成と登記業務に関わる専門職公務員が大量に必要となる時代の 到来を予測して,土地行政学科は地理学部で最も人気の高い学科となってい る。
4. ベトナム人文地理学のゆくえ
以上の考察を踏まえて,関西大学大学院博士後期課程に留学中のTuan氏に 私の訪越の印象とアイデイアをぶつけてみた。縦軸には総合/分析という方法 パラダイム,横軸に自然/人文という対象の違いという 2つのマトリックスの 組み合わせ (I N象限)の中に5つの学科を布置した試作図を見せ,それを 2人で議論しながら修正した。ほぽ合意に達したものが図2である。
土地行政学科は4つの象限のほぽ中央に位置し,実学的要素が強い。最も自 然科学を志向し,分析的かつアカデミックなのは地形学科である。当初の私の 試案ではすべてがW象限のみに布置させていたが,人工改変地形などの研究や 教育がさかんであり,皿象限にも若千食い込むという結論となった。同じよう
に人文地理学・生態経済学科も皿象限が大部分を占めるが,一部はW象限に入
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Analytical
図2 方法と対象からみた地理学部5学科の布置
Fig. 2 Allocation Map of the Nature of Geography in Faculty of Geography, Vietnam National University, Hanoi
っているところにベトナム的特色が見られる。
地図学・リモートセンシング学科は地図化という技術の習得が中心となるた め,すべての象限にまたがるが,その中心はW象限である。それに対して,景 観生態学・環境学科は自然諸要素の相互関係を総合化する側面がカリキュラム でも研究面でも顕著であり,カバーする範囲は5学科のなかで最も広い。
このような布置図を作成してみて,将来,ベトナムの地理学に対して日本の 人文地理学がどのような貢献ができるだろうかを列挙して結びとしたい。
I)今回講義を依頼されたのは,「歴史地理学」という科目がいかなる方法・
資料を使うかを,欧米や日本の研究動向も含めて,英語文献を使って教授して 欲しいというものであった。英語園の文献や研究動向に渇望していることは,
肌でひしひしと感じた。プレゼンテーション能力は日本人学生よりも卓越して いるが,英語力と応用力が弱いため, Webサイトからの引き写しと本質に対 する理解不足が指摘できる(9)。今後の大学専門教育における日本の協力とし て,箱ものよりも基本的な英語文献・教科書や参考図書を揃えるのに援助の手 を差しのべるべきであろう。
2)ベトナム地理学は,理科大学に所属しながらも,実践・現場向きの技術 (GIS, ツーリズム,環境分析・評価,土地行政)の習得には熱心である。 GIS が,なおアカデミックな分析に偏向しているわが国の地理学専攻は,むしろ範
とすべきかもしれない。
3)情 報 機 器 に つ い て は 地 理 学 科 が 理 科 大 学 の 中 で も 有 力 な 学 部 で あ り , 国 際交流も盛んなため,研究室の整備は情報機器に関する限りかなり進展した。
と り わ け , パ ソ コ ン に よ る 地 図 化 は そ の作回センスも良い。ただ,データイン プ ッ ト と 図 化 に 膨 大 な エ ネ ル ギ ー を 費 や す た め , 図 か ら 導 き 出 せ る 考 察 や 提 言 は通り一遍の平凡なものが多い。箱ものへの援助は見直しの時期に来ている。
4)ベ ト ナ ム は フ ォ ー マ ル な 世 界 が な お 強 固 に あ る が , い っ た ん , そ の フ ォ ー マ リ テ ィ が 個 人 の 関 係 に よ っ て 打 ち 砕 か れ る と , 事 態 は き わ め て 順 調 に 推 移 す る 。 ビ ー ル や 度 数40度 の 米 焼 酎 を 交 え た 昼 食 や 夕 食 時 の 語 ら い は 効 果 的 な 潤 滑 油 で あ る 。 組 織 の 中 で の 人 間 関 係 の 確 立 や つ き あ い を 苦 と し な い 度 量 が 双 方に必要となる。
5)伝 統 的 な 地 理 学 の 手 法 や 地 誌 へ の 関 心 は 薄 い 。 紅 河 デ ル タ 農 村 を 70年 以 上 前 に 精 査 し た フ ラ ン ス 人 地 理 学 者 ビ エ ー ル ・ グ ル ー (P. Gourou) <iolなども,
ベ ト ナ ム 地 理 学 の 世 界 で は ほ と ん ど 忘 れ ら れ た 存 在 で あ っ た 。 む し ろ 歴 史 家 に よって再評価され, 2003年 の 夏 に よ う や く ベ ト ナ ム 語 訳 が 国 内 で 刊 行 さ れ た 。 地 理 学 を 学 ん だ 者 の 歴 史 過 程 へ の 無 関 心 は 将 来 の ベ ト ナ ム 人 文 地 理 学 の 課 題 で あ る 。 日 本 発 の 人 文 地 理 学 と し て , 今 後 ベ ト ナ ム に 私 た ち が 貢 献 す べ き
は , 地 籍 図 の 活 用 や , マ ク ロ ス ケ ー ル での属地データと歴史過程を結合するよ うな考え方・手法であると私は考えている。
注
(1) ベトナムで最初に設立された大学で,フランスの植民地時代の1925年に設立さ れた。現在,ベトナムには教育訓練省の直轄下にあるベトナム国家大学と,それ 以外の国立大学,それに近年,勃興してきた少数の私立大学がある。ハノイとホ ーチミン市にある2つの国家大学はその頂点にある大学といえる。経済的にはホ ーチミン市がハノイ市を圧倒するが,ベトナム人にとってハノイは,政治・文化 の中心という意識がきわめて強く,純学術的な研究ではベトナム国家大学ハノイ 校は最も卓越した地位にある。
(2) 旭硝子人文科学助成によって紅河デルタハイズオン省の1つの郡を対象にミニ農 村開発を実践した。月刊地理46巻8号 47巻1号には研究分担者で5回の経過 を連載した。野間晴雄「農村社会を支える自立性と形式主義の柔構造(紅河デル タ:地理学ベースの農村開発⑤)」,地理47‑1,2002, 66‑75頁はその中間小括であ る。
(3) Tran Anh Tuan: Scenario of Changing Rural Settlements in the Red River Delta, Viet‑ nam, 千里地理通信(関西大学地理学研究会会報) 49号, 2003,4‑6頁。
(4) 日本学術振興会平成15年度科学研究費基盤研究 (B)(l)「地理学を核としたアジ ア地域研究のデータベースと研究者ネットワークの構築」(代表・野間晴雄,課
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