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武道学研究 46 (2): , 2014 キーワード : 柔道, 握力発揮, 反応時間, 防御動作, 遅延 Ⅰ 緒言 全身反応時間は, 脱力状態つまりリラックスし た体勢や自然体で測定されることが多く, その条 件下での研究が多く行われている 5)6)15)16)17) し かし, スポ

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(1)

握力発揮が柔道選手の防御動作反応時間に及ぼす影響

久保田 浩 史

1)

渡 辺 直 勇

2)

  渡 辺 涼 子

2)

佐 藤 武 尊

3)

  山 本 浩 貴

4)

Effect of handgrip exertion on defensive motion reaction time

in judo competitors

Hiroshi KUBOTA1),

Naotake WATANABE2), Ryoko WATANABE2),

Takeru SATO3), Hiroki YAMAMOTO4)

Abstract

It is possible that quick reaction of the whole body is delayed during exerting muscle strength, and this effect is larger when exerting larger muscle strength. This study aimed to examine the defensive motion reac-tion time in judo competitors, while exerting different handgrip strengths. Subjects were 46 young males (mean age, 19.7 ± 1.3 years; mean height, 172.5 ± 4.6 cm; and mean weight, 79.0 ± 13.9 kg) with black belt in judo. They performed the defensive motion reaction time test exerting handgrip strength. They placed only one leg on a mat with a device measuring the whole body reaction time, grasped a grip strength device with one hand, and reacted to a light stimulus under each condition (different grip strength levels): 0%, 20–30%, 50–60%, or >80% of their maximal handgrip strength. One way analysis of variance was used to evaluate the significant differences among the means of the defensive motion reaction time values for each condition. On statistical analysis, the reaction time was significantly longer in the 20–30%, 50–60%, and the >80% conditions than in the 0% condition, and significantly longer in the >80% condition than in the 20–30% condition. The size of difference (effect size) between the 0% and the 20–30% conditions was small, and that between the 0% and the 50–60% conditions were moderate, and that between the 0% and the >80% conditions were moderate, and it tended to be larger with increasing handgrip strength exertion. Moreover, as the handgrip strength became larger, also the reaction time was significantly delayed (Y=9.6X+332.6). In conclusion, the defensive motion reaction time in judo competitors is delayed with handgrip exertion, and the delay is larger when larger strength is exerted.

Key words : Judo, Grip exertion, Reaction time, Defensive motion, Delay

1)岐阜大学教育学部 〒 501-1193 岐阜県岐阜市柳戸 1-1 岐阜大学教育学部 TEL/FAX:058-293-2287 E-mail:[email protected] 2)金沢学院大学 3)皇學館大学 4)岐阜工業高等専門学校

1)Faculty of Education, Gifu University 1-1 Yanagido, Gifu City, Gifu 501-1193, Japan 2)Kanazawa Gakuin University

3)Kogakkan University

(2)

