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宮崎医会誌 2015 ; 39 : 135-9.

地域医療

は じ め に  当院は宮崎県北地区唯一の産婦人科2次施設であ り,① NICUを含む周産期医療,② 婦人科癌の集 学的治療,③ 婦人科手術療法を主に行っている。 当然,「急性腹症」も治療対象であり,手術療法が 必要となる症例のほとんどが当院に集まっているも のと考える。当院における過去5年間の産婦人科急 性腹症症例の臨床統計を行い,その内容を検討した ので報告する。  2009年1月1日から2013年12月31日の期間におい て,当院産婦人科・周産期科入院患者カルテから以 下の病名でカルテを検索した。「急性腹症,異所性 妊娠,骨盤腹膜炎,卵管卵巣膿瘍,卵巣腫瘍茎捻転, 急性虫垂炎,子宮内膜症,卵巣チョコレート嚢腫破 裂,卵巣出血」。なお,カルテ内容を確認して,急 性腹症に該当しない症例は除外した。急性腹症症例 の群分類は,「産婦人科診療ガイドライン婦人科外 来編2014」1)を参考にして,図1のごとく分類した。 すなわち,まず,あきらかに妊婦であればA群とし た。つぎに,妊娠反応陽性症例はB群,炎症所見陽 性症例をC群,腫瘤形成群をD群,そして,骨盤内 もしくは腹腔内に液体貯留を認めた群をE群と分類 した。統計処理はStudent t-testを使用,P<0.05を もって有意差ありとした。

急性腹症

〜当科における過去5年間の臨床統計〜

大塚 晃生

松澤 聡史

明野 慶子

山内  綾

土井宏太郎

寺尾 公成

要約:2009年1月1日から2013年12月31日の期間に当科で入院加療した産婦人科急性腹症症例は148例 あった。内訳は妊娠関連疾患・妊娠偶発症(A群)が10例,異所性妊娠もしくは流産(B群)が68例, 炎症性疾患(C群)が18例,腫瘤形成疾患(D群)が35例,卵巣出血(E群)が17例であった。産婦 人科医以外からの紹介が多かったのは,E群,D群,C群,B群の順で,A群では皆無であった。異 所性妊娠では卵管妊娠が多く,破裂症例,特に卵管峡部妊娠破裂で出血量が多く,輸血症例も多かった。 卵巣出血では65%が右側,70%で性交渉との関連を認めた。 〔平成27年1月8日入稿,平成27年6月15日受理〕 宮崎県立延岡病院産婦人科・周産期科 図1.当院産婦人科急性腹症,疾患群分類. 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2014を参考にし て疾患群を図の様に分類した. 妊  婦 → YES → A群:妊娠関連疾患,妊娠偶発症,等 NO↓ 妊娠反応 → 陽性 → B群:異所性妊娠,流産,等 陰性↓ 炎症所見 → 陽性 → C群:骨盤腹膜炎,卵管卵巣膿瘍,等 陰性↓ 腫  瘤 → あり → D群:卵巣腫瘍茎捻転,チョコレート         嚢腫破裂,等 F l u i d → あり → E群:卵巣出血,等 なし↓ 月経痛,便秘,等 なし

