産廃法違反を巡る
産業廃棄物処理事業者のリスクマネジメント
平成
14 年 11 月 26 日(火)
1.基調講演 「産業廃棄物処理事業者と廃掃法違反:最近の事例に見られる特徴」 講師:環境省廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課規制係長 新池谷令氏 2.パネリストコメント 千葉県海匝支庁県民環境課監視班副主幹 石渡正佳氏 3.パネルディスカッション パネリスト: 社団法人全国産業廃棄物連合会専務理事 大塚元一氏 フリージャーナリスト 佐藤朋彦氏 仙石山法律事務所弁護士、ダイオキシン・環境ホルモン対策 国民会議事務局次長 中村晶子氏 環境省産業廃棄物課規制係長 新池谷令氏 千葉県海匝支庁県民環境課監視班副主幹 石渡正佳氏 コーディネーター: 札幌大学法学部教授 福士明氏
基調講演
産業廃棄物処理業者と廃掃法違反──最近の事例に見られる特徴
新池谷令(環境省廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課規制係長)
【これまでの法改正の流れ】 昨年4月に法務省から出向いたしまして、いま約1 年半経ったところです。私がきたときには既に 平成12 年の法改正全面施行というときでしたが、今日は、どうしてこういう改正に至ったのか、また いろいろ議論があります「行政処分の指針について」お話をさせていただければと考えております。 まず産業廃棄物問題というものの根本について簡単にお話をさせていただきます。そもそも産業廃 棄物は、自分にとって要らないものですから、とにかく目の前から早くなくなればいいという性格を 持っている。それは私たちが日頃ごみを出しているときに痛感することですが、産業廃棄物について も同じで、昭和45 年に「廃棄物処理法」ができた際に、家庭から出てくるごみについては市町村が処 理責任をもってきちんと処理をするという体系をつくったと同時に、いわゆる事業系の廃棄物につい ては、事業者が責任をもってやるという処理スキームをつくったわけです。これにもとづいて、昭和 46 年から「廃棄物処理法」の施行が始まったわけですが、産業廃棄物は事業活動にともなって生じる ごみですから、とにかく早く無くればそれでいい。それにごみにお金をかけるなんて、もっともバカ らしいことになるわけです。そうすると安くすればいいのだと、川や山に捨てればそれがただで一番 安いものですから、どうしてもそっちのほうへ流れていく。規制をかけて何とかきちんとした流れを つくろうとするわけですが、そもそも排出する方は、安い業者でとにかく持って帰ってくれる人に安 易に引き渡すという形になるわけです。当該業者の方は安い料金しかもらっていないので、場合によ っては山に捨ててくるというような行為が全国各地で多発している実態がずっと見られたわけです。 それを踏まえて、環境省(当時の厚生省)は各種の法改正をいろいろやってきたわけです。これは 私どもの前の課長などよく言っていましたが、いわゆる産廃処理業界は、「悪貨は良貨を駆逐する」構 造が見られました。高い金をかけていい処理をしようとする人でなくて、悪いところ不適正処理に近 いところにごみが集まると。結局いい業者は淘汰されて悪い業者がどんどん大きくなっていく。そう いうマーケットのメカニズムがあったのだといわれています。厚生省は、産業廃棄物問題がだんだん 大きいものになっていくので、昭和51 年に最終処分場について届出制を設けたり、平成3 年に特別管 理産業廃棄物マニフェスト制度を設けたり、平成9 年にはまた罰則を強化したりといろいろやってき たわけですが、先ほどいったように、排出事業者が出しさえすれば終わりという構造的な問題は最終 的には無くならないという実態が見られたわけです。このような産廃処理業界の実情に対して、国民の方々は、とくに近くに処分場ができる方ですが、 煙がもくもく出ていたり、最終処分場の跡地から汚水が流れていたりするのを見て非常な不信感が出 てくるわけです。当然、自分の近くにはごみ処分場はもう来なくていい、とにかく産廃はイヤだ悪い ものだということになる。そして、本来絶対に必要な産廃処理施設の確保が進まなくなってくる。ま すます処理のスキームが滞り、不適正処理が横行し、国民の不信感が高まるという悪循環の構造がず っと見られたのです。 これを何とか変えなければということで、平成9 年・12 年の法改正、いわゆる「セット」と言われ ている改正が行われた。平成9 年の法改正で、いわゆる最終処分場の施設の設置をめぐる法の整備を 行った。各自治体において住民の反対運動の高まりを踏まえ、よくいわれる「住民同意」ということ をやったが、なかなか施設の設置がうまく進まない。法律できちっとスキームをつくろうということ で行った。罰則も懲役3 年に上げたり、法人については 1 億円にしたりという形で規制強化を行った のです。平成12 年にはそもそも排出事業者責任というものを規定した。これは当たり前のことなので すが、当該廃棄物を出した人は、この廃棄物が再生も含み最終処分されるまでは最終的な責任を負う のですよと。どんな中間処理業者に委託をしても、きちんと最終処分がされるまで確認してください ということがはじめて明記されたわけです。これを踏まえて、マニフェスト制度も整備され、それま では中間処理までしか確認できないスキームになっていたのが、最終処分がされたこともきちんと確 認するようにしたというわけです。 それから措置命令規定の整備ですが、これまできちんと委託契約さえしておけば、特にあとになっ て何か責任が問われるような体系はなかったわけですが、仮に委託契約やマニフェストをきちんとや っていたとしても、排出事業者の責務に照らして、処理料金が安いのではないかとか、まだ十分な注 意義務を果たしていないのではないかという場合には、その人にも最終的な切符が返ってくるという スキームを整備したわけです。これを踏まえ、当然ながら罰則も大幅に強化しました。またよく言わ れるように、この産廃処理業界の中に、暴力団が関与しているという実態もあったので、暴力団排除 条項を設ける。そういう一連の法規制の整備を行ったところです。 【そして指針へ】 これが昭和45 年から平成 12 年までの、いわゆるごみ問題の法律的な流れです。そして指針という ことで、平成13 年5 月15 日にこのようなスキームを作ったわけです。今まで申し上げたように、昭 和51 年、平成 3 年、平成12 年も含みますが、法改正をやったわりにその効果が必ずしも上がってい ない。制度がきちんと活用されていないのではないかという反省がありました。自治体の方にはいろ いろお考えがあると思いますが、いわゆる行政指導の使用が、きかない人にとっては全く意味のない
