北海道内の肢体不自由特別支援学校に併設されている寄宿舎における教育的役割 ― 寄宿舎指導員と保護者のアンケート調査から ―
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第₁号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68, No.1. 平 成 29 年 ₈ 月 August, 2017. 北海道内の肢体不自由特別支援学校に併設されている 寄宿舎における教育的役割 ― 寄宿舎指導員と保護者のアンケート調査から ―. 細谷 一博・須佐絵里加 北海道教育大学函館校 障害児臨床研究室. The Roles of Boarding Houses Installed in Schools for Special Needs Education for Students with Physical Disabilities in Hokkaido HOSOYA Kazuhiro and SUSA Erika Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は,北海道内の特別支援学校に併設されている寄宿舎を対象に教育的役割を把握する ために「寄宿舎教育アンケート」を実施した。本稿では,このアンケートの中から,肢体不自 由を対象とした特別支援学校に併設する寄宿舎を取り上げ,寄宿舎指導員と入舎生の保護者の それぞれの立場からみた「教育的な役割」を明らかにした上で,今後の肢体不自由を対象とし た特別支援学校に併設されている寄宿舎に求められる「教育的な役割」を明らかにすることを 目的とした。その結果, 「保護者が寄宿舎へ期待していることと実際に行われている支援」と「保 護者と寄宿舎指導員からみた寄宿舎教育に必要な事項」に有意差が見られた。また,今後の寄 宿舎教育の充実においては,保護者と寄宿舎指導員や学校の教員と寄宿舎指導員の連携の充実 が求められていることが明らかとなった。 Key Words:肢体不自由特別支援学校 寄宿舎 教育的役割. Ⅰ 問題と目的. こうとする先人たちの教育の理想・熱意をもって つくられ,維持されてきた(小田,2005)。この. 日本における特別支援教育諸学校に併設されて. ような寄宿舎の存在については,学校教育法(文. いる寄宿舎は,明治時代以降,障害者を「廃人」. 部科学省,2013a)や学校教育法施行規則(文部. として就学免除する時流に対し,就学の差別を除. 科学省,2013b)において法的に規定されている. 去し,生活と人権を保護し,社会的自立の道を開. など,特別支援教育諸学校と同様にその存在が認. 85.
(3) 細谷 一博・須佐絵里加. められている。その中でも,学校教育法第78条で. 以上のように,寄宿舎は,通学困難の解消にみ. は「特別支援学校には,寄宿舎を設けなければな. られる物理的な役割に加えて,教育的な役割を理. らない。ただし,特別の事情のあるときは,これ. 由とする生徒も年々増加していることから,今後,. を設けないことができる」と規定されている。こ. 寄宿舎の活用やその必要性はこれまでよりも増し. の「特別の事情」について鈴木(2009)は,①就. てくるのではないかと考えられる。. 学者が自宅から通学可能な範囲にのみ居住する場. しかしながら,近年になり寄宿舎は統廃合の問. 合, ②医療機関や児童福祉施設に併設する学校で,. 題が指摘されている。その理由として,永崎(2010). 就学者がその入所者に限定されている場合と述べ. はいくつかの都道府県の特別支援学校寄宿舎の政. ている。これらの事から,法的視点からみた寄宿. 策や施策の動向を報告する中で,特別支援学校の. 舎は,通学困難な児童や生徒を主な対象に設けら. 増設や通学困難の解消を理由に廃舎計画が行われ. れていると考えられる。. たことや,寄宿舎への入舎理由を通学困難に限定. この通学困難について柴田(2010)は,障害が. し,舎生減を進行させていると述べている。