博 士 ( 農 学 ) 林 芙 俊
学 位 論 文 題 名
主産地再編と農協共販組織の内部編成
一 ミ カ ン 産 地 に お け る 技 術 革 新 に 注 目 し て 一
学位論文内容の要旨
わ が 国 の 青 果 物 産地 は流 通 環境 の変 化や 農産 物市 場の 国際 化、 産地 内部 での 担い 手 のあ り 方 な ど の 変 化 の なか で再 編 を迫 られ る状 況に ある 。本 論文 の課 題は 、主 産地 の再 編 の動 態 的 な 過 程 と 、 そ こで の共 販 組織 の役 割に つい て、 生産 力的 な側 面か ら分 析す るこ と であ る 。 産 地 間 競 争 の なか では 、 新技 術の 導入 によ って 生産 物の 差別 化や 生産 コス ト低 減 が図 ら れ る が 、 産 地 と して の競 争 カを 考え るう えで は、 こう した 新技 術を どの 程度 普及 す るか が 問 題 と な る 。 そ のた めの 共 販組 織の あり 方と して 、既 存研 究は 、そ れが 機能 組織 で ある こ と を 重 視 す る 見 解と 、そ の 運営 が地 域に 依存 して いる こと を重 視し 評価 する 見解 に 分か れ る 。 本 論 文 に お いて も、 共 販組 織と 地域 との 関係 を問 題と する が、 一つ の共 販組 織 に両 側 面 が 併 存 す る と 考 え る 。
以 上 の こ と か ら 、本 論文 で は、 第一 に、 地縁 的な 組織 化と 地縁 性に よら ない 組織 化 の両 者 に つ い て 、 そ れ それ が技 術 革新 にど のよ うに 関わ って いる か、 第二 に、 そう した 組 織化 の な か で 先 進 的 農 家を どの よ うに 位置 づけ るこ とが 望ま しい のか 、第 三に 、農 協な ど の関 係 機 関 の 役 割 を あ き ら か に す る こ と を 課 題 と す る 。
そ の た め に 、 温 州ミ カン の 産地 の再 編過 程を 対象 とす る事 例分 析を おこ なう 。ミ カ ン農 業 の 特 徴 は 、 価 格 暴落 や輸 入 果実 との 競争 のな かで 産地 再編 をせ まら れる なか で農 民 的な 技 術 が 形 成 さ れ て きた こと 、 農家 の主 体性 によ る組 織化 が顕 著な こと であ る。 事例 分 析は 三 つ の 産 地 を 対 象 とし てお り 、地 縁的 組織 の意 義と 限界 を分 析す る愛 媛県 の事 例、 地 縁性 に よ ら な い 組 織 化 の意 義を 分 析す る熊 本県 の事 例、 農協 の役 割を 分析 する 静岡 県の 事 例で あ る 。 本 論 文 の 構 成 は 、 序 章 、 終 章 を 含 む6章 から なっ てお り、 各章 の分 析結 果を 要 約す る と 以 下 の よ う に な る 。
第 ー 章 で は 、 ミ カン 農業 に おけ る共 販組 織の 展開 過程 を産 地間 競争 との 関連 で整 理 して い る 。 戦 前 に お け るミ カン 農 業の 組織 化は 同業 組合 の形 態で 開始 され 、そ の後 の展 開 が戦 後 の 共 販 組 織 の 展 開に 規定 的 な影 響を もっ てい た。 戦後 につ いて は、1970年代 以降 の 価格 低 迷 期 に お け る 産 地の 対応 を 、三 つの 段階 に分 けて 整理 した 。初 期の 対応 は、 選果 の 厳選 化 や 地 域 区 分 に よ る出 荷統 制 など であ る。80年 代か らは 極早 生品 種へ の転 換な ど、 市 場性 の 高 い 品 種 へ の 更 新が 大き く 進む 。90年代 から は、 マル チ栽 培な ど果 実の 高品 質化 を 目的 と し た 技 術 が 、 通 年的 な生 産 管理 のな かに 本格 的に 普及 した 。こ のよ うに 、ミ カン 農 業に お け る 産 地 間 競 争 は、 果実 の 品質 差別 化を 中心 に展 開し てき た。 産地 の対 応は 、流 通 段階 で の 対 応 か ら は じ まり 、生 産 段階 から 選別 過程 まで の一 貫し た対 応を 要求 する 方向 で 展開 し て き た こ と を 指 摘 し て し 、 る 。
第 二 章 「 地 縁 的 組織 化に よ る技 術普 及の 意義 と限 界」 では 、愛 媛県 八幡 浜市 のミ カ ン産 地 で あ る 真 穴 地 区 を取 り上 げ てい る。 対象 地は 、戦 前か らの 共販 組織 とブ ラン ド形 成 の歴 史 を 持 つ 銘 柄 産 地 とし ての 特 徴を 有し てい る。 技術 対応 は地 域ご とに 設け られ た班 組 織を 中 心 と し て お り 、 地縁 的結 合 に依 拠し なが ら講 習会 活動 がお こな われ 、農 家同 士の 技 術交 流 が な さ れ て い る 。こ うし た 活動 は若 年層 や小 規模 農家 から は高 く評 価さ れて いる が 、す
