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博士論文

難水溶性薬物タクロリムスの

徐放性固体分散体顆粒製剤の設計に関する研究

平成 28 年 3 月

綱島 大介

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科

博士後期課程創薬生命科学専攻

(2)

目次

諸言 ... 4

総論の部 ... 7

第一章 タクロリムスのヒト消化管吸収性評価 ... 7

1-1 諸言 ... 7

1-2 ヒト消化管吸収性評価試験で使用するInteliSiteカプセル充填用試料の設定 ... 9

1-3 ヒト消化管内でのInteliSiteカプセルからの薬物放出 ... 12

1-4 InteliSiteカプセルのヒト消化管内移行性評価 ... 17

1-5 血中薬物濃度推移および薬物動態パラメータの解析 ... 21

1-6 小括 ... 28

第二章 タクロリムス徐放性固体分散体顆粒の調製と評価 ... 29

2-1 諸言 ... 29

2-2 タクロリムス徐放性固体分散体顆粒の調製と放出特性の評価 ... 30

2-3 経口吸収性評価 ... 36

2-4 小括 ... 40

第三章 タクロリムス徐放性固体分散体顆粒からの薬物放出機構の解析 ... 41

3-1 諸言 ... 41

3-2 ECおよび乳糖が放出速度に与える影響 ... 41

3-3 顕微鏡観察... 48

3-4 小括 ... 52

第四章 ヒト適用製剤の設計と評価 ... 53

4-1 諸言 ... 53

4-2 タクロリムス血中濃度推移予測モデルの確立 ... 55

4-3 ERGをヒトに経口投与後のタクロリムス血中濃度プロファイルシミュレーション ... 61

4-4 製造性と放出速度を考慮したERG粒子径範囲の設計 ... 65

4-5 ヒト適用製剤の放出特性 ... 69

4-6 ヒトにおける経口吸収性の評価 ... 72

4-7 小括 ... 76

結論 ... 77

謝辞 ... 80

実験の部 ... 81

(3)

第二章 ... 85 第三章 ... 88 参考文献 ... 94

(4)

諸言

タクロリムスは藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社)により開発され た 23 員環を有するマクロライド系の免疫抑制剤である(図 1)。タクロリムスは細胞 内でまずFKBP(FK506 binding protein)と結合して複合体を形成し、これがさらに細 胞内シグナル伝達に関与するホスファターゼの一種であるカルシニューリンに結合し て脱リン酸化反応を阻害することにより、インターロイキン2(IL-2)に代表される種々 のサイトカインの発現を抑制する。これにより細胞障害性T細胞の分化増殖を抑制し、

細胞性免疫および体液性免疫の両方を抑制することで強力な免疫抑制作用をもたらす。

1 Chemical structure of tacrolimus.

タクロリムスの経口投与製剤については、一日二回投与の速溶性カプセル製剤とし て、Prograf®カプセル(Prograf)(図 2)がアステラス製薬株式会社より1993年に世界 に先駆けて日本で発売され、現在 90 以上の国や地域で販売されている。この Prograf は、肝、腎、肺、骨髄移植時の拒絶反応抑制剤、さらには重症筋無力症、潰瘍性大腸

(5)

図 2 Appearance of Prograf® capsules 0.5 mg (left), 1 mg (center) and 5 mg (right).

臓器移植患者は、拒絶反応の発現や移植臓器の喪失を防ぐため、生涯にわたり免疫 抑制剤を服薬しなければならない。しかしながら、生涯にわたっての薬剤の服用は、

患者への精神的な負担が大きく、臓器移植後における免疫抑制剤治療のように、服薬 アドヒアランスが生死にかかわる薬剤でさえ、低服薬アドヒアランスによる治療不良 例が報告されている[1,2]。服薬アドヒアランスを製剤工夫により改善する策としては、

水無しでの服薬性を改善した口腔内崩壊錠[3]、複数の薬物を一つの錠剤に配合したコ ンビネーション錠[4]、製剤からの薬物の放出を遅らせた徐放性製剤[5,6]などの様々なア プローチが報告されているが、中でも徐放性製剤により製剤からの薬物の放出を徐放 化し血中濃度を持続化させることで服薬回数を減らすことが、服薬アドヒアランス向 上に効果的であることが報告されている[7]。そこで著者は、一日に二回の経口投与を 要するタクロリムスの速溶性製剤であるPrografよりも優れた服薬アドヒアランスを目 指した、一日一回経口投与のタクロリムス徐放性製剤の設計を目的に研究を行った。

徐放性製剤の性能としては、Prografと同じ投与量で同等の有効性となることを目標に、

単回経口投与後の血中濃度-時間曲線化面積(AUC)がPrografと同等となることを目 指した。また、タクロリムスの高い血中濃度は腎障害などの重篤な副作用との関連性 が明らかとなっているため、最高血中濃度(Cmax)はPrografで得られるCmaxの二分の 一以下となることを目標とした。

経口投与型の徐放性製剤は、その形態から、一般にシングルユニット型とマルチプ ルユニット型に分類される。シングルユニット型の多くは消化管内で投与剤形が保た れたまま徐々に薬物が放出されるのに対し、マルチプルユニット型では徐放性の顆粒

(6)

を含む錠剤やカプセル剤が生体内で速やかに崩壊した後、分散した顆粒から薬物が 徐々に放出されるものである。マルチプルユニット型製剤は、シングルユニット型製 剤に比べ、経口投与した後の製剤の胃内滞留時間を含む消化管内移行性等における、

消化管運動性などの生理的因子に基づく個体内、個体間変動が小さくなることが期待 される製剤である。そこで、タクロリムス徐放性製剤においても徐放性顆粒によるマ ルチプルユニット型の製剤を設計することとし、剤形としてはPrografと同じカプセル 製剤とした。

タクロリムスを徐放性製剤化するにあたっては、検討すべき主要な課題が三つ考え られた。一つ目は、消化管下部での薬物吸収性である。徐放性製剤は消化管下部にお いても薬物を放出し、吸収を期待することになるため、タクロリムスが消化管下部に おいても良好に吸収されることが必要となる。そこでまず、消化管各部位におけるタ クロリムスの吸収特性を明らかにし、徐放化による血中濃度持続化のコンセプトが、

タクロリムスに当てはまるか否か、検証する必要があると考えられた。二つ目は、タ クロリムスの吸収改善である。タクロリムスは難水溶性薬物で、水への溶解度はいず れのpHにおいても数µg/mLと極めて低い[8]。速溶性製剤Prografにおいても可溶化技 術により吸収性を改善している。従って、徐放性製剤においてもPrografと同等な吸収 性を確保するためには薬物の溶解度改善が必要であり、薬物の徐放化と溶解度改善を 両立することのできる製剤を設計する必要があると考えられた。三つ目が、薬物放出 速度の制御である。製剤を経口投与後に目標とする血中濃度-時間推移を得るため、

製剤処方により薬物放出を任意の速度にコントロールできることが必要と考えられた。

これらの課題を解決するために種々の検討を行い、目標とするタクロリムス徐放性製 剤の調製に成功した。

以下、得られた知見を四章にわたり論述する。

(7)

総論の部

第一章 タクロリムスのヒト消化管吸収性評価

1-1 諸言

経口投与徐放性製剤とは、経口速溶性製剤では達成できない臨床効果(効果の持続 や副作用の低減)や高い服用アドヒアランスを得るために、薬物放出を意図的に遅ら せるように制御した製剤であり、これまでに多くの薬物について実施例や報告例があ る。経口投与された徐放性製剤は消化管内を移動しながら徐々に薬物を放出するが、

