地域コミュニティが拓く
個性ある都市環境の再生について
─神戸市における「まちづくり協議会」と
住宅共同再建事業を事例に─
鈴
木
克
彦
Ⅰ.はじめに Ⅱ.まちづくり協議会による震災復興活動 Ⅲ.住宅共同再建によるコミュニティ再生 Ⅳ.おわりにⅠ.はじめに
高田先生との出会いは、日本建築学会近畿支部の常設委員会である環境保全部会に参加した ことがきっかけであった。その後、高田先生が本部会の主査になられ、部会幹事として一緒に 研究活動をさせていただくことになった。その間に阪神・淡路大震災が発生し、部会として震 災復興の支援に立ち向かうことになったが、甚大な被災からの復興には住民コミュニティの力 が重要となるとの高田先生のご示唆があったことから、震災以前から住民主導の活動主体とし て機能していた「まちづくり協議会」に着目して部会活動を進めることになった。本論文は、そ の「まちづくり協議会」の震災直後からの活動実績を調査した結果を報告したものであり、それ らの成果から地域コミュニティが主体となった個性ある都市環境の再生のあり方を論じたもの である。 1.研究の背景と目的 1995年に発生した阪神・淡路大震災で甚大な被災を受けた阪神地区では、震災以前から住民 主体のまちづくりが活発であった。震災後にも多くの被災地区で「まちづくり協議会」が組織さ れ、様々な局面で地域住民による取り組みの成果が証明された。しかしながら、住民主体の復 興まちづくり活動には、被災地各地で様々な問題点が顕在化し、活動の進展状況もまちまちと なった。こうした状況から、「まちづくり協議会」が復興まちづくり過程において展開してきた 活動実態と協議会が果たした役割について明らかにすることとした。 また、阪神・淡路大震災後の復興過程においては、個別再建が不可能な状況(資金の不足、狭小・接道不良敷地等)を打破する有力な手段として、多くの地区で住宅共同再建事業1)が展 開されてきた。しかしながら、住宅共同再建事業は個別再建と比べると、①地権者間の権利調 整、②事業代行者の確保(もしくは事業組合の組織化)、③行政制度の活用(補助金申請等)、 ④周辺住民との調停など様々なコーディネート業務が必要となるため、震災前から困難を伴う 事業とされてきた。また、住宅共同再建による敷地の共同化に伴う住環境の変容は、下町とし て長いあいだ醸成されてきた地域コミュニティに与える影響が大きく、周辺地域の住環境に配 慮した共同化のあり方も課題となっている。こうした事業化が困難な共同再建に対して、多く の「まちづくり協議会」が被災住民と共に取り組み、実現を果たしてきた。 そこで本論文では、神戸市内で展開された住宅共同再建の実現過程とその後の住環境再編の 実態、入居後の居住・管理実態等について検証することにより、震災からの持続的再生を実現 するための従前コミュニティの継承や周辺地域の住環境に配慮した共同化のあり方等について 分析・考察を行うこととし、再建過程において「まちづくり協議会」が果たした役割を明らかに した。 2.研究の方法 住民主体で震災復興を進めていた「まちづくり協議会」による活動の実態と課題を明らかにす るために、被災地で組織された協議会の発足状況を確認するとともに、神戸市内のまちづくり 協議会の代表者を対象にヒアリング調査を実施した。調査時期は第1次調査を1995年9月(22 協議会)に、第2次調査を1996年3月(42協議会)に実施した。さらに、その後の追跡調査と して第3次調査(留置自記法)を1997年12月(36協議会)に実施した(表1)。 調査項目は、第1次調査が①組織づくりの経緯、②協議会運営活動の実態、③震災直後の行 動等を中心に、第2次、第3次調査では①協議会活動の進展状況、②協議会が抱えている問題 点等を中心とした。 表1 調査対象としたまちづくり協議会 一方、被災者の住宅復興や密集市街地整備の主要な柱として期待がかけられた住宅共同再建 事業は、神戸市内において2003年12月末時点で110件の補助申請が受理されている。これらの 地区を調査対象として、関連資料を収集するとともに現地調査を行った。従前の敷地状況につ いては、震災直前の住宅地図を参照した。また、住宅再建後の実態については、共同再建事業 一 次 調 査 ( 1995 年 9 月 ) 二 次 調 査 ( 1996 年 3 月 ) 三 次 調 査 ( 1997 年 12 月 ) 区 名 発 足 数 調 査 数 調 査 率 発 足 数 調 査 数 調 査 率 発 足 数 調 査 数 調 査 率 東 灘 灘 中 央 兵 庫 長 田 須 磨 4 10 6 6 26 4 3 2 2 4 10 1 75.0% 20.0% 33.3% 66.7% 38.5% 25.0% 4 19 8 6 38 9 3 6 5 6 19 3 75.0% 31.6% 62.5% 100.0% 50.0% 33.3% 8 21 8 7 44 10 2 4 3 3 18 6 25.0% 19.0% 37.5% 42.9% 40.9% 60.0% 合 計 56 22 39.3% 84 42 50.0% 98 36 36.7%
にかかわった住民世話役(主に再建組合理事長)に対して、2004年6月にアンケート調査を行 った。その後、アンケート調査の回答内容に特徴的な記述が見られた地区を抽出し、直接面接 方式のヒアリング調査も行っている。アンケート調査は調査対象地区72件に配布し、後日郵送 回収した結果、有効回答数が26件(回収率:36.1%)となった。
Ⅱ.まちづくり協議会による震災復興活動
