Author(s)
川﨑, 和治
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(24): 1-25
Issue Date
2015-11-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/18783
1.問題の所在 近時、医療に関し損害賠償を求めた訴訟判決が判例掲載専門誌に数多くみられるようになって きた。ちなみに、本年(平成27年)1月から6月までの6か月間の判例時報及び判例タイムズに 掲載された医事関係民事訴訟(損害賠償請求事件)(本稿では、以下単に「医療訴訟」という。) を見ると、文末掲載の【資料1】1に見るとおり、16件を数える。そのため、医療訴訟は増加し ているような印象を一般に与える。 しかし、判例専門誌に掲載の医療に関する判決が多いからといって、必ずしも医療訴訟の件数 が増加しているとは限らない。近時、インフォームド・コンセントに絡む事件、すなわち医師の 説明義務違反や患者の自己決定権の侵害を理由とする損害賠償請求事件など、法学上、興味深い 重要論点を含む判決が散見され、また医療技術の発達に伴い、千差万別の医療事故に関する事例 判決として公表に値する事件も多いので、掲載されるケースが多くなっているのではないだろうか。 事実、最高裁判所が公表した一連の「医事関係訴訟に関する統計」2を見ると(本統計は筆者 が「医事関係訴訟に関する統計表(表)」と題して一つの表にまとめ、次頁に掲載している。)、 平成17年に999件であった新受件数(地裁及び簡裁)は、翌18年には913件、19年944件、20年876 件、21年732件、22年791件、23年770件と減少傾向であったが、平成24年には787件と増勢に転じ、 25年805件、26年877件(速報値)となった。しかし、平成17年からの10年間で見ると、999件か ら877件へと減少している。そして、判決に至る件数は既済件数のおおむね35~38%、和解に至 る件数はほぼ50%となっている。このように、医療訴訟は増加しているとはいえないのである。 さて、平成20年以降、公表された判決のうち、医師の説明義務違反による損害賠償請求事件(自 己決定権侵害を含む)だけを見ると、文末掲載の【資料3】3に見るように、認容率は高い。同 資料の「3最高裁平成20年4月24日判決」が原審を破棄差戻したために、結論は不明であるが、 これを除く17判例中、認容が13例、棄却が4例となり、認容率は75%を超える。このように判例 専門誌掲載判例で見ると認容率は高いように見える。地裁民事第一審通常訴訟事件の認容率は、 【論文】 専 門 分 野:民事法 民事訴訟法 キーワード:医療訴訟 説明義務 インフォームド・コンセント
A Study of Judicial Precedents for “Informed Concent” in Japan
川 﨑 和 治 Kazuharu KAWASAKI
統計表のとおり、10年間を通してほぼ85%前後で推移しているので、上記の認容率は他の種類の 損害賠償事件とあまり変わらないように見える。しかし、医療訴訟事件全体の認容率は平成17年 から同19年までは37.6%、35.1%、37.8%となっており、平成20年を境に認容率は20%台に低下、 平成26年には20.4%と損害賠償が認容されたのは、わずか5分の1判例でしかないことに注意を 要する。 医療訴訟の現況は以上のようなものであるが、近時、医師の説明義務違反による損害賠償請求 事件や自己決定権(患者の同意権)侵害による損害賠償事件が増加している。そこで本稿では、 医師の説明義務と患者の自己決定権に関する判例を中心に、考察を試みる。その際、医師の説明 義務の法的性質、自己決定権の持つ意味等についても考察し、いわゆるインフォームド・コンセ ントの重要性に触れていきたい。 2.インフォームド・コンセント 平成2年1月9日、日本医師会生命倫理懇談会は、「『説明と同意』についての報告」4を公表した。 従前から、医療はともすればPaternalismに支配されがちであり、患者の意思如何にかかわら ず、医師は自己が最善と考える医療を患者に施してきた。医療の一連の措置の進行について、医 師は患者に十分な情報を与えず、複数の医療措置が認められる場合でも、患者の同意を得ること なく最善を尽くすことでよしとしていたきらいがある。しかし、医療技術の進展によるリスクの 多様化、すなわち、以前なら手術不可能と思われていたような病巣の外科的手術も、手術技法や 手術用器具の開発により手術が可能となると、当該手術に一定の死亡率が認識されながらも病巣 を放置するよりは生命維持の可能性があるため手術を実施するケースのように、生命に危険を伴 年 新受件数 平均審理期 間 判決 (比率) 和解 (比率) 認容率 地 裁 民 事 部通常訴訟認容率 (平成) (件) (月) (件) (%) (件) (%) (%) (%) 17年 999 26.9 400 37.7 529 49.8 37.6 83.4 18年 913 25.1 402 35.3 607 53.3 35.1 82.4 19年 944 23.6 365 35.3 536 52.2 37.8 83.5 20年 876 24.0 371 37.6 493 50.0 26.7 84.2 21年 732 25.2 366 38.4 473 49.7 25.3 85.3 22年 791 24.4 324 35.2 488 53.0 20.2 87.6 23年 770 25.1 294 36.7 406 50.7 25.4 84.8 24年 787 24.5 319 37.8 433 51.3 22.6 84.4 25年 805 23.3 305 38.0 399 49.6 24.7 83.6 26年 877 22.6 280 35.4 371 46.8 20.4 83.7 1.本表は最高裁「医事関係訴訟に関する統計」(http://www.courts.go.jp/saikousai/iinkai/izikankei/) によ り作成。 2.判決数、和解数及びその比率は医事関係訴訟事件の終局区分別既済件数及びその割合である。 3.認容率は医事関係訴訟事件(第一審)のもの。地裁民事部通常訴訟は第一審のもの、認容率には医事関係訴 訟事件も含む。 表 医事関係訴訟に関する統計表
うような手術方法の開発、あるいは新薬の治験、難病の告知など医療の在り方に変化を生じてき た。そのため、従来からの医療の在り方を根本的に見直す必要が生じたのである。 確かに、難病告知だけを考えてみても、かつてのがん告知に見られるように、国民一般ががん を不治の病と認識していた20世紀にあっては、告知は患者の生存に対する意欲を失わせ、治療上 のマイナスをもたらす可能性があった。そこで、医師は類似の病名を告げたり、異なった病名を 告げるなどして、がんの事実を告知せず、治療に専念した。しかし、20世紀末から21世紀初頭に かけて、がんの早期発見、治療方法の多様化などに進展が見られ、医学知識の一般への普及・浸 透とあいまって、がんは不治の病ではなく、早期発見できれば完治が可能な病であることが知ら れるようになった。そのため、真実を告知することの方が、医師の治療方針に患者の理解が得ら れ、また、患者も積極的に治療に専念する意欲を出すなど、時代的変化も大きい。 このような医学の発達進歩を背景に、この報告書は、従来からの医療を様々な角度から検討し、 21世紀に向けて医療のあり方を示唆するものとして注目を集めたのである。 ところで、医療専門家の間で、ムンテラ(ムントテラピー=Mundtherapie)という言葉が使 われることがある。患者を適当に言いくるめるという意味で使われてきたといわれている。その ためムンテラは口先の芸として、真摯な治療にいそしむ多くの医療従事者から侮蔑的に見られる 傾向があったのではないだろうか。 本来、ムンテラとは、「医師が患者にわかりやすく説明し、病状・診断・治療方針・予後など を患者に理解させ、納得してもらうための『口頭での治療』」5という意味のはずであった。そう だとすると、インフォームド