一般に、空腹時に経口投与された製剤は、投与後 4-5 時間後には大腸に到達するとさ れる[9]。消化管各部位の管腔内pH、有効表面積、酵素活性、種々のトランスポーター 活性・発現量などは一定でないため、投与後、消化管内を移動しながら徐々に薬物を 放出する徐放性製剤の場合、薬物の膜透過性、小腸利用率(Fg)などは、消化管各部 位で異なる可能性があり、それらは最終的に経口投与後の薬物の生物学的利用能(BA) に影響する[10,11]。特に徐放性製剤の場合は、消化管下部における薬物吸収性、小腸利 用率が他の部位と比較して著しく低い場合、徐放性製剤化の意義が消失してしまう。

従って、経口投与徐放性製剤の製剤設計においては消化管部位ごとの薬物吸収性を把 握することが重要となる。

そこで著者は、タクロリムスのヒト消化管各部位よりの吸収性を評価するために、

InteliSite®カプセル(InteliSiteカプセル)を利用することとした。InteliSiteカプセルは、

消化管の各部位からの薬物吸収を非侵襲的に評価するためInnovative devices社(米国)

により開発された経口投与デバイスである[12-15]。InteliSiteカプセルを111In標識し、111In の放射能をガンマシンチグラフィー[16]により追跡して、経口投与後のカプセルの消化 管内の位置をリアルタイムにモニターできるほか、外部からの磁場付与でカプセルを 開口させ、カプセルに予め封入した薬物を放出することができる。従って、経口投与

(8)

後、InteliSite カプセルの位置をガンマシンチグラフィーでリアルタイムに追跡し、目 的とする消化管部位に到達したことを確認後、カプセルを開口させて薬物を放出し、

その部位以降での消化管吸収の評価が可能となる。

本章では、InteliSite カプセルおよびガンマシンチグラフィー技術を用いてタクロリ ムスのヒト消化管の異なる部位での吸収性を評価した結果について論述する。

(9)

1-2 ヒト消化管吸収性評価試験で使用するInteliSiteカプセル充填用試料の設定

ヒト消化管吸収性評価試験では、消化管各部位におけるタクロリムスの吸収性を確 実に評価するため、InteliSite カプセルからの薬物放出特性がタクロリムスの吸収性評 価に影響しないように適切に設計する必要がある。従って、InteliSite カプセルに充填 する試料の特性としては、消化管投与部位の環境によらず、カプセルから試料の全量 が速やかに放出され、かつ直ちに吸収が開始することが望まれる。この特性を満たす 形態として溶液製剤が妥当と考え、以下、評価を行った。

InteliSiteカプセルへの充填量としては、1カプセル当たり最大0.8 mLの液体充填が 可能であり、最少量としては0.4 mLが推奨されている。一方、タクロリムスは免疫抑 制剤であるため、倫理的観点から、健常人に投与する投与量はなるべく少ない方が望 ましい。その血中濃度はエンザイムイムノアッセイで定量することから、投与量とし

ては 1 mg/body 以上であれば、十分と考えられたため、投与試料として、タクロリム

ス1 mg/0.5 mL/カプセルと設定した。

タクロリムスは難水溶性の薬物で、25℃における水への溶解度はpHによらず約2-4 µg/mL程度であり[8]、上記設定濃度の水溶液は調製できない。一方で、タクロリムスは、

有機溶媒や水溶性高分子への溶解度は高く、25℃におけるPEG400 (polyethylene glycol 400)への溶解度は約140 mg/mLである[17]。そこで、InteliSiteカプセルに充填する薬液 の溶媒候補としてPEG400を選択し、PEG400溶液中でのタクロリムスの安定性および InteliSiteカプセルからの薬液の漏れを評価した。

本評価では、2 mg/mLタクロリムス-PEG400溶液を調製し、その0.5 mLを InteliSite カプセルに充填、カプセルを精製水を満たした遠沈管中に沈め、37℃、60回/分の速度 で振とうし、精製水中に漏れ出たタクロリムスを高速液体クロマトグラフィー(HPLC) にて定量した。実験結果を表 1に示す。試験した6個のカプセル中5個で、48時間後 も内容物の漏出は全く認めらなかった。漏出が認められた 1 カプセルも、漏出量は全 量の僅か3.9%であり、実験上、問題となるレベルでは無かった。また、いずれのカプ

(10)

セルにおいても 48 時間後のタクロリムスの総回収率がほぼ100%であったことから、

PEG400溶液中でのタクロリムスの安定性についても、問題無いと判断できた。

以上の結果から、ヒト消化管吸収性評価試験で InteliSiteカプセルに充填する試料は タクロリムスをPEG400に溶解させた溶液とし、同溶液を1 mg/0.5 mL、カプセルに充 填することとした。

(11)

1 Stability of tacrolimus in polyethylene glycol solution and leakage from InteliSite capsule.

Capsule ID K43098 -1

K43098 -2

K43098 -3

KPT82798 -4

KPT82798 -5

KPT82798 -6

Leakage

2 h 0.0% 0.0% 1.9% 0.0% 0.0% 0.0%

6 h 0.0% 0.0% 3.9% 0.0% 0.0% 0.0%

24 h 0.0% 0.0% 3.9% 0.0% 0.0% 0.0%

48 h 0.0% 0.0% 3.9% 0.0% 0.0% 0.0%

% remaining 97.3% 96.9% 93.4% 99.4% 100.6% 96.4%

% recovery 97.3% 96.9% 97.3% 99.4% 100.6% 96.4%

InteliSite capsules containing tacrolimus in polyethylene glycol solution were filled into tubes containing purified water and shaken at 37 °C.

(12)

1-3 ヒト消化管内でのInteliSiteカプセルからの薬物放出

ヒト消化管吸収性評価試験に組み入れられた被験者の属性データを表 2に示す。試 験は、年齢30-55歳、体重65.0-78.5 kgの健常白人男性6名で実施し、薬液投与部位と しては、胃(regimen A)、小腸上部(regimen B)、小腸下部(regimen C)および上行結 腸(regimen D)を選択した。

ヒト消化管吸収性評価試験では、薬液の放出を確認するマーカーとして99mTc-DTPA

(diethylene triamine pentaacetic acid)を加えたタクロリムス-PEG400 溶液を封入した

InteliSite カプセルを被験者に経口投与後、カプセルが薬物放出部位に到達したことを

ガンマカメラで確認した後に、カプセルを開口操作(activation)して薬液を放出した。

図 3 に各投与部位におけるカプセル開口操作前後の代表的なシンチグラフィーイ メージを示す。いずれの投与部位においても、カプセル開口操作前は薬液がカプセル 内に保持されているが、開口操作後には速やかに薬液が放出され消化管内に分散する ことが、薬液に混合した99mTc-DTPAの消化管内への拡散の様子から確認できた。

表 3 に、各投与 regimen において InteliSite カプセル開口操作からマーカーである

99mTc-DTPAの放出が確認されるまでに要した時間を示す。結果、投与regimen A, B, C

および Dで、InteliSiteカプセル開口後、マーカー放出が確認されるまでに要した平均

時間はそれぞれ3.6分、5.4分、6.6分および8.4分で、部位によらず速やかな放出が行 われたことが確認できた。

また表 3 には、被験者の糞中から回収した InteliSiteカプセル内に残存していたタク ロリムスの割合も示した。全 24 例の 2/3 にあたる 16 例において、回収したカプセル 内のタクロリムス残存率は検出限界以下であった。残存の確認された8例においても、

薬物残存率は9%未満であり、カプセル内の薬液のほとんどが消化管内に放出された事 が確認された。

(13)

2 Demography of study subjects for regional absorption study of tacrolimus.

Subject number

Age (years)

Height (cm)

Weight (kg)

1 55 167.0 65.0

2 50 177.0 69.0

3 37 165.0 76.0

4 42 173.5 71.0

5 30 176.0 78.5

6 40 180.0 76.0

Mean 42 173.1 72.6

SD 9 5.9 5.1

All subjects were healthy, non-smoking, drug free (except for paracetamol more than 14 days before), males within 20% of body weight for height and frame based on the 1983 Metropolitan height and weight tables[18] .