1.まちづくり協議会の組織状況と運営実態 (1)まちづくり協議会の組織状況 「まちづくり条例」が制定されている神戸市では、震災前に発足している協議会が2 2 地区、 そのうち条例による認定団体は12地区あったが、震災後には多くの被災地で協議会が発足して いる(図1)。1997年8月時点での発足数は、長田区が44団体と最も多く、全体の半数近くを 占めている。続いて多いのが灘区の21団体で、この2地区で全体の約7割を占めていた(図2)。 協議会を設立した後も、連合協議会を結成して協議会相互の連携を強める動きがある一方で、 街区別協議会を組織して事業の具体化を円滑にしようとする動きも目立っていた。 また、協議会の活動区域は重点復興地域に指定されている地区が大半を占めており、協議会 方式が復興まちづくりを支えるシステムとして重要視されていることを裏づけている。施行が 決定している都市計画事業は、震災前に発足している協議会では密集住宅市街地整備促進事業 を中心に多様であったが、震災後に発足した協議会では土地区画整理事業及び住宅市街地総合 整備事業をセットで導入している地区が大半であった。 なお、協議会が活動対象とする区域の面積は1 0 ∼1 9 h a の地区が最も多かったが(平均: 15.5ha)、全般的に震災前の協議会では世帯数の多い団体が多く、震災後の協議会では町丁目 単位の小規模な団体が多くなっていた。 図1 まちづくり協議会の発足時期 図2 まちづくり協議会の区別発足数(1997年8月時点)(2)まちづくり協議会の活動目的 まちづくり協議会を発足させたきっかけ(図3)は、震災前に発足している協議会では大半 が“自主的な取り組みが必要になった”ためであるが、震災後に発足した協議会では“市から 働きかけがあった”、“市のまちづくり案が提示された”など発足のきっかけが多様となってい た。また、協議会の母体となった組織は、震災前も震災後の協議会も自治会・町内会が中心で あったが、震災前の協議会では各種団体連絡協議会が母体となった団体も目立っている。 次に、協議会活動の主な目的であるが、震災8ヶ月後の第1次調査の時点では、震災前から 活動している協議会は“住環境の整備を進める”、“再開発を推進する”、“まちづくりのルー ルを取り決める”といった具体的な点に目的を置いている地区が多かったが、震災後に発足し た協議会は“住民意見の集約・啓発”といったソフト面に重点が置かれており、協議会の発足 時期で大きく異なっていた。その後、時間の経過とともに協議会が主に取り組んだ活動内容は 変化している。震災約1年後の第2次調査では建物の協調・共同建て替えが主目的の団体が最 も多くなり、特に黒地区域2)において比率が高くなっていた。震災3年後の第3次調査では、 地区計画制度の策定が半数以上に増え最も多くなっていた(図4)。一方、白地区域の団体で は「ミニ土地区画整理事業3)」や「共同建て替え」を予定している協議会が目立っていた。 図3 まちづくり協議会を発足させたきっかけ 図4 まちづくり協議会が取り組んだ事業 (3)まちづくり協議会による救援・復旧活動 まちづくり協議会が発足した地区では甚大な被災を受けた地区が多く、震災直後や避難時に は様々な救援・復旧活動が行われたが、全般的に震災前から協議会があった地区の方が活発に 行われていた。特に、地域住民への情報伝達や市との情報交換、食料の手配・配給などが活発
に行われており、震災直後の混乱期に迅速かつきめ細かな対応がなされていた(図5)。 図に示す活動以外にも、協議会がリーダー役となって、震災直後から救援物資や給水タンク 車を手配した団体、レスキュー隊を組織し建物の補修作業を行った団体、また学校に行けなか った小学生のために勉強会を開催したり、水を確保できる案内地図を作成した団体等があった。 震災前のまちづくり協議会の活動実績が地域コミュニティを育成し、その結果として災害時の 多様な救援・復旧活動を促すことにつながっていたことが実証されている。 (4)まちづくり協議会への支援体制 協議会活動を支援するために、まちづくり条例にもとづき一定の財政援助や技術的援助など が行われている。財政援助には活動費の一部を助成する「まちづくり助成(一次、二次)」等 が、技術的援助には「まち・すまいづくりコンサルタント派遣制度(一次、二次)」やアドバ イザー派遣制度等が制定されているが、協議会と行政との協力関係は協働で取り組んでいた地 区が大半であり、コンサルタント派遣制度は大半の団体が活用していた。また、協議会の運営 費は神戸市からの助成金で賄っている団体が大半であったが、助成金は原則的に地域規模に準 じて交付されており、20∼30万円/年を交付されている協議会が多かった。ただし、会費を徴 収している地区は震災後の協議会ではほとんどなく、運営費は神戸市からの助成金のみで賄っ ており、十分な活動費が確保されていないのが実状であった。 2.まちづくり協議会活動の促進要因 (1)まちづくり協議会活動の進展状況 協議会活動の進展状況は、協議会の設立時期や事業区域別で大きく異なっていた。各地とも 協議会の代表者や役員を住民総会で決定する手続きを踏まえており、協議会の規約も大半の団 体で作成して、震災1年後(1996年3月調査)の段階では基礎的な組織づくりに関しては各協 議会とも確立されていた。情報伝達の方法も、協議会ニュースを全ての団体で配布していた。 ただし、まちづくりの基本方針を決めている協議会は半数以上あったものの、具体的な事業計 画の推進に関しては各地とも立ち遅れが目立ち、事業計画が都市計画決定した地区は24.4%に 留まっていた。 図5 震災直後の救援・復旧活動