この. あるがために地域の学校に入学できず,遠く離れ. 統廃合の問題に関しては,小田(2005)や柴田. た特別支援学校に入学するため,寄宿舎への入舎. (2010),島尻(2010),原田・船橋(2012),小. を余儀なくされている実態が依然としてあること. 野川(2013)でも同様の指摘がなされており,特. を報告している。しかし小田(2005)や藤田(2010),. 別支援学校の増加や通学困難な児童の減少という. 原田・船橋(2012),河合(2015)は,通学困難. 理由で統廃合になっているとすれば,寄宿舎のも. 以外で寄宿舎に入舎してくるケースも増え,その. う一つの側面である「生活面や発達を支援する教. 入舎理由が多様化してきていることを指摘してい. 育」の必要性が重視されていない可能性が考えら. る。小野川・髙橋(2007)は「教育入舎」を積極. れる。また,統廃合により実際に起こった事例も. 的に取り入れている寄宿舎では,入舎希望は年々. 報告されている。能勢(2010)は,知肢併置になっ. 増えていることを指摘している。このことから,. たことで比較対象ができ,子どもたちの「ちがい」. 寄宿舎は通学困難の解消という物理的な役割をも. が「差」になり,問題になってきたことや,統廃. ちつつ,生活や発達を支援する教育的な役割も持. 合によって子どもたちが入舎したくてもできない. ち合わせていると考えられる。. という現状を明らかにしている。この点について. さらに文部科学省(2010)は,特別支援教育の. 小野川(2010)は,子ども一人ひとりの発達課題,. 在り方に関する特別委員会報告の中で「各特別支. そして家庭の事情や地域事情によって,寄宿舎教. 援学校の寄宿舎は,入居した障害のある児童生徒. 育を必要とする子どもが入れる寄宿舎こそ求めら. 等が毎日の生活を営みながら,生活のリズムをつ. れており,寄宿舎のような総合的支援こそ障害児. くるなど生活基盤を整え,自立し社会参加する力. やその家族には重要であると述べている。このこ. を養う貴重な場である」と述べている。また小野. とから,障害種の異なる寄宿舎が統合された場合,. 川・髙橋(2007)は,障害児は親子関係や経験の. 入舎生が困難とする内容や状況が違うことで,児. 広がり, 友達との関わりなど,子どもの発達にとっ. 童生徒やその保護者が不満・不安を抱くだけでは. て欠かせない条件が乏しいが,そのことを担う場. なく,人数制限によって寄宿舎への入舎希望に応. の一つが寄宿舎であると指摘している。このこと. えられない可能性が考えられる。さらに,小野川・. から,生活や発達を支援するなどの教育的視点か. 髙橋(2015)は寄宿舎を経験した卒業生への面接. らみた寄宿舎は,障害がある子どもたちの生活基. 調査を実施し,当事者からみた寄宿舎教育の役割. 盤を整え, 自立や社会参加する力を養う場であり,. について明らかにした。その結果,障害児の発達. 彼らの発達にとって欠かせない条件を有している. と生活を支える重要な社会資源として寄宿舎教育. といえる。. の役割を再評価する必要があることを指摘してい. 86.
(4) 肢体不自由特別支援学校の寄宿舎における教育的役割. る。. 調査用紙の作成においては,事前に寄宿舎指導. そこで本研究では,北海道内の特別支援学校に. 員の経験者1名に調査で使用する質問文の確認を. 併設されている寄宿舎を対象に教育的な役割を把. してもらい,修正を加えたものを完成版とした。. 握するために「寄宿舎教育アンケート」を実施し た。本稿では,このアンケートの中から,肢体不. 4.分析方法. 自由を対象とした特別支援学校に併設する寄宿舎. 求めた回答を単純集計した後,以下の点につい. を取り上げ,寄宿舎指導員と入舎生の保護者のそ. て比較検討を行った。①保護者からみた寄宿舎へ. れぞれの立場からみた「教育的な役割」を明らか. の期待と寄宿舎指導員が行っている支援内容,②. にした上で,その違いを比較検討し,今後の肢体. 保護者と寄宿舎指導員が考えている寄宿舎教育に. 