博 士 ( 理 学 ) 町 原 秀 二
学 位 論 文題 名
The Cauchy problem for nonlinear Klein‐ Gordon and Dirac equations
( 非 線 型の クラ イン・ゴル ドン方程 式とデイ ラック方 程式の初 期値問題 )
学位論文内容の要旨
本 論文は非 線型クライ ン・ゴル ドン方程 式(NLKG)、非線型デイラック方程式(NLD) お よびそれらを合わせたデイラック・クライン・ゴルドン方程式(DKG)の初期値問題に つ いての研 究を扱う。
第 一の考察は(1十孔)次元の時空におけるNLKGの非相対論的極限問題についてであ る 。非線型 シュレデイ ンガー方 程式(NLS)の解 をNLKGの解の 非相対論的極限とみなし た時、二つの解の収束性からみた関連について議論する。どのような位相で解同士の収束 を示すことができるのか、またどのような特徴を観察することができるのかを考察する。
この問題に関して既知の結果として次のものがある。以下R 上の関数空間としてs階の ソボレフ空間をH ヽr乗可積分関数の成すルベーグ空間を.ぴで表す。1984年に堤正義 氏 は初期値のH2収束を仮定し、時間局所一様L2空間で解の収束を与えた。1990年にB. Najman氏は初期 値のHl有界 とL2収束を 仮定し、 時間局所 一様ぴ,2くrく2n/(nー2) 空間で解の収束を示した。今回次の結果が得られた。
●NLKG、NLSの 初 期値 をHlで 有 界 とす る 。初 期 値 同士 の 収束 を ゃ 、お よ びHlで 仮 定する。 このとき解 同士がそ れぞれ時間局所一様L2空間および時間局所一様Hl空間で 収束する 。
ま たこのとき にNLKGの解の 最大存在 時間をNLSの 最大存在 時間で下から押えこの極限 移 行のときにNLKGの存在時 間が っぶれない ことを示している。さらにL2収束に関 し てはその最 適オーダ ーも与え ている。
第二 の考察は(1十3)次元 の時空におけるNLDの初期値問題である。NLDは関数がC4 に値 をもつ方程 式のシス テムであ るがそれを時間で微分することによりNLKGを導くこ とが できる。よ り正確に は微分し た項を非 線型項に 含むNLKGとな る。まず初めにNLD の解 の存在に関 する研究 をした。 今回の形 のNLDに対し1997年にM. Escobedo氏とL. Vga氏がs冫1のH での 時間局所 解を与えている。今回小さな初期値に対する時間大域 解の 存在を与え た。
●s>lに 対 しHsで 十分 小 さい 初 期 値に 関し て、NLDにはH に連続な 値をもつ 時間大 域一 意 解 が存 在 す る。
証明にクライン・ゴルドン方程式(デイラック方程式)に対するストリッカーツ評価の指 数の末端点での成立を示し、利用している。これは1970年代後半よりR. Strichartz氏、
P. Brenner氏、J.Ginibre氏、G.Velo氏、H.Pecher氏らにより研究されてきた波動関数 の 滑ら か さと 可 積 分性 を 時 空大 域 的に 扱 え るス ト リッ カ ー ツ評 価 の改 良であ る。
次に非相対論的極限の問題である。ここでは局所時間での扱いとなる。NLDの解がNLS の解に収束する様子を扱う。この問題に関し既知の結果として次のものがある。1991年 にB.Najman氏は初期 値のH2有界 とロ1収束 を仮定し 、時間局 所一様Hl空 間で解の収 束を与 えた。1995年に松山登喜夫氏は初期値のH2収束を仮定し、時間局所一様弱ロ1空 間で解の収束を与えた。次の結果を得た。
●s>lと す る。NLD、NLSの 初 期 値をH で与 える。初 期値同士 の収束をH°で仮定 す る 。こ の とき 解 同 士が 時 間 局所 一 様H 空 間 で 収束 す る。
またこ のときもNLDの最大存在 時間はNLSのものにより下から押えられている。
第 三の考察では(1十3)次元の時空におけるDKGの小さな初期値に対する時間大域解 を扱う。尺度不変性の議論により得られる臨界正則度とほぼ等しい正則度の関数空間で時 間大域解を与えた。
●伽 〃0を臨界正則度としど1,ど2は十分小さい正数とする。このとき、Hu十£1xH蜘‑e2内 の十分 小さな初 期値に関 し、DKGにはHuo十E1xロめ‑e2に連続な値をもつ時間大域一意 解が存在する。