しかし震災3年後(1997年12月調査)の段階では黒地区域での進展が進み、事業計画が都市 計画決定した地区が51.7%に増えていた。だが、灰色区域や白地区域では、震災3年後でもま ちづくり提案の作成までしか至っていない団体が大半であった。特に、共同建て替え等の進行 状況は全般的に立ち遅れが目立ち、共同建て替えが着工または竣工した地区は20.7%に留まっ ていた。 一方、まちづくり協定の締結や地区計画の素案作成等といったルールづくりの活動は、震災 1年後では何も実施していない団体が目立っていたが、震災3年後では大半の団体が活動を進 めており、地区計画等が認可された地区が27.6%に達していた。 (2)協議会活動を促進した要因 まちづくり協議会による住民主体の復興活動は、各地で精力的に展開されたものの様々な問 題点を抱え、活動の進展状況はまちまちであったが、協議会活動に役立っている点も多々見ら れた。そこで、協議会活動の進展状況を左右した諸要因を明らかにした。 震災前に発足した協議会ではまちづくりの実績が長いこともあり、協議会活動に役立ってい る点を多く挙げる団体が多く、特に役所との関係(熱心にバックアップ、関係が緊密)を挙げ る団体が目立っていた(図6)。“担当コンサルタントがしっかりしている”や“役所が熱心に バックアップしてくれる”を指摘した団体が約7割以上見られたことは、行政や専門家とのパ ートナーシップが重要であることを裏づけている。また、区単位で連絡会が組織されている協 議会では、連絡会をつうじた情報交換が役に立っているという意見も聞かれた。それに対して、 白地区域では役に立っている要因を挙げる団体が少なく、特に住民のまとまりや協議会の組織 力の点でその傾向が強く現れていた。このように、協議会活動を円滑に進めるためには、協議 会を核とした人材育成と人的ネットワークが必要不可欠であることを裏づけている。 (3)協議会活動の障害となった要因 協議会運営上の障害(図7)は、各地区共通したものもあれば個別に抱えている独自のもの もあったが、全般に“役員に労力の負担が多すぎる”や“不在住民が多く連絡がたいへん”、 “活動のための財源が少ない”、“助成金の額が少ない”を指摘した団体が震災1年後、3年後 の調査とも多く見られた。震災後に発足した協議会や灰色区域、白地区域では問題点の指摘が より多くなっており、白地区域では“協議会に権限がない”ことが合意形成の支障になると不 安視する率も高かった。また、事業計画の進行に伴い、“権利者の調整がうまくいかない”、 “まちづくりの知識が乏しい”、“住民の合意づくりができない”といった問題点の指摘も増加 していた。さらに、震災4年後(1999年1月調査)では“生活困窮者が多い”、“地域が衰退し ている”を指摘する協議会が半数以上見られた。
図6 協議会活動を促進している要因
(4)協議会活動におけるパートナーシップの役割 協議会活動の進展を促進している要因や阻害している要因を明らかにした結果、協議会の組 織力強化とともに専門家や行政とのパートナーシップが重要な役割を占めていることがわかっ た。そこで、住民主体のまちづくりを進めるためのパートナーシップを形成する要因として① 住民のまとまり、②コンサルタントとの信頼関係、③役所との関係を取り上げ、その関わり方 により協議会のタイプを分類した(表2)。 表2 協議会活動を支援するパートナーシップの型(第2次調査) 注)住 民:「住民のまとまりが強い」と回答した団体 コンサル:「担当コンサルタントがしっかりしている」と回答した団体 行 政:「役所との関係が緊密である」と回答した団体 これによると、震災前に発足している協議会では住民のまとまりが強く、コンサルタントや 行政とのパートナーシップが確立されている「住民=コンサル=行政」型の団体が最も多かっ た。しかし、震災後の協議会では「コンサルのみ」の団体が最も多く、どちらとも関係してい ない団体も2割を占めていた。パートナーシップの弱さは、白地区域において顕著に現れてい た。また、協議会活動の進展状況は、「住民=コンサル=行政型」の協議会で全般的に協議会 活動が最も進展していた。それに対して、パートナーシップが構築されていない協議会では、 各活動とも大半の団体が停滞気味であった。 このように、住民主体の復興活動には地域住民が主体となった協議会活動の実績と緊密なコ ミュニケーションだけでなく、行政及び専門家とのパートナーシップも重要であることが確認 された。こうした状況のなか、協議会相互の連携を図りながら復興まちづくり活動を円滑に進 めていく必要性が認知され、協議会をネットワーク化した連絡組織を設立することに期待度が 高まった。そして、日本建築学会近畿支部環境保全部会(主査:高田 昇)の全面的な協力の もと、1996年7月24日に33団体のまちづくり協議会が参加して「神戸まちづくり協議会連絡会」 が設立された。専門部会も土地区画整理部会、都市再開発部会、住宅部会、福祉部会、経済部 会、法制度・組織部会等が設けられ、各協議会が連携して事業推進のための活動が以後展開さ れた。 設 立 時 期 事 業 区 域 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の タ イ プ 震 災 前 震 災 後 黒 地 灰 色 白 地 合 計 住 民 = コ ン サ ル = 行 政 コ ン サ ル = 行 政 住 民 = 行 政 住 民 = コ ン サ ル 行 政 の み コ ン サ ル の み な し 37.5% 25.0% 12.5% 6.3% 18.8% 0 0 16.0% 20.0% 4.0% 8.0% 4.0% 28.0% 20.0% 16.7% 20.8% 8.3% 4.2% 12.5% 25.0% 12.5% 50.0% 25.0% 0 16.7% 8.3% 0 0 0 20.0% 20.0% 0 0 20.0% 40.0% 24.4% 21.9% 7.3% 7.3% 9.8% 17.1% 12.2% ケ ー ス 数 16 25 24 12 5 41
