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京都精華大学のマンガ学部は 2006 年に日本初のマンガ学部として設立された。2013 年度現 在、マンガ学科(ストーリーマンガ、カートゥーン)、アニメーション学科、マンガプロデュー ス学科(マンガプロデュース1、ギャグマンガ、キャラクターデザイン)の 3 学科、6 専攻で、 約 870 名の学生が学んでいる。同学部の目標には、国際的に活躍できる「次世代の表現者」を 育てることが示されているが2、高い実技能力が磨かれる一方、必修科目である英語を苦手と する表現者の卵が少なくない。 同学部の学生を対象とする「マンガ専門英語」は、(1) 海外や異文化への興味を高め、視野 を広げる、(2) コミュニケーションの場として機能させる、(3) 英語運用能力の向上の 3 つを目 的とし、2011 年度より新体制で運営されている。その内容は、1 年次には EGP (English for General Purposes:一般目的の英語 ) 、2 年次には ESP(English for Specifi c Purposes:特定の 目的のための英語)と大別される。1 年次の授業は、入学後に受験する G-TELP スコアに基づ きレベル別に編成された 8 クラスを日本人講師と外国人講師がペアになり、週 1 回ずつ通年担 当する3。2 年次の授業は、前期は必修科目としてテーマ別に 6 クラス、後期は選択科目とし て 1 クラス、それぞれ週 2 回開講されている4。シラバス作成や教材選定は担当者の裁量で行う。 本稿では、3 名の担当者によるマンガ専門英語における英語とマンガによる表現の実践に焦 点を当て、それぞれの取り組み、意義や課題を考察する。リッチモンドは 1 年次対象の英会話 の授業でのマンガ制作について、続いて乾が1年次対象の英文法の授業でのマンガ制作、そし て渡辺が 2 年次対象の ESP 的な実践としてのマンガ紙芝居制作について取り上げる。

英語とマンガで表現する

―― マンガ専門英語の取り組み ――

リッチモンド・スティーブン 

RICHMOND Stephen

乾 由紀子 

INUI Yukiko

渡辺 紀子 

WATANABE Noriko

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1.英会話のプラグマティック能力を

  育成するためのマンガ制作

1.1 はじめに リッチモンドは、2011 年度より 1 年次対象の「マンガ専門英語」の英会話の授業を担当し ている。自らの専門の応用言語学の知見および日本において英語教育に 10 年間携わった経験 を生かした授業を行っている。ここでは、英会話学習にマンガ制作のアクティビティを取り入 れる試みに焦点を当て、その授業実践と評価方法を報告し、意義と課題について考察する。 日本の高等教育における英会話の授業は、ネイティブ・スピーカーが担当することが多く、 語彙や文法学習よりもフレーズや会話表現を実際に口に出して練習することを重視したシラバ スが少なくない。しかし、定着した教授法には、会話能力(コミュニケーション能力)の育成 を妨げるいくつかの問題がある。この問題は次の二つに分けて捉えることができる。 一つめは言語・文化が要因となっているものである。応用言語学では、近年「プラグマティッ クス」の研究が盛んになっている。Canale and Swain によれば、「プラグマティック能力」とは、 場面に応じて、言語単位の意味、そして形を適切に使用することと定義される5。文型、フレー ズ、語彙、発音、イントネーション、聴解能力も大切であるが、それだけではない。会話の構 成、つまり、話題の選択、発言の順序、沈黙の有無、発言の長さ等を総合的に含めたものであ る。また、英語と日本語の会話の構造(沈黙の有無・長さ、相槌の使用、礼儀正しさ等)の差 異がプラグマティックスの研究者によって多く指摘された6。そうすると、教授法や文化によっ て教室内の「当たり前」な行動が違ってくる。担当講師がネイティブの英語話者であれば、教 室行動も日本の習慣的なものと多少異なることがよくある。 二つめの問題は教室管理上の問題である。受講生の数が多く、学習者が有意義なフェイスタ イム(講師と学習者、または学習者同士で対面コミュニケーションを行う時間)を充分に取れ ない場合がある。また、話すことが主な目的である授業にもかかわらず、最終的な評価方法は 筆記試験という場合もある。 対面コミュニケーションが第二言語教授法においてもっと中心的な存在であるべきだとする 「コミュニカティブ言語教育」が Bachman の構想以後、応用言語学に大きな影響を及ぼした。 だが、日本人学習者のニーズに応じた普遍的教授法は確立されていない。 一方、実際の教室で行われる会話授業の主な目的は、日常会話で話される言語単位の意味を 聞き取る能力(リスニング)と、場面や文脈に相応しい発言や反応をすること(スピーキング) である。挨拶を交わす、頼み事をする、アドバイスを提供する、指示をする、といったスピー チ・アクトに基づいたシラバスが多い。このようなシラバスでは、インプットは会話の例文(教

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科書にあるものかオーディオ)であり、アウトプットは口頭でのロールプレイやリスニング教 材の穴埋め問題に限られる。また、試験は口頭で行われることが多いが、学期末に限られるこ とが多い。普段の授業で学習者のコミュニケーション能力の上達を確認できるシステムが必要 と思われる。 日本人学習者のほとんどは、日常的なメディアの一つとしてマンガというものに非常に慣れ ている。言葉と絵の関係、擬音語や擬態語の使用、表情やジェスチャーの意味を高いレベルで 認識することができる。つまり、マンガにおける表現は言語以外の性格を豊かに含み、プラグ マティック能力と深い関係がある。そのような仮定のもと、英会話学習にマンガ制作のアクティ ビティを取り入れている。 近年まで、第二言語教育においてマンガを授業で使用した場合のほとんどは読解を目的とし たものであった7。これに対し、マンガを「制作」することによって、第二言語の会話運用が 必要とするスキルの習得度を確認することができる点に注目したい。マンガに現れる言語の大 部分が口頭言語である。したがって、英語で会話が行われるマンガ制作を第二言語学習者の課 題にすれば、プラグマティック能力の習得が確認でき、マンガはコミュニカティブ言語教育の 評価法として貢献できるだろう。 1.2 英会話学習におけるマンガ制作の導入 現在、本学のマンガ学部を含む京都府内にある 3 つの私立大学の第二言語教育(英語)の授 業の評価にマンガ制作を含めている。大学間で学習者の年齢や第二言語能力においてほぼ差異 はないが、本学のマンガ学部は当然、プロの漫画家を目指す学生が少なくないため、他の二つ の大学の学習者よりマンガの技術が高いがここでは絵の上手さは評価されない。 授業は週一回行われ、時間は 90 分である。一クラスの人数は 20 名から 28 名までで他大学 と比べると、やや少人数である。英会話の授業の一環として、学生は頻繁に講師との会話テス トを受ける。毎週各学生にテストを受けさせることが言語能力の上達や動機づけに望ましいが、 時間に限りがあるため、一週間おきにテストを実施している。つまり、一回の授業ではクラス の登録者の半分(約 10 名∼ 15 名)がテストを受ける。講師がテストを実施している間、残り の半分の学生はペアで会話を練習したり、マンガを制作したりしている。次回の授業では、テ ストを受ける学生と自習する学生を入れ替え、これを繰り返す。 会話テストの内容はその日の授業で学習した口頭英語文型、慣用句、そして語彙である。テ ストは自由な会話形式で行われる。学生1人(場合によって 2 人)が講師と 3 から 5 分間、自 由に会話をし , 言語運用を評価する。毎回の評価の合計は学期全体の評価の半分を占める。 マンガ制作の課題は、会話テストと同様の意図と目的で課している。授業中に教える文型、

