37 雑草ウオッチャー情報 伊藤幹二 NPO 法人緑地雑草科学研究所/ マイクロフォレストリサーチ株式会社 キーワード: 掃流水浸食被害,土砂流出,雑草バイオマス,河川雑草管理,斜面植生管理 はじめに 2019 年,各地を襲った台風 19 号の被害状況が大きく取り上げられていました.そこで 目にする被害の光景は,風害もさることながら,河川の外水氾濫をはじめ道路や鉄道斜面 の土砂崩れ,道路を覆う濁流,家屋浸水や車の冠水など内水氾濫による多様な水害でした. そして,水害の現場には,スギ・ヒノキの流木や土石流もあるのですが,例外なく散乱・ 滞積する土砂と雑草,大量の雑草木バイオマスごみが残されているのです.雑草と雑草管 理に関わる立場の私たちは,雑草と豪雨災害の一連の事象との関係について,事例・事実 を整理し問題点をしっかり把握・共有しておくことが大切と,あら ためて思った次第です. 実の所,豪雨被害と雑草の因果関係がはっきり示されていないから問題にならないだけで, 不適切な雑草の管理が被害を悪化させていると考えているのです.今後ますます深刻にな る気配の豪雨災害の防災・減災・縮災対策に雑草管理の視点から何が提言できるのかを知 り,行動することが求められます.そこで,今回の「雑草リスク情報:その3」では,豪 雨災害への雑草の関わりについて事例や事実を雑草ウオッチャーの皆様にアンケート様式 で情報提供をお願いし,それに基づいて雑草が豪雨被害の発生要因にどのように関わって いるのかを検証しました.本報告の作成において,九州から関東地域にまたがる被害現場 の生々しい情報をご提供戴いた雑草ウオッチャーの方々に感謝申し上げます. なお,提供情報には市町村名,河川名,鉄道名などが明記されていましたが,特定の被害 について論究するものでないことから敢えて削除しました. 1.雑草がかかわる水害事例 日本が戦後復興から高度成長期に入り,大型ダム建設と工業化・都市化が大規模に進む 過程で,水循環系は大きく変化してきました.都市は大量の水消費をするだけでなく,地 表の不透水化によって大量の表面流水を発生させ降水を洪水として排水するようになりま した.この結果,長期的変動傾向が見られない台風の広域大雨による洪水災害がおさまり,
雑草リスク情報-その3:豪雨災害と雑草管理
Kanji Ito:Weed risk report No.3:Weed involvement in flood disaster. Institute for Urban Weed science/ MicroForest-Research Co.LTD.
38 代わって気候変動に伴って増加している狭い雨域の集中豪雨による土砂災害が目立つよう になっています.これは大規模な水災害型から多様な土砂災害型になったともいえ,別の 角度から見ると台風型災害から豪雨災害型への変化で,農村・農業災害型から都市災害型 への移り変わりともいえます. 今回の調査結果からも,人間活動の広域化によって水害のタイプ・要因も大きく変わって いることが示されました(表1).回答総数(152)の内 53%が豪雨前に目にする雑草の繁 茂状況に関するものです. 