キーワード:柔道,握力発揮,反応時間,防御動作,遅延 Ⅰ 緒言  全身反応時間は,脱力状態つまりリラックスし た体勢や自然体で測定されることが多く,その条 件下での研究が多く行われている5)6)15)16)17)。し かし,スポーツ競技場面を考えたとき,素早い反 応が求められるのはリラックスした状態からだけ ではない。柔道競技の場合,身体に力を入れた状 態において素早い反応が求められることが多い。 たとえば,組み合った状態から攻撃する場合,技 を掛けるためにもっとも適した位置と体勢をとり ながら相手のバランスを崩さなければならない。 また防御する場合,相手の動きに反応しながら, 素早く防御姿勢をとらなければならないことがあ る。このように柔道は二人が組み合って相対して はげしく移動し,自らの体さばきで相手を誘導す る,あるいは相手の仕掛ける体の動きに応じ自分 は安定した姿勢を保たなければならない11)。よっ て,いずれも脱力状態からではなく,筋力発揮中 に素早い全身の反応を行わければならない。つま り,柔道競技中は,身体の一部に力を入れるとい う,一つの運動課題に意識を集中するのではなく, どこかの部位で筋力を発揮しながら身体動作を行 うといった多重課題状況に適切に対応する必要が ある。  筋力発揮が反応時間や運動感覚に影響を及ぼす とする報告がみられる。古川4)は,過度に力を 入れた状態では,筋が必要以上の同時収縮によっ て動きがぎこちなくなること,大築13)は,素早 い動作を行う直前の構え局面に力みがあると,そ れを抜くために持続性筋活動をキャンセルし,相 同性筋活動に移行するために時間がかかり反応 開始が遅れると報告している。また,木塚9)は, 必要以上の力みが,運動感覚にとって障害となる ことがあると述べている。以上の報告から,一定 以上の筋力発揮状態は,反応動作に影響すること が推測される。  柔道では,柔道衣を握ることが必須であり,常 に握力を発揮した状態で全身の反応動作を行わな ければならない。柔道競技において,握力を発揮 した状態では反応が遅くなる,またその反応が握 力の発揮量によって異なる可能性がある。しかし ながら,これまで柔道競技を想定して握力を発揮 している状態における反応時間は検討されていな い。そこで本研究では,異なる握力発揮量の条件 下における柔道選手の動作反応時間について検討 することを目的とした。対象とする動作は,柔道 選手の特異的,かつ比較的単純である防御反応動 作とした。 Ⅱ 方法 1.被験者  被験者は,大学および工業高等専門学校の柔道 選手 46 名(年齢 19.7 ± 1.3 歳,身長 172.5 ± 4.6 cm, 体重 79.0 ± 13.9 kg,柔道経験年数 3 年以上,有 段者)であった。測定の前に,実験の目的や手順 を十分に説明し,全ての被験者から書面による実 験参加の同意を得た。 2.測定方法  被験者の防御動作における反応時間を次の条件 で測定した。防御動作反応時間の測定には全身反 応測定器(竹井機器株式会社)を用いた。柔道競 技中に自然に組んだ場合に前方に出る足のみ(右 組みの選手は右足,左組みの選手は左足)を反応 装置(マット)の中央に置き,光刺激に対してで きるだけ早く腰をきる動作(前後の足を入れ替え る)を行った(図 1,図 2)。その際,足と同じ側 の手で握力計を握り,肘を伸ばして腕をまっすぐ 下におろし,器具が体側に触れないようにし,異 なる握力発揮量の各条件下で測定を行った。握力 の測定には握力解析システム EG-100(酒井医療 株式会社)を用いた。握力発揮の条件は,握力の 最大値の 0%(0%条件:器具を持ち,力を入れ ていない状態),20%以上~ 30%未満(20%条件), 50%以上~ 60%未満(50%条件),80%以上(80% 条件)の力を発揮した状態とし,それぞれ 5 回測 定を行った。本試行を行う前に練習を 2 試行行っ た。防御動作反応時間の測定値データには最大値

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と最小値を除いた 3 つの値を用い,それらの平均 値を代表値とした。被験者はパソコンモニターに 表示される自分の握力発揮値を確認した後,光刺 激装置を注視した。同時に,検者がモニターで握 力の発揮量を確認し,防御動作反応時間の測定を 行った。疲労の影響を排除するため各測定の間に は十分に休憩をとるとともに,順序による影響を 除くため測定順はランダムとした。 3.統計解析  0%条件,20%条件,50%条件,80%条件にお ける防御動作反応時間の平均値の差を検定する ために対応のある一要因分散分析を用いた。分 散分析の結果,主効果が認められた場合,Tukey の HSD 検定による多重比較検定を行った。な お,本研究では統計的有意水準はすべて 5%に設 定した。平均値の差の大きさ(効果量 ES:effect size)は,0.2 を小さい,0.5 を中程度,および 0.8 以上を大きいと解釈した2)3)。また,防御動作反 応時間の試行間信頼性を検討するため,一元配置 変量モデルに基づく級内相関係数を算出した。級 内相関係数は,0.7 以上であれば信頼性は良好で あると判断される3) Ⅲ 結果  防御動作反応時間は,0%条件が 20%,50%, および 80%条件に比べ,20%条件が 80%条件に 比べ,有意に短い値を示した(表 1 および図 3)。 有意差が認められた平均値間の効果量は 0-20% (ES=0.26)および 20-80%(ES=0.34)で小さく, 0-50%(ES=0.41)および 0-80%(ES=0.61)で中 程度であった。なお,防御動作反応時間の回帰直 線は Y = 9.6X+332.6 で,回帰係数(p<0.05)は 有意であった。また,防御動作反応時間の試行間 信頼性を条件ごとに検討した結果,級内相関係数 は,0.73 ~ 0.90 と高かった。 Ⅳ 考察  本研究の結果,防御動作反応は,握力発揮条件 が 20%,50%および 80%条件の時が 0%条件の 時に比べ,また 80%条件の時が 20%条件の時に 比べ,遅延した。これには,生理的な要因に加 え,心理的な要因も影響していると考えられる。 心理学においては,人間が環境からの情報を処理 できる容量,あるいは注意を配分できる容量に限 界があると考えられている14)。平川ら7)は,単 純な動作に比べ,複雑な動作のほうが精神的負担 図 1 測定風景 図 2 腰をきる動作(前後の足を入れ替える) 表 1 防御動作反応時間の平均値および標準偏差

