理学療法 学 第 20巻 第 6 号 392
〜
398 頁 (1993年 )報 告
膝 前 十 字 靱 帯 再 建 術 後
の
早 期 筋 力 増 強訓 練
と
そ
の
効
果
に
つい て
*臼
田
滋
1)長谷川恵子
2)福 屋 靖 子
3)宇
川 康
二 4)江
口清
5)福 林
徹
4) 要 旨陳旧性 膝 前 十 字 靱 帯損傷で
,
腸 脛 靱 帯 をLigament−
Augmentation−
Device にて補 強 した二 重 支 持 再建 法術後患者 16 例に対して, 等速度性 訓練を早 期よ り取り入れた筋 力 増 強 訓練プロ グラム を施 行し
,
術後3 , 6
ヵ月で の膝 周囲筋の 等 速度性筋出力 を 評 価 した。
ピー
ク トル ク値 (60deg
/sec)の健 患 比 率 で は,
伸 展で3
ヵ 月66
%,6
ヵ 月91
%, 屈曲で そ れ ぞ れ81
,96
% と良 好な結果で あっ た。 伸展で の ピー
ク トル ク発生角度で は, 3 ,6
ヵ 月ともに伸展位へ の偏位が有意に認め ら れ た。 ま た屈曲位で の ト ル ク値で は,30
°
屈 曲位におい て ピー
ク トル ク発 生 角 度の偏 位の影 響を認め た。 以上の結果よ り,
膝 関 節 運 動 範 囲な どの訓 練 条 件に配 慮 する ことで等 速 度 性 訓 練は術 後 早 期よ り安 全 に施 行で き,
その有 効 性 が 示 唆 さ れ た。
キー
ワー
ド 膝 前 十 字 靱 帯 再 建 術t 筋 力 増 強 訓 練,
等 速 度 性 筋 力1
は じ め に これ まで膝 前 十 字 靱 帯 (以 下ACL
) 再 建 術 術 後理学 療法プ ロ グラム におい て は,
術 後 早 期か らの膝 伸 筋 群の 収縮が,
脛 骨の前 方 引 き出 し力 を生 じ,
再 建 靱 帯へ のス トレ ス と な る危 険性D2)が あ る ため,
術 後 早 期の膝 伸 筋 群に対す る筋力増 強訓練に は消 極 的で あっ た。
そのため“
TheResults of a Muscle Strengthening Program after
Anterior Cruciate I
.
igament Reconstructionl )
群 馬 大 学 医療 技 術 短 期大 学 部理学 療 法 学 科
Shigeru Usuda
,
RPT :College of Medical Care and Tech−
nolegy
,
Gunrrla University2)筑 波 大 学 附 属 病 院理学療 法 部
Keiko Hasegawa
,
RPT :Tsukuba University Hopitals)
筑波大学心身 障害学系
Yasuko Fukuya
,
RPT :Institute of Special Education,
The University of Tsukuba
の 筑波大学 臨床医学 系
Kouji Ukawa
,
MD,
Toru Fukubayashi,
MD :工nstituteof Clinical Medicine
,
The University Df Tsukubai)
埼 玉 医 科 大 学 リハ ビ リテ
ー
シ ョ ン科Kiyoshi Eguchi
,
MD :Saitama Medical SchQol(受 イ寸日 正993年 2月12日 /受 理 日 1993年 6月 29日 ) に術 後の安 静
,
固定,
活 動 性の低 下な どにより,
特に膝 関節 屈曲拘縮の発 生や膝伸筋 群筋力の低 下及び回復の遅 れが認められて いた。
しかし近年,
人工材料に よ る補 強 な ど によ っ て再建靱 帯の固定 力が増大し, 術後プロ グ ラ ム の 早期化が図ら れて いる3)。 プロ グラムが早期化さ れ た こ と に よ り, 膝 関 節 可 動 域 に関して は,
これ まで のよ う な 重度な屈 曲 拘 縮の発 生は 認め られ なくなっ て い る が,