回答の状況 回答数 比率(%) 豪雨前の雑草状況 河床1)の雑草繁茂 20 堤防2)の雑草繁茂 26 ダムの雑草繁茂 4 用排水路3)の雑草繁茂 21 のり面4)の雑草繁茂 10 小計 81 53 豪雨後の雑草状況 橋桁・護岸工作物5)に滞留した雑草ごみ 15 用排水路に堆積した雑草ごみ 8 一掃された河床の土砂雑草 6 舗装面に散乱する泥雑草ごみ 6 水面に浮遊する多量の雑草木ごみ 5 災害ごみに占める多量の雑草ごみ 9 小計 49 32 豪雨後の雑草斜面(のり面)の状況 斜面浸食被害6) 13 9 降雨後状況その他 外来雑草の定着7) 9 6 合計 152 100 表1 豪雨と雑草の関わりについて(複数回答) 1)河床:低水路・中洲・砂洲・低水護岸・河原・小川など 2)堤防:高水敷・河川敷・左岸右岸・川表川裏・堤防のり面など 3)用排水路:側溝・U 字溝・排水溝・排水口・放水路・用水池・グレーチング下など 4)のり面:鉄道・道路・太陽光発電所・切取面・盛土・畦畔など 5)護岸工作物:ゲート・フェンス・木柵・コンクリート・石垣など 6)斜面浸食被害:土砂崩壊・斜面崩壊・のり面崩落・土砂流出・土砂流入・土砂浸食・ 決壊など 7)外来雑草の定着:オオブタクサ・アレチウリ・ハルザキヤマガラシ・セイヨウアブ ラナ・クレソン・アメリカセンダングサ・セイバンモロコシ・ネズミムギ・ボタン ウキクサ・ホテイアオイなど
39 まずは河川ですが,河床や堤防には必ずと言ってもよいほどに雑草の繁茂がみられ,川 幅の2/3や3/4を雑草が占めている光景や.堤防も例外なくクズ,大型草本,雑木等,そ して様々な外来雑草で覆われている様子が寄せられました(図1).それ等に付託されたコ メントは,流量問題,除草作業問題,景観問題,有害生物問題,木本化問題,外来雑草問 題,除去費用問題,土砂廃棄処理問題,高齢化問題など多岐にわたり,今後の河川管理に おける雑草管理の在り方を基本的に考えなおす契機になると思われます.一方,自治会に よる土木部の結成や川掃除作業に取り組む地域住民(行政による補助事業として),名園の 池を埋め尽くす外来浮遊雑草の清掃,一億円雑草と揶揄されるダムや湖面のボタンウキク サやホテイアオイの除去費用など,除草対策に苦慮する報告もありました. 次に,用水・排水・放水路の雑草繁茂は,水路の内側や両サイド,とくにグレーチング で守られた排水溝からの雑草などが市街のいたるところで見られ,それらの機能が大きく 損なわれている様子がうかがわれました(図2,図3).この結果,排水障害と表面流水に よる内水氾濫被害,転落事故,雑草・土砂 ごみの滞積,清掃費用などの発生が指摘さ れ,地表の不透水化と排水機能の劣化がま ち の 豪 雨 被 害 を 助 長 し て い る こ と は 確 か です. 今回,のり面の雑草繁茂についての提供 は少なく,雑草繁茂の問題として挙げられ たのは,のり面構造の劣化・損傷を見逃す, クズによる斜面表土の軟弱化,広葉雑草と ミ ミ ズ の 発 生 に と も な う モ グ ラ に よ る 斜 面崩壊,木本雑草の早期発見の遅れなど, 図1 河川はどこもかしこも雑草の温床,これからどうなるの? 図2 用水・排水路によく見る光景,除草作 業が大変です
40 除草管理に関わるものだけでした(のり面の雑 草繁茂が直接豪雨災害と結びつかなかった ようです). 次いで回答総数の 32%が豪雨後の雑草ごみに関わるものでした.コメントの多くは,掃 流雑草木による橋桁崩壊や護岸工作物崩落の助長,雑草ごみによる排水・放水・用水ポン プ機能の阻害,土砂雑草バイオマスごみ量と処理費用,雑草ごみの散乱と景観の悪化など が指摘されました.その一方,豪雨後に河床の土砂と雑草がきれいに一掃されている様子 が見られ(図4,図5),上・中流域の土砂・雑草ごみが下流域へ拡散している状況がうか がわれました. 図3 排水溝のグレーチングを覆う雑草たち,表面流水はどこへ? 図4 豪雨後に一掃される河床の雑草・土砂,この汚物はどこへ?
