DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.36.5
顔の魅力判断とジェンダー環境
1―女子大学と共学大学での比較―
中 響 子
a,*・米 満 文 哉
a・山 田 祐 樹
b a九州大学大学院人間環境学府 b九州大学基幹教育院Facial attractiveness judgments and the gender environment:
Comparison between students at single- and mixed-gender universities
Kyoko Naka
a,*, Fumiya Yonemitsu
a, and Yuki Yamada
b aGraduate School of Human-Environment Studies, Kyushu UniversitybFaculty of Arts and Science, Kyushu University
Facial attractiveness is influenced by various personal and environmental factors. The present study investigat-ed whether the gender environment surrounding observers affectinvestigat-ed facial attractiveness judgments. Students at sin-gle-gender (58 females) and mixed-gender (59 males and 46 females) universities participated in the experiment. Each of 15 male or female faces was morphed, respectively, with a female or male averaged face derived from the other 14 female and male faces, resulting in feminized and masculinized faces. Observers were simultaneously pre-sented with one masculinized and one feminized morphed face and asked to judge which was more attractive. The results showed that students at a women’s university judged feminized male faces as significantly more attractive than did students in a coeducational university. The present findings suggest that adaptation to female faces in a sin-gle-gender environment increases the processing fluency of female faces, therefore inducing higher preference.
Keywords: preference, face perception, sexual dimorphism, attractiveness, gender
問 題 人はどのような顔を魅力的 (attractive) であると判断 するのだろうか。このことを明らかにするために,これ まで多くの研究がなされてきている。例えば,複数人の 顔を合成して作成された平均顔や,顔のパーツが左右対 称となっている対称顔が魅力的だと判断されやすいこと が報告されている (Langlois & Roggman, 1990; Perrett et al., 1999; Rhodes, Proffitt, Grady, & Sumich, 1998; Rhodes,
Roberts, & Simmons, 1999)。
また,男性性と女性性も顔の魅力判断に影響を与える 要因の一つである。ここでは,男性性 (masculinity) と は男性らしい特徴をもつ,女性性 (feminity) とは女性ら しい特徴をもつ顔のことを意味する。先行研究には,女 性性が高い男性の顔の方が魅力的だと評価されることを 示 す 研 究 (Perrett et al., 1998; Rhodes, Hickford, & Jeffery, 2000) と,男性性が高い男性の顔が魅力的だと評価され ることを示す研究 (Scheib, Gangestad, & Thornhill, 1999) の両方があり,一貫した結果は得られていない。しかし ながら,女性の生理周期 (Penton-Voak et al., 1999) や女 性の自身への魅力評価 (Little, Burt, Penton-Voak, & Per-rett, 2001) によっても男性性への評価が変化することも 示されており,男性の顔の男性性という魅力要因には評 価する側の特性や状態による影響も関与していることが 示唆されている。
しかし,顔の魅力判断は,魅力を判断される顔の特徴 Copyright 2017. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Graduate School of
Human-Environment Studies, Kyushu University, 6–19–1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812–8581, Japan. E-mail: [email protected]
1 本研究の実験実施にあたり, 祐子先生ならびに内
山朋美さんには多大なご協力をいただきまして,誠 に感謝いたします.また,実験に参加してくださっ た皆様に改めて心よりお礼申し上げます.