不自由を対象とした特別支援学校に併設されてい. 必要な事項,③保護者からみた寄宿舎生活におけ. る寄宿舎に求められる「教育的な役割」を明らか. る成長と今後の期待,④保護者と寄宿舎指導員か. にすることを目的とする。. らみた寄宿舎生活における心配事の4点である。 なお,①保護者からみた寄宿舎への期待と寄宿舎. Ⅱ 方 法. 指導員が行っている支援内容と②保護者と寄宿舎 指導員が考えている寄宿舎教育に必要な事項につ. 1.調査対象. いては,χ2検定により統計的な処理を行った。. 北海道内の肢体不自由を対象とした特別支援学. 分析にはエクセル統計2010を用いて行った。. 校 (5校) の学校長宛に調査協力を書面で依頼し, 承諾が得られた3校を対象とした。対象者の総数 は保護者82名, 寄宿舎指導員52名の計134名である。. Ⅲ 結果と分析 1.回収状況. 2.調査期間及び調査方法. 保護者は82名中,41名から回答が得られ,回収. 201×年8月下旬から9月下旬にかけて調査を. 率は50.0%である。また,寄宿舎指導員は52名中,. 行い,各学校の教員を通して質問紙を配布し,返. 37名から回答が得られた。そのうち未記入の項目. 信用封筒にて回収した。なお,回答は無記名で実. が あ っ た 回 答 を 除 い た 結 果, 有 効 回 答 数35名. 施した。. (67.3%)の回答を使用して集計した。回収率は 71.2%である。. 3.調査内容 質問項目は原田・船橋(2012) ,小野川・髙橋. 2.回答者の状況. (2010)を参考に作成した。保護者への調査内容. ⑴ 保護者の属性. は,保護者自身に関する質問3項目,寄宿舎を利. 保護者の年代は,30代4名(9.8%),40代28名. 用しているお子様に関する質問3項目,お子様の. (68.3%),50代8名(19.5%),70代1名(2.4%). 寄宿舎入舎とその生活に関する質問10項目,寄宿. であった。次に, 回答者の続柄は母親35名 (85.4%) ,. 舎指導員との関わりに関する質問2項目で構成し. 父親5名(12.2%),祖父母1名(2.4%)であった。. た。寄宿舎指導員への調査内容は,寄宿舎指導員. また,お子様の性別は男子17名(41.5%),女子. 自身に関する質問3項目,指導をしている寄宿舎. 24名(58.5%)であった。さらに,お子様の学年は. 生に関する質問3項目,児童生徒の寄宿舎への入. 小学校6年生1名 (2.4%) , 中学1年生1名 (2.4%) ,. 舎とその生活に関する質問6項目,保護者との関. 中学2年生1名(2.4%),中学3年生1名(2.4%),. わりに関する質問2項目で構成した。なお,回答. 高校1年生15名 (36.6%) , 高校2年生8名 (19.5%) ,. は多肢選択法及び自由記述法により求めた。. 高校3年生14名(34.1%)であった。. 87.
(5) 細谷 一博・須佐絵里加. ⑵ 寄宿舎指導員の属性. とが予想される。北海道内には肢体不自由を対象. 寄宿舎指導員の年代は20代3名(8.6%) ,30代. とした特別支援学校に併設する寄宿舎は全部で5. 5 名(14.3 %),40代14名(40.0 %),50代12名. 校であるが,いずれも北海道内に点在しており,. (34.3%) ,60代1名(2.9%)であった。次に,. 自宅から通学できる距離にないことが予想される。. 性別は男性15名(42.9%),女性20名(57.1%)で あった。また, 経験年数は1年以内が2名(5.7%),. ⑷ 寄宿舎への期待と実際の支援. 2~5年が4名(11.4%) , 6~10年が3名(8.6%) ,. 保護者が寄宿舎生活に期待する事と寄宿舎指導. 11~20年が5名 (14.3%) ,21年以上が21名 (60.0%). 員の実際の支援について,最も当てはまるもの3. であった。さらに,指導している寄宿舎生の性別. つを回答した結果を図2に示す。保護者からみて. は男子13名(37.1%),女子17名(48.6%),男女. 子どもが生活している寄宿舎に期待していること. 