41 さて,豪雨後の道路などの斜面浸食被害はTVの映像や新聞の紙面でしばしば目にしま すが,今回は太陽光発電施設と鉄道敷の浸食被害事例の提供がありました.野立の低圧発 電所の斜面浸食被害は多発しているようですが,その被害自体の規模は小さいようです. 一方,鉄道や道路敷の被害事例は,斜面崩壊,のり面崩落,斜面陥没,土砂崩れ,土砂流 入,土砂流出,道床流出など多面にわたり(図6),その結果,運休,ダイヤ変更,代行バ ス,応急・復旧費用など,広範囲に社会経済的被害が及ぶこと がわかりました.現場から は,切土・盛土斜面の適切な植生管理が,今日ほど必要とされる時代はないという切実な 声が聞かれました. 豪雨後その他の状況については.復旧工事後の河川現場が外来雑草に変わってしまった こと,地肌がむき出し景観が台無しになったことがあります.外来雑草の発生は,過去の 豪雨によって堆積した繁殖体(埋土種子など)が土中に豊富に存在することの指摘があり ました. 以上 152 の事例について述べましたが,この半数の 76 が河川管理と雑草,44 が用水・ 排水路管理と雑草,23 が斜面浸食管理と雑草,9が雑草植生管理に関わることです.それ ぞれにおいて,どのようなリスクが考えられるのか,また,どのように対応していけばよ いのかを以下に考察します. 2.河川管理と雑草リスク 水文学・水文地形学(陸水の循環に関する研究分野)では,流域を斜面と流路で構成さ れるとし,流路は雨水を排出するシステムであると同時に,流域内の物質を排出するシス 図5 洪水後に残る雑草ごみ,次はフェンスも流されるかも? 図6 斜面雑草の放置は高くつきます
42 テムでもあるとされています.この流路の機能は,流水の作用により発生した流域構成物 (土砂・雑草木・土壌生物など浸食物質)の運搬,堆積,流出などを通して流路の形状や 水系・水質の安定に深く関わっています.しかし,今日の建屋・駐車場・道路と連続した 不透水面の拡大と透水面のほとんどが雑草によって埋め尽くされているという現状がこの 自然の機能を大きく棄損しています.特に上流域と中流域の不透水化の進行と雑草繁茂は 大きな問題となります.この上流域や中流域の透水化と植生の管理こそが下流域の不透水 災害を軽減することにつながるのですが事は簡単ではありません. さて,河川は大きく上流,中流,下流という区分があり河道の特性や植生も特徴的な姿 を示しています.一方,河川を横断的にみると,洪水から地域を守る堤防(左岸堤防・右 岸堤防),水が流下する低水路(水路・護岸),この低水路と堤防に挟まれた高水敷と呼ぶ 3つに区分されます.そして,その雑草植生は堤防雑草,低水路雑草,高水敷雑草と呼べ るほど区分によって異なっています.それでは河川に流入する流域構成物の本体とはどの ようなものなのか(下水・廃水・汚染物質などは除いて).生物学的視点から述べると,土 壌表層部に存在するバイオマス(生物生産量)またはバイオマット(生物によって膠結さ れてできた層)と呼ぶものです.例えば雑草でいうと,地上部(茎葉)だけでなく地下部 (根系),細根で緊縛されマット状になった土壌,菌糸網などにより落葉・枯草・枯死根な どが膠結されたリターやサッチなどです.これを雑草の生体重量で示すと,種類によって 違いますが,多年生雑草だと地上部の生体重量の 2 倍から 5 倍の地下部生体重量を持つの が普通で,付着土壌を含めるとその数倍の重量になります.これが豪雨によって流出し, 濁流水の比重と体積が高まり衝撃波を増強する結果,氾濫災害リスクを大きくしていると いえます(現在,国は雑草バイオマスを流量計算に入れていません.草は流されないとい うのが根拠のようです).現在の一級河川管理を見ると,除草剤使用の禁止,野焼きの禁止, 草刈・除草作業が原則年 2 回となっています.除草作業は河川管理施設の老朽化対策を目 的とした異常の有無の目視確認点検に支障がないようにするためとされています.この他, 生物多様性に配慮した河川環境の保全・整備などが謳われてはいますが,本来やるべき水・ 土・植生管理についての科学的記述がすっぽり抜けており ,土壌保全・雑草管理技術を持 たないための免罪符のように思えます.河川における絶滅・希少種の保存や住民の要望に 応えることも必要でしょうが,これから先の豪雨に備え,外水氾濫,バックウオター,堤 防崩壊,内水氾濫,冨栄養土壌の堆積,河川や沿岸部の有機物汚染,プラスチック汚染, 外来雑草の繁茂,そして農業病害虫や野生動物の河川敷コリドー化など,雑草植生の管理 に関わる問題が山積みです.どれをとっても,河川管理の視点を,流域一体の植生を管理 する技術に向けることが求められます.コンクリ-トと重機では豪雨災害を防げません. 過剰なコンクリートを剥ぎ,表土を守る植生に変える,これが今日ドイツをはじめとした EU 諸国が進めている行動です.地域レベルで生態系サービス機能を強化する,この世界の 水準に目を向ける必要があります. 3.用水・排水路管理と雑草リスク 私たちは現在,国土の 10%に過ぎない扇状地に資産の 75%を集中させ生活をしていま
