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「大阪都」の基礎研究 -橋下知事による大阪市の廃止構想

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――橋下知事による大阪市の廃止構想――

目 次 1.は じ め に――「大阪都」構想 2.指定都市制度と東京都制 3.大都市自治制度の国際比較 4.東京都制の成立起源と評価 5.大阪の発展策のために大阪都が必要か? 6.小 括――「大阪都」のメリットとデメリット 7.大阪都構想の政治過程――ポピュリズム型首長 8.マスコミの「解説力」の不足と世論調査の改善策 9.お わ り に

1.は じ め に――「大阪都」構想

1 問題の状況 大阪府の橋下知事は,大阪府と大阪市を再編する「大阪都」構想を打ち 出し,これを掲げた政治団体(地域政党)「大阪維新の会」が,2010年4 月に知事を代表として設立された。当面,2011年春の統一地方選挙で,府 議会と大阪・堺市議会の過半数を獲得することを目指しているとされる。 知事は,「大阪市役所と府庁を解体し,一からつくり直す」(毎日新聞・ 大阪2010年5月4日)などと説明している。しかし,大阪府の区域はその まま都の区域となって存続し,長や議会の選挙区,担当する事務の内容な * むらかみ・ひろし 立命館大学教授

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ども,現在の大阪府を基本に決められるはずである。したがって,知事の 構想は「大阪府による大阪市の吸収合併」または「大阪市の廃止」に他な らない。そうした率直で明快な表現を避けていることもあって,大阪都の 問題はイメージが先行し,必要性や弊害についての議論が進んでいないよ うに思える。 また,隣の京都府から眺めていると,京都と同じく大阪でも,府と市は 多少の対立はあるにせよ,ともに都市や地域の整備に努めてきたように見 える。今日の大阪で府・市にそれほど決定的な対立と「二重行政」があり, 本当に,政令指定都市や地方分権の理念に反するような大阪市廃止(大阪 都の導入)を断行すべきなのだろうか。 しかし,2010年春の新聞の世論調査によれば,橋下知事への府民の支持 率は70∼80%程度に上り,「大阪都」構想にもかなりの支持があるとされ る。 この論文は,この橋下知事の「大阪都」構想に対して,地方自治論,都 市政策論,政治学の視点から,幅広く,かつ事実やデータに基づいて検討 を加えてみたい。 2 「大阪維新の会」の主張 まず,大阪都を推進する「大阪維新の会」のホームページの文章を,少 し長くなるが引用させていただく(2010年7月現在)1)。 トップページでは,橋下知事の写真の隣に,手書きの文字で次のように 書かれている。 「医療,福祉,教育,安心・安全などの住民サービスの向上には,圏 域での競争力と成長が不可欠です。大阪の持つ潜在可能性を実現させ るため,広域自治体と基礎自治体の役割と責任を明確にし,大阪府域 の再編,そして大都市自治制度の実現を目指します。」 ここで,「競争力と成長」を重視し,「大阪の潜在可能性を実現させる」 という部分は方向性を示すものだろう。約束として明示されているのは,

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「広域自治体と基礎自治体の役割と責任を明確にし,大阪府域の再編,そ して大都市自治制度の実現を目指します」という部分で,これが大阪都構 想ということになる。 これを具体化したものとして,「政策」のなかの「大阪再生マスタープ ラン」のページを見てみる。 「私たちは,この大阪の危機を打開し,大阪の再生を進める枠組みを 構築するため,大阪再生マスタープランを提案する。 同プランの概要は次の通りである。 ●大阪府域の再編 1.住民の生活基盤(安心)に関わる事務は基礎自治体が,また,産 業基盤(競争・成長)に関わる事務は広域自治体がサービスの提供 主体になるという役割分担により,「強い広域自治体」と「優しい 基礎自治体」で大阪府域を再編する。 2.新たな統治機構(大阪府とグレーター大阪(大阪市+隣接周辺 市)の一体化が中心)を構築する。 3.都(仮称)制下に府内に適正な数の基礎自治体を構成する。 4.大阪の潜在可能性を顕在化させ成長戦略を策定する。 5.アジアの拠点都市に足る都市インフラ(道路,空港,鉄道,港湾 等)を整備する。 新たな統治機構(大阪府とグレーター大阪(大阪市と隣接周辺市) の一体化が中心)を構築する。 東京23区相当の中心部で都区(仮称)を構成する2)。 都区は東京都の特別区よりも権限と財源を有する基礎的自治体であ る2)。 都区の首長は公選制とする2)。 都区に議会を置き議員は公選制とする2)。

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都区制の下,現府内に適正な数の基礎自治体を構成する2)。 ●ONE 大阪2) 大阪の危機は官民を通じて認識され様々な取り組みがなされてきた が,それぞれの取り組みがバラバラなため「負のスパイラル」から抜 け出せないでいる。 バラバラの取り組みを一つに方向付け,人々の連帯意識を育むため 様々な分野(交通等)で「ONE 大阪」に向けての運動を提案し展開 する。 ●ローカルパーティー(地域政党)「大阪維新の会」2) 大阪の人々のエネルギーを結集するための装置としてローカルパー ティー(地域政党)「大阪維新の会」(綱領別添)を結成する。中央集 権的な既存政党は上意下達機関であり,地域住民の問題意識を吸収し, 課題を設定し解決する装置としては不十分である。 「大阪再生マスタープラン」に示される現状認識を共有し,「大阪 維新の会・綱領」に賛同する者が各議会で会派「大阪維新の会」を結 成する。また,賛同する者の中から関連首長候補,関連議会議員候補 を擁立し,5年以内に新たな大都市制度の具体化に着手する。」 (以上,大阪維新の会 2010。「●」の記号だけを筆者が加えた。) 3 「大阪維新の会」の主張の読み方 上の「大阪維新の会」の説明には,ぼかしてある部分もあるが,明確に 読み取れることも少なくない。 明確な部分は,大阪の危機を強調した(5節 も参照)うえでの,政 策上の目標設定であり,「アジアの拠点都市に足る都市インフラ(道路, 空港,鉄道,港湾等)の整備」ということになる。この論文では,5,6 節で検討する。なお,「大阪の潜在可能性を顕在化させ成長戦略を策定す る」という政策は抽象的で,本論文では他の情報源を元に,多少の考察を

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することしかできない。 「強い広域自治体と優しい基礎自治体で大阪府域を再編する」との制度 改革の理念も,明快である。とはいえ,このような役割分担論は,広域自 治体の事務(仕事)を,「広域にわたるもの,市町村に関する連絡調整に 関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが 適当でないと認められるもの」(2条5項)と定める地方自治法の考え方 とは,かなり違う。また,常識的にも,かなりの人が,広域自治体(大阪 都)は福祉,文化,環境等に責任を負わず,優しくなくてよいのか,また, 基礎自治体(大阪市,その他の市)は産業基盤や都市開発によって地域を 強くする役割を否定されるのか,という疑問を持つだろう。しかし,この 「強い広域自治体」と「優しい基礎自治体」という表現こそ,大阪都構想 の核心であり,大阪市(堺市,その他の市)が持つ高次の権限を大阪府= 大阪都が吸収し一元化することを示している。つまり,大阪都の公式目的 が,何よりも産業基盤整備の一元的推進にあることが,率直に示されてい る。 なお,大阪都(大阪市の廃止)のメリットとして非公式に語られる,効 率化の主張が,前面に出ていないことに注目しておきたい。これは,後に 投入される「隠し玉」かもしれない。 大阪都構想の進め方,ないしは政治過程については,「ONE 大阪」の部 分での一元的リーダーシップ観が注目される。これは,複数の主体が議論 し,相互調整して進めていくというリベラルな多元的民主主義(自由民主 主義)の考え方とは,一線を画している。「ローカルパーティー」の部分 でも「既存政党」を批判し,「人々のエネルギーを結集するために」新た に地域政党を結成すると明言している。これは,実際には既存政党を威嚇 して動かす効果もあるだろうが,他方で,リーダーが民衆に直接呼びかけ 支持を集めて権力を強化するという,政治学で言うポピュリズム政治のモ デルに合致している(7,8節で述べる)。 これに対して,あいまいなのは,先ほどの「大阪の成長戦略」とともに,