(14)

3 Representative scintigraphic images before and after activation of InteliSite capsule containing 99mTc-DTPA as a marker.

Scintigraphic images of subject 2 were presented.

Regimen A, 3 mins after activation

Regimen B, 13 mins after activation Regimen A, before activation

Regimen B, before activation

(15)

3 Representative scintigraphic images before and after activation of InteliSite capsule containing 99mTc-DTPA as a marker (continued).

Scintigraphic images of subject 2 were presented.

Regimen C, 7 mins after activation

Regimen D, 6 mins after activation Regimen C, before activation

Regimen D, before activation

(16)

3 Initial marker (99mTc-DTPA) release from the InteliSite capsule and remaining tacrolimus in retrieved capsule.

Subject No.

Initial marker release (min post activation)

Remaining tacrolimus (% of dose)

Regimen Regimen A B C D A B C D

1 5.4 1.8 10.2 15.0 n.d. n.d. 4.3 8.8

2 1.8 2.4 4.8 1.8 n.d. n.d. n.d. n.d.

3 1.8 2.4 4.8 5.4 n.d. n.d. n.d. 4.9

4 1.8 7.8 9.6 7.8 n.d. 3.5 n.d. 3.7

5 4.8 7.8 7.8 6.0 n.d. n.d. n.d. 4.8

6 6.6 9.6 1.8 12.6 n.d. 6.1 n.d. 2.7

Mean 3.6 5.4 6.6 8.4

SD 2.4 3.6 3.0 4.8

SD, standard deviation; n.d, not detected (< 2.5% of dosed tacrolimus). Remaining amount tacrolimus in InteliSite capsule was determined from retrieved capsule in feces.

(17)

1-4 InteliSiteカプセルのヒト消化管内移行性評価

InteliSiteカプセルにラベルした111Inをモニターして得られたカプセルの消化管内移 行データを表 4に示す。InteliSiteカプセルの平均胃排出時間はregimen A, B, Cおよび Dで、それぞれ1.73 h, 1.96 h, 1.37 hおよび1.46 hでありregimen間での差は認められな かった。一方、胃排出時間を個体毎に見た場合、24例中17例で速やかな胃排出(2時 間未満)が認められた。7例では 2 時間以上を要する比較的遅い胃排出が示され、特 にregimen Aの被験者2とregimen Bの被験者3では4時間以上と遅い胃排出が認めら れた。一般に、胃排出に影響する主要因子として、投与物の大きさと被験者の摂食状 態が挙げられる[19,20]。通常、空腹状態では、非消化性固形物の胃排出は、胃の MMC

(migrating myoelectric complex)活動により大きく左右される。空腹時のMMC活動は、

静止期(Ⅰ相)、不規則な小振幅の収縮群(Ⅱ相)、これに続く高頻度の規則的な大振 幅の収縮群(Ⅲ相)のサイクルを繰り返すことが知られており、第Ⅲ相はhousekeeper waveとも呼ばれ、この第Ⅲ相において、比較的大きな非消化性固形物などが胃排出さ れることが知られている[21]。InteliSiteカプセルの大きさ(長さ35 mm,直径10 mm) を考慮すると,MMCの第Ⅰ相、第Ⅱ相での胃排出ではなく、第Ⅲ相において胃排出さ れると考えられる。MMC の 1 サイクルはヒトでは約 2 時間とされているが[22],本検 討で認められたInteliSiteカプセルの胃排出時間は、ほとんどの場合2時間以内であっ たことから、カプセルが最初に起こった housekeeper wave により胃排出されたともの と考えられた。一方、regimen Aの被験者2とregimen Bの被験者3では、InteliSiteカ プセルの胃排出に4時間以上を要した。通常、housekeeper waveでは、その時に胃内に 存在しているものは全て胃排出されるとされているが、胃内の固形物が排出されない 例も報告されており[19,23,24]、上記2例については、InteliSiteカプセルは、2回目あるい は3回目のMMCサイクルの第Ⅲ相において胃排出された可能性が考えられた。

小腸通過時間の平均値は、regimen A, B, CおよびDでそれぞれ4.58 h, 4.50 h, 4.28 h および4.60 hとなり、regimen間での差は認められなかった。小腸通過時間は、これま でにヒトあるいはラットを用いた検討で、溶液、顆粒、錠剤など種々の剤形において

(18)

報告されており[9,19,25,26]、ヒトでは剤形によらず 3-4 時間程度の通過時間であることが 知られている。本検討での InteliSiteカプセルの小腸通過時間もその範囲であり、また 表 4の個別データの比較から分かるように、個体間でのバラツキは比較的小さいもの であった。

大腸通過時間の平均値は、regimen A, B, CおよびDでそれぞれ18.00 h, 29.00 h, 24.78

hおよび43.40 hとなり、胃排出時間や小腸通過時間と比較して非常に長かった。また、

個別データの比較から小腸通過時間に比べ大腸通過時間の個体間変動が大きいことも 示された。大腸通過時間の個体間変動が大きいこと、また胃排出時間や小腸通過時間 との相関性が認めらないことは、これまでの報告とよく一致するものであった[9,27]

(19)

表 4 Gastrointestinal transit of InteliSite capsule.

Dosing site Subject

number

Activation of capsule (h post-dose)

Gastric emptying (h post-dose)

Small intestinal transit

(h)

Colonic transit (h)

Total transit (h)

Stomach (Regimen A)

1 0.07 1.39 5.82 15.39 22.60 2 0.10 4.98 4.72 12.32 22.02 3 0.07 1.27 4.23 42.03 47.53 4 0.08 0.74 4.49 8.67 13.90 5 0.05 0.83 4.48 19.94 25.25 6 0.05 1.18 3.75 9.65 14.58 Mean 0.07 1.73 4.58 18.00 24.31

SD 0.02 1.61 0.69 12.47 12.26

Proximal small bowel (Regimen B)

1 0.85 0.67 4.68 41.93 47.28 2 3.12 2.86 2.52 17.09 22.47 3 5.32 4.75 7.81 36.44 49.00 4 0.70 0.39 4.87 29.44 34.70 5 1.07 0.85 3.93 29.20 33.98 6 2.82 2.22 3.16 19.92 25.30 Mean 2.31 1.96 4.50 29.00 35.46

SD 1.80 1.67 1.85 9.46 10.93 Activation of capsule: the time InteliSite capsule was activated after dosing. Gastric emptying: the time InteliSite capsule was emptied from stomach to small intestine after dosing. Small intestinal transit: the time obtained by subtracting gastric emptying time from the time InteliSite capsule arrived at colon. Colonic transit: the time obtained by subtracting the time InteliSite capsule arrived at colon from the time InteliSite capsule was retrieved. Total transit: Sum of the time InteliSite capsule arrived at colon and colonic transit.

Page 19

(20)

表 4 Gastrointestinal transit of InteliSite capsule (continued).

