博 士 ( 農 学 ) 吉 本 諭
学 位 論 文 題 名
フードシステムの産業連関構造に関する経済分析 ― 北 海 道 食 産 業 の 付加価 値創 造の 構図 ―
学位論文内容の要旨
わが 国 の 経 済 は,1990年 代 前 半 の バ ブル 経 済 崩 壊 後, 低 成 長 を 続け てい る.と くに, 地方の 地域 経 済 につ い て は , 人 口及 び域 内総生 産が減 少す る地域 が見ら れるよ うに なって きた, そのよ うな地 域 の ー つに 北 海 道 が 挙 げら れ る が , 北海 道 で は ,1997年 の北 海 道 拓 殖 銀行の 経営破 綻や2000年頃 を境 と し た公 共 事 業 費 の 削減 など をはじ め地域 経済 の下ぷ れ要因 が続い てお り,人 口,域 内総生 産とも に 減 少 傾 向 に あ る . 実 際 , 北 海 道 の 人 口 は1997年 の569.9万 人 , 道 内 総生 産 は1996年 の20.9兆 円 を ピー クにい ずれも 減少 傾向に ある,
地域 振 興 の 目 的は , 地 域にお ける 所得( 付加価 値額) と就業 機会 の創出 である .そし て, 地域政 策 で 最 も重 要 な 点 は , 地域 の比 較優位 性を見 っけ 出しそ れを最 大限活 かす ことで ある. 北海道 におい て 比較 優位性 のある 産業 として ,農業 ,漁業 ,食 品製造 業など を中心 とする 食産 業が挙げられる.一方,
北 海 道の 食 産 業 の 課 題も ある .それ は,都 府県 と比較 して相 対的に 食産 業の付 加価値 率が低 いこと で ある .北海 道では ,人 口や域 内総生 産が減 少し てしゝ る中, 比較優 位性の ある 食産業の付加価値率を高 め , 移出 ・ 輸 出 に よ る地 域 振 興 を 図る た め ,2010年 に は食 ク ラ ス タ ー連携 協議体 が設 立され ,2011 年に は国の 総合特 別区 域のー つに北 海道フ ード ・コン プレッ クス国 際戦略 総合 特区が指定されるなど,
食の 総合産 業を目 指し た取り 組みが 進めら れて いる.
しか し , な ぜ 北海 道 の 食産業 の付 加価値 率は低 いのか ,その 要因 を解き 明かす ために は, 北海道 の 食 産 業を 総 合 的 な 枠 組み の中 で捉え ,これ まで の研究 では十 分に接 近さ れてい ない付 加価値 創造の 構 図 ( 物事 を 全 体 で み た時 の姿 かたち )を定 量的 に把握 する必 要があ る. 消費者 に食が 届くま でには , 農 業 ,漁 業 , 食 品 製 造業 ,飲 食店, 流通業 など の関連 産業が 相互依 存関 係の仕 組みを 形成し ており , その 仕組み はフー ドシ ステム(Food System)とい われる .
本論 文 は , 食 産業 を み る総合 的な 枠組み である フード システ ムの 視点か ら,北 海道食 産業 の付加 価 値 創 造の 構 図 を 解 明 する ため ,北海 道と都 府県 との相 互依存 関係, すな わち産 業連関 構造を 明らか に す る こと を 課 題 と し て研 究 を 行 っ たも の で あ る. 第1章「序 論」に おい て,問 題意識 及び論 文の課 題 など を述べ たのち 具体 的な分 析を行 ってい る,
第2章 「 フ ー ドシ ス テ ム の 産業 構 造 変 化 に関 する 経済分 析」で は,食 産業 を取り 巻く環 境を把 握す る た め, 飲 食 消 費 が 減少 傾 向 に あ る1995年か ら2005年 ま で を 対 象と して, 全国 及び北 海道の フード シ ス テム の 産 業 構 造 変化に 関す る要因 分析を 行って いる .分析 の結果 ,全国 ,北海 道と もに, 食用農 水 産 物, 食 用 飲 食 料 品,飲 食店 の生産 額は減 少して おり ,とく に北海 道では 食用飲 食料 品の減 少率が 大 き い . 生 産 額 減 少 の 主 な 要 因 は , 域 内 消 費 と 移 出 の 減 少 で あ る こ と を 指 摘 し て い る , 第3章 「フ ー ド シ ス テム の 地 域 間 産業 連 関 分 析 」で は ,2005年 を 対 象 とし て , わ が 国の食 の供給 に 関 す る 地 域別 貢 献 度及び 地域内 生産の 域外需 要依 存度に ついて 分析し てい る.分 析の結 果,北 海道 は , 農 林 水 産業 と 飲 食料品 の両産 業部門 を合計 した 生産誘 発額収 支が地 域別 の中で 大きく ,全国 で最 も 食 の 供 給 に貢 献 し ている こと, さらに 生産誘 発額 の域外 需要依 存度の 割合 は,農 林水産 業と飲 食料 品 合 計 で68.8% と 地 域別 の 中 で 最 も大 き い こ と を明 ら か に し てい る ,
