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《書評》影山清四郎編著『学びを開くNIE―新聞を使ってどう教えるか』(2006年8月25日刊 春風社 A5判 284頁)

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横浜国大国語教育研究 No.42 (2017) - 52 - 《書 評》

影山清四郎編著『学びを開くNIE―新聞を使ってどう教えるか』

(2006 年 8 月 25 日刊 春風社 A5 判 284 頁)

篠崎 晃江

1.本書の構成と NIE 本書は、横浜国立大学教育人間科学部の社会科 教育の教授であった編者が、横浜国立大や神奈川 県の小・中・高校を中心とした教育者、新聞関係 者等から「NIE(Newspaper in Education)」の必要 性・可能性に関する論考や教育実践を集め、「新 たな角度から NIE を深めた」(2頁)ところに特 徴を持つ書である。第1章「NIE で広がる学びの 世界」、第2章「教科における新聞活用」、第3 章「NIE はどのように実践されているか」、第4 章「学校を超えて広がる NIE」と、全体で4章か ら成り、編者も含め 21 名が寄稿している。 NIE は、「学校等で新聞を教材として活用する こと」である。1930 年代にアメリカで始まり、日 本では 1985 年に提唱され、世界 80 カ国以上で実 施されている。2010 年に実施された世界新聞・ニ ュース発行者協会の NIE 効果調査によると、「閲 覧習慣がつく(75%)」「記事について友人や家 族と話すようになった(70%)」「自分で調べる 態度が身に付く(68%)」「生き生きと学習する (60%)」等の効果が確認されている。(nie.jp) 2.本書の背景:PISA ショックとの関連 本書の出版年 2006 年当時は、「ゆとり教育」批 判、学力低下問題、PISA 調査結果の順位下降問題 (2003 年)、文字・活字文化振興法の制定(2005 年)、教育基本法の改正(2006 年)、学校教育法 の改正(2007 年)等、教育界が大きな転換期を迎 えていた頃である。 2003 年の PISA 調査では、参加国・地域 41 カ国 中 14 位という結果で、参加国・地域が増加したこ とも要因としてあるものの、前回 2000 年次の8 位から後退した。1980 年頃から、詰め込み式の教 育から思考力育成への変換を試みてきたわけであ るが、20 年経っても成果が出ていないことが PISA 調査結果からも明らかになった。特に 1996 年の 中教審以降、「生きる力」がスローガン化し、そ の力をつける具体策として「総合的な学習の時間」 が必履習に加えられ、各校の中心的課題として機 能しはじめていたわけであるが、功を奏すまでに はいかなかった。 PISA 型読解力とは具体的な生活場面下におけ る言語的対応能力を測るものである。PISA 調査で 芳しくない結果が出るということは、国語教育が 育むべき「生きる力」がついていないということ とほぼ同義である。2005 年、文部科学省は「指導 のねらい」を7つ提示し、「読解力」に対する既 成概念の補正を促した。PISA 型読解力とは、写真 やデータ等非連続型テキストをも含んだ、多様な テキストを読み取り、批評・熟考しつつ、自己の 意見を表出するまでを指すことを強調した。 また、教育課程研究センター基礎研究部統括研 究官であった有元秀文は、「通常の文章は6割で、 残りの4割は実用的な図表・地図などが占める」 「自由記述問題が4割を占める」 と出題傾向の違 いを押さえつつ、日本の無答率が「参加国平均 15.6 %に対して 23.7%と際だって高」かったことを原 因として挙げた。さらに、今までの国語教育に不 足していた学習として「意見を問われる自由記述」 や「クリティカルリーディング」を挙げた。(BERD 2006 No.6 / berd.benesse.jp) 法整備も進められ、2005 年7月『文字・活字文 化振興法』内の「表現力や思考力、情報分析力や 構想力」、「教育課程に読書の時間、新聞閲覧の 時間の導入」、2007 年『学校教育法第 30 条第2 項』内の「思考力、判断力、表現力」と、PISA 型 読解力育成が実質的な旗標となりつつ現在に至 る。 3.PISA 型読解力と NIE 本書の出版年の 2006 年2月、中央教育審議会・ 教育課程部会は新たな教育課程改革の基本方針を 発表し、各教科の到達目標・評価の明確化、説明 責任、「メディアリテラシーの育成・法教育・キ