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慣用句、語彙をマンガに使用し、それぞれの意味や発話的な役割を理解していることを証明す るのである。 評価方法に関しては、無論、学習者の間で絵心に差があるのだが、マンガのスキル自体は評 価の対象にしないことを学習者に説明する。会話テストと同様に、文法・語彙・フレーズを 5 点満点、会話の構造(質問に十分に答えているか、自ら発話しているかなど)を 5 点満点とし、 合計 10 点で評価する。学期中に授業が 15 回あるとすれば、各学生が会話テストを 7 回受け、 マンガ課題を 7 回提出するというスケジュールになる。対面コミュニケーションが苦手な学習 者であっても、会話テストとマンガ課題の比重が同量であり、これによって挽回の機会が与え られていることが大切である。 1.3 実践例 ここでは、学習者がどのようにコミュニケーション・ストラテジーをマンガで発揮している かを例として紹介する。会話の文脈がないと意味がわからないマンガ作品が多くみられ、学生 がどのぐらいプラグマティック・スキルの応用を理解しているかが明らかになる。以下の例の すべては、学生が学習したフレーズをマンガのなかで使用したものである。 6;-73)2,QH Y  E J`L 1. 61#" Hi, How are you? / What’s up? / How’s it going?

/ Nice talking to you. 0

A 2. ,! +5 Oh really? / That’s great ! / That’s

interesting ! / Are you serious? / Sounds good. / You too ! / That’s too bad. 0

A, B

3. +52 8  7$ 

Sorry? / Pardon (me)? / Excuse me? / What do you mean? 0

B

4<6 To change the subject,.. / By the way… 0 - 5<,! 4 How was it? / Do you agree with me? / And

you? / How about you? 0

B

6<'(3 Why is that? / But why? 0 A 7. 6 Can I ask a personal question? 0 C 8. . 4 I’m not sure. / I haven’t decided yet. 0 C

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図 1- 2 学生によるマンガ例 A

図 1- 3 学生によるマンガ例 B

A : Hi, How’s it going recently? , (会 話を始める), 理由を聞く B : Actually, I’m really busy and have a hard time.

A : Oh, really? ( 相手の発言に反応 ) Why are you so busy? Do you have a part-time job at the moment?

B : Yes, I work at French restaurant as a waiter.

A : How nice! ( 相手の発言に反応 )  「以下省略」

A : What do you spend your money on?

B : I spend all of it on clothes. A : How much do you spend on it? B : I guess I spend about 20000 yen. A : Pardon? ( 繰り返してもらう ) B : About 20000 yen. How about you? ( 相手の意見を問う ),

A : About 1000 yen. A : That’s incredible!

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1.4 意義と課題

Ishihara and Cohen は、第二言語教育におけるプラグマティックスの意識向上の必要性を訴 え、いくつかの 教授法を提案している8。そのひとつは、セリフの脚本を書くこと等を通して 口頭言語を記述することにより、学習者にインターアクション(会話のやり取り)の仕方を「ス トラテジー」(戦略)として覚えさせることである。今回のマンガ制作の試みは、同じような 意図で構想したのだが、脚本の代わりにマンガを書いてもらうことにした。 習得した言語単位や能力(プラグマティック能力を含む)を自発的に使うことが会話能力の 発達に欠かせないことは数多くの例で実証されている。マンガをつくることによって、会話の 「流れ」の大切さに気付くことができる。というのも、会話の流れである「文脈」がなければ、 学習者は意味のない言語単位を覚えたり並べたりするしかなく、学習効果は低くなると考えら れるからである。 昨今では第二言語で会話をするどころか、母国語の日本語ですら対面コミュニケーションを とることができない大学生が年々増えていると指摘されている。マンガ学部では、積極的に英 会話に参加する学生が少ないことが講座開講後すぐに分かった。口頭テストで学習者を評価す れば実際の会話でどれだけプラグマティック能力を発揮できるかが明らになるが、どの言語で も対面コミュニケーションをとることができない学習者にとって、それは言語の理解度を証明 する機会とはならない。このような場合、学習者の理解を確認するために実際の会話を描いて 表現するマンガは口頭テストに次いで望ましいものと考えられる。

A : Can I ask a personal question? ( 礼儀正しく話す )

B : Sure.

A : Would you like to get married someday?

