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正倉院文書データベースへのトピックマップ応用による奈良時代知識情報構築の試み

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Academic year: 2021

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(1)「人文科学とコンピュータシンポジウム」 2012年11月. 正倉院文書データベースへのトピックマップ 応用による 奈良時代知識情報構築の試み 後藤 真 花園大学 文学部. 内藤 求 (株)ナレッジ・シナジー. 正倉院文書データベース(SOMODA)が公開され、おおむね 5 年が経過した。SOMODA は、正倉院文書の復 原過程の方法論を情報学的に表現することを目指すと同時に、正倉院文書の総合的な知識情報のデータベースと して作成されたものである。情報技術の進展とともに、SOMODA にも新たな課題が生じるとともに、正倉院文 書研究の進展のためにもより高度な研究データベースとしての発展が求められている。そこで、正倉院文書デー タベースのデータを高度利用し、さらに、関連する知識情報を加え、トピックマップを作成した。このトピック マップの活用により、正倉院文書に関連するデータの、高次の活用が可能となると同時に、新たな知見への可能 性も期待できる。. Makoto GOTO Faculty of Literature Hanazono University. Motomu NAITO Knowledge Synergy Inc.. Experiment of the Nara era knowledge information construction by the topic map apply to Shoso-in document database Shoso-in Monjo Database (SOMODA) was shown, and about five years passed. SOMODA aimed at expressing the methodology of the reconstruction process of the Shoso-in Monjo for the information science. Additionally, SOMODA was made as a database of the general knowledge information of the Shoso-in Monjo. With progress of the information technology, a new problem occurred in SOMODA. And the development as the higher study database is pursued in SOMODA for the progress of the Shoso-in Monjo study. Therefore, I apply to Topic Maps for the data of the SOMODA. Furthermore, I added associated knowledge information and made a topic map. The good use of this topic map enables the highly advanced use of data related to Shoso-in Monjo. In addition, the possibility of the discovery of new knowledge is also expected. 究が進むなど[5]、正倉院文書のデジタル利用が. 1. 正倉院文書データベースの課題. これまでにも増して進みつつある。. 著者の一人は、以前、正倉院文書データベース. 一方で、SOMODA にも、いくつかの課題が指. (SOMODA)を作成し、その成果については、. 摘されるにいたっている。たとえば、画像表示の. 人文科学とコンピュータシンポジウムでも継続し. 不具合や、システムの複雑さにもとづく表示の速. て発表を重ねてきた[1][2]。SOMODA は 2007 年 3. 度の問題などを指摘されていることもあった[6]。. 月に公開され、正倉院文書の復原過程を再現する. また、正倉院文書の複雑さから扱いが難しいとい ためのツールとして、利用されてきた[3]。また、 う問題点などもあり、今後のブラッシュアップが 正倉院文書に関するデジタル化も、各研究機関で 課題となっている。 行われるようになってきている。たとえば、東京. 2.SOMODA の新たな形. 大学史料編纂所では、正倉院文書の基礎データの. そこで、SOMODA が、今後、どのような形に. 提供に関する動きが進みつつあり[4]、国立歴史. 進むべきか、著者は一つの見通しを示した[7]。. 民俗博物館でも正倉院文書データの高度利用の研. それは、以下のとおりである。. (c) Information Processing Society of Japan. - 125 -.