両方が5名(14.3%)であった。また,担当して. を求めた結果, 「社会性の伸長」が23名(56.1%). いる障害種を図1に示す。本稿では肢体不自由特. で最も多く,次いで「生活する力」が20名(48.8%),. 別支援学校に併設されている寄宿舎を取り上げて. 「主体性な行動」が19名(46.3%)であった。こ. いることから,肢体不自由を担当している指導員. れに対して,寄宿舎指導員が寄宿舎生に対して. が多いが,この他に知的障害(62.9%) ,発達障. 行っている支援について回答を求めた結果,「基. 害(20%)と異なる障害のある児童生徒を担当し. 本的生活習慣の力」が25名(71.4%)で最も多く,. ている指導員がいることが明らかとなった。. 次いで「社会性の伸長」が15名(42.9%),「生活 する力」が12名(34.3%)であった。さらに,χ2. (%). 検定の結果,「基本的生活習慣の力」のみ5%水. 97.1. 100. 準で有意差が見られた(表1)。. 80. これらの結果から,「基本的生活習慣の力」に. 62.9 60. 40. その他. 20. 20 5.7. 11.4. 7.3. 8.6. 0. 安心した学習環境 健康・安全への意識. 0 視覚障害. 聴覚障害. 知的障害 肢体不自由 発達障害. 自閉症. その他. 図1 担当する児童生徒の障害の種類. 寄宿舎指導員. 5.7 4.9. 心のケア. 14.3. 11.4 保護者 14.6 20. 4.9. 思いやりや協調性. 28.6. 主体的な行動. 28.6. 41.5 46.3 42.9. 社会性の伸長 34.3. 生活する力. ⑶ 寄宿舎への入舎希望と入舎理由. 基本的生活習慣の力. 71.4. 39.0 0. 入舎を希望した人について, 保護者16名(39%) ,. 56.1 48.8. 20. 40. 60. 80. 100 (%). 図2 寄宿舎への期待と実際の支援. 子ども4名(9.8%) ,保護者と子どもの両方19名 (46.3%) ,その他2名(4.9%)であった。また, 入舎理由については,通学困難37名(90.2%) ,教 育入舎11名(26.8%) , その他3名(7.3%)であった。 教育入舎と回答した保護者のうち,9名が通学困 難にも回答がみられた。このことから,寄宿舎へ の入舎においては,子どもも寄宿舎への入舎につ いて理解をしているケースが半数近くであった。 さらに,入舎理由では,通学困難が9割以上となっ ており,居住地が特別支援学校から遠方にあるこ. 88. 表1 寄宿舎への期待と実際の支援のχ2検定 項目No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9. 選択項目 基本的生活習慣の力 生活する力 社会性の伸長 主体的な行動 思いやりや協調性 健康・安全への意識 安心した学習環境 心のケ ア そ の他. χ2値 df 有意確率 8.8149 2 * 1.6365 2 n.s. 1.3365 2 n.s. 2.5446 2 n.s. 1.3719 2 n.s. 4.2512 2 n.s. 5.5610 2 n.s. 0.0561 2 n.s. 0.4257 2 n.s. **:1%有意 *:5%有意.
(6) 肢体不自由特別支援学校の寄宿舎における教育的役割. 大きな相違点が見られ,期待している保護者は41. (37.1%)であった。つまり,「寄宿舎指導員の. 名中16名(39.0%)だったのに対し,寄宿舎指導. 数の充実」について保護者はあまり重要視してい. 員は35名中25名(71.4%)であった。つまり, 「基. ない一方で,寄宿舎指導員は必要だと感じている. 本的生活習慣の力」について保護者と寄宿舎指導. ことが明らかとなった。保護者において割合が低. 員の間で,指導・教育における優先順位に対して. かった理由として,多くの保護者は実際の寄宿舎. 意識の差がみられたことが示唆された。このこと. 