諸外国における風力発電所に係る環境影響評価について(景観関連)
1.風力発電所に係る景観の環境影響評価についてのガイドライン等
(1)評価項目
環境省において、諸外国・地域ごとに、風力発電所に係る環境影響評価について、
その手法を規定したガイドライン等の策定状況や、環境影響評価を行った個別事例に
関する調査を行ったところ、ガイドライン等や個別事例を確認できたすべての国で景
観を評価項目としていた。
表1.国・地域ごとの風力発電所の環境影響評価における景観の取扱い 景観の取扱い 国・地域の名称 風力発電所に係る環境影響評価手法についての ガイドライン等が策定されており、その中で景観 を評価項目とすることが示されている国・地域 米国1、フランス2、韓国3、英国スコットラ ンド4、EU5 上述のようなガイドライン等は確認できていない が、環境影響評価を行った個別事例において、 景観を評価項目としていた国 スペイン、オランダ、デンマーク、ドイツ、 カナダ 環 境 影 響 評 価 を 行 っ た 個 別 事 例 が 確 認 で き て いない国 ポルトガル、イタリア、中国 ※環境影響評価制度を法令により導入している諸外国及びEU を調査対象としている。(2)調査、予測及び評価の基本的な手法
風力発電所に係る環境影響評価手法についてのガイドライン等が策定されている国・地
域のうち、米国、フランス、英国スコットランド及び
EU では、景観に関する基本的
な調査、予測及び評価の手法として、景観の変化をフォトモンタージュ等により示す
こととされている。
また、米国、英国スコットランド及び
EU では、風力発電設備の可視領域も示すこ
ととされている。
景観に係る調査、予測及び評価の対象としては、
4 つの国・地域において風力発電
設備を対象としているほか、米国及び英国スコットランドでは、送電施設や工事用車
両の運搬道路による景観への影響も調査、予測及び評価とすることとされている。
1 Wind Energy Siting Handbook(2008 年、米国風力発電協会)
Final Programmatic Environmental Impact Statement on Wind Energy Development on BLM-Administered Lands in the Western United States(2005 年、内務省土地管理局)
2 風力発電の環境影響評価に関するガイド(2010、エコロジー・エネルギー・持続可能開発・海洋省)
3 環境影響評価書等に関する規則別表(http://eng.me.go.kr)
4 Visual Representation of Wind Farms: Good Practice Guidance(2006 年、スコットランド自然遺産局)
Visual Assessment of Windfarms Best Practice(2002 年、スコットランド自然遺産局)
5 Wind Energy-The Facts(2009 年、EU 風力発電協会)
(3)調査、予測及び評価の詳細な手法の例
景観に関する詳細な調査、予測及び評価手法として、たとえば、英国スコットラン
ドでは、景観の調査、予測及び評価に当たって全般的に留意する事項、風力発電設備
の可視領域図の作成、眺望点の選定、フォトモンタージュ等による予測及び評価手法
に関する良好事例が示されている。
表2.英国スコットランドにおける風力発電事業の景観に係る 環境影響の調査・予測・評価手法に関する良好事例 景観に係る環境影 響調査の手順 具体的な手法 全般的留意事項 ・ スコーピング手続において、一般の方からの意見を聴くこと。 ・ 既設の風力発電事業の近傍に設置する事業については、既設の事業 による影響も含めて評価すること。 風 力 発 電 設 備 の 可視領域図の作成 ・ 可視領域図は、コンピュータで作成後、現地調査によってその妥当 性を確認すること。 ・ 可視領域図は、風力発電設備の大きさに応じて以下の範囲で作成す ること。 タービンまでの高さ 可視領域図 50m 15km 70m 20km 85m 25km 100m 30km 眺望点の設定 ・ 眺望点の選定に当たっては、関係機関と協議するとともに、一般か らの意見を聴くこと。 ・ 眺望点として、観光スポット、集落、景勝地、歴史的な風致地区等 を選定すること。 フ ォ ト モ ン タ ー ジュ等による予測 ・ 写真撮影時に用いたカメラの仕様(レンズの大きさ等)を示すこと。 ・ フォトモンタージュとともにワイヤーフレーム6を用いること。 景 観 影響 につ い て の評価手法 ・ 景観資源に対して風力発電設備がどのような影響を与えるかを評価 すること。 ・ 眺望点がどのように利用されているかについて評価すること。 ・ 上記2 つを踏まえて景観への影響の大きさを評価すること。(4)推奨されている環境保全措置
4 つの国・地域のガイドライン等では、環境保全措置として推奨できる措置がそれ
ぞれ示されている。これらのガイドライン等に示されている様々な環境保全措置を、
位置・規模の検討段階、工事段階及び供用段階に分類した結果は以下のとおり。
表3.米国、フランス、英国スコットランド又はEU におけるいずれかのガイドライン等で 景観への影響に係る環境保全措置として推奨されているもの 事業フローに おける段階 推奨されている環境保全措置 位置・規模の 検討段階 · 小規模の風力発電設備を多数設置するより、大規模のものを少数設置す ること(EU)。 · 列に並べて配置すること(EU)。 · 住宅から一定距離離すこと(EU)。 工事段階 · 工事用・管理用車両の運搬道路は、視認されない場所に設置するととも に、土壌を浸食しないように設置すること(米国、フランス)。 供用段階 【風力発電設備】 · 風力発電設備のデザイン等について、一般に情報提供すること(米国)。 · ナセル、ブレード及びタワーの色、構造、大きさに統一性を持たせるこ と(米国、EU)。 · 目立たない色を採用し、反射しない塗料を用いること(米国、EU)。 · 風力発電設備に商用記号をつけないこと(米国)。 · ブレードは同方向に回転させること(EU)。 · 関連法制度の許容する範囲内で、航空灯をできるだけ暗くすること(米 国)。 【その他の設備】 · 電線は地下埋設すること(米国、フランス、EU)。 · 事務所や送電施設等は視認されない場所に設置すること。特に、稜線を またがないようにすること(米国)。 · 急斜面への設置を避けることや、道路等による改変面積を最小化するこ と(米国)。2.景観に係る環境影響評価の実施状況