膝 伸 展 筋 力の術 後 初 期の筋 力 低 下の防 止にっ い て は不 卜分な状 況と 思 わ れ る4)。 また術 後 膝 周 囲 筋 力の低 下に関して は,
最 大 筋 力の低 下のみならず,
最 大 筋 力 発 揮 角 度などの筋 出力パ ター
ン の変 化 も考え られる。
特に実 際の スポー
ツ活 動 場 面で,
様々 な関 節 角 度におい て,
運 動 速 度に応 じた適 切な筋 力 を発 揮させ る ことはス ポー
ツ活 動 復 帰に際して重 要であ る。 当 院 (筑 波 大 学 附 属 癘 院 ) におい て も,
陳 旧 性ACL
損 傷で 腸 脛 靱 帯 をLigament−Augmentation−Device
(以 下 LAD ) に て補 強し た 二重 支 持 冉 建 法5)術 後の症 例膝前
・
卜字靱 帯再 建術後の早期筋 力 増 強 訓 練 とそ の効 果につ いて393
に対し て, 術 後比較 的早期か ら等速度 性訓練を取り入れ た筋 力増強 訓 練プロ グラム を施 行して いる。 今回,
当院にお け るACL
再建術術後プロ グラム を紹 介し,
術 後 膝 周 囲 筋の等 速 度 性 筋 出 力 評 価に よ り,
その 効 果につ い て検 討し たの で報 告 する。
2
術 後 理 学 療 法 プ囗 グラム (図 1 ) 術後2
日 よ り持続 的他動運動 (continuous passive motion :CPM
)を開 始し, 1
週より膝 装 具 (膝 関節 過 伸展防止;Don −
Joy
装具使用) 装 着下に て部 分 荷 重を1
/2
許 可し,
自動 的 関 節 可 動 域 訓 練,
及 び 膝 関 節 屈 曲 位で の下肢挙上訓 練 (背 臥 位,
腹 臥 位,
側 臥 位 )を開 始 した。2
週で全 荷 重 と し,
ゴム チュー
ブ での膝関節 伸 展 (70°
屈 曲位まで), 屈 曲の抵抗運動, ハー
フ ス クワ ッ ト, カー
フ レイ ズを開始した。3
週 から は固定 自転 車,
サイ ベ ッ クス 350 (サ イベ ッ クス ジャパ ン社 )での等速度性 訓練を開始し,2
ヵ 月に て ト レッ ド ミル上 ラン ニ ング,
3
ヵ 月よりジョ ギング を許可 した。4
ヵ月より8
の字ラ ンニ ング,
ダッ シa,
ス トッ プ,
サイ ド ス テッ プ な どの ア ジリティー
トレー
ニ ング5)を徐々 に加 え,
6 ヵ月にて ス ポ
ー
ツ競 技 復 帰を目安と した。
等 速 度 性 訓 練にっ い ては術 後3
週 か ら,
サ イベ ッ クス350
に て デニ ア ル・
シ ン・
パ ッ ド (サ イベ ッ クスジャ パ ン社,DSP
350
)を使 用し,70
°
の伸 展 制 限 範 囲で膝 関 節伸展一
屈曲運 動 (伸 展は最 大.
ド運 動 )を開 始し た。 角 速度は60 ・90 ・120 ・
150・
180deg /sec に て各 10回 か ら開 姶し,
4週か らは伸 展制限 を50°
と し た。 8週 か ら は遍 常のパ ッ ドを使 用 し,
各 20回 まで運 動 回数を 増や し,
3ヵ月か ら30
°
の伸展制 限範 囲で伸展 も ほ ぼ最 大 努 力にて訓 練 を継 続し,
よ り高速度 (最 大300deg
/sec ま で)での運動も追加し た。 な お患 側の膝 伸 展 筋 力は術 後3
ヵ月で健 側の6e− 70
%, 6
ヵ月で 80% 以 上を目標と し た。3 対象
及 び方法
対 象 は 陳 旧 性 ACL 損傷で,1990
年8
月か ら1991
年 3月の期 間に,
腸 脛 靱 帯を LAD にて補 強し た二重支持 再建法を施 行された症例16
例である。 対 象者の内 訳は 男性10
例,
女性6
例,
手術側は右8
例,
左8
例であっ た。 年 齢は平均 19.
6 ±3,
18 歳,
体 重は平 均67,
8 ±16.