指導員の人数や勤務体制について詳細に知らない. から,家庭においては,保護者からみた子どもの. ため,このような結果になったと考えられる。ま. できることとできないことを理解して援助の手が. た,寄宿舎指導員が必要と感じていた理由として. 出されやすく,さらにそれが習慣化していること. は,年々障害のある子どもが増加していることや,. から,保護者は基本的生活習慣の力についてあま. 入舎してくる子どもの障害が多様化・重複化して. り重要視していないことが考えられる。しかし,. きていることから,寄宿舎指導員の人数が増える. 寄宿舎は家庭とは違い,できないことを全て支援. ことでより充実した指導・教育を行うことができ. する環境ではなく,寄宿舎指導員の手を借りなが. ると考えていると推察される。. らも自分でできる方法を見つけていく場でもあ る。また,寄宿舎指導員は保護者と違い,第三者. ⑹ 入舎の成果と今後の期待. 的視点から改めて一人ひとりの子どもを捉えるこ. 保護者からみた寄宿舎への入舎による子どもが. とができる。そのため,特に日常生活の基盤とも. 成長したと思う事及び今後の寄宿舎生活で期待す. いえる基本的生活習慣の力について,舎生個人の. る事の結果を図4に示す。成長した点と今後の期. 力だけでできるように指導・教育が行われている. 待について最大3つまで回答を求めた。その結果,. のではないかと考えられる。. 成長したと思う点については, 「主体的な行動力」 が20名(48.8%)で最も多く,次いで「生活する力」. ⑸ 寄宿舎教育に必要だと思うこと. が19名(46.3%),「基本的生活習慣の力」「社会. 保護者と寄宿舎指導員からみて,寄宿舎での指. 性の伸長」 「思いやりや協調性」が13名(31.7%). 導の充実のため,寄宿舎教育に必要だと思うこと について最大3つまで回答を求めた。その結果を 図3に示す。保護者は「寄宿舎指導員と学校教員 の情報共有」が22名(53.7%)で最も多く,次い で「個に応じた指導の充実」が16名(39.0%), 「寄 宿舎指導員と保護者の情報共有」が15名(36.6%) であった。これに対して寄宿舎指導員は,「寄宿. 員の数の充実」のみ5%水準で有意差が見られた (表2) 。 これらの結果から,大きな相違点が見られたの は「寄宿舎指導員の数の充実」に関する項目であ り, 保護者は選択している人が41名中4名(9.8%) だ っ た の に 対 し, 寄 宿 舎 指 導 員 は35名 中13名. 寄宿舎指導員 25.7 24.4. 保護者 40 36.6 40. 教員との情報共有 8.6. 指導員同士の情報共有 障害の種類別の指導. 0 0. 障害の程度別指導. 8.6 7.3 25.7. 寄宿舎指導員の数の充実. 53.7. 12.2. 個に応じた指導の充実. 39.0 37.1. 9.8 28.6 31.7. 専門性の向上 0. 20. 40. 60. 80. 100 (%). 図3 寄宿舎教育に必要な事項. と保護者の情報共有」が14名(40.0%)で最も多く, 「寄宿舎指導 であった。さらに,χ2検定の結果,. 7.3. 保護者との情報共有. 舎指導員と学校教員の情報共有」 「寄宿舎指導員 次いで「寄宿舎指導員数の充実」が13名(37.1%). 0. その他 寄宿舎内の環境改善. 表2 寄宿舎教育における必要事項のχ²検定 項目No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10. 選択項目 専門性の向上 寄宿舎指導員の数の充実 個に応じた指導の充実 障害の程度別指導 障害の種類別の指導 指導員同士の情報共有 教員との情報共有 保護者との情報共有 寄宿舎内の環境改善 その他. χ2値 df 有意確率 0.3330 2 n.s. 8.1753 2 * 1.9149 2 n.s. 2.9351 2 n.s. 3.7976 2 n.s. 0.5012 2 n.s. 1.8925 2 n.s. 0.2594 2 n.s. 0.2099 2 n.s. 2.9351 2 n.s. **:1%有意 *:5%有意. 89.
