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2 except for a female subordinate in work. Using personal name with SAN/KUN will make the distance with speech partner closer than using titles. Last

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バーチャル世界における呼びかけ語の

コミュニケーション機能

─ポライトネス理論の観点からの考察―

劉   艶

The Communication Function of Vocative Terms in Virtual Communication:

from the Viewpoint of Politeness Theory

Yan Liu

Received November 2, 2009

Abstract

In this paper, Vocative Terms in Modern Japanese are classified into 1.Personal Pronouns, 2.Kinship Terms,3.Titles, 4.Personal Names with SAN/KUN, 5.Personal Names without SAN/KUN, 6.Depreciative or Hypocoristic Terms, 7.Nickname, 8.Special Designation. Moreover, targeting at 1~5, this paper analyzes the communication function of Vocative Terms in virtual communication from the viewpoint of politeness theory which focus on “Distance” of person-to-person relationships. The results can be summarized as follows.

Personal Pronouns are not much used in the communication because of having strong deictic. We are expected to avoid speaking in direct language as one of the actions to maintain social relationships. In particular, “ANATA”(you) which is used as address term, is an overstatement to say that is a special address term, because which is only used to call her husband by a wife. Kinship Terms have In-family usage and out-family. But all of kinship terms are limited to an appeal from subordinate to a superior because of their compellation. Another feature is that the use of kinship term is based on the perspective of the youngest family member. The out-family usage is a positive-politeness strategy. The use of titles is a negative-politeness strategy which can avoid using address terms. Its range is thought to be used for most work-related. The usage of Personal Names with SAN/KUN can be divided into “Last Name + SAN/KUN” and “First Name + SAN/KUN”. “-KUN” is usually used to call younger men,

〔原著論文〕

* 国際交流センター

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except for a female subordinate in work. Using personal name with SAN/KUN will make the distance with speech partner closer than using titles. “Last Name +KUN” is closer than “Last Name +SAN”. And “First Name +SAN” is closer than “Last Name +SAN”. Using First Name without SAN/KUN is different from Last Name in Japanese. First Name can be used to call a very close friend who is as GIKYODAI (adopted brother), but can’t be used to call a superior. Last Name can be used in work to scold or give orders to subordinate.

キーワード

呼びかけ語 ポライトネス 距離 バーチャル コミュニケーション機能

1.はじめに

日本語のコミュニケーションのなかで相手をどう呼ぶかということは言語生活の中で大変気 を使う一環である。たとえば,母語話者が中国語や英語で発話する際,話者はしばしば相手の 名前を呼びかけるが,母語話者による日本語の発話の際に相手の名前を呼びかけることは多く ない。名前の代わりに,場に応じて名前に「さん」や「くん」をつけて呼びかけたり,話し相 手の職階・職業名や親族名称を使って呼びかけたりするのは普通である。こういう話し相手を 呼びかけるときに使うことばを呼びかけ語と呼ぶ1)。日本語の呼びかけ語になるのはどんなこ とばだろうか。また,それぞれコミュニケーションの中でどういう機能を持っているのか。現 実の日本語世界では名前で呼びかけることができるのは家族内(たとえば,夫婦または恋人同 士,また,親が子供を呼びかけるとき)に限られている(鈴木1973)が,バーチャル世界(ド ラマやマンガなど)では,友達同士でも名前で呼びかけることがよくある。それはまた何のた めだろうか。 本稿は,呼びかけ語に影響を与えている人間関係の「距離」に注目し,ポライトネス理論の 観点からバーチャル世界における呼びかけ語のコミュニケーション機能を考察する。そのため, 今回使うデータは主にBCCWJ2008(『現代日本語書き言葉均衡コーパス』2008モニター版)と, フジテレビのドラマ『BOSS』(全11話)と『ブザー・ビート』(全11話)から得られた用例で ある。

2.呼びかけ語

呼びかけ語になるのはまず「話しの相手に言及することばの総称」(鈴木1973:146)である 対称詞である。ただし,対称詞には呼格的用法と代名詞的用法2)というやや性質の異なった二 種類の用法が含まれている。その中,呼びかけ語になるのは呼格的用法として使われる対称詞 である3)。たとえば,例(1)の「あなた」は妻が夫に対しての呼びかけ語である。 (1)「また家の前にノラが集まっているのよ。あなた,なんとかならないかしら」勝野真美は 眉をしかめた。(森村 誠一『黒い神座』BCCWJ20084) そのほか,呼びかけ語には「姓」で呼ぶか,「名」で呼ぶか,「さん」づけするか,「くん」 づけするか,親族名称で呼ぶかなど,多様なバリエーションが存在している。田窪(1997)の