(2) The Computers and the Humanities Symposium, Nov.2012 (1) 現在の SOMODA は、正倉院文書研究資料. 源を結び付ける出現(occurrences)によって組織. の構造をそのまま採用しているが、それは、 化することができる[8]。 正倉院文書の現状とも原状とも異なる。そ. また、トピック、関連、出現等は、型を持つこ. のため、まずは、データの基礎構造を正倉. とができ、それらの型の構造をトピックマップオ. 院文書の現状に即したものにすべきである。 ントロジという。なお、本論文では、このトピッ (2) 検索・情報発見をより容易にするしくみを. クマップオントロジをオントロジと呼称する。. 検討する。. また、トピックマップにおいては、トピックに. (3) 正倉院文書に関するデジタル化の進展の状. 主題を同定/識別するための主題識別子(Subject. 況にかんがみ、多くのデータベースとの協. Identifier) を割当てることができる。主題識別子. 業を可能にするべく、可能な限り Open. として、IRI(Internationalized Resource Identifier) を. Data 化を進める。. 利用する。主題識別子を公開したものを公開主題. (4) 知識情報にもとづく、効果的な情報発見が. 識別子 (PSI:Published Subject Identifier) と呼ぶ。. 必要となる。また、史料と研究で得た知識. PSI を利用することにより,現在の Web では解決. を結びつける必要性がある。. が困難な Synonym (同意語)、Homonym (同音異義. これらを実現するための一つの手法として、オ. 語)、Polysemy (多義性) などの問題に煩わされる. ントロジ技術が有用であると、先述の論文では述. ことなく、ユニークな IRI による正確な主題の識. べた。そして、多くの歴史資料と、歴史の知識情. 別/同定が可能になる。. 報、その典拠となる論文などについて、それぞれ を有機的に結びつけることで、正倉院文書という. このトピックマップの特徴により、技術的には 以下のメリットが期待できる。. 一つの資料世界に関する総合的なデータベースが. (1) デジタル・アーカイブの構築への適合. 可能であるとの指摘を行った。データベースによ. 一般的に、デジタル・アーカイブは、管理対象. って正倉院文書に関わる研究全体を俯瞰し、かつ、 となる情報オブジェクトとそのメタデータ(タイ 新知見を得るための重大なヒントを提供し、さら. トル、作者、主題、概要、作成日、場所、分類な. に、正倉院文書に関わる研究の方法論を明示する. ど)から構成される。メタデータは、表構造で表. ためである。. 現される場合が多い。しかし、主題、場所、分類. そこで、本研究では、そのオントロジ技術とし. などは、ネットワークや階層のデータ構造を持つ. て、ISO 標準でもあるトピックマップを採用した。 ため、表構造では、それを表現するには困難な場 そして SOMODA のデータに加え、新たな研究知. 合がある。一方、トピック、関連、出現で構成さ. 識情報をトピックマップの中に入れ、新たな可能. れるトピックマップのデータ構造は、本来、デジ. 性を模索した。以降、本研究について報告する。. タル化の対象となる多様な文化資源が持つ複雑な データ構造の表現によく適合すると考えられる。. 3.トピックマップの特徴と優位点. (2) 多様な索引(アクセスパス)の設定. データベースで採用したトピックマップは以下 のような特徴を持っている。. 文化資源を構成する情報オブジェクト群は、多 くの場合、多視点、多層的な知識空間を構成する。. トピックマップは,ISO/IEC JTC1 SC34 で策定. 従って、画一的、固定的なものでなく、要求に合. された ISO 標準である。その標準の中で、以下. わせて多様なアクセスパスが柔軟に設定できれば、. のように記述されている。"トピックマップは、. デジタル・アーカイブの有用性を高めることがで. 知識を記号化し、この記号化された知識を関係が. きる。人文科学研究者の要求に基づいて、視点、. ある情報資源に結び付ける技術である。トピック. 知識を体系的に整理し、それをもとにアクセスパ. マップは、論議の主題(subjects)を表現するト. スが設定できることが理想である。もっとも、一. ピック(topics)、主題間の関係を表現する関連. から体系を構築するのは大変な労力を必要とする. (associations)及び主題と主題に関連する情報資. ため、自ら構築する代わりに、タクソノミ、シソ. (c) Information Processing Society of Japan. - 126 -.