B : Yes, probably. I want to live with someone. How about you? ( 相手の意見を問う ) A : I haven’t decided yet. ( 不確定な意見を伝える )

What do you think is a good age to get married? B: I’m not sure.    「以下省略」

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第二言語会話教育において学習者にマンガ制作を課することには次のような利点があると思 われる。第一に、馴染みのあるメディアであるマンガを通して、学生が習得した会話能力を口 頭発表以外の手段で発表することができることが大きな利点である。また、会話の場面、参加 者などを自由に描き、自分の専門であるマンガを第二言語で表す楽しさを知ることもできる。 教室運用の面では、他の学生が口頭練習やテストを行いながら、明確なタスクに個人的に取り 組むことによって、授業の時間を有効にすることにつながる。 他方、この教授法の研究と開発をする中で、改善すべきところもいくつか確認できた。改善 が必要と思われる項目は以下の通りである。日本語を母国語とする学習者が自ら会話を構築す る場合、第二言語でのプラグマティック・ストラテジーを直接伝授しても、その英語には日本 語の影響が見られる。第二言語である英語の規範をマンガに正しく使用した場合でも、日本語 の会話構造のまま「直訳」していることがよくある。 また、学習者が親しみのある 3 から 4 コマの漫画のほとんどが新聞や雑誌にあるギャグマン ガである。その影響か、学生のマンガでは最後のコマに異外な展開や 「落ち」 という結末がよ く見られる。学生に対し、英語でギャグを描くのではなく、会話を構築し、ナラティブ(物語) や表情を使って日常世界における自然な会話を描くという目的を常に明確にしておく必要があ ると言えよう。 マンガの会話の終え方にはもうひとつ非常に興味深い傾向が見られた。日常英会話では、何 らかの結末が「やり取りがここで終わる」という合図(Nice talking to you…/ I’d better be going といったフレーズ等 ) を置くことで十分である。ところが、何らかの同意をすること(意 見を一致させること)が日本文化を背景とする学習者のマンガによく見られる。これは相手と の意見の齟齬を避けながら共通点を探ることがよくみられる日本語の会話の影響としか言いよ うがない。 こういった実例をみると、言語と文化がいかに深く絡み合っているかが改めて実感できる。 そこから、学習者が第二言語で総合的な会話力を伸ばすために、シラバスや教授法には何が必 要なのかが見えてくる。英語らしい会話の構成、話題の選択、発言の順序、沈黙の有無、発言 の長さ等を教えるのは容易ではない。しかし、学習者がそうしたプラグマティック・スキルを 習得しているかどうかはマンガによって確認できる。 もうひとつの課題は、信頼度の高い評価方法の開発である。第二言語の学習におけるプラグ マティック能力の測定法や評価法は十分に研究されていない。現在の評価法では総合的な印象 に惑わされて、プラグマティック・スキルを切り分けて細かく評価することを見過ごすおそれ もある。 マンガというメディアは第二言語教育だけではなく、母国語(英語、日本語)の授業でも教

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育者の注目を集めている。これまで、マンガを「読み解く」ことが第一言語のリテラシーをあ げるのに効果的であることが証明されてきた。今回の試みは、マンガを読み解くのではなく、 マンガを「描く」ことを中心としたものである。会話とは異なる自由な形式で学習者が習得し た能力を表現することができる。文法能力、コミュニカティブ能力、そしてその中にある英語 独特のプラグマティック・スキルを同時に育成する方法として、さらなる研究や開発を続ける 価値があると言えよう。

2.マンガ制作を通した英文法学習

2.1 はじめに 乾が 2011 年度から担当し始めた必修科目「マンガ専門英語」が今年 3 年目に入った。これ まで英語レベルの異なる 1、2 年生の様々なクラスを担当した結果、日常レベルの英語を運用 する上で重要な、中学校、高等学校で学習する基礎的な英文法や語彙が身についていない学生 が多いことがわかってきた。 2012 年度からの 1 年生のクラスでは、マンガ・アニメーション等の表現活動、海外旅行、 留学、日本にいる英語話者とのコミュニケーションのなかで、「誤りはあっても生活レベルの 英語を独力で理解し表現できる」ようになることを目標に、英語の基礎的事項の復習を第一の 目的として授業運営を行ってきた。実践的な外国人講師の授業に備え、乾のクラスでは中学校、 高等学校の英語の復習に重点を置き、文法と語彙の基礎力をつけるという方向で授業を進めて いる。 殆どの学生は入学試験で英語科目を受験する必要がなく、苦手意識も強い。また、講座の最 初に実施したアンケート調査では、学校での英語学習が好きではないと答えた学生が半数近く を占めた9。にもかかわらず英語は必修科目に位置づけられている。それでは、マンガ学部の 学生が最も自発的に取り組める英語学習法とは何か。答えのひとつは、多くの学生が慣れ親し んでいるマンガ制作そのものを組み入れることではないだろうか。特定の状況をシミュレート しながら行う言語学習法は効果が大きい。マンガはその格好の材料となり得る。  本章では、2012 年度に 1 年生の二つのクラスで行った、マンガ制作を通した英文法学習 について、その方法、実践例、意義と課題等を論じる。 2.2 英文法学習におけるマンガ制作の導入 2012 年度の授業では、テキストを使用した文法の復習に最初の約 60 分間を使い、残りの約 30 分間をマンガやアニメーションを使った学習にあてるよう努めた。例えば、英語教材専門

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の出版社が開発したマンガの読解、アニメーション映画を使用したリスニングや音読、休暇中 の出来事を主題とした簡単な英語によるマンガやカートゥーンの制作、他大学の外国人留学生 との絵はがき交換(自作の絵と英語による私信を入れる)等の試みである。 マンガ制作を導入した英文法学習の対象となったのは、1 年生のレベル別編成による全7つ のクラスのうち、上から 4 番目と 5 番目にあたるクラスの 29 名から 32 名の学生である10。 運用練習する学習テーマとして、「現在完了形」と「過去形」の時制の区別を取り上げた。 日本語に無い「完了形」は他の時制と比較して、理解し運用できるまでに困難を伴うと言われ る。二つの時制の使い分けは、学習者が自作のマンガのなかで使用の適切な状況を創出した場 合、習得しやすくなるのではないかと思われた。  前期 3 回、後期 4 回の授業をとおして合計 5 時間余りを費やした。授業外の時間にもマンガ の仕上げをし、授業日に提出することを課題とした。最初の 2 回の授業では、「現在完了形」 の時制の復習を目的とし、テキストの解説を読み、練習問題を解き、ペアで暗唱できる程度ま で会話練習を行った。以下に、前期第 3 回からの各回の授業ごとの学習内容を記す。 【前期】  第 3 回 (6 月 13 日)  所要時間:約 30 分 テキストを使い「現在完了形」と「過去形」の区別を目的とする 2 文ないし 4 文から成る対 話形式の 13 題の練習問題を解く(図 2-1)11。その後、同問題の対話文をセリフ集とし、この 中から、3 から 10 コマ程度のマンガに織り込む「現在完了形」と「過去形」のセリフを個々 の学生が選択する。学生は選択したセリフから独自のキャラクターとストーリーを考案し、マ ンガを制作し始めた。  なお、選択肢の対話をそのままマンガにしてもよいし、一部を切り取って別の対話の部分と 組み合わせてもよい。また、細部の語を状況に合わせて変えてもよい。途中でコマをつなぐた めにどうしても必要となってくる新たなセリフ部分は自身で作ることとした。 絵については、ほとんどの学生が描くことに抵抗を感じていないが、マンガプロデュースコー スのように絵を描くことに重点を置いていないコースもあるのでこの点に配慮し、幾何学的な 図形や「棒人間」などの単純な描線で表現するだけの絵でもよいとした。 図 2-1 マンガのセリフ集となった練習問題の部分