行為になってしまっているという自治体が一部見られた。指導を繰り返してどんどん山が大きくなっ ていくという実態があったのです。 そして産廃処理業界には、これは昭和45 年からずっとですが、各自治体によって運用が違うという 問題があります。簡単にいうと、市によって、地区によって、法解釈の仕方が違ってくる。同じ物が ここでは廃油になったり、廃アルカリになったりという実態がある。当然厚生省も十分な通達を出し てきちっと徹底をしてこなかったという責任はあるのですが。これは優良な業者にしてみればやりに くくてしょうがない。かたや悪い人にとってみると、これはもう法のつけ入る隙です。向こうはこう 言った、ああ言ったといえば、どうしても行政がやりにくくなるわけですから。ですから、この通達 を出して、ある程度全国統一的な運用を図る必要性があったのです。 それから、これまでのしがらみを断ち切ってほしいと。これまではどうしても日頃行政の方とお付 き合いがありますから、なかなか強い態度に出られなかったというような実態があったと思いますが、 それを何とかこの法改正を踏まえて、それに国のほうの指針を出してしがらみを断ち切って、1 度リ セットしてもう1 度やり直そうじゃないかと、こういう 1 つの意気込みもあったわけです。 さらに国民、事業者の方々の期待というのもあります。国民の方々にしてみると、産廃問題は、い ろいろやってきたわけですが、なかなか効果が目に見えて現れない。不法投棄は量的には横ばいなが ら相変わらずずっとあるし、検挙状況も必ずしも自分の期待どおりではない。事業者の方々にしてみ ると、自分にだけ公平な運用がされていないのではないかということもあったのだと思います。そう いうことで、マニフェストにしても委託基準にしても、せっかく強化をした平成12 年の法改正ですが、 やっただけで結局誰も守らない制度ということになったら困りますよねと。それからこの際、「悪貨が 良貨を駆逐する」といわれた産廃処理業界の構造をここ数年間のうちに全く新しく転換させようじゃ ないかと。これは関係機関とのお約束でもあったわけです。警察、法務省、また当然国会の議員を含 め、この際きちんと廃棄物をやろうじゃないか、このままの状態で産廃問題を残すというのはやめよ うということも当然あったわけで、環境省としてはできる限りのことをやろうじゃないかということ でこの行政処分の指針を発しました。 行政処分の指針についての大きな目玉は、行政指導もいいのですが、それではうまくいかない場合 が当然あるわけですから、とにかく違反行為があったときは速やかに法に基づく効果のある処分をし てくださいと。それから罰則と行政処分は、そもそも別ですから、罰則を受けていないからいいのだ ということではなくて、行政処分は行政処分できちんとやりましょうと。また、不法投棄などという 重大な違反行為をした人はもうこの世界から排除して去ってもらいましょうということで取り消し、 違反行為に対する命令をしっかりやってくださいと。それらをまず第一に、条文で書いているところ です。
【指針の効果】 これを1 年半やってきたわけですが、一例を申し上げますと、たとえば平成 9 年当時取り消し行政 処分の件数自体は、それまで全体で10 件くらいしかなかったのが、平成 13 年4月から平成 14 年 1 月までの間に180 件を超えるというかたちです。各自治体も、環境省の後押しを得て、非常に厳しい 処分をどんどん迅速に行えるようになってきている。そういう意味で、非常に産廃業界が引き締まっ てきた。構造改革の転機になってきていると。まじめにやっているいい業者がこの世界できちっと仕 事ができるスキームをつくっていこう、これが平成12 年法改正の大きな目的です。排出事業者の責任 の強化は先ほどふれましたが、排出事業者も「悪貨が良貨を駆逐する」構造から、「良貨が悪貨を駆逐 する」構造に転換が図られつつあるというふうに考えています。そういう意味で、今産廃業界は非常 なうねりのなかにあるような気がしていますが、排出事業者も処理業者も非常に疑心暗鬼になってい るという実態もあるのだと思います。 また警察の検挙の数も非常に増えてきている。これは行政の対応の変化ということで、まず行政が 違反行為の認知をして初めて警察のほうも行政が違反と言っているのだったら逮捕しなくてはだめだ ということになるのは当然です。行政の対応がきちんと動くようになったことによって警察のほうの 捜査体系もかなり強くなってきている。また警察や検察機関の、いわゆる「環境犯罪」というものに 対する関心が非常に高まってきているという気もします。これまで「環境犯罪」というとどうしても 行政犯ですから、ちょっとごみ捨てるくらいならというところがあったような気もしますが、最近は いわゆる「自然犯」と同じぐらい悪質度が高いのではないかという意識を持ってきていると。そうい う意味で、捕まえるときには必ず一網打尽に捕まえ、きっちり厳正な処分を課すというような流れが できてきたような気がしています。 それからたとえば、警察庁が平成12 年 6 月に、「環境犯罪対策推進計画」というものを作って、環 境犯罪がわが国に及ぼす影響というのを考慮したら、これは絶対ゆるがせにできない問題であるとい うことで、警察庁のほうで計画を作って組織的な人員の強化を図っていただいているところです。警 察との人事交流ですが、行政機関に今現在149 名の方に来ていただいているというふうに聞いていま す。各自治体、必ず1 人 2 人は警察官がいるということで、これまであった対行政暴力が警察機関と の連携によってだいぶ防げたのかなという気がしております。 最近はいったん喰らいついた違反行為、違反者に対して、ダンプ1 台を捕まえて終わるのではなく、 それがどこから出て、誰が頼んでという上積みの捜査をしていくということを、合同捜査本部などを つくってやっておられるようで、排出事業者までさかのぼって検挙が進んでいる。そういう意味で非 常に大規模な広域事犯の摘発事例がかなり増えてきているという実態もございます。
そのなかで排出事業者にしてみると、別に今までどおりやってきただけなのに、いきなり逮捕とか、 委託契約書やマニフェストがなかっただけで検挙に至っているという事案があるのだと思います。中 間処理業者にしても、これまでは何も言われなかったのに、いきなり警察が入り込んでくるというよ うは実態が増えてきている。私どもがずっと見てきて思うのは、排出事業者、中間処理業者、収集運 搬業者も含め、そもそも契約書の締結一本にしてもあまりにも安易に行われている。このぐらいの規 制だったらいいのじゃないかとか。一個一個は非常に軽微な違反行為が、あとになって発覚するとそ のまま検挙になり行政処分の対象になってくる。結果的にあとからすごいペナルティを負うきっかけ になっているというふうに認識しています。また、いわゆる適正処理と不適正処理のあいだにあった 「適当処理」という概念がいきなり法のスキームのなかで浮かび上がってくる。今まではそれで特に 行政から指導も受けなかったのが、いきなり不適処理基準違反だというような形で、検挙あるいは行 政処分の対象にもなりうる。そういう事案が非常に多くなってきているという気がしております。 今、私ども産業廃棄物課においては、この構造改革をとにかく早くここ数年のうちに、ビシバシッ とやっていきたいというふうに考えております。そういう意味で、各行政機関にも非常に無理なお願 いをしているところがありまして、残業等も多いようですが、排出事業者、処理業者に対する指導も 含め、無理をしていただいています。そういう中で、いい業者がやはり勝ち残ってきている。少しず つ私ども担当レベルでも手ごたえは感じてきているところです。これまで産廃業者の方には、いくら がんばっても、地元の方々から悪者だというような感じで見られて、このままではやっていけないと いうような話をたまに聞いたりしましたが、最近では産廃処理業というのはれっきとした事業として、 将来の地球環境のために十分いい仕事になってきているという認識が、少しずつ国民の間にも出てき たのかなと。そういう意味で真面目にやってきている業者に対する評価は、少しずつ上がってきてい ると。何でもかんでも産廃業者を排除すればいいという時代ではなくなってきて、いい業者はきちん と地域の産廃処理業を担っていただきたいという感じになってきたのが、ひとえに皆さんのこれまで の賜物だというふうに私どもも考えております。これをもうしばらく、大変ですが乗り切っていただ くと、また一つ新たな段階に入れるのかなと。 いままで私どもがやってきた改革というのは、とにかく規制強化一辺倒の、現実的にこれを守るの は大変だというような規制ばかりかけてきたことがあるのですが、これからもグレードの高い業者が 残って、信頼できる業界に成長し、私どもは「リ・スタイル」といいますが、新しい業界の構造をつ くっていかなければならないと考えています。そういう意味で、いま産廃業界が、産業廃棄物連合会 含め、地方自治体含め、一生懸命取り組みをやっているところです。何とかこの改革を一生懸命乗り 越えて、将来の産業廃棄物処理業の大きな土台をつくっていただければと考えております。