(3) 「人文科学とコンピュータシンポジウム」 2012年11月 ーラスなど既存の知識体系を利用することも選択. タル・アーカイブの有用性がさらに高まるものと. 肢の一つとして与えられている。. 考える。 これらのメリットは、正倉院文書の新たな形で. (3) 問合せの優位性 トピックマップ化され設定されたアクセスパス. のデジタル化に極めて有益であると考える。そこ. を航行し、目的とする主題についての情報や情報. で、実際に正倉院文書トピックマップを作成した。. オブジェクトを取得することも可能である。. 次章でその説明を行う。. (4) 他のアーカイブとの連携 分散して存在しているトピックマップ Web ア. 4.作成した正倉院文書トピックマップ. プリケーション間で、トピックマップのフラグメ. 筆者らは、以下のように正倉院文書のトピック. ントの問合せ、交換等をするためのプロトコルと. マップを作成した。作成したオントロジ図は、図. して TMRAP (Topic Maps Remote Access Protocol). 1 のとおりである。 (1)正倉院文書の現状のテキストの構造化と. が 用 意 さ れ て い る [9] 。 TMRAP は 、 Ontopia (Ontopia 社によって開発され、現在は、Ontopia. 永続的識別子の付与 まず、正倉院文書の歴史的経緯と構造を踏まえ、. project によって管理、開発、保守が行われている オープンソースのトピックマップ開発・運用ツー. 正倉院文書の現状と、奈良時代の「復原」状況で. ル) に含まれている Web サービスインターフェ. ある原状の構造の関係を記した。正倉院文書の現. ースで、HTTP と SOAP に対応している。これら. 状は、正集∼続々修といった所属―帙―巻―断簡. を用いることで、たとえ異なるトピックマップ上. (奈良時代の原状を残している紙の最小単位)―. にデータが存在していても、同一の主題に対して、 紙という階層構造を持っている。その階層構造の 表現を実現させた。また、原状の構造を帳簿(復 同じ主題識別子を利用していれば、TMRAP を利 用して、その主題についての情報を取得すること. 原された文書)―断簡―紙という構造をもって記. ができる。すなわち、デジタル・アーカイブをト. した。 そして、紙と断簡に PSI を付した。これにより. ピックマップとして構築しておけば、その間の連. 断簡 ID・紙 ID を URI で参照することで、正倉院. 携が可能になる。 (5) アーカイブを核とした知識の集積. 文書の史料情報を、別のデータベースで読み込み、. トピックマップは、PSI のおかげで、意味に基. 高度利用が可能な形式とし、正倉院文書デジタル. づいて主題の識別が可能であり、主題間の関係に. データのさらに高度な利用を可能とした。また、. そって、主題間をナビゲートすることができる。. 他の研究論文やデータベースから、個別の断簡へ. そして、主題に関係する情報オブジェクトへのリ. の永続的ポインタを示すことを可能にすることで、. ンクをもつため、あたかもサイバースペース上の. 正倉院文書トピックマップが研究資源として安定. 意味的なインデックスのような役割を果たすこと. 的に利用できるような仕組みを可能とした。. が可能である。さまざまな領域、文脈に合わせ、. ただし、正倉院文書の断簡は、今後の調査状況. 同一の情報オブジェクト群に対しても複数の視点. によって変更される可能性があるので、永続的な. からセマンティック・インデックスを作成できる。 識別子をどのように詳細に定義するかは今後の課 題である。 さらに、それらのインデックスに、関連知識・コ この資料の現状構造を基本とした典拠情報群が、. メント・評価・情報オブジェクト等への指示も随 時追加可能にすることで、デジタル・アーカイブ. 正倉院文書のトピックマップ全体の基礎情報とな. 内部の情報オブジェクトに加え、デジタル・アー. る。. カイブとは独立して存在するものを統合的・横断. (2)正倉院文書に関する研究知識情報の付与. 的に利用することが可能になる。つまり、あるデ. 基礎情報を付加した次のステップとして、正倉. ジタル・アーカイブを中核に、関連する知識の集. 院文書に関連する知識情報を整理し、主題化し、. 積が可能な環境が構築できる。それにより、デジ. 史料と結びつけた。. (c) Information Processing Society of Japan. - 127 -.