(7) 細谷 一博・須佐絵里加. であった。これに対して,今後の寄宿舎生活で期. めの「寄宿舎教育アンケート」を実施した。本稿. 待することについては,「社会性の伸長」が21名. では,このアンケートの中から,肢体不自由を対. (51.2 %) , 次 い で「 主 体 的 な 行 動 力 」 が19名. 象とした特別支援学校に併設する寄宿舎を取り上. (46.3%) 「生活する力」が16名(39%)であった。 ,. げ,寄宿舎指導員と入舎生の保護者のそれぞれの 立場からみた「教育的な役割」を明らかにした上. 2.4. その他 安定した生活. 12.2. 今後の期待. 17.1 12.2. 成長した点. 7.3 9.8. 学習への意欲 健康・安全への意識. 対象とした特別支援学校に併設されている寄宿舎 に求められる「教育的な役割」を明らかにするこ. 9.8. 4.9. で,その違いを比較検討し,今後の肢体不自由を. とを目的とした。. 31.7 31.7. 思いやりや協調性. 46.3 48.8. 主体的な行動力 社会性の伸長. 51.2. 31.7 39.0. 生活する力. 1.寄宿舎教育における教育的役割. 46.3. 保護者は寄宿舎で子どもに身につけてほしいこ. 31.7 31.7. 基本的生活習慣の力 0. 20. 40. 60. 80. 100 (%). とについて,「社会性の伸長」を最も大切にして いる一方で,寄宿舎指導員においては「基本的生. 図4 寄宿舎生活の成長と今後の期待. 活習慣の力」を身につけさせたいと考えており, ⑺ 寄宿舎生活における心配事. 両者において指導・教育の意識の違いが明らかに. 保護者と寄宿舎指導員からみた寄宿舎生活にお. なった。保護者の多くは,子どもに「社会性の伸. ける心配な事について,最大3つまで回答を求め. 長」を身につけてほしいと考えている結果につい. た結果を図5に示す。保護者は「寄宿舎生活にお. て,保護者は家庭とは違う寄宿舎という環境の中. けるストレス」が最も高く,22名(53.7%)であっ. で子どもが他の生徒や寄宿舎指導員と関わってい. た。次いで「卒業後の生活」が21名(51.2%), 「社. くことで,将来に向けて必要になる「社会性」を. 会性の構築」が13名(31.7%)であった。これに. 身につけてほしいと考えているのではないかと推. 対して,寄宿舎指導員で最も高いものが,「卒業. 察される。さらに,寄宿舎教育に必要なこととし. 後の生活」で14名(40%)であり,次いで「自立」. て,教員との情報共有や個に応じた指導の充実,. で8名(22.9%), 「興味・関心の拡大」で7名. 保護者との情報の共有などが高い割合であった。. (20%)であった。. 小野川・髙橋(2007)は,重度・重複障害児の事 例検討より,障害児の場合に特に必要なことの一. その他. 11.4. 4.9. 寄宿舎指導員 40. 卒業後の生活 11.4. 生活面でのストレス 0. 健康や安全への意識. 興味・関心の拡大. 可能性があるため,学校教育段階から親以外の大. 24.4 20 14.3. 社会性の構築. 肢体不自由児の場合は,将来的に介助を依頼する. 2.4. 4.9. 人(寄宿舎指導員など)と生活を共にし,礼儀や. 31.7 22.9 24.4. 自立. 接し方などを学んでほしいと思っているのではな. 14.3 12.2. 基本的生活習慣の力 0. 20. つとして「介助を他人に委ねられること」を挙げ ていた。このことからも,特に本稿で取り上げた. 51.2 53.7. 8.6. 他の舎生との仲. 保護者. 40. 60. 80. 100 (%). 図5 寄宿舎生活における心配事. Ⅳ 考 察. いかと推察される。さらに,多くの保護者は「寄 宿舎指導員と学校教員の情報共有」や「個に応じ た指導の充実」などの必要性を挙げている。原田・ 船橋(2012)は,学校と寄宿舎で,先生が同じ対 応をしないと子どもが混乱してしまうことを指摘. 本研究では,北海道内の特別支援学校に併設さ. している。さらに,個に応じた指導の充実につい. れている寄宿舎を対象に教育的役割を把握するた. ても,保護者は子どもの成長を考え,寄宿舎指導. 90.