Dosing site Subject

number

Activation of capsule (h post-dose)

Gastric emptying (h post-dose)

Small intestinal transit

(h)

Colonic transit (h)

Total transit (h)

Distal small bowel (Regimen C)

1 6.07 3.50 3.75 17.33 24.58 2 3.92 1.63 3.37 15.48 20.48 3 5.05 1.46 3.86 41.50 46.82 4 3.43 0.60 4.70 31.50 36.80 5 2.87 0.73 4.70 24.02 29.45 6 3.68 0.29 5.27 18.82 24.38 Mean 4.17 1.37 4.28 24.78 30.42

SD 1.18 1.16 0.72 10.03 9.80

Ascending colon (Regimen D)

1 8.83 1.75 5.26 89.04 96.05 2 5.67 2.53 2.85 15.17 20.55 3 9.68 2.81 6.33 38.54 47.68 4 12.32 0.28 4.85 21.22 26.35 5 7.05 1.17 4.13 27.32 32.62 6 5.48 0.19 4.20 69.11 73.50 Mean 8.17 1.46 4.60 43.40 49.46

SD 2.63 1.11 1.18 29.38 29.68 Activation of capsule: the time InteliSite capsule was activated after dosing. Gastric emptying: the time InteliSite capsule was emptied from stomach to small intestine after dosing. Small intestinal transit: the time obtained by subtracting gastric emptying time from the time InteliSite

Page 20

(21)

1-5 血中薬物濃度推移および薬物動態パラメータの解析

Regimen AからDに従い、消化管各部位においてInteliSiteカプセルからタクロリム

ス-PEG400 溶液を放出した後に得られた血中タクロリムス濃度時間推移の各個体の結

果を図 4に、平均値を図 5に示す。また、算出した主要な薬物動態パラメータを表5 にまとめた。図 4 および図 5から、いずれの regimen および被験者においても、薬液 放出後速やかに血中にタクロリムスが出現していることが確認された。また表 5に示 すように、血中濃度推移から求めた Tmaxは、24例中 21例において 1 時間以内と非常 に早い結果が得られた。ヒト消化管吸収性評価試験において得られた Tmaxは、これま でに報告されているPrografの経口投与試験において得られた結果(平均1- 2時間)[28-30]

と比較して小さいものであった。この理由として、Prografの経口投与試験では、得ら れた Tmaxは、胃排出および製剤からの薬物放出の影響を受けることが考えられた。す なわち、本検討では、タクロリムス血中濃度推移において、InteliSite カプセル開口時 点をtime zeroとしたのに対し、Prograf経口投与試験では、製剤を経口投与した時点を

time zero としている。ここで、Tmax に及ぼす胃排出の影響を考えた場合、本検討の

regimen B, CおよびDではカプセルが胃排出された後に、腸の各部位において薬物を

放出させるため、放出直後に吸収が開始するので、胃排出時間は Tmaxに影響しない。

Regimen A(胃放出)では薬液が胃内で放出されるため、胃排出がTmaxに影響する可能 性は考えられる。しかしながら、表 5に示すように、regimen Aと小腸、結腸で薬液放 出する他の3つのregimenでTmaxに有意な差は認められない。したがって、regimen A においても、InteliSite カプセルから放出されたタクロリムス溶液は、InteliSite カプセ ルそのものの胃排出とは無関係に、速やかに胃排出され、その後の小腸からの吸収に つながったものと考えられた。

また、Prograf経口投与試験の場合、吸収が開始する前に製剤の崩壊や薬物の溶解に

要する時間が必要となる。すなわち、消化管内でまずPrografのカプセル剤皮が胃液や

(22)

中の薬物が溶解し放出する。この過程に要する時間が吸収開始までのラグタイムとな る。一方、本検討では、InteliSite カプセルから溶液状態のタクロリムスが放出される ことから、Prografの場合の様にカプセルの崩壊や製剤中のタクロリムスの溶解時間を 必要としない。これらの理由により、本検討において認められたTmaxは、Prograf経口 投与試験で得られたTmaxより小さい値となったものと考えられた。

経口投与後の Cmaxは、消化管からの薬物吸収速度の指標となる速度論的パラメータ であるが、本検討では、投与部位による統計的な有意差は認められなかった(表5)。

InteliSiteカプセルからのタクロリムス溶液の放出は、第一章1-3において論述したよ

うに、速やかに起こり、かつregimen間でCmaxの差がなかったことから(図3、表3)、 タクロリムスがヒト消化管のいずれの部位からも同程度の速さで吸収されることを示 唆するものと考えられた。ただし、regimen D(上行結腸放出)ではCmaxに若干の低下 傾向が認められている。薬物吸収速度のもう一つの指標であるTmaxについてもregimen

Dではregimen Bより有意に遅延していることから、大腸におけるタクロリムスの吸収

速度は、小腸に比べてやや小さい傾向にあるものと考えられた。また平均滞留時間

(MRT)については、上行結腸で薬物放出した場合(regimen D)と消化管上部で薬物 放出した場合(regimen Aおよびregimen B)とを比較すると、上行結腸で放出した場 合の方が有意に延長していた。また、有意差は認められなかったものの、小腸下部で 薬物放出した場合(regimen C)の MRT も消化管上部と比較して延長する傾向を示し た。全身循環系に移行後のタクロリムスの動態は被験者間でほぼ同じと仮定した場合、

MRTpo(経口投与後の平均滞留時間)= MAT(平均吸収時間)+ MRTiv(静脈内投与 後の平均滞留時間)の関係が成り立つので、本検討で認められた消化管下部投与での MRTの延長はMATの変化によるものと考察される。前述のCmax低下傾向およびTmax

遅延傾向と併せて考えると、タクロリムスの吸収速度は、消化管上部に比べで下部で は遅い可能性が示唆された。ただし、regimen DのAUC0-24hは最も大きな値であったこ

とから、InteliSite カプセルから放出された薬液の大腸滞留時間は十分長く、本検討で

(23)

Regimen A, B, CおよびDのAUC0-24hの平均値は47.5±18.1, 33.6±26.7, 49.6±37.8お よび 56.6±22.1 ng・h/mL、Cmaxの平均値は同様に10.89±4.90, 8.05±3.89, 8.98±7.70 および 7.40±2.81 ng/mL で、標準偏差の大きさからわかるように顕著な個体間変動が 認められたが、平均 AUC0-24hあるいは平均 Cmaxには有意な投与部位間差はなかった。

このことから、ヒト消化管におけるタクロリムスの量的バイオアベイラビリティは、

十二指腸から大腸までの消化管部位によらず、同程度であることが示された。この結 果は、タクロリムスが小腸下部、大腸からも十分に吸収されることを示すものであり、

タクロリムスの徐放性製剤化コンセプトが妥当なものであることを支持する結果で あった。

その一方で、regimen BのAUC0-24h(33.6 ng・h/mL)は、その他のregimenにおける

AUC0-24hよりも、若干低い値を示した。タクロリムスは薬物代謝酵素シトクロームP450

3A4(CYP3A4)の基質である[31,32]。 CYP3A4は薬物代謝の中心臓器である肝臓に最も 多く存在するが、小腸上皮細胞にも多く発現し、経口投与した薬物の初回通過代謝に 重要な役割を果たしており、タクロリムスの低経口吸収性の一因としても報告されて

いる[33]。また、CYP3A4 のヒト消化管における分布には偏りがあり、小腸での発現量

は大腸に比べて高いことが知られている[34-36]。Paineらはヒト消化管におけるCYP3A4 の分布について詳細な検討を行い、その酵素活性は十二指腸から空腸中部にかけて 徐々に上昇し、その後空腸下部から回腸にかけて低下することを報告している[34]。こ れらヒト消化管におけるCYP3A4分布を踏まえて、本検討から得られたAUC0-24hの結 果を考察すると、regimen BにおけるAUC0-24hが他のregimenの場合と比較して低い傾 向にあったのは、regimen Bの場合、CYP3A4の活性が高い空腸上部から中部における 吸収が主体となるため、他の regimen に比して CYP3A4 による代謝の影響をより大き く受けたものと推察された。一方、胃内で薬液を放出するregimen Aでは、タクロリム スの吸収に寄与する部位として、空腸よりも CYP3A4の活性が低い十二指腸の寄与が 高くなるため、AUC0-24hがregimen Bよりも高くなる傾向を示したと考えられた。また、