16kg,
身 長 は平 均 167,
8 ±8,
80
cm であっ た。 ま た 16例 中4例は再 建 術 と 同 時に鏡 視 下 半月板部 分切 除 術 が 施 行 さ れていたが,
術 後プロ グラムは他の患者と同 様に進行された。 対 象のス ポー
ツ活 動度で は競 技レベ ル8
例,
レクレー
シ ョ ン レベ ル4
例,
その他 4 例で あ っ た。
筋 力評価は術後3
ヵ 月と6
ヵ月で サイベ ッ ク ス 350 を 使用し,
角速度 60,
180 deg〆sec で の膝 関 節 伸 展一
屈 強 筋 出力の測 定を行なっ た。 運 動 範 囲は 3 ヵ月で は30° ま で の伸 展 制 限と し,
6 ヵ月で は 10°
と し た。 対 象 者に シー
ト上 椅 坐 位 を と らせ,
体 幹 及 び 大腿部を固定し,
両 手術 2」墨 3i 固 4 週 8 週 3Jl 6月 図1 術後理学 療 法プロ グラム394
理学療 法学 第 20 巻 第6
号 上 肢は両端の握りを 握 らせ た。
運 動は膝 関 節 90° 屈 曲位 か らの伸展一
屈曲運 動を4回の練 習 後 連 続4回,
で き る だ け速く施行し た。 この際運動 中の足関節にっ い て は特 に定め な かっ た。 得 ら れ た トル ク波形より,
膝伸展,
屈曲そ れ ぞ れにっ い て その最 大 ピー
クトル ク値 を 測 定し,
体 重 比 (ピー
ク ト ル ク値 /体 重× 100;ft−
lbs/lbs;% ),
健 患 比 率 (患 側の健 側に対 する割 合 :% ) を求め た。 また最 大 ピー
クト ル ク値の発 生角度 (angle of peak torque, 以下
APT と略 す ) と伸 展にっ いて は
30
° 及 び60
°屈 曲 位で の ト ル ク値の 体重 比 (ト ル ク値 /体重 × 100;ft−
1bs/Ibs
:%)を求め た。 な お統 計 学 的 分 析はすべて の測 定 値に おい て平 均 値を 算 出し,
健 側一
患 側 間にっ い て t検 定を用い て検 討し た。 ま たピー
クト ル ク値 (体 重 比 ) 及 び 健 患 比 率に関 して は 性差につ い てもt 検定 を用い て検 討 した。4
結 果 (1
)関節可動域につ い て 術 後3
ヵ 月に お ける平 均 伸 展 可 動 域は一 1.O
±2.
7°
,
平 均 屈 曲 可 動 域は 150.
6
± 11.
O°
で あっ た。 ま た6
ヵ月に おい て は伸展0.6
±1.7b,
屈曲158.1
±5.4
°
であっ た。
(2)ピー
クトル ク値 (体 重 比 )と健 患 比 率 結果 を表 1に示し た。 ピー
ク トル ク値の術後3
ヵ月で はt すべて におい て患 側 値が健側値に比して有意に低 下 し て お り,6
ヵ月で は,
伸 展に おい て のみ患側値が有意 に低下して い た。 ま た,
特に伸 展における健 患 比 率で は,
60deg
/sec の3
ヵ 月で 66%,
6 ヵ月で 91%,
180 deg/sec の 3 ヵ月で 72%
,
6 ヵ月で92%であっ た。 ピー
ク ト ル ク値の性 差に関し て は,
術 後 3 ヵ月で は 60deg /sec での患 側の伸 展 以 外 すべ て におい て有意に 女性の方が低値を示し, 6 ヵ月で は180deg /sec での両 側の伸 展,
屈 曲 と もに女 性の 方が低値を示して いた。 健 患 比率に おい て は差は認め られ な かっ た。 (3
)APT
結 果を表2
に示し た。 術 後3
ヵ 月で の伸 展で は,60
deg
/sec におい て患 側 値が有意に伸 展 位に偏位して いた。 術 後6
ヵ月では,
60,
180deg /sec と もに患 側値の伸展 位へ の偏位が認められた。 屈曲におい ては術後 3 ヵ月で は,
60,
180deg/sec と もに患側値が有意に屈曲位に偏 位し, 術後6
ヵ 月で は,60deg
/sec に お いて患側値の 伸展位へ の 偏位が 認 め ら れ た。 (4
>30
° 及び60
° 屈曲位で の トル ク値 (体重 比) 結 果を表3
に示し た。 術 後3
ヵ月で の 60°
屈 曲 位で は 有 意に患側が低 下 して いた。
術 後6
ヵ月では,30
° 屈 曲 位での60deg
〆sec において健 側,
患 側 聞に有意 差が認 め られ た。
表 正 ピー
ク トル ク値 (体 重 比 ) 及び健 患 比 率とそ の性 差 (平 均±標 準 偏 差,
単 位 :% ) 健 側3