43 す.扇状地とは土砂が堆積してできた山と連続する平地のことをいいます. 沈泥が堆積し てできた河口や三角州とは異なり,河川沿いに土砂が堆積してできた平野で氾濫原とも呼 んでいます.戦後,高度成長期を迎えこの場所 に高速量産式のまち建設(都市・住宅・工 場など)が次々に行われてきました.この量産式建設では,都市計画の問題点を把握し修 正する時間が与えられなかったことから,多くの都市が水害に悩まされることになります. 今日,都市災害の 23%が雨による水害とされています.一般に堤防によって守られている 土地や住宅地を堤内地と言い,この堤内地の排水機能の低下による水害を内水氾濫と呼ん でいます(河川からの場合は外水氾濫).現在,いろいろな地域をグーグルマップの航空写 真で見てみると,愕然とします.まちとよばれる地域(都市・市街地)の大 半が,不透水 物にすっぽり覆われている現状です.確かに,それぞれに使途のある建物や道路・駐車場 などの必要不可欠な不透水施設・平面もありますが,とくにアスファルト・コンクリート で覆う必要のない平面も多いことがわかります.そして,目を地面にむけてみると,透水 面には例外なく雑草が侵入・繁茂し,コンクリートやブロックの目地,排水溝・側溝,用 水池・用水路などのコンクリート側面は雑草の格好の定着地となっています.とくに排水 溝はグレーチングやコンクリートで守られて雑草がぬくぬくと育っているのが見られます. このような状況は,まちの豪雨が地面に吸収されることなくその強力な掃流作用によって 雑草土砂を流出させ,排水機能をマヒさせることにつながっています.まちの道路を流れ る濁流や大量の雑草バイオマスごみをみると,内水氾濫の直接原因が豪雨だとしても,私 たちがまちの雑草繁茂を放置していることで,その被害を助長しているのがわかります. 内水氾濫による経済損失と復旧費用を計算すれば,水路網の雑草管理(除草作業ではあり ません)にかける費用などは安いものです. 4.斜面浸食と雑草リスク 日本列島は湿潤変動帯と呼ばれ,中緯度湿潤帯が大雨を降らせ, 変動帯に位置すること から激しい地殻変動・隆起運動や火山活動をもたらしています.そして地殻表層は移動し やすい風化物質や火山砕屑物・火山灰などで覆われています.この脆弱な地表と豪雨が, 浸食と土砂流出を活発にし,急峻な山地と扇状地・沖積平野を作り上げているのです.こ の過程で土砂災害や洪水災害が発生するわけですが,私たちは永い歴史を通して,それぞ れの地域において大きな変化を加え対処し,今日の生活圏の姿をつくってきました. さて,斜面浸食の大部分は降雨と地震の作用によって起きるのですが,地震による浸食 は雑草管理との接点がないので(津波とはあります),雨水流による浸食について解説しま す.雨水は基本的に地表流と地中流に分かれます.浸食のタイプは,地表流水によって形 成される「表面浸食型」,地表・地中流水によって起こる「表層地中浸食型」,深層の排水 システムの崩壊によって発生する「深部地中浸食型」に分類されます.災害のタイプは, それぞれ洪水・土砂災害,表層崩壊による土石流災害,深層崩壊による地滑り・山津波災 害が挙げられます.後者の二つの災害はスギ・ヒノキの人工林地や休眠性山地河川(小起 伏地の河川)と活動性河川(大起伏地の河川) で生じるのが普通ですが,前者は都市型災 害とも呼べるもので開発された丘陵地や扇状地,切り取りのり面や盛土のり面など人工構