パネリストコメント 不法投棄の構造と対策 石渡正佳(千葉県海匝支庁県民環境課監視班副主幹) 【不法投棄シンジケート】 最初からいきなり複雑な図が出て、何のことかわからない方が多いと思いますが、不法投棄は組織 的な犯罪だということを表現した図です。こうした組織が首都圏全域から、甲信越、東北地方にかけ て活動しているということです。不法投棄の構造は4つのネットワークからなっており、1つは処分 場間で産廃を横流しする処分場のネットワーク、または再委託のネットワーク。2番目に、流出した 産廃を不法投棄現場へと運ぶ、2 次の収集運搬会社のネットワーク、ダンプのネットワーク。3番目 に、不法投棄現場を管理する穴屋のネットワーク。さらに不法投棄の利益を還流させる資金のネット ワークがあります。この4つのネットワークが組み合わさって、組織的な不法投棄が広域的に行われ る。私どもは千葉県の現場を管理しておりますが、運んでくるほうは東京都や埼玉県になります。ま た運搬をするのは栃木県や茨城県の業者など、広域的な組織が相互に連結されて、大規模な不法投棄 を行っているということです。 とくに複雑なのが、ダンプのネットワークです。直接産廃を運ぶ無許可のダンプがあり、これはス ポットで仕事をするので「一発屋」と言われています。また「一発屋」を束ねる「まとめ屋」という ブローカーがいます。さらに、正規の運搬を偽装する二次収集運搬会社があります。そして背後に不 法投棄全体をコーディネイトする黒幕が、さらにその背後には、暴力団組織が存在しているというよ うな複雑な仕組みになっている。したがって、逮捕されるのは現場の方と「一発屋」だけで、黒幕は 逮捕されないということも多い。さらに不法投棄現場、あるいは途中のリベートで得た利益が還流し ていく仕組みができ上がっています。資金繰りに困った中間処理会社、あるいは建設資金がない最終 処分業者などに資金が融資されます。こういったブラックマネーを借りると、全く暴力団と関係のな かった会社が、お金を借りたがゆえに組織に組み込まれるということが起こります。そうしていつの 間にか不法投棄に関与してしまって逮捕されるということも少なからず行われている。こういう4つ の仕組みの組合せで不法投棄が行われているということをご理解いただきたいと思います。 【産廃処理の二重構造】 次は、産廃処理のシステムが二重構造化されてしまっているということを表現した図です。産廃処 理には、「上部構造」という言葉で表現している正規の(法的な)処理の流れ──収集運搬、中間処理、
二次収集運搬、最終処分という流れがあります。そこから地下の構造、アウトローの世界に大量の産 廃が流出しているということを説明しています。どのくらいの産廃が地下の構造に流出しているかと いうことについては、アウトローの世界の話ですから正確な統計がありません。正規の統計では、不 法投棄量は年間40 万トンというふうに環境省から発表されています。しかし40 万トンといいますと、 1 日 1000 トンに過ぎないんですね。10 トン車で 100 台しかないということになります。これだけ不 法投棄問題が大きく取り上げられているのに、1 日にダンプ 100 台しかないということはありえない わけです。私の推定では、100 倍の4000 万トンもあると考えます。1 つの根拠としてダンプの台数か ら推定するという方法があります。首都圏で活動している不法投棄ダンプは、少なくとも3000 台確 認されており、首都圏で3000 台ですから、全国では 1 万台ぐらいになるだろうと。この 1 万台のダ ンプが連日不法投棄をしますと、1 年間で 4000 万トン。ですから40 万トンの100 倍不正処理が行わ れているかもしれない。逆にいうと、発覚するのは1 パーセントしかないということも言えるわけで す。どうしてそんなに発覚率が低いのかと疑問に思う方がいると思います。これは偽装工作が横行し ているからです。偽装自社処分、偽装リサイクル、さらに偽装残土処分、あるいは偽装農地造成、こ ういったさまざまな偽装工作が行われていて、これを見破って摘発まで持っていくのが大変なのです。 たとえば、最近発覚した青森県と岩手県の県境の82 万立方メートルという全国最大級の不法投棄事件 があります。これは実は20 年も前からやっている現場で、どうして 20 年も発覚しなかったかといっ たことが疑問になりますが、それはいま言ったさまざまな偽装工作を組み合わせてやっていたわけで すね。こういった現場が全国各地にたくさんあるわけです。ですから100 分の1 になってしまうとい うことなのです。 不法投棄が40 万トンしかないとすれば、産廃総排出量は4億トンですから、0.1 パーセントしかな いことになるわけです。つまり産廃処理業界は99.9 パーセント健全だとなる。もしそうであれば、今 日のシンポジウムを開く必要もないわけです。しかし4000 万トンになりますと、4億トンの 10 パー セントです。つまり10 社に 1 社の割合で不法投棄に関与している疑いがある。産廃処理というのは、 次々と産廃を受け渡していきますから、10 社に1 社となりますと、ほとんどすべての会社が取り引き しているどこかが、不法投棄しているかもしれないと考えなければいけない。つまり産廃処理システ ムは事実上崩壊していると。不法投棄から免れるということは大変なことになっている。そういう中 でリスクマネジメントをしなければならないというのは、そう簡単なことではないということがわか ると思います。 ある大手の住宅メーカーの例ですが、この会社は全国で 3000 の産廃処理会社と取引があるそうで す。その内10 パーセントが不正行為をしていると考えれば、300 社がもしかしたら不正行為をしてい るかもしれないと疑わなければならない。しかし、300 社が全部見つかるわけではないのです。発覚