消化管下部に進むに従いCYP3A4活性は低くなるため、regimen Cおよびregimen Dで

(24)

本ヒト消化管吸収性評価試験では、AUC0-24h に大きな個体間変動が認められた。一 般に、タクロリムスのような難水溶性薬物の経口吸収実験では、薬物の消化管内での 溶解・放出に大きな個体間、個体内変動が見られるため、得られる血中プロファイル やそこから得られる速度論的パラメータのバラツキも大きくなる。しかし本検討では、

タクロリムスは溶液状態で InteliSiteカプセルから放出しており、その放出性にも大き なバラツキは認められていない(図 3、表 3)。CYP3A4活性は個体間および個体内変 動が大きいことが知られており、消化管のCYP 3A4の場合も、11倍もの個体間変動を 報告している例もあることから[37,38]、ここで認められた AUC0-24hの個体間変動は、小

腸の CYP3A4 活性の個体間変動に起因するものと考えられた。特に、被験者 1 の

AUC0-24hは、いずれの regimen の場合においても他の被験者より高く、その平均値は、

他の被験者と比較して統計的に有意に高いことが明らかとなった(t > 4.756; q[6, 18, 0.05] = 4.494)。これは、被験者1の消化管CYP3A4活性が他の被験者よりも低いため であると考えられた。

(25)

(a) (b)

(c) (d)

4 Blood concentrations of tacrolimus after release from InteliSite capsule in stomach (a), proximal small bowel (b), distal small bowel (c) or ascending colon (d) for subjects 1 (●), 2 (▲), 3 (■), 4 (○), 5 ( ) and 6 (□).

InteliSite capsule containing 1 mg tacrolimus in PEG400 solution was dosed under fasted condition. The time InteliSite capsule was activated was regarded as time zero on blood concentration - time profile analysis.

0 5 10 15 20 25

0 6 12 18 24

Tacrolimus conc (ng/mL)

Time (h)

1 2

3 4

5 6

0 5 10 15 20 25

0 6 12 18 24

Tacrolimus conc (ng/mL)

Time (h)

1 2

3 4

5 6

0 5 10 15 20 25

0 6 12 18 24

Tacrolimus conc (ng/mL)

Time (h)

1 2

3 4

5 6

0 5 10 15 20 25

0 6 12 18 24

Tacrolimus conc (ng/mL)

Time (h)

1 2

3 4

5 6

(26)

5 Mean blood concentrations of tacrolimus after release from InteliSite capsule in the (●) stomach, (▲) proximal small bowel, (□) distal small bowel and () ascending colon.

InteliSite capsule containing 1 mg tacrolimus in PEG400 solution was dosed under fasted condition. The time InteliSite capsule was activated was regarded as time zero on blood concentration - time profile analysis. Results are expressed as the mean with bars indicating S.D. value of 6 subjects.

0 4 8 12 16

0 6 12 18 24

T acr olimus conc (ng/mL)

Time (h)

(27)

5 Pharmacokinetic parameters of tacrolimus after release from InteliSite capsule at different intestinal region.

Regimen Subject No.

Pharmacokinetic Parameters Cmax

(ng/mL)

Tmax

(h)

AUC0-24h

(ng·h/mL)

MRT (h)

Stomach (Regimen A)

1 19.53 1 73.9 6.19 2 10.08 1 45.5 6.82

3 13.02 0.667 63.3 6.86

4 7.82 1 44.2 7.72

5 5.55 1 30.1 8.08

6 9.33 0.333 28.0 5.89

Mean ± SD 10.89 ± 4.90 0.8 ± 0.3 47.5 ± 18.1 6.92 ± 0.85

Proximal small bowel (Regimen B)

1 15.59 0.667 86.9 7.83

2 5.85 0.333 18.7 5.83

3 7.56 0.667 27.3 7.22

4 7.16 0.667 29.7 6.65

5 4.49 0.667 14.8 6.74

6 7.67 0.333 24.3 7.24

Mean ± SD 8.05 ± 3.89 0.6 ± 0.2* 33.6 ± 26.7 6.92 ± 0.68

Distal small bowel (Regimen C)

1 23.29 0.667 118.4 8.36

2 3.13 0.667 22.3 8.76

3 11.00 1 58.9 7.97

4 4.42 1.5 51.2 9.70

5 8.80 0.667 33.2 7.22

6 3.25 0.667 13.3 7.35

Mean ± SD 8.98 ± 7.70 0.9 ± 0.3 49.6 ± 37.8 8.23 ± 0.93

Ascending colon (Regimen D)

1 9.44 2 85.0 8.94

2 11.37 1.5 77.1 8.08

3 8.11 0.667 36.7 7.51

4 3.64 0.667 31.9 10.80

5 6.37 1 64.9 8.57

6 5.47 1 44.4 8.19

Mean ± SD 7.40 ± 2.81 1.1 ± 0.5 56.6 ± 22.1 8.68 ± 1.14 In this study, Tmax was defined as a time from capsule activation to Cmax.

* Significantly different from regimen D (t = 4.064; q[4,20,0.05] = 3.958).

†Significantly different from regimen D (t = 4.695; q[4,20,0.05] = 3.958).

‡Significantly different from regimen D (t = 4.717; q[4,20,0.05] = 3.958).

(28)

1-6小括

本章においては、InteliSiteカプセルおよびガンマシンチグラフィー技術を用いてタ クロリムスのヒト消化管からの吸収性を評価し、徐放性製剤開発のコンセプトについ て検証した。

InteliSite カプセルからの薬液放出は速やか、かつ完全であり、ガンマシンチグラ

フィー技術との組み合わせにより、ヒト消化管部位からの薬物吸収特性を評価するの に有効な方法であると考えられた。

タクロリムス-PEG400 溶液を放出後の血中濃度-時間推移の解析から、タクロリム スは、十二指腸から大腸に至る消化管全域で吸収されることが明らかとなり、タクロ リムスを徐放性製剤化することの妥当性を確認することができた。その一方で、消化 管部位による吸収性には若干の差異があり、小腸上部で薬物放出した場合にバイオア ベイラビリティが低くなる傾向が見られ、その要因として CYP3A4 による小腸初回 代謝の関与が考えられた。大腸からの吸収は、速度としては、小腸からの吸収よりも 遅い傾向を示したが、バイオアベイラビリティはむしろ大きくなる傾向を示した。

(29)

第二章 タクロリムス徐放性固体分散体顆粒の調製と評価

2-1 諸言

タクロリムスはBiopharmaceutics Classification System(BCS)でクラスⅡに分類さ れる難水溶性薬物であり[39,40]、結晶状態で経口投与した場合の吸収性は極めて低いこ とが知られている。タクロリムスの経口吸収性改善については、自己乳化型製剤[41,42]、 シクロデキストリンによる包接化[43]、メタクリル酸系高分子を用いたナノカプセル

[44]、高分子担体に薬物を非晶質状態で分散させた固体分散体[45] など、これまでに 様々なアプローチが報告されているが、その中でも固体分散体による可溶化技術は、

その優れた可溶化特性から有用な方法である。

固体分散体技術は薬物の溶解度を向上させることで吸収を促進させ、薬物の血中 濃度を増大させるというその技術の特性上、速溶性製剤に適用される例が多く[46-48]、 徐放性製剤への適用例は少ない[49-51]。山下らは、ヒドロキシプロピルセルロース