44 造物地(営造物地・工作物地)で発生します.雑草が深く関わっているのがこの斜面浸食 なのです.地表流水は,通常斜面上部から下部に向かって面状に浸食しますが,一部に水 みちができるとリル・ガリーと呼ばれる地表水路が形成されます.これによってリル浸食 (斜面上に発生した細流路による浸食)やガリ-浸食(斜面上に発生した水溝による浸食) が起こり,これが発達すると土砂崩壊に進むことになります.このリル浸食やガ リ-浸食 の進行を防止しているのが地表面植生です.地表面植生は草本であればなんでもよいわけ でなく,短草で繊維根を多量有し土の保持力の高いイネ科多年生草本類(特に暖地型芝草 と呼ばれる C4植物)が適しています.一年生草本類や広葉の草本類の根系は,表土を膨軟 にし,土壌を緊縛する力も弱く斜面浸食をとめる効果がほとんどありません.したがって, 斜面浸食の防止には,早期緑化工法(寒地型牧草など C3植物)でお茶を濁すのではなく, 持続可能な多年生イネ科草本を育成する技術が基本となります.斜面浸食の管理は緑化工 事でもなければ除草作業でもなく,表土の保全管理技術にあるといっても過言ではありま せん.したがって,人工のり面植生の管理には,適切な多年生イネ科草本植生に誘導し, 維持していく雑草管理技術が必要です.ちなみに20 世紀,米国や英国に発生した広大な表 土の浸食から国土を守ったのは多年生イネ科草本でした(国策として大学や農業試験場で イネ科草本の応用開発が行われ,技術・人材・芝生産業が生まれ,ゴルフをはじめスポー ツ産業も発展しました).現在の日本においても,里山の多くを豪雨災害から守っているの は,管理された芝生,池,樹木で構成されているゴ ルフ場なのです(図7).施業放棄され た農地やスギ・ヒノキの人工林ではないのです.今日,ゴルフ場緑地が地域にもたらして いる外部経済効果を真摯に直視し,活用していくことが望まれます(米国や英国のゴルフ 場を見習って). 5.地域の生物多様性管理と雑草リスク 豪雨によって雑草の繁殖体が散布されるのは明白ですが,それだけでは雑草が定着・拡 散するわけではありません.豪雨は雑草の「運び屋」だけの関係なのか,もし定着に関わ 図7 実は,豪雨災害から里山の自然を守っているのは芝生と樹木なのです
45 っているとしたらどのようなことなのか,今後の雑草管理の在り方を探るうえで考えてみ ることにします.なお,外来雑草の由来,発生源,拡散の経路,リスク管理については, 本誌草と緑 4 号,9 号,10 号(黒川 2012,2017,2018)に詳しく述べられているので参考 にしてください.緑地雑草が拡散するには,一定規模の表土の攪乱,多量の土砂移動,広 範囲にわたる人工営造物・工作物地,そして土地利用のされ方や除草などの要素が関係し ています.しかし,雑草の拡散を別の角度からみると,雑草が定着するには,競合する植 生がない場所,必須栄養塩類(土壌)が供給される場所,淘汰圧が小さい場所の 3 条件を 必要としていることが分かります.今日,河川敷の巨大化したオオブタクサ,ネズミムギ, エゾノギシギシ(図8),緑地公園のため池に繁茂するタチスズメノヒエ,セイタカアワダ チソウ(図9),道路敷や鉄道敷を埋め尽くす早期緑化に使われたネズミホソムギ類など, 地表のあらゆる場所を被覆するクズやアレチウリなどつる性雑草,歩道の目地や植栽中に 生育する大型雑草,また,湖沼・池・ダムの水面には浮漂性水生雑草のホテイアオイ,ボ タンウキクサ,ナガエツルノゲイトウなど,がびっしりと覆っています.元をたどれば, 逸出・流出・遺棄など農業者や公共事業者,市民・住民などによる不適切な植物の取扱い にあるのですが,このような雑草繁茂の状況は,豪雨と建設工事による競合植生の消失, 豪雨による富栄養土壌の供給,適切な雑草管理放棄による淘汰圧の不在,要は,緑地雑草 の拡散は人為的だということです.言い換えれば,雑草は現代日本の都市環境に適応 した 植物ともいえます(適応できなかった植物を絶滅危惧種と呼びます).このまま慣行的な除 草作業を続ければどうなるかは明らかです.有害雑草の拡散に伴う環境影響評価を行い, 流域にわたっての標的雑草の根絶と適切な植生の育成を目標とする雑草管理プロジェクト (計画ではありません)にすることが必要です.ちなみに,今から 100 年も前に発令され たアメリカ連邦政府の雑草撲滅法令の一部を紹介しておきます.その第1条は,個人また は法人は,その所有,使用,または管理する土地に生じる有害雑草に対し,種子の形成を 防ぎ,これを撲滅しなければならない.その範囲は,この土地に連続する通路など,その 中央部までを撲滅の対象地とする.第 9 条には,家畜による有害雑草の伝播は,地方自治 政府が防除に努めなければならない.他の条項は,罰金額,首長の責任,監視員の任命な どが明記されています.ほんとう? 本当です.この Noxious Weed Act は Plant Protection Act に統合され現在も機能しています.