(4) The Computers and the Humanities Symposium, Nov.2012. 図 1 作成した正倉院文書トピックマップのオントロジ図 四角はトピック型を表し、四角の中の文字列はトピック型の名前を表す。 線は関連型を表し、線の中央付近の文字列は関連型の名前を表す 正倉院文書の中心は、奈良時代の写経機関(造. 知識情報の付加の第 2 ステップとして、奈良時. 東大寺司写経所)の帳簿である。また、近年の正. 代に存在したことが史料上明確な経典に関する情. 倉院文書研究の中心は、その写経所に関するもの. 報を既存の辞書類から抽出した。経典に関しては、. となっている[10]。そのような研究状況に対応す. それぞれに「作者」を付し、また、判明している. べく、写経所に関連する情報と人物に関連する情. ものについては、大正新脩大蔵経の番号を付した。. 報について記述することを、知識情報付与に関す. しかし、経典名だけで正倉院文書の中に出てく. る最初のステップとした。. る経典を記述することは困難であった。なぜなら、. 奈良時代の人名に関する情報のうち、正倉院文. コンテンツとして記載される経典名と、史料上で. 書に出てくるものを既存の辞書類から抽出した。. 出てくる実物とでは扱いが異なるためである。そ. そのうえで、既存の日本史の研究成果に基づき. こで、経典名と、実際に史料中に出てくる「モ. [11]、筆者らが人名に対し、身分と、役職、そし. ノ」としての経典を関連付けた。これは書名と実. て居所について関係づけを行った。. 体としての書籍の関係として理解できる。. そして、これらの人名が出てくる正倉院文書の 基礎構造である「紙」と関連づけた。これにより、 正倉院文書に記述された人についての典拠情報が. 5.正倉院文書トピックマップの有用性 正倉院文書トピックマップ(第 1 版)では、具. 明示される。単純に人名を文字列で検索するだけ でなく、同一人物で別名や、略称などを同時に発 見できる。また、同一役職の人物を同時に発見し、. 体的に以下のような歴史学に対する有用性が期待 されている。 (1)正倉院文書の人名と経典名の結びつけ. 原史料にあたることができるようになり、セマン. 写経所において、ある人物が、特異な経典に関. ティックな検索を実現できるようになる。. わっていたことがあるのかなど、通常の検索モデ ルだけではわからないセマンティックな情報の発. (c) Information Processing Society of Japan. - 128 -.

(5) 「人文科学とコンピュータシンポジウム」 2012年11月 見が期待できる。. 像を見えにくくし、研究を困難にしてきた背景が. たとえば図 2 は、作成したトピックマップをも. ある。それを解決したのが SOMODA であった。. とに奈良時代のある時点での経典注釈書である疏. しかし、SOMODA は、一つの帳簿を復原し、そ. の保持者とその所在地の関係を Visualize したも. の帳簿の状況を概観するのは優位であるものの、. のである。これにより、ある僧が持っていた注釈. 特定のキーワードとそれに関係する帳簿を横断的. 書群がどのようなものか、また、その注釈書の作. に複数見るなどには向かない点があった。正倉院. 者に偏りがあるのかなどがわかる。. 文書トピックマップでは、それらの問題点を解決. また、史料上判明した僧の居所についてもトピ. することが期待できる。. ックマップに入っているので、これにより、寺院. 特定の経典が、ある特殊な帳簿に出てくる可能. -経典-僧の関係性を、経典の所持という観点から. 性があるのか、また、ある人名の集団が、特定の. 明らかにできる可能性がある。. 帳簿に出てくるなどの傾向があるのかの分析は、. さらに、時間情報を入れておくことで、その経. 奈良時代の実態に迫ると同時に、当時の帳簿の記. 典類が時間の変遷とともに保持者が変わるのか、. 述形式や手法といった、正倉院文書の史料論に結. 所在場所が変わるのかなどの情報を得ることがで. び付けられる。. きる。上記の情報や研究をもととした古代国家の. たとえば、造東大寺司写経所には、東堂・西堂、. 仏教編成などについて、中林隆之氏が継続的に研. もしくは北堂・南堂といった二つの堂舎によって. 究を行っており[12][13]、その研究の支援へとつ. 作業が行われていたことが指摘されている。しか. ながることも期待できる。. し、その詳細は必ずしもわかっているとはいいが. (2)帳簿と経典・人名の結びつけ. たい。帳簿ごとに人名集団の傾向が判明すれば、. 正倉院文書は、その歴史的経緯から、大変複雑. このような実態の研究に迫ることが可能になると. な構造を持っており、それが、正倉院文書の全体. 考えられる。. 図 2 僧名を基礎に経典と資料 ID の関連付けを Visualize したもの. (c) Information Processing Society of Japan. - 129 -.