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分類によると,主に三種類に分けられる。 タイプ1:人称名詞 人称名詞は,話し手が話し手自身を直接指す時に使う語(「私,俺,おいら」の類)を自称 詞,話し手が聞き手を直接に指す語(「あなた,君,おまえ」の類)を対称詞,話し手,聞き 手以外の第三者を表す表現(「彼,彼女」の類)を他称詞である(田窪1997:15)。呼びかけ語 になるのは普通対称詞のことである。例(1)のほかに,次の例(2)の「君」と(3)の「お 前」もその例である。 (2)「これ,妹のみゆきです」と紹介されて,「今日はご招待いただいて,ありがとうござい ました」と,礼を言った。「妹さん?君,いくつ?」「私…ですか。十四歳です」(赤川 次郎『恋占い』BCCWJ2008) (3)「お前,俺と結婚しない?」(金原 ひとみ『蛇にピアス』BCCWJ2008) 対称詞は,聞き手を直接指し,その場の状況によって指す対象が変化するので直示的であり, 境遇性を持つ。日本語の対称詞は,英語(YOU)や中国語(NI/NING)に比べてバリエーシ ョンが多く,「おまえ,おれ」,「君,僕」,「わたし,あなた」,「おたく,うち」のように,自 称詞とペアをなすのが特徴である。「おまえ」に対する「おれ」,「君」に対する「僕」は,聞 き手と話し手とのある特定の人間関係と結びついて選択されているといえる。 タイプ2:定記述 定記述は「お父さん,お母さん」等の親族名称(例(4),(5),(6)),「先生,先輩」等の上 下関係を表す語(例(7),(8)),「部長,課長」等の職階名称(例(9)),「お花屋さん,お医 者さん」等の職業名(例(10))のことである。定記述の特徴としては,対称詞と違って,境 遇性を持たない。つまり,その談話領域においてある特定の人物を指すのである。 (4)「おばあちゃん,おかあさん,ぼく,一番,一番をとったんだよ」「ゆうちゃん,落ちつ い て 」「 陸 上 競 技 で た よ 。 や っ た よ 」( 斉 藤   静 子 『 ゆ う ち ゃ ん の た ま ご 屋 』 BCCWJ2008) (5)「おじさん,巡査部長?」(『BOSS』6話0:15:455) (6)大澤絵里子:「ちょ,ちょ,ちょっ(と),お嬢さん,お嬢さんってば。」(『BOSS』6 話0:14:18) (7)花形一平:「先生,鑑定の結果は出ましたか。」(『BOSS』1話0:15:27) (8)「菜月先輩,今度のジュニアクリニックの書類,これでいいですか。」(『ブザー・ビート』 1話0:39:20) (9)片桐琢磨:「参事官補佐。」 野立信次郎:「ほう,どうだ?新しい部署。」(『BOSS』1話0:16:37) (10)「ありがとう。恩に着ます。刑事さん,あなたの名前を教えてください。借りた四百二十 円は,後で必ず返します」老人は海道に頭を下げた。(森 詠『砂の時刻』BCCWJ2008) タイプ3:固有名詞 人の姓または名などの固有名詞を呼びかけ語としてよく使われるパターンには「姓+さん/

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くん」(例(11),(12)など)と例(13)の「次郎さん」のような「名+さん」がよくあるが, 例(14)の「絵里子」のような「名」での呼び捨てと例(15)の「片桐」のような「姓」での 呼び捨て現象は現実のコミュニケーションの中ではあまり起こらないが,ドラマなどのバーチ ャル世界ではしばしば現れている。 (11)大澤絵里子:「野垣さん,爆薬の調合はどこで学んでいたんですか。」(『BOSS』1話 0:39:59) (12)部長:「七海君,ちょっといいかな。」(『ブザー・ビート』1話0:39:45) (13)十分位遅れて多井が着いた。「次郎さん,遅れて申し訳ない」「大丈夫ですよ。多井さん, 今度こそ大丈夫と思いますが,横浜の建設会社の社長に会いに行きましょう」(太田 利 政『幕府の埋蔵金』BCCWJ2008) (14)野立信次郎:「絵里子,(何よ。)俺が何年,おまえのことを見てきたと思ってる?何年 だっけ。」(『BOSS』1話0:09:34) (15)刑事1:「片桐,おまえいいところ来たな。」 刑事2:「まあ,片桐さんにお似合いですね。」(『BOSS』1話0:14:32) また,例(16)の「おっさん」のように卑称を使ったり,(17),(18)のように,「野立」を 「ノダッチ」で,「山村」を「ヤマム」で綽名をつけて呼びかけたり,(19),(20)の「やる気」, 「パーマ」のように臨時的呼称を使ったりすることも少なくない。 (16)岩井善治:「おっさん,何しとるよ,これ。」(『BOSS』3話0:02:39) (17)野立信次郎:Hi,玲子ちゃん。 奈良橋玲子:あ∼ら,お元気?ノダッチ。(『BOSS』3話0:01:20) (18)野立信次郎:案外,ヤマムみたいのがいいんだよ。 山村啓輔:ヤマム?ぼ,ぼく?本当ですか。(『BOSS』3話0:03:07) (19)奈良橋玲子:あっ,やる気,おはよう! 花形一平:おはようございます。(『BOSS』3話0:02:23) (20)岩井善治:パーマ,おまえやれ。 花形一平:ぼくですか。(『BOSS』4話0:21:30) ここで呼びかけ語になることばをまとめてみると,大体8類に分けられる。 人称名詞類:あなた,きみ,おまえ・・・ 親族名称類:おかあさん,おとうさん,おじさん,・・・ 職階・職業類:部長,刑事(さん),・・・ さん/くんづけ類:姓+さん/くん,名+さん/くん, 呼び捨て類:姓+φ,名+φ 卑称・愛称類:おっさん,ちびっ子,∼ちゃん6)・・・ あだな類:ノタッチ,ヤマム・・・ 臨時的呼称類:パーマ,・・・ この中,「卑称・愛称類」,「あだな類」,「臨時的呼称類」の使用は主にコミュニケーション の中での役割に関わると考えているので,今回の考察対象から外すことにする。本稿では, 「人称名詞類」,「親族名称類」,「職階・職業類」,「さん/くんづけ類」,「呼び捨て類」を考察 の対象として,呼びかけ語のコミュニケーション機能を検討する。