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肝心の,地方自治制度の再編の具体的内容である。制度設計は,立案中だ と解釈できる範囲を超えて,分かりにくい説明にとどまっている。 ホームページの「●大阪府域の再編」に列挙されていた1)6つの点を, 順に読み解いてみよう。 「新たな統治機構(大阪府とグレーター大阪(大阪市と隣接周辺市)の一 体化が中心)を構築する。」 ――すでに,大阪府とグレーター大阪(大阪大都市圏)は一体化して いる。グレーター大阪に対応する広域的な統治機構は,すでに大阪 府として存在するから,新たに構築する必要はない。したがって, 「一体化」ではなく,「一元化」の誤記だと思われる。つまり,大阪 大都市圏に,大阪府=大阪都以外の有力な自治体が存在することを 許さない,という決意の表明だと解すれば,大阪都構想の正しい表 現になる。 「東京23区相当の中心部で都区(仮称)を構成する。」2) ――大阪市(および堺市などの周辺市)を廃止して区に変える方針を きわめて婉曲に表現したもので,「お役所風の」表現という感じだ。 設置される「都区」が単数か複数かも示されないが,大阪市をその まま都区にするのでは現状と大差がなく,マスコミで報じられてい るように,いくつかの区に分解することになるだろう。名称は,地 方自治法に定めなければならず,東京都が用いる「特別区」に統一 される可能性が大きい3)。 「都区は東京都の特別区よりも権限と財源を有する基礎的自治体であ る。」2) ――これは虚偽ではないが,重要事項を説明していない。つまり,東 京都の特別区は一般市より限定された権限・財源しか持たない (2,4節)ので,それを上回るといっても,一般市以下の弱いも のになるはずだ。もし,旧大阪市域の特別区に一般市並みの権限・ 財源を認めるなら,大阪市を特別区に分割する理由も弱くなってし

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まう。東京都と大阪都で区の制度を違えるというのは,分かりにく く非現実的に思える3)。 「都区の首長は公選制とする。」「都区に議会を置き議員は公選制とす る。」2) ――これは,大阪都の特別区が現在の東京都制においてと同じく,地 方自治体としての機構を持つことを述べている。 「都区制の下,現府内に適正な数の基礎自治体を構成する。」2) ――平成の合併の際に(東京と大阪で)進まなかった市町村合併を, 進める4)という意味だろう。 以上のように解読するなら,報道で一般化している「大阪都」という名 前は明示されていないものの,ほぼ東京都(2,4節で述べる)をモデル にした制度設計だと理解してよいだろう。 大阪都についての以上の説明は,現在立案中ということもあるだろうが, それにしても不鮮明だ。このようなあいまいな表現は,民間企業なら許さ れないだろう。つまり,企業Aがより小さな企業Bと合併し,営業エリア, 商品の内容,取締役会の選出方法などはAのものをベースにする場合, 「A社がB社を吸収合併する」と,説明されるはずだ。しかし,2010年夏 の段階では,マスコミは「大阪都」,「大阪府の再編」という表現を用いる ことが多い。本来,「大阪都(大阪市等の廃止)」と報道されてしかるべき ところを,それが回避されているのは,知事のイメージ先行戦略の成功, マスコミの解説力の低さ(8節参照),あるいは大阪市側の対応の弱さの 反映と見るべきかもしれない。 しかし,別のテーマだが,地域主権という美しいイメージで宣伝されて きた道州制が,実は,府県の廃止による「州央集権」,さらに市町村の無 理な再合併にもつながることが次第に認識され,世論調査では反対多数の 状況になり,府県からも賛成だけではなく反対も表明されるようになって きた。認識の深化をつうじて,地域主権を実現するよりデメリットの小さ な代替案(村上 2009,村上 2010)が検討されることが期待される。同様

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に,大阪都についてもその実態の認識とメリット,デメリットの評価を進 め,大阪の発展をよりデメリットを抑えて進める方策を探ることが,望ま しいのではないか。 4 「大阪都」構想の本質 以上,「大阪維新の会」の記述に筆者の解釈を加えて大阪都の具体像を 描いてきた。これは,マスコミが報道する具体像(たとえば,相川 2010) ともほぼ一致している。大阪都の制度は東京都のモデルに倣ったものにな る可能性が高い。とくに都と区の関係については,地方自治法281条以下 の東京都に関する規定が(必要ならば修正を加えて)適用されるだろう3)。 ただし,2010年夏になって,知事が,地方自治法の改正を必要としない 「大阪市を複数の市に分割する」案を検討しているとの報道もなされる。 「都」の名称も用いられないかもしれない。しかしその場合でも,大阪市 を廃止・分割しその指定都市としての権限を府が吸収するという構想の本 質は,変わらない。 なお,大阪都の導入は,大阪府議会での議決だけでなく,大阪市(や現 在の地位を失うその他の市町村)の決定を必要とする(同法7条)。 以下では, で述べた大阪維新の会の主張にもとづく解釈と,東京都 というモデルの準用を前提にして,議論を進めるが,この議論は「大阪市 を複数の市に分割する」場合にも,ほぼそのまま妥当する。 「大阪都」構想の意味を理解するためには,それが,府と大阪市(や堺 市?)との制度的関係において次の3種類の変化をもたらすと考えるとよ い。 ① 大阪市がもつ指定都市としての高次の権限を,都=府が吸収する。 ② 大阪市を廃止し,いくつかの特別区または市に分割(解体)する。 ③ 大阪市が蓄積してきた資産や税源の一定部分を,都=府が獲得する。 それでも,大阪都の本質をどう理解するかは,賛成論,反対論の間で, 正反対になる(図表5)。

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知事側は,大阪都は大阪府域の再編であり,大阪府と大阪市を解体して, 一から新たに作ると説明する。これによって,「大都市自治制度の実現を 目指します」という主張をしている。 反対する側(おそらく大阪市など)は,大阪都を,府による大阪市の吸 収合併に他ならないと受け止めるだろう。大阪都の役割,区域,選挙制度 などは,基本的に府のそれを引き継ぐことになるからである。つまり,大 都市自治体を廃止し,広域自治体がそれを吸収してしまうのが,大阪都構 想の本質だということになる。府への集権化(高寄 2010)という解釈で ある。 両者の論争に判断を下すためには,レトリックではなく,大阪都の制度 設計,知事の意図,大阪市と大阪府のこれまでの実績,大阪に必要な政策 の推進体制,役割分担と権力一元化の是非,大都市自治体の適正規模につ いての国際比較などの情報を整理・分析する必要がある。この論文では, そうした作業を進めていきたい。 この論文で得られた結論を先に書いておこう。仮に,大阪の一元的な開 発のために必要な権限に限って,前記の①が一部必要だとしても(筆者は 検討の結果,必要と考えないが),さらに② ③まで進んで大阪市自体を廃 絶する必要は,全くないと思われる。むしろ,それは地方分権の時代に逆 行する大阪府=都への集権化である。また,日本の大都市が採用している 政令指定都市制度や,海外の大都市の自治制度を調べても,戦時体制下で 導入された東京都制とそれをモデルにする大阪都は異例で,地方自治に とってマイナスである。 なお,以上の検討をもとに,比較的ニュートラルに定義するとすれば, 「大阪都構想とは,大阪府の区域に大都市圏に対応した大阪都を設け,こ れが大阪市等の都市基盤整備等に関する権限を吸収し,大阪市等は廃止し て権限の限られた特別区(または一般市)に分割するという,府市再編の 構想である」ということになるだろう。

