2 0 1 2 年 6 月 2 9 日
日 本 銀 行 福 島 支 店
【本件に関する問い合わせ先】
日本銀行 福島支店 総務課
電話:024-521-6353
東日本大震災以降の県内の個人消費の動向について
本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行福島支店まで ご相談ください。 転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。1.はじめに
県内経済は、昨年の東日本大震災を受けて大幅に悪化した後、足許では、海外経済の減速 等の影響を受けつつも、震災復旧関連投資や消費の増加から、着実に持ち直している。特に、 県内総生産の過半を占める個人消費は全体として増加しており、県内経済を牽引している。 本稿では、県内の個人消費について、東日本大震災(以下、震災)から足許までの動きを 整理したうえで、先行きの見通しおよび課題について考察した。2.震災から足許までの消費の動向
震災後から足許までの県内の大型小売店売上高(図表 1)をみると、震災のあった 2011/3 月は大幅な前年割れに転落。当初、県外避難者の増加から、個人消費は低迷が続 くことが懸念されたものの、実際には同 5 月以降、12 か月連続で前年を上回っており、前 年比ゼロ近傍で推移している全国とは対照的である。また、当県での売れ筋商品をみると、 震災から時間の経過とともに変遷しており、消費スタンスの変化を伴いながら消費の増加が 続いてきたことが窺われる。こうした変化を時系列で整理すると以下のとおりとなる。 (図表 1)大型小売店売上高(既存店ベース、前年比)の推移 ▽2011/3(震災後)、4 月・・・生活必需品の買い溜め 震災直後は、震災による住宅家財の損壊や電気・水道の供給寸断、物流網の途絶等から、 飲食料品や日用品(台所用品、衛生用品等)といった生活必需品の買い溜めがみられ、百貨 店やスーパー等の店頭では品丌足の状況が続いた。また、家電製品(薄型テレビ、白物家電 等)の買い替えのほか、原発事敀を受け、マスクや帽子等の放射線対策グッズを購入する動 きに加え、相次ぐ余震から防災用品に対する需要も高まった。 4月:12.3% (一昨年比:9.7%) ▲ 35 ▲ 25 ▲ 15 ▲ 5 5 15 25 35 └ 0 7 ┘└ 0 8 ┘└ 0 9 ┘└ 1 0 ┘└ 1 1 ┘└ 福島県 全国 (前年比、%) (年) (出所)日本銀行福島支店、経済産業省 (注)百貨店とスーパーの売上高の合計。福島県の2007~2008/2月は12先、2008/3~8月は11先、2008/9~2011/4月は10先、 2011/5月以降は9先ベース。▽2011/5~8 月・・・生活再建需要 5 月以降は、物流網の回復により極端な買い溜めや品丌足の状態は概ね解消し、購入の 目的が損壊した家庭用品や住宅家財等の買い替えといった生活再建需要にシフトしたこ とから、生活必需品を取り扱う百貨店、スーパー、ホームセンター、家電量販店では軒並 み売上が伸長した。百貨店、スーパーでは、下着等の日用衣料品に加え、防災グッズ、放 射線に対する丌安から飲料水や県外産生鮮食品を購入する傾向がみられたほか、調理に手 間の掛からない惣菜や加工食品を中心に売上が伸びた。ホームセンターでは収納用品やイ ンテリア用品、木材、工具、高圧洗浄機等で売上が大幅に伸びた。 自動車販売をみると、サプライチェーン障害や消費自粛の影響から、新車販売は大きく 落ち込んだものの、中古車は被災者を中心に生活の足として購入する動きがみられた。家 電販売は、震災により損壊した家電製品の買い替えに加え、放射線対策として布団乾燥機 や空気清浄機、エアコン等の売上が伸長した。旅行取扱をみると、震災後、レジャー自粛 等により大幅に減尐していたが、行政による県内旅行に対する助成制度の導入により、夏 休みを中心に主に家族層において旅行需要の動意がみられた。 ▽2011/9~12 月・・・生活再建需要(秋冬物関連商品)の継続、イベント消費の増加 9 月に入り、家財道具や家電製品の買い替えの動きは落ち着いてきたものの、秋冬物関 連商品において生活再建需要が引き続きみられた。百貨店では衣料品に加え、年末にかけ てクリスマス商戦向けの高額品の売上が伸長し、スーパーでは子育て世帯で放射線への懸 念から、県外産生鮮食品を購入する傾向が引き続きみられた。