図8 河川に繁茂する外来雑草たち(左:牧草地の強雑草エゾノギシギシ,
46 6.豪雨災害になぜ雑草管理が必要か 豪雨災害が毎年続くのは短時間に局所的に降る雨など極端な気象だけが原因ではないと いわれています.都市防災・都市計画関係の研究者が指摘するのは,高度成長期に無秩序 に広がった市街地に自然が牙をむき,人口減少に転じたために効果的な対策を打てなかっ たなど,複数の要因が絡んでいるとしています.今回のレポートからも明らかなように, 豪雨災害の多くは,都市化による不透水面の広がりと雑草の拡散に起因することがわかり ます.ここで閑話閉題,日本に不透水面がほとんどなかった時代の話を紹介します. 近世に入り日本列島では水田開発が急速に進み,そのための自然改造は土砂災害の頻発 を引き起こします.上流域から土砂が流出し,中・下流域に水害をもたらし,大きな社会 問題となります.1684 年幕府は土砂留制度を発布し,近世の砂防制度といえる土砂災害の 防止を行います.この制度は,土砂流出箇所への木苗,竹木,カヤ,シバ(伏芝)の植栽 を命じることと,木草の根を掘り取ることを禁止するというものです.これを徹底するた めに幕府は,土砂留役として土砂留奉行(土砂留大名)を任命し,領民と直接交渉にあた らせたのです.本来幕藩制度とは幕府→個別領主→領民の関係ですが ,こと土砂災害の防 止は幕府→土砂留大名→領民と,領主権を侵害して行うほど重要なことだったのです.一 方,領民は,河川の堆積土砂を貴重な水田改良資材として,また土手の草本は草肥や家畜 の飼料(厩肥)に用いるために厳密に管理していました(明治 30 年,いわゆる治水三法が 制定されるまで). さて,土砂止めに有効な工法はいろいろありますが,ここでは土砂止めに使用されてき た砂防用草本類に若干触れておきます.伝統的なものではノシバ,トダシバ,チガヤ,チ カラシバ,カゼグサ,メダケ属やササ属のササ類,ススキなど,戦前に砂防用に 米国より 導入したものではシナダレスズメガヤなどがあります(本種の土壌浸食防止機能を知らな い植物生態学者によって現在のところ使用が中止).これらの草種は現在雑草として取り 扱われていますが,適切な管理によって極めて土砂止め効果が高いのです.豪雨災害にレ ジリエントな雑草の管理とは,このような草種の役割を理解し,それが中心になる植生に 変え維持していくことです.このためには,雑草を一体管理する流域治水の視点で,流域 図9 ため池に繁茂する外来雑草たち(左:水鳥の格好のエサになる タチスズメノヒエ,右:えっ!セイタカアワダチソウって湿生雑草?