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第4章 「 飲 食費 フ 口 ー に よる フ ー ド シ ステ ム の 地 域 構造 分 析 」 で は ,2005年を 対 象 と し て,北 海 道 と都 府 県 に お ける フ ー ドシス テムの 粗付加 価値額 の形 成状況 を明ら かにし た上 で,都 府県の 飲食消 費 にお け る 北 海 道の 食 用 農水産 物・食 用加工 品の移 出構 造につ いて分 析して いる .分析 の結果 ,都府 県 の飲 食 消 費 の ため に 移 出 さ れ てい る 北 海 道 生産の 食用農 水産物 ・食 用加工 品は1兆5,910億円 であ り ,そ の う ち 都 府県 の 食 品製造 業・外 食産業 向け原 材料 移出が7,500億 円と47.1%を占 めてい た.品 目 別に み る と , 北海 道 か ら都府 県への 移出額 合計に 占め る食品 製造業 ・外食 産業 向け原 材料割 合は,
農産 関連が60.5%, 水産関 連が27.3%とな ってお り,農 産関 連は原 材料供 給構造 に, 水産関 連は食 品 最 終製 品 供 給 構 造に あ る こ と が わか っ た .
以 上 を 踏 ま え, 都 府 県に おける 飲食費 の帰 属割合 を推計 したと ころ, 都府 県にお いて飲 食料の 最終 消 費額 と し て1,000円 が 支払 わ れ た と する と , 北 海 道の 農 水 産 業 に10円 , 食 品製 造 業 に8円,都 府 県 の農 水 産 業 に115円 , 食 品製 造 業 に254円 が 最 終 的に 支 払 わ れ る結 果と なった ,一 般的に は,加 工 度 を高 め た 食 品 製造 業 へ の帰属 割合は 高まる と考え られ るが, 北海道 の食品 製造 業は, 北海道 の農水 産 業へ の 帰 属 割 合よ り 低 い . こ れは 北 海 道 か ら都府 県に移 出され る食 品製造 業向け1次 加工品 や食品 最 終製 品 の 付 加 価値 率 の 低 さ を 意味 し て い る .
第5章 「 全 要 素 生 産性 か ら 見 た 食品 製 造業の 特徴と 課題」 では ,北海 道の食 品製造 業の 生産性 を明 ら か に す る た め ,1985年か ら2006年 に か け て の全 要 素 生 産 性(TFP:Total Factor Productivity) を 計 測 し てい る , 分 析 の結 果 ,TFPの 年 平均成 長率は マイナ スで あり, その主 な要因 は製 造品出 荷額 の 減 少 で ある こ と を 明 らか に し て い る .| 、
第6章「要 約と結 諭」で は, 本論文 の分析 結果の 要約 と課題 に対し ての総 合的な 考察 を行っ ている . 本 論 文 で の分 析 結 果を 通じ て次の ことが いえる .都 府県の 食品製 造業や 外食産 業で は,北 海道生 産 の食 用 農 水 産 物・ 食 用 加工品 など を含め た原材 料にさ らに付 加価 値をっ けて食 品最終 製品 や外食 サー ピス と し て 販 売し て い る.そ のた め,都 府県の フード システ ムの 粗付加 価値額 は,食 品製 造業や 外食 が 大 き な 割 合 を 占 め て お り , 都 府 県 食 産 業 の 付 加 価 値 創 造 の 柱 は 食品 製 造 業 と 外 食と い え る . 一 方 , 北 海道 は , フー ドシ ステム の国内 最終消 費額 の72.2%を 占め る関東 ,関西 ,中部 など 人口が 集中 し て い る 消費 地 か ら離れ てお り,商 品価値 を高め た加工 品や 外食サ ーピス を提供 する ことが 困難 な立 地 条 件 に ある , そ のため ,移 出額の47.1%を 都府県 の食品 製造業 や外 食産業 向けの 原材料 として 移出し ており ,食産 業の 粗付加 価値率 も低い 状況に ある .北海 道のフ ードシ ステムの粗付加価値額は,
農林 水 産 業 が 大き な 割 合 を 占め て お り , 北 海道 食 産 業 の 付加 価 値 創造 の柱は 農林水 産業 といえ る.
