85 Abstract
The purpose of this study is to assess the psychological state of the interpersonal relationship between teacher-coaches and their young athletes as perceived by teacher-teacher-coaches of basketball in school sport clubs. The coaches’ perceived relationships with their athletes were compared internationally. The participants of this study were 213 (male 168, female 41, 4 unknown gender students), who attended the workshop conducted by basketball coaches teaching at schools. The measurement used in this study was a translated version of the coach-athletes relationship questionnaire (CART-Q)(Coach Form), developed by Jowett and Ntoumannis (2004) to measure coaches’ subjective assessment of the relationship with their athletes. Examples of the items in CART-Q (Coach Form) are: “I feel committed to my athlete” (standing for commitment), “I like my athlete” (closeness), “When I coach my athlete I feel at ease” (complementarity). The assessment was made on a seven point scale from 1 (strongly disagree) to 7 (strongly agree). The results were compared with British and Canadian data. The comparison revealed that the Japanese basketball coaches in this study had weaker relationships with their athletes than the coaches in the other two countries on all three traits of commitment, closeness, and complementarity.
Coach-Athlete Interpersonal Relationships as Perceived by Coaches in School Sport Clubs
川 北 準 人
*山 口 香
**中 瀬 雄 三
***村 田 洋 佑
****市 村 操 一
*****Hayato KAWAKITA
Kaori YAMAGUCHI
Yuzo NAKASE
Yosuke MURATA
Soichi ICHIMURA
*Hayato KAWAKITA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)
**
Kaori YAMAGUCHI 筑波大学(University of Tsukuba)
***
Yuzo NAKASE 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)
****
Yosuke MURATA 浦和実業学園高等学校(Urawa Jitsugyo Gakuen High School)
*****
86 序論 学校運動部の教師であるコーチと生徒である競技者の間の人間関係は、成績向上のためにも、ス ポーツを通しての人格形成のためにも、幸せなスポーツ体験のためにも重要なことに思われる。最近 のコーチングの進歩のなかで出現してきた「第三世代のコーチング」の代表的な研究者である、コペ ンハーゲン大学の Stelter, R. (2014)は、第一世代のコーチングを指導者から競技者への一方的指導 であるとすると、第三世代のコーチングは両者のよいコミュニケーションのもとに方針を決定しなが ら進むべきだと主張している(前人未踏の記録に挑戦する方法など、経験した指導者などいないから だ)。Stelter はよい人間関係を基盤にした第三世代のコーチングの長期にわたる実験的指導で、競技 者の「成功感」と「幸福感」の両方を向上させることに成功している。 文部科学省のスポーツ担当部門(2015 年 10 月より「スポーツ庁」に移行)もコーチの質的向上 を図るキャンペーンの中でも、コーチと競技者の人間関係の向上を取り上げていた(文部科学省、 2013)。 日本バスケットボール協会でも 2015 年からの活動方針の中にコーチの指導力向上を取り上げている。 本研究の目的 本研究の目的は、コーチが感じているコーチ 競技者間の人間関係を CART-Q のコーチ用版で調査 し、英国やカナダの調査結果と比較することである。 過去 10 年ほどの間に、スポーツにおけるコーチ 競技者間の人間関係の心理学の研究が客観的な測 定法の開発によって進められるようになった(Jowett & Cockerill, 2003)。Jowett & Ntoumanis (2004) によって開発されたコーチ 競技者関係質問紙(The Coach-Athlete Relationship Questionnaire: CART-Q)はこの分野の研究の発展の一つの原動力になった。