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3.ポライトネスにかかわる呼びかけ語

P・ブラウンとS・レヴィンソン(1987)は言語行動のなかの対人配慮からポライトネス理 論を提案している。彼らのポライトネスは,「契機や動機から把握される言語的相互行為の原 理的共通性を捉える概念」(滝浦2005a:134)である。ポライトネスにかかわる動機は「自己の 領域と自己の行動の自由を守りたい」というネガティブ・フェイス(欲求)と,「他者からの 評価と他者による受容を得たい」というポジティブ・フェイスのことである(滝浦2005a:136)。 この動機によって,ポライトネスを実現するストラテジーとしては主にネガティブ・ポライト ネスとポジティブ・ポライトネスに分けられることができる。 ネガティブ・ポライトネスとは,「対象人物を遠くに置くことによってその領域の侵害を回 避する」という言語行動である。対象人物を遠くにおくとはその人物を“ソト”待遇すること であり,定義上,それは,その人物を脱距離化的に“ウチ”待遇することと相反関係にある。 ポジティブ・ポライトネスのストラテジーは「対象人物を“遠くに置かないこと”によって領 域の共有を表現する」言語行動である(滝浦(2005b:21-22)に参照)。 以下はこのようなポライトネス理論をベースにして,「人称名詞類」,「親族名称類」,「職 階・職業類」,「さん/くんづけ類」,「呼び捨て類」の5種類についてそれぞれ考察する。

3.1.人称名詞類

今回の調査範囲に限り,呼びかけ語としての人称名詞類の使用はきわめて限られていること がわかる。第一,田窪(1997:15)が既に明らかにしたように,対称詞は使用に制限があり, 目上の相手には使うことができなく,基本的に同輩同士,あるいは,上位者から下位者にしか 使えない。目上を話し相手にする場合は,「お父さん,お母さん,お兄さん」のような親族名 称類や,「先生,先輩」のような上下関係を表す語や,「部長,課長」等の職階を表す語などを 用いる。第二,呼びかけ語としての「あなた」はドラマ『BOSS』と『ブザー・ビート』には 一例も当たらず7),BCCWJ2008からの用例を分析してみるとすべて男女関係を持つ女性から 男性への呼び掛け語であることがわかった。その中,もっとも典型的なのは例(1)のように, 夫婦関係で妻から夫への呼びかける場合である。この事実から呼びかけ語としての「あなた」 は人称名詞というより,むしろ妻が夫に対する特殊な呼び方と言えよう。しかし,「あなた」 の発音を変えて「あんた」にすると,男女を問わず使うことができる。たとえば,次の例(21) と(22)は男性の発話である。また,例(23)のように,代名詞用法としての「あなた」の使 い手も女性とは限らない。 (21)義文はやっとそう言った。「あんた,間違いなく石田直澄なんだよな?本当のことを言っ てくれよ。あんた,あの人たちを殺して逃げてるんだろ?そしたら,仕方ないよな,捕 まってもな?」(宮部 みゆき『理由』BCCWJ2008) (22)父の喉がごくりと鳴るのを,信子は聞いた。「あんた,お客さん」みそ汁のおっさんは, 旅館の旦那が自分に声をかけていると,判っているはずだ。(宮部 みゆき『理由』 BCCWJ2008) (23)田中さん,あなたはどちらにします。(田窪(1997:21)の例(21a)) 例(3)のように「おまえ」は基本的にポジティブ・ポライトネスとして,男性が自分との

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距離が近い親しい関係を持っている相手への発話に使うのである。ここで肝心なところは,も っぱら女性が使う「あなた」の反対に,現代日本語では「おまえ」の使い手は男性であること にある。また,例(24)のように,怒りを伴う乱暴な言い方として使う場合にも使える。 (24)私は「何しに来たんだ。今,授業中だから出ていけ」と言った。そうすると「お前,誰 だよ」と言う。「おれは校長だ。出ていきなさい」と私が言うと,「うるせえな」とか言 いながら居座るのだ。(大島 謙『高校を変えたい!』BCCWJ2008) 例(2)のように,「君」で呼びかける相手は必ずしも親しい関係とは限らない。むしろ,例 (25)のように,話し手と聞き手との年の差が決め手であるかもしれないと考えられる。 (25)「うむ。ところできみ,この殺人事件の謎は解けたのかね」椅子から立ち上りながら古橋 は少年刑事に訊いた。(井上 ひさし『吉里吉里人』BCCWJ2008) 呼びかけ語の人称名詞類の使用が少ないという現象は,ポライトネス理論から解釈できる。 ポライトネスとは,人間関係を維持するための社会的言語行動である(生田1997:66)。ネガテ ィブ・ポライトネスは,自分の発話を相手に押しつけないよう,直接的な言い方を避けるのは そのストラテジーの一つである(油井(2007)参照)。しかし,人称名詞は直示性が強いので, 人称名詞の使用はそのストラテジーに合わないのである。したがって,人称名詞類の呼びかけ 語を使用しないのは,ネガティブ・ポライトネスが働いているからであると言えよう。