ヵ月6
ヵ月 患 側3
ヵ月6
ヵ月 健 患 比 率3
ヵ月6
ヵ月 60deg /sec 伸 展 屈 曲18e
deg
/sec伸 展 屈 曲 男 性 女 性 男 性 女 性 男 性 女 性 男 性 女 性
91
±1295 ±1083 ±13†48
±IO54 ± 839 ± 6t†65
±1272
± 553 ±12tt38
土943
±729
± 3††89
±1695 ±1379 ±1851 ±1356 :ヒ1343 ±1065
±1574
±1052 ±12†↑ 40±1145
±931
± 8†60
±12* * 81±17* 64:t13 87:ヒ15 53±10 71±1939t
:10”
49
:辷13 45:ヒ 7 53:ヒ11 30± 6†† 41±13 46±9
* * 51± 838 ± 5tt33
±9
*38
±725
± 6††60
±13
* * 66±1049 ±12↑38
±1243
±930
±12† 66±1268 ±1364 ±1181 ± 1284 ±1477
± 972
±1071
±1073 ±1288 ±1890
±2284
±12 91±1391 ±1391 ±1496 ±1397 ±1294
±1592
±889
± 895 ± 895 ±1296 ±994
±18’
:p〈Q、
05,
健 側 値との有 意 差*
’
:pくO.
01,
健 側 値との有 意 差 † :p<O.
05,
男 性 との有 意 差 †tlp <0.
Ol,
男 性 との有意 差膝前十字靱 帯再建 術後の早 期筋力 増強訓練と その効果につ いて
395
表2
ピー
ク トル ク発生角度 (平均±標準偏 差,
単偉:°) 表3
30,60
° 屈曲位で の伸展 トル ク値 (体 重 比 ) (平均土標 準偏差,
単位:%) 健 側 患 側 3カ月 6ヵ月 3ヵ月 6ヵ月 健 側 患 側 3ヵ月 6ヵ月 3ヵ月 6カ月 60deg /sec 伸 展 屈 曲 180deg/sec 伸 展 屈 曲 66± 5 73:ヒ6 59± 9* 58 ± 7* * 40±12 40ニヒ12 46± 3* 34± 5’ * 53± 5 59:辷 7 53± 5 47 ニヒ9* * 46±IO 44:辷 9 56ti: 7ny*
43± 7 30° 屈曲位 60deg/sec 180deg 〆sec 60° 屈曲位 41士1145 ±!4 50±15’
48±12 60deg/sec 85±14 78::21 58±15*’
78±17 180deg /sec 63±上3 64±14 42±ll*
s
52コ:正4*
:p〈O.
05,
健 側 値 との有 意 差*
* :p<O、
Ol,
健側値と の有意 差 pく0.
05,
健 側 値 との有 意 差’
*
:p<O.
Ol,
健側値と の有意 差5
考 察ACL
再 建術 後の理学 療 法プロ グラムを検討する際に は,
手 術 後の固 定 及 び安静が引 き起こす 関節可動域 制限 や筋 力 低.
ド,
全 身 持 久 力の低 下 等を可 能な かぎ り防止 す る こと と,
再 建 靱 帯の強 度,
さ らに関 節 運 動 や筋 収 縮に よ る再建 靱帯へ の ス トレ ス について考慮 する必要がある。 特に術後 初期 (術 後3
ヵ月まで)の プロ グラム におい て は,
医学 的管理下に おい て関節可動域の 改善と, 活 動度 減少によ る筋力低 ドを防止 すること が主た る目 的で あり,
その後再建 靱帯の強度増大に伴っ て,
ス ボー
ッ復帰を目 指し た筋 力の増 大と全 身 運 動の活 性 化が図ら れ る。 近 年の手 術 手 技の進 歩とこれに伴う術後リハ ビ リテー
シ ョ ンの早 期 化に よ り,
以 前より 早期の ス ポー
ッ復 帰が 可 能 と な っ て きて い る。Shelbourne3
)のAccelerated
rehabilitatior1 に おいて は術 直後 からのCPM
に よ る膝 関 節 可 動 域の確 保と装具装 着下での全荷重負荷, そ して 種々の荷 重 位で の下肢筋の筋力増 強訓練が導人さ れ術後 6 ヵ月で の スポー
ツ復 帰が目標と さ れて い る。 ま た国 内 におい てもプロ グラム の早 期 化と,
特に筋 力に関して の 効 果が報 告さ れて きて い る&8)Q 当 院プ ロ グラムに お い て は再 建 靱 帯に加わる負 荷に関 して,
(1)45°
以 下の伸 展 位で の伸 筋 群 収 縮 は強い負 荷 を 与え ること。
(2)0°
まで の他 動 的 膝 関 節 伸 展は比 較 的 負荷が小さい こ と。
(3)膝 屈 筋 群の.