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横浜国大国語教育研究 No.42 (2017) - 53 - ャリア教育・食育などの新たな教育課題への対応」 等、さらに課題を具体的に広げた。これに対し、 編者は次のように述べる(下線は引用者による)。 社会の変化に対応して教育内容に新しい課題 が付け加えられてくることは避けられないこ とだが、それを教育課程と教育課程の精緻化 だけでは解決できないと考える。むしろ、新 聞を教育の場に積極的に取り入れ、現実に生 起している世の中の出来事と結び付け、学習 者の学びを開くという精緻化と逆のベクトル を取り入れる必要がある。 PISA がいうところの読解力は、単なる「読 み・書き」の力だけを指すだけではない。「自 らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発 達させ、効果的に社会に参加するために、書 かれたテキストを理解し、利用し、熟考する 能力」(国立教育政策研究所編『生きるため の知識と技能』(2004/ぎょうせい))と「読 解力」を広い意味に定義している。問題解決 に向けて必要な情報を取り出し、読み取り、 問題解決に活用する読解力である。このよう な広い意味での「読解力」の育成のためは新 聞を活用することがもっとも有効であると考 える。(影山,2006,3-4頁) ここで編者は、新たに新教育を個々に樹立させ なくとも NIE 実践ひとつで現教育問題を解決に向 けられると主張している。新聞には現今の問題が すべて網羅されている。話題についても、グロー バルからローカル、個人まで様々なアプローチが ある。様々な文章(評論、小説、コラム)が掲載 されているのはもちろん、非連続型テキスト(図、 グラフ、地図等)も掲載されている。様々な立場 からの判断、根拠、思考過程が様々な文体で述べ られている。今日起きている様々な問題を様々な 立場で扱った文章とデータに対し、話し合いや考 えをまとめる行為を通して自己の考えを醸成して いける。したがって NIE は、「国語教育が養うべ き生きた力=PISA 型読解力」をつけられるという 主張である。PISA 調査結果が上位であったフィン ランドが NIE 先進地域であったことも、NIE が PISA 型読解力を育むということの証明となろう。 2009 年の PISA 調査からも、‘新聞閲覧の頻度’ と‘総合読解力’には相関関係がみられ、読解力 向上に新聞閲覧習慣は有効との結果が読み取れ る。閲覧のみで効果が出るのであれば、より主体 的にアクティブに活動的に取り組める NIE の習慣 的な実践は、学習者にとってより大きな効用とな る予測は固い。 4.IT 時代における NIE の必要性 編者は、インターネットの利点を認めつつも、 溢れる情報の大海原へ「子どもを放り出すことは、 いわば海図ももたずに航海にでることに等しい」 (4頁)と危惧する。IT 時代においても、情報媒 体として新聞が優れている点は、著書の中で編者 だけでなく高木まさきや青山浩之も挙げているよ うに、「一覧性」「解説性」「詳報性」「軽便性」 「再読性」「確認性」「発掘力」等様々ある。さ らに編者は、インターネットは「情報をチェック する機能がなく、無責任な記事や玉石混交の情報 が垂れ流しで、人権侵害問題も頻発している」(16 頁)のに対し、新聞には「(プロの)確かさと信 頼性という最大の利点がある」(16 頁)と差別化 する。 髙木は、近年「今日の国語科は〈メディア論的 転回〉とも呼ぶべき状況」、「複雑なメディア環 境におけるコミュニケーションのあり方という観 点から、その教科内容について再考が迫られるこ とは間違いない」(93 頁)としたうえで、新聞メ ディアの利点を挙げている。さらには、学習者の 置かれている言語環境の貧困さを危惧し「やや難 度の高い言葉・文章に触れさせる」重要性を説い ている。氏が日頃提唱している「言葉の獲得過程 の『富士山モデル』」の考えに通底している。山 を人の知識の総体に例えると、山の裾野から頂上 に至るまでの圧倒的体積内に、「見た・聞いたこ とがある」、「大人が使っていた」「どこかで読 んだ」等の「だいたいの領域=あいまいな知識の 蓄積」がある。人が正確に運用できる言葉(頂上) は、圧倒的「あいまいな知識の蓄積」を母体に成 り立っている。つまり、豊かな語彙を体得し、正 確かつ自在に使えるようになるには、それを支え る良き質を保った圧倒的な量の蓄積土台が必要で あるということだ。氏は新聞が「教科書だけでは 不足する言語的刺激=言葉のシャワーを学習者に 浴びせかける」(98 頁)ことができる点を重視し