CART-Q は、コーチ 競技者関係に関 する感情・思考・行動を研究参加者に「自分にどの程度当てはまるか」を 7 段階で評定してもらう ように作られている。たとえば「私はコーチを信頼する」という項目に対して、研究参加者は「き わめて当てはまる」場合には(7)の、「まったく当てはまらない」場合には(1)の評点をあたえ る。研究参加者がコーチの場合には競技者とは対称的な「私は私の指導している競技者を信頼する」 という項目に対して、当てはまる程度を回答する。本論文では前者を CART-Q(競技者用)、後者を CART-Q(コーチ用)とよぶ。 CART-Q は山口、岡田、増地、市村(2015)によって邦訳され、高校柔道競技者に実施され、国 際的な比較が行われた。その結果、日本の高校柔道競技者の目からみたコーチとの人間関係は希 薄な傾向にあるものであった。Ichimura & Yamaguchi (2015)と Yamaguchi, Okada, Masuchi, Kanamaru, Ono, Ichimura (in press)は、標本数を 400 名以上に増やして CART-Q を実施したが、 2015 年の研究と同じ結果であった。
CART-Q(コーチ用)を使用した大規模な研究がカナダのハイスクールの教師兼ボランティア・コー チ 3,357 名を対象に実施され、有効回答 3,065 (男 2,046、女 998、他 21)を得た(Camiré & Deal, 2015)。その報告書の中には、コーチが感じているコーチと競技者の人間関係のデータの分析結果が 示されている。
87 本研究の具体的な目的は、上記の先行研究を参考にしながら、小・中・高を含む学校バスケットボー ル部のコーチの感じている、生徒である競技者との人間関係の実態を調べることである。 方法 調査協力者: 今回の調査の参加者は、日本バスケットボール協会(以下、JBA)が主催し、埼玉県 バスケットボール協会主管のもと実施された「平成 26 年度 JBA E-2 級指導者養成講習会」に出席 した者である。質問紙に回答した者は 228 名。欠損回答の多い 15 名を除外して、213 名(男性 168 名、 女性 41 名、不明 4 名)のデータを分析した。年齢の平均値と標準偏差は(全体 M=40.10, SD=11.25; 男性 M=40.71, SD=11.19, 女性 M=37.82, SD=11.28)であった。現在バスケットボールを指導してい ると答えた者は 181 名、指導歴は平均値 8.3 年、標準偏差 6.91 年、1 年未満から最長 32 年までの範 囲であった。学生時代の専門種目はバスケットボール 173 名、他種目と無記入の者は 40 名であった。 JBA では平成 25 年度より、バスケットボール競技の振興と競技力向上を担うコーチの指導力向上 及びコーチの組織化をはかるため、公益財団法人日本体育協会及び都道府県バスケットボール協会と 一体となって「公益財団法人バスケットボール協会公認コーチライセンス制度」を制定した。そのた め、JBA 加盟チームは、それぞれ JBA が認定したコーチライセンス取得者を、コーチとしておくよ う努めなければならなくなった。このような制度のもとに 2015 年 2 月 1 日に実施された講習会の参 加者を対象に調査が行われた。
調査用紙: Jowett & Ntoumanis (2004)の CART-Q は、コーチ 競技者関係に関する感情・思考・ 行動を参加者に「自分にどの程度当てはまるか」を 7 段階で評定してもらうように作られている。本 研究で使用されたコーチの観点からのコーチ 競技者間の人間関係質問紙は CART-Q(コーチ用)で あり、山口、岡田、増地、市村(2015)の(競技者用)の邦訳を参照して作成された。たとえば、競 技者用の質問紙で「私は私のコーチが好きだ」という項目は、コーチ用の質問紙では「私は私の指導 している競技者が好きだ」というように作成された。本研究で使用された質問紙には、CART-Q コー チ用日本語版(11 項目)に加えて、コーチの感じている「指導している競技者との人間関係の全体 的満足度」を測る 2 項目が用意された。(表1) 質問紙の導入部分にはつぎのような注意書きが記された。 練習や試合であなたが現在指導している競技者について感じていること、考えていることを、下記 の質問項目について、「きわめて当てはまる」場合は 7 に、「まったく当てはまらない」場合は 1 に、「ど ちらでもない」場合は4として、当てはまる程度の数字に○をつけてください。 CART-Q に含まれる 11 項目は、「関与」に関する 3 項目(項目 1-3)、「親和」に関する 4 項目(項 目 4-7)、「相補性」に関する 4 項目(項目 8-11)の 3 つの領域に分類されており、データの分析もそ れに従って行われた。 結果 CART-Q(コーチ用)による本研究参加者の平均値と標準偏差は表1に示された。各項目の統計量 を外国のそれと比較するために、右の 2 列には英国の調査結果を示してある。この調査の参加者は
