平成 29 年度国土交通白書 有識者インタビュー(村上由美子様) 国土交通省 総合政策局政策課 政策調査室 平成29年度国土交通白書をお読みになられた率直なご感想をお聞かせください。 とてもよくまとまっていると思います。いろんな分野が網羅されているので、大変 な労力と時間がかかったのではないかと思います。 「大きく変化する社会」「日本でどのような新しいことが起こっているか」という ことをテーマでお考えになったということですが、こういった内容は、世界がまさに 知りたいと思っていることです。ですので、こういうことを海外に発信すると、とて も面白いと思ってもらえるのではないかと思います。日本で現状起こっているような ことは、様々な国で近い将来起こると予想されますので、それを上手に発信し、「ベ ストプラクティスの共有」を行うと面白いのではないかと思います。 あと第一章の現状分析で国民に伝えるメッセージについては、私はかなりポジティ ブにしていいと思っています。ただ、今回の白書を読む限りでは、そういったポジテ ィブなメッセージはあまり伝わってきませんでした。人口減少をはじめとした問題に 関しても、世界に先駆けて直面する事ができたという点で「チャンス」でもあるとい うトーンで書かれているとかなり明るくなったと思います。 平成 29 年度国土交通白書では、「大きく変化する暮らしに寄り添う国土交通行政」 をテーマとし、私たちの暮らしを取り巻く社会の変化や新たな兆し等の現状を分析 した上で、全ての人が充実した人生を送れるような社会のあり方について考察して いる。 今回の国土交通白書の刊行に当たり、日本社会の変化を国際的な視点から分析さ れている OECD 東京センターの村上由美子所長に御感想を頂いた。 村上 由美子氏 OECD 東京センター 所長 略歴 上智大学外国語学部卒業。スタンフォード大学大 学院国際関係学修士課程修了後、国際連合に就職。 ハーバード大学大学院での MBA 取得、外資系投資 銀行での勤務を経て、2013 年より現職。外務省、 内閣府、経済産業省はじめ、政府の委員会で委員を 歴任。著書に「武器としての人口減社会」がある。
また、他の政府文書でもよくあるのですが、「女性と高齢者の活用」という表現に ついては「活用」ではなくて「活躍」とした方が良いと感じました。「活用」という 表現は「labor」を想起させてしまうので、意味としてはそんなに変わらないのかも しれないですけど、「活躍」を用いる事でイメージが明るくなると思います。 最後に、第一章第三節で新たな兆しについて触れていますが、イノベーションに関 する話を入れるのも明るい印象を与える気がするので良いと思います。「必要は発明 の母」といいますが、今の日本は、他の国に比べると「必要」がたくさんあるので、 そうした「必要」に応じて色々と考えていく事で奇抜なアイデア、ひいてはイノベー ションが生まれてくるのだと思います。その点でいうと、シェアリングエコノミーに ついては、今回あまり触れられていなかったですね。今の日本には現状の政策の上塗 りの政策では対応できない部分がかなりあるため、社会システムのやり直しやゼロか ら始めるといった発想が必要であり、典型的なイノベーションであるシェアリングエ コノミーはその兆しとして入れてもよかったのではないかと思います。 全体として、うまくまとめていらっしゃいますが、読んだときに「問題が多いな」 「課題山積」という印象を与える気がします。書き方としては、「問題はあるものの、 その課題に対して、国交省としてはなんとか対応策を立てていて、それによって活路 を見出そうとしている」ということが読んだ人にわかるように書いているとよりよ かったのではないでしょうか。 国民意識調査について、結果をご覧になって関心を持たれた視点やご意見をお聞か せください。 若者は、待遇面を重視しており、柔軟 な働き方への希望は少ないという結果 が出ていましたが、個人的には、若者の 意識において二極化が進んできている のだと思います。 例えば、日本のトップ大学の学生達の 中には、外資系の金融機関やコンサルテ ィング会社への就職を希望する人も多 いです。外資系の企業は、待遇面は確か に優れていますが、日本の会社のように 終身雇用ではなく、厳しい競争の中で生 きていかなければなりません。さらに、 彼らの中には、スタートアップを希望す る人も多いです。