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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 水 産 学 ) 山 口    篤 学 位 論 文 題 名

日本近海における小型冷水性カラノイダ 橈脚類数種の生活史に関する研究

学位論文内容の要旨

    海 洋動 物プ ラン クト ン群集中で普遍的に優占するカラノイダ橈脚類は植食、肉食お よ び雑 食性 種を 含み 、植 物プランクトンから魚介類等の高次栄養段階生物に至る生物生 産 過程 にお いて それ ぞれ 重要な仲介的役割を果たしている。このためカラノイダ橈脚類 の 生活 史に 関す る知 見は 海洋生態系の低次生産構造を把握する上で極めて重要である。

こ れま で橈 脚類 の生 活史 に関する研究は主として小型沿岸性種や外洋表層域に優占する 大 型植 食性 種に つい て行 われており、外洋性小型種、デトライタス食性種、中・深層性 種等の生活史に関する知見は極めて乏しいのが現状である。

    本 研究 は西 部北 太平 洋の北海道南方恵山岬沖、釧路沖および南部日本海の富山湾に お ける 経時 野外 採集 試料 を用 いて 、数 的に優 占し 、生 態学 的特 徴( 分布 深度 、摂 餌生 態)が異なる5属6種の橈脚類(Pseudocalanus minutus,P.newmani, Scolecithrice仏皿血0r Ga尚uS珊m6mb胎エfrDma田口aSCUrひmぬおよびぁり艪rD曲a6出S洫ロ翻の出現量、個体群構 造 およ び鉛 直分 布の 季節 的資料を総合的に解析して生活史を推定したものである。この う ち2属2種 (S皿 面DrとG.瑚 血M仏 )に つい ては 卵と ノープリウス期の発育時間を飼育 実 験に より 明ら かに し、 世代 時間 推定 の補助 資料 とし た。 また 、各 種類 の体 長、 湿重 量 、乾 重量 およ び乾 燥有 機物量を発育段階毎に測定し、種類毎の成長(体長および体重 の 増加 )バ ター ンの 相違 を明らかにすると共に、野外現場でのパイオマスの推定を行っ た 。得 られ た生 活史 の再 生産および成長時期を環境要因と比較し、その関係について考

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察した。

    Pseudocalanus m加UfUsの 再 生 産 は 春 季 の 植 物 プ ラ ン ク ト ン ブ ル ー ム 期 に 集 中 して 行 わ れ 、 こ の 時 期 本 種 は 水 深100m以 浅 に 分 布 し て い た 。 夏 〜 冬 季 に 本 種 は 水 深300・700m に 潜 り 、 低 温 な こ の 層 に 終 日 分 布 し 、 個 体 群 は コ ベ ポ ダ イ ト5期 (C5) が 大 半 を 占 め た 。C5か ら 成 体 (C6) へ の 脱 皮 は 晩 冬 に 起 こ り 、 こ の 成 体 が 翌 春 の 春 季 ブ ル ー ム に 再 生 産 を 行 う 。 生 息 水 温 が 低 い (3℃ ) 恵 山 岬 沖 で は 発 育 速 度 が 遅 く 年1世 代 、 水 温 の 高 い

( 10℃ ) 富 山 湾 で は 春 季 に 世 代 交 代 の あ る 年2世 代 を も っ と 推 定 さ れ た 。     冊eUめca↓ 珊Usロe舳aロjの 生 息 水 深 はP口 面 msよ りも 浅く 、周 年100m以 浅に 分布 し て い た が 、 表 高 水 温 層 の 発 達 す る 夏 〜 冬 季 に 分 布 深 度 が 深 く な っ て お り 、 分 布 上 限 水 温 は 約15℃ と 推 定 さ れ た 。 富 山 湾 で は7〜11月 の 間 、 本 種 個 体 群 は 湾 内 か ら 消 失 し 、 こ れ は100m水 深 の 水 温 が15℃ を 越 え る 期 間 と 一 致 し て い た 。 恵 山 岬 沖 に お い て 初 期 発 育 段 階 が 常 に 出 現 す る こ と か ら 、 本 種 の 再 生 産 は 周 年 起 こ る も の と 思 わ れ た が 、 正 確 な 年 間 世 代 数 は 特 定 で き な か っ た 。 富 山 湾 で は 比 較 的 低 温 で 植 物 プ ラ ン ク 卜 ン ブ ル ー ム の あ る 春 季に3世代をもっと推定された。