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【後期】 第 4 回 (9 月 26 日) 所要時間:約 30 分 前期に制作したマンガのセリフ部分の文法的な誤りを訂正しより良い表現を見つけるため に、グループワークを行った。「現在完了形」と「過去形」をはじめとし、他の目立った誤りに ついても話し合ってもらう目的で、次のように進めた。①から③は、授業前の講師による準備 段階である。 ①クラスの学生を 6 つに分け 5 人グループを作る。できるだけ選択している対話文が重なら ないよう講師があらかじめメンバーを構成する。 ②マンガから多数の学生がおかし易い誤りを拾い出し、そのコマに付箋を付ける。 ③拾い出した誤りを表にしてクラス全員で閲覧できるようにする(図 2-2)。表では、学生が 記した英語のセリフ(表中では‘Original English’)、マンガ全体の文脈から推測できるそ の日本語訳(‘Japanese’)、より良い表現(‘Better Expression’)の欄等を設けて整理し てある。 ④より良い表現の欄には、乾から提案する表現が前以て記載されている箇所と、★印が付い て空欄にしてある箇所の 2 種類がある。学生はリストにある所属グループのメンバーの誤 りに注目し、マンガを見ながら話し合い、導き出した表現を★印の箇所に書き込む。 ⑤グループごとに話し合いの結果を発表し、クラス全員で誤りについて考える時間をもつ。 第 5 回 (10 月 3 日) 所要時間:約 30 分 グループワークの結果発表を続行。 図 2 - 2 グループワークのための表

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第 6 回 (10 月 10 日) 所要時間:約 45 分 各グループ内で最も優れた作品を選ぶ。セリフの英語やストーリーのほかに、読みやすいか どうかという観点からも吟味してもらう。提出されたマンガは一般の日本のマンガの慣例に従 い、右から左へとコマを進めるものが多かったが、英語のマンガでは言語の性質上、左から右 へ読ませるものが一般的であることを、これまでに出版された英語マンガの諸例を使って紹介 した。 第 7 回 (10 月 17 日) 所要時間:約 60 分 各グループの代表者ふたりが最優秀作品を発表する。次のような発表の方法を取った。 ①ディスプレイに映した作品をクラス全員で見ながら、制作した本人によるセリフの音読を聞く。 ②同グループの別のメンバーが作品の良さをアピールする。英語についてだけでなく、ストー リー、読みやすさ、「落ち」や絵に関して優れている点、どこを直せばもっとおもしろく なるかといったところまで言及があった。 最後にマンガのセリフを再度点検し、絵に仕上げを施して翌週の授業で最終提出。 2.3 実践例 図 2-3 は学生たちが選んだ優秀作品の一例で、擬人化された猫が別の猫をハイキングに誘お うとして探すが、既にハイキングに出かけてしまっていたという話である。各段、右から左に 読む。この作品の残念なところはセリフに「過去形」が含まれていないことである。しかし、 それを差し引いても、短いやりとりのなかで絵やストーリーの全体が解り易く、印象深いもの である。図 2-3 と同様のリストを見ると、本作の第一回提出時には 3 コマ目のセリフが、 ‘Tomorrow is Hike! ( ママ ) I’m very exciting!!!’となっていたことがわかる。しかし、グルー

プワーク後の最終稿では‘Tomorrow, I am going on a Hike! ( ママ )’I’m very excited!!!’(「明 日はハイキング ! わくわくする∼ !!!」)と修正液を使用して正しい表現に改められている。 ま た、ドアの開く音を表す‘Bang!’や言いよどむときの‘Ah―…’、高笑いの‘HA HA HA HA’など、英語らしい日常表現の演出も見られ、これらは英語マンガの読解によるインプッ トの効果かと思われる。

図 2-4 の作品でも擬人化された猫が登場する。猫に向かって男が、‘Do you know the Japanese restaurant in Leeson Street?’ (「リースン通りにある日本食レストランを知っていま すか?」)と尋ねたところ、’The restaurant served a delicious meat dish’(「そのレストラン はおいしい肉料理を出したよ。」)と教えられ、早速その夜、友人とレストランに入ろうとして

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いる。しかし、読者にはそのレストランの入口に架かる‘Wildcat Eaves’(山猫軒)の看板がはっ きりと見えている。柔らかなタッチの絵だが、宮沢賢治の『注文の多い料理店』を連想して思 わずひやりとし、同時に笑いを誘う、落ちの冴えた作品である。 2.4 意義と課題 本章では、マンガ制作をとおした英文法学習のひとつの方法を紹介してきた。テキストを使 用するのみの学習時とは一転し、皆深く集中し作業していた。また、グループワークの時間に は、クラス全体が楽しく積極的な雰囲気になるのがわかった。 挙手で感想を聞くと、大半の学生が英語マンガに再び挑戦してみたいと意欲を示し、「会話 の中で文がどのように使われるのか良くわかる」、「好きな絵と英語を一緒に書くことができて 嬉しい」などの答えが返ってきた。マンガ制作と英語学習を同時に行うことは、学業と生活に おいて描くことが重要な意味を持つ大半のマンガ学部の学生にとって、英語を真の意味で運用 する格好の方法と思われる。学生の英語学習への意欲は高まり、個々の学生が自ら創りあげた 状況のなかで積極的に英語運用できる機会がそこにある。  但し、いくつかの方法上の問題点はある。例えば、学生がマンガで意図している英語セリフ の意味が不明瞭なため、講師が誤りをリストに整理したり、訂正したりするときに困難を感じ ることがあった。これについては、次回からは絵と別にして英語に日本語訳を付けたセリフ部

Tom : Let’s Hike ( ママ ) Tom : Hi! Ken!! Ken : Hi! Tom!