単独 収 縮で は負 荷が小さい こと。
(4)固 定 自転 車や膝 屈 曲 位で の ス ク ワ ッ トは,
ジョ ギ ン グ な どに比 較 して安 全で あるこ と1)2)9)な ど を考 慮し,
術 後 早 期よ りCPM の施 行および 自動 的 関 節 可 動 域 訓 練,
装 具 装 着 下で の全 荷 重 負 荷,
種々 の筋 力 増 強 訓 練 を 開 始 し,
特に等 速 度 性 訓 練 も積 極 的に取り入れ て い る。
等 速度性 運 動による脛 骨の前 方 引 き 出 し力につ い ては NisellらiO)及 びKaufman ら11)に よ り報 告されている が,
これら によ ると膝 仲 展 運 動に おい て角 速 度 増 大に よ り前 方 引 き出 し力は減 少 し,
パ ッ ドを 近位にする こ と に よっ て も減少する。 そ して角速度30
deg
/sec に お け る前方 引き出し力の最大値は膝関節45
° 屈曲位で100
% (体重比 )で あ り
,60,
18e deg/sec で 25°
屈 曲 位で それぞれ 最 大 20,
30% (体 重 比 ) の引 き 出し力が生じ る と報 告 されて いる。
つ まり低 速 度の方が大 きな前 方 引 き出し力 を生 じ,
60,
180 deg/sec で の仲 展で は,
固 定 自転 車や 階 段 昇 降 時 と比 較 して若 千 大 きい前 方 引 き出 し力が生じ ることに な り, ほ ぼ歩行 時と同等で あ る。 ま た膝関節屈 曲 運 動において は,
い ず れの 角速度において も前 方 引き 出し力は生じて いない。 加えてJohnsoni2
)は,
デュ ア ル・
シ ン・
パ ッ ド使用によっ て前方引き出し力が有意に 減 少 する と報 告して いる。 従っ て等 速 度 性 訓 練は,
訓 練 時の角速 度,
膝関節 運動範囲, 運動回数な ど を考慮す る ことに より,
術 後 早期よ り術後プロ グラム に導入で き る もの と考え ら れ る。 今 回の結果で は,
膝 関節 可動 域に関 して は術後6
ヵ 月 に て ほ ぼ正常可動域に達しており, 良 好な結 果で あっ た。 これ は対 象 者が陳旧性 損 傷患者で あ り,
術 前 可 動 域に大 き な問題が な かっ た影響も考え ら れ る が,
術 直 後か らのCPM
の 使 用や自動 的 関 節 可 動 域 訓 練 施 行の効 果と考え ら れ た。 筋 出 力にっ いて は,
まず 伸 展 制 限 ドとい う測 定 条 件 を 考慮する必要が あ る。 健常者を対 象と した測 定 結 果にお いて は,
今回と同 様の伸 展 制 限によりピー
クトル ク値に は有 意な影響は な く,APT
にっ い て は伸 展で は伸 展 制 限が大きい ほ ど伸 展 位にや や偏 位 する傾 向があり,
屈 曲 で は伸 展 制 限が大きい ほ ど有 意に屈 曲位に偏 位 する こと396 理学療法 学 第
20
巻 第6
号 が認め ら れ た13) こ の点を考慮して筋 出 力に つ い てみ ると,
まず 伸 展 ピー
ク ト ル ク値の健 患 比 率で は術 後3 ヵ月で60
% 以.
ヒ で あり,
さ らに 6 ヵ 月に おいて も90% 以上と当院での 目標 値 を 越 えており,
ま た他の報 告3)4)6)と比較して も順 調な回復で あっ た。 ま た屈曲にっ いて も3
ヵ 月で80
% 以.