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5 この論文の構成 この論文は,「大阪都」構想を,さまざまな側面から総合的に研究しよ うとしている。それが,単純化されたイメージに対して,複数の視点と, 基礎的で必要な情報を分かりやすく提供することができればと考えている。 まず,大都市自治について制度を中心に検討するのが,2節(指定都 市),3節(海外の大都市自治制度),4節(東京市の廃止と東京都制,グ レーター・ロンドンの廃止と復活)である。 つぎに,大阪の問題に視点を移し,5節(都市政策,産業基盤整備と大 阪都)のあと,6節で大阪都への一元化のメリット,デメリットを総合的 に評価する。 ここまでの分析は,大阪都構想にかなり「非合理的」な要素があること を示すことになるが,末尾の7,8節では,なぜそうした非合理的な議論 が大阪府政(参照:関西大学法学研究所 2006,同 2010,森本 2006)に おいて人々の支持を集めるかを,政治学での「ポピュリズム」論を手がか りに,マスコミ報道の責任も含めて,探っていきたい。 9節は,まとめと展望,いくつかの提言にあてられる。 なお,横浜,大阪,名古屋などの大都市自治体は,かつては「政令指定 都市」と呼ばれたが,今日では「指定都市」が一般的な呼称になっている。 この論文では,2つの呼称を同じ意味で使っている。また,都道府県を 「府県」と,大阪府を「府」と略することがある。

2.指定都市制度と東京都制

「大阪都」構想は有力な指定都市である大阪市を廃止し,東京都と類似 した都制に移行しようとする。大阪都を論じるためには,指定都市と都制 (都区制度)という2種類の制度(河内・佐々木・米田 2002,松本 2009) について,基本的な事項を押さえておく必要がある。

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1 指定都市制度の成立過程と意義 指定都市(政令指定都市,政令市とも呼ばれる)とは,大都市自治体で ある市に,一般の市よりも大きな権限を委ねる制度である(参照,神戸都 市問題研究所 2009)。 戦後,1947年制定の地方自治法に「特別市」制度が設けられたが,具体 的な都市を指定する法律の制定をめぐって,府県と当時の5大市(大阪, 京都,神戸,名古屋,横浜)のあいだで,激しい論争が交わされた。府県 側は,特別市が独立したあとの残存地域の弱体化,大都市と周辺部との調 整の必要などを理由に,特別市の指定に強く反対した。結局,1956年,折 衷的な制度として「政令指定都市」が地方自治法改正で導入された。大都 市は特別市にはならずに府県のもとに置かれる(地方制度の2層制は維持 される)が,他方で府県の権限の一部を委譲されることになった。 この妥協点は,双方に不満を残すものではあったが,互いに利益もあり, かつ両者による政策協力の可能性を開いた。指定都市は,基礎自治体の機 能に加えて広域的(高次)機能の一部を担うが,しかし府県から独立する わけではない。府県は,指定都市の区域からも税を徴収し,府県会議員の 選出を受け,一定の政策を展開してきた(後の図表2のA)。この重複構 造は,「二重行政」への傾向を宿命的に持っているが,大都市や中心的な 施設の整備を2つのエンジンで進められるというメリットも持つ。 大都市に一般の市より広い権限を認めるべきだという論理の根拠は,大 きく分けると2つある(松本 2009:671,原田 2005:41-42)。 ① 大都市自治体は,行財政能力が高い。これは,大都市の経済力から 得られる税収や,自治体行政機構の規模・能力を指している。 ② 「大都市特有の行政需要」がある。大都市がもつ中心地機能,人口 や諸活動の規模・密度の高さのゆえに,経済政策,都市再開発,地下 鉄や鉄道,高次の文化施設,住宅整備,環境保全,生活保護などさま ざまな政策が大規模に必要になる。 これに加えて,指定都市になれば一般市に比べて,③ 都市のイメージ

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アップになり,④ 住民との関係では,府県の事務権限が指定都市に移譲 され,指定都市に区役所が設置されるために,行政サービスが(論理的に は)迅 速 か つ き め 細 か に な る と い う メ リッ ト も,重 要 で あ る(真 渕 2009:309)。 1990年代になると,地方分権の流れの中で,中規模の都市にも指定都市 の考え方が準用されることになった。人口30万人以上の都市から指定され る「中核市」や,20万人以上の都市から指定される「特例市」に対して, 指定都市が府県から移譲される権限のうちの一定の部分が委ねられている。 2 指定都市制度の概要 地方自治法上は人口50万人以上の市のうちから政令で指定するとされて いるが,当初は,人口100万人を目処として,前記の5大都市が指定され, その後,北九州や,札幌,福岡などのブロック中心都市等が追加された。 2000年代に入ると,市町村合併を促進するためにこの要件は引き下げられ, 人口70万人前後の静岡,岡山,相模原まで含めて,指定都市の数は 19 に 達している(2010年現在)。 指定都市が一般市を超えて特別に認められる権限は,地方自治法に列挙 して規定されている(252条の 19,1項)。指定都市は,児童福祉,社会福 祉,食品衛生,都市計画,土地区画整理事業など 19 の分野で,通常は都 道府県が担当する事務の「全部又は一部で政令で定めるものを」,担当す ることができる。それに加えて,個別法で,国道や府県道の管理の一部 (道路法)などの府県事務が移譲されている。 それに劣らず指定都市にとって有利なのは,一般の市と違い,府県を介 さずに,直接国と交渉できるということだ。一般の市であれば都道府県知 事の指示,許認可を受けるべき事項であっても,政令で定める場合にはそ れが必要でなく,あるいは国の大臣から指示,許認可を受けることになる (252条の 19,2項)。つまり,知事が権限を行使できる機会が,指定都市 に対しては減るということになる。

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財政面でも,指定都市に特別な財政需要が生じることに対応して,地方 交付税や国庫補助金を中心に,一定の配慮が行われている(林 2009)。 3 東京都制(都区制度)の概要 都の制度が旧東京市の反対を押し切って導入された経緯は,4節で述べ るが,ここではその制度を指定都市と比較するために概観しておく。 東京都の強みは,他の道府県よりも大きな権限・財源を国との関係で配 分されていることではない。地方自治法は,「都道府県」を一括して扱い, まとめて「市町村を包括する広域の地方公共団体」(2条5項)と定義し ていて,都・道・府・県の間に原則として区別はない。 都が特別であるのは,むしろ基礎自治体との関係で,権限・財源を都に 集中できることである。都は,特別区の区域においては,都道府県の役割 に加えて,基礎自治体の役割の一部も担当することになっている5)。特別 区の側から見ると,一般の市町村よりも権限が縮小されることになる。 また,特別区は一般の市が有する税源のかなりの部分を都に吸収され, かつ,国から地方交付金を受けない代わりに,都から,「政令の定めると ころにより,条例で」,特別区財政調整交付金を交付される(282条)(特 別区長会 2010)。これによって,都への財政的な依存が起こる可能性があ る。 特別区の地位は,戦後導入の区長公選制を廃止した1952年の地方自治法 改正の際,大都市の内部的な特別地方公共団体であるとして,低く設定さ れたこともある。しかし,1974年に区長公選制が復活し,都からの権限移 譲も順次おこなわれ,今日では,「都は,特別区の存する区域において, 特別区を包括する広域の地方公共団体」,「特別区は,基礎的な地方公共団 体」(地方自治法281条の2)という考え方が受け入れられている(河内・ 佐々木・米田 2002:397-411,大森 2008:204-205)。 とはいえ,特別区を基礎自治体として位置づけると,同じく「基礎的な 地方公共団体」(同法2条3項)とされる市町村と比べて,なお権限が弱