    、5|c甜ec紬r た泓 皿面0rは 水深100‐300m層 に周年分布し、夜間に上昇する鉛直移動パ タ ー ン を 示 し た 。 室 内 実 験 に お い て 本 種 の 卵 と ノ ー プ リ ウ ス 期 の 発 育 時 間 は 、 水 温 と 負 の関係にあり、Bvelebadek式[D〓a(T‐a)b:Dは発育時間(day),Tは水温(℃),a,a,bは定 数 ] に よ く 適 合 し た 。 富 山 湾 に お け る 生 息 水 温 (6℃ ) で の 卵 と ノ ー プ リ ウ ス 期 の 発 育 時 間は2.7日と21.6日で 、一 般的 な橈 脚類 の1世 代時 間に 占め る、 卵, ノー プリ ウス ,コ ベ ポ ダイ ト期 の割合(各々4‐22%,2244%,45‐68% )より、本種の世代時間は44.76日と推定 さ れ た 。 富 山 湾 に 本 種 の 初 期 発 育 段 階 は 周 年 を 通 し て 出 現 し 、 主 再 生 産 期 は 夏 〜 秋 季 に あ り 、 年5〜7世 代 を も っ と 判 断 し た 。 釧 路 沖 で は 生 息 水 温 が 低 く (3℃ ) 、 世 代 時 間 は59‐101日 と 推 定 さ れ た が 、 野 外 試 料 で は 夏 〜 秋 季 に 成 長 す る 顕 著 な1コ ホ ー ト 以 外 は 確認できなかった 。

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    Gaidius variabilisは水深600‑1500m層に周年分布し、C2が最も深層に分布し、その後 発育 に伴 って 分布 深度 が浅 くなる 、特 徴的 な発育に伴う鉛直移動バターンを示した。本 種の卵とノープリウス期の発育時間も水温と負の関係にあり、B81ehradek式によく適合し た 。 釧 路 沖 に おい てC1は6〜8月 に卓 越し 、生 息水 温(2.5℃ )に おけ る卵と ノー プリ ウ スの 発育 時間 (各々5.7日と44.8日)より、本種の大きな再生産が表層で植物プランクト ン ブ ル ー ム の あっ た4〜6月 にあ った こと が判 った 。本 種はC4以 降外 部形態 によ って 雌 雄の 判別 が可 能と なる 。C4以降の 体重 増加 バターンは雌雄間で大きく異なり、雄はC4と C5に おい て体 内へ の有 機物 の蓄積 が雌 より も有意に大きく、C6では口器が退化して摂餌 をせ ず、 体重 はマ イナ ス成 長を示 した 。C4とC5での有機物の蓄積を多くするために雄の 発 育 速 度 は 雌 よ り も 遅 く 、 雌 は1年 、 雄 は2年 の 世 代 時 間 を も つ も の と 思 わ れ た 。     Pleuromamma scutu仏ぬ は水 深100‐300m層に分布し、夜間に上昇する明確な日周鉛 直移 動を 行っ てい た。 本種 は日本 海に は分 布せず、釧路沖においてのみ生活史の解析を 行っ た。 各発 育段 階の 出現 は明確 な季 節性 があ り、 成体 は4月 に出 現の ピークがあり、