北 海 道 か ら都 府 県 への 食の 移出に 関する 方向性 とし て,原 材料供 給型の 農産関 連に ついて は,生 鮮 農産 物 で の 移 出を 基 本 として 付加 価値率 の高い 加工品 の移出 など を考え ていく こと, 食品 最終製 品供 給型 の 水 産 関 連に つ い ては, 現状 の加工 品とし ての移 出を基 本と して付 加価値 率の高 い生 鮮水産 物の 移出 を 考 え て いく こ と の 必 要性 を 述 べ て い る,ま た,TFPが 低下傾 向にあ る北海 道の 食品製 造業に つ いて は ,1次 産業 と の 結 び っき が 強 く , 地域 の 生産や 就業機 会へ の影響 を考慮 すると ,生 産性を 高め る取り 組みを 地域と して 考えて いくこ との重 要性を 指摘 してい る.
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学 位 論 文 審 査 の要 旨
主 査 准 教 授 近 藤 巧 副査 特任教授 長南史男 副査 特任教授 飯澤理一郎 副 査 教 授 山 本 康 貴
学 位 論 文 題 名
フ ー ド シ ス テ ム の 産 業 連 関 構 造 に関 す る 経 済分 析 ― 北 海 道 食 産 業 の 付 加 価 値 創 造 の 構 図 一
本論文は,全
6章からなる総頁数
100頁の和文論文である,論文には図27 ,表49 ,引用・参 考文献100 が含まれ,別に参考論文
3編が添えられている.
第1 章「序論 」では,問題意識,既存研究の成果と課題などを整理した上で,各章の位 置づけを行っている.
北海道において,食産業は比較優位性のある産業に挙げられるが,都府県と比較して食 産業の付加価値率が低いという課題を有している.その要因を解き明かすためには,北海 道の食産業を総合的な枠組みの中で捉え,これまでの研究では十分に接近されていない北 海 道 食 産 業 の 付 加 価 値 創 造 の 構 図 に つ い て 定 量 的 に 把 握 す る 必 要 が あ る .
そこで本論文は,食産業をみる総合的な枠組みであるフードシステムの視点から,北海 道食産業の付加価値創造の構図を解明するため,北海道と都府県との相互依存関係,すな わち産業連関構造を明らかにすることを課題としている.
第2 章「フー ドシステムの産業構造変化に関する経済分析」では,食産業を取り巻く環 境を把 握するた め,飲 食消費が 減少傾 向にある1995 年から2005 年までを対象として,全 国及び北海道のフードシステムの産業構造変化に関する要因分析を行っている.分析の結 果,全国,北海道ともに,食用農水産物,食用飲食料品,飲食店の生産額は減少しており,
とくに北海道では食用飲食料品の減少率が大きい,生産額減少の主な要因は,域内消費と 移出の減少であった.
第3 章「フー ドシス テムの地 域問産 業連関分 析」では ,
2005年を 対象として,わが国 の食の供給に関する地域別貢献度及び地域内生産の域外需要依存度について分析している.
分析の結果,北海道は,農林水産業と飲食料品の両産業部門を合計した生産誘発額収支が 地域別の中で大きく,全国で最も食の供給に貢献していること,さらに生産誘発額の域外 需要依存度の割合は,農林水産業と飲食料品合計で68.8 %と地域別の中で最も大きいこと を明らかにしている.
第4 章「飲食 費フロ ーによる フード システム の地域構 造分析 」では,2005 年を対象と
して,北海道と都府県におけるフードシステムの粗付加価値額の形成状況を明らかにした
上 で , 都 府 県 の 飲 食 消 費 に お け る 北 海 道 の 食 用 農 水 産 物 ・ 食 用 加 工 品 の 移 出 構 造 に つ い て 分 析 し て い る . 分 析 の 結 果 , 都 府 県 の 飲 食 消 費 の た め に 移 出 さ れ て い る 北 海 道 生 産 の 食 用 農 水 産 物 ・ 食 用 加 工 品 は1兆5,910億 円 で あ り , そ の う ち 都 府 県 の 食 品 製 造 業 ・ 外 食 産 業 向 け 原 材 料 移 出 が7,500億 円 と47.1% を 占 め て い た . 品 目 別 に み る と , 北 海 道 か ら 都 府 県 へ の 移 出 額 合 計 に 占 め る 食 品 製 造 業 ・ 外 食 産 業 向 け 原 材 料 割 合 は , 農 産 関 連 が60.5% , 水 産 関 連 が27.3% と な っ て お り , 農 産 関 連 は 原 材 料 供 給 構 造 に , 水 産 関 連 は 食 品 最 終 製 品 供 給 構 造 に あ る こ と が わ か っ た .