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いという問題が浮かび上がるだろう。また,東京都を広域自治体と見なす と,23区区域を包含する基礎自治体が存在しないという問題点が指摘され るのではないだろうか。 4 大阪都における大阪市域の没落? 東京の制度を参考に考えると,大阪都のもとで,大阪市(や堺市?)の 立場と役割は,現状よりもきわめて弱められてしまう。 ① 大阪市等がもつ指定都市としての地位は失われる。府県に準じた高 次の権限や,国と直接交渉できる地位を失う。 ② さらに一般の市と比べても,旧大阪市域に設置される特別区は,東 京都の場合と同じく,権限,財政の2つの面でより弱い立場になる。 ③ 特別区に分割されるので,都市域全体を運営してきた大阪市等の総 合性やまとまり,自己決定権が失われてしまう。 ④ 大阪市等が築いてきた施設や資産のかなりの部分は,都の所有に移 るだろう。 こうした4つのデメリットに対して,どんなメリットがあるのか。もし 大阪市が財政破綻しているなら,都の支援への期待もあるが,そんな状況 ではない。唯一考えられるメリットは,大阪市が都に併合され消滅するこ とで大阪全体が(そして大阪市域が)超飛躍的に発展するという論理だが, そんなことがありうるのか。そしてこのメリットは,「4重のデメリット」 を上回るのか。後の,5,6節での検討によれば,この政策上のメリット はあったとしても小さい。また,それらのメリットは府と大阪市が分立し ていても工夫により達成できる。逆に,政策や地方自治に関するデメリッ トが,「4重のデメリット」とともに生まれ,深刻である。 大阪府下に住む人々も,大阪市の権限・財源の大きさに不公平感を覚え るかもしれないが,上のように「過酷な」処遇を大阪市に与えてフェアと 言えるか,また大阪都知事への権力の集中が何を生み出すか考えてみる必 要がある。もちろん,府下でも,上に紹介した大阪維新の会のホームペー

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ジでは,市町村合併の強力な推進が示唆されていることを,見落としては ならない。 なお,東京の発展はおそらく都制の故ではなく,東京が首都でかつ日本 最大の都市であることによる。横浜,名古屋,福岡などの市とそれを含む 県が,それぞれの市を廃止解体すればより発展すると主張する人はいない だろう。大阪についても,同じではないか。

3.大都市自治制度の国際比較

このテーマは,地方制度の中で大都市自治体にどの程度特別な地位を与 えるか,という観点から検討される。しかしまず,世界の大都市制度の傾 向を知るために,人口データを手がかりに国際比較をおこなってみたい。 1 大都市自治体の人口規模 図表1は,世界の都市を,中心となる都市自治体(市・都市州など)の 人口によって順位付けしたものである。いくつかの興味深い傾向を読み取 ることができる。 第1に,都市自治体が,大都市圏の全体を包含することは,不可能に近 く,表によればカラチ,ブエノスアイレス,マニラ,バンコク,キンシャ サ,ベルリンなどがそれに近づいているくらいである。 第2に,中心都市の自治体の規模は,カラチ,上海,北京,ブエノスア イレス,マニラ,ソウル,モスクワ,バンコク,東京,ニューヨーク,ロ ンドンなどのように大都市圏のかなりの部分を包含し,人口1000万人規模 に達する場合もあるが,ロサンゼルス,シカゴ,大阪,台北,名古屋,パ リ,ハンブルグ,フィラデルフィア,ミュンヘン,ミラノ,バーミンガム (表の401位,都市自治体102万人,大都市圏228万人)などのように大都市 圏の中心部だけに限られる場合もある。首都の場合に,都市自治体が拡張 され,大都市圏の人口に占める割合が大きくなる傾向がある。また,この

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図表1 世界の都市自治体とその大都市圏の人口 順位 都 市 名 国 都市自治体の人口 大都市圏の人口 1 Karachi パ キ ス タ ン 15,500,000 18,000,000 2 Shanghai 中 国 14,900,000 19,200,000 3 Mumbai (Bombay) イ ン ド 13,900,000 21,200,000 4 BEIJING 中 国 12,460,000 17,550,000 5 DELHI イ ン ド 12,100,000 16,713,000 6 BUENOS AIRES ア ル ゼ ン チ ン 11,655,000 12,924,000 7 MANILA METRO フ ィ リ ピ ン 11,550,000 13,503,000 8 SEOUL 韓 国 11,153,000 24,472,000 9 Sao Paulo ブ ラ ジ ル 11,038,000 19,890,000 10 MOSCOW ロ シ ア 10,524,000 14,800,000 11 JAKARTA イ ン ド ネ シ ア 10,100,000 24,100,000 12 Istanbul ト ル コ 9,560,000 12,600,000 13 BANGKOK タ イ 9,100,000 11,970,000 14 MEXICO CITY メ キ シ コ 8,841,000 21,163,000 15 TOKYO 日 本 8,653,000 31,036,000 16 TEHRAN イ ラ ン 8,430,000 13,450,000

17 New York City ア メ リ カ 8,364,000 20,090,000

18 KINSHASA コ ン ゴ 8,200,000 10,100,000 19 DHAKA バングラディシュ 7,940,000 12,797,000 20 Lagos ナ イ ジ ェ リ ア 7,938,000 9,123,000 23 LONDON イ ギ リ ス 7,557,000 12,200,000 27 Hong Kong 中 国 7,055,000 39 SINGAPORE シ ン ガ ポー ル 4,988,000 48 Sydney オー ス ト ラ リ ア **4,400,000 55 Los Angeles ア メ リ カ 3,834,000 12,890,000 59 Yokohama 日 本 3,655,000 61 Melbourne オー ス ト ラ リ ア **3,635,000 63 Busan 韓 国 3,600,000 4,292,000 68 BERLIN ド イ ツ 3,432,000 3,943,000 73 MADRID ス ペ イ ン 3,213,000 5,300,000 82 Chicago ア メ リ カ 2,853,000 8,770,000 90 ROME イ タ リ ア 2,732,000 3,555,000 95 ★Osaka 大阪 日 本 2,647,000 *17,590,000 96 Incheon 韓 国 2,630,000 2,630,000

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割合は,アジア(日本以外)やアフリカ,中南米では一般に大きく,北米 やヨーロッパでは中程度または小さいという傾向が見られる。その理由に 98 TAIPEI 台 湾 2,620,000 6,753,000 101 Toronto カ ナ ダ 2,571,000 5,100,000 105 Daegu 韓 国 2,512,000 125 Nagoya 日 本 2,260,000 9,250,000 126 Houston ア メ リ カ 2,242,000 5,728,000 133 PARIS フ ラ ン ス 2,113,000 11,769,000 148 Sapporo 日 本 1,906,000 2,130,000 166 Hamburg ド イ ツ 1,775,000 3,260,000 180 VIENNA オ ー ス ト リ ア 1,681,000 2,269,000 182 Barcelona ス ペ イ ン 1,673,000 3,890,000 189 Montreal カ ナ ダ 1,621,000 3,636,000 193 Perth オ ー ス ト ラ リ ア 1,603,000 199 Phoenix ア メ リ カ 1,568,000 4,282,000 204 Brisbane オ ー ス ト ラ リ ア 1,544,000 1,544,000 205 Philadelphia ア メ リ カ 1,540,000 5,345,000 206 Kobe 日 本 1,534,000 1,560,000 208 Kaohsiung 台 湾 1,530,000 2,960,000 227 Kyoto 日 本 1,466,000 1,500,000 234 Fukuoka 日 本 1,450,000 2,230,000 239 Daejeon 韓 国 1,443,000 250 Gwangju 韓 国 1,415,000 1,500,000 271 Munich ド イ ツ 1,367,000 2,600,000 289 Milan イ タ リ ア 1,302,000 4,051,000 [注] 都市と地方自治に関する国際的な専門家団体である City Mayors のウェブサイト (http://www.citymayors.com/statistics/largest-cities-mayors-1.html)より,筆者がデー タを抜粋し作成した。 都市自治体や都市圏人口の定義は必ずしも標準化されていないので,この表も,全体 の傾向を見るために利用していただきたい。ここでの「都市自治体」(city)の定義には, 州や県の下にある市とともに,州や県と同格の特別市や都市州も含んでいる。しかし, 東京の都市人口としては23区の数字が用いられているが,東京都の数字を用いるのが適 切だろう。*は「京阪神」大都市圏の数値で,大阪だけでなく神戸,京都の都市圏も含 み,大きすぎる。またオーストラリアの都市自治体は一般に都心部だけの狭いもので, 表の**の数字は大都市圏のものである。 20位以下は,先進国(おおむね OECD 加盟国)の都市だけを抜粋した。都市名のう ち大文字は首都を示す。空白欄は,ウェブサイトのデータ自体のものである。