3.まちづくり協議会による震災復興活動の評価 震災後3年を節目として、まちづくり協議会による復興活動に対する評価の実態を把握した が、事業計画の見直しや地区住民の合意形成などに協議会が大きな役割を果たしたことが評価 されていた(図8)。その他、まちづくりの情報交換では被災住民に勇気と希望を与え、孤独 に生活している人々の精神的なケアともなるなど、様々な側面で協議会の役割が明らかになっ た。また、協議会が策定した「まちづくり提案」も、震災復興事業に全面的に反映された団体が 22.6%、ほぼ反映された団体が51.6%と、活動成果が事業に活かされた団体が大半を占めるこ とができた(図9)。震災前から組織されていた協議会では特に活発な活動が見られたが、急 ごしらえの協議会でも協議会運営を経験したことによって、行政への対抗団体から住民主体の まちづくり団体として成長の跡を示していた。 図8 まちづくり協議会の果たした役割 図9 「まちづくり提案」の反映実態 住民提案が反映された都市計画道路 (神戸市兵庫区松本地区) 密集市街地で実現した共同再建住宅 (神戸市兵庫区湊川地区)
Ⅲ.住宅共同再建によるコミュニティ再生
1.神戸市における住宅共同再建事業 神戸市における復興まちづくりは協議会方式を中心として展開されてきたが、多くのまちづ くり協議会が震災復興の柱として住宅共同再建事業に取り組んできた。その証として、神戸市 内で展開された共同再建の110件の事例(表3)の内、まちづくり協議会の活動地域内で62地 区(全体の5 6 . 4 %)の住宅共同再建事業が着工しており、住宅供給戸数も2 , 2 8 2 戸(全体の 46.9%)を占めた。これらの事例の概要を述べると以下の通りである。 (1)適用事業手法 共同再建を支援する主な助成制度には住宅市街地総合整備事業(以下、住市総と略)、優良 建築物等整備事業(同、優建)、密集住宅市街地整備事業(同、密集)等が用意されたが、一 定の建設基準が充たされれば、これらの制度の適用により、調査費用や計画・設計費用、施設 整備費用等への助成が得られる仕組みとなっている。実際に適用された事業手法は、「住市総」 が42件(38.2%)で最も多く、そのうち単独事業が52.4%を占めていた。なお、建蔽率等の緩 和が可能な「神戸市インナー長屋街区改善誘導制度」と関連して地区計画制度を策定した区域内 の事業が41件(37.3%)あった。 表3 神戸市における住宅共同再建事業の件数 (2)住宅供給状況 事業件数は長田区が38件(34.5%)で最も多く、次いで灘区の21件(19.1%)と続いている。 また、保留床住宅も含んだ住宅供給戸数は市全体で4 , 8 7 0 戸、区別では長田区が1 , 4 5 9 戸 (30.0%)で最も多かったが、兵庫区と東灘区は事業数の割に供給戸数が多く、大規模な共同 再建が成立していた(図10)。一事業当りの供給戸数は平均44.4戸であったが、再開発地区で は1 6 1 . 3 戸と事業規模が大きい。土地区画整理事業区域内においても集約換地が可能なので、 規模拡大化の傾向が見られた。なお、敷地面積の平均は東灘区が1,560.3㎡と最大で、最小は須 磨区で690.5㎡であった(表4)。 区 名 東 灘 灘 中 央 兵 庫 長 田 須 磨 合 計 区 整 +住 市 総 住 市 総 の み 0 0 3 10 0 3 1 1 13 8 3 0 20 22 区 整 +優 建 優 建 の み 0 13 0 2 0 5 3 2 0 7 0 2 3 31 区 整 +密 集 密 集 の み 0 0 0 2 0 0 4 0 0 5 0 0 4 7 区 整 +小 規 模 小 規 模 の み 0 3 0 2 0 1 1 1 3 2 0 1 4 10 再 開 発 2 2 0 3 0 0 8 合 計 18 21 10 16 38 6 110保留床は総戸数の47.8%を占めていたが、総保留床数は長田区が約900戸と圧倒的に多く、 事業別では兵庫区で平均保留床数の値が高かった。保留床の処分タイプは、民間や公社・公団 への分譲、公営住宅としての買取・借上(神戸市民間借上賃貸住宅制度4)等)が見られた。保 留床の売却難や価格下落の問題が深刻化する中、民間借上賃貸住宅制度は保留床の処分が難し い西部地区での事業の実現に向けて大きな推進力となった。 図10 区別の住宅供給戸数と保留床数 表4 区別にみた平均的建築計画の概要 (3)事業着工時期 震災前から共同化が検討されていた地区では、震災を契機に事業化の機運を高めることとな ったが、共同再建事業の着手時期は、参加者の意見集約、地権者の権利調整、反対者等への対 応などの状況により異なっていた。震災後から工事着工までの期間は平均37.5ヶ月であったが、 震災後1年半までは着工事例が少なく、その後から震災3年後をピークに急激に増加している (図11)。区別では、中央区で最も着工が早く、須磨区で最も遅くなっていた。着工時期に最も 影響があったのは事業区域で、都市計画事業が計画されていない白地区域が最も着工時期が早 くなっていた。次に影響が大きかったのは街区形態で、従前敷地内に路地があった地区では路 地なしの地区に比べ平均して約4.3ヶ月間着工が遅くなっていた。路地形態による影響はあま り見られなかった。また街区用途別では、住宅地が最も着工が早く、商業地が最も遅くなって 区 名 東 灘 灘 中 央 兵 庫 長 田 須 磨 1560.3 1030.4 793.4 1322.9 1059.5 690.5 56.4 41.5 35.9 54.4 38.6 22.5 26.5 17.9 24.7 40.8 27.8 9.3 11.1 8.3 8.4 9.6 7.8 7.5 270.4 282.3 405.1 366.5 291.8 259.3 33.2 36.6 29.0 38.3 38.0 57.5 合 計 1135.8 44.4 26.5 8.8 307.3 37.5 敷地面積 (㎡) 住戸数 (戸) 保留床 (戸) 階 数 (階) 容積率 (%) 着工時期 (月) 東灘 灘 中央 兵庫 長田 須磨 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 供給戸数 保留床数 戸 数