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図2.当院産婦人科急性腹症,疾患群別割合. 図3.当院産婦人科急性腹症,紹介医別割合. E群,D群,C群,B群の順に産婦人科医以外からの紹 介が多く,A群では皆無,すなわち,すべて産婦人科医 からの紹介であった.  産婦人科急性腹症症例は5年間で148例あった。 年別数は表1に示すが,年30例程度であった。疾患 群別割合を図2に示す。B群・異所性妊娠関連疾患 が最も多く68例(45.9%)を占めていた。次にD群・ 腫瘤形成疾患,35例(23.7%),C群・炎症性疾患18 例(12.2%),E群・卵巣出血17例(11.5%),A群・ 妊婦の急性腹症10例(6.7%)の順であった。  紹介元が産婦人科医か否かに着目して検討(図3) 急性腹症・入院患者数 2009年  35 2010年  29 2011年  30 2012年  28 2013年  26 合計 148 表1.当院産婦人科急性腹症,年別症例数. 表2.各群の詳細. A群:妊娠関連(10例) 妊娠週数:15W〜36W 最終診断:便秘症        3例      切迫早産・前駆陣痛  2例      尿路結石       1例      胆石胆嚢炎      1例      筋腫合併妊娠・筋腫痛 1例      傍卵巣嚢腫・茎捻転  1例 → 手術      急性虫垂炎      1例 → 手術 B群:異所性妊娠(68例) 平均年齢:31.1歳(19歳〜43歳) 妊娠部位:卵管膨大部      46例(68%)      卵管峡部       16例(23%)      卵巣         2例( 3%)      大網         1例(1.5%)      仙骨子宮靱帯内側   1例(1.5%)      内外同時妊娠     1例(1.5%)      卵管妊娠・流産    1例(1.5%) 手術療法:67例(98.5 %) D群:腫瘤形成疾患(35例) 平均年齢:37.9歳(14歳〜79歳) 妊娠部位:卵巣腫瘍・茎捻転    22例      卵巣チョコレート嚢腫  10例      漿膜下筋腫・捻転    2例      卵巣癌・破裂      1例 手術療法:33例(94%) E群:卵巣出血(17例) 平均年齢:26.2歳(15歳〜43歳) 内  訳:基礎疾患 なし    15例      再生不良性貧血    1例      PAI欠損症      1例 手術療法:1例( 6 %) 左 右 差:R:L = 11:6(65%が右側) 性交渉との関連:7/10  (70%で関連あり) C群:炎症性疾患(18例) 平均年齢:47.4歳(25歳〜90歳) 妊娠部位:卵巣卵管膿瘍         8例      筋腫/卵巣腫瘍+骨盤腹膜炎  5例      骨盤腹膜炎          4例      虫垂炎        1例 手術療法:13例(72%)

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したところ,全体では37.1%が産婦人科医以外から の紹介であった。疾患群別では,E群,D群,C群, B群の順に産婦人科医以外からの紹介が多く,A群 では皆無,すなわち,すべて産婦人科医からの紹介 であった。  A群,妊娠関連疾患は10例あり,急性腹症が発症 した妊娠週数は15週から36週であった。最終診断は 表2に示すごとく,便秘症が3例,切迫早産・前駆 陣痛が2例あった。その他は,尿路結石,胆石胆嚢 炎,筋腫合併妊娠の筋腫痛,傍卵巣腫瘍の茎捻転, 急性虫垂炎が各1例であった。傍卵巣嚢腫の茎捻転, 急性虫垂炎の2例では手術療法を要した。  B群,異所性妊娠群は68例(表2)と最も多かっ た。平均年齢は31.1歳(19歳〜 43歳)であった。妊 娠部位では卵管膨大部46例(68%),卵管峡部16例 (23%)が多かったが,卵巣妊娠が2例,大網妊娠 1例,仙骨子宮靱帯内側といった腹膜妊娠も1例 あった。子宮内外同時妊娠も1例あり,その症例に おいて病巣であった卵管は手術療法で摘除したが, 子宮内妊娠は妊娠を継続,経腟分娩に至った。卵管 妊娠・流産も1例あった。この卵管妊娠・流産を除 いた67例(98.5%)には手術療法を施行した。卵巣 妊娠,大網妊娠症例の写真を図4,図5に示す。卵 管妊娠の詳細を表3に占めす。卵管膨大部妊娠46例 中23例(50%), 卵 管 峡 部 妊 娠16例 中 9 例(56%) が破裂していた。卵管温存療法は未破裂症例に対し て,卵管膨大部妊娠は12例(52%),卵管峡部妊娠 2例(28%)に施行した。出血量は破裂症例で有意 (卵管膨大部妊娠 p=0.004,卵管峡部妊娠 p=0.006) に多く,破裂症例の中では卵管峡部妊娠が有意 (p=0.025)に多かった。これに伴い輸血症例も卵管 膨大部妊娠破裂症例(11例,48%),卵管峡部妊娠 破裂症例(5例,56%)で多かった。卵管温存症例 14例中,その後,正常妊娠に至ったものが2例,異 所性妊娠を再発したものが2例あった。  C群,炎症性疾患(表2)は18例,平均年齢は 47.4歳(25歳〜 90歳)であった。内訳は,卵管卵巣 表3.卵管妊娠症例(62例)の詳細. 未破裂 vs 破裂:卵管膨大部妊娠(p=0.004),峡部妊 娠(p=0.006). 膨大部妊娠 vs 峡部妊娠:未破裂(p=0.48),破裂 (p=0.025) Student t-test. *卵管膨大部妊娠,卵管峡部妊娠,それぞれに対する破 裂症例の割合. **卵管膨大部妊娠(破裂,未破裂),卵管峡部妊娠 (破裂,未破裂)症例,それぞれで全体に対する卵管温 存療法,輸血症例の割合. 卵管膨大部妊娠 卵管峡部妊娠 未破裂 破裂 未破裂 破裂 23例 50%*23例 7例 56%*9例 卵管温存 52%**12例 0例 28%**2例 0例 平均出血量 10〜650177ml 20〜2,600936ml 10〜980228ml 270〜2,5801,465ml 輸血症例 0例 48%**11例 0例 56%**5例