(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)などの 種々のポリマーを担体として調製したタクロリムスの固体分散体が、in vitro 放出試 験において高い過飽和溶解度を示し、イヌを用いた吸収性試験では結晶と比較して、

10倍ものバイオアベイラビリティを示すことを報告している[45]

エチルセルロース(EC)はセルロースの繰り返し構造中の水酸基をエチルエーテ ルで置換したセルロース誘導体の一種である。EC は水には不溶だが、エタノールや ジクロロメタンに溶解性を示し、マトリクス型あるいは膜制御型徐放性製剤の基剤と して用いられるポリマーである。タクロリムスもエタノールへの溶解性を示すことか ら、著者はエタノールを用いて、EC マトリクス中にタクロリムスを非晶質状態で分 散させたタクロリムス徐放性固体分散体顆粒を調製し、薬物の徐放化と溶解度改善の 両立を試みた。

(30)

2-2 タクロリムス徐放性固体分散体顆粒の調製と放出特性の評価

タクロリムス徐放性固体分散体顆粒(ERG:Extended Release Granules)の処方成分 としては、徐放化および固体分散体の基剤として、水に不溶性のセルロース誘導体ポ リマーである EC、製剤への水の浸入を制御する目的で乳糖、タクロリムスの過飽和 溶解状態の維持を意図して親水性のセルロース誘導体ポリマーである HPMC を選択 した。各添加剤の構造式を図6に、検討処方を表 6に示す。

ERGの調製は、固体分散体製造技術の一種である溶媒法により行った。すなわち、

タクロリムスとECをエタノールに完全溶解した後、HPMCを加えて撹拌し分散させ る。そこへさらに乳糖を加えて分散させ、得られた練合物を棚温度 40℃の真空乾燥 機で減圧乾燥させ溶媒を除去する。得られた乾燥物を粉砕した後、106-150 µm の範 囲に分級したものをERGとした。

まず、薬物、EC および乳糖の 3 成分からなり、各成分の配合比率の異なる ERG1

~ERG4 の 4 処方について放出特性を評価した。図 7 に示すように、ERG からのタ クロリムスの放出プロファイルは、いずれの処方も対照として試験したタクロリムス の速溶性製剤である Prograf と比較して遅い放出性を示しており、徐放化した薬物放 出プロファイルであった。タクロリムス1 mgに対しECを0.5 mg配合した処方であ るERG1(乳糖10 mg配合)およびERG 2(乳糖3 mg配合)は、放出試験開始後12 時間経過時点での放出率はそれぞれ約 75%および約 50%であった。これに対し、EC を0.2 mg配合した処方であるERG3(乳糖3 mg配合)およびERG4(乳糖5 mg配合)

では 6 時間経過時点でそれぞれ約 80%および約 90%の放出率であり、ERG1 および ERG2よりも速い放出プロファイルであった。

EC は水に不溶性のポリマーであり、処方中の EC 濃度が高い方が、外部からの水 の浸入が抑制されるため、ERG1およびERG2はERG3およびERG4よりも遅い薬物

(31)

剤外へ放出される際のルートにもなると推定されるため、同じEC配合比の処方で比 較した場合、乳糖の処方量が多い方が速い放出を示したと考えられた。

6 Chemical structure of excipients used for the preparation of ERG formulations.

A) Ethylcellulose, B) lactose, C) hydroxyprpylmethylcellulose.

(A) (B)

(C)

(32)

6 Composition of ERG formulations.

Formulated mass (mg)

ERG1 ERG2 ERG3 ERG4 ERG5 ERG6 ERG part

Tacrolimus 1 1 1 1 1 1

EC 0.5 0.5 0.2 0.2 0.2 0.3

Lactose 10 3 3 5 3 3

HPMC - - - - 0.3 0.3

Subtotal 11.5 4.5 4.2 6.2 4.5 4.6

Capsule part

Lactose 58.5 65.5 65.8 63.8 65.5 65.4

Total 70 70 70 70 70 70

ERG: extended release granules, EC: ethylcellulose, HPMC: hydroxypropylmethylcellulose

7 Release profiles of tacrolimus from ERG formulations.

Test was conducted using the JP paddle method, where paddle rotation speed was 50 rpm and the release test medium (pH4.5, 0.005% hydroxypropylcellulose solution) was maintained at 37 ± 0.5°C. Release studies for ERG formulations were repeated twice. Granule size of ERG is between 106- 150 µm. Results for Prograf are expressed as the mean with the bar showing

0 25 50 75 100

0 3 6 9 12

Released(%)

Time (h)

(33)

次に、薬物、ECおよび乳糖に加え、HPMC を含む処方のタクロリムス放出特性を 評価した。図 8 (A)に示すように、HPMC を含まない ERG3 処方をベースに HPMC を0.3 mg配合したERG5は、ERG3よりも若干速い放出を示した。HPMCは親水性ポ リマーであり、これを配合したことにより製剤への水の浸透が促進されたため、放出 が促されたものと考えられた。そこで、ERG5のEC配合量を0.3 mgに増加したERG6 の放出特性を評価したところ、ERG6はERG3とほぼ同等の放出プロファイルであっ た。

続いて、ERG3, ERG5およびERG6について過飽和特性を評価した(図 8 (B))。そ の結果、いずれの処方においてもタクロリムス結晶の溶解度を大きく上回る過飽和特 性が認められた。これはいずれの処方においても製剤中に薬物が非晶質状態で分散し、

固体分散体化していることを示唆するものであった。しかしながら、HPMCが配合さ れていない ERG3 の過飽和溶解濃度は試験開始後 4 時間で頭打ちとなり、24 時間後 には結晶の溶解度と同等のレベルにまで低下した。一方、処方中に HPMC を配合し た ERG5 およびERG6 では 24時間後でも高い過飽和溶解濃度を示したが、ERG5 で は過飽和溶解濃度が8時間以降には低下する傾向にあった。LaMerらは、モデル薬物 としてチオ硫酸ナトリウムを用いた検討で、薬物の過飽和溶解が臨界濃度に達すると 溶解していた薬物の結晶核形成が急速に進み、核形成が起こり始めると連鎖反応に よって過飽和溶解濃度が急激に低下することを報告している[52]。本検討においても、

ERG3およびERG5では、過飽和試験開始後4時間および8時間程度で、それぞれ臨 界濃度に達し、過飽和溶解濃度の低下が始まったものと考えられた。HPMCを配合し ていないERG3の臨界濃度は低いと考えられるため、より低い濃度で、急激な溶解度 の低下が起こったものと考えられた。

対照的に、ERG6の過飽和特性は4時間まではERG3とほぼ同等のプロファイルを 示したが、その後も過飽和溶解濃度が低下することなく維持され、24 時間後の過飽 和溶解濃度は試験をした3製剤の中で最も高い値を示した。Sarodeらは、薬物の経口 投与後の吸収性改善を固体分散体を用いて試みる場合、その固体分散体の過飽和溶解

(34)

晶化を防ぐために重要であることを報告している[53]。また、一般に、固体分散体のよ うな非晶質体は、結晶と比較して熱力学的に不安定であり、熱や水分あるいは物理的 刺激により再結晶化が促進されることが知られているが[54,55]、徐放性製剤は経口投与 後に比較的長時間消化管内を移動することから、消化管液などの水分に長時間曝され ることとなり、その間に過飽和溶解特性を失ってしまう可能性が懸念される。従って、

固体分散体技術を用いて溶解性を改善した徐放性製剤においては、過飽和溶解性が消 化管移動中に維持されることが、バイオアベイラビリティ確保において重要となる。

これらの観点から、本検討ではERG5が最も高い過飽和溶解度を示したが、タクロリ ムス結晶の溶解度よりも十分高い過飽和溶解度を 24 時間以上維持することのできた ERG6が、最適な処方であると考えた。

(35)

(A)

(B)

8 Release profiles of tacrolimus from ERG formulations.

(A) normal conditions, where paddle rotation speed was 50 rpm and the release test medium (pH4.5, 0.005% hydroxypropylcellulose solution) was maintained at 37 ± 0.5°C. Results of ERG3 are shown again for comparison. (B) supersaturated release condition, where paddle rotation speed was 200 rpm and the release test medium (water) was maintained at 37 ± 0.5°C.