や魅力を判断する個人の特性だけでなく,魅力を判断す る人の周囲の環境からも影響を受ける。その一つに,対 象の顔が魅力を判断する人にとって親しみのある特徴を 持つかどうかが挙げられる。Perrett et al. (2002) は,自 分が生まれたときの親の年齢が,顔の魅力判断に影響し ていることを示した。彼らの実験結果によれば,30歳 以下の親から生まれた女性は,30歳以上の親から生ま れた女性よりも,男性の顔の魅力を判断する際に年齢に よる顔の特徴の影響を受けやすいことが示されている。 すなわち,顔の魅力判断は親の顔特徴の学習結果を反映 していることが示唆される。
また,Saxton, Little, DeBruine, Jones, & Roberts (2009) は,中学校のジェンダー環境の違いが顔の魅力判断に影 響するのかについて検討を行った。その結果,女子中学 校に通う女子生徒の方が共学中学校に通う女子生徒より も,女性性の高い男女合成顔をより魅力的だと判断しや すいことが示された。しかもこの効果は兄弟の有無に よって緩和された。すなわち,兄弟がいる女子は女性性 の高い男女合成顔を魅力的と判断しにくかった。このこ とから,個人のジェンダー環境の違いは,顔の魅力判断 に強い影響を持つと考えられる。 しかし,Saxton et al. (2009) は,ホルモンバランス等 により顔の男性性・女性性が著しく変化し始める第二次 性徴期の中学生を対象としていた。この時期の学校にお けるジェンダー環境の違いは,異性への評価に関して強 い影響を与えやすかった可能性がある。一方で,身体的 成長が落ち着き,ホルモンバランスが比較的安定した青 年後期から成人期における,魅力顔判断へのジェンダー 環境の影響は調べられていない。 そこで本研究は,大学生を対象に,ジェンダー環境の 違いによって顔の魅力判断に差があるかを検討する。ま た,個人それぞれに異性への親しみがあるかどうかにつ いての質問を行い,学校環境だけでなく,その他の場で の異性との親しみからも差が生まれるのかを検討をする。 もし大学生においてもジェンダー環境が顔の魅力判断に 影響するならば,女子大学に通う大学生は男性性よりも 女性性の高い顔をより魅力的であると判断するだろう。 方 法 実験参加者 女子大学: 大学1年生向けの授業を受講 している日本人大学生女性 58 名 (平均 18.98 歳,SD= 0.47) が実験に参加した。共学大学: 大学1年生向けの 授業を受講している日本人大学生女性59名 (平均19.10 歳,SD=0.51) と,日本人大学生男性46名(平均19.30 歳,SD=0.83) が実験に参加した。すべての参加者は実 験の目的を知らされていなかった。本研究は九州大学の 研究倫理委員会より承認を得て実施された (承認番号: 2016–013)。 回答方式 実験は集団で行われた。刺激は電灯をすべ て落とした講義室前方のスクリーンにプロジェクターに よって投影され,回答は配布された質問紙上に丸印をつ けさせることで得た。 顔刺激 顔の合成にはモーフィングソフトであるIn-terFace (Kramer, Jenkins, & Burton, 2016) を用いた。顔刺 激はSaxton et al. (2009) を参考にして作成した。すなわ ち,男性 15 名 (平均: 21.7 歳) および女性 15 名 (平均 21.4歳) の顔写真を個別に撮影し,男女それぞれ1名以 外の残り14名分の平均顔を計30パターン作成した。各 30名の個人の顔と男性・女性の平均顔を等しい割合で 合成し,30名それぞれについて男性の平均顔を合成し
た男性的顔と,女性の平均顔を合成した女性的顔を作成 し,実験に用いた (Figure 1)。 質問項目 質問紙は,顔の魅力判断課題60試行 (男女 合計30名分をそれぞれ2回ずつ) と,参加者の年齢,国 籍,兄弟構成,共学・女子校・男子校歴 (幼稚園∼大 学),交際経験 (「有」・「無」),一週間に異性と関わる日 数 (「0日」̶「7日」)を尋ねる項目,ならびに5件法 (1: 「全くない」̶5:「かなりある」) による異性への苦手意識 項目によって構成されていた。 手続き 顔魅力判断課題では,初めに問題番号と性別 が書かれたスライドが 5秒間呈示され,その後2つの顔 刺激 (30名のうち1名の男性的顔と女性的顔) が左右に 配置されたスライドが10秒間呈示された。最後に「Aと Bで「より魅力的だ」と思う方の記号に⃝をつけてくだ さい」と書かれたスライドが5秒間呈示された。顔刺激 は向かって左側に呈示された刺激の下に「A」,右側に 呈示された刺激の下に「B」と記されており,男性的顔 と女性的顔の左右の位置や30名の顔刺激の呈示順番は ランダムであった。本実験の前に口頭で教示した後に練 習試行で実験の流れを経験してもらった。書面ならびに 口頭の教示において,呈示された性別の顔として見たと きにより魅力的だと思う方を選択するよう要求した。 結 果 女子大学の学生と共学大学の学生男女ごとに,全試行 のうち女性的男性顔が男性的男性顔よりも,ならびに女 性的女性顔が男性的女性顔よりも魅力的だと判断された 割合を算出した2 (Figure 2)。未回答の項目があった6名 (女子大女子: 3名,共学女子: 3名) のデータは分析か ら除外した。女性的顔の選択割合について参加者グルー プ (女子大女子・共学女子・共学男子) を参加者間要因 とし,刺激顔の性別 (女性的男性顔・女性的女性顔) を 参加者内要因とした混合2要因分散分析を行った。その 結果,参加者グループと顔性別の主効果が有意であった (それぞれF (2, 154)=5.65, p<.005, ηp2=0.07; F (1, 154)= 148.13, p<.0001, ηp2=0.49)。 