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は大きく,課題の難易度や多忙さによって精神的 負荷が異なることを報告している。本研究では, 握力を発揮しながら全身で反応をするという課題 が,被験者の精神的負担となり,反応の遅延に影 響したと考えられる。また,何か別のことをしな がら反応する,というような二重課題でも反応時 間が遅延することが知られている10)。本研究に おける 0%条件は,器具を握っても握力はほとん ど発揮していないため,単独の運動課題に近い。 しかし,20%条件,50%条件および 80%条件は 握力を発揮しているため二重課題(握力発揮と防 御動作)と言える。以上のことより,0%に比べ, 20%,50%および 80%条件下で防御動作反応が 遅延したと推察される。  また,握力発揮が 20%,50%,80%と高い条 件になるにつれて,0%条件時の防御動作反応時 間の平均値との効果量は,0.26,0.41,0.61 と高 くなる傾向がみられ,回帰係数も有意であった。 つまり,握力発揮が大きいほど防御動作反応は遅 延する傾向にあった。筋力発揮が反応時間や運動 感覚に及ぼす影響に関して,古川4)は,過度に 力を入れた状態では,筋が必要以上の同時収縮に よって動きがぎこちなくなると報告している。ま た,木塚9)は,力みが,運動感覚に影響する可 能性について言及している。加えて,大築13)は, 素早い動作を行う直前の構えている局面に力みが あると,それを抜くために持続性筋活動をキャン セルし,相同性筋活動に移行するために時間がか かり反応開始が遅れると述べている。以上のこと から,握力発揮量が大きくなればなるほど動作 や運動感覚への影響が大きくなり,結果的に防御 動作反応時間は握力が大きくなるにつれて遅延し たと推察される。ただ,本研究の限界として,実 際の競技場面で柔道衣を握る方法と,本研究の実 験条件のように握力計を握る方法は異なり,その 方法の違いから使用される筋群が異なることに注 意しなければならない。つまり,「柔道衣を握る」 ことは,単純に「握力を発揮する」ということで はない。今後,競技中の握力発揮が柔道選手の全 身反応に及ぼす影響についてより明確にするに は,実際の競技場面に近い実験設定にする必要が あろう。しかしながら,初心者の柔道パフォーマ ンスが低い理由の一つとして,本研究の実験条件 に近い形,すなわち握力計を握るように柔道衣を 強く握り込むということが考えられる。柔道では, 柔道衣を強く握りこむのではなく軽く握り,特に 親指と人差し指に力が入りすぎないようにするこ とが良いとされる1)8)12)。柔道熟練者は,強く握 る(握力発揮が大きい)ほど,次にとる全身の反 応動作が遅延するということを経験的および感覚 図 3 各条件下における防御動作反応時間

