2012/01/05 00:00 増田 克善=日経メディカルオンライン/デジタルヘルスOnline 委嘱ライター 医療 : 事例研究
市立大村市民病院(長崎県大村市):血糖測定器とHISのシステム連携により業務効率と
安全性向上を両立
電子カルテへの血糖測定データ転送システムで血糖測定ワークフローを
変革
市立大村市民病院(以下、大村市民病院)は、病棟での血糖測定に関する業務負荷の軽減と測定結果の入力ミス を削減することを目的に、病院情報システム(HIS)と血糖測定システムを連携する実証実験を実施。血糖測定器から 直接HISの入院経過表へ血糖測定データを転送するシステムを構築し、データ手入力の煩わしさと負担を排除するこ とによる業務効率向上達成と、データ入力ミスをなくす安全性の両面を考慮した血糖測定標準ワークフローの確立を目 指している。 医療現場のIT化は、オーダーリングや電子カルテの基幹システムを筆頭に、病棟看護部門や検査部門などに拡大 し、それぞれの部門情報システムも連携されて情報の一元化が図られるようになった。また、病院情報システム (HIS)と放射線部門などの医療機器においては、いわゆるラストワンマイルはオンライン化された。ところが病棟看護 部門で日常的に運用される医療機器のラストワンマイルは、依然として看護師の人手に頼っている。 体温や血圧等のバイタルの検査業務では、看護師は患者のベッドサイドで検査結果を一時的にメモに取り、ナース ステーションなどでメモを見ながら電子カルテに転記するのが一般的。血糖測定も同様で、測定したデータはノートPC やPDAなどを利用してベッドサイドで入力するか、ナースステーションの端末で入力している。こうした業務には、膨大 な検査結果を手作業で入力・転記する作業が大きな負担となり、入力作業に忙殺されることで引き起こされる業務の 遅れやケアレスミスが医療事故の要因となる恐れもある。 大村市民病院がチャレンジしたHISへの血糖測定データを自動で転送する仕組みは、看護師をデータ入力業務から 解放と測定業務に内在するさまざまなインシデント要因の排除を両立させ、血糖測定ワークフローを変革するものとい える。あふれかえる機器で増大する操作負荷、病棟看護師の業務環境改善は急務
1951年に開院した大村市民病院は、2008年4月に指定管理方式(公設民営)に移行し、地域医療振興協会が運 営している。人口9万2000人の長崎県大村市で、一般病床284床の規模ながら国立病院機構 長崎医療センター (643床)とともに同地区の基幹病院的な役割を持つ病院である。1995年に開設した県内初の心臓病血管センター (342床、透析20床)は、大学病院と肩を並べるほどの充実した機能・施設を持ち、循環器系・心臓血管系の治療に豊 富な臨床例を有しているのが大きな特長。年間約200例の心臓血管手術(うち開心術は約100例)をはじめ、600~ 700例の心臓カテーテル検査、110~140例の血管形成術/ステント植込み術の実施など多くの実績を誇っている。 一方、2009年には病棟の一部を回復期リハビリテーション病棟として改修し、大村市はじめ県央地域のリハビリテ ーション病床不足に対応。長崎医療センターと連携した回復期医療の提供体制を整備している。現在、理学療法士16 人、作業療法士14人などリハビリ部門スタッフは40人で、毎年15人前後を増員している。 その大村市民病院のIT化を企画・推進しているのが、医療情報企画部長の柴田真吾氏だ。長崎地域医療連携ネッ大村市民病院の外観 [画像のクリックで拡大表示] 今回の実証実験で使用したテルモの血糖測定器 「メディセーフフィットプロ」 [画像のクリックで拡大表示] トワークシステム「あじさいネット」を立ち上げたキーマンの1 人として知られている。その柴田氏が、ITによる業務効率化 や医療安全の向上を推進するなかで解決すべき課題として、 病棟看護師の業務環境があまりに未整備で必要以上の業 務負荷を強いている点だと指摘する。 「病棟看護師は、バイタル測定・モニタリング機器、各種ポ ンプ類やベンチレーターなどの医療機器、さらにはノートPCや PDAといったIT機器に囲まれて業務を行っています。場合に よっては同じ測定器ながらメーカーが異なるために、それぞれ のオペレーションを習得して使いこなしており、まさに病棟看 護師は“スーパーマン/スーパーウーマン”と言っても過言で はありません。こうした過剰なオペレーション負荷を軽減し、 安全管理の視点で業務環境を改善していかなければならな いという強い思いがあります」(柴田氏)。 同病院は公設民営化に移行した際に、それまで使用してき た輸液ポンプやシリンジポンプを、すべて同じメーカーの同一 機種に統一して、オペレーションによる安全性の向上と操作 法習得にかかわる負荷を軽減してきた。同様に血糖測定器 も、病棟ごとに異なる数機種を運用していたものを1種類に統 一して、看護師の業務環境を多少なりとも改善しようと試みて きた。