88 214 名の英国のコーチ(35%)と競技者(65%)である。コーチは競技者への質問とは対称的な質問 項目に対して評定を行っている。本研究のデータは「日本」と表記した。 表1 CART-Q によるコーチの感じている競技者との人間関係の日本と英国の比較 (7段階評価) CART-Q(コーチ用)項目 日本 N=213 英国 N=214 M SD M SD 01 私は私の指導している競技者と親密だと感じる 4.98 1.40 5.26 1.31 02 私は私の指導している競技者と深くかかわっていると感じる 4.88 1.41 5.80 1.14 03 私は私の指導している競技者とスポーツ競技をすることで明 るい将来が開けると感じている 5.11 1.47 5.25 1.36 04 私は私の指導している競技者が好きだ 5.69 1.80 6.16 1.02 05 私は私の指導している競技者を信頼している 5.56 1.64 6.02 1.13 06 私は私の指導している競技者を尊敬している 5.18 1.59 6.25 1.01 07 私は私の指導している競技者が進歩のために払った努力に感 謝している 5.53 1.73 5.64 1.33 08 私は私の指導している競技者を指導するとき落ち着いている 5.00 1.35 5.97 1.23 09 私は私の指導している競技者を指導するとき、彼らの努力を 認め、評価している 5.49 1.48 5.95 1.00 10 私は私の指導している競技者を指導するとき全力を出すつも りでいる 5.65 1.50 6.08 1.14 11 私は私の指導している競技者を指導するとき友好的な態度を とる 5.36 1.42 6.08 1.08 12 私は私の指導している競技者との関係全般に満足している 4.87 1.38 --- ---13 私は私の指導している競技者がコーチとの関係全般に満足し ていると思っている 4.71 1.29 --- --- 英国の標本の中に含まれたコーチの経験期間は 16 年以上であり、種目も陸上競技、水泳、ゴルフ など個人種目が多いので、「日本」の標本がバスケットボールのコーチが主体であり、経験期間も平 均 8.3 年となっているために、比較には慎重でなければならない。しかし、コーチ 競技者の人間関 係を評定する 11 項目のすべてで、英国のほうが高い評定点を示している。項目 3 と 7 では統計的な 有意差は認められなかったが、他の 9 項目では英国のほうが危険率 5% 以上の有意な差で高い評定点 を示した。 表 2 CART-Q (コーチ用)の領域別の日本・カナダの比較(7段階評価) コーチ―競技者間人間関係の3領域と全体平均 日本 N=213 カナダ N=3065 日・カ 関与(1,2,3) 4.99(1.29) 6.01(0.98) *** 親和(4,5,6,7) 5.27(1.38) 6.09(0.94) *** 相補(8,9,10,11) 5.38(1.23) 6.07(0.90) *** 人間関係全体(1 から 11 までの合計平均) 5.25(1.22) 6.06(0.86) *** *** p<0.01
89 カナダの高校の教師兼コーチの調査結果には CART-Q(コーチ用)の 3 領域と合計の平均値のみ が示されていた。本研究のデータをカナダと同様の方法で分析し、カナダと比較した結果が表 2 に示 されている。その結果は、カナダの教師兼コーチの感じている競技者との人間関係のほうが、本研究 の参加者より明らかに濃密で強いということを示している。 「私は私の指導している競技者と深くかかわっていると感じる」というような項目で代表される「関 与」についても、「私は私の指導している競技者が好きだ」というような項目で代表される「親和」 についても、「私は私の指導している競技者を指導するとき全力を出すつもりでいる」というような 項目で代表されるような「相補」についても、カナダの教師兼コーチは日本より統計学的にも有意に 高い値を示している。 コーチの仕事の満足度についての質問がつぎの 2 項目によってなされた。 12 私は私の指導している競技者との関係全般に満足している 13 私は私の指導している競技者がコーチとの関係全般に満足していると思っている そ れ ら の 評 定 点 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 は 項 目 12 で(M=4.87, SD=1.38)、 項 目 13 で(M=4.71, SD=1.34)であった。また項目 12 と 13 を合計した「満足度」の平均値は(M=4.79, SD=1.28)であっ た。評定点 4 が「満足している」ということについて「きわめて満足している」と「きわめて当ては まらない」の中間点、つまり「どちらでもない」であることから、コーチの競技者との関係は「満足 している」という状態ではないことを示している。 考察 本研究の参加者であった JBA の指導者養成講習会の受講生のデータと英国やカナダのデータと比 較するには、研究参加者の経歴やコーチをしている環境の違いなども考慮する必要があるだろう。し かし、人間関係のすべての領域でかなりの差異があることは無視することはできない。指導者の競技 者との関係全般についても、平均値は「やや満足」というレベルである。この原因については、本研 究のデータからだけでは確かな推定はできない。いくつかの仮説を作って、さらなる調査あるいは現 場研究をすることで、実証的に確かめなければならない。 本研究の結果のデータをネット上に公開したところ、青森県の県立高校でラグビーと柔道の指導を し、教頭・校長を務めて退職されている柿崎紀一氏が次のような意見をメールで送ってくれた。 「高等学校において校長と教頭が年度始めに一番頭を悩ますのは、運動部活動の顧問を決めること です。高校大学時代に運動部活動の経験がなく、厳しい(練習時間が長い、怪我が多い等)部活動の 顧問になりたがらない教員が少なくない状況です。また、経験のない女性教員も増えていますので、 顧問の確保が難しいです。その状況で指導力や意欲を問題にすると部活動が成立しなくなります。生 徒数の減少と合わせて高校の運動部活動は風前の灯状態と言っても過言ではありません。特に地方に おいては深刻な事態になっております。」 この柿崎氏のコメントは、Vallerand ら(2003)の「情熱の理論」を想起させた。Vallerand らは「活 動への情熱」(passion toward activities)には二つのタイプが存在することを証明した。ひとつのタ