Tom : Tomorrow, I’m going on a Hike!( ママ )

I’m very excited!!! Where is Takeshi? Ken : Takeshi? Ah −… He’s already gone… Tom : Oh?!! Really?!!

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分を提出してもらい、点検後に絵とセリフを合わせるという手順を取るのがよいと考えている。  また、限られた時間内での、学生の多様なマンガ設定にふさわしい、正確で細やかな表現の 指導に困難を感じる場合もある。代替案として、英語の演劇脚本を使用しマンガを制作しても らったことがある。この方法では、英語を創造的に自力で運用するという特質は希薄になって しまい、ある文法事項を集中的に学習するという目的も果たされなくなってしまう反面、セリ フに関する問題は解消され、同時に読解力も伸ばすことができる。 他に困難な課題として評価の方法が挙げられる。英語に関しては、学習テーマになっている 部分とそれ以外に分別し評価している。描画に重点を置かないコースの学生等を除き、大半の 学生が描画によって英語学習の動機づけを得ている場合、絵をどのように評価すれば最も効果 的なのかについて配慮する必要があるだろう。 課題はいくつかあるが、マンガ制作を通じて学生がますます英語に親しみを感じられるよう 今後もこの試みを続けていきたい。 図 2-4 学生の作品例 2

男:Do you know the Japanese   restaurant in Leeson Street? 猫:Yes, I have eaten there a few   times. The restaurant served a delicious meat dish.

男:It’s very good! I will go there with a friend tonight.

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3. 表現者の卵たちによる Manga

Kamishibai

Production

3.1 はじめに

渡辺は、2011 年度より 2 年次対象の「マンガ専門英語 3」(前期)を試行錯誤で実践してきた。 1年目は基礎力アップ養成の授業を、2 年目以降はライティングの授業を担当しているが、と もに ESP と参加型の学習の観点による学びのデザインに努めてきた。それは、理工系の学生 対象の専門英語教育プロジェクトで ESP(English for Specifi c Purposes):特定目的の英語と参 加型の学習の効果を検証したためである12。 マンガ学部の学生たちは、理工系の学生たちと同様に日本の大学生には珍しく自らの興味と 専攻がほぼ一致し、専門意識をもつ傾向が見られる。他方、マンガ・アニメは「クール・ジャ パン」の旗手としてみられるようになったが、マンガを活用した一般目的の英語教材はあっても、 マンガ家やアニメーター対象の ESP の先行研究も実践も教材も存在しない。以下、そのような 状況下における ESP 的なマンガ専門英語の実践の試行錯誤を概観し、次にマンガ紙芝居制作の 実践に焦点を当てて紹介する。最後に、この授業実践の意義と課題について考察したい。 3.2 ESP 的な実践におけるマンガ紙芝居制作の導入 ESP の特徴の一つは学習者の「ニーズ」の把握と学習目的の明確化である13。ここでの「ニー ズ」(needs) とは、アンケート調査で提示される学習者の「望み」(wants)─「字幕無しで洋 画を楽しみたい」など─と区別される学習者が参加あるいは参加予定のコミュニティで求めら れる「ニーズ」である。そのコミュニティとは、職業や趣味など公共の目的を共有し、コミュ ニケーションを交わして活動を進める集団であり、そこでは特定のジャンルや語彙に基づく言 語が使用される14。 このような視点に立脚し、1 年目にマンガ学部の専門教員とのインタビューや学生たちとの ミーティングにより「ニーズ」を確認し、専門分野で必要な英語に焦点を当てて基礎力アップ を目指す授業をデザインした。だが、学生のレベルや興味や「望み」に合わないことが少なく なかった。この 3 年間を通して、英語ができれば「自分の作品を海外の人々に紹介できる」「海 外を舞台にした作品づくりに役立つ」といった意識が学生たちにあることがわかった。だが、 次世代的、潜在的な「ニーズ」を専門教員ではなく、英語教員が訴えても納得させるのは難し い。他方、見ていて面白いほど、言語のみの学習では学生たちの学習意欲は低下し、絵が描け るクリエイティブな学びとなると、意欲と活気はみるみる増す。 このため、2 年目からのライティングの授業では、ESP の観点から表現者に必要な自己紹介、

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キャラクター紹介、作品紹介に関わるジャンル (genre) の文書を簡潔な英語で書けるようになる ことを目指しつつ15、さまざまな工夫を加えている。その一例が大学図書館での「洋書 POP 展 & コンテスト」の開催である16。洋書17を一冊読んで POP をつくるが、作品のエッセンスは本 文からの英語の引用文で伝えることとしている。これは、物語の挿絵を描いてキャプションを 付ける練習と、この後の書評を書く準備になる。毎年一番盛り上がるのがマンガ紙芝居制作で ある。学生たちが「絵を描く」ことと「物語を創る」ことの少なくともどちらかを専門として いるからであろう。1∼ 2 年目には総仕上げとして数週間で実施していたが、3 年目には Manga Kamishibai Production として発展させ、前半にミニ紙芝居を作って英語による短編作品 の紹介(2 回)と創作キャラクターと物語の紹介に取り組んだ後、後半 7 週間を制作に費やし た18。

3.3 Manga Kamishibai Production の展開

マンガ紙芝居制作は、3 年目からライティング講座のコアに据え、制作プロジェクトの各プ ロセスで英語を実際に使いながら学ぶ活動を組み込み、どのような英語が自らの専門に必要な

図 3 -1 ミニ紙芝居と発表原稿より一部抜粋。

題材は O. Henry の「賢者の贈り物」。プレゼン後、絵にキャプション

を付けて提出する。あらすじ紹介のため現在形が使用されている。

The Christmas Presents

Della lives the poor little room in New York with her husband, Jim. The next day is Christmas.

(…)

She goes home and waits for him. He comes home. They exchange each presents but he doesn’t have his watch anymore because he sells it to get money for her present. They reconfirm each love. This was the story of two young people who were very much in love.