また、クリスマスや年末年 始を家族で一緒に過ごす傾向が強まったため、オードブルや寿司といった単価の高い商品 が売れたほか、1 軒当たりのお歳暮の贈答先数が増加し、購入金額も例年を上回る等、年 末にかけてのイベント時における消費意欲の高まりがみられた。さらに、気温の低下とと もに生活再建需要として冬物衣料や暖房機器の売上も伸長した。 ▽2012/1 月~・・・生活再建需要以外への消費の広がり 年明け以降は、生活必需品の買い揃えの動きが幾分落ち着いてきた一方、「安全・安心 なもの」、「多尐高くても使い勝手の良いもの、長持ちするもの」等の購入意欲の高まりが みられている。具体的には、百貨店ではスーパーブランド等の高額品が好調なほか、衣料 品は購入目的が従来の日用向けからお洒落を意識した流行物へとシフトしている。また、 「バレンタイン」や「母の日」等のイベント消費は例年以上の盛り上がりがみられている。 スーパーでは、県外産生鮮食品や惣菜・加工食品に加え、中高年層を中心に高級食材を購 入する動きもみられる。このように大型小売全体では、「ない物を購入したり、壊れた物
を買い替える動き」から「欲しい物を購入する動き」へと、生活再建需要以外の消費にも 広がりがみられるようになっている。自動車販売は、低燃費車の投入による需要喚起やエ コカー補助金等の政策効果から、前年を大幅に上回っている。家電販売は、被災 3 県(福 島、宮城、岩手)はアナログ放送終了が 2012/3 月まで延長されたため、3 月末まで薄 型テレビの駆け込み需要がみられ、先行して地上デジタル放送に移行し、2011 年 7 月 頃までに駆け込み需要が剥落した他地域とは対照的な動きとなった。また、スマートフォ ンや省エネタイプの白物家電への買い替え需要も続いている等、総じて好調な売れ行きと なっている。旅行取扱は、震災から 1 年が経過し、徐々にレジャー目的での需要もみら れ始めており、国内・海外旅行ともに一昨年を上回る水準まで増加。特に、中高年層を中 心に単価の高い欧州やハワイ等の海外旅行の取り扱いが増加傾向にある。 地域別の販売動向をみると、主要産業である観光業が低迷している会津地域は苦戦して いるが、中通りや浜通りでは、生活再建需要や避難者、応援者の流入等から、好調な売れ 行きとなっている。特に、いわき市や相馬市等では、惣菜や加工食品といった食料品から 家電製品、自動車等まで、幅広い品目で売上が増加している。 この間、子供向け商品は、震災直後こそ放射線対策として長袖や帽子が売れたものの、 その後は、県外避難の増加・長期化から、衣類やレジャー用品、玩具、本、自転車・三輪 車等の売上が低迷し、この傾向は足許まで継続している。
3.消費増加の背景
震災以降、当県の個人消費が好調な背景として、主に需要面で以下の要因が挙げられる。 (1)全国と共通する要因 ①省エネ意識の高まり 震災後のライフラインの寸断、ガソリン等の燃料丌足の経験から、省エネ意識が高まっ ており、節電・節水機能の高い冷蔵庫や洗濯機、LED 電球等への買い替え需要がみられて いる。乗用車購入では、従来以上に燃費性能が車種選択における重要なポイントとなって おり、エコカー補助金再開や低燃費車投入と相俟って自動車販売の増加に繋がっている。 ②「絆」を意識した需要 震災や原発事敀、県外避難という経験を通じて、人との繋がりの重要性を再認識したこ とにより、「絆」を意識した消費がみられている(図表2)。こうした意識の変化が、百貨 店では返礼ギフトや高額品、スーパーではクリスマスや年末年始でのオードブル、寿司等 の好調な販売に繋がった。また、「クリスマス」や「バレンタイン」、「母の日」等でのプレゼント需要が例年以上に高まったことも、「絆」消費の強まりによるものといえる。 (図表2)「絆」の強まり (ア)充実感を感じる時 (イ)震災後、強く意識するようになったこと (出所)内閣府(「国民生活に関する世論調査」2011/10 月調査) ③高齢者層による消費 近年、高齢者層において、従来よりも値の張る衣料品や高額品、高級食材を購入したり、 多尐単価が高くとも充実した内容の旅行ツアーが好まれる傾向がみられている。 消費動向に関する統計をみても、60 歳以上の消費性向*は目立って上昇している(図 表 3)。支出の内訳(図表 4)をみると、若年層に比べ摂取カロリーが尐ない高齢者の「食 料」に掛ける支出ウエイトは意外と高いほか、「被服及び履物」、「教養娯楽」も若年層と ほぼ同水準となっている。「アクティブシニア」や「スマートシニア」と呼ばれる高齢者 における趣味やファッションに対する支出を惜しまない消費スタンスが窺われる。 (図表 3)年齢別消費性向 (図表 4)年齢階層別の消費支出ウエイト * 消費性向は、勤労者世帯と無職世帯で加重平均した消費支出と可処分所得を用いて算出(消費支出額÷可処分所得)。消費性向が 100% 20 25 30 35 40 35 40 45 50 55 04年 05 06 07 08 09 10 11 家族団らんの時 友人や知人と会合、雑談している時 仕事に打ち込んでいる時(右軸) (%) (%) 0 20 40 60 80 節電に努める 災害に備える 家族や親せきとのつながり 風評に惑わされない 地域とのつながり 食品の安全面に気をつける 友人や知人とのつながり 寄付をする ボランティア活動をする 貯蓄に努める 消費を増やす その他 特にない 分からない (複数回答、%) (出所)総務省 (注)2011 年平均、2 人以上の世帯 60 70 80 90 100 110 120 130 140 -24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳 65-69歳 70歳-2000年 2005年 2011年 ( %) (出所)総務省 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 29歳以下 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~64歳 65歳以上 その他 教養娯楽 教育 交通・通信 保健医療 被服及び履物 住居・家具等 食料 (%)
(2)当県の個人消費が全国に比べても好調な背景 ①生活再建需要 足許では、震災から 1 年が経過したこともあり、生活再建需要の動きは収束してきてい るが、昨年 5 月頃から、震災等で損壊した家電製品や日用品の買い替えが増え始め、7、 8月頃にピークとなった。また、この時期、県内の温泉旅館等に 2 次避難していた被災者 が仮設住宅に移動しており、こうした動きも生活再建に必要な日用品等の販売が増加する 要因となった。さらに、衣類や冷暖房器具のような季節商品は避難者の生活再建需要等か ら、春・夏・秋・冬物と 1 年間を通じて堅調な売れ行きが続いた。 ②安全・安心志向の高まり 原発事敀による放射線問題への丌安が強い子育て世帯では、輸送コストを含めて県内産 に比べ割高となる県外産生鮮食品を購入したり、高齢者層でもトレーサビリティや原産地 表示が信頼できる高品質食材を購入する動きがみられる。また、幅広い層で震災前はみら れなかった飲料水の購入が定着している。なお、原発事敀の影響で作付け、収穫ができな かった農家や、従来農家から直接購入していた消費者がスーパーで米等の食料品を購入す る等、震災前にはなかった購買層の動きも小売店の売上増に繋がっていると考えられる。 安全・安心志向の高まりは食料品の購入以外にもみられており、例えば放射線問題から 屋外で運動することに対する丌安心理もあって、県内のフィットネスクラブでは震災前と 比べて新規加入者の増加ペースが高まったとの話も聞かれている。また、行政における県 内での子供達の体験活動を支援する取り組みが、県内旅行の増加に繋がっている。 ③単身世帯の増加、県外からの復興関連応援者流入による消費の増加 原発事敀により、家族世帯で母親と子供が県外に避難し、父親が単身で生活するケース や、復興関連の県外からの応援者・作業員の流入により、スーパーやコンビニエンススト アでは、「調理をせずにすぐ食べられる」惣菜や加工食品のほか、刺身や寿司といった酒肴 品等、比較的値の張る商品が好調。県外からの流入の多い沿岸部の飲食店や娯楽店では、 他地域に比べ売上高の増加率が大きくなっている。 ④メリハリを付けた消費 金融機関の預金動向(図表 5)をみると、震災を受けた保険金や賠償金等の外部資金の 流入もあって家計の手許資金が増加。つれて小売店等では高額品の購入時における現金決 済比率が高まっているほか、クリスマス・年末年始等でのイベント消費も増加している。 また、高齢者を中心に貯蓄を取り崩して旅行に出掛ける等、「ハレの日」には従来よりもお 金をかけて楽しむ傾向に加え、「多尐高くても良いもの、長持ちするもの」に対する志向の