ま た, 交 互 作 用 が 有 意 で あった (F(2, 154)=3.46, p<.04, ηp2=0.04)。下位検定を 行ったところ,女性的男性顔条件においてのみ参加者グ ループの有意な単純主効果が見られた (F(2, 308)=9.01, p<.0003, ηp2=0.10)。Ryan法による多重比較を行った結 果,女子大女子の女性的男性顔の選択割合は,共学女子 (t(308)=2.57, p<.02, Cohen’s d=0.40) ならびに共学男子 (t(308)=4.15, p<.0001, Cohen’s d=0.63) のそれよりも有 意に高かった。 また,各質問項目についても検討を行った (Table 1)。 女子の実験参加者において,女子校歴や異性との関係性 や苦手意識に関する質問と女性的男性顔を魅力的だと判 断する割合についてカテゴリカル相関分析を行ったとこ ろ (Table 2),大学においてのみ有意な相関が認められ (r=.25, p<.05),そのほかすべての質問項目で有意な相 関は見られなかった (rs<.23, n.s.)。 男子の実験参加者において,男子校歴や異性との関係 性,苦手意識に関する質問と魅力判断の割合についてカ テゴリカル相関分析を行ったところ (Table 2),女性的男 性顔の魅力判断と交際経験の有無に有意な負の相関が見 られた (r=−.35, p<.05)。また,女性的女性顔の魅力判 断と中学の男子校歴,高校の男子校歴に有意な負の相関 が見られた (r=−.75, p<.01; r=−.66, p<.01)。 考 察 本研究の目的は,女子大学と共学大学に通う大学生を 対象にして,これまで中学生でしか検討されてこなかっ た顔の魅力判断に及ぼすジェンダー環境の影響が,大学 生においても生じるのかを検討することであった。 実験の結果,共学大学よりも女子大学に通う女子学生 の方が女性的な男性の顔を魅力的だと判断した。この結
Figure 2. Proportions of times female and male stu-dents judged feminized faces as more attractive. FS means female students at a single-gender university. FM means female students at a mixed-gender universi-ty. MM means male students at a mixed-gender uni-versity. Error bars represent standard errors.
2 本実験の分析に用いられたデータを https://figshare.
com/articles/dataset_NYY2017_xlsx/4956665にて公開し ている.
果はSaxton et al. (2009) の知見と一致している。すなわ ち,青年後期の学生であっても,ジェンダー環境の違い によって,魅力的に感じる異性の顔が異なることが明ら かになった。しかしながら,Saxton et al.とは異なり,本 結果はホルモンバランスの安定性とは独立して生じてい ると考えられる。本研究は,顔の魅力処理にはジェン ダー環境によって形成される顔の性別処理過程が関与し ていることを示唆する。ジェンダー環境が顔の魅力処理 に影響を与える背景として,処理流暢性による説明が可 能である。反復呈示やプライミングなどによって認知処 理が流暢に行われる対象にはポジティブな評価が与えら れる (Reber, Schwarz, & Winkielman, 2004) 。本研究の結 果は,女子大学に通う女子学生が女性の顔に高頻度に曝 露されることで,女性顔の処理が流暢化し,結果として 処理されやすい女性的男性顔の方が男性的男性顔よりも 魅力的と判断されたことを示唆する。 各質問項目と判断割合との関係性は,順応期間の影響 についてさらなる示唆を与える。異性との関係性や異性 への苦手意識と女性的男性顔の魅力判断との間には,有 意な相関が見られなかった (Table 2)。したがって,男 性との直接的な接触経験や,生育歴における男性顔の観 察頻度が女子大学の女子学生の顔の魅力判断を決定づけ たわけではないと思われる。これらの点は,ジェンダー 環境による性別への順応がこの現象に関わっているのか どうかを考えるうえで重要である。少なくとも,長期に わたる男性顔への順応が必要ではないことが考えられ, どれくらい短期的な順応でも本現象を生じさせることが できるかはその背後の認知的メカニズムを探るうえでの カギとなるだろう。もしかすると,女子大学において, 参加者の女子学生の周囲に女性のみが多数存在したこと 自体が重要であった可能性もある。すなわち,魅力判断 課題中に周囲に多数存在する女性顔によって,刺激は男 性顔であるにもかかわらず,女性側にシフトして知覚さ れた可能性がある。これには同時同化のようなメカニズ ムが想定されるが,それによって女性的男性顔がより女 性的になり,中性的に見えていた可能性がある。カテゴ リをまたいで平均化される対象への評価が高まることを 考えると (Halberstadt & Rhodes, 2000),この課題遂行中 の一時的なジェンダーの偏りに基づく同時同化によっ て,女子大学にて女性的男性顔の選択割合が上昇したこ とを説明できるかもしれない。だが,我々が行った補足 実験の結果,共学大学にて女子・男子のみの実験環境を 用意しても女子大学と同様の結果が得られることはな かった3。したがって,現在のところ,同時同化よりも 処理流暢性による説明の方が妥当である可能性が高い。 Saxton et al. (2009) の研究で見られた,兄弟がいるこ とによって女性的男性顔を魅力的だと判断する割合が減 Table 2.