これ は釧 路沖 にお ける 植物 プラン クト ンの 春季ブルームの開始時期と一致した。C1の出 現 ピ ー ク が9〜10月 に み ら れ た こ と か ら 、 卵と ノ ー プ リ ウ ス 期 の 発 育 時 間 は 最大5〜 60月 と 見 積 も られ た。C1か らC6まで の発 育時 間は それ ぞれ の出 現ピ ークの 追跡 から 推 定 可 能 で あ り 、C1がC6ヘ発 育す る時 間は6〜7ケ月 と見 積も られ た。 このよ うに 見積 も られ たコ ペポ ダイト期の発育時間の1世代時間中に占める割合は50−58%であり、これは 多くの海産橈脚類の世代時間に占めるコベポダイト期の発育時間の割合(45‐68%)とも よ く 一 致 し て いた 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 釧 路 沖に おい て本 種は 約1年の世 代時 間を も ち 、 主 産 卵 期 は植 物 プ ラ ン ク ト ン の 春 季 ブ ル ー ム 期 に 一 致 し て い る こ とが 判 った 。     ″ ;絶rD曲a6〔舩fa 加師は水深300‐1000m層に分布し、夜間に上昇する日周鉛直移動を 行っ てい た。 本種 も日 本海 には分 布せ ず、 釧路沖においてのみ生活史の解析を行った。

本種 はコ ベポ ダイ ト中 期(C3‐C5)に おけ る脱 皮間 成長 は、 一般 的な 橈脚類よりも約3

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倍 ほど 大き かっ た。C3‑C6各発 育段 階の 出現 個体 数に は大きな季節変動がみられ、C3と C4は6〜7月 に 、C5は9〜10月 に優 占し 、成 体は12月 に多 かった 。釧 路沖 にお いて 本種 は 主と して12月 に産 卵し 、孵化した個体群は成長して翌年の12月に再び産卵し新しい個 体群を形成する、1年1世代であると考えられた。

    こ れら6種に つい ての 生活 史を 総合 する と、 生活 史における再生産時期は種間で異 な り、 各々 の種 の餌 とな る動・植物プランクトンの季節変動と密接な関連があることが 示 唆さ れた 。Pseudocalanus属2種は 春季 植物 プラ ンク 卜ン ブル ーム の1〜2ケ 月後 に初 期 コペ ポダ イト 期の 出現 ピークがあり、水温と発育の関係から考えて、ブルーム中に再 生産のピークがあることがわかる。この他に中層性種のPleuromamma scutu仏faとGamfUs 仰 廟6ロ 活も 表層 で植 物プ ラン クト ンブ ルー ム期 のあ る季節に大きな再生産のピークが あ った 。こ の2種 はデ トラ イタ ス食 性種 で雌 成体 は周 年出現するが、主産卵期は植物プ ラ ンク 卜ン のプ ルー ムに 起源をもっデ卜ライタスの供給量によって決まると思われる。

ScDんcmn・,ce仏m血DrとHB鰤曲a6dUsぬ朋cdの再生産時期は、植物プランクトンの増減と はあまり関連がみられなかった。これは両種の食性がデトライタス食性(S,田血0′)と肉 食 性(H紹閲 瑚で ある こと によ る考 えら れる 。デ トラ イタス 食性 のS田面Drの 再生 産時 期は、現場においてデトライタスの起源となる¨ハウス¨を供給する尾虫類の季節変動と 関連しており、肉食性のHfa口口師の再生産時期は、動物プランク卜ン量の多くなる季節 と 一致 して いた 。食 性に 関連したカラノイダ橈脚類の生活史の多様性は本動物群が海洋 生態系に卓越するのに欠かせない要因の1つであると思われる。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

日本近海における小型冷水性カラノイダ    橈 脚 類 数 種 の 生活 史 に関 す る 研究

  海洋動物プランクトン群集中で普遍的に優占するカラノイダ橈脚類は植食、肉食および雑 食性種を含み、植物プランクトンから魚介類等の高次栄養段階生物に至る生物生産過程にお いてそれぞれ重要な仲介的役割を果たしている。日本近海には約300種のカラノイダ橈脚類 が出現するが、これまでその生活史が研究されているのは2属3種の沿岸性種、5属7種の 外洋性種にすぎない。本申請者の論文は西部北太平洋の北海道南方恵山岬沖、釧路沖(親潮 域)およぴ日本海南部富山湾における経時野外採集試料を用いて、動物プランクトン群集に 数的に優占し、生態学的特徴(分布深度や摂餌生態)が異なる5属6種のカラノイダ橈脚類 の生活史を推定したものである。このうち2属2種については卵とノーブ1Jウス期の発育時 間を飼育実験により明らかにしている。また、各種類の体長、湿重量、乾重量および乾燥有 機物量を発育段階毎に測定し、種類毎の成長(体長および体重の増加)バターンの相違を明 らかにすると共に、野外現場でのバイオマスの推定を行っている。その得られた結果および それに基づく論議のうち、審査員一同は以下の諸点を特に評価すべきものとしてとりあ げた。