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的に理解しているのかもしれない。  一方,下肢の筋出力が増大すると上肢の位置感 覚における誤差が増大するという報告もある18) つまり,下肢と上肢はどちらかの筋出力が増大す るともう一方の筋出力に影響する可能性がある。 本研究では,上肢の筋出力が増大した結果,下肢 の感覚誤差が増大し反応を遅らせたのかもしれな い。  柔道では,経験的に柔道衣を強く握りすぎない 方が良いことがわかっているが,本研究の握力発 揮が大きいほど反応が遅れるという結果は,それ を科学的に裏付ける一つの要因であると言えるだ ろう。今後の課題としては,柔道では競技中に握 力だけを発揮しているわけではないので,様々な 部位の筋力発揮量や発揮の仕方が全身反応時間に 影響するかどうか検討する余地が残されている。 また,本研究で用いた防御動作反応時間の測定方 法は,通常の全身反応時間の測定方法とは異なり, 柔道競技の特異的な動作を対象としたため,テス トの信頼性や妥当性を検討する必要がある。測定 値の信頼性については,級内相関係数が高く良好 であるが,今後,測定方法の妥当性を検討する必 要がある。 Ⅴ 結論  柔道選手における握力発揮中の動作反応時間は 遅延すること,また発揮握力が大きいほどその遅 延は大きいことが示唆された。 謝辞  本実験に協力くださった被験者の皆様,並びに 荘加悠太君(各務原市立川島小学校)に深く感謝 いたします。また,本研究論文の作成にあたり, 出村慎一教授(金沢大学)より多大な助言をいた だきました。この場を借りて感謝の意を表します。 参考文献 1)醍醐敏郎:柔道教室,大修館書店,46-49, 1970. 2)出村慎一:健康・スポーツ科学のための統計 学入門,不昧堂出版,58-59,2001. 3)出村慎一:健康・スポーツ科学のための研究 方法―研究計画の立て方とデータ処理方法―, 杏林書院,124-128,2007. 4)古川康一:スキルサイエンス,人工知能学会 誌,19,355-364,2004. 5)古田久・櫛引亮:運動不振学生の全身反応 時間に関する研究,埼玉大学紀要(教育学部), 60,67-70,2011. 6)林和哉・脇田裕久:反応動作時における自発 的『掛け声』の影響,三重大学教育学部研究紀 要,自然科学,55,75-84,2004. 7)平川敏幸・須田和也・西條修光:「二重課題法」 による各種動作の精神的負荷に関する研究,日 本体育大学紀要,22(1),25-30,1992. 8)柏崎克彦:柔道 組み手入門,ベースボール・ マガジン社,16-17,2011. 9)木塚朝博:力の抜きどころと身体のコント ロール,体育の科学,58,43-48,2008. 10)中込四郎・伊藤豊彦・山本裕二:よくわかる スポーツ心理学,ミネルヴァ書房,24-25,2012. 11)松本芳三:柔道のコーチング,大修館書店, 80-88,1975. 12)向井幹博・山口香:ジュニアのための考える 柔道,東京書店,18-19,2007. 13)大築立志:「たくみ」の科学,朝倉書店,1988. 14)S c h m i d t R . A . : M o t o r l e a r n i n g &

performance: from principles to practice, Human Kinetics Books, 1991.

15)脇田裕久・阿形克己:選択反応動作に及ぼ す掛け声の効果,三重大学教育学部研究紀要, 58,21-27,2007. 16)脇田裕久・南亘・細野信幸:全身反応動作に 及ぼす呼吸相の影響,三重大学教育学部研究紀 要,自然科学,53,105-114,2002. 17)脇田裕久・滝藤充宏:単純反応動作における 膝関節の脱力効果,三重大学教育学部研究紀 要,自然科学・人文科学・社会科学・教育科学, 61,21-28,2010.

18)Yasuda T., Izumizaki M., Ishihara Y., Sekihara C., Atsumi T., and Homma I.: Effect of quadriceps contraction on upper limb

(6)

position sense errors in humans, Eur J Appl Physiol, 96(5), 511-516, 2006.

平成 25 年 10 月 26 日 受付 平成 25 年 12 月 26 日 受理

参照

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