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ついては推測だが,アジア等では国家主導で主要自治体の合併が進められ た可能性があり,また比較的狭い中心都市に人口が密集していることも考 えられる。逆に北米やヨーロッパでは基礎自治体の自治が強く,また所得 向上とともに人口が郊外分散して大都市圏が拡大したことなどが作用して いるのだろう。 第3に,ヨーロッパ,オーストラリア,北米の主要都市は都市圏人口が 数百万人規模であることもあって,都市自治体の人口も100∼300万人程度 の規模のものが大部分である。 以上の結果,人口500万人を超えるような巨大な都市自治体は,かつて 「世界3大都市」と呼ばれた東京,ニューヨーク,ロンドンと,旧社会主 義大国の首都モスクワ以外は,すべてが日本以外のアジアや,アフリカ, 中南米に存在することになる。ヨーロッパ,オーストラリア,北米では, 首都を含む主要都市は(ニューヨーク,ロンドンを除くと),人口400万人 未満の規模になっている。それらの比較的コンパクトな都市自治体も,魅 力的でかつ経済的に繁栄している場合が多いことは,注目しておいてよい だろう。さらに,世界的に著名な経済都市で自治体の人口が100万人を下 回っているものとして,サンフランシスコ,フランクフルト,アムステル ダムなどがある(表に登場しない)。 大阪市は人口260万人強で,シカゴ,ローマ,台北,トロント,パリと 並んでいる。大阪大都市圏の人口は1000万人程度であり(表の数値は京都 や神戸を含み大きすぎる),その中で大阪市の規模はやや小さいが,周辺 市町村の合併が進まず,郊外化で衛星都市が発達した結果でありやむをえ ないだろう。 このデータの読み方は,① 大阪はアジアの大都市(おもに首都)と競 争するために,大阪市を廃止し巨大な「大阪都」に統一しなければ発展で きないのか,あるいは,② ヨーロッパや北米をモデルに,郊外化が進ん だ先進国の大都市として,コンパクトな大阪市を,大都市圏を担当する大 阪府とともに存続させるべきか,という議論につながっていくだろう。も

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し①の理論を採用するならば,ヨーロッパや北米の都市自治体も(そして 名古屋,横浜,福岡も),巨大化しなければアジアや中南米の都市と競争 できない,というおかしな結論になってしまいそうである。それはともか く,大阪の発展策のために「大阪都」が必要か否かについては,5節で, 具体的に検討していくことにしよう。 2 大都市自治体の面積 海外の状況については,まとまった統計を見つけられておらず,個別の データの紹介にとどめる。 地方制度調査会の資料(出井 2008:24-25)によれば,首都(または経 済的な首都)の面積は,グレーター・ロンドン(県に相当)1,585 km2 ローマ市 1,285 km2,ベルリン都市州 892 km2,ニューヨーク市 785 km2 ソウル特別市 606 km2などであり,狭い例では,パリ市(県に相当)105 km2,ブリュッセル市 162 km2などもある。アジアでは,シンガポール (独立国)618 km2,香港(特別行政区,山地が多い)1,075 km2の例もあ る。 首都以外の大都市自治体は,どうか。4か国だけのデータだが,まず韓 国の広域市は,釜山 765 km2,大邱 884 km2,仁川 1,002 km2などかなり 広い。ただしこれらの広域市の起源は,1960年代に軍事政権下で導入され た「直轄市」であることに,注意しておかなければならない(CLAIR 2008:5,6,27)。ドイツは,ハンブルグ都市州 755 km2,フランクフル ト市 248 km2,ミュンヘン市 310 km2など(州や市のウェブサイトによ る)。イタリアでは,ミラノ市 182 km2,トリノ市 130 km2など(イタリ アの百科事典による)。アメリカの市では,ロサンゼルス 1,200 km2,サ ンフランシスコ 120 km2,シカゴ 581 km2,ボストン 124 km2などとなっ

ている(U. S. Census Bureau 2010)。

以上かなりバラエティーがあるが,それらに比べて,東京都の面積

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え(もっとも,海外の例にも山間部を含むものがある),相当に広すぎる。 グレーター・ロンドンも広いが,その境界の外側にグリーンベルトが設定 され,そのさらに郊外にハーロー,ウェルウィンなどの衛星都市が散在す る(日本の高等学校の地図帳などを参照)。したがって,グレーター・ロ ンドンは,ロンドンという都市だけに対応しているといえる。ローマ市は 大都市圏人口が小さく,Google の衛星写真で見ると,市域周辺部は田園 が広がっている。これに対して,東京都や大阪府は郊外の多くの衛星都市 までを含むので,広域自治体に相当し,都市自治体としてはやはり大阪市 や旧東京市が適当ではないかと考えられるのである。 なお,中国の大都市は,上海市 6,300 km2,天津市 12,000 km2など巨 大だが,これらは省と同等の「直轄市」であり,他の地方各級人民政府と ともに,それぞれの地域を所管する国家権力機関と位置づけられている (CLAIR 2007:6,9,13)ので,日本での参考にはならないだろう。 日本の指定都市の面積は,大都市圏人口が大きくかつ平野部に発展した 都市の場合6),500 km2あたりが限界のようだ。人口規模が大きい都市で は,横浜 435 km2,名古屋 326 km2,神戸 553 km2,福岡 341 km2などと なっている。大阪市は 222 km2で,川崎 144 km2,堺 150 km2,さいたま 217 km2に 次 い で,4 番 目 に 小 さ い。逆 に,札 幌 市 1,121 km2,京 都 市 828 km2などもあるが,これらは広い山間地域を含んでいる。大阪市の面 積は横浜,名古屋などより小さいが,非常に狭いというわけではない(大 都市統計協議会 2009:396)。 ここまでの,日本と外国の大都市の人口・面積に関するデータから,大 阪市くらいの中規模の自治体でも,都市の魅力と発展を実現していること を,確認しておきたい。 とはいえ,大阪市の面積の狭さは,パリやフランクフルトと同様だと 言っても,気になる人も多いだろう。これは,5,6節で具体的な政策等 に照らして考えることにするが,大都市の区域が比較的狭い場合に,どん な問題が起こるのか,一般論として考えておこう。

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一般に大都市圏の地域構造は,都心から郊外に向けて,都心ビジネス地 区,インナーシティ(住宅・工場などの密集地区),郊外住宅地,郊外の 衛星都市と推移していく。もし,都心地区だけで自治体を作れば,税収は 豊かで都心を整備できるが,肝心の住民が少ない。都心とインナーシティ までしか含まない自治体も,人口減など安定感がない。しかし,郊外住宅 地を一定含む規模であれば,定住人口が多く多様な地域の組み合わせと言 う意味で,まとまった都市自治体だと考えてよいだろう。大阪市の市域は, 郊外の部分が狭いが,一応このレベルに達している。大阪市の半分の面積 でも,パリ市が20区を設け,都心,大学地区,高級住宅地,下町など多様 な地域を含んでいることは,良く知られている。 さらに広く郊外住宅地にまで拡大した大都市自治体も,多様な機能と住 民を含むなどのメリットがある。しかし,衛星都市まで拡大すると,中心 都市と衛星都市のアイデンティがともに失われるだろう。衛星都市まで含 む大都市圏のためには府県のような広域自治体を置き,その中に,大都市, 衛星都市がそれぞれ市を形成するというのが,多様な地域特性に対応して いて適切だと考えられる。こうした2層の地方自治体の協力によって大都 大阪府 大阪都 県・州 特別市 区 大阪市 市町村 広域的・ 高次機能 基礎自治 体の機能 市町村 市町村 特別区 (旧大阪市) A 現行の指定都市 X 大阪都構想 B 【参考】特別市   (≒東京都制) 図表2 「大阪都」における自治体間の権限配分のイメージ [注] 筆者が作成。Aは現行の指定都市(政令指定都市)制度,Xは東京都の制度をモデル にするものと仮定した「大阪都」の制度である。ただし,大阪都においては大阪市に加 えて周辺市のいくつかも特別区に「格下げ」される可能性がある。Bの特別市は,ベル リン,ハンブルグなどの都市州,グレーターロンドン(Greater London)などにおける 権限配分のイメージを描いている。