(6) The Computers and the Humanities Symposium, Nov.2012 マップにも、その課題はあてはまるものと考える。 (3)人名同士の結びつけ. 正倉院文書という、ある種史料的に「閉じた」世. また、人名同士や、役職同士である特定のつな. 界を記述することを試みたとしても、これほどの. がりがあるのかなどを分析することが可能となる。 広がりがある。 これにより、今までは漠として指摘されていた、 正倉院文書の記述の中心である造東大寺司写経所. このような状況にどのように対応するのか、今 後の課題といえよう。. の人間関係などがわかる可能性がある。写経に従. (2)適切なトピックの設定. 事する時期の差や、作業状況なども、人名をセマ. 第一段階では、人名・経典名といった史料に即. ンティックに分析することで可能となる部分もあ. した情報を入力しているが、トピックマップの本. るであろう。また、栄原永遠男氏が行った、月借. 来の目的にそうならば、より抽象的な研究知識情. 銭解に関する、人間関係の分析なども、より精密. 報を入力することが求められる。このトピックの. に検討できる可能性を秘めている。. 設定が正倉院文書研究にどこまで即しているのか を常に考慮しておく必要がある。. このように、正倉院文書トピックマップ第 1 版. トピックマップの構築は、いわば、正倉院文書. として、経典と人名に関する情報を入れただけで. 研究の、現時点での到達点を、デジタルで記述す. も相当の人文科学研究への貢献が期待できる。. ることを目指している。研究史を適切に描くため. 将来的な正倉院文書トピックマップでは、これ 以外にも、多くの研究知識情報と正倉院文書の史. の工夫と、研究実態に即したトピックの設定が重 要になる。. 料そのものを有機的に結び付け、正倉院文書研究. 次の段階として、正倉院文書の研究書に付され. に関する知識情報の到達点を情報学的に提示する. た索引を二次利用させていただく許諾を得ており、. と同時に、次のステップへと役立てることを目指. それを応用することを次の構想としている。. したい。. (3)PSI の課題 SOMODA のときからの継続的課題ではあるの. 6.課題. だが、正倉院文書の断簡は現在も原本調査が続い. 本研究で作成しているデータベースは緒につい たばかりであり、以下のような課題がある。. ており、いまだに、確定した情報を持っているわ けではない。SOMODA は、仮想的・実験的にそ. (1)複雑な時間遷移の処理. の断簡を設定し、復原することを目指したデータ. 正倉院文書は奈良時代という比較的短い期間の. ベースであった。それゆえ、現在でも確定してい. 文書群ではあるが、時間的な変化はあり、かつ、. ない断簡を処理するのは、いわば「当然」であり、. その時間的変化のなかでオントロジの構造が変わ. 問題はなかった。. る。. しかし、正倉院文書トピックマップは、帳簿の. たとえば、人名に関しては、役職が変わること. 構造をオントロジで示すため、また、研究情報の. もあり、内部での昇進なども行われている。経典. 横断的提供のため、断簡を永続的識別子として定. に関しても、時間的な変遷とともに場所を移動す. 義する必要がある。この段階で、再度断簡の未確. るのが一般的である。. 定問題にあたることになってしまう。. この変化をどのように処理していくかは今後の. 断簡の情報を、正倉院文書研究の側で仮に共通. 課題である。また、正倉院文書の記述内容そのも. で呼称する何らかの工夫が必要になるであろう。. のは、奈良時代のものだが、その後の複雑な史料. この点は、正倉院文書研究者と、データベース構. 構造の変化まで含める場合には、江戸時代や明治. 築側の適切な対話が必要となる。. 時代まで考慮の対象とする必要がある。 オントロジにおける、適切なドメインの設定の. 7.展望. 重要性はいくつか指摘されているが、本トピック. 今後は以下のような展望を描いている。. (c) Information Processing Society of Japan. - 130 -.