いたが、大規模店舗(スーパーや市場)の再建が絡んだ地区では着工が早くなっている。事業 規模に関しては、権利者数の少ない地区の方が着工時期が早い傾向にあるが、敷地面積は逆に 広い方が早くなっていた。まちづくり協議会の活動区域内であるか否かだけでは、大きな差異 は見られなかった。 図11 住宅共同再建事業の着工時期 2.共同再建による住環境再編の特性 共同再建用のまとまった敷地を確保するためには、地主や隣接地の理解により敷地の交換分 合を円滑に実施することが必要となる。しかしながら、密集市街地で展開された多くの事例は、 集約換地が可能な復興土地区画整理事業地区を除いて、敷地内に共同再建不参加の権利者住宅 (歯抜け区画)が存在し、不整形となった敷地が32.3%を占めていた(表5)。また、全般的な 傾向として、接道数が少ない地区の方で歯抜け区画が多くなっている。しかしながら、震災前 から築かわれたコミュニティ活動の成果が活かされ、敷地の交換分合が円滑に進んだ地区も見 られた。<中央区下山手通>では、敷地内に点在する戸建再建希望者を敷地南端に集約できた ことにより、大規模な共同再建用地が確保できた。<兵庫区湊川町>では個別再建希望者と共 同再建希望者とが対立する中、全国初の試みとしてミニ土地区画整理事業を実施し、共同再建 のための集約換地を実現した。 また街区用途に関しては、表6に示すように、従前は住宅と店舗等が混在していた市街地が、 再建後は住宅のみの市街地に変貌したケースが目立っていた。特に、市場再建型の地区では大 型店舗として集約されたり、店舗数の減少等が顕著に見られ、経営者の高齢化や後継者難、経 営難の実態が反映されていた。 0 2 4 6 8 10 12 地 区 数 10 ∼ 12 月 7 ∼ 9 月 4 ∼ 6 月 1 ∼ 3 月 10 ∼ 12 月 7 ∼ 9 月 4 ∼ 6 月 1 ∼ 3 月 10 ∼ 12 月 7 ∼ 9 月 4 ∼ 6 月 1 ∼ 3 月 10 ∼ 12 月 7 ∼ 9 月 4 ∼ 6 月 1 ∼ 3 月 10 ∼ 12 月 7 ∼ 9 月 95年 96年 97年 98年 99年
表5 共同再建における敷地形態のタイプ 表6 共同再建による街区用途の変更実態 3.住宅共同再建事業への支援実態 (1)住宅共同再建事業への支援組織 住宅共同再建を実現するためには様々な側面でのコーディネート業務が必要となるが、共同 再建事業に関与した組織の協力の度合いを図12に示す。関与した主な組織はコンサルタント、 ディベロッパー、まちづくり協議会、自治体であったが、非協力的であったとする回答はいず れも5.0%未満であり、この事業が住民、専門家、自治体の協働で成立したことがわかる。実 際に活用した行政上の制度は、コンサルタント派遣制度5)が80.8%で最も多く、ここでも専門 家であるコンサルタントの関与が重要であり、かつ制度の整備という観点から行政の働きも重 要であることがわかる。 従 前 の 街 区 用 途 再 建 後 の 街 区 構 成 住 宅 地 商 業 地 市 場 合 計 住 宅 の み 個 別 店 舗 ス ー パ ー 市 場 ス ー ハ ゚ ー + 市 場 66.7% 30.3% 3.0% 7.0% 90.7% 2.3% 19.0% 38.1% 23.8% 9.5% 9.5% 29.9% 58.8% 7.2% 2.1% 2.1% 事 業 件 数 33 43 21 97 歯 抜 け 区 画 数 敷 地 の 接 道 形 状 な し 1 区 画 2 区 画 3 区 画 以 上 事 業 件 数 57.1% (16) 14.3% (4) 14.3% (4) 14.3% (4) 28 50.0% (4) 37.5% (3) 12.5% (1) 8 73.5% (25) 11.8% (4) 5.9% (2) 8.8% (3) 34 75.0% (18) 4.2% (1) 20.8% (5) 24 80.0% (4) 20.0% (1) 5
図12 共同再建事業における各組織の協力度 (2)事業プロセスにおける障害事項とまちづくり協議会の支援 共同再建事業に対する合意形成プロセスを①基本合意段階、②事業化段階、③事務処理段階、 ④建物管理段階の4段階に区分した上で、各段階における障害事項を再建住民に質問した結果 を図13に示す。全体として初期段階ほど障害が多く、段階が進むほど事業が円滑に進んでいた ことがわかる。具体的には、障害が多かった事項として“不参加者への説得”(57.7%)、“個 別要求事項の調整”(50.0%)、“周辺住民との調停”(46.2%)が挙げられた。一方、円滑に進 んだ事項としては、“管理組合役員の決定”(80.8%)、“管理規約の決定”(80.8%)、“管理組合 の運営”(76.9%)が挙げられた。 また、共同再建事業に対する協議会の支援活動状況を把握したが、基本合意段階での協議会 の支援が比較的大きく、最も多かったのが“再建準備組合の設立”(23.1%)である。事業が 進むと“周辺住民との調停”(11.5%)や“周辺住民との交流”(11.5%)で、やや関連性が見 られた。震災前から活動している協議会では特に多くの面で貢献しており、周辺住民との一つ のパイプ役となったと考えられる。 図13 事業プロセスと障害事項 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 共 同 化 の き っ か け づ く り 再 建 準 備 組 合 の 設 立 権 利 関 係 の 把 握 事 業 協 力 者 の 決 定 事 業 手 法 の 決 定 基 本 合 意 の 形 成 個 別 要 望 事 項 の 調 整 地 権 者 の 権 利 調 整 不 参 加 者 へ の 説 得 事 業 計 画 案 の 作 成 受 け 皿 住 宅 の 確 保 事 業 用 地 の 決 定 底 地 権 ・ 借 地 権 の 評 価 事 業 計 画 案 の 決 定 事 業 協 定 の 締 結 実 施 設 計 の 確 認 調 整 事 業 資 金 の 確 保 周 辺 住 民 と の 調 停 保 留 床 の 処 分 管 理 組 合 の 役 員 の 決 定 管 理 規 約 の 決 定 管 理 組 合 の 運 営 周 辺 住 民 と の 交 流 基本合意段階 事業化段階 事務処理段階 建物管理段階 円滑に進んだ まちづくり協議会の協力があった 障害が多かった その他 0% 20% 40% 60% 80% 100% コンサルタント ディベロッパー まちづくり協議会 神戸市・兵庫県 ボランティア団体 とても協力的だった 非協力的だった どちらとも言えない その他 該当なし