強まりから、従来よりワンランク上の商品やブランド品を購入する動きもある。消耗品で ある日用品等では低価格商品を求める節約志向はあるものの、低価格一辺倒の消費から、 価格と品質・機能性とのバランスを考慮し、「良いものにはお金をかける」といったメリハ リを付けた消費にシフトしていることも、全体としての消費の増加に繋がっている。 ── この点、被災 3 県以外の地域では、震災直後にみられた定価販売、値引き抑制 の動きがすぐに解消し、再び低価格競争が激化していると指摘されている。一方、 当県では、売上好調が継続する状況下にあって、相対的には、値引き抑制、小売 店にとって利幅拡大の動きが未だに続いていることが窺われる。 (図表 5)県内の民間金融機関における実質預金の推移 ⑤雇用・所得環境の改善 当県では、震災復旧需要がみられている建設業のほか、製造業、卸小売業、サービス業 等幅広い業種で求人が増加し、2012/4 月の有効求人倍率は震災前(2011/2 月:0.49 倍)を大幅に上回る 0.92 倍まで上昇している(図表 6)。求人側と求職者側におけるニ ーズのミスマッチや避難者の就職がなかなか進まないといった問題は抱えているが、就職 件数が振れを伴いつつ増加し、雇用者数や給不が緩やかに持ち直す(図表 7)等、雇用・ 所得環境は徐々に改善している。こうした改善も消費の増加に寄不している。 (図表 6)県内の有効求人倍率の推移 (図表 7)県内の雇用保険被保険者数の推移 4月:13.1% ▲ 5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 └ 1 0 ┘└ 1 1 ┘└ 1 2 (前年比、%) (年) (出所)日本銀行福島支店 (注)県内に本支店を有する 13 銀行、8 信金、6 信組ベースで算出(県内店舗ベース)。 実質預金は、総預金から切手手形を控除したもの。 ▲ 20 0 20 40 60 80 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 有効求人倍率 就職件数(右目盛) (季調済、倍) (前年比、%) 485 490 495 500 505 510 515 520 525 530 ▲ 4.0 ▲ 3.0 ▲ 2.0 ▲ 1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 被保険者数 前年比(右目盛) (前年比、%) (千人)
4.供給サイドの取り組み
このように消費者の消費スタンスに変化がみられている状況下、供給サイドの取り組み をみると、多様化するニーズを捉え、顧客を獲得するための各種販売推進策が採られている。 (1)販売体制の柔軟な見直し 顧客の年代層や商品によって、品質志向と価格志向の 2 極化の動きがみられていることか ら、供給サイドである販売店では、引き続き安価な商品の提供に努める一方で、高級な惣菜・ 調味料等の品質重視の商品ラインナップを増やして、多様な需要を取り込む工夫を積極的に 行っている。例えば、地元の大手スーパーや百貨店では、新たに惣菜工場を増設するとか、 惣菜コーナーを拡大、リニューアルする等の動きが相次いでいる。 また、コンビニエンスストアでは、震災以降、高齢者や復興応援に係る単身者の来店増を 企図して、生鮮食品やレトルト食品のラインナップを増やし、既存の食料品スーパーよりも 「身近で便利」といった特長を全面に押し出した販売展開を進めている。 (2)シェア拡大に向けた店舗展開 中通りやいわき地域の避難者の消費ニーズを掴むべく、近隣地への出店を早めたり、人口 が集中する地域に重点的に出店するドミナント方式の推進等、シェア拡大に向けた戦略的な 店舗展開が一段と加速している。また、より人口が集中する地域として、北関東を中心とし た近隣県に出店したり、所得水準の上昇とともに成長が見込まれる新興国に積極的に出店す る地場企業もみられる。震災後の売上増加に伴う収益改善もこうした積極的な店舗展開を後 押しする一因となっている。 (3)訪問サービスの強化 近隣にスーパー等の店舗がなく、車での買い物も難しい世帯(所謂「買い物弱者」)に対し て、電話注文で夕飯向け弁当の無料宅配を行うサービスを開始したり、震災の経験を踏まえ、 食事面だけでなく、生活全般に対する支援サービスを検討する先もある。また、百貨店では、 富裕層の高額品に対する需要の高まり等を受け、外商部門を強化して「顧客の御用聞き」に 徹する等、店頭販売だけでなく供給サイドが出向いて、顧客の囲い込みに繋げようとする動 きを強めている。 (4)価格競争力強化による集客増 消費者では品質志向が高まる一方、価格志向も依然として根強い。このため、例えば、浜 通りの食料品スーパーでは、他県の同規模スーパーと提携し、スケールメリットを活かした 共同仕入れを行うことで、メーカーや卸売業者との価格交渉力を高め、消費者への安い商品の提供を実現している。