環境省において、風力発電所に係る環境影響評価を行った諸外国の個別事例につい
て情報収集を行ったところ、6事例(米国
7、英国スコットランド
8、デンマーク
9及び
オランダ
10)について、景観に係る具体的な調査、予測及び評価の実施内容が把握さ
れた。これらの 6 事例について、
(1)眺望景観の設定状況、
(2)フォトモンタージ
ュ等による予測手法、
(3)予測結果に基づく評価、
(4)住民等からの意見聴取及び
(5)採用された環境保全措置の観点から、各事例の内容をまとめた結果を次ページ
以降に示す。
(1)眺望景観の設定状況
6 事例における眺望点の設定状況について整理すると次のとおり。
眺望点の数は、13∼37 か所が選定されていた。
眺望点は、風力発電設備から半径
5km∼35km の範囲内で設定されていた。
眺望点として、景勝地、公園、住宅地、歴史的・文化的指定地域、自然保護区、
観光地、周辺道路等が選定されていた。特に、風力発電所の近傍の国立公園・
国立景勝地等については、当該公園から風力発電所が視認される場所を眺望点
として選定していた事例がみられた。
眺望点とは別に、風力発電所の近隣住宅(風力発電所からの距離
600∼1,200m)
からの景観を予測・評価した事例がみられた。
また、
6 事例のうち 3 事例において、風力発電設備の可視領域図が示されていた。
可視領域図を作成している一例を示すと以下のとおり。
【風力発電設備の可視領域図を作成している事例】
Whistling Ridge Energy Project(米国)では、事業実施区域から約 5km の範囲において、風 力発電設備を視認する可能性がある領域と、それぞれの領域から視認する可能性がある風力発電 設備の基数が地図上に示されている。当該地図には近隣住宅や観光スポットの位置もあわせて示 されており、これらの場所から視認する可能性がある風力発電設備の基数を把握することができ る。
図1.Whistling Ridge Energy Project(米国)における近郊住宅からの 風力発電設備の可視領域図 住宅 視認される風力発電 設備の基数 事業実施区域 風力発電設備の 設置予定箇所 観光スポット 住宅 1∼5 6∼15 16∼25 26∼35 35 以上
(2)フォトモンタージュ等による予測手法
6 事例すべてにおいてフォトモンタージュによる予測が行われていた。また、フォ
トモンタージュによる予測の設定条件として、風力発電設備が通年でどのように見え
るかを予測した事例や、ブレードやタワーが最も視認される晴天時の写真を用いた事
例、アクセス道路や事務所の見え方についても予測した事例がみられた。
このほか、
6 事例のうち 2 事例において、フォトモンタージュとあわせてワイヤー
フレーム
11による予測が行われていた。ワイヤーフレームによる予測を行っている一
例を示すと以下のとおり。
【フォトモンタージュ及びワイヤーフレームによる予測を行っている事例】
Whistling Ridge Energy Project(米国)では、フォトモンタージュによる風力発電設備の予測 結果とあわせて、ワイヤーフレームにより、現況の地形と建設される予定の風力発電設備を図示 することで、風力発電設備の位置や見え方がよりわかりやすくなるよう工夫されている。
図2.Whistling Ridge Energy Project(米国)におけるフォトモンタージュ及び ワイヤーフレームによる予測結果
(3)予測結果に基づく評価
6 事例すべてにおいて、フォトモンタージュによる予測結果を踏まえ、景観に与え
る影響の大きさについての評価が行われていた。評価に当たって、風力発電設備によ
る眺望資源への影響の大きさと眺望点の利用頻度を基に、眺望景観への影響について
ランク分けすることで評価している事例がみられた(図
3)。
【眺望景観への影響についてランク分けすることで評価している事例】
Lompoc Wind Energy Project(米国)では、それぞれの眺望景観について、対応する景観資源 の質と眺望点の利用状況を複数の観点から評価を行い、これらの評価結果と、フォトモンタージ ュによる風力発電設備の見え方に関する予測結果を総合的に勘案して、当該事業による眺望景観 への影響を「高」、「中」、「低」の三段階で評価している。また、それぞれの評価段階ごとにその 評価結果を示すことで、最終的な評価結果に至るまでの過程が明らかにされており、透明性の高 い評価プロセスとなっている。
図3.Lompoc Wind Energy Project(米国)における眺望景観への影響のランク付け <第1 段階:景観資源の質の評価> ・ 自然景観をどの程度含むか ・ 人工的な改変による影響を受 けやすいか ・ 周囲と比べて目立つ景観とな っているか ・ 完全性が保たれているか ・ 調和がとれた景観となってい るか <第2 段階:眺望点の利用状況の評価> ・ 眺望者の数 ・ 眺望者の種類(住民、道路利用者、 触れ合い活動を行う者) ・ 眺望時間、眺望頻度 ・ 風力発電設備からの距離 <第3 段階:眺望景観への影響の評価> 景観資源及び眺望点の利用状況の評価 結果と、フォトモンタージュによる視認 状況を踏まえて、景観への影響を、「高」、 「中」、「低」の三段階で評価する