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横浜国大国語教育研究 No.42 (2017) - 54 - ている。より正確に言葉を紡ぐ専門家として日頃 から言語感覚を磨き省察し構築してできたテキス ト、質の良い言葉の紡ぎに日頃から触れることが、 大変重要なのである。 インターネット自体の情報量は日々拡大してい るが、実際の個々の活用については決まったサイ トを繰り返しているだけの場合が多い。「高校生 のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向 に関する調査」(総務省情報通信政策研究所/平 成 26 年5月)によると、スマートフォン利用者の 91%がソーシャルメディアを利用し、ラインやツ イッターを友人相手に一日平均 161.9 分費やして いる。女子については 186.9 分費やし、その6~ 7割は「見る」ことに割かれている。決まった友 人相手の言動を見て、合いの手を入れることに3 時間以上費やしているのが現状である。同質な語 彙レベル・価値観の者同士だけで交流を繰り返し ていては、語彙、表現、思考力、判断力等は育ち にくい。同質性がより深まる過程に論理的な説明 はいらないからだ。交流間のみで通じる略語や隠 語を作り出し利用し合うことで、より親密性を確 認し合い閉じた関係を守ろうとする動きは、IT 登 場以前にも見られた現象である。ライン外しや悪 口の書き込み等のいじめ問題、その他大きな犯罪 の入り口になるケースもよく報道されるところで ある。IT は一見他者との交流を広げるようでい て、その実多くは同質性の確認から始まり、同質 を深化純化していく過程を取り、結果排他的にな る問題が様々な様相を取り顕在化している。SNS 出現前の問題は乗り越えられていないばかりか、 ノンバーバルコミュニケーションである分、また、 匿名性を担保し続けることができる分、インター ネットは‘開かれた’イメージと逆行して‘閉じ た’隠れられる交流の助成を促進している。進め て言えば、人間の習性がインターネットという道 具をそのように使ってしまっている。革新的な機 械が登場しても個々の人間が道具の功罪を制御で きないと、被害が出るのも普遍的事実である。2003 年から「情報」が必履修となって久しいが、わず かな時間だけでなくどの教科も、それぞれの立場 からできることを精査し、情報活用能力と制御能 力の両面を養っていく必要がある。隠された背景 や意図を探りつつ正しくテキストを読むことは、 この上なく至難の業である。ただでさえ経験や見 聞が不足しているうえに、批評や評価や思案をす ることを習慣化していない未成年時代において は、成長段階に合わせた IT 利用、リテラシー育成 を整備する必要がある。 新聞には、一定の紙量に、今日の世界・社会が 収められている。名前を出せる人々の言論が幾重 もの知恵の目をくぐって、その重要度によって配 置されている。成長途上では難解であるかもしれ ないが、言い得ている表現を読むこと、考え方や 世界の見方の基準を一流の人から学ぶことは、情 報化社会を生き抜かねばならない子供にとって最 も重要なことであるのは言うまでもない。 以上、ここ数十年に渡る教育改革の変遷等と合 わせ、『学びを開くNIE―新聞を使ってどう教 えるか』の書が持つ意義を考えてきた。真偽入り 混じるネット上テキストを読み解く前の準備とし て、新聞でテキストを読む訓練をすることは、必 須だ。生きる力が育めるからである。成人として 必要なレベルの言語運用能力が身につき、テキス トだけでなく写真・データをクリティカルに見取 る習慣、近しい感覚的な交流から脱却し、広い視 野で多様な立場を理解し、思案した上での主張を 持つ力が育める。PISA 型読解力が育めるだけでな く、来たる高大接続改革に伴うテスト形式改革対 応にも当然つながる。 グローバル化、情報化社会の中で、たくましく 柔軟に生きていく能力を育むために最適な新聞を 教材としていかに使うかのヒント・事例に溢れた 一冊である。 (横浜国立大学大学院 教育学研究科)

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