DKGの考 察 で はNLKGとNLDを統 一 的 に扱 う 必要 が あ る。 こ のと きにス トリッカ ーツ 評 価が 重 要 な役 割 を果 た す 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
小澤 中村 儀我 津田谷
徹
玄 美一 公利
学 位 論 文 題 名
The Cauchy problem for nonlinear Klein‑Gordon and Dirac equations
( 非 線 型 の ク ラ イ ン ・ ゴ ル ド ン 方 程 式 と デ イ ラ ッ ク 方 程 式 の 初 期 値 問 題 )
非線 型 ク ライ ン ・ ゴル ド ン 方 程式 は 場の理論 の中で も最も良 く取上げ られる 模型であ り そ の 古 典 場 の数 学 的 実現 に 就 いて は
40
年以 上 の 歴史 を 有 する . 一 方非 線 型 シュ レ デ ィン ガ ー 方 程 式 は場 の 方 程式 で あ ると 共 に 様 々な 物 理 現象 の 記 述に も 用 いら れ 数 学的 に も ソ リ ト ン 理 論 から 調 和 解析 的 取 扱い 迄 幅 広 い分 野 で の研 究 対 象で あ る .非 線 型 波動 方 程 式 の 函 数空 間 論 的研 究 に よれ ば 両 者 を或 る 程 度一 般 的 に論 じ る 事が 出来1960年以来Segal,Jorgens Morawetz Strauss, Strichartz Brenner, Pecher
,Ginibre VblOIKatO
をはじめと す る 数 多 く の研 究 者 によ る 厖 大な 文 献 を 有す る に 至っ て い る. 一 方 非線 型 シ ュレ デ ィ ン ガ ー 方 程 式 を非 線 型 クラ イ ン ・ゴ ル ド ン 方程 式 の 非相 対 論 的極 限 と 見倣 す 方 法は 形 式 的 に は 易 し い が数 学 的 取扱 い は 特異 極 限 の 枠組 で 捉 えら れ 付 随す る 線 型偏 微 分 作用 素 の 型 も コ ワ レ フ スキ 型 か ら非 コ ワ レフ ス キ 型 に転 換 す る為 大 変 困難 な 問 題と し て 知ら れ て い た . こ の 試 みに 初 め て成 果 を 挙げ た の は 堤正 義 早 稲田 大 学 教授 で1984
年 のこ と で あっ た が 空 間 次 元 ,非 線 型 項の 条 件 ,デ ー タ の 収束 条 件 ,解 の 収 束を 計 る 函数 空 間 等に 様 々 な 制 限 を 課 さ ねぱ な ら なか っ た .そ の 後 こ の問 題 に は幾 っ か の成 果 が 現れ た も のの 本 質 的 な解 決を見 る事無く 残されて いた.本 論 文 は, こ の 様な 研 究 動向 に 於 い て, ク ラ イン ・ ゴ ルド ン 方 程式 に 対 する ス ト リッ カ ー ズ型 評 価 を低 周 波 ・高 周 波 に 分離 して記 述する事 により ,非相対 論的極 限の問題 を現 在 考 え得 る 最 も理 想 的 な形 で 解 決 した もので あり,そ こで培 った様々 な技巧 を発展・ 応用 させ ,関連 する諸問 題を研究 したも のである .本論 文の主要 結果は 以下の様に纏められる.
(1) 非 線型ク ライン ・ゴルド ン方程 式の非相 対論的 極限が非 線型シュ レディ ンガー方 程 式 で ある 事 を ,一 般 の 空間 次 元 で 劣臨 界 ソ ポレ フ 指 数を 持 つ 非線 型項に 対し, 己2及 び
Hl
に於いて証明した.ここでL2は自乗可積分函数の成すヒルベルト空間,Hlは有限ディリ ク レ積分を 持つL2函数 の成すヒ ルベルト空 間である.L2は全電荷,Hlは全エネルギー の空間と見倣せる.
(2)非線型ディラック方程式の非相対論的極限がべクトル値非線型シュレディンガー方 程式である事を劣臨界指数のソポレフ空間で証明した.時間大域解の存在に就いての未 解決問題に対しても同様の枠組で解決を図った.
(3)ディラックとクライン・ゴルドンの非線型方程式系の初期値問題を劣臨界指数のソ ポレフ空間で大域的に解いた.
これを要するに,著者はストリッカーズ型評価に対して周波数分解と謂う新たな方法 論を導入し,この分野の新しい展開を見出したものであり,非線型偏微分方程式,調和解 析学の発展に貢献するところ大なるものがある・
よって著者は,北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める.