  第一に、野外採集試料の出現量と個体群構造の解析から、同じ海域においても主な成 長、再生産期は種毎に異なることを見い出し、それぞれの餌となる動、植物プランクト ンの季節変動と一致していることを明らかにしたことがあげられる。また同一種でも異 なる海域では再生産期、成長速度、年間世代数が異なり、これは生息水温と餌の季節的 消長の海域間差の反映と考察している。申請者は食性に関連した生活史の多様性は本動     ―12211

勉雄 信       春 直 田城 賀 池小 志 授授 授       教 教教 助 査査 査 主副 副

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物膵が海洋生態系に卓越するのに欠かせない要因のひとつであろと述べている。デトラ イタス食性橈脚類の生活史の研究例は極めて少ないが、その成長、再生産期が尾虫類の 増 減 と 一 致 し て い た 点 は 海 洋 生 態 系 の 理 解 に お い て 重 要 な 知 見 で あ る 。   第二に、鉛直分布の観察より、それぞれの種の日周鉛直移動、季節的鉛直移動および発 育に伴う鉛直移動バターンを明らかにしたことがあげられる。同属2種の橈脚類でも、一 方の種は季節的な鉛直移動を行うが、他方の種は周年表層に留まることを明らかにし、表 層水温の低い北海道南方恵山岬沖では周年表層に留まる種が優占するが、夏以降の表層水 温の高い日本海富山湾では季節的な鉛直移動を行う種が優占することを明らかにしてい る。申請者は季節的な鉛直移動の適応的意義を表層の高水温層を避けるためと推論してい るが、妥当で無理のない論議である。

  第三に、 飼育実験 により、2属2種の初 期発育時 間を実験 的に確かめた点があげられ る。実験に用いた2属2種は何れも鉛直的に中・深層に分布する種で、本論文がはじめて の飼育例である。2種の卵のサイズは沿岸性種のそれよりも大きく、中・深層性種は大型 の卵を産むことにより、生残率を高める意義があると議論している。また発育時間は水温 と負の関係にあり、生息水温より予想される発育時間は野外でのコホートの発育時間とよ く一致している。ただ、卵とノープリウス期の発育時間より世代時間を推定する方法は、

複数年におよぷ世代時間を持つ種には適用しないことが示され、生活史推定の補助資料と しての飼育実験を用いるのに制限のあることも言及している。

  第四に、体長と体重を測定し、種毎の体長体重の増加、成長パターンを明らかにした点 をあ げ る こと が で きる 。 脱皮 間 成 長は種間 で大きく異 なり、特 に中層性 肉食性種 の Heterorhabdus tanneriでは一般的な橈脚類の約3倍ほど大きな体重増加がみられ、申請者 は他の中層性肉食性種にもこのような大きな脱皮間成長が報告されていることを例証とし て、コベボダイト中期における大きな体重増加は中層性肉食性種に共通する特徴であると 述べている。また雌雄間でも脱皮間成長は大きく異なり、雄成体への脱皮間成長は最も小 さく、マイナス成長にもなることを明らかにしている。雌雄での成長バターンの違いは雌 雄の発育時間の違いをもたらすと申請者は考察し、その適応的意義について議論を加えて いる。

  以上のように、本申請者の論文は本邦周辺海域における6種のカラノイダ橈脚類の生活 史を初めて解明し、その種間における相違を食性や分布深度に関連づけて説明を試みたも     ‑1222―

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ので、橈脚類生態学分野の研究進展に大きく貢献したものと高く評価され、審査員一同 は、本研究の申請者が博士(水産学)の学位を授与される充分な資格を有すろと判定し た。

参照

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