3.2.親族名称類

親族名称類は,例(4)のような家族内の用法と例(5)のような家族外の「虚構的な用法」 (鈴木1973:158)を持っている。 3.2.1.家族内 鈴木(1973)の規定によれば,親族名称を使う呼びかけ語は次の(26)と(27)の制約を持つ。 (26)家族の最年少者から話し相手を見た親族名称を呼びかけ語に使う。(鈴木1973:171-172)8) (27)話し手から見て自分より同等,あるいは目下になる関係の用語は,呼びかけ語としては 機能しない。(鈴木1973:150-154)9) (26)から,日本語では,子供を持つ夫婦の間で「おとうさん」・「おかあさん」(または 「パパ」・「ママ」)で呼び合う現象が理解できる。また,孫までできたら,夫婦の間で「おじ いさん」・「おばあさん」で呼び合うことも自然である。 (27)から見れば,日本語では,呼びかけ語としての親族名称はすべて敬称であると言える。 自分より同等あるいは目下の対して呼び掛けるときは,相手の下の名前を使うのがふつうである。 こういう制約で成り立つ日本語の呼びかけ語は文化が異なる外国人にとって理解しがたい。 たとえば,中国語では,「話し手の視線から見た親族名称を呼称に使う」という制約である。 この制約から中国語の呼称は話し手自身と話し相手との親族関係を明らかにするという機能を 担っていることが分かる。したがって,中国語では,自分より同等あるいは目下でもそれなり の親族名称を使って呼びかけることができるのである。一方,中国語の世界では夫婦の間は 「おとうさん」・「おかあさん」のような子供の視点からの呼び方で呼び合うことができない のである。

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3.2.2.家族外 ポジティブ・ポライトネスのストラテジーの一つとして,親族名称は家族外での使用が可能 である。つまり,話し相手との距離を縮めるため,外の人間に対しても本来家族内で使われて いる親族名称をあえて呼びかけ語として使うポジティブ・ポライトネスのストラテジーであ る。たとえば,例(5)の「おじさん」と例(6)の「お嬢さん」はその例である。例(28)の 「おねえさん」も同じである。 (28)ねえねえ,おねえさん,どこの民宿で働いてるの?砂浜から道路を見上げ,若い男が声 をかけてくる。(角田 光代『対岸の彼女』BCCWJ2008) ただし,日本語の「おねえさん」で呼びかけられている人は話し手より年が上であるかどう かは関係なく,「おねえさん」は呼びかけ語として成立するのは呼ばれている人が若年の女性 である基準に準じている。

3.3.職階・職業類

現代日本語では,ヨーロッパ語に比べて数が多いとされている一人称,二人称の代名詞は, 実際にはあまり用いられず,むしろできるだけこれを避けて,何か別のことばで会話を進めて いこうとする傾向が明瞭である(鈴木1973:133)。たとえば,例(7)∼(10)のような職階・ 職業類の使用は,直示性が強い人称名詞の使用を避け,直示性の緩和を実現するネガティブ・ ポライトネスのストラテジーである。例(10)の「刑事さん」のように,「職業+さん」とい うパターンは,「定記述に敬称をつけることで,固有名詞に近い役割,つまり,『名前化』,あ るいは『呼称化』をしていると見なすことが可能である」(田窪1997:27)。一方,例(7)の 「先生」のような上下関係を示すことば,例(9)の「参事官補佐」のような職階を表すことば には「さん」をつけることができない。代わりに,例(8)の「菜月先輩」のように,「固有名 詞に職階をつけるとタイトルになり,全体として固有名として機能する」(田窪1997:27-28)。 本来仲が良い親友同士でも,場合によって相手を職階・職業類(特に職階)を使用して相手 との関係を仕事関係として見せることができる。こういうコミュニケーションの機能をするの は職階・職業類が持っている特徴の一つである。たとえば,例(29)は,ドラマ『BOSS』の7 話の中のシーンである。大澤絵里子は女性エリート刑事としてテレビ局でインタビューの番組 に出ている。番組収録後,付き添いにきた親友の野立信次郎(参事官補佐)が女性タレントを なんぱしているのを直撃したとき,野立信次郎を呼びかけた場面である。この場合に使われて いる「姓+職階」(「野立参事官補佐」)は,公の場でプライベートの関係(親友関係)を知ら ない部外者に知られたくないので,職階を使用するネガティブ・ポライトネスのストラテジー を選んだと考えられる。 (29)大澤絵里子:(女性タレントに向かって)「ちょっと,失礼!」 大澤絵里子:「野立,野立参事官,野立参事官補佐,あんた,タレントをなんぱする目 的のために私をさしたわけ」。 野立信次郎:「ばかだな,そんなわけないだろう。」 大澤絵里子:「どっからどう見てもやる気満々だ。」 野立信次郎:「ちょっと一,二分。先に帰ってくれ。」 大澤絵里子:(独り言で)「野立,恐るべし。」(『BOSS』7話0:03:45∼0:03:59)