(3)再建組合のタイプと住環境構成の特徴 共同再建事業を遂行するために組織された再建組合役員とまちづくり協議会の関係は、図14 に示す通りであったが、再建組合のタイプは協議会役員の加わり方によって、下記のように大 きく3タイプに分類できる。 この再建組合のタイプ別に協議会による支援の状況を見てみると、協議会役員がいない<タ イプA>では共同化の勉強会やきっかけづくり、周辺住民との交流には多くの協議会が支援を 実施していたが、その他の段階では支援が少なかった。それに対して、組合員の全てが協議会 役員である<タイプC>では、全段階に密着した支援活動を実施していた。 こうした関係が反映されて、協議会と再建組合との関係の仕組みにより、再建住宅の空間構 成には特徴が見られた(表7)。協議会と関わりが高かった地区では、事業計画案の作成等に 対して協議会の意向が反映されて住環境構成に周辺地域への配慮が見られ、コモン広場やアク セス形式等に工夫が凝らされて、地蔵尊も敷地内に復元されていた。また、<タイプC>では 集会室の設置率が極めて高く、震災の体験を活かして防災広場や防災用具の備蓄倉庫を設置し ている地区もあり、低層部に店舗等の住宅以外の施設を設けた地区も多く見られた。 図14 再建組合役員とまちづくり協議会の関係 表7 再建組合別にみた空間構成の特徴 住 宅 以 外 の 空 間 タ イ フ ゚ A タ イ フ ゚ B タ イ フ ゚ C 合 計 集 会 室 12.5% 42.9% 71.4% 42.3% 地 蔵 広 場 0 42.9% 28.6% 19.2% 防 災 広 場 0 0 28.6% 7.7% 身 障 者 用 駐 車 場 0 0 14.3% 7.7% 防 災 用 具 の 備 蓄 倉 庫 0 0 14.3% 3.8% 店 舗 等 0 0 42.9% 11.5% 特 に な し 87.5% 42.9% 14.3% 50.0% 有 効 回 答 件 数 8 7 7 26 26.9% 23.1% 3.8% 30.8% 15.4% 再建組合の役員とまちづくり協議 会の役員とは同じ構成 再建組合の役員に、共同化に参加 しないまち協役員も参加した 再建組合の役員には、共同化に参 加したまち協役員のみが参加した 再建組合の役員とまちづくり協議 会の役員とは無関係だった その 他( 未回答含 む ) タイプA:再建組合と協議会とは別の組織構成員 タイプB:組合員の一部が協議会役員を兼ねている タイプC:再建組合と協議会とは同一の組織構成員
4.共同再建後の生活再建の実態 (1)生活再建の実態 まず、従前居住者の戻り率について、調査対象地区を東部と西部6)とに分けて比較すると、 西部の方が戻り率は高かった。また、まちづくり協議会が関与した地区の方が全般として戻り 率が高くなっていた(表8)。協議会などの媒体を通して近隣住民同士の良い繋がりがあり、 そのようなコミュニティの力が、その土地に戻りたいと住民を決意させたのではないかと考え られる。また表に示すように、借家人の戻り率は持家の約6割程度と少なく、持家層とは事情 が異なっていることがわかる。 また、共同化事業を円滑に進めることができた要因を調査した結果、“地権者にまとまりが あった”(東部40.0%、西部87.5%)、“行政と良好な関係にあった”(東部30.0%、西部68.7%)、 “まちづくり協議会の支援があった”(東部10.0%、西部37.5%)といった点で西部の方が多く 挙げていた。こうした面が反映されて、共同再建後の住民間の交流は、西部の方が従前の居住 者や周辺住民との交流が活発である結果が得られた(図15)。再建後の住環境に対する満足度 も、全般に西部の方が満足度が高くなっており、生活再建のためにはコミュニティ再生が最も 重要となる取り組みであることを示唆している。 表8 従前居住者の戻り率 図15 共同再建後の住民間の交流 0% 20% 40% 60% 80% 100% 従前居住者とのお付き合 い( 東 部 ) ( 西 部 ) 分譲住宅入居者とのお付き合 い( 東 部 ) ( 西 部 ) 賃貸住宅入居者とのお付き合 い( 東 部 ) ( 西 部 ) 周辺に住む住民とのお付き合 い( 東 部 ) ( 西 部 ) 親密である 形式的である 希薄である トラブルが多い その他(該当なしも含む ) 地域区分 全 体 70.4% (10) まちづくり 協議会の関与 関与あり 関与なし 73.3% (2) 68.0% (8) 68.6% (10) 37.1% (5) 87.7% (15) 87.2% (13) 90.6% (2) 95.5% (15) 52.5% (6) 79.3% (25) 85.4% (15) 72.5% (10) 84.3% (25) 45.5% (11) 所有形態 持家人 借家人 東 部 西 部 全 体 ( )の中は各々の有効回答数