率は1 パーセントですからその内の 3 社が見つかるかもしれない。実際見つかっている。そこで 1 年 間に3 回ぐらい私どものような現場担当者に呼び出されて、おたくは大企業なのに何やっているのだ と怒られると、こうなるわけですね。これが産廃処理のリスクマネジメントだと。 不法投棄量は4000 万トンである。不法投棄の確率は 10 パーセントである。そして発覚率は 1 パー セントだ。こういう数字をリスクマネジメントのベースとして覚えていただきたいと思います。 【不法投棄のルート遮断】 次の図を使って環境省や都道府県が行っている対策を概観してみたいと思います。 不法投棄とい うのは、2 つの大きなルートになります。1 つは、排出事業者から無許可のルートへ流れる流れ。無許 可の業者→無許可のダンプ→不法投棄現場というふうに、いきなり不法投棄現場に直行する流れ。も う1 つは、いったんは許可のある業者に流れる。排出事業者から収集運搬会社に流れ、中間に流れ、 最終に流れ、その途中で下へ落ちてくる。これをどうやって止めるかということなのですが、さまざ まな対策が環境省あるいは都道府県から出されています。最近環境省が強く主張しているのが排出事 業者責任の強化。ここの業者を厳しく指導すれば不法投棄はなくなるのだということです。どうして なくなるかというと、ここの規制を強化して不法投棄現場の後始末をやらせる。無許可業者ルートは もちろんのこと、許可業者ルートでも安い値段で頼んだりした場合には、撤去させる。これによって 排出事業者が安い会社に頼まなくなるから不法投棄はなくなるはずだと、これが環境省の最近強く主 張している対策です。ところが、いったん許可業者に入るわけですから、このルートの責任を排出業 者にとらせるということになると、許可制度の信頼性というものを行政が自ら否定したといわざるを 得ないわけです。許可のある業者に頼んだのだから、あとは許可を与えた行政の責任じゃないかとい うことを、どうしても排出業者は言いたくなります。私自身も、許可業者ルートの不法投棄物を撤去 させるのは、行政の責任放棄というふうに思います。そこまで追い詰められたということの証明が、 排出業者責任の強化だと私は考えています。 ちなみに、私の所属している海匝支庁では、昨年1 年間に 32 の現場で撤去をしました。撤去量は 5000 立方メートル、費用は1 億円近くになると思います。すべて業者負担でやらせました。このとき 排出事業者責任を問うた現場は、一つもありません。私どもの部署では排出事業者責任は問えない、 許可のある会社に頼んだものについては許可業者に責任をとらせるという立場から、できる限りルー トを解明して責任のある会社にやらせるということを一貫しました。 次に都道府県の対策についてですが、まず産廃税があります。産廃税にはいくつかの方式があるの ですが、三重県の場合は、排出事業者に課税します。この方法をとると、排出事業者から許可業者へ 流れるルートを減量化できるという効果があります。しかし無許可業者へ流れるルートは、逆に増え
てしまうかもしれない。ですから気を抜けない産廃税だということをいわなきゃいけない。それから 北九州市や東北地方で行っているものは、最終処分場のほうに課税します。これで、中間処理から最 終処分へ流れるルートが絞られます。中間処理が高度化することを期待するわけですが、実際には中 間処理から下へ落ちるルートが増えるかもしれない。これも気を抜けないということですね。 それから千葉県で、10 月1 日に「産廃条例」というのが施行されました。千葉県の条例は産廃税で はなく、規制条例なのですが、無許可の業者と無許可のダンプ、これをあぶり出す条例です。この条 例を使うと、アウトローのルートを絞れるのですが、先ほども言ったように無許可のダンプが3000 台もあるわけですから、全部規制できるかどうかはわからない。今後の努力次第ということです。こ んなふうに、環境省、都道府県それぞれ様々な対策をとっていますが、逆にいうと試行錯誤している ということを言わなければならないと思います。 リスクという観点からこの図をもう一度見直すと、2 つの問題を指摘できます。1 つは、中間処理施 設が本来負担すべきリスクを負担していないということ。いい加減な処理をしてどんどん最終処分に 出している。つまり最終処分場にリスクを押し付けている。最終処分場が、産廃の捨て場でなくて、 リスクの捨て場になっているということが指摘できます。そしてもう1 つの問題は、最終処分場がリ スクを負担し切れないということ。管理型の場合にはリスクを負担する設備がありますから、管理型 の処分料というのはリスク管理料というふうにいう人もいます。しかし管理型でなく安定型に行って いるものについては、安定型はリスクを負担する能力がないわけです。したがって、最終処分場が不 法投棄現場同然となってしまうということが往々にしてあるわけです。さらに、安定型で受け切れな いリスクは、不法投棄現場に行くわけです。ここにはリスクを管理する人がいませんから、結局リス クは地元の住民に押し付けられる。こういうふうに、中間処理が負担すべきリスクが最終処分場、さ らに不法投棄現場に行くというふうに、リスクがたらい回しされて、不法投棄現場の住民が一番迷惑 するというふうになっている。これを直すためには、中間処理施設が本来負担すべきリスクを負担し なければいけない。いい加減な処理をしないで、きちんと処理をしなさいということが一番大事なの です。三重県や北九州の産廃税というのは、直接的には不法投棄を止める力はありませんが、その税 収を使って中間処理施設を高度化、増設しようということを考えています。そうすれば、それだけ許 可処理ルートから流出するものが減ってきて最終処分も減るということで、これは正しい方法だと思 います。 【中間処理施設のオーバーフロー】 4枚目の図は、中間処理施設の問題点をさらに詳しく表現したものです。中間処理が足らないとい うことは誰でも知っています。問題は中間が足らないことでなくて、中間が足らないのに受けている
ことなのです。中間処理はその適正処理可能量とオーバーフローとの二重の処理をしているのです。 適正処理可能量はきちんと処理をしてきちんと行くべきところに行くのですが、オーバーフローして 受けている分はいい加減な処理しかできない。このオーバーフローは、2 倍、3 倍、場合によっては 10 倍以上受けているような会社が少なからずあるわけです。何の処理もしないで別の業者に横流しす る。再委託する場合もありますが、そのときにピンハネをしますし、運搬料がダブルでかかるから安 くなってしまいます。そうすると再委託先ではもう適正処理ができないから、不法投棄に行ってしま う。 それから建設系の混合廃棄物や廃プラの場合には、重機破砕というのがあります。ヤードに積み上 げておいてキャタピラで1 日じゅう踏み潰してボロボロにし、それを出すということが横行している。 そのため中間処理全体の減量化率が下がってしまいます。正規の処理だけやれば、産廃というのはだ いたい5 分の 1 から 10 分の 1 くらいになるのですが、このオーバーフロー分があるために、施設全 体の減量化率はだいたい、2 分の 1 くらいになってしまいます。逆にいうと、半分ぐらいに落とせれ ば十分儲かるということなのです。そういう業界になってしまっているということなのです。問題は、 たとえば重機破砕したものがどこに行くかというと、不法投棄現場にも行きますが、安定型処分場に も行ってしまいます。不法投棄現場と同じものが行っているわけですから、結局安定型が不法投棄現 場と同じになってしまう。安定型から汚染物質がどんどん出てくるということになります。人によっ ては、安定型のことを「許可のある不法投棄現場」と言います。私もそのとおりだと思います。 汚泥の処理がまたいい加減で、脱水をして管理型に行くのですが、これが残土処分場や農地行政現 場に大量に流出しています。これは事実上の不法投棄といわなければいけない。こういうふうに中間 処理がいい加減な処理をしてリスクを負担しない結果として、安定型が満杯になってしまうとか、不 法投棄が増えるとか、様々な問題を起こしている。ですから産廃処理システムのリスクを高くしてい る最大の原因は、中間処理のオーバーフローにあるということを理解しなければならないと思います。 【環境にやさしい産廃処理システムの構築】 最後の図になりましたが、どんなことをしたらこのシステムが立ち直るのかということで、私の考 えるシナリオは2 つあります。1 つは産廃処理業界の取り組みの部分で、もう 1 つは産業界の取り組 みの部分。 産廃処理業界の取り組みについては、基本は処理能力を向上させること。具体的には、中間処理施 設の増設・高度化によってオーバーフローを解消し、産廃の縮減率、リサイクル率を改善します。中 間処理が増えると、最終処分も減るし、不法投棄も減ります。さらに産廃広域移動量が減ります。で すから東北地方がやっているような課徴金ということをやらなくてもいいわけです。人によっては、