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3.4.さん/くんづけ類

「固有名詞+さん/くん」という「さん/くんづけ類」について,ここで主に「姓+さん」, 「名+さん」,「姓+くん」の違いについて検討する。 まず,「姓+さん」と「名+さん」の違いを見てみよう。「姓+さん」から「名+さん」へと の呼びかけ語の変更は,相手との距離を縮めるためのポジティブ・ポライトネスのストラテジ ーである。たとえば,例(30)のような,32歳の男性(川崎智哉)と自分が好きな24歳の女性 (白河莉子)の会話はその典型例である。 (30)白河莉子:「あ,川崎さん,この辺で大丈夫です。今日は,ありがとうございました。」 川崎智哉:「なんかさ,川崎さんって呼ばれるたびに,会社の人間に会ってるみたいで, 背筋が伸びちゃう。」 白河莉子:「そうなんですか。」 川崎智哉:「いやだな,『川崎さん』は。」 白河莉子:「じゃあ,なんて呼べば?」 川崎智哉:「なら,智哉で」 白河莉子:「智哉さん?」 川崎智哉:(笑いだして)「ほう,いいね。」 白河莉子:「なんか恥ずかしいですね。」 川崎智哉:「や,何回も言ってると慣れるよ。言ってみて?」 白河莉子:「うん,智哉さん,智哉さん,智哉さん,智哉・・・」 (『ブザー・ビート』2話0:24:45∼0:25:25) 例(30)は二,三回デートをした後の会話である。女性は自分より年が上(男性が32歳で, 女性は24歳)で,社会的地位(プロバスケットボールチームのヘッドコーチ)も自分(ある本 屋のアルバイター)よりかなり上位であるので,いつも「川崎さん」(「姓+さん」)で相手の ことを呼んでいる。男性は,「川崎さん」と呼ばれるのを聞くと「会社の人間に会っているみ たい」だと感じているので,恋人関係の呼び方である直接名前の「智哉」(「名+φ」)で呼ん でほしいと要求した。女性はまだつきあいを始めたばかりの男性の名前を直接呼ぶのではなく, 「智哉さん」(「名+さん」)で呼ぶことにした。このドラマのシーンからわかるのは,「姓+さ ん」より「名+さん」のほうが話し手と聞き手の距離を短くすることである。 次に,「姓+さん」と「姓+くん」の違いを見てみよう。陣内(1990)が明らかにしたよう に,まずは男女の差が見られる。つまり,例(31)のように,女性には「姓+さん」で,男性 には「姓+くん」で呼ぶことである。 (31)白河莉子:「あっ,ねえ,次また怒鳴る時のために,名前,教えてよ。」 上矢直輝:「カミヤナオキです。」 白河莉子:「カミヤナオキ。漢字で書くとどういう字?」 上矢直輝:「上下の上に,矢印の矢」 白河莉子:「なるほど。私は白河莉子。紅白の白に,さんずいのかわ。」 上矢直輝:「白河さん。」 白河莉子:「年は?」 上矢直輝:「24。」

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白河莉子:「やっぱじゃ同じ学年だ。」 上矢直輝:「丑年(うしどし)?」 白河莉子:「じゃあ,またね,上矢君。」 上矢直輝:「じゃあね,白河さん。」(『ブザー・ビート』2話0:45:00∼0:45:50) 例(31)は,白河莉子(女性,24歳)が近所の公園で上矢直輝(男性,24歳)を試合の最中 に怒鳴ってしまったことを謝った後で,お互いの名前を教え合うシーンである。ここで特に注 目したいのは「上矢君」という呼び方である。女性(白河莉子)は,相手は自分と同じ年で, 同じ学年という判断基準で,学校でよく男子学生に対する呼び方「∼君」で呼ぶことことにし ている。例(30)の「川崎さん」(川崎智哉に対する呼び方)に比べてはっきりしているよう に,「姓+くん」は「姓+さん」より相手との距離がより近いと見せることができると考えら れる。つまり,「姓+さん」という敬遠している呼び方に比べて「姓+くん」で相手を呼ぶの は,積極的に相手を仲間(友達)に入れるポジティブ・ポライトネスが働いている結果だと考 えられる。 一方,会社で上司が部下を呼びかけるとき,男性の部下なら「姓+くん」,女性なら「姓+ さん」が一般的である(陣内1990:75)が,場合によって相手が女性でも「姓+くん」で呼び かけることも可能である。たとえば,例(32)は会社で部長が部下の七海菜月を呼びかける場 面で,女性部下を「姓+くん」で呼びかけている。これについて,仕事関係で男女の差を無視 しているという解釈ができるのではないか。 (32)「七海君,ちょっといいかな。」(例(12)の再掲) また,上位者に対する呼びかけについて,今回のデータから従来の説と合わない現象が見ら れる。それは職階から「固有名詞+さん」へとの変更のことである。陣内(1990)が指摘して いるように,「上司に対してはTベース」である。たとえば,例(7)では,科学捜査研究所所 属の鑑識官の奈良橋玲子に対して,若い刑事の花形一平は「先生」と呼びかけている。また, 例(9)では,刑事の片桐琢磨は参事官補佐の野立信次郎を職階の「参事官補佐」で呼びかけ ている。しかし,例(33)では,刑事の木元真実は参事官補佐の野立信次郎を「野立さん」 (「姓+さん」)で呼びかけている。 (33)木元真実:「野立さん,うちのボスと同期だったんですよね。」(『BOSS』5話0:43:02) 女子刑事の木元真実が上司の野立信次郎に対して,本来は例(9)のように職階で呼びかけ るべきであるが,「姓+さん」で呼びかけるのは仕事関係ではなく,友達関係で相手を見なし ていると考えられる。このような上下敬語性の弱化には,「現在の社会自体が,その諸相で, 以前に比べて「上下」性を薄めてきていることも関係している」(菊池2008:14)。また,「若 者を中心に,日本人の価値意識のなかで親密な人間関係を重視する傾向が高まっている」(辻 2008:64)からであると考えられる。