病巣

大網

横行結腸 図5.大網妊娠症例. 大網を頭側に展開しているところで,大網先端に病巣を 確認できる. 図4.患者頭側からの写真. 左卵巣妊娠であった.右付属器には傍卵巣嚢腫を認めた.

病巣

左卵管

左卵巣

大網

右傍卵巣嚢腫

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膿瘍8例,筋腫もしくは卵巣腫瘍に骨盤腹膜炎が合 併していたものが5例,骨盤腹膜炎が4例,虫垂炎 が1例であった。うち,13例(72%)に手術療法を 施行した。  D群,腫瘤形成疾患(表2)は35例,平均年齢は 37.9歳(14歳〜 79歳)であった。内訳は,卵巣腫瘍 の茎捻転が22例,卵巣チョコレート嚢腫が10例,漿 膜下筋腫の捻転が2例,卵巣癌・破裂が1例であっ た。33例(94%)に手術療法を施行した。  E群,卵巣出血(表2)は17例で,平均年齢26.2 歳(15歳〜 43歳)であった。基礎疾患のないもの が15例であったが,再生不良性貧血,PAI-1欠損症 といった血液疾患を合併したものが各1例あった。 手術療法を要したのは1例(6%)であった。左右 差は右側が65%と多く,性交渉との関連があったの は,70%であった。  当院は宮崎県北地区唯一の産婦人科2次施設とし て,周産期医療,婦人科癌の集学的治療,婦人科手 術療法を行っている。手術数,帝王切開術数,分娩数, NICU入院数,新規悪性腫瘍患者数の詳細を表4に 示すが,年間あたりにして,手術が400件(帝王切開 術が100件,帝王切開術を除く手術が300件),分娩 数が300件,NICU入院患児が140名といった施設で ある。また,新規悪性腫瘍患者は,子宮頸癌および 子宮体癌がそれぞれ15名/年,卵巣癌・腹膜癌が10 名/年である。その当院における入院加療を要した産 婦人科急性腹症症例は年間30件程度であった。なお, 軽症で入院加療を要しなかった症例は除外している。  産婦人科急性腹症において,まず,鑑別すべきポ イントは妊娠の有無である1−3)。そこで,今回の解 析における群分類は,まず,明らかな妊娠の有無, 次に妊娠反応陽性か否かで,A群,B群を分類した。 次に炎症性所見のあるものをC群,腫瘤形成疾患を D群として,残りはこれらが除外されたE群で,卵 巣出血が主なものであった。産婦人科急性腹症症例 では,例えば,腫瘤形成疾患に炎症性疾患が同時に 発生する等,重複する場合も多々あるが,図1の流 れに従い分類することで全症例の群分けが可能と なった。  県北地区唯一の産婦人科2次施設である当院への 受診経路は産婦人科外来,もしくは,救命救急セン ター(ER)である。ウィークデーの昼間であれば産 婦人科外来を,その他ではERを経由する。今回検討 した症例148名中,64名が産婦人科外来経由,84名 がER経由であった。これらすべてが紹介入院であり, Walk in症例や救急車から直接の入院症例は5年間 手術数 (うち帝切) 分娩数 NICU入院数 急性腹症・入院数 2009年  381 (102)   319 131  35 2010年  418 (101)   275 137  29 2011年  414 ( 93)   299 132  30 2012年  456 (136)   327 152  28 2013年  440 (121)   251 164  26 合計 2,109 (553)  1,471 716 148 子宮頚癌 子宮体癌 卵巣癌・腹膜癌 2009年 20 18 11 2010年 16 15 10 2011年 16 17  6 2012年  8 12  8 2013年 13 15 14 合計 73 77 49 表4.周産期症例および悪性疾患症例数との比較. A 手術数,分娩数,NICU入院患児数,年別推移び悪性疾患症例数との比較. B 新規悪性腫瘍患者数,年別推移.