不法投棄を減らすために最終処分場を増やすという方もいますが、これは対症療法的な対策で、根本 的な解決になりません。単に不法投棄現場に行っているものが最終処分場に行くだけで、最終処分場 が不法投棄現場化するだけです。ですから中間処理をきちんと立て直して、最終処分と不法投棄を両 方減らすというのが正しいスキームになるということを表現しています。 もう1 つの対策である産業界の取り組みは、排出量の抑制が基本になります。ただし工場から排出 するものを減らすだけでなく、業界から出るものを減らす。既存の産廃処理業界と一線を画して、業 界内で完結するシステムを構築しなければならない。これを既存の処理ルートに対して、バイパスと して使うのです。バイパスですから、一本道でリスクが少ないわけです。かつ新しくつくるわけです から、すっきりと作れる。たとえば建設業界であれば建設業界の中で、食品業界であれば単独では無 理ですから、農業界と連携するなど、業界内あるいは業界間の連携システムを作って、バイパスを構 築する。 そして、この産廃業界の取り組みと産業界の取り組み、この2 つのルートを分けてそれぞれ高度化 していくことで、システム全体のリスクを下げていくというシナリオが必要だと考えています。その ための財源が必要ですね。この財源をどうするかというと、たとえば産廃税というものがあります。 この産廃税はどこに使うかというと、1 つは、宮城県や北九州が考えているように、中間処理施設の 増設・高度化に使う。もう1 つは、業界内システムの基盤整備に使う。もう1 つは自然歳出に使うと、 この3 つに重点的に財源を配分してほしいと思います。最終処分場の増加に使うという県も多く、都 道府県はいま公共関与の処分場をだいたい20 ヶ所近く計画していて、半分ぐらいが管理型最終処分場 を造ろうとしています。できることなら中間処理をもっと造ってほしいと思います。公共関与の問題 については、お話する時間がありませんが、私は公共関与をやるのなら全部公共、民間なら全部民間 と、公共と民間は混ぜるべきではないと思います。公共と民間を混ぜて競争させるというのはあまり いい方法ではないですから。中途半端にやっていてもうまくいかないだろうと思っています。
パネルディスカッション
廃掃法違反を巡る産業廃棄物処理事業者のリスクマネジメント
パネリスト: 社団法人全国産業廃棄物連合会専務理事 大塚元一氏 フリージャーナリスト 佐藤朋彦氏 仙石山法律事務所弁護士、ダイオキシン環境ホルモン対策 国民会議事務局次長 中村晶子氏 環境省産業廃棄物課規制係長 新池谷令氏 千葉県海匝支庁県民環境課監視班副主幹 石渡正佳氏 コーディネーター: 札幌大学法学部教授 福士明氏 【福士】パネルディスカッションに入る前に皆さんのお考え、本日のテーマについてどういう考え方 を持っている人なのかということをあらかじめ知っていただくために、本日のテーマに関連する事柄 についてお一人ずつお話いただきます。最初に、全国産業廃棄物連合会の専務理事の大塚さんからお 話をいただきたいと思います。 【大塚】改めまして、大塚でございます。本日はたくさんの方に集まっていただきまして、本当にあ りがとうございました。主催者を代表いたしまして、まずお礼を申し上げます。 平成9 年、平成 12 年の法改正で、世界の先進国に比べましても、かなり相当厳しい方向での改正が でき上がりました。とくに私どもは処理業界でございますので、処理業界と排出事業者が両輪の輪で うまく廻らないと、「廃掃法」というのはどうしてもショート起こしてしまう。したがって排出業者の 責任も抽象的な責任ではなく、より具体的な責任の強化をお願いしたいということをずっとお願いし 続けておりましたが、ようやくそういった雰囲気になりまして、平成12 年に法改正ができ上がりまし た。 排出業者責任の強化とともに、処理業者の方々には、どこの産業界よりも厳しい適格要件が設けら れまして、とくに暴力団関係だとかそういったことに対しまして、徹底的に排除という方向で整備が なされました。その評価はいろんなところに出ておりまして、許可を取り消されたり、更新のときに 許可を認められなかったり、新規の許可でも適格要件にひっかかって許可がくれなかったり、というようなケースが出てきておりまして、そういう意味では、適格要件がつくられたことによって、私ど もの業界におきましても、相当浄化は進んでおります。 ただ排出業者責任が強化されますと、どうしても処理業者の方々に対しましても、優良な業者の方 を頼みたいという排出業者の方々からの強い要望が出てくるのは当然の帰結でございます。 そうすると処理業界においても、どうするかという問題が突きつけられたわけでございます。最初 「指針」の文案を見せていただいたとき、全くショックがなかったというわけではございません。いま までの自治体の違法行為に対する手法はほとんど行政指導で行ってきたのが、いきなり行政処分とい うかたちで来るわけですから、あっという間に会社が倒産という可能性も十分出てくるわけです。そ こまで処理業者の方々を追い詰めていいのかどうかということは、真剣に、会長および私どもも悩み ました。 しかしながら、産業廃棄物の処理業界の健全化を成し遂げない限りは今後とも混迷したままで、優 良な業者の方々が非常につらい思いで今後も生きていかくてはいけない、ということはどこかで断ち 切らなくてはいけない。 とすれば、今回の二度にわたる法改正をきっかけに、そういう方向に一気に進んでいったほうが、 より健全化に迎える時代に来ているのではないかということを考えて、いろんな処理業者の方にもお 聞きしました。私が知っている限りの処理業者の方にお聞きしますと、皆、歓迎の意向でございます。 非常に珍しいと思います。行政処分を受けるというのは、取り消しも営業停止も含めて、全く会社の 存立を危うくするわけですから、業者の方からみると、そんなことはやってほしくないというのが当 たり前のはずですが、皆、健全化に向けて、どんどん進めていただきたいという見解が非常に多うご ざいました。 「廃棄物処理法」ができましたのは、ご承知のとおり昭和45 年ですが、それから 33 年たっており ます。その間、真面目な業者の方々は非常に苦しんでまいりました。1 つは、ごみに対する偏見が、 その処理業をやっている方に対する偏見として直接つながってきている。それから、これだけ贅沢で 便利な生活を送りながら、そのツケを全部処理業者に押し付けてきて、悪いことをやっているのは処 理業者だと言いながら、ほとんどの国民の方はその贅沢な生活を変えようともしない。そして批判だ けを処理業者に全部投げかけてくる。 こういった構造に対して、処理業者の人たちは悔しい思いをしながら、やってこられた方がほとん どでございます。そういった中で、市場を健全にし、構造を何とか崩して、真面目な業者の方々が直 接処理していけるような方向に持っていきたいという悲痛な願いが皆にあったと思うのです。 したがってこの健全化につきましては、「指針」ができましてから、環境省の当時の課長も一生懸 命あらゆる機会をつかまえて、処理業者の方に直接語っていただく機会を設けました。私どもも全国