3.5.呼び捨て類

ここでいう呼び捨て類は,例(15)の「片桐」のような「姓+φ」と,(14)の「絵里子」 のような「名+φ」を指す。コミュニケーションの中での機能から考えると,仲間扱いとして の「名+φ」の反対に,「姓+φ」は通常怒りを表すときと,命令をする(または任務を分配 する)ときに使われる10)。たとえば,例(34)では,富井が山岡を叱る時に,「姓+φ」で呼

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ぶ。例(35)では,長年のつきあいを持つ親友同士の野立信次郎(男性)と大澤絵里子(女性) の間の呼びかけ語は異なる。不満と文句を言っている大澤絵里子を慰めるために,野立信次郎 は「名+φ」の形(「絵里子」)で呼びかけるが,大澤絵里子は「姓+φ」の形(「野立」)で怒 鳴るのである。例(36)では,部下に命令をするときに使う「姓+φ」である。また,例(15) では,元同僚がからかう口調で「姓+φ」で片桐を呼びかけるのである。これらの「姓+φ」 の共通点は固有名詞の姓でモノ扱い,または他人扱いをすることができるところにあり,仲間 に入れさせず,人を自分から遠ざけるネガティブ・ポライトネスのストラテジーであろう。 (34)(山岡の叱り役としての富井富雄が山岡士朗に向かって)「責任が重いぞ,山岡!」(『美 味しんぼ[対決!日本全県味巡り大分編]』p.11小学館2007年6月) (35)大澤絵里子:「やれるわけないじゃない。どういうことよ。」 野立信次郎:「わるい。各部署からさ。いいのを引き抜こうと,断れちゃったさ。誰で もいいから人を出せといったら,ほんとうにどうでもいいのがきちゃっ た。」 大澤絵里子:「は?」 野立信次郎:「大丈夫だよ。おまえならできる。や,おまえだからこそできる。」 大澤絵里子:「何調子いいことを言ってるのよ。」 野立信次郎:「絵里子。」 大澤絵里子:「何よ。」 大澤絵里子:「俺が何年,おまえのことをみてきたと思ってる。」 大澤絵里子:「・・・」 野立信次郎:「何年だっけ」 大澤絵里子:「18年。」 野立信次郎:「その俺が言うんだぞ。心配するな。おまえがどうなろうと,おまえの骨 は,俺拾う。」 大澤絵里子:「野立!」 野立信次郎:「すぐ散骨するけどな,あそこらの川に。」 大澤絵里子:「野立!」 野立信次郎:「大丈夫だ。」 (『BOSS』1話0:09:34~0:10:03) (36)大澤絵里子:花形,大至急に拳銃携行の許可を。 花形一平:はい。 (『BOSS』4話0:40:41) 「名+φ」について,家族外では,例(37)のように仲良しになった女子学生同士が「名+φ」 で呼び合ったり,例(38)のように恋人同士になった男女が「名+φ」で呼び合ったりする(陣 内1990:76)が,例(35)のように,ドラマの世界ではなぜ親友同士の男女の間でも「名+φ」で 呼びかけることができるのか。これを解釈するのにポライトネス理論が有効である。 (37)海老名麻衣:「莉子。」 白河莉子:「おう,麻衣。」 海老名麻衣:「莉子,莉子,私受かった。」 白河莉子:「おめでとう。」 海老名麻衣:「ありがとう。」(『ブザー・ビート』1話 0:07:24)