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市圏を運営するというのが,日本の指定都市や海外の大都市の多くが採用 する制度で,図表2と次の でAタイプとして述べるものである(Bタイ プだが上位に州政府があるパリもこれに近い)。 3 大都市に関する地方制度のタイプ 大都市の地方制度上の位置づけを,図表2で,3つのタイプに整理して みた。(A,B,Xは筆者が説明の便宜上つけたもので,一般的な名前で はない。) Aタイプは,県や州などの広域自治体が大都市自治体を包含する。ただ し日本の指定都市のように,府県の権限の一部を移譲されて,一般の市よ り大きな役割を果たす場合もある。これに対して,「特別市」や「都市州」 と呼ばれることもあるBタイプでは,広域自治体から大都市自治体が独立 して,広域自治体と同等の立場を獲得し,基礎自治体と広域の機能を合わ せ持つことになる。 海 外 の 例 を 少 し 見 る と,イ ギ リ ス で は,グ レー ター ロ ン ド ン は 県 (county)に相当する地位を持ち,Bタイプである。マンチェスター,リ バプールなどの都市圏も,市(metropolitan district)の集合体として周囲 の県から独立しているので,Bタイプに近い。州・郡・市の3層制をとる ドイツでは,ベルリン,ハンブルグ,ブレーメンは都市州として他の州と 同格(Bタイプ)である。それ以外の大・中都市は,たとえばケルン市は ノルトライン・ヴェストファーレン州に,ミュンヘン市はバイエルン州に それぞれ包含される(Aタイプ)が,郡(Kreis)からは独立しそれと同 格なので,日本の指定都市と同じく一般市よりは権限が拡大している。フ ランスでは,州・県・市の3層制のもと,パリ市だけはイル・ド・フラン ス州の中にあるが県の地位を持つBタイプとなり,リヨン,マルセーユ以 下の市は,県に包含されるAタイプとなる。イタリアも州・県・市の3層 制を採り,ローマ,ミラノなどの市は県の中におかれている(Aタイプ)。 アメリカの大都市は,州が広いこともあって,州の内部に位置づけられ

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ている(Aタイプ)。ここでも,サンフランシスコ,ロサンゼルス,フィ ラデルフィアなどの大都市は,郡(county)と合併してシティ・カウン

ティ(city-county)を形成していて,日本の指定都市に似ている7)。韓国

のソウル特別市と釜山など6つの広域市は,広域自治体の道と同じ地位を 持 つ 特 別 市(B タ イ プ)と なっ て い る(以 上,European Union 2010, National Statistics 2010,CLAIR 2008,CLAIR 2009,出井 2008:24-25,

指定都市市長会 2010,村上 2010 などによる)。 このように,先進国の大都市は,Aの一般市または政令指定都市タイプ か,Bの特別市タイプをとるものが多い。また,とくにBタイプでは大都 市自治体の機能が膨大になるため,内部に議会等を備えた区(特別区)を 置いて権限を移譲することも多い。 これに対して,Xタイプは,東京都や構想段階の大阪都における制度だ が,外国に類例の少ない特殊なタイプであるようだ。大都市についての権 限の大きな部分を,上位の広域自治体(府県)が兼務する方式である。こ の広域自治体こそが大都市だとみなせば,これは大都市自治体が独立した Bタイプに近づけて解釈できるだろう。しかし,たとえば東京都や大阪都 (=大阪府)全体を1つの大都市とみなすことには無理がある。むしろ, これまで独自の政府を備えてきた大都市が,その政府と自己決定権を広域 自治体に奪い取られるという解釈も誤ってはいない。 ちなみに,東京府(=東京都)や大阪府は,明治維新期に国が任命派遣 する知事が統治する単位として設定され,元来,都市自治のために設けら れた区画ではないので,面積がかなり大きく,大都市以外にも独立性のあ る中小都市や農村を包含している。したがって,都の区域全体を特別区に 分割することにはならない。大都市部分については権限が限られた特別区 を置くが,郊外や農村部は一般の市町村を残すというかたちで,都の内部 に異なる基礎自治体の制度が並存する形になる(Bタイプのソウル,ロン ドン,ベルリン,パリなどは,市域全体を区に分割している)。この並存 状況は,東京都や大阪都の性格が,大都市自治体が自然に拡大したという

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よりも,むしろ広域自治体が大都市自治体を吸収したものであることを, 物語っているのではないか(同趣旨,金井 2007:145)。 いずれにせよ,一般の市町村は自治を認められるのに,大都市(かつて の東京市,今の大阪市)だけは市以下に自治権を縮小され,かつ都市とし ての一体性も失って複数の特別区に分割されてしまう(図表2)。現行の Aタイプに比べて,大都市自治の観点から大きなマイナスになるばかりか, 不公平感が残るだろう。 そもそも,東京という都市の市街地には公式な名前がなく,便宜上, 「東京都区部」「東京23区」と呼ぶしかないのである。 さて,この3種類の制度設計を比較評価してみよう。評価基準は,大都 市(基礎自治体でもある)の自治の尊重,広域的政策能力,二重行政(政 策の重複)の回避の3点としておきたい8)。 Aタイプ 広域自治体のもとの大都市自治体(府県のもとに指定都市・ 一般市を置く) 大都市の自治を尊重しつつ,広域的政策も,中心都市と大都市圏を カバーする広域自治体によって進めやすい。しかし,大都市区域の内 部に関して広域自治体の権限も及ぶため,いわゆる二重行政が生じう る。もっともこの二重行政は,権限の分担や,「補完性の原理」によ る担当の優先順位づけ,政策評価による過剰な政策の見直しなどの工 夫によって,かなり回避できるだろう。 Bタイプ 広域自治体と同格の大都市自治体(特別市,都市州) 大都市自治体が広域自治体から明確に独立するので,都市自治の尊 重,および二重行政の回避には適している。広域的政策は,都市自治 体が十分な面積に拡大するか,あるいは広域自治体と調整を進めるな らば,推進できるだろう。しかし,都市政策を都市自治体が単独で進 めることに,限界があるかもしれない。また,広域自治体にとっては, その中心都市が領域から除外されてしまい,論理的には,その庁舎や 施設を中心都市に置くことができない。

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Xタイプ 広域自治体による大都市の吸収(都制。大都市自治体は廃止 し特別区に分割する) 大都市圏全体に関する広域的政策の推進,および二重行政の回避に は適している。しかし,大都市の自治がかなりの程度に縮小されかつ 分割され,重要政策は広域自治体に委ねることになる。さらに,大都 市圏の運営が一元化される代わりに,権力も1人のリーダーに集中し, 都市自治体と広域自治体が政策面で競争・議論するというメリットが 減退する。 3種類の制度のうちどれを選ぶかは,どの価値基準を優先するかによる。 二重行政の回避を最優先するなら,BまたはXタイプということになる。 しかし,大都市の自治を尊重するなら,Xは不適当で,AまたはBを選び, その欠点には上に述べたような方法で対処するということになるだろう。 「大都市とその広域圏の整備をもっとも進めやすい制度はどれか」とい う問いに答えることは,簡単ではない。一見,Xタイプによる地方政府の 一元化がすべてを解決するように見えるが,大都市の主体性の喪失や政策 推進主体の減少,権力集中などのマイナスもある。都市自治体と広域自治 体が分担協力するAやBの方式にも,政策上のメリットがあるように思え る。これは実証研究を要する問いであり,4,5,6節で触れる。 現在の日本が採用しているAタイプ(指定都市)は,妥協的な制度では あるが,大都市区域に関して都市自治体の政策能力を生かしつつ,府県も そこから税金を徴収し,必要な範囲で関与できるという柔軟性(裏返せば 曖昧さ)がある(同趣旨,金井 2007:149-153)。Bタイプは明快な分担 ではあるが,県や州を大都市区域での徴税や政策活動から排除することに は,政治的な不満と政策面でのデメリットがあるだろう。 なお,地方自治法や地方自治論の通説的見解は,大都市の政策課題の大 きさ・複雑さと,大都市自治体の行政・財政能力の高さを理由に,さらに 地方分権も根拠に加えて,大都市に大きな役割を委ねることを当然だと考 え て い る(河 内・佐 々 木・米 田 2002:393-394,417-419,松 本 2009:

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671-673)。上で見た海外の状況は,この見解を支持する。 もちろん指定都市自身は,その権限・財源がさらに強化されるべきだと 考えている(指定都市市長会 2010:20,93)。とくに横浜,大阪,名古屋 は共同で,2009年に,これら3つの政令指定都市に,道州制下でのことで はあるが,州から独立した州と同格の地位を与えるという,「都市州」型 (上のBタイプ)への再編を提案した(横浜・大阪・名古屋3市による大 都市制度構想研究会 2009)。 4 地方分権との関係――集権化としての「大阪都」 構想によれば,大阪市の問題について大阪市で決めることができなくな り,決定権は大阪都に移る。これは,一種の集権化と見なければならない。 特別区の設置により基礎的な行政が住民に近づく部分は,分権化(ただし 規模の利益を失うおそれがある)なのだが,大阪市全体の問題や,大阪都 に権限が移る重要事項については,集権化なのである。 世界の傾向が,都市の自治権を重視し,大都市自治体により大きな権限 を認めていることは,上に見たとおりだ。「補完性の原理」,つまり基礎レ ベルの自治体が担当可能な問題は,基礎自治体に委ね,それが担当しにく い問題を上位の広域自治体に委ねるべきだという原理も,同じ考え方を意 味している。 日本でも,指定都市の増加や,特別市,中核市の制度の導入,さらに府 県内で市町村に一定の権限を移譲する流れがある。その中で大阪市(と旧 東京市)だけが自治を放棄すべきだという「大阪都」構想は,地方分権の 趨勢と理念に逆行しているようである。この不平等な取り扱いを正当化す る根拠は,あるのだろうか。

4.東京都制の成立起源と評価

大阪都構想が一定の支持を集めるのは,それが東京都をモデルにしてい

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て,かつ都制(都区制度)が東京を発展させてきたというイメージがある からだろう。もし先例がなければ,大阪市を廃止し府に吸収・一元化する ことの意義について,一から説明しなければならないはずだ。 しかし,歴史を少し調べれば,東京都制の導入は戦争遂行のためであり, 都市の整備や住民サービスを目的にしたものではなかったことが分かる。 戦後も都制は存続し,特別区の自治の拡大によって修正されたが,それが はたして東京の発展につながったかは,単純な問題ではない。 1 戦時体制下での導入 東京都制の導入に至るまでには,複雑な政治過程があった(東京都 1972,小早川 1999,源川 2007 など)。大正期から昭和初期にかけては, 東京市は,他の5大都市とともに,大都市の権限拡大を求める「特別市」 運動をおこなっていた。 しかし,日中戦争開始後の1938年になると,内務省は地方制度調査会に 「都制」案を提出した。東京府の範囲を東京都とし,東京市は廃止して区 に分け,都長は官選で,権限を制限した都議会と区議会を置くというもの である。その理由づけは,府・市の「二重行政」の除去,市に対する府と 内務大臣の「二重監督」の撤廃であった。広域行政という理由づけは,東 京市が1932年の周辺合併で「大東京」に拡大していたため,前面に出な かった。他方,東京市議会の疑獄事件や腐敗も,市の自治権縮小の根拠と された(東京都 1972:1227)。これに対して,東京市会の諸政党は自治擁 護連盟を結成し,新聞などマスコミも内務省案を批判したので,都制案は, 棚上げになった。 しかし,1941年の英米との戦争の開始が,都制への新たな契機になった。 東條内閣は1938年の案とほぼ同じ東京都制案を帝国議会に提出し,これが 43年3月に可決され,7月に東京都が発足し,初代の都長官が国から任命 された。 従来の理由づけに,「帝都」における戦争遂行体制の確立が加えられて

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(村松 1994:100,源川 2007:197),東京都制を成立させた。都制の立案 に深くかかわった内務官僚は,次のように説明している。 「大東亜戦争は漸次決戦段階に進展し,今や凄愴熾烈なる血の激闘が 敵英米との間に戦はれて居る。時恰も,朝野数十年の懸案たりし東京 都制が,7月1日を以って実施せられた。国内決戦の態勢は着々強化 せられ,大東亜建設の基礎は目のあたり確立せられつつあるを感ず る。」(源川 2007:197) 東京の歴史に関する公式記録の1つは,「東京都制は,太平洋戦争の勃 発がなければ,おそらく実現できなかった」とまとめている(東京都 1972:1195)。行 政 学 者 も,東 京 都 制 を「東 京 集 権 体 制」(大 森 2008: 204)と呼ぶなど,評判はよくない。東京府が東京市の反対を押し切って 吸収する形で成立した東京都は,次の で述べるようなデメリットを伴 い,その一部は今日まで影響を残している。 2 戦後の改良と「東京市」復活の提案 第2次大戦後,日本国憲法の制定によって,都道府県知事は官選から住 民の選挙で選ばれる公選制となった。東京都では区長も公選となったが, 1952年には廃止され,その後1974年に区長公選制度が復活する。その頃か ら,都からの権限移譲も,順次おこなわれてきた(河内・佐々木・米田 2002:397-411)。特別区は政策主体としての役割をある程度持つようにな り,最近では,「歩きタバコ禁止条例」などが有名になった。 こうして,1943年の東京都制における3つの問題点のうち,①「官選の 都知事」という点は解消されたが,②「特別区の自治権の弱さ」はなお残 り,③「東京市域の特別区への分断」には変化がない。 ②に関して,特別区は,清掃事業など少しずつ都からの権限移譲を受け てきたが,それでも一般の市に比べて限られた役割しか果たせない。最近 のルポルタージュによれば,消防や,大型の建物の建築確認は都の権限で ある。特別区は法人市民税等を徴収できないこともあって,産業政策に不

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熱心だといわれる。他方で,③の特別区の面積の狭さから,特別区間での 政策の不整合が目立ちやすい。中心市街地活性化や防災対策は,区ごとに 行われバラバラになっているという指摘もある(日本経済新聞社 2007: 118-129)。この不整合は,特別区への権限移譲が進めば,より深刻になる。 特別区の自治の拡大と,東京市域全体での政策の整合性という2つの目標 は,相互にトレードオフの関係にあるわけだ。もちろん23区全体の重要政 策は東京都が担当するが,これは地域や住民から遠いという別のデメリッ トを伴うわけである。 これは,自然に成長した東京市の高次機能を,東京府が吸収合併して都 になり,それでも東京市域で基礎自治体は必要だが,東京市を残すわけに もいかず区に分解してしまった,という集権化プロセスの「矛盾」の現わ れではないだろうか。 また,都制(都区制度)は,安定しているわけでもない。東京都は特別 区を押さえ込もうとしたが,公選区長と議会を認められた特別区は独自の 自己主張を展開し,両者の議論は絶えず続き,制度改正が繰り返されてき た(大森 2008:204-212)。 こうした状況に対して,「東京市」の復活を求める意見がある。たとえ ば,東京商工会議所の提案文書(東京商工会議所 2008)は,次のように 述べる。 「(前略)しかし,広域自治体である都が住民に身近な事務をも行う ことで過度に組織が肥大化するという弊害が出ており,一方,23区は 狭小な区域と限られた権限や税財源しか持たず,財政調整に依存して いることもあって,基礎自治体としての自己決定と自己責任を果たす ことが困難である。従って,都区制度は廃止すべきである。(中略) 魅力ある世界都市・東京を実現し,その行政を効果的・効率的に行 うためには,様々な面で見られる一体性を維持し,東京23区部におい て自己決定と自己責任を果たすにふさわしい自主自立の基礎自治体と して,基本的には東京23区部を一体とする新たな「東京市」が必要で