Categorical correlation between the score of each item and proportions feminized faces judged as more attractive.
Participants Feminized faces
Question items Younger
brother brothers YoungerOlder sistersOlder Junior
high school
High
school University Romance Week Talk
Female Male faces .23 −.01 .00 −.04 −.01 .01 .25* .01 −.12 .01
Female faces .12 −.05 .05 −.04 −.45 * −.29 −.01 −.14 .16 −.21
Male Male faces .25 .07 .12 −.16 .14 .04 ̶ −.35* .18 −.01
Female faces .37 −.10 .03 −.01 −.75** −.66** ̶ −.25 .12 .16
Note. “Romance” indicates their experience with romance. “Week” indicates the number of days to talk with the opposite gender in a week. “Talk” indicates how hard to talk with the opposite gender. ** p<.01, * p<.05
3 補足実験の詳細については,https://figshare.com/articles/ Supplementary_Information/5047681を参照.
Table 1.
The number of single- and mixed- gender students who were single-gender school graduate.
Preschool Elementary school Junior high school High school University
Female students at single-gender university (N=55) 0 0 3 9 55
Female students at mixed-gender university (N=56) 0 1 3 4 ̶
少するという現象が,本研究では見られなかった。これ は,本研究が大学生を対象にしているため,バイトや サークルなど大学以外では異性に接する機会を持つ人が 多いことや,本研究に参加した女子大生の多くが高校や 中学では共学の学校に通っていたことが関係していると 考えられる。つまり,中学生を対象とした先行研究より も,本研究の女子大生の場合には異性との接触経験の多 様性が大きかった。それにより,兄弟の有無による影響 は顕著でなかったのではないかと考えられる。 一方で,同性となる女性の顔についての評価は,女子 大学と共学大学で差が見られず,Saxton et al. (2009) と は異なる結果となった。この不一致には,本研究が大学 生を対象とした点が,特に化粧という側面において関係 している可能性がある。大学生になると,首都圏の 81.3%の女子が毎日,またはほとんど毎日化粧をしてい る (猪俣・石垣・大塚,2005)。また,永柄・杉本・玉 置 (2008) によると,女子大生では全く化粧をしないと いう人は15%しかおらず,化粧を始めた平均年齢は16.7 歳であることが示されている。つまり,本研究の対象と なった日本人女子大生の多くが化粧を経験しており,雑 誌や化粧品店員,母親,友人など様々なものから得た化 粧の知識を参考に,魅力的な顔を意図的に作成するよう になる。そのため,女子大学と共学大学の両方の女子学 生の間で共通した魅力顔のスキーマが存在し,それが女 性的な女性顔であったと考えられる。その結果,両条件 の間に有意な差が生じなかったのだと解釈できる。ただ し,本実験では半数以上の参加者がすべての女性顔にお いて女性的女性顔を選択していたことから,これを天井 効果と見ることもできる。これは,モーフィング時に平 均顔との合成率が 50%であったことが関係していると 思われる。つまり,女性顔がより女性的になると魅力度 が上昇する効果はかなり頑健であり,天井効果を避ける ためにはより低い合成率を採用する必要があったのかも しれない。したがって,現時点では本結果が化粧による 魅力顔スキーマの共通性と天井効果のどちらに起因する のか区別できない。また,本研究の女性の顔刺激の元と なったそれぞれの顔写真は既に化粧された顔であった。 今後,化粧をしていない顔刺激や合成率の低い顔刺激を 用いた厳密な検討を行う余地があるだろう。 最後に本研究の限界を挙げる。まず,カテゴリカル相 関分析において,男子学生では中学と高校の男子校歴と 女性的女性顔の選択率に強い相関があることが示された が (Table 2),本研究では男子校出身者の人数が少ないこ とから (Table 1),これが偽陽性である可能性が残る。こ の点を厳密に検討するためには男子中学・高校出身者の データを多く集める必要があるだろう。また,本研究で は別学大学として女子大学の学生しか用いることができ なかったため,本研究の知見が男子大学の男子学生につ いても同様に生じるかは分からない。本研究のこの点 は,顔の魅力処理に関わるメカニズムに性差が存在する かを議論するうえで非常に重要である。しかしながら, そもそも日本国内に男子大学が存在しないため,この点 については検討することが非常に難しい。全学ではな く,学部ごとに見れば男女構成比が著しく異なる学部は 全国各地に存在しているため,今後はまずそのような学 部において同様の検討を行う必要があると考えている。 引用文献
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