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(38)上矢直輝:「直輝。」 白河莉子:「莉子。」 上矢直輝:「まじごめん。」 白河莉子:「傘持ってなかったの。」 上矢直輝:「俺も家で待ってると思った。」(『ブザー・ビート』9話0:02:48) 例(37)は大学時代の同級生で仲が良い女性同士の会話で,(38)は恋人同士になってから 男女二人の会話である。例(31)で示したように,男女二人が友達になったときは,お互いに 「さん/くんづけ類」(それぞれ「上矢くん」と「白河さん」)で呼び合ったが,恋人同士にな ってからは,(38)のように「名+φ」(それぞれ「直輝」と「莉子」)で呼び合うように呼び かけ語が変わる。 ドラマ『ブザー・ビート』では,海老名麻衣と白河莉子は同じ大学を出て2年間ルームシェ アして暮らし,同じバイト先でアルバイトをしている仲間である。上矢直輝と白河莉子は運命 的に出会い,とうとう恋人同士になった関係である。その他,家族の中では夫婦の間はもちろ ん,上位者から下位者を呼びかけるときも「名+φ」で呼びかけることができる。これらの事 実からゼロ距離またはゼロ距離接近の人間関係であれば,「名+φ」で呼びかけることができ ると言えよう11)。恋人,夫婦,兄弟(上から下へ)はゼロ距離な人間関係で,仲が良い親友の 関係はゼロ距離に接近しているといえる。このゼロ距離接近の関係を持っている二人は兄弟の 関係とほとんど変わらなく,まさに義によって誓い合って、兄弟の交わりを結んだ「義兄弟」 関係12)といえる。例(35)では,18年も付き合っている未婚の野立信次郎と大澤絵里子は今 時の流行りことばでいえば「友達以上恋人未満」という関係だと想定することができる。これ も一種の「義兄弟」関係と言えるのではないか。「義兄弟」関係であれば,男性は女性を 「名+φ」で呼びかけることができるのである。「女→女」(例(37)),「男→女」(例(35))だ けではなく,次の例(39)のように,「男→男」でも呼びかけることができるのも,「義兄弟」 関係としての言語行動だと考えられる。 (39)(同じチームのメンバーの三島と上矢が練習場での会話) 上矢直輝:「三島さん,おはようございます」 三島:「おう。」 ・・・ 三島:「そうか。直輝,契約更新しなかったのか。」 上矢直輝:「はい。」(『ブザー・ビート』1話0:28:18) 例(39)では,同じチームのメンバーとしての二人の関係も「義兄弟」に見えて,先輩の三 島から後輩の上矢直輝への呼びかけは「名+φ」の形(「直輝」)になっている。

4.おわりに

本稿はまず,日本語の呼びかけ語を「人称名詞類」,「親族名称類」,「職階・職業類」,「さ ん/くんづけ類」,「呼び捨て類」,「卑称・愛称類」,「あだな類」,「臨時的呼称類」に分けた。 また,「人称名詞類」,「親族名称類」,「職階・職業類」,「さん/くんづけ類」,「呼び捨て類」 を研究対象として,ポライトネス理論の観点から人間関係の「距離」に注目し,バーチャル世

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界における呼びかけ語のコミュニケーション機能を考察した。その結果を,次のようにまとめ られる。 人称名詞類 人間関係を維持するための社会的言語行動の一つとして直接的な言い方を避けるネガティ ブ・ポライトネスの影響で,直示性が強い人称名詞類は,コミュニケーションの中であまり使 われていない。特に,呼びかけ語としての「あなた」は妻から夫へ特殊の呼び方と言っても言 い過ぎではない。 親族名称類 親族名称類は家族内の用法と家族外の用法(虚構的用法)を持つ。日本語の親族名称類はす べて敬称であるので,呼びかけ語として使えるのは下位者から上位者への呼びかけに限る。も う一つの特徴は家族の最年少者視点から話し相手を見た親族名称を呼びかけ語として使うので ある。家族外用法はポジティブ・ポライトネスのストラテジーである。 職階・職業類 職階・職業類の使用は,直示性が強い人称名詞の使用を避け,直示性の緩和を実現するネガ ティブ・ポライトネスのストラテジーである。その使用範囲はほとんど仕事関係の場合である と考えられる。 さん/くんづけ類 「さん/くんづけ類」は主として「姓+さん/くん」と「名+さん/くん」に大別すること ができる。「∼くん」は普通男性の話し相手を呼びかけるときにしか使わないが,仕事関係で あれば,部下の女性社員を呼びかけることもできる。「さん/くんづけ類」は「職階・職業類」 より話し相手との距離をより近く示すことができる。「姓+さん」から「名+さん」への呼び 方の変更は話し相手との距離を縮めることができる。上下関係を持たない話し相手を呼びかけ るとき,若い人同士は「姓+さん」より「姓+くん」のほうが,相手を積極的に仲間を入れる 意識を表出することができる。それはポジティブ・ポライトネスのストラテジーの一つである。 呼び捨て類 呼び捨て類には「姓+φ」と「名+φ」が二種類ある。通常,「名+φ」のほうは仲間扱い として使われる。「姓+φ」は怒ったり,命令を出したりするときに使われることが多い。 「名+φ」を使うことができるのは,話し相手とゼロ距離接近の「義兄弟」関係を持っている 場合に限る。「義兄弟」関係は兄弟に近いので,下位者が上位者を呼びかけるときは使わない。 本稿は「卑称・愛称類」,「あだな類」,「臨時的呼称類」の呼びかけ語を考察対象から外した 理由は,これらの呼びかけ語に制約を与えるのは主にコミュニケーションの中の役割だと判断 したからである。本稿の趣旨(ポライトネス)とは違うので,また別の他紙で論じたいと考え ている。