.
L
, 6
ヵ月で 95% 以上と良好な結果で あっ た。 ピー
ク トル ク値につ い て は,
当 院に おい て は特に 60deg / sec で の伸 展で競 技 復 帰 時に体 重 比で 100% 以上を目安 に して い る が,
6 ヵ 月の時 点でも健 側で平 均 約90
%,
患 側で約 80% と若 子 低い傾 向で あり, 競 技復帰を考慮 する と,
全 体 と して は筋 力の絶対 値は ま だ不.
.
i
.
分な状況 である。 ま た3
,6
ヶ 月で患側筋力は増 大してい るもの の,
健 側 筋力 が変 化してい ない こと か ら も,
健 側 下 肢 筋 力増強訓 練も積 極的に行なう必 要 性が示 唆 された。 また 訓 練 頻 度と して は,
術 後2
週で の退 院 後 週 3回の外 来通 院に て理 学 療 法を施 行してお り,
ホー
ム プ ログラム (下 肢 挙E
訓練,
チュー
ブ訓練な ど)の指導も行なっ てい る が,
こ の訓 練 頻 度の不足が一
因であ る と考え られ る。性 差につ いて は, 田邊 4)は 特に伸展筋 力に関して, 男 性に比 較 して 女 性で その健 患 比率の回復が劣っ て い る と 報 告しているが
,
今回の結 果で は,
ピー
ク トル ク値 (体 重 比)に関して は伸展 屈曲ともに男 性に比 して女 性の 方が低値を示す傾 向で あっ た が,
健患比 率に関 して は有 意差は認められな かっ
た。APT で の屈 曲で は
,
健 常 者での結 果ls)を 考慮 する と 健 側 患 側 間で は有 意 な 傾 向は認 められ なか っ た。 伸展に おい ては術後3
及び6
ヵ月と も に患側で は健側に比 して 有意に伸展方 向へ の偏位が 認 め ら れ た。 健常 者に関 する 他家の 報告に よ る と, 伸展のAPT
は60°
前 後と さ れて おり14−
16),
筆者の結 果で は約 70° であっ た13)。 今 回の健 側の結果はこれ ら と ほ ぼ同じ値を とり,
患 側におい て は,
運 動 開始 初 期で の速や か な筋 出力 発 揮が健 側に比して劣 る結 果で あり,
他のACL
損 傷 患 者につ い て の報 告17〕で も今 回と同 様の傾 向を認めて い る。
これは反 応時間な ど との関 連が あ る と考えられ,
特に スポー
ッ活 動 場 面にお い て は,
必 要な運 勤 速 度に応 じて速やかな筋 力の発 揮が 要 求される た め,
競 技 復 帰に際し て は最 大 筋 力の改 善と ともに重 要な要 素であろう。
30,
60°
屈 曲 位で の トル ク値で は,
609 に おい て は ピー
ク ト ル ク値と同様の傾 向 を 示 して いたが,
30° にお い て は患 側の方が大 きい傾 向で あり,
APT の仲展位へ の偏 位の影 響と考えられ た。 Kannus ら18)に よると,
今 回の測定 角度と は異な る が,va
15.
75°
屈 曲 位で の トル ク値はピー
ク トル ク値との高い相 関 関 係が認め られた と 報 告して いる。 今回の結 果で は3
ヵ 月で の 60°
屈 曲 位に おける トル ク値 は ピー
ク トル ク値 と高い相 関 関 係(
0 ,
83− 0.