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の統計ではなかった。紹介元が産婦人科医であるか 否かに着目して分類した結果を図3に示した。全体 で37.1%が産婦人科医以外からの紹介でであったが, 妊娠が関連すると産婦人科医からの紹介が多く,患 者は,まず,近医(産婦人科)を受診していること が解る。  A群,妊婦における急性腹症は適応があれば,手 術療法を行うことになるが,当院でも2例に手術療 法を行った。  B群,異所性妊娠群では,報告1,4,5,6)どおり卵管 妊娠が多かった。異所性妊娠の部位別頻度は自然妊 娠,不妊治療後の妊娠で異なるが,今回の結果は報 告(図6)とほぼ一致した。βhCG値は治療方針決 定の参考にはなる4−7)が,必ずしも臨床病態と一致 しない5)こともある。当院で行っている卵管温存療 法,すなわち,「卵管切開・病巣摘出術,卵管縫合術」 は,バゾプレッシン20単位の卵管間膜内局注下に行 い,卵管縫合後にメソトレキセート50mgを卵管壁内 に追加している。卵管温存術後の異所性妊娠反復率 が10 〜 15%程度存在する4)とされているが,今回の 検討でも14例中2例(14%)であった。しかし,正 常妊娠も2例あった。  C群,炎症性疾患群には,腫瘤形成疾患が13例含 まれており,これらはすべて手術療法が必要であっ た。この群に含まれている虫垂炎症例は外科に転科 後,抗生剤療法が行われ,軽快,退院した。  D群,腫瘤形成疾患は,患者地元の病院での加療 を希望されたため隣県の病院に紹介した1例を除き, 全例,手術療法を施行した。腫瘤形成性の急性腹症 においては,手術療法施行の決断が容易であること がわかる。  E群,卵巣出血群における治療方針の原則は保存 的療法1)で,基礎疾患を有する症例ではなおさらで ある。当科で手術療法を施行した症例は基礎疾患な しで,術前診断が卵巣嚢腫破裂であったためで,縫 合止血術を施行した。一般的に言われている様に, 左右差では右側に多く,性交渉との関連を70%に確 認した。  宮崎県北地区唯一の産婦人科2次施設である当院 の過去5年間の産婦人科急性腹症症例の解析を行っ た。5年間で148例の産婦人科急性腹症症例があり, 異所性妊娠が大半を占めていた。今回の解析症例は ほとんどが腹腔内出血を伴う急性腹症症例であった。 昨今,初期の異所性妊娠に対しては腹腔鏡手術を施 行する施設が多いが,当院では特殊例を除き手術方 法は,原則,開腹手術施行の方針としている。治療 成績,患者満足度は決して悪くはないと考えている が,今後,マンパワー不足の問題等が解決すれば, 腹腔鏡手術も治療法の選択肢のひとつに取り入れて いきたいと考える。 参 考 文 献 1) 日本産科婦人科学会.産婦人科診療ガイドライン婦 人科外来編2014.CQ109骨盤内炎症性疾患(PID) の診断.2014 : 20-1. 2) 寺内文敏. 救急対応のゴールドスタンダードとピッ トフォール 産婦人科領域. レジデント 2011;1: 16-22. 3) 保母るつ子,竹田 省.急性腹症の鑑別診断.日産 婦誌 2005;57:473-7. 4) 日本産科婦人科学会.CQ203異所性妊娠の取り扱 いは?産婦人科診療ガイドライン産科編. 2014: 114-8. 5) 藤下 晃. 子宮外妊娠の取り扱い −診断上の留意 点−.日産婦誌 1999;51:265-8. 6) 石川雅彦,高島邦僚.子宮外妊娠(卵管妊娠).日 産婦誌 2007;59:3-9.

7) Vaswani PR. Predictors of success of medical management of ectopic pregnancy in tertiary care hospital in United arab emirates. J Clin Diag Res 2014;8:4-8.

図6.異所性妊娠の妊娠部位と頻度,自然妊娠と不妊治 療とでの違い(文献1から).

参照

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