(2)再建組合タイプ別にみた生活再建の実態 住宅共同再建による生活再建の実態を、再建組合とまちづくり協議会との関わりのタイプご とに見てみると、それぞれ特徴が現れている。共同再建後の生活上の問題点(図16)について は、共用部分の維持管理や住民交流の点で<タイプC>は問題点を指摘する地区が少なく、防 犯面での不安や店舗の廃業を指摘する地区もなかった。さらに、従前居住者との付き合いが以 前より希薄になった地区も見られず、逆に以前より親密になった地区(28.6%)は他のタイプ よりも多くなっていた。 また、共同再建後の住環境の評価(図17)も、<タイプC>は住み心地の満足度(「とても満 足」「満足」の回答率)が最も高く、建物のデザインや従前住環境の継承の点でも満足度が高か った。これらのことが反映されて、集会室の利用においても、<タイプC>では管理組合の集会 の他に周辺住民との交流やサークル活動、町内会の集会等、多様な用途に活用されており、周辺 住民も日常的に利用していた。共同化の効果を最も多く挙げていたのも<タイプC>の地区であ り、特に“街並みがきれいになった”、“住民を呼び戻せた”という点では71.4%と高かった。 図16 共同再建後の生活上の問題点 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 居住者が高齢化している 住宅ローンの返済が負担 共用部分の維持管理 お付き合いが希薄になった 新住民との付き合い 賃貸居住者との付き合い 防犯面で不安である 店舗が廃業した 周辺住民とトラブルが発生 保留床が空家になっている 傾斜家賃が負担になりつつある 特に問題はない その他 A B C 共同再建住宅に設けられた地蔵広場 (長田区御屋敷通) 緑化スペースとコーナー部のベンチ (長田区水笠通)
図17 共同再建後の住環境に対する満足度 (3)管理組合の立ち上げと組合運営活動 被災後バラバラになった従前権利者の交流が再建事業の実現で再び始まったことは、管理組 合のスムーズな立ち上げにもつながっている。共同再建住宅では管理方式を自主管理方式にし ている地区が38.5%あり、特にまちづくり協議会と関わりのあった再建組合(タイプB、C) では57.1%と多く見られた。権利者の意見を反映した管理規約を作成している地区も、タイプ Cは57.1%もあった。神戸市内では初めてであった住居系用途地域内の市街地再開発事業で進 められた<灘区弓木町>では、竣工1年前から従前権利者が中心となって管理規約検討委員会 を設置し、震災の体験を活かした独自の管理規約を作成するとともに、部会別管理運営方式7) と二管理者方式8)という独自の管理運営システムを実現した。 また、コミュニティづくりのためのユニークな発案も、従前権利者によって生まれてい る。<東灘区住吉東町>では、コミュニティが希薄と言われる超高層マンションのコミュニテ ィづくりのために、毎週日曜日の朝に環境ボランティア活動を実施し、植栽管理担当班と池清 掃・資源ごみ整理担当班がそれぞれ毎週3フロアで分担する仕組みを生み出した。<兵庫区新 開地>では、毎月1回の役員理事会への参加を一般組合員にも呼びかけ、親睦会的な理事会と するなど、高齢者との付き合いを大切にした管理組合運営が継続的に進められていた。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 住民の住み心地 (A) (B) (C) 建物のデザイン (A) (B) (C) 共用施設の設備 (A) (B) (C) まち並みとの調和 (A) (B) (C) 災害への安全性 (A) (B) (C) 建物の維持管理状態 (A) (B) (C) 従前の住環境の継承 (A) (B) (C) とても満足 満足 普通 不満 とても不満 その他
5.共同化による効果 共同化して得られた効果(図18)について、共同再建住宅の事業規模を30戸以上と30戸未満 に分けて分析した。3 0 戸以上の地区が高い値を示したものは“災害に安全な町になった” (73.3%)、“街並みがきれいになった”(66.7%)、“住民を呼び戻せた”(73.3%)等で、全般に 多くの項目が挙げられており、“住宅の資産評価が高まった”(60.0%)は30戸以上のみに見ら れ た 。 逆 に 、 3 0 戸 未 満 の 地 区 の 方 が 高 い 値 を 示 し た も の と し て は “ 生 活 を 再 建 で き た ” (72.7%)、“住民の結束力が高まった”(27.3%)が挙げられていた。 図18 共同化して得られた効果 以上のことから、30戸未満の小規模な共同再建事業ではコミュニティ再生の点で共同化効果 が評価されており、30戸以上の地区では住環境再編や資産価値の向上の点において評価が高く なっていると言える。また、大規模な事業は事業制度や資金調達のための制度を利用しやすい ことから、資金的にも有利な立場にあると言えよう。
Ⅳ.おわりに
地域住民で組織されたまちづくり協議会による復興活動の実態を把握した結果、震災直後の 救援・復旧活動においては迅速かつきめ細かな対応がなされ、まちづくりの情報交換では被災 住民に勇気と希望を与え、孤独に生活している人々の精神的なケアともなるなど、様々な側面 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 災害に安全な町になった 生活を再建することが出来た 街並みがきれいになった 住民を呼び戻せた 地域の住環境が改善された 住宅の資産価値が高まった 周辺住民との交流機会が増えた 地域の活性化につながった 高齢者が住みやすくなった まちづくり意識が高まった 新住民との交流ができた 被災者の心のケアになった 住民の結束力が高まった 特に効果はない 商店街・市場を復興できた 違法駐車が減った まちに賑わいが戻った その他 30戸以上 30戸未満でその役割が明らかになった。こうした協議会活動を円滑に進める要因には、地域住民が主体 となった協議会活動の実績と緊密なコミュニケーション、及び行政や専門家とのパートナーシ ップ等が重要であることがわかった。また、権利関係が輻輳している密集市街地で展開された 住宅共同再建の取り組みとコミュニティ再生の実態も明らかにした結果、共同化への合意づく り、迅速で適切な管理体制の確立、速やかな生活再建等のためには、普段からのコミュニケー ションが最も重要となることがわかった。