に行きまして、直接処理業者の方々に、こういう方向に来ている、覚悟もして欲しい、と訴えました。 皆さん方が悪質なことをやれば、静脈産業の市場から容赦なく去っていただく方向に行きますよ、 と。それに耐えていかなければ、いつまでたっても我々の業界は、別の動脈産業から認知されずに、 裏口から営業していかなければいけない。いまこそ新しいビジネスとして立ち上がるためのチャンス にもなりうるということで説得してまいりましたが、それに対して異論を唱える方々はほとんどござ いませんでした。それだけ皆さん方 33 年間悩み続け、何とか環境保全をしたいという気持ちがござい ます。 しかし、新池谷さんの話もございましたが、どんな立派な施設を造ろうが、高い費用だったら払い ませんと言われ、これが処理業者の人たちが悲痛に訴えてきたほとんどの声でございます。 それをいかにして転換していくか。中間処理の育成ということは非常に大事に思っております。こ の健全化というのは、産業廃棄物処理業界のたくさんの人々の大半の方が切に願っている世界である のだということをご理解いただければ幸いだと思っております。 【福士】どうもありがとうございました。新しい環境ビジネスとして産廃業者の方が育っていくそう いう契機に、非常にいいチャンスではないかと、そういうふうに捉えられるという、非常に力強い言 葉をいただいたと思います。 次に、フリージャーナリストで、いろいろな現場に詳しい佐藤さんのほうからお願いします。 【佐藤】こんにちは。佐藤です。 私が用意させていただいた資料は、警察庁の発表資料で、いかに 経済犯罪のなかで環境犯罪が多いかというのがグラフ等でよくわかります。このなかでも環境犯罪の うち約半分、事件数としてはもう75 パーセント。そのうち暴力団関係の関連事件を見ますと、生活犯 罪のなかで半分ぐらいが、暴力団関係にかかる環境犯罪だというような数字が出ています。いかに悪 質なケースが多いかというのがわかるのですが、逆に今日集まったなかで皆さんから見ますと、もう 本当にわずかな企業しかそういうことにかかわっていないというのが実態だと思います。 それで、なんでそういう事件ばかりが報道されるかということを10 年ぐらい追ってみますと、いろ んなことがわかってきます。たとえば80 年代くらいからの状況を見ますと、廃棄物問題があるという ことをマスコミ自身もあまり知りませんでした。そこで暮らしている人たちから、現場でなんかヘン な臭いがするとか頭痛がするとかというので、ときどき取材に行き、そのときがきっかけでやっと問 題がわかってきたというのがわかります。 公害の延長かと思うような問題から入っていって、それがこのごみ問題になってきて、80 年代の終 わりぐらいから、ごみ、産廃、地域や地球環境問題、化学物質でいえば、農薬等からダイオキシンと
いうような極めて毒性の強い物質が登場して、この問題が一躍マスコミの中心的な取材のテーマにな ってきました。 90 年代から、たとえば岐阜県の御嵩町のように、産業廃棄物と地域の紛争の時代に入ってきて、マ スコミの取材も体系的になってきました。だいたいは地元の住民が告発して、「業者を取り締まらない 行政が悪い」「業者はこんなことをしている」と言うような意見を聞きながらマスコミが取材に行って いました。そのなかでも豊島の問題とか日の出町の問題とか、国、山の問題、とにかくあらゆる全国 の地域紛争が表面化してきた。 それがある程度出尽くしたかなと思ったときに起こったのが、例の98 年のテレビ朝日系で報道され た、「ニュースステーション」のダイオキシンの報道だったのですね。ここでは問題が科学の世界に入 ってきて、それ以後報道が非常に慎重になってきました。このときまでは、マスコミは感情論を鼓舞 するようなかたちで取材していて、それが十分記事になっていたのです。 一般的にいままで取材してきたものも、行政、業者、悪い業者がいて、住民が告発すると登場する 人物が決まってまして、全国どこを見ても、主役は名前を替えるだけで、だいたい構図というものが でき上がってきた。そうすると当然、新聞やテレビにとっても、だんだんセンセーショナルなかたち でなくなってきました。 そうこうしているうちに、やっぱりダイオキシン問題から始まって、2000 年以降、国のほうで法制 度が整備されてきて、法を犯しているか犯していないかという決定的な判断がつかない限り、なかな か取り上げるのが難しくなってきました。 そうなりますと報道しても取り上げるのが難しいという状況になってきます。それで、まだ全国各 地で廃棄物をめぐる問題というのはなかなかなくならないのですけれども、それ以上に、「廃棄物処理 法」違反の検挙者が具体的にどれに違反しているかということで登場するようになり、きちんとシロ クロつけた段階で報道されるので、悪いものは悪い、いいものはいいという形になってきます。 そういうなかで、善良な業者の方が地域のために社会貢献したという皆さんから取り上げてほしい ような話題も、なかなかいまのマスコミの取材体制のなかでは取り上げにくくなってきています。 単純な事件から、これからは経済問題、静脈物流のなかでどうやって廃棄物業界を紹介していくか、 紹介されていくかというようなことになってくると思います。さらにもっと時間がたてば、これから エネルギー問題として、廃棄物処理問題がマスコミの報道で取り上げられると思いますが、そのなか で廃棄物の業界はどうやっていくかというのは、1 つの課題だと思います。 ここで、マスコミの取材体制で、なんでそう悪い話ばかりが取材されるのか分析してみたのですけ れど、情報発信する、またはされる場合、中央官庁のなかにクラブがあります。中央官庁の記者クラ ブといっても、新米記者、そこにベテラン記者が1∼2 人いるというような構造でそれを受けます。
都道府県のクラブも支所、支局も似たようなものです。だいたい取材しているのは新米記者が多い というような構造です。 そういう記者をコントロールしているのが編集部の部長や局長クラスなのですが、彼らが若いとき には、環境問題というのはほとんど取材してないので、現場の出先でこれだけ問題になっても、なか なか大きな記事にならないというのがよくありました。 最近は、価値判断が揺れていた時代からきちんと法的なものになってきたので、大きく載れば全国 紙でも一面に来たりしますけれど、まだテレビ局や新聞社の紙面づくりを担当しているところには、 なかなかそのへんが見えてこないというような現場があります。 そういうなかで皆さんの報道がされるわけですから、いい話よりも悪い話のほうが書きやすいし、 取り上げられやすいというようなことがあります。 そういうマスコミに対してつくられるイメージというのは皆さんにかなりの影響を与えますので、 現場で皆さん業界の取材をしていても、どうやってマスコミとうまい関係をつくったらいいのだろう というのは、よく聞かれますが、やはりそれを直接担当している記者とどう情報交換しようかという ことしかなくなってくるんですね。 イメージアップをどうやって図るかということになると、短期の戦術として、悪い業者がいたら、 内部告発を皆さんができるか、これはひとつカギを握ると思います。 