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注 1)「おい,こっちに来い。」のように人を呼びかけることができるが,「おい」類は呼びかけの機能を持 つが,コミュニケーションの中で話し相手を特定することができないので,本稿では呼びかけ語と しないことにする。 2) 代名詞的用法の場合は「言及語」という(陣内(1990))。 3) 一方,代名詞的用法は,たとえば「君は,この曲が好き?」の「君」のように,文の主語になった りする第二人称代名詞のことを指す。 4) BCCWJ2008は国立国語研究所が開発している『現代日本語書き言葉均衡コーパス』のことである。 BCCWJ2008と記している用例は,www.kotonoha.gr.jp/demo/で公開されているそのコーパスの検 索デモンストレーションによるものである。 5) ドラマからの用例はすべてビデオに録画したテレビドラマからの書きおこしによるものである。 「『∼』」はドラマ名で,「∼話」はそれぞれのエピソード(episode)で,「0:39:20」のように 「(時):(分):(秒)」で記しているのはビデオの中の目安である。以下同。 6) 「∼ちゃん」は普通「名+ちゃん」(例えば「丸子ちゃん」等)の形は圧倒的に多いので,「さん/ くんづけ類」に入るべきであるが,「∼ちゃん」という言い方は相手をかわいがるときにしか使わ ない観点から本稿では愛称として扱うことにする。 7) 陣内(1990)が人称詞類を研究対象と扱っていないのも,『サザエさん』からも呼びかけ語として の人称詞類の用例が少ないからであろう。 8) この制限について,鈴木(1973:171)は次のように2点挙げている。 (一)日本の家族内で,目上の者が目下の者に直接話しかける時は,家族の最年少者の立場から,そ の相手を見た親族名称を使って呼びかけることができる。 (二)目上の者が目下の者を相手として話す時,話しの中で目上が言及する人物が,相手より目上の 親族である場合に,話し手はこの人物を自分の立場から直接とらえないで,相手つまり目下の 立場から言語的に把握する。 9) 鈴木(1973)が親族成員間の対話における自称と対称について挙げている五つの原則(鈴木 1973:151-153)の中には次のような原則がある。 話し手は分割線の下に位する者を相手とするときは,自分を相手の立場から見た親族名称で言うこ とができるが,分割線より上の者に対してはそれができない。 10) ただし,家族内の場合は,家族メンバーを姓で呼ぶことができないので,子供を叱るときももちろ ん「『太郎!!やめなさい。』という具合に,子供の名前を呼び捨てにして叱る」(鈴木1973:179)の である。 11) この点からいうと,日本語の世界では上位者に対して人称名詞及び名前を使用して呼びかけること は上位者との関係はゼロ距離にはならないからとも言えよう。たとえば,日本の大学生が先生に 「先生,あなたも一杯どうですか。」とは言わない。それに反して,隣の中国では大学生と先生との 友達式の会話は,近年だんだん広がっているそうだ。 12) 「義兄弟」の定義は『広辞苑』(第六版)に参照している。 引用文献 1.生田少子(1997)「ポライトネスの理論」『月刊言語』Vol.26No.6,pp.66-71.大修館書店 2.菊池康人(2008)「敬語の現在―敬語史の流れの中で,社会の変化の中で―」『文学』岩波書店9−6, pp.8−23 3.陣内正敬(1990)「『サザエさん』に見られる呼びかけ語」『言語文化論究』1(九州大学)pp.71-77 4.鈴木孝夫(1973)『ことばと文化』岩波書店 5.滝浦真人(2005a)『日本の敬語論―ポライトネス理論からの再検討』大修館書店 6.滝浦真人(2005b)「<視点>と<距離>の敬語論―日本語敬語の語用論の記述理論のために」麗澤大 学大学院言語教育研究科論集『言語と文明』3,pp.21-38 7.辻 大介(2008)「若者のコミュニケーションにおける配慮の現れ方」『文学』岩波書店9−6,pp.8− 23 8.田窪行則(1997)「日本語の人称表現」『視点と言語行動』くろしお出版pp.13−44 9.油井 恵(2007)「日本語および英語における対称詞の機能:ポライトネスとの関連性」『駿河台大学 論叢』33,pp.19-30 10.新村 出編集(2008)『広辞苑』(第六版)岩波書店(2008年1月)

11.Brown, Penelope & Levinson, S (1987) Politeness: Some Universals in Language Usage. Cambridge University Press

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用例の出典

BCCWJ2008『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(2008年モニター版) www.kotonoha.gr.jp/demo/

『ブザー・ビート』2009年フジテレビドラマ2009.7.13∼2009.9.21 『BOSS』2009年フジテレビドラマ 2009.4.16∼2009.6.26

参照

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