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のか実感できるようにしている。専攻の異なる学生たちがもつ専門スキルと知識も生かせられ るように、アニメーションフィルムの制作プロセスと文学から映画へのアダプテーション(翻案、 脚色)19のプロセスも参考にした。制作は、次の 6 つのプロセスに分けられる。

最初のプロセスは、企画とプロダクション・チーム編成である。マンガ紙芝居にする作品は、 英語学習者向けの Graded Readers の中から、音声 CD 付で演劇の脚本(play script)のジャン ルのものから選ぶようにしている20。候補作品の紹介文を英語で読んで、マンガ紙芝居にする 作品をクラス全体で選ぶ。このように英文を読む目的を明確に提示すると、学生たちは真剣に 英文に向かう21。作品決定後に、さまざまな専攻の学生から成る Act(幕)ごとのプロダクショ ン・チームを編成している。その他、キャラクターデザイナー(1 名)、ディレクター(2 名)、 プログラムの編集者(2 名)も決めるが、その道を目指す学生が立候補する傾向がみられる。 次に、物語のあらすじを把握して物語の設定を決める。この目的のために脚本を和訳せずに ざっくりと読んでクラス全体であらすじを確認する。それから、各グループで物語の設定の案 をまとめてクラスで発表し、ディレクターが皆と確認しながら作品の設定を決める22。 3 つ目のプロセスは、キャラクターデザインとストーリーボードの作成である。教材の巻末 などにある内容把握問題なども活用して、主な登場人物の性格や外見について想像力を膨らま せ、時には登場人物になりきってクラスでキャラクターデザインのアイディアや意見を出し合 う。それを参考にキャラクターデザイナーが自由に考案し、マンガ風のキャラクター案が発表 されると、クラス内に「かわいい!」「上手いなぁ」など感嘆の声が飛び交う。こうして 400 年 前に英国で書かれたシェイクスピア作品も「今に生きる」作品となっていく。 図 3-2 学生によるTwelfth Night(『十二夜』)のキャラクターデザインより

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同時に、チームごとに担当の Act の脚本を精読し、ストーリーボード(絵コンテ)の作成に も取りかかる。絵は、各シーンに付き 1 ∼ 2 枚までとし、チーム内でシーンごとの担当者を決 める。その後、クラス発表で担当者が交代で絵を見せながら英語で各シーンを簡潔に説明する。 4 つ目は、脚本の編集、絵の制作、音読練習、プログラム作成のプロセスである。これには 4 週間程度費やす。各チームでキャストを決めて音読練習を始め、絵の制作にも着手する。絵 の制作は宿題にしているが、授業中に互いの進行状況を確認し合う。ストーリーの解釈が分か れそうなところは、教材の内容把握問題も活用しながら全体で決める。脚本は 1 幕が 5 分程度 になるように編集し、ナレーションやト書きの部分は絵で表現するか、キャプションにするか、 セリフに変える。並行して作品紹介のプログラム作成にも取りかかる。編集者が構成を考え、 英語による個々のプロフィール文と各シーンのあらすじなどを集めて編集・製本する。 5 つ目は、映像化のプロセスである23。チームごとにリハーサル後、学内の音声録音スタジ オで音声を収録し、コンピュータで各シーンの絵をつなげて音声と統合させる。必要に応じて 英語で場面設定を示すキャプションを加え、余力があれば BGM や簡単なアニメーションの動 きも加える。それから、ディレクターがオープニングクレジットとエンディングタイトルのペー ジを追加して全幕をつなげて一つの作品として仕上げる。 最後に、作品の上映、合評と振り返り、ポートフォリオの作成を行う。作品鑑賞後、各チー ムの担当分について、全体の印象、構成、絵、声の演技について 5 段階で評価して総合評価を 出し、クラス全体で共有する。また、自らの制作プロセスも振り返って文章をまとめる(日本 語)。最終課題として提出する表現者としてのポートフォリオの中に、英語のプロフィールと ともに、それぞれが担当したシーンの絵に英語のキャプションを付けて提出する。 マンガ紙芝居の評価基準については、紙面の都合上、詳述は避けるが、個人とチームについ 図 3-3 音声録音機材を操る慣れた手つき 図 3-4 上映後に提出された、キャプション付の絵

“One face, one voice, the same clothes, but two people.” (Twelfth Night, Act V)

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て様々な観点から総合評価をしている。個人評価には、担当シーンの英文に照らし合わせて絵 が適切に描かれているか24、声の演技ができているか、英語でのシーン紹介文は適切か、表現 者のプロフィールとして書かれているか、自らの役割を積極的に果たしたか、チーム評価には、 担当者と学生たちによる作品の総合評価、制作過程の評価と学生による省察が含まれる。

3.4 意義と課題

ここで紹介した Manga Kamishibai Production は、英米文学作品を扱い、従来の教養英語教 育との境界を曖昧にする。演劇も日本の大学では英米文学の専門教育や英語教育の一環で取り 入れられている25。では、この実践は、表現者の卵たち対象の ESP 的な実践としてどのよう な意義と課題をもつのだろうか。以下、主として私の観察と省察、そして学生たちのフィード バック26から得た声をもとにまとめる。 まず、物語を視覚化して再構成すること、そして小説など異なるメディアの作品をマンガや アニメーションにアダプテーションすることは、制作の現場において行なわれていることが指 摘される。この制作プロセスをシミュレーション的に取り入れた、英語によるマンガ紙芝居制 作は、海外とのコラボレーションの機会に備えつつ、マンガとアニメのルーツである、娯楽メ ディアとしての紙芝居にも新たな息吹を与えていると言えよう。 また、このようなクリエイティブなプロジェクト型の学びは、マンガ学部の学生たちの創作 意欲を駆り立てる。2 年目に、「単に(英語を)読んだり書いたりするだけでなく、何かをつ くるのが僕たちには合っている」と受講動機を書いた受講生がいた。実際、学生たちは実に楽 しそうに、時にキャラクターや物語を批評しながら想像性・創造性を発揮して紙芝居制作に主 体的、意欲的に取り組んでいる。それには「物語のつくり手」としての学生たちの興味を引き 出す文学作品が重要な役割を果たしている。 加えて、さまざまな専門スキルをもつ学生たちが集い、協同して一つの作品をつくる実践の 場、「実践コミュニティ」ができることも指摘できる27。学生たち自身も、「みんなで意思疎通 できてとても協力的に取り組めた」「それぞれの強みが生かせた」「他学科の友だち増えた」と 振り返り、将来に備えるという観点からもその意義を認めている。結果的にチームワークによ りメンバー間の責任感と連帯意識が高まり、クラス全体の出席率アップにつながり、3 年目は ドロップアウトが皆無となった。遅刻欠席の目立つ学生や締切りを守れない学生も存在し、制 作の進行に響くなどの問題も発生しているが、それも今後に生きる経験となるだろう。 ESP では教材選択などの際に真正性 (authenticity) が重視されるが、マンガ紙芝居制作はホ ンモノの活動となっていることも指摘できる。既に学内外で何らかの業績を積みつつある表現 者の卵たちに対して、オーディエンスを意識させて制作に取り組ませて大学図書館内のホール