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ある。この東京市は都が果たしている基礎自治体の役割を効率的・効 果的に果たすのにふさわしい区域である。」 この提案は道州制のもと1都3県でつくる州が設置されることを,ある 程度前提にしているようであり,他方で既存の特別区の自治をどう扱うか も課題になる。しかし,橋下知事がモデルとする東京都の制度がバラ色で ないことを示す資料として,参考になるだろう。 3 東京都の都市政策の評価 大阪都構想に従えば,東京では東京市の廃止によって,政策能力がより 向上したはずだ。確かに,第2次大戦中の国民統制・配給等のためには, 東京市の自治を廃止し都に権限を一元化したことは,役立ったかもしれな い。しかし,戦後の民主主義と経済成長という条件の下で,一元的な東京 都政は,高いパーフォーマンスを示してきたかといえるか。 東京の巨大な経済力と財源,首都という条件下での民間企業や国による 各種事業の集中は,この世界的大都市の著しい発展を支えてきた。ただ, 都庁が進めた政策という意味では,成功も失敗もあり,他の指定都市や府 県と比べて,とくに優れているとはいえないようだ。 東京都の政策の歴史をたどるのは手に余るが,有名なものとして,1960 年代のオリンピックと都市基盤の整備,70年代の積極的な公害対策や福祉 施策,銀座の歩行者天国,80年代の活発な都市再開発と新都庁ビルの建設, 90年代の世界都市博覧会の中止,2000年代のさらなる都市再開発,銀行税 の挫折,ホテル税の導入,オリンピックの誘致失敗などが記憶に残る(御 厨 1994,源川 2007,東京都 2010 など)。 東京オリンピックを契機とした都市の改造は,大阪でも,府と大阪市が 共同で誘致した1970年「万博」の際に同様に進めることができた。公害対 策等を推進した革新の美濃部都知事は日本全体の政策転換にインパクトを 与えたが,その当選(1967年)は,保守候補との接戦のなかで公明党が第 3の候補を立てたという偶然による面がある。もし,保守都政が続いてい

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たとしたら,「東京市」という別の政策主体が存在しない分だけ,政策転 換の遅れは深刻になったのではないか。計画済みの博覧会を中止するとい う,従来の日本で考えられなかった青島知事の勇断は,全国の公共事業見 直しにはずみを与えたが,たしかに都・市の共催であれば,中止の決定は より複雑になった。大阪で第3セクタービルや湾岸埋立地の空きが目立つ のは,経済力の差で,東京都が開発を一元管理し抑制した結果ではないよ うだ。大阪市が存在せず賢明な「大阪都」に一元化されていれば,大阪市 付近に埋め立てを限定し府下の自然海岸を保全しただろうか。地下鉄は, 東京都内であっても,23区の外側にはほとんど延伸されていない(大阪と 経営主体の違いはある)。成田空港は国の事業であり東京都はあまり関与 していないが,関西空港は,国,大阪府など自治体,民間の共同出資の株 式会社が地元の理解を得つつ(そのための沖合埋め立てで経費は膨らんだ が),建設した。オリンピックの誘致は大阪市も,東京都も,反対の世論 がオリンピック委員会に察知されるなどで,うまくいかなかった。 企業誘致政策等を調べていないが,以上概観した限りでは,東京都への 一元化ゆえにとくに成功した政策はあまりなさそうだ。 4 参考:グレーター・ロンドンの廃止と復活 大都市自治体は,前述のように,世界各国に広く見られる機能的な制度 で,またその政治行政機構としての力も大きいため,いったん設置される と廃止されることは少ない。戦時中の東京市の廃止や橋下知事の構想は, 例外的な事例だといえる。 海 外 の 事 例 と し て 有 名 な の は,イ ギ リ ス の グ レー ター・ロ ン ド ン (Greater London Council)の廃止だろう。ロンドン大都市圏を運営するた

めに1965年に発足したこの自治体は,「鉄の女」と呼ばれたサッチャー首

相によって1986年に廃止され,その機能はロンドンを構成する各区に移管

された。保守党(の右派)のサッチャー首相の説明は,「都市自治体を簡

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1981年に労働党左派が政権を握ったグレーター・ロンドンとの激しい政治 的対立があった。グレーター・ロンドン側は反対キャンペーンを行ったが, 保守党政権は国会の過半数を握っていた。 しかし,ロンドンの場合これで都市全体を包括する自治体が存在しなく なったので,廃止は到底理解できないとの批判も起こった。労働党は,す でに1987年からマニフェストでグレーター・ロンドンの復活を掲げ,1997 年の総選挙に勝って誕生したブレア政権下で,これを実行した。同年の政 府文書は,「ロンドンが,都市の全体を担当する民主的な政府(democratic city-wide government),およびロンドン市民の利益を代弁する声を必要 としていることは,今やほとんど疑いない」と述べて,具体的構想を提案 した。提案は修正を加え98年の住民投票で賛成多数を得たあと,99年に法 律として可決され,2000年からグレーター・ロンドン(Greater London Authority)が再発足することになった(Travers 2004:21-68)9)。 以上のプロセスからは,大都市自治体が存在することの重要性や,イギ リスでの政党間競争が地方自治制度の分野でも働いていることなどが読み 取れる。とはいえ,グレーター・ロンドンが廃止・解体されたあと,地域 の声だけでそれを復活させるのは難しかったようだ。もし大阪市がいった ん廃止・解体されたならば,復活の可能性は大きくないと考えておくべき だろう。

5.大阪の発展策のために大阪都が必要か?

1 大都市自治制度は大都市の発展を妨げるか 3節で,大都市自治体が狭域なパリ,フランクフルト,サンフランシス コ等の市と,大都市が広い(といっても東京都,大阪府よりは小さい)面 積をもつロンドン,ベルリン,ソウル等を紹介した。どちらの地方制度が 都市の発展により適しているかという問題は,実証的な研究を要する。し かし,多くの人が見聞きしているところでは,パリなど前者の狭域の都市

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自治体が,都市の魅力や国際競争力において劣っているとはいえないだろ う。 日本の指定都市制度も,都市の活性化の障害になっているという主張は ないようだ。府県は指定都市内でも,税収を得て,必要な政策や施設整備 を行うことができる。かつては,革新(中道左派)系の指定都市と保守系 の府県と(またはその逆)のあいだで開発か環境かをめぐる対立も起こっ たが,今日では,都市の開発や整備の必要性については基本的な合意が成 立している。もし,大規模開発や都市高速道路など個別プロジェクトをめ ぐる意見差が存在するとすれば,それはむしろ慎重な政策立案を促すもの として歓迎すべきだろう。 最近の指定都市の連合体の文書を見ると,海外調査も交えて,「大都市 の経済的な発展や都市空間の魅力の向上は,国全体にとっても大きなプラ スになるとの考えの下に,大都市の権限や財源を強化する動きが加速して いる」との現状認識を示す。そのうえで,指定都市にとって,次のような 方向性を重要と考えている。① 国家戦略としての大都市の権限・財源強 化,② 国際的な都市間競争への対応,③ 自主財源の強化の推進,④ 国・自治体間でのパートナーシップ・協業の充実,⑤ 大都市のガバナン ス・議会機能の充実,⑥ 大都市制度充実に向けた戦略的広報の推進(指 定都市市長会 2010:93)。 2 大阪の「危機」とこれまでの政策 大阪都構想は,「大阪の経済的危機からの再生」を,最大の,ほぼ唯一 の根拠にしている。それも東京との差の拡大が,強調される。愛知や神奈 川との競争を前面に出すと,指定都市と県の並立体制でもうまく行ってい ると気づかれ,反論されるからだろう。 経済界も,「関西・大阪の地盤沈下」の危機を訴えてきた。かつて東京 と対等に競い合ったとされる記憶・伝説が強いだけに,経済的な東京一極 集中は愉快なことではない。首都東京の突出は,イギリス,フランス,韓

参照

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