(8) 肢体不自由特別支援学校の寄宿舎における教育的役割. 員と学校教員の間で情報共有を密に行いながら,. 障害のある児童生徒が親元から離れて生活をおく. 一貫した指導の展開を期待していることが考えら. る寄宿舎の果たしている役割は大きいと言える。. れる。. 以上のことから,保護者と寄宿舎指導員からみ. これに対して,寄宿舎指導員の多くは「基本的. た寄宿舎の教育的役割において,両者の結果に違. 生活習慣の力」を身につける指導・教育に重点を. いはみられるものの,今後の寄宿舎に求められる. おいている結果となった。その理由として,保護. 「教育的な役割」は,身体的依存が心理的依存に. 者の視点からはできていると思われていることで. つながりやすい肢体不自由児の場合,基本的生活. も,改めて寄宿舎指導員の視点からみると社会で. 習慣の力を身につけることや社会性を身につける. 生活をしていく上で未熟であると感じる点がある. ことであると考えられる。また,これらの指導・. のではないかと推察される。また,仮に子どもが. 教育を行っていく際の必要事項について,保護者. 家庭ではできていたとしても,環境が変わると力. は寄宿舎指導員と学校教員の情報共有に必要性を. が発揮できなくなる場合も考えられるため,生き. 感じていることから,寄宿舎と学校の連携により. る上での要でもある「基本的生活習慣の力」の指. 一層力を入れることで,子どもへの一貫した指導. 導・教育を行っている寄宿舎指導員が多いのでは. 体制の構築を進めることができると考えることが. ないかと考える。. できる。寄宿舎の社会的機能・役割として,自立. さらに,保護者や学校の教員との情報共有や寄. や社会性の獲得,障害の重度・多様化に応じた支. 宿舎指導員の数の充実の必要性が高い結果であっ. 援,同じ障害のある児童生徒同士の生活,家庭事. た。本調査では9割以上の寄宿舎生が通学困難の. 情など,保護者や舎生の寄宿舎へのニーズが多様. ために寄宿舎入舎をしていることを考えると,居. 化している(大城,2016)ことからも,寄宿舎の. 住地が近くにないために寄宿舎を利用している. 役割は年々,多様化してくることが考えられる。. ケースが多く,日常的に保護者と顔を合わせるこ とができない。そのため,保護者との情報の共有. 2.今後の課題. は必要不可欠な項目であると考えられる。また,. 本調査では,「教育的な役割」を担っていくた. 寄宿舎指導員数について,指導員1名が担当する. めに必要と考えられることとして,寄宿舎指導員. 児童生徒が多く,図1からも複数の障害のある児. と学校教員の情報共有が挙げられていた。情報共. 童生徒を担当していることが分かる。さらに肢体. 有について,「連携をより高めるには,情報交換. 不自由特別支援学校の重複化(79.4%:文部科学. の頻度や内容,方法が関係してくる」とした上で,. 省初等中等教育局特別支援教育課,2016)を考え. 寄宿舎と学校がスムーズに繋がるよう,舎生の体. ると,個に応じた指導の充実を図るためにも必要. 調や様子などを手短に話す機会を作ることが必要. と考えていることが推測できる。. である(原田・船橋,2012)。このことから,寄. さらに,子どもの成長と今後の期待では,図4. 宿舎指導員と学校教員が現在行っている連携の仕. にみられる「主体的な行動力」「生活する力」「基. 方を見直し,情報共有できるような機会や手立て. 本的生活習慣の力」「社会性の伸長」「思いやりや. を考えていく必要がある。さらに,本調査は入舎. 協調性」 などが成長した点として挙げられていた。. 生の保護者と寄宿舎指導員を対象としており,特. また,今後の期待としては,主体的な行動力や生. 別支援教育諸学校の教員はアンケート調査の対象. 活する力について期待をしていることが明らかと. とはしなかった。しかし,保護者が寄宿舎指導員. なった。実際に入舎している子どもたちは,日常. と学校教員の情報共有を必要としている結果か. 必要な生活技術を一つひとつ身につけ,仲間と一. ら,実際に寄宿舎と学校がどのような連携を行っ. 緒に育ちながら,確実に生活を通して力をつけて. ているのかについても明らかにする必要がある。. いく (藤田,2010)と指摘されていることからも,. 連携方法については,各学校現場で異なることが. 91.