(7) 「人文科学とコンピュータシンポジウム」 2012年11月 (1)オントロジの拡張. で、この課題が解決できるのではないだろうか。. 前章の課題でも述べたが、研究情報をより効果. たとえば、正倉院文書に出てくる経典名から、実. 的に表現することを目指している。役職を構造化. 際の経典テキストへのリンクを作成する、もしく. し、人物の関係を効果的に表現する、経典の教義. は、経典データベースから、該当する正倉院文書. 関係を整理し、経典の構造を描くなどを第一段階. の帳簿・断簡へリンクを作成することで仏教研究. として、より抽象的な研究知識情報の構築を目指. 者の正倉院文書へのルートが確保できる。 (3)他の正倉院文書のリソースへのリンク. す。. 本稿執筆現在、Web 上における正倉院文書のデ. (2)他史料とのリンク 正倉院文書の時代は、奈良時代である。この同. ジタルデータの提供は SOMODA のみである。し. 時代史料として、『続日本紀』や木簡などがある。 かし、1 章で述べたとおり、いくつかの正倉院文 これらの史料との関係を構築することで、奈良時. 書に関連する機関において、正倉院文書の高度情. 代の全体像をデジタルで記述することも可能とな. 報化に関する検討が行われている。今後、これら. るであろう。. の成果がリソースとして公開されるならば、それ. 『続日本紀』については、現在、時空間情報を. らのリソースとのリンクを作成することで、正倉. 持つ記述を抽出し、Hutime(京都大学地域研究統. 院文書の総体的なデジタルデータの提供が可能と. 合情報センターが中心となっている HGIS 研究会. なると考えられる。. によって開発された時空間分析ツール)への適用 を試みるなどの動きを進めると同時に、TEI への. 正倉院文書トピックマップは、情報技術や Web. 適用実験を試みている[13]。この試みは、『続日. の研究動向にあわせた新しい人文情報研究の形を. 本紀』をテキストとしてだけではなく、多様なか. 目指したものであるといえる。. たちで、かつ他のデジタル・アーカイブとの横断 的に利用できることを目指している。正倉院文書. 8.人文情報学との接続に向けて. トピックマップとの連携によって、奈良時代の全. 正倉院文書トピックマップは、正倉院文書の研. 体像を、より具体的に描くことが可能となるであ. 究の方法論をデジタルで記述することを試みた. ろう。. SOMODA の 発 展 形 と し て 位 置 づ け ら れ る 。. また、正倉院文書研究の側からは、とかく「閉. SOMODA は、正倉院文書の復原過程を中心に記. じた」世界として批判されやすい正倉院文書研究. 述したが、正倉院文書トピックマップは、そこか. を奈良時代全体の研究と接続させることで、研究. らさらに研究資料の知識情報もあわせて記述する. のステップをもう一段階先に進めることができる. ことを目指した。 正倉院文書の研究課題の解決や、総体的な研究、. と考えられる。 さらに、将来的には、木簡データベースなどと. そして、研究資源の提供という意味において、人. の接続が可能となれば、データベースによる奈良. 文情報学的な貢献が可能となるのではないかと考. 時代史研究への道筋が描ける可能性もあるであろ. える。 また、奈良時代史を研究する際の、情報のポー. う。 また、正倉院文書に多く出てくる経典に関する. タルであり、ハブとして正倉院文書トピックマッ. データベースとの接続も目指したい。正倉院文書. プが位置付けられることを目指している。日本史. 研究は、日本史学と国文学が多く中心を占めてい. における史料デジタル・アーカイブはいまだに散. て、仏教学の立場からの研究は決して多いとはい. 