ですので、全体として 見れば、このようなリスクを取って生き 30.2 20.1 6.8 17.4 1.9 0.6 1.8 1.1 13.5 3.5 0.6 1.0 1.5 29.5 17.5 7.9 23.1 1.8 0.4 0.8 0.6 11.6 3.8 0.1 0.9 2.0 31.0 19.3 7.8 16.7 1.3 0.1 1.4 0.5 10.1 7.7 0.1 0.3 3.5 23.4 25.1 9.5 9.8 1.6 0.3 2.0 0.9 12.3 8.4 1.7 1.1 4.0 17.0 31.1 7.7 5.7 1.8 1.6 2.0 0.7 9.8 10.0 5.9 0.2 6.4 7.2 37.4 6.8 1.4 0.5 2.3 5.0 0.9 6.8 11.7 11.3 0.5 8.6 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 給与・賃金(同業他社よりも高いなど) 仕事のやりがい 雇用の安定性・継続性(終身雇用、育休後の復職など) ワークライフバランス(子育て・介護などとの両立) 仕事の将来性・発展性 キャリアチェンジなど柔軟な働き方 能力・技能など自身のスキル向上 自身のスキルを活かした転職によるキャリアアップ 職場の人間関係 勤務地・勤務場所までの距離 労働を通じた社会貢献 その他 特になし 20代(n=798) 30代(n=787) 40代(n=765) 50代(n=702) 60代(n=440) 70代(n=222)
◯働く上で重視すること(年代別)
(%)たい若者と、そうではない多くの若者との間の違いが大きくなっているのではないか と思います。 こうした動きの背景として、年功序列や終身雇用といった日本の社会システムがあ るのではないかと思います。現在の若者は、人口構成の関係から上の世代に阻まれて 昇進がしづらい環境にいるため、上昇志向を持っていても仕方がないという気持ちに なってしまうのではないかと思います。その結果として、リスクを取らずに、職・給 料が安定している方に向かおうと考えている人達が多いのではないでしょうか。こう した現状は年齢・勤続年数に関わらず、成果主義で評価されるような制度が浸透して いけば変わっていくのではないかと思います。 若者がボランティアなどの社会貢献活動には積極的である事の背景には、価値観の 変化があるのだと思います。親の世代は会社に属したらその命令に服従する事が人生 におけるプライオリティになっていたと思います。一方で、今の若者は、自分の人生 において何が面白くて、何が成長につながるのかと考えたときに、会社で働くことで はなく、ボランティアや地元のコミュニティとのつながりというものに価値を見出し ているのではないかと感じましたし、それ自体は悪いことではないと思います。アメ リカのある調査によると、アメリカの企業の社会貢献への意識が高くなってきている 背景には、アメリカの若者が就職や消費行動をするときに、その会社や商品が社会に どの程度貢献しているのかということを重視しているという事があるそうです。こう した若者の意識の変化が日本でも見られているのだとすれば、これは世界的な流れな のかもしれません。 そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない そう思わない わからない 17.7 13.2 10.6 10.4 14.6 19.4 41.7 40.8 40.3 41.4 40.5 44.8 16.7 20.6 19.8 17.5 19.9 15.5 13.5 14.2 17.0 15.3 13.1 10.1 10.3 11.2 12.4 15.4 11.9 10.2 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 20代(n=824) 30代(n=824) 40代(n=824) 50代(n=824) 60代(n=824) 70代(n=824)
◯社会貢献活動は人生の楽しみとなるか(年代別)
アメリカでのご経験を踏まえて、日本とアメリカの「動き方」「住まい方」の違い についてご意見をお聞かせください。 まず「動き方」に関して、通勤時の混雑は異常だと思います。ニューヨークで働い ている人でも、郊外のコネチカットとかニュージャージーに住んでいると、1 時間と か 45 分とかかけてグランドセントラルまで電車に乗っていくという人もいましたけ ど、たまに座れない事があるといったくらいで東京の満員電車という感じではなかっ たです。 東京の通勤環境に関しては、OECD の統計によれば、メキシコ等の発展途上国と同レ ベルで、通勤だけで仕事の効率をかなり下げているのではないかと感じました。 次に「住まい方」に関してなのですが、アメリカは日本よりも平均の引っ越し回数 が多いです。日本では、ほとんどの人は、家を建てるにしてもマンションを買うにし ても一生に一回だと思うんですが、それはアメリカでは珍しい事です。 アメリカでは、不動産業界の活性化のために、2~5年の短期間で不動産を売買す る事に対して税金の優遇を行っているので、引っ越しは多く、一部の人は税金の控除 を目当てに引っ越しをする事もあります。日本では、転勤が多い事、災害に備えてよ り安全な住宅へ転居しようとする潜在ニーズが存在する事から、不動産市場を活性化 させる余地はまだまだあると思うのですが、中古住宅市場が未整備なため不動産の流 動性は低いままになっています。 空き家問題も最近メディアで大きく取りあげられていますが、こうした税金の控除 を導入して流動性を高めていくのも面白いと思います。 高齢者の活躍に向けて、今後求められる事についてご意見をお聞かせください。 基本的には、労働市場の流動性だと思いますね。