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で成果を学内限定で公開している28。制作プロセスでは、英語でのあらすじの把握やプロフィー ル作成のように「今、ここで必要」という状況も作り出し、どのような場面でどのような英語 が必要となるのか「気づき」を促すようにしている。その結果、半期終了時には「国内だけで なく海外へも自分を発信し、自分の活動範囲を広げる、自分の作品を海外の人にも理解できる ようにする」ことを目指すというほど意識の変化も現れている。そうでなくとも、「楽しそうだっ たから」「英語で文章を書く能力を身につけたい」といった理由で受講した学生たちのなかか ら「英語で作品を紹介できるようになった」、「プロフィールの書き方がとてもためになった」 など表現者の卵としてのコメントが出ている。 さらに、英語でいくつかの物語に触れることにより、物語のつくり手に必要な「教養」も培 えることが指摘できる。世界的なアニメーション監督の宮崎 駿氏は学生時代に数多くの児童 文学を読んだことで知られる29。これに対して私見であるが、学生たちの紡ぐ物語には、より 多くの人生経験と読書経験が必要性を覚える。学生たちのフィードバックでも、「英語の物語 をちゃんと理解できるようになりたい。そしてそれを表現できるようになりたい」「もっとい ろいろな洋書に手を出してみようと思った」という声があり、ESP 的な実践で文学作品を扱 うことの意義が認められる。「英語に対しての苦手意識が紙芝居のおかげで減らせた気がしま す」「英語がそんなに怖くなくなった」という学生の声が示すように、絵を描くことにより学 生たちは自らの英語学習の「足場がけ」(scaff olding) を互いにしているのである。 今後の課題もいくつか指摘しておきたい。紙芝居上映後、学生たちからは「皆がんばったん です‼楽しかった!達成感がすごいです!」「本当によかった。みんなすごかった」といった 高揚感溢れるフィードバックが返される。他方、絵の制作に時間とエネルギーを注ぐ一方、何 度注意しても音読練習が後回しになる傾向が顕著にみられる。声優志望ではない学生たちに とって音読は「専門外」であるが、英語学習の一環として外せない30。そもそも学生たちは日 本語でも人前で声を出すことに慣れていないのだ。3 年目に映像化した作品を客観的に観て初 めて「もっとうまくセリフを言えたらよかった」という声が出た。スケジュール的に難しいが、 早めに声の演技が作品の出来映えに影響を及ぼすことに気づかせる必要がある。 また、制作プロセスで自らの能力とスキルを発揮して「私は(映像の)編集作業が好きなん だなあと思いました」というアニメーション専攻の学生もいたが、絵の描けない学生や優れた 画力の持ち主たちの前で描くことをためらう学生も毎年 1 名はいる。別の役割を割り当ててい るが、誰も疎外感を覚えることなく、それぞれのもつ能力とスキルが発揮できるようにしたい。 ESP としてのライティング学習とマンガ紙芝居制作は相乗効果を生み出すが、どちらも不 十分に終わっていることも否めない。英語教員としては、大学で英語を必修で学ぶ最後の機会 にできるだけのことをしておきたいと欲張ってしまうが、学生たちからは例年「課題が多過ぎ

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る」「時間が足りない」「詰め込み過ぎ」といった声が少なくない。専攻にもよるが専門の課題 が多く、英語の課題は二の次とされる31。担当教員の経験、スキル、能力が問われるが、テク ニカル面や制作進行の手順など英語教員としてのキャパシティの限界を超えることも少なくな い。幸い、これまで表現者の卵たちと学内の有能なテクニカルスタッフの専門スキル、意欲、 好意に支えられてきた。できれば他の英語教員や専門教員の協力も得て、1年次と 2 年次の英 語の授業を、そして専門と英語の授業を連動させるなどして、この実践を進化発展させていき たい。

本稿では、マンガ専門英語における英語とマンガによる表現の実践に焦点を当て、担当者 3 名の取り組み、その意義や課題を考察してきた。 リッチモンドによる第 1 章では、英会話の授業で習得したプラグマティック能力、すなわち、 場面に応じた適切な英語運用能力を学生が発表する手段としてマンガ制作を用いる方法が論じ られた。 第 2 章では、乾が英文法の学習にマンガ制作を導入する方法について紹介した。ここでは、 学習者が特定の状況に置かれなければ習得が困難とされる文法事項を、マンガの創出によって 学生に内面化させる補助としての役割が明示された。 第 3 章で渡辺は、英文学作品に題材を得たマンガ紙芝居制作を取り上げている。物語の登場 人物や舞台を学生の自由な感性によって視覚的に再構築し、映像化して発表するプロセスにお いて、創作意欲をかき立てながら様々な目的や状況で英語を使用・学習する方法として示した。 マンガ学部におけるマンガ制作による英語学習の利点はさまざまであるが、最も注目すべき は英語に対し苦手意識をもち消極的な学生たちが、得意のマンガを表現手段とし、より自発的 に、積極的に英語運用できる機会を自らつくることができるという点である。このことは、英 語学習に対する新たな角度からの動機づけを促すものとして大きな意義を持つと言えよう。ま た、マンガと英語の二つの表現媒体を得た学生は、更にその活躍の場を広げられるだろう。 独自の物語設定や会話の運びによる場面に応じた適切な言語運用能力の育成――マンガ制作 が秘めるこの可能性は、マンガやアニメーション制作を専攻する学生向けの英語教育という枠 を超え、今後、広く母国語や第二言語の習得を志す学習者にとって有益な方法へとつながるだ ろう。この分野で教育実践と研究をともに発展させることが求められる。