在しているが、それを時代ごとにまとめて「見. えない。これは、正倉院文書の複雑さもさること. る」手法の一提案としても正倉院文書トピックマ. ながら、正倉院文書の経典情報が、学的につなが. ップを位置づけることができる。史料そのものの. っていない部分があるのではないかと考える。そ. データベースは各館で持ちつつも、ポータルを外. こで、経典に関するデータベースと接続すること. 部に作る手法である。長期的には、奈良時代の知. (c) Information Processing Society of Japan. - 131 -.

(8) The Computers and the Humanities Symposium, Nov.2012 識情報全体を覆う辞書として、発展することを最. [14] 後藤真「HuTime/Map の日本史研究への応用の試 み―続日本紀を題材に―」HGIS研究会編. 終形としている。. 『HuTime/Map を使った研究事例と将来展望』報. 日本史学は、属性の異なる資料をメタ、かつ横. 告書、2012年. 断的に見て分析を行うという研究手法の特徴があ る。その研究手法の特性により、データベースの 効果的な応用が隣接他分野に比して進みにくいと. 本研究はJSPS科研費 22520659, 24242025の助成を受 けたものである。. いう側面がある。正倉院文書トピックマップがそ の課題を効果的に解決する一つの手法となれれば 幸いである。. 参考文献 [1] 後藤真 柴山守「正倉院文書研究資料の XML/XSLT による記述と統合」『人文科学とコンピュータシン ポジウム 2002』pp209-216、2002 年 [2] 後藤真 柴山守「正倉院文書データベースにおける 検索と人文科学的研究成果との連携、『人文科学と コンピ ュータシンポ ジウム. 2005』 pp209-216、. 2005 年 [3] http://somoda.media.osaka-cu.ac.jp, 正倉院文書データ ベース(SOMODA) [4] 東京大学史料編纂所特定共同研究「古代史料の研究 資源化」「正倉院文書に関する史料学情報の研究資 源化連携」 [5] 人間文化研究機構連携研究「「人間文化資源」の総 合的研究」国立歴史民俗博物館「正倉院文書の高度 情報化研究」 [6] 小口雅史「日本古代史研究のためのオンライン・デ ータベース」『日本歴史』740 号、pp9-15、2010 年 [7] 後藤真「デジタル技術による歴史情報の可視化の試 み―奈良時代知識データベース構築試論―」栄原永 遠男編『日本古代の王権と社会』、pp343−360、 2010 年 [8] 内藤求編著『トピックマップ入門』東京電機大学出 版局、2006 年 [9] http://www.ontopia.net/topicmaps/tmrap.html TMRAP : Topic Maps Remote Access Protocol,Ontopia. [10] 栄原永遠男『奈良時代の写経と内裏』塙書房、 2000年 [11] 山下有美『正倉院文書と写経所の研究』吉川弘文 館、1999年 [12] 中林隆之「東アジア<政治−宗教>世界の形成と 日本古代国家」『歴史学研究』885号、2011年 [13] 科学研究費基盤研究(C)「経典目録よりみた古 代国家の宗教編成策に関する多面的研究」研究代表 者:中林隆之. (c) Information Processing Society of Japan. - 132 -.

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