さらに、共同化以前のコミュニティ環境を維持・育 成しうる仕組みを構築することも、持続的な管理運営には必要不可欠であることもわかった。 その点で、住宅共同再建事業に対するまちづくり協議会の活動は、事業の合意形成や周辺住 民との調停、さらに普段からの住民のまちづくり意識の啓発等によって事業を促進する役割を 担っていたが、協議会との関係が密接なほど、事業計画案の作成等に対して協議会の意向が反 映され、路地の再編、空地計画、アクセス形式等に工夫が凝らされており、結果としてまちづ くりへの参画が実現していた。 被災地で展開されたまちづくり協議会による復興まちづくりの成果が認知され、阪神・淡路 大震災以後、住民主体によるまちづくりは全国に広まるようになった。多様な関係者がいる中、 住民自治の元でまちづくりビジョンの合意形成を図ることは非常に困難を伴うが、地域性を活 かした個性ある都市環境の再生には、その地域に居住する生活者の意向を基本に置くことが不 可欠条件である。その実現に向けたまちづくり協議会の役割は、今後さらに重要になると思わ れる。 謝辞 最後になりましたが、本論文の成果の多くは日本建築学会近畿支部環境保全部会が中心とな って進められたものであり、当時主査であった高田先生からは多大なご支援や貴重なご助言を 多々いただきました。ここに厚く感謝の意を表するとともに、今後とも先生の益々のご活躍を お祈り申し上げます。
注 1)共同再建とは、権利者の全員合意を原則にして進められる任意の共同化事業を指す。事業対象には街 並み、相隣環境を整えるために隣接する複数の権利者が協調的に設計を進める協調的再建も含まれるが、 再建後の権利形態が異なる。共同再建の場合には宅地を一筆共有とし、住宅は区分所有となるが、協調 的再建では敷地、建物とも個別所有のままである。 2)被災地で計画された都市計画事業手法により、一般的に以下のように区分されている。 黒字区域:重点復興地域のうち、土地区画整理事業や市街地再開発事業が計画された区域 灰色区域:重点復興地域のうち、密集住宅市街地整備促進事業または住宅市街地総合整備事業のみが 計画された区域 白地区域:都市計画事業が計画されなかった震災復興促進区域 3)都市計画事業としての土地区画整理事業と異なり、住民側が計画案を作成し、市が認可するという個 人施行方式の区画整理事業。 4)神戸市が民間住宅を20年間借り上げ、公営住宅として運用する制度で、平成8∼11年度に実施され、 1,510戸が確保された。 5)神戸市におけるコンサル派遣の実績は、1995年度から2003年度までの間で、マンション建替に対して 59件、共同再建に対しては242件の派遣があった。 6)調査対象地区を、東灘区・灘区・中央区を<東部>とし、兵庫区・長田区・須磨区を<西部>として 区分けし、比較検討した。各々の有効回答数は東部10件、西部16件である。 7)区分所有上は1棟の建物であるが、従前権利者棟、保留床棟、店舗棟と空間構成も居住者層も異なる 3棟それぞれに設置した部会で意思決定を行う方式で、管理費会計も別としている。 8)管理組合方式がもつ「団体自治的機能」と、管理会社がもつ「専任専門的機能」とを分離・折衷した方式。 管理に関する重要な事項は区分所有者が意思決定し、管理規約に基づく任用契約により委任された日常 管理業務等の事項は管理会社が担当する方式。 参考文献 1)日本建築学会近畿支部環境保全部会(主査:高田 昇):住民参加の復興まちづくり−コミュニティ 活動が拓く個性ある都市環境・下町の再生、日本建築学会近畿支部、1995年10月 2)鈴木克彦:住民組織を中心とした復興まちづくり活動の現状、日本建築学会兵庫県南部地震特別研究 委員会第1回公開シンポジウム論文集、pp.103-106、1996年1月 3)日本建築学会近畿支部環境保全部会(主査:高田 昇):住民参加の復興まちづくりをめざして、日 本建築学会近畿支部、1996年3月 4)鈴木克彦、高田 昇、上山 卓他4名:まちづくり協議会方式による復興まちづくりに関する研究− 阪神淡路大震災後における協議会の組織状況と活動実態、日本建築学会近畿支部研究報告集、第36号、 pp.829-832、1996年7月 5)日本建築学会近畿支部環境保全部会(主査:高田 昇):まちづくり協議会による復興まちづくりの 課題と展望−まちづくり協議会のネットワーク形成に向けて、日本建築学会近畿支部、1996年9月 6)鈴木克彦:協議会方式による復興まちづくり、1996年度日本建築学会大会都市計画部門研究協議会資 料「阪神・淡路大震災は都市計画をどう変えるか」、pp.43-52、1996年9月 7)鈴木克彦:住宅再建における住民コミュニティの役割に関する研究−阪神大震災被災地区の「まちづ
くり協議会」を事例として、日本マンション学会マンション学、第5号、pp.17-29、1997年4月 8)鈴木克彦:まちづくり協議会の組織と活動、日本建築学会編阪神・淡路大震災調査報告、建築編第10 編、pp.332-338、1999年12月 9)日本建築学会近畿支部環境保全部会(主査:高田 昇):まちづくり協議会による震災復興まちづく りの検証−地域コミュニティによる個性ある下町再生、日本建築学会近畿支部、2000年3月 10)鈴木克彦:住宅共同再建事業による住環境再編の実態とまちづくり協議会の役割−神戸市を事例とし て−、日本マンション学会マンション学、第10号、pp.80-87、2000年10月 11)鈴木克彦、木多彩子:住宅共同再建による住環境再編とコミュニティ再生に関する研究−神戸市にお ける住宅共同再建事業を事例として、日本建築学会住宅系研究論文報告会論文集、第1号、pp.291-298、 2006年12月 12)神戸市都市計画局:協働のまちづくり・すまいづくり−このまちと共に、2000年3月 13)神戸市住宅局:阪神大震災再建事業のあゆみ「共同・協調化事業」、神戸市、2000年3月