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でに高い技術をもつ農家からは、親睦的な活動と認識されており、彼らを満足させるよう なものではない。
このような技術対応は、下層農家の脱落を防止する方向で作用している。その結果、真 穴地区における農家の階層構成は中規模層に著しく偏在し、中堅的な担い手層が分厚く存 在している。しかし、地縁的組織化に依存した技術対応は、新規技術の導入・普及には有 効に 機 能 せず 、高度な高 品質生産 の普及は 一部の農 家にとど まり停滞 傾向にあっ た。
第三章「地域横断的組織化による技術対応」では、熊本県熊本市農協柑橘部会を取り上 げている。対象地の特徴は、地縁的組織化による講習会活動に加えて、「生産プロジェクト」
とよばれる組織を設けている点にある。これは、地域代表ではなく高い技術水準にある農 家で構成されるものて、新技術への対応を図ることを目的としている。これは「地域横断 的組織」と位置づけることがてき、その意義は共販組織が先進的農家の取り組みに対して 評価を与え、支援をはかっていく点にある。
これによって先進的農家の取り組みと共販組織の販売戦略との連携が保たれる。その技 術的成果の普及については、地縁的組織による講習会は新技術の導入に対して限界がある ため、先進的農家のオピニオンリーダーとしての影響カや個人的取り組みに依存しながら 技術の普及が進められている。
第四章「兼業滞留地域における共販組織,と農協の役割」では、静岡県浜松市三ケ日地区(旧 三ケ日町)のミカン共販組織である「マルェム出荷組合」を取り上げている。対象地の特徴 は、部市的、工業地域のなかにあって、多くの恒常的兼業農家を抱えていること、そのー 方で、園地を改造し機械化・規模拡大と高品質生産の併進を志向する大規模農家も存在し ており、二極化した担い手の存在形態となっている。
この両者に統一的な生産力発展の方向性を求めることはできないが、品種の統一や出荷 日時の統制などを強カに推進し、兼業農家層を販売戦略のなかに統合することに成功して いる 。 地 縁的 組織化が機 能しにく い状況に あり、班 組織の主 要な 統制 のための連 絡 調整に特化しているため、兼業農家層における技術対応は、農議釜掣讐きめ細かぃ指導体 帯|」によって維持されていることを指摘している。
終章では、序章で設定した課題に対して、事例分析によって得られた結論を以下のよう にまとめている。
第一の課題については、地縁的組織化は既存の生産カの維持・継承には有効であるが、
新技術を導入して産地再編をすすめる原動カとしては期待できなぃ。共販組織が産地再編 を主体的に推し進めるには、地縁性によらなぃ組織原理、もしくは共販組織の外部の主体 による補完を必要とする。前者については「地域横断的組織化」が、後者については農協 や試験場などが有効な役割を果たしうる。
第二の課題については、先進的農家が個別分散的に新技術に取り組むだけでは、共販組 織の販売戦略と連携をとれず、その成果も他の農家に波及しにくぃことを指摘している。
共販組織として彼らの取り組みを評価し支援を与えて、販売戦略との連携を維持しながら 技術革新をすすめることが重要である。そのための組織化の形態としては、「地域横断的組 織化」が適切である。
第三の課題である関係機関の役割については、次の二点が指摘できる。一点目は、共販 組織がおこなう技術対応に関する意志決定を補完することである。農協は出荷先に関する 情報を、試験場などは技術に関するより正確で客観的な情報を有しているためである。ニ 点目は、三ケ日地区にみられたように、地域による技術の維持・継承が機能しなくなった 場 合 に 、 営 農 指 導 に よ っ て こ れ に 代 替 す る 機 能 を 提 供 す る こ と で あ る 。 以上のように、地縁的組織化、地域横断的組織化、農協などの関係機関による補完機能 の三点が、共販組織が主産地再編に関わるうえで重要であり、これらを適切に組み合わせ た 組 織 体 制 を と る こ と が 、 再 編 を す す め る う え で重 要 で ある と 結論 づ け てい る 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
主産地再編と農協共販組織の内部編成
―ミカン産地における技術革新に注目して―