(9) 細谷 一博・須佐絵里加. 考えられるが, 「寄宿舎指導員-入舎生の保護者 -特別支援学校教員」の三者の結果から具体的な 連携方法や,改善事項を明らかにすることで,今 後のより一層の寄宿舎教育の充実に繋がっていく ものと推察する。. 学陽書房,189. 7)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2016) 特別支援教育資料(平成27年度) . 8)永崎靖彦(2010)特別支援学校寄宿舎をめぐる政策・ 施策の動向―通学困難限定型の寄宿舎から地域の寄宿 舎への再生―.障害者問題研究,38⑶,172-180.. また,本研究は北海道内の肢体不自由特別支援 学校に併設された寄宿舎を対象としたものである ため,全ての肢体不自由特別支援学校に併設され た寄宿舎の結果とするには,有効回答数や調査範 囲から課題が残った。都道府県によっては寄宿舎 の統廃合を打ち出している反面,新たに役割を設 けているところもある(小野川,2013)ことから. 9)能勢ゆかり(2010) 「子どもを大切にする寄宿舎」を めざして―滋賀県の障害児教育「再編整備」の中で設 置された知肢併置寄宿舎―.障害者問題研究,38⑶, 46-50. 10)小田史(2005)障害児の寄宿舎における生活教育. 大阪健康福祉短期大学紀要,3,49-56. 11)小野川文子(2010)特別支援学校寄宿舎から見える 障害児の「生活と貧困」.障害者問題研究,37⑷,5359.. も,肢体不自由以外の障害を対象とした特別支援. 12)小野川文子(2013)特別支援学校の寄宿舎教育に関. 学校に併設されている寄宿舎の「教育的な役割」. する研究の動向と課題.特殊教育学研究,50⑸,451-. も明らかにする必要がある。そうすることで,今 後の特別支援教育諸学校の寄宿舎の教育の充実に 発展していくものと考えることができる。. 461. 13)小野川文子・髙橋智(2007)障害児とその家族の生 活問題と養護学校寄宿舎教育の役割―ある重度重複障 害児への生活教育実践から―.東京学芸大学紀要総合 教育学系,58,235-244. 14)小野川文子・髙橋智(2010)全国寄宿舎併設特別支. 謝 辞 本研究の実施にあたり,ご多忙の中,調査にご 協力を頂きました北海道内の寄宿舎併設の特別支 援学校の校長先生をはじめ,寄宿舎指導員の先生 方,入舎生の保護者の皆様に記して御礼を申し上 げます。. 援学校(肢体不自由)の保護者・教職員調査からみた 寄宿舎教育の役割と課題.障害者問題研究,38⑶,2131. 15)小野川文子・髙橋智(2015)卒業生調査からさぐる 肢体不自由特別支援学校併設の寄宿舎の役割―寄宿舎 経験のある卒業生の面接法調査から―.SNEジャーナ ル,21⑴,186-199. 16)大城英名(2016)盲学校(視覚特別支援学校)寄宿 舎における生活指導の現状と課題.秋田大学教育文化 学部研究紀要教育科学部門,71,117-125.. 引用文献 1)藤田幹彦(2010)視覚特別支援学校におけるセンター. 17)柴田久美子(2010)高等養護学校における寄宿舎の 役割と可能性―北海道の特別支援教育の現状から―. 障害者問題研究,38⑶,32-40.. 機能と寄宿舎の役割.障害者問題研究,38⑶,41-45.. 18)島尻澤一(2010)寄宿舎教育を守るために―沖縄県. 2)原田知美・船橋篤彦(2012)生活教育の場としての. における寄宿舎廃舎計画撤回の取り組み―.障害者問. 特別支援学校寄宿舎の現状と展望―教員・寄宿舎指導 員への面接調査から―.愛知教育大学研究報告教育科 学編,61,27-33.. 題研究,38⑶,57-62. 19)鈴木勲(2009)逐条学校教育法 第7次改訂版.学 陽書房,621.. 3)河合隆平(2015)障害のある子どもの生活・養育困 難と特別支援学校の教育・福祉的機能.障害者問題研 究,42,242-249. 4)文部科学省(2010)特別支援教育の在り方に関する 特別委員会報告. 5)文部科学省(2013a)『教育小六法』学校教育法.学 陽書房,131. 6)文部科学省(2013b) 『教育小六法』学校教育施行規則.. 92. (細谷 一博 函館校准教授) (須佐絵里加 函館校大学生).
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