(21)

1 マンガ作りに携わる編集者や原作者を育成するコース。   『履修のてびき 2010 マンガ学部』京都精華大学、京都精華大学「マンガ学部 3 つの方針」(http:// www.kyoto-seika.ac.jp/edu/manga/policy/)参照。 2 『履修のてびき 2010 マンガ学部』京都精華大学、京都精華大学「マンガ学部 3 つの方針」   (http://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/manga/policy/)参照。

3 G-TELP とは、‘General Tests of English Language Profi ciency’の通称で、アメリカカリフォル ニア州にある International Testing Service Center にて開発された、英語を母国語としない人た ち向けの実力テストである。測定・評価の対象となるのは、Grammar, Listening, Reading & Vocabulary の 3 分野で、受験者の能力に応じたレベルを選択できる。マンガ学部では最も易しい レベル4のテストを実施している。

4 2013 年度現在、前期は、基礎力アップ(3 クラス)、旅行英会話、ライティング、アメリカンコミッ クスを原文で読む、をテーマにした授業が、後期には海外生活をテーマにした授業が開講されて いる。

5 Canale, Michael, Swain, Merril (1980). “Theoretical bases of communicative approaches to second language teaching and testing”Applied Linguistics (1) p. 34

6 Ishihara, Noriko and Cohen, Andrew (2010) Teaching and Learning Pragmatics: Where Language and Culture Meet. Harlow: Pearson Education Limited. p. 23

7 古川昭夫 , 宮下 いづみ(2008)Manga で楽しく英語を学ぶ̶̶英訳コミックの読み方からおすす めブックガイドまで . 小学館、Davis Randall S. (1997) Comics: A Multi-dimensional Teaching Aid in Integrated-skills Classes in Studies in Social Sciences and Humanities. Nagoya: Nagoya City University などがある

8 Ishihara and Cohen (2010), p. 171

9 2012 年 4 月に乾が実施した 1 年生へのアンケート調査では、「学校での英語の授業をどのように思っ ていましたか?」という問いに対し、「好きではない」と答えた学生の割合は、クラス 1(4) で 42.8%、1(5) で 46.4%と高い数値を示した。この事項における他の回答の選択肢とクラス別の割合 は以下のとおりである。「好きなところもあった」1(4)50.0%、1(5)39.2%、「わりに好きであった」 1(4)7.1%、1(5)10.7%、「とても好きだった」1(4)0%、1(5)3.5%。 10 入学直後の 4 月に受験した G-TELP のスコアは、4 番目のクラス 1(4) が平均 146.9、最低 140 から 最高 155 まで、5 番目のクラス 1(5) が平均 131.7、 125 から 140 までである。

11 使用したテキストと箇所は以下のとおり。Raymond Murphy (2007) Essential Grammar in Use, 3rd ed. Cambridge, Cambridge University Press, Additional exercises 20 および 21, p. 261.

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12 詳細は、渡辺紀子(2009)「迷える子羊からコミュニティの参加者へ」福井希一・野口ジュディー・ 渡辺紀子編著『ESP 的バイリンガルを目指して̶̶大学英語教育の再定義』大阪大学出版会、pp. 180-197.

13 Tony Dudley-Evans & Maggie Jo St. John (1998) Developments in English for Specifi c Purposes: A Multi-Disciplinary Approach, Cambridge: Cambridge University Press.

14 John M. Swales (1990) Genre Analysis: English in Academic and Research Settings, Cambridge: Cambridge University Press.

15 話し言葉の台詞を「書く」ことは母国語でも容易ではなく、翻訳者の仕事なので優先していない。 16 同館のサイトでも告知させて頂いている。この催しは、洋書の貸出しの増加に貢献しているという。 17 英語学習者向けの Graded Readers を使用。自らの興味とレベルに合わせて学生が選択する。 18 2013 年度は、Bookworms Club Silver: Stories for Reading Circles (Oxford University Press) を使用。 19 米谷郁子編著(2011)『今を生きるシェイクスピア――アダプテーションと文化理解からの入門』

研究社 .

20 特にシェイクスピア作品が、学習者向けの音声付きの演劇用の脚本が充実、物語が紙芝居向き、 同作品の映画化や英語圏の出版社によるマンガ化などとも比較可能、といった理由で適切と考え る。

21 1 年目はシェイクスピアのRomeo and Juliet とシャーロック・ホームズの冒険シリーズより短編 の‘The Red-Headed League’(以上、Oxford Bookworms)、2 年目は Arnold Parker のFrog and Toad are Friends(Harper Collins)、3 年 目 に は シ ェ イ ク ス ピ ア のTwelfth Night (Black Cat

Publishing) が選ばれた。

22 これを全て英語で行うことが望ましいが、今のところは日本語で話し合っている。

23 1 ∼ 2 年目はライブで紙芝居上演をしていたが、3 年目から映像化して再生が可能となった。 24 英文の理解度は絵の細部に現れる。例えば、fall in love と be in love の区別ができず、『十二夜』

で Orsino 公爵の恋煩いの様子が描かれた場面が「恋に落ちる」場面を描く絵になっていた。 25 代表的な例として、60 年の歴史を有する同志社女子大学の Shakespeare Production があげられる。 26 授業初回時のミーティングとアンケート(受講動機、目標、ニーズなどについて確認)、グループ での中間評価・ふりかえり、グループプレゼン後のふりかえり(3 回)、作品鑑賞後のふりかえり、 最終課題のポートフォリオに含まれたふりかえりシート(目標、ニーズなどの再確認)、大学実施 のアンケートに基づく。

27 Jean Lave & Etienne Wenger (1991) Situated Learning: Legitimate Peripheral Participation, New York: Cambridge University Press.

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方々に限られる。次年度に同館内のディスプレイで音声無しでキャプション付の作品を1週間ほ ど上映している。 29 宮崎 駿(2011)『本へのとびら――岩波少年文庫を語る』 岩波新書 30 音読練習により身体を通して話し言葉の英語のリズムを体得する機会となるからである。 31 アルバイトなどで睡眠不足の学生もいるが、専門の課題をこなすため睡眠時間 3 時間という学生 もいる。

図 1-1 学生が制作したマンガに見られるプラグマティック・ストラテジーの表

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