Release studies were repeated twice except for supersaturated release of ERG3. Results of supersaturated release test for ERG3 are expressed as the mean with the bar showing the S.D.

value (n=3). Keys; () ERG3, () ERG5, () ERG6 and (---) solubility of tacrolimus.

0 25 50 75 100

0 3 6 9 12

Released(%)

Time (h)

0 10 20 30 40

0 6 12 18 24

Conc of tacrolimus(μg/mL)

Time (h)

(36)

2-3 経口吸収性評価

ERGの徐放特性および吸収改善効果を評価するため、カニクイザルを用いた経口 吸収性評価を行った。試験製剤としては、in vitro放出試験において6時間で約80%

および70%と同等な薬物放出速度を示し、過飽和維持において大きな差が認められた ERG3およびERG6を選択し、対照としてPrografについても検討を行った。

カニクイザルにERG3、ERG6あるいはPrografを、タクロリムスとして1 mg相当 量を経口投与した時の血中薬物濃度-時間推移を図 9 に、また得られた薬物動態パラ メータを表 7 に示す。ERG6 投与後に得られたタクロリムスの血中濃度は、Prograf と比較して、持続的なプロファイルを示し、Cmax値の低下傾向、Tmax 値の遅延傾向、

またMRTには有意な延長が認められた。ERG6投与時の平均Cmax値は、Prograf投与 時と比較して43%と大きく低下したが、統計的には有意ではなかった。これは、試験 を実施した 6 例のカニクイザルのうち 1 例が Prograf 投与後に極端に高い Cmax

(32.85 ng/mL)を示したためと考えられた。この例外的な個体を除外して統計解析を

行ったところCmax値には有意差が認められた(p< 0.01)。Tmax値についても、同様に Prograf投与時の1例において例外的に大きな値(10 h)が示されており、この1例を 除いた場合の平均Tmax値(2 h)は、ERG6投与時(4.3 h)の約2分の1の値となり、

吸収の持続化を十分に示唆していると考えられた。

以上の結果は、ERG6がin vivo環境においても持続的な薬物放出、およびそれに引 き続く持続的な吸収を達成していることを示唆するものであった。さらに、ERG6の

AUC0-72h値はPrografと同等であったことから、Prograf と同レベルの吸収改善を示す

ことが明らかになった。

ERG3 についても、MRT の延長や Cmax値の低減、Tmax値の遅延が認められたが、

AUC0-72hは Prograf の 40%程度に過ぎなかった。結晶タクロリムス経口投与後のバイ

オアベイラビリティは、HPMCを基剤とした速溶性固体分散体製剤投与後のバイオア

(37)

AUC0-72hと比較すると有意に低い値であった。ERG6はin vitro過飽和試験でERG3よ りも長時間に渡り過飽和状態を維持したが(図 8(B))、in vivo環境下においても、同 様な現象が起こったため、ERG6の方が、より効果的にタクロリムスの吸収を改善し たものと考えられた。

放出試験および過飽和試験において、ERG3の放出速度は、比較的初期の時点、即 ち 4時間まではERG6 と同程度であったが(図 8)、本検討で得られた血中濃度推移 から、経口投与後の吸収速度は、初期の段階からERG3の方がERG6に比べ顕著に低 いものと推定できた(図 9)。このようなin vitro試験結果とin vivo試験結果におけ る乖離は、これまでにも種々の薬物について報告されている[56-58]。ヒトの絶食時の消 化管管腔内液量は、胃、小腸および大腸で、それぞれ47 mL, 105 mLおよび13 mLと 報告されている[59]。本検討において、著者が試験に用いたカニクイザルの消化管管腔 内液量は不明であるが、ヒトよりは少なく、また放出試験の際の試験液量(900 mL) よりも顕著に少ないと予想される。このような in vivo における消化管管腔内の環境 を考慮すると、製剤から消化管内に放出されたタクロリムスの濃度が局所的に高くな り、ERG3のように過飽和維持能力が低い場合には、タクロリムスの再結晶に繋がる 核化が起こりやすい状態になった可能性が考察される。あるいはERG3はERG6より 過飽和維持能力が低いことを考えると、ERG3では胆汁酸塩や食物などの消化管内容 物が引き金となって、過飽和状態にあるタクロリムスの核化とそれに引き続く再結晶 化がより容易に起こった可能性も考えられた。

(38)

9 Blood concentration profiles of tacrolimus after oral administration of Prograf and ERG formulations.

The in vivo absorption studies were performed for the three different formulation using male cynomolgus monkeys. Each formulation containing 1 mg tacrolimus was dosed under fasted condition. Each value represents mean with the bar showing the S.D. value (n=6). Keys; () Prograf, ( ERG3 and () ERG6.

0 5 10 15

0 24 48 72

Tacrolimus conc (ng/mL)

Time (h)

(39)

7 Pharmacokinetic parameters of tacrolimus after oral administration of Prograf and ERG formulations.

Subject No.

Pharmacokinetic Parameters Cmax

(ng/mL)

Tmax

(h)

AUC0-72h

(ng·h/mL)

MRT (h)

Prograf

1 7.17 10 146.47 18.58

2 12.53 1 69.42 14.76

3 9.71 2 109.89 15.51

4 32.85 4 304.73 17.05

5 7.55 1 75.08 16.23

6 14.83 2 86.22 13.31

Mean ± SD 14.11 ± 9.64 (1.00)

3.3 ± 3.4 (1.00)

132.0 ± 89.2 (1.00)

15.9 ± 1.8 (1.00)

ERG3

1 3.16 4 72.18 18.37

2 1.58 8 39.53 16.41

3 3.19 2 62.77 18.21

4 2.00 4 32.44 21.73

5 3.10 1 53.37 24.84

6 1.49 8 43.79 17.26

Mean ± SD 2.42 ± 0.82**

(0.17)

4.5 ± 2.9 (1.36)

50.7 ± 15.0†

(0.38)

19.5 ± 3.2* (1.22)

ERG6

1 4.48 8 103.02 17.23

2 6.39 6 128.13 19.24

3 7.74 2 203.29 20.06

4 7.28 2 142.91 19.11

5 4.46 2 79.39 18.68

6 6.62 6 156.39 21.16

Mean ± SD 6.16 ± 1.39 (0.43)

4.3 ± 2.7 (1.30)

135.5 ± 43.2 (1.03)

19.2 ± 1.3* (1.22) Each value represents mean ± the S.D. value of six monkeys.

Numbers in parentheses represent the ratio to Prograf.