本 論 文 は 、 図24、 表42を含 み 、6章 か ら なる112ぺ ー ジ の和 文 論 文で あ る 。 別に 参考論文4編が添えられている。
わが国の青果物産地は流通環境の変化や農産物市場の国際化、産地内部での担い手のあ り方などの変化のなかで再編を迫られる状況にある。本論文の課題は、主産地の再編の動 態的な過程と、そこでの共販組織の役割について、技術普及の側面から分析することであ る。産地間競争のなかでは、新技術の導入によって生産物の差別化や生産コスト低減が図 られるが、産地としての競争カを考えるうえでは、こうした新技術をどの程度普及するか が問題となる。そのため、共販組織に焦点を当てて、地縁的な組織化と地域横断的組織化 が技術革新にどのように関わっているか、技術的先進農家をいかに位置づけるか、共販組 織に対する農協などの関連機関の補完機能をどう捉えるかを課題としている。具体的には、
温州ミカンの産地再編過程に注目しているが、その特徴は産地再編をせまられるなかで農 民的な 技術が 形成され てきたこ と、農 家の主体 性によ る組織化 が顕著 なことで ある。
序章では、以上の問題意識と課題が提示され、第1章ではミカン産地における共販組織 形成の 段階性と地域性が整理されている。第2章から第4章でfま、三つの産地を対象とし て事例分析が行われている。地縁的組織の意義と限界を分析する愛媛県の事例、地縁性に よらない組織化の意義を分析する熊本県の事例、農協の役割を分析する静岡県の事例であ る。
第二章では、地縁的組織化により技術普及を行っている愛媛県八幡浜市の真穴地区を取 り上げている。対象地は、戦前からの共販組織とブランド形成の歴史を持つ銘柄産地であ り、技術対応は地縁的結合に依拠した班組織による講習会活動が基本である。このことに より、下層農家の脱落が防止され、中堅的な担い手層が分厚く存在している。しかし、地 縁的組織化に依存した技術対応は、新規技術の導入・普及には有効に機能せず、高度な高 品 質生 産 の 普及 は 一 部の 農 家 にと ど ま り 停滞 傾 向 にある という限 界を示 している 。 第三章は、地域横断的な組織化により技術対応を行っている熊本県熊本市農協柑橘部会 を取り上げている。対象地の特徴は、地縁的な講習会活動に加え、「生産プロジェクト」と よばれる組織を設けている点にある。これは、地域代表ではなく高い技術水準にある農家 で構成され、先進的農家をオピニオンリーダーとして位置づけ、支援を行うことで共販組 織の販売戦略との連携を保っている。地縁的組織による新技術の導入の限界を克服する動
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彦
郎
紅
一
明 理
下 澤
坂 飯
朴
授 授
授
教
教 教
准
査 査
査
主 副
副
きとして注目している。
第四章は兼業滞留地域である静岡県浜松市三ケ日地区(旧三ケ日町)のミカン共販組織、
「マルェム出荷組合」を取り上げ、共販組織に対する農協の役割に焦点を当てている。農 家構成は、多数の恒常的兼業農家と規模拡大・高品質生産を併進させる大規模農家とぃう 二極化なものになっている。この異質な農家を組織化するために、農協は営農指導を強化 し、品種の統一や出荷日時の統制などを強カに推進しているが、その高い価格形成カが兼 業農家層を共販体制にとどめていることを指摘している。
終章では、序章で設定した課題に対して、事例分析によって得られた結論を以下のよう にまとめている。第一に、地縁的組織化は既存の生産カの維持・継承には有効であるが、
新技術を導入して産地再編をすすめる原動カとしては期待できない。共販組織が産地再編 を主体的に推し進めるには、地縁性によらなし丶組織原理、もしくは共販組織の外部の主体 による補完を必要とする。前者については「地域横断的組織化」が、後者については農協 や試験場などが有効な役割を果たしうる。第二に、先進的農家が個別分散的に新技術に取 り組むのみでは、其販組織の販売戦略との連携をとることができなぃため、その成果を取 り込む「地域横断的組織化」が必要である。第三に、関係機関の役割は其販組織がおこな う技術対応に対する補完機能にあるが、地域による技術の維持・継承が機能しない場合に は特に農協の営農指導が大きな意味を持っとしている。
以上のように、本論文は従来見解が分かれていた共販組織における地縁的組織化、地域 横断的組織化の意義を詳細な事例分析によって明らかにするとともに、農協などの関係機 関による補完機能のあり方にも示唆を与えている。
よって審査員一同は、林芙俊が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するもの と認めた。
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