血糖測定・データ入力に伴う業務負荷と安全
性にリスク
大村市民病院では、1カ月の血糖測定回数は少ない病棟 で約300回、多い病棟では2000回を超えており、一般的な 施設の平均とされる3000~4000回とほぼ同等の測定を実 施している。従来の血糖管理は、NECのMegaOakHRの温 度板で管理することを基本としている。病棟看護師は医師の測定指示に基づいて血糖測定器で計測した後、患者をバ ーコード認証した上でMegaOakHRの当該患者の温度板に看護情報携帯端末(PDA)でアクセスし、測定結果を入力 する。 看護師は血糖測定器とPDAを持参する必要があるし、当然ながら患者ごとにバーコード認証して温度板を呼び出し、 測定数値を入力という作業を繰り返さなければならない。データ発生源でのオンサイト入力は患者取り違え等のリスク は軽減できるが、入力間違いの危険は依然として伴うし、何人もの患者を測定する場合は繰り返し作業の時間に煩わ しさを感じるという。そうしたベッドサイドでの作業時間を短縮しようと、結果的には測定データをメモ書きして、ナースス テーションに戻ってからPC端末で一括入力するケースが増える。もちろん、PDAがすべて持ち出されている場合も同様 の手順でデータ入力することになる。 「測定時間もさることながら、PDAもしくはPCで患者の温度板を呼び出す時間とデータ入力時間に相当な時間が費や され、オンサイト入力のシステム化によっても業務負荷は変わりません。そもそも血糖測定の背景には、適切な薬剤量 を決める際に実施されていることが前提としてあります。あらかじめ医師が選択した薬剤を測定結果に基づき、用量を 決め、処方するというのがインスリン治療のワークフローです。院内における血糖測定は、多くの入院患者を対象に数 多く実施されるため、その測定業務の一連の中にさまざまなインシデント発生の危険性があるわけです」と柴田氏。 そして、HISと血糖測定システムとの連携の実証実験の目的を、同氏は「病院情報システムに連動した方法を用い ることで、安全・効率性などが向上。記録ミス・漏れ、転記ミスなど人為的ミスを削減でき、間接的に低血糖などのイン シデントの削減に貢献できるものと考えられます。同時に業務の効率化が図られます」と述べる。医療情報企画部長の柴田真吾氏 パソコンにUSB接続した専用クレイドルでデータを転 送する [画像のクリックで拡大表示]
HISと血糖測定器を連携、データの自動投入を実
現
そこで柴田氏は今回の実証実験で、電子カルテシステムなどと 連携できるテルモの血糖測定器(グルコース分析装置)「メディセ ーフフィットプロ」を利用して、MegaOakHRの温度板に直接測定 データを自動登録できるシステムを構築した。メディセーフフィット プロは、バーコード読み取り機能を備えており、患者情報を管理す るための手首のバーコードの情報を直接読み取ることができる。 同測定器からのデータ転送は、パソコンにUSB接続した専用ク レイドルを利用する。測定を終えた血糖測定器をこのクレイドルに 置くことで、データが自動的にPC端末を介して電子カルテに転送 される。メディセーフフィットプロ自体にはスタンドアロンで利用する 血糖管理ソフトが付属しているが、大村市民病院ではHIS端末を 介してMegaOakHRに直接データ転送するようにした。 実際の血糖測定~データ登録のプロセスは、まずMegaOakHR で出された血糖測定オーダーに基づいた実施予定患者の情報を HIS端末 にUSB接続した専用クレイドルを介してメディセーフフィットプ ロに取り込む。病室で実施者および測定患者をメディセーフフ ィットプロのバーコードリーダーで認証し、血糖測定を実施して 結果を本体に格納する。複数患者を測定した後にナースステ ーションに戻って、再びHIS端末の専用クレイドルにメディセー フフィットプロをセットすると、MegaOakHRの各患者温度板 の血糖値欄に測定結果が自動的に転送される。 測定結果には患者データ、タイムスタンプがひも付けされて おり、メディセーフフィットプロ内の血糖測定オーダーと患者認 証を一致させることで患者の取り違いミスやデータの入力ミス はなくなり、測定時間の正確性も担保できる。「血糖測定の 後にナースステーションの端末で測定データを入力する従来 の方法では、測定時間とデータ入力時間に大きな乖離が起 きると、実際にどの時間で測定されたデータなのか曖昧にな ることが多い。タイムスタンプが記録されることで、そうした問題も解消できます」(柴田氏)という。業務効率性と安全性を実現するワークフローを目指す