次に中期的な戦略として、メディアとの情報交換の場合、やっぱり皆さん自身がつくっていかなく てはいけない。廃棄物処理はもちろん、全国産廃連の役割も重要なのですが、それぞれの都道府県ま たは市町村レベルで活躍されている皆さんが、地元のそういうメディアとどう付き合っていくかとい うことが非常に重要になってくると思います。 業界のイメージというのは、取材に来ている記者たちと情報交換をしながら、自分たちはこういう ことをやっているということをきちんと説明してやればわかるのです。 「廃棄物処理法」を皆さんのほうがもう諳んじている方もいますが、記者やマスコミの関係者は自 分より知識がある人に対して取材に行くというのを嫌がります。ですからそのへんをうまく誘導して やれば、もう少しうまい関係が築けるのではないかと思います。 リスクマネジメントということは、そこの地域の人、それから地域で情報を発信している人たちと の情報交換をいかにうまくやるかということですから、それが今日ここに集まった人たちに、最後に 1 つでもイメージとして残っていただければと思って、私のほうから今日のシンポジウムの意見を終 わらせていただきます。 【福士】どうもありがとうございました。
いまのお話は、業界全体のイメージという問題、あるいは情報をどう伝えていくかというそういう ことが提示されていたと思います。 次に、環境ホルモン対策国民会議、事務局次長としてご活躍されており、また弁護士をされている 中村さんのほうからお願いします。 【中村】皆さん、こんにちは。中村でございます。「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」とい う、化学物質汚染から地球環境を守りたいという方向で活動しております、環境NGOの事務局次長 をしております。 私は、市民の立場としてこの場に居させていただいて、素朴な疑問などを提出させていただきなが ら、今後の方向性について市民の立場から指摘させていただきたいと思います。 私たちがどのようなスタンスで活動しているかということについて、簡単に見ていただきたいと思 います。私たちのNGOは、1998 年の9 月に、全国の女性弁護士 158 人が呼びかけ人になりまして、 未来の世代に対して、化学物質によって汚されていない環境を手渡していきたいということを全国の 皆さんに呼びかけをして立ち上げたのですが、それに応えて発起人になってくださったのが、50 人の いろんな専門家の方々です。 私たちこのように呼びかけた人は、こういう廃棄物問題または化学物質問題についてほぼ素人の文 科系の弁護士が主なのですけども、学会の専門家の方々にアドバイザーになっていただいて、どうや って新たな環境を私たちが形づくっていくかということを考えるというスタンスでやっております。 私たちのNGOの最近の活動では、ここにありますような提言を役所それから国会などに提出した り、また私たちのニュースレターを通じて全国の会員の方々に読んでいただいたりしております。 私たちのNGOのなかでも、廃棄物問題に関する興味が一番最初でその環境問題に踏み込まれたと いう市民はたくさんおります。多くの場合、廃棄物問題にかかわるきっかけというのは、大変残念な ことに、裏山に不法投棄がなされているとか、また近くに処分場ができそうだとか、それから近くに 訳のわからない焼却場ができてしまって、黒い煙が出ている、どうしたらいいだろうかと、そういう ところからかかわり合いになっていく人が多いわけです。 ですからどうしても不信感がスタートラインになるということがあります。そしてそのような業者 さんと今後の対応を相談していきたいと思って訪ねていっても、怖い経験を持ってみんな市民活動に 入っていくというような不幸な経過があります。 逆に業者さん側からみると、市民とかNGOと、かかわり合いになりたくないという、そういう残 念な関係にいまなっていると思います。 しかし私たち市民からみると、そういうことがきっかけになりやすく、報道を見ると、残念ながら
悪質業者さんが話題になっている報道が多いですので、どうしても接点がそういうものになってしま うということがございます。 しかし、皆さん被害者であるというところからスタートをしてはおりますけれども、その問題に踏 み込んでいくうちに、だんだん、いまの社会は私たちが暮らしていくなかでこういうふうな構造にな って出てきたものなのだと。自分たちも、いまの状況をつくることに、寄与しているのだということ から、今度は加害側に立つことを拒否するという、かかわり方に次第に変わってまいります。 ですから私たちの市民活動のなかにも、こういう問題に関して積極的に良心的な業者さんと話をし たいと望んでいる人はたくさんございますので、そういう機会を設けさせていただければ大変ありが たいと思います。 先ほど新池谷さんからご説明のありました「通達」に関して、一点、私が感じたことを申し上げて おきます。 法の適用がきちんとなされるということは市民にとっては非常に望ましいことで、市民運動で何年 もかかって運動していかなきゃいけないのは、行政が直ちに動いてくれなかったからだと思ってきた 歴史があるわけですね。しかし今回の「通達」を契機に、法がきちんと適用されていくということに なれば、行政が必要なときには直ちに動いてくれると市民が信頼を重ねていくことができれば、また この悪循環を断ち切る契機にはなるのだろうと思います。 ただ私がちょっと懸念しておりますのは、こういう新しく「通達」を契機に運用が変わっていく過 渡期というのは、業者さんにとっても判断や解釈が難しく、いままで大丈夫だと思っていたものが違 反になってしまうということはありうるだろうと思います。 ただ私たちは、そういううっかりミスとか良心的な業者さんがたまたま、摘発されるとか処分され るということを望んでいるわけではなくて、本当に処分されて然るべきところがきっちり処分されて いくということを望んでいるのであって、きちんと優先順位をつけた取り組みをしていっていただい て、小さな問題についてはむしろ市民と業者さんの対話のなかで解決していけるという関係になって いくことが望ましいと思います。 市民と業者さんの間というのは、正しい情報をきちんと公開すると、そして対話を重ねるというこ とが一番大切だろうと思いますし、いま市民の運動はだいぶそちらのほうに成熟してきているという ふうに感じておりますので、そういう方向にこれから行けたらいいなというふうに思っているところ です。 【福士】どうもありがとうございました。法の適用をきちんとして透明なかたちで、市民と行政、事 業者の方が話し合えるそういう場というのをつくるということが重要なのではないかと強く感じまし