47 住民の主体性を強め,住民による管理体制を作り上げていくことが大切です.これは,住 民を除草作業に駆り出すことでも,また,住民主体の防災活動を行政主体が検討すること でもなく,「何のために」雑草を管理するのかを,地域住民はじめ利害関係者が共有するこ とから始まるのです. おわりに 豪雨災害後に施工されるもののほとんどは復旧型工事と呼ばれるものです.私たち日本 人は,戦後技術の特徴として結果管理に重点を置いてきました.このため未然に防止する とか拡大を防止するとかの技術に価値を置きませんでした.未然防止や拡大防止が疎かに された理由は,事業の対価が少ないこと(金にならない)やデータ・分析・知見・活用の プロセスのない事業(モノしか評価できない体質)からだと思われます.今回のアンケー トから明らかだったのは,豪雨によって生じた個々の雑草害は,速やかに取り除かれると いうことです.災害現場には,直ちに重機が搬入され,土砂は取り除かれ,護岸は修復さ れ,排水路や放水路の雑草バイオマスは除去され,大量の雑草ごみもきれいに掃除されま す.しかし,復旧工事は,被害の要因を見つけ,二度と同じことを起こさないことが目的 ではないので,豪雨のたびに同じことが繰り返されるのです.そして,“災害待ち”という とんでもない声が一部でささやかれているのです.復 旧工事の重要性やハザードマップの 作成などを否定するつもりはありませんが,これから先の気象災害に備えて,地域住民が 一体となって取り組める雑草リスク管理にも,少しは予算,技術,人材を割くことが望ま れます.雑草が関わる災害リスク対策は,地域住民が考え,行政が行動することが必要な のです. 参考資料 伊藤幹二・伊藤操子 2020.まちの健康回復に芝生の力を活かす グラスパーキングの科学. 大阪公立大学共同出版会,大阪 伊藤幹二・伊藤操子 2017.日本における草の利用史:先史時代から現代まで.グリーンニ ュース No.100:19-30. 伊藤幹二 2016.日本の雑草防除史:除草剤は社会経済的背景とどうかかわってきたか? 草と緑 8:12‐27. 伊藤幹二 2015.持続可能なゴルフ場緑地と環境:地域環境の劣化とゴルフ場の役割.NPO 法人緑地雑草化学研究所第 7 回シンポジウム要旨:1-15. 伊藤幹二 2015.持続可能な緑地生態系管理:雑草生物学の視点から.草と緑 7:2-11. 伊藤幹二 2014.‘草’と‘緑’に関わる不都合な真実:喪失する公益的環境機能.草と緑 6:2-11. 伊藤幹二 2013.‘草’は表土を創り育む:日本人が忘れている大切なこと.草と緑 5:6- 27. 伊藤幹二 2012.緑地雑草管理における植物の活用.NPO法人緑地雑草科学研究所 第 4 回シンポジウム要旨:34-44.
48 伊藤幹二 2011.都市の気候変動と深刻化する雑草問題.草と緑3:9-20. 気象庁 2019. 気象変動監視レポート 2019. https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/2019/pdf/ccmr2019_all.pdf. アクセス確認 2020 年 11 月 10 日 黒川俊二 2018.アレチウリ.草と緑 10:31-38. 黒川俊二 2017.外来植物の伝播と生活圏緑地への拡散:その起源と経路を探る.草と緑 9: 13-21. 黒川俊二 2012.緑地管理における外来種と在来種:そのリスク管理について.草と緑 4: 8-18. 水本邦彦 2003.草山の語る近世.山川出版社,東京 中山祐一郎 2016.都市河川における望ましい植生とは:堤防に咲く“菜の花”から考える. 草と緑 8:48-58. 農文協論説委員会 2020.洪水と水害をとらえなおす 自然観の転換と川との共生.現代農 業 9:310‐315. 恩田祐一 2008. 人工林荒廃と水・土砂流出の実態.岩倉書店,東京 塚本良則 1998.森林・水・土の保全 湿潤変動帯の水文地形学.朝倉書店,東京 山本嘉昭 2018.河川におけるクズ問題と対策の現状.草と緑 10(特集号):53-57. 横張真 2004.農村景観の保全をめぐる最近の動向:誰が,何のために,何を 保全するのか. 日本雑草学会 第 19 回シンポジュウム要旨:37-42. 写真提供者 池村淳,石川重規,伊藤幹二,伊藤操子,角龍一朗,松田元秋,南平誠, 中川豪,白崎健悟,矢部亮 (順不同,敬称略) (2020 年 12 月 30 日受理)