実証実験は1病棟を対象に、4台のメディセーフフィットプロを導入して実施した。従来の血糖測定ワークフローと比べ て、まず血糖測定器とPDAの両方をベッドサイドに持参する必要がなくなった。メディセーフフィットプロ自身にバーコー ドリーダーが内蔵されているので、実施者および測定患者認証も一体でできる。血糖測定では、測定器本体、測定チ ップ、穿刺具・穿刺針など持参する機器が多く、バーコードリーダーやPDAあるいはノートPCなどを携行しなくてもよくな っただけでも煩わしさは減る。PDAによる認証作業や患者の温度板呼び出し、測定データ入力などの時間が大幅に短 縮され、看護師は測定チップの装着、穿刺、測定の作業工程に集中できる。 一方、安全管理の観点ではデータの入力ミス、何回か測定した場合などの記録漏れなどのヒューマンエラーの減少 にもつながる。 「測定結果の入力に際して、PDAでそれぞれ患者情報を呼び出してデータ入力する手間がなくなるわけですから、業 務負荷は大幅に軽減されます。測定指示に従った患者のチェック・測定、データ入力までの業務を担当するのが従来 のワークフローなので、多くの患者の測定を担当するほど入力業務が負担になります。場合によっては測定結果を紙にメモし、ナースステーションで別の看護師に入力依頼するといった分担作業になるケースもあり、それがインシデント 要因になるケースもあります。実証実験のワークフローは、病棟における血糖測定業務そのものが標準化され、例外 的な運用をなくすことができ、ヒューマンエラーにかかわるインシデントの確実な減少が期待できます」(柴田氏)。 医用画像システムとの連携の概要 [画像のクリックで拡大表示] 実施業務で安全性を向上させるためのシステム化では、チェック過程を追加することにより利便性を犠牲にしなけれ ばならないことがある。その結果、安全管理を考慮したはずのワークフローが徹底されず、規定外の運用が生まれてし まうケースも多い。大村市民病院が実証実験で確立した血糖測定ワークフローは、業務効率性と安全管理というトレー ドオフになりかねない運用法を両立できるものといえる。 また、各食前の血糖値に基づいてインスリン投与量を決めるスライディングスケールが設定されている患者に対して は、測定データが確実に本人のデータであり、タイムスタンプで測定時間が確定されていることが大前提。その上で医 師が設定したしきい値に基づいて算出される投与量が、正しく算出され本人に投与されることが必要になる。 電子カルテの画面。グラフ表示も可能だ [画像のクリックで拡大表示] 「安全管理の視点で言えば、測定結果の数値、時間などの信頼性は、HISに記録されたデータによって担保されるべ きです。ところが、実際は当日の血糖値測定者リストに書き込まれた時間や測定結果を基に実施されたり、病院情報 システムに投入されたデータを基にしたりと、不確定な要素がつきまとうのが現状。実証実験の手法では確実な測定
時間、HISに取り込まれたデータの正確性などが担保されるので、インスリン投与における標準ワークフローを確立・遵 守でき、インシデント削減につながると期待します」と柴田氏は述べる。 看護師業務は、多くの医療機器を駆使し、その上さまざまなIT機器のオペレーションも加わり、“スーパーマン/スー パーウーマン”といえども限界に近い業務環境で、本来の患者と向き合う看護業務に集中できない状況にある。柴田 氏は、「病棟看護師のパワーに頼り切った現状を脱却すること、業務負担を軽減すること、医療安全を確立することを、 変わらぬ信念として今後も取り組んでいきたい」と最後に強調した。 ■病院概要 名称:市立大村市民病院 所在地:長崎県大村市古賀島町133番地22 開設:1951年10月 開設者:大村市 運営管理:公益社団法人 地域医療振興協会 病院長:谷岡芳人氏 診療科:内科、女性総合外来、整形外科、外科、耳鼻いんこう科、皮膚科、眼科、産婦人科、泌尿器科、歯科口腔外 科、精神科、リハビリテーション科、救急総合診療科、センター外来=循環器科、心臓血管外科など 病床数:284床(一般) 職員数:355人(医師36人、看護師187人他、2010年4月現在) Webサイト:http://www.omh-jadecom.jp/ 導入システム:NEC「MegaOakHR」、テルモ「メディセーフフィットプロ」 この記事のURL:http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20111219/294191/ ©2010 Nikkei Business Publications, Inc. All rights reserved.