90 イプは「調和的情熱」であり、このタイプの情熱は、活動を自分の意志で決定し、進んで実行すると きに感じるものである。このタイプの情熱を伴う活動は個人の生活の中で過剰な領域を支配すること なく、他の領域の活動と調和している。もうひとつのタイプは「脅迫的情熱」であり、このタイプの 情熱は、他者や社会的環境の圧力によって情熱の対象となる活動をやらざるをえなくなるときに感じ るものである。個人がその活動を好きな場合でも、その情熱をコントロールできずに、生活の中での 他の領域とのバランスを崩すことになる。 このような「情熱の理論」を$OWLQWDü $üoL(2015)はコーチ 競技者間の人間関係と結びつけた 研究を発表した。その研究によると、「脅迫的情熱」で動いているコーチは「調和的情熱」のコーチ よりもポジティヴな人間関係を作りにくいという結果が示された。朝目覚めて「今日も生徒たちとバ スケットボールができるぞ」と胸を膨らませるコーチと、「また今日もバスケか、でも校長が期待し ているから、頑張ろう」と自分を勇気づけるコーチの違いが、人間関係にも現れるのかもしれない。 特に日本の学校運動部の指導者は「コーチ」の役割だけではなく、「顧問教員」の教育管理的役割 も担っており、自分の好きなスポーツの指導をやっている人たちだけではないことにも留意しなけれ ばならないだろう。コーチ 競技者の人間関係を向上させるための方策を考えると同時に、良好な人 間関係を妨げている要因もさらに探求する必要があるだろう。 また、日本の学校運動部が純粋なスポーツ・クラブと異なっている一つの特徴は、勝敗を競う競技 スポーツにおいて、その指導の中に「教育」が必要であるという考え方である。明治維新以降、スポー ツは学校教育の一環として取り入れられた。しかし、国策として、富国強兵、殖産興業を推進してい た我が国においては、遊び戯れるという意味のスポーツを公に肯定できず、精神修養や教育効果が重 んじられてきた。このような現状を福岡・谷本(2008)は次のように述べている。 現代でも、体育的な全体主義、訓練主義は依然として横行し、スポーツは身体を鍛えるための手段 としての体育であるという考え方が根強い。これは、1970 年代にスポーツの自発性を重んじ、全て の教育機関で体育という言葉が消えてスポーツになったヨーロッパとは対照的である(pp. 145-154)。 これらのことから、我が国の学校運動部は、長らく Stelter (2014)の言う「第一世代のコーチング」 によって行われてきたことは否めないであろう。しかし、21 世紀の今日、スポーツ指導は転換期を 迎えているといえる。我が国のスポーツ政策の目下の急務は、指導者がスポーツから享受される効果 を、競技者目線で理解し、さらに競技者一人ひとりの人間性を重視し、質の高い文化的な活動が普及 されることである。 引用文献
Jowett, S. & Cockerill, I.M. (2003). Olympic medallists’ perspective of the athlete–coach relationship.
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91
Camiré, M. & Deal, C.J. (2015). National Survey of Canadian High School Teacher-Coaches: National Report prepared for School Sport Canada. Printed at School of Human Kinetics, University of Ottawa, Canada.
福岡孝純・谷本都栄 (2008).「現代におけるスポーツの意義と役割」帝京経済学研究 , 41 (2),145-154.
Ichimura, S. & Yamaguchi, K. (2015). The coach-athlete interpersonal relationship in Japanese judo’s youth.
3URFHHGLQJVWK(XURSHDQ&RQJUHVVRI6SRUW3V\FKRORJ\. P. 330. Bern, Switzerland.
Jowett, S. and Ntoumanis, N. (2004). The coach-athlete relationship questionnaire (CART-Q): development and initial validation. Scand J Med Sci Sports, 14, 245-257.
Stelter, R. (2014). A guide to third generation coaching: Narrative-collaborative theory and practice. Springer Science + Business Media Dordrecht, Nederland.
Vallerand, R. J., Mageau. G. A., Ratelle. C., Leonard. M., Blanchard, C., Koestner, R., Gagné, M., & Marsolais, J. (2003). Les Passions de l’âme: On obsessive and harmonious passion. J Pers Soc Psychol, 85 (4),756-767.
Yamaguchi, K., Okada, H., Masuchi,K., Kanamaru, Y., Ono, T., Ichimura, S. (in press). The coach-athlete interpersonal relationship and its consequential effects on Japanese judo’s youth.
山口香・岡田弘隆・増地克之・市村操一 (2015). 日本における高校柔道部員とコーチ間の人間関係の 検討―CART-Q を用いて― 筑波大学体育系紀要 , 38,59-67.