第5章 「 全 要 素 生 産 性 か ら 見 た 食 品 製 造 業 の 特 徴 と 課 題 」 で は , 北 海 道 の 食 品 製 造 業 の 生 産 性 を 明 ら か に す る た め ,1985年 か ら2006年 に か け て の 全 要 素 生 産 性(TFP:Total Factor Productivity)を 計 測 し て い る , 分 析 の 結 果 ,TFPの 年 平 均 成 長 率 は マ イ ナ ス で あ り , そ の 主 な 要 因 は 製 造 品 出 荷 額 の 減 少 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る . 第6章 「 要 約 と 結 論 」 で は , 本 論 文 の 分 析 結 果 の 要 約 と 課 題 に 対 し て の 総 合 的 な 考 察 を 行 っ て い る . 都 府 県 の 食 品 製 造 業 や 外 食 産 業 で は , 北 海 道 生 産 の 食 用 農 水 産 物 ・ 食 用 加 工 品 な ど を 含 め た 原 材 料 に さ ら に 付 加 価 値 を っ け て 食 品 最 終 製 品 や 外 食 サ ー ピ ス と し て 販 売 し て い る . そ の た め , 都 府 県 の フ ー ド シ ス テ ム の 粗 付 加 価 値 額 は , 食 品 製 造 業 や 外 食 が 大 き な 割 合 を 占 め て お り , 都 府 県 食 産 業 の 付 加 価 値 創 造 の 柱 は 食 品 製 造 業 と 外 食 と い え る , 一 方 , 北 海 道 は , フ ー ド シ ス テ ム の 国 内 最 終 消 費 額 の72.2% を 占 め る 関 東 , 関 西 , 中 部 な ど 人 口 が 集 中 し て い る 消 費 地 か ら 離 れ て お り , 商 品 価 値 を 高 め た 加 工 品 や 外 食 サ ー ピ ス を 提 供 す る こ と が 困 難 な 立 地 条 件 に あ る . そ の た め , 移 出 額 の47.1% を 都 府 県 の 食 品 製 造 業 や 外 食 産 業 向 け の 原 材 料 と し て 移 出 し て お り , 食 産 業 の 粗 付 加 価 値 率 も 低 い 状 況 に あ る . 北 海 道 の フ ー ド シ ス テ ム の 粗 付 加 価 値 額 は , 農 林 水 産 業 が 大 き な 割 合 を 占 め て お り , 北 海 道 食 産 業 の 付 加 価 値 創 造 の 柱 は 農 林 水 産 業 と い え る .
北 海 道 か ら 都 府 県 へ の 食 の 移 出 に 関 す る 方 向 性 と し て , 農 産 関 連 は 生 鮮 農 産 物 で の 移 出 を 基 本 と し て 付 加 価 値 率 の 高 い 加 工 品 の 移 出 な ど を 考 え て い く こ と , 水 産 関 連 は 現 状 の 加 工 品 と し て の 移 出 を 基 本 と し て 付 加 価 値 率 の 高 い 生 鮮 水 産 物 の 移 出 を 考 え て い く こ と の 必 要 性 を 示 し た ,
以 上 の よ う に 本 論 文 の 大 き な 成 果 は , こ れ ま で の 研 究 で は 定 量 的 に 十 分 に 接 近 さ れ て い な か っ た , 北 海 道 と 都 府 県 と の フ ー ド シ ス テ ム の 産 業 連 関 構 造 を 詳 細 に 分 析 し , 北 海 道 食 産 業 の 付 加 価 値 創 造 の 構 図 を 明 ら か に し た こ と で あ る . さ ら に , 北 海 道 食 産 業 の 方 向 性 を 展 望 す る 有 意 義 な 提 言 と も な っ て い る .
よ っ て 審 査 員 一 同 は , 吉 本 諭 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た .
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