**p< 0.01, *p< 0.05, compared with Prograf. p< 0.05, compared with ERG6.

(40)

2-4 小括

第二章では溶媒法によりタクロリムス徐放性固体分散体顆粒(ERG)の調製を試み、

ERGの放出特性、過飽和特性およびカニクイザルにおいてERGの経口吸収特性につ いて検討し、得られた結果について論述した。

徐放化および個体分散体の基剤として EC、製剤への導水制御剤として乳糖、過飽 和溶解維持剤として HPMC を用いることで、優れた徐放特性と結晶タクロリムスの 溶解度を超える過飽和特性を示すERGの調製に成功した。調製したERGからのタク ロリムスの放出速度は、製剤中のEC、乳糖およびHPMCの配合量により変化するこ とが明らかとなった。サルを用いたin vivo経口吸収性試験では、ERGはPrografより も優れたタクロリムス血中濃度の持続化を達成した。HPMC を配合していない ERG

ではPrograf よりも低いバイオアベイラビリティを示したのに対し、HPMC を配合し

たERGでは、Prografと同等のバイオアベイラビリティを得ることが示された。従っ

て、徐放化と吸収改善を両立する製剤の設計には、EC を基剤とした徐放性固体分散 体にHPMCを配合することが必要と考えられた。

(41)

第三章 タクロリムス徐放性固体分散体顆粒からの薬物放出機構の解析

3-1 諸言

第二章での検討から、EC、乳糖および HPMC を用いることで、優れた徐放特性 と結晶タクロリムスの溶解度を超える過飽和特性を示すタクロリムス徐放性固体分 散体顆粒(ERG)を調製し、ERGからのタクロリムス放出速度は、この三成分の配 合量により調整可能であることが明らかとなった。一方で、ERGからの薬物放出メ カニズムや薬物放出速度の制御についての知見は得ていない。徐放性製剤を設計す る場合、望ましい血中濃度を得るために、製剤処方により薬物放出速度を任意に制 御することが必要となる。そこで第三章では、ERGからの薬物放出についてより詳 細な検討を進め、ERGからのタクロリムス放出機構についての解析と放出速度の制 御について検討した。

3-2 ECおよび乳糖が放出速度に与える影響

ECおよび乳糖が放出速度に与える影響について検討した。表 8に示すように、タ クロリムス量を1 mgに固定し、EC配合量を0.2 mgと0.3 mg、乳糖配合量を同様に

0.5 – 5 mgの範囲で変化させた処方を考案した。なお、HPMC配合量に関しては、第

二章において良好なin vivo吸収性を担保できる比率であったタクロリムス1 mgに対 して0.3 mgの比率に固定した。表 8に示した各ERGを第二章と同じ方法で調製し、

タクロリムスの放出特性を評価した。

各処方の放出試験結果を図 10 (A)に示す。いずれのEC配合量においても、乳糖の 処方量を増加することで放出速度が大きくなる傾向が認められた。検討した処方の中

ではERG14が最も速やかな薬物放出特性を示し、9時間でほぼ100%の放出率であっ

(42)

た。また、ERG12 – ERG16、ERG13 – ERG17、ERG14 – ERG18のように、EC配合量 のみが異なる処方の場合、EC 配合量が多い処方の方が遅い薬物放出を示すことが確 認できた。これらの結果から、乳糖による放出促進効果とECによる放出抑制効果が 明確となった。

図 10 (B)に放出率を時間の平方根に対してプロットした結果を示す。得られたプ ロットは、図 10(A)の結果よりもより直線的なプロファイルとなり、これはHiguchi 式に従う放出特性を持つことを示唆するものであった。Higuchi式は、 = k· 0.5(詳細 は実験の部参照)で示されるもので、徐放性製剤からの薬物放出がこの式に従う場合、

その放出は製剤内の薬物の拡散により律速されると推定される[60]。そこで、放出率約 80%までのデータを用いてHiguchi式により当てはめ計算を行ったところ、図 10 (B) の破線で示すように、いずれの ERG でも理論直線と得られた実測値はよく一致して いた。理論値と実測値の単相関を確認したところ、図 11に示すようにいずれのERG でも良好、かつ有意な相関(r2≧0.9759)が認められた。なお、理論値と実測値の単 相関の比較にも、Higuchi 式への当てはめ計算に用いた、放出率約80%までのデータ のみを用いている。これらの解析結果から、ERG からのタクロリムス放出は、製剤 内の拡散により律速されていることが強く示された。

パーコレーション理論によると、マトリクスシステムにおけるポリマー濃度は、一 定の閾値以上である必要がある。これは、マトリクスを形成するポリマーが製剤全体

に percolate(=浸透する)するためには、ある程度以上の濃度が必要となることを意

味している。そして、マトリクスシステムが維持されている限り、放出速度制御も担 保されることになる[61-63]。徐放性錠剤におけるECのパーコレーション下限値は30%

程度との報告があり、処方中の EC 濃度が 30-70%では良好な放出制御が可能である が、下限値よりも低い場合には薬物放出はHiguchi式に従った放出を示さなくなると されている[64,65]。本研究において著者が調製した ERG においては、処方中 EC 濃度

は 5-15%であり、報告されている閾値よりも低いにもかかわらず、ERG からのタク

(43)

ていると推察される。パーコレーション閾値にはマトリクスを形成するポリマーの粒 子径が影響することが知られており[66,67]、前述した EC を用いた徐放性錠剤の報告

[64,65]では、薬物および比較的大きな粒子径(数百 µm)を持つ EC の 2成分の粉体混

合物を直接打錠法で調製している。そのため、製剤中に分散しマトリックスを形成す るために30%以上の濃度のECが必要になったものと考えられた。それに対して、本 研究で調製したERGの場合、ECは調製過程においてエタノールに完全に溶解させて いるため、比較的低い濃度でも製剤中に、十分かつ均一に分散し、ERG 内に連続的 なクラスターを形成したものと推察された。

次に、放出性に及ぼす乳糖の影響を明らかにするために、乳糖配合量に対して、薬 物が拡散律速にて放出されていると考えられる放出率80%までの値を、放出時点毎に プロットしたところ(図 12)、乳糖配合量と放出率との間には比例関係が認められた

(r≧0.97)。Cifuentes らは、EC を用いた徐放性錠剤において、乳糖配合量を増加さ せた場合に薬物放出が促進されることを見出し、水溶性賦形剤である乳糖がマトリク ス中への水の浸透を促すと共に自身が溶解し、薬物放出のためのチャンネルを製剤内 部に形成することを報告している[68]。本検討で調製したERGにおいても、乳糖のよ うな水溶性の賦形剤の配合量で、タクロリムスの ERG からの放出速度を任意に制御 できることが明らかとなったことは、目的とする放出速度を得るための処方設計の際 に有用な知見であると考える。

(44)

8 Composition of ERG formulations.

Formulated amount (mg)

ERG12 ERG13 ERG14 ERG15 ERG16 ERG17 ERG18 ERG19 ERG part

Tacrolimus 1 1 1 1 1 1 1 1

EC 0.2 0.2 0.2 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3

Lactose 1 2 3 0.5 1 2 3 5

HPMC 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3

Sub total 2.5 3.5 4.5 2.1 2.6 3.6 4.6 6.6

Capsule part

Lactose 67.5 66.5 65.5 67.9 67.4 66.4 65.4 63.4

Total 70 70 70 70 70 70 70 70

ERG: extended release granules, EC: ethylcellulose, HPMC: hydroxypropylmethylcellulose

(45)

(A)

(B)

10 Release profiles of tacrolimus from ERG formulations.

(A) standard plot, (B) Higuchi plot. The release test results are expressed as the mean of two or six experiments. Keys; (▲) ERG12, (■) ERG13, () ERG14, (+) ERG15, (□) ERG16, () ERG17, ( ) ERG18, (○) ERG19 and (---) fitting line obtained by Higuchi’s equation.

0 25 50 75 100

0 3 6 9 12

Released (%)

Time (h)

0 25 50 75 100

0 1 2 3 4

Released (%)

Square root time (h0.5)

参照

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