97) が認められたが,
6 ヵ月に おい て は30,
60°
屈 曲位 と もに相 関 関係は認め られ な かっ た。 特定の 膝 屈 曲 角 度において発 揮可能な筋力 は,
競 技 種 目によっ て は競技復帰に際し て重要な指 標と な る と考えられ,
今 回ピー
クトル ク値 と は異な る傾 向を示 した た め,
屈 曲 位 で の トル ク値を測定する価 値が あると考え られる が,
今 後の追 試が必 要である。 以上の筋 出力の結 果より,
等 速 度 性 訓 練 を 取り入れ た 術 後 早 期からの筋 力 増 強 訓 練の有 効 性 が示唆され,
ま た 最 大 筋 力の み な らず, APT や特定の膝屈 曲角度で の ト ル ク値 な どの筋出力カー
ブに着 目した多 面的な筋 出力分 析の必要 性が示唆さ れ た。 しか し,
過 剰な訓 練によ る膝 蓋靱帯炎発 生の問 題や,
運 動を高 速 度で頻 回に施 行 する こと に よ る骨 トンネル出口部 分での機 械 的 摩 擦に よ る冉 建 靱 帯の磨 耗の危 険 性18),
膝 伸 展 筋 群の強 力な収 縮に よ る再建靱帯に加 わ るス トレ スなどの問題 が あり,
かつ 前 述 し た等 速 度 性 運 動 時の特に脛 骨の前方 引き出し力に関 する報告le−
L2)を考 慮 す る と,
等 速 度 性 訓 練 施 行に際して は,
(1)伸 展 制 限 下で施 行 し,
経過と と も に徐々に伸 展 制 限 を 小さくすること (特に30
〜45
° 以一
ヒの伸 展 域 で は前 方 引 き 出 し力が増大する),
(2
)術後早 期で は デュ
アル・
シ ン・
パ ッ ドを使 用 する こと,
(3)角 速度 は60deg
/sec 以 上の速 度を用いること,
(4)運 動 回数 は徐々 に増 加 させ るこ と,
などに十分 配慮 するこ と が重 要で ある。
今 後の課 題 と して,
今 回の結果は等速度性訓練を含む 術 後プ ロ グラム全 体による効 果で あ る た め,
個々 のプロ グラム に よる効 果 を 明 確にしてい くこと が 必要で あり,
プロ グラム の内容に関しては, 絶対筋力だけでなく筋 出 力の 時 間 的 要素の改善,
健側を含め た積極 的な訓 練プ ロ グラム や , 術後早期か らの荷重 位で の下 肢 筋の筋 力 増 強 訓 練 方 法の 開 発 及 び導入,
訓練頻 度の 増加等の検討を要 する。 ま た, 受傷前の スポー
ツ活 動レベ ルや性 別な どの 対 象の条 件を そ ろ え,
さ らに長 期 成 績との関 係,
筋 力と パ フ ォー
マ ン スとの関 係な ど を検 討して い くこと が必 要 で あ る。
本論 文の 要旨は第27
回日本理学 療 法一
1
’
r学 会におい て 報 告 した。
膝 前 十 字 靱帯再建 術 後の早期 筋 力 増 強 訓練とそ の効果にっ い て
397
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398
ve7rsza\
eg
20
igeg
6
e
<Abstract>
The
Results
of aMuscle
Strengthening
Program after
Anterier
Cruciate
Ligament
Reconstruetion
Shigeru USUDA, RPT
College
of
MizdicalCare
and 7]gchnolqgs,,Gunma
Uitiversity
Keiko
HASEGAWA,
RPT
71suhuba
[1deiversity
llbspiftzl
Yasuko
FUKUYA,
RPT
institute
of
SPecial
Edzacation,The [hziversit),of
Tlsuleuba KoujiUKAWA,
MD, Toru FUKUBAYASHI, MD,institute
of
Clinical
Mbdicr'ne,
llhe
Uitiversity
of
Tsuhuba
Kiyoshi EGUCHI, MD,Saimma
Mladical
School
The
purpose
of thisstudy was to evaluate the results of a mucle strengthening program after anterior cruciate ligament{ACL)
reconstruction using an iliotibialband combined with aligament
augmentationdevice,
Isokineticexercise was performedfrom
an early stage ofthe
muscle strengthening program after reconstruction.
We
measureci theisokinetic
peaktorque,
the angle of peak torque,and the angle-specifictorque at
30
and60
degrees
ofknee
flexion
(speed
of movement 60 and 180degrees's-i)
at 3 and6
months afterACL
reconstructionin
theknee
extensor andflexor
muscles of16
patients.The ratios of the peak torque on the affected side to that on the unaffected side
(60
degrees ' s-i) were 66% at 3 months after reconstruction, and 91% at 6months inthe knee
ex-tensor
muscles, and81%
at 3 months and96%
at6
months inthe
knee flexormuscles.The
angle of peak terque inthe knee extensor rnuscles was shifted toa point laterinthe range of motion atboth
3
and6
months after reconstructien.At
the
point,the
angle-specific torque at30
degrees
ofknee
fiextion
correlated with the shiftin
the angLe of peak torque,and thatat60
degrees of knee
fiexion
correlated with thepeak torque.These results suggest that this prograrn offers advantages