国交省の管轄ではないんですが、 労働法、労働基準法も含め基本的な制度の部分で、流動性を高めるための抜本的な後 押しが必要だと思います。法的な部分も含めてなんですけど、その後押しに関しては まだまだできる事があると思うんですよね。ただ、高齢者といっても体力・気力に個 人差があるので、できる人、働きたい人に機会が与えられる社会のシステムを作って いかなければいけないと思います。もちろん、これは高齢者だけじゃなくて、若者や 女性に関しても当てはまります。労働市場の流動性があれば、体力や気力、能力があ る人に機会が与えられ、社会で活躍できる反面、そうでない人は若者であっても職の 保証はないわけです。競争社会の中で流動性があるという事は、力がある人には相応 の報酬が与えられる一方で、そうでない人は振り落とされるという事なのですが、今 の日本はそこを覚悟する事が必要だと思います。行政の役割としては、労働市場整備 と同時に、振り落とされた人のセーフティネットの整備も求められます。日本社会は、
振り落とされるという事へのアレルギー反応があまりにも強すぎると感じています し、実際振り落とされたとしても、振り落とされた段階で次の仕事を見つけるための 流動性もまた必要だと思います。 まとめると、私は、高齢者が働くということは、働きたい人、働く能力がある人に 対してそれなりの働く機会を与えるという意味で重要だと思います。社会主義的にみ んなに職を与えるのではなくて、労働市場に流動性を持たせる事で、そういう人たち に機会が与えられるという状況を作った方が健全だと思います。 女性の活躍できる社会に向けて、何かご意見がございましたらお聞かせください。 施設整備と意識改革はセットで考えないといけないと思っています。箱だけ作って もそこにメンタルがなければ変わらないと思います。ここ 1,2 年で心配なことがあり ます。政府として、女性の活躍推進を掲げ、実際に女性の就業率がアメリカを抜いた ことをはじめとして、確かに成果が出てきています。しかし、就業率の向上それだけ をみて、満足してしまっているように思え、私はこうした傾向は危ないと思っていま す。なぜかというと、これは、先ほど言及した「活躍」と「活用」の問題と同じで、 就業率の向上は「活用」の話だと思うのです。就業率は上がっているものの、男性と 女性の働き方や報酬の違いといったところはまだ手つかずのままです。その証拠に 「世界経済フォーラム」が 2017 年に発表した男女の格差(報酬、昇進機会)を表す 16.3 34.1 42.2 11.3 8.2 42.3 10.2 20.6 11.6 14.3 6.2 32.4 6.9 1.5 18.7 14.0 30.9 37.9 9.8 4.4 39.5 7.7 20.2 10.8 14.3 5.4 29.6 5.7 2.5 22.5 14.5 31.7 38.2 10.9 5.5 38.8 7.7 21.0 11.2 14.8 6.4 29.9 5.3 2.0 21.2 14.2 31.6 35.4 10.8 5.7 36.8 8.3 20.6 11.2 13.7 7.4 29.1 6.1 1.9 22.4 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 人工知能(AI)やビッグデータなど 技術革新による仕事の効率化 在宅勤務(テレワーク)など居住地にとらわれない働き方 フレックスタイム制や短時間 勤務制など労働時間の多様化 クラウドワーキング、フリーランス など雇用関係によらない働き方 フリーアドレス、シェアオフィスなど職場環境の改善 無駄な残業時間の削減など働く人間の意識の変化 転職機会の増加など雇用の流動化 育児・介護休暇などの利用に よらずキャリア継続できる人事制度 自己啓発や学び直しなど自己投資への支援 主要駅や職場への保育所整備など職育近接環境の整備 自動運転などによる無駄のない効率的な移動の実現 働く意欲や能力のある高齢者、女性、 障害者等の多様な人材の就業促進 働き手としての外国人材の受入環境の整備 その他 わからない 三大都市圏(n=1236) 政令市・県庁所在地・ 中核市(n=1236) 5万人以上市町村 (n=1236) 5万人未満市町村 (n=1236)
◯働き方改革に必要なこと(居住地別)
(%)指標「ジェンダーインデックス」について、日本は 144 カ国中 114 位と過去最低とな っています。つまり、働く女性は増えているものの、指導的立場に就く人は全く増え ていないのです。就業率の向上をはじめとした政策も確かに重要ですが、さらに重要 なのは、能力のある多くの女性に男性と同じように「活躍」してもらうことであり、 そのための社会システム・企業システムなのです。 女性の「活躍」のために国交省ができることはたくさんあると思います。例えば、 保育所やシェアリングオフィスといったような「施設(箱)」を作るだけではなく、 それをどう使い女性の活躍につなげていくのかということ、すなわちソフト施策にも 積極的に参加していく事が必要だと思います。 以上