た。 最後に、行政法をやっているという立場から、私のほうは話をさせていただきたいと思います。 ここの一番最後に図が載っていますので、見ていただきたいと思います。現在は廃棄物の適正処理 に関して「廃掃法」というのがあって、この目的というのは、これは生活環境を保全する、それと公 衆衛生の向上を図るという、そういう環境を守るということで、そのためのシステムというのがつく られているということになります。 ただそのシステムがそのまま実施されていっているといいわけなのですけども、やはり違反が生じ てしまっているというのが現状だということになります。この大きな原因というのが、排出事業者の 責任というのがなかったのではないか。事業者が最後まで面倒を見るということがなかったから、悪 循環が生じていたのではないか、そこが原点ではなかったかというふうに思います。 しかしこのフローチャートを見ていただくと、現在までの行政のやり方はどうであったか。違反自 体はたくさんあるが、違反を認知したあとで、告発する、あるいは行政指導をする。行政指導で応じ なかったら行政命令をして、最終的には行政代執行するというのがあるわけなのですけれど、いまま での行政のやり方というのは行政指導を使ってやってきたと。そのなかで国民の目からみると、排出 事業者と行政が何か話をして密室でやっているというイメージが形づくられたのではないか。実際、 その事件も生じる。マスコミもそういう事件について多く発表する。 そのなかで、今回、廃棄物の業界が市場として生きてきて優良業者こそがそのなかでビジネスをや っていける、というためのルール作りの基礎ができたと思います。1 つは、排出事業者の責任という のが、優良業者を育てるシステムをつくるための1つのテコができた、ということではないかと思い ます。 もう1 つは、罰則が重くなって、実際に告発したときに、罰則としての効果が上がるようなシステ ムの整備がなされてきた。そういうなかで、法律どおりやるという環境が整ってきた。それによって 優良業者が悪い業者を駆逐するような市場、それが創出されるような条件というのが整ってきた、そ れのための厳しい処分だということになると思うんですね。 ただ、これを実際に行っていくときの問題というのは、先ほど中村さんから問題があったように、 そこで事業者の方が、その行政のほうのメッセージをうまく受け止めて、そのチャンスを使って支援 して自分たちの業界イメージを変えていけることができるかどうかということです。 ちょっとお聞きした話では、いままで優良業者がいて適正処理をやっている。そして不適正処理も ある。その中に「不適当処理」というグレイゾーンがある。そこを1 つ適正処理に含めるというのが、 今回の「指針」の大きな部分ではないか。 それともう1 つは、いままでは法律を適用するときに、違反があったときに権限を発動し、どうい
う処分をするかということは、事例に応じてやっていたのを、一律にバッサリと、わかりやすく斬っ たということは、発動するかどうかの裁量を極力なくするということだと思うんですね。どういう処 分をするかということについても、きっちり決めてしまった。かなり思い切ったご判断だと感じます が、新池谷さん、「指針」についての考え方といいましょうか、そのへんからまずお願いいたします。 【新池谷】行政処分の「指針」のなかでは、いわゆる裁量基準をある程度拘束的な書き方をさせてい ただきました。要件裁量なり、国裁量というのは当然あるわけですけれど、これまでの産廃業界の各 行政機関の実態を見たときに、この構造改革では、それを認めておったのではこの改革は急ピッチに は進まないだろうと考えました。違反行為を認知した以上は、当然何らかの処分をしなきゃだめだと。 そのなかで、判断の余地はあるというのは当然ですけれども、ある程度私どものほうで線を引かな いと、各自治体によってしたりしなかったりというのでは、構造改革としてなし遂げられない。そこ で処分の画一化を図ったという真意でございます。 【福士】どうもありがとうございました。やはり今回の処分の「指針」のつくりを見ても、行政法か らみると、非常な決断をした、構造改革といいましょうか、これで断行するんだという意識が非常に 見える「指針」であると思いますが、そこでもう1 つ、自治体の現場からみると、そういう「指針」 を実際に実行していくのは、これは都道府県、あるいは政令市であるということになるわけなんです ね。 どういうふうに実際運用されているのか、あるいはどのへんがかなり変わったのか、そういったこ とについて、実際に現場で担当しておられる石渡さんのほうからお話を伺いたいと思います。 【石渡】 まず内容が厳しいということについては、委託基準違反と再委託基準違反について、「取り 消し」となっているんですね。これは業界の常識として、委託基準違反、再委託基準違反をやってな い会社はほとんどないんです。したがってこの条項を厳密に適用するとほとんどの会社は、あら捜し をすれば、許可が取り消せる。だから行政と私どもからすると、いつでも許可が取り消せるというフ リーハンドをもらったということなんですね。逆に言いますと、厳密にやったらほとんどの会社がな くなってしまうということなんです。 もう1 つの「情状酌量条項の削除」というのは、この「通達」が出るまでは、各都道府県独自の処 分基準というのをつくってました。千葉県にも「情状酌量条項」というのがありまして、今回の「指 針」は「それを削除せよ」となっておりますから、全国どこの都道府県も削除しました。法令違反が あった場合には、またそれが発覚した場合には、「ただちに取り消し」と、「検討の余地なし」となり
まして、非常に厳しい内容になっております。 したがって、結果的に申しますと、すべての業者について取り消すということはできないと。です から問題があった場合には、現実問題として、行政指導をまず行い、出来る限り改善をさせます。私 どもの管内ですと、もう毎日行ったという業者もいます。それを3 ヵ月も毎日行って改善させました。 改善した業者もいましたが、それでも改善しないという業者については取り消しました。ですからや はり厳しい内容を手に持っていても、やはり現場の担当者としては行政指導をやらないと。一律に「取 り消し」というわけにはいかない。 それから地域の住民の立場に立ちますと、やはり不法投棄物を撤去するというのが最優先なんです ね。罰則を与えるとか逮捕するとかいうことよりも、現場を片付けるということのほうが大事なわけ です。 私どもの現場については、32 の現場で撤去をしました。撤去率は、調査件数ベースですと 80 パー セント、撤去量は5000 リューベーということでしたけれども、非常に地元の住民の方に喜んでもら った。しかし、もし措置命令を発して行政処分をして、許可を取り消して撤去しろといったら出さな いわけです。ですから撤去最優先でやると。言うことを聞かない業者は取り消すということをやりま した。 去年指導した中で 5 つの会社が倒産しました。だから決して手を抜いているわけではありません。 ですから現場はまず撤去最優先でやって、そして厳しい処分もやると。この2 本立てでやらないと問 題は解決しない。ですから厳しい「指針」ができたことについては歓迎していますけども、現場とい うのはまた立場が違うのでそれをそのまま使うわけにはいかないですね。 【福士】どうもありがとうございました。こういう「指針」が出る前に非常に問題を感じて、全国の 調査をして、それなりの重さの基準をつくって取り組んでやっていった自治体もあった。そういうと ころでは、非常にやりやすくなった。何とかしなきゃいけないというご苦労があったのではないかと いうふうに考えています。 もう1 つ、はたしてそういうことが処理業の方に伝わっていて、きちんと「廃掃法」を遵守でき、 違反しないでできるというわかりやすい基準になっているものなのかどうか。 そういうことについて、6 万件ぐらいいらっしゃる排出事業者のほとんどは、「廃掃法」違反はして いないというかたちでやってこられたのではないかと思いますが、今回の「指針」では、全県、厳し くやると問題があるという話も出ているので、事業者として、はたしてこの「指針」が出て歓迎して いるのかどうかというところもある。 その一方で、こういう「指針」を出すだけでなくて、こういう措置もあるともっと事業者にとって