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【経営学論集第 89 集】自由論題 報告要旨
(05) ファミリービジネスの多様性について
日本経済大学 後 藤 俊 夫【キーワード】所有(Ownership),経営(management),ファミリービジネスの弊害(negative aspects of family business),社会情緒資産(Socio-emotional wealth),ファミリー資本(family capital)
1.問題意識
本研究の目的はファミリービジネス(FB と略称。以下同じ)の多様性を指摘し,各種の誤解を解消する 一助とすると共に,今後の研究の方向性を示唆することにある。FB への関心が高まる中で,同族会社, 同族企業,オーナー企業など類似用語が混用されている。FB の詳細定義が未確定であることも,その一 因である。2.先行研究レビュー
FB 研究は半世紀前に米国で始まった若い研究分野であるが,各国経済産業に占める比重ならびに業績 優位性が注目されている。FB は基本的に「所有または経営において親族影響下にある企業」と定義され るが,その詳細は未確立である。わが国では今世紀に入りFB 研究が進展する中で,「親族複数名が所有 または経営に関与する企業」(後藤,2012)とする定義が提唱された。更に親族影響力の大小によるFB の 3 区分(詳細6 区分)が実用化されている(後藤,2016)。本論では,この定義に基づいてFB の多様性を検 討する。3.調査方法と主な結果
本研究は,決算期間2015 年 4 月 1 日から 2016 年 3 月 31 日に存在する国内全上場企業を調査し,FB 企業を抽出・区 分した。株式保有と役員在籍は前掲期間の最終日現在,情報 源は各社の有価証券報告書および適時開示文書(持株変更なら びに役員異動)である。調査の結果,FB を 1,877 社(全体の 52.9%)特定した。区分別には,親族が主要株主で役員を出 し影響力最大の FB(40.2%),主要株主であるが役員を出し ていない影響力中程度のFB(9.6%),主要株主でないが役員 を出している影響力最小のFB(3.2%)である(図表1)。 今回の調査が明らかにしたFB の全上場企業に占める比率 52.9%は,同一の方法と定義を用いた 2 年前の実態調査(後 藤,2016)が示す 53.1%と近似で,FB が上場企業の過半を 占めると再確認した。微差は,両調査間における新規上場,上場停止の他,同一企業における主要株主な らびに役員における親族変動に因るものである。 議論(1)FB の多様性:上述のごとく上場 FB 全体の内,8 割弱は親族影響力が最大(主要株主かつ役員を 図表 1.上場企業に占める FB 比率(05)-2
輩出)である。持株比率により株主には各種権利が発生し,わが国では株主総会の特別決議(2/3 以上保有), 同拒否権(1/3 以上),解散請求権(10%以上)等がある。このように,株式所有比率による細分化は意義が あるが定義に含む基準ではなく,特別決議権等の有無はFB である事実を左右するものではない。 FB を多様な存在として把握することの重要性(Chua et al., 2012)が指摘される中,この発見は重要な 意味を持つ。また,本研究が採用したFB の定義は,こうした多様な FB を把握する上でも有効であり, 連続的スペクトラムで把握する方法の提唱(Astrachan et al., 2002)に応える視点から重要である。 (2)所有面影響力微弱の親族影響力の源泉:影響力微少の FB は株主として無力な親族が経営権を維持 する稀有な存在だが,国内外とも先行研究が存在しない。今回の抽出事例の時系列的推移をたどると,大 半は創業時には有していた最大の影響力が時間的経過につれて減少している。FB には創業時から時間が 経過する中で,親族人的資本,財務的資本ならびに社会関係資本などファミリー資本(Danes et al. 2009) が減衰する傾向があり,親族影響力衰退モデル(後藤,2016)で説明できる。しかし,株主としては無力 なまま,40 年以上または 3 代以上経営権を保持している事例も今回 11 社確認された。 株主として無力でも経営権を維持する要因として,第1 に経営責任者を出す親族が創業家から続く正統 性,第2 に経営責任者を出している親族過去の貢献,第 3 に当該親族に株主総会ならびに取締役会が経営 委託するに足る正当性が指摘できる。 代々の親族がFB 存続に強い感情を寄せ,人的資本,経済的資本,社会関係資本などから構成されるフ ァミリー資本の持続強化にコミットメントし続けている。社会情緒資産(Gomez-Mejia et al., 2011. SEW)が近年注目されているが,上述した正当性に照らして2 種類の SEW の存在が考えられる。所有面におけ る影響力が強いファミリー経営は少数株主軽視やエントレンチメント等の弊害を伴いがちであり,その対 極的位置にある親族影響力最小のFB は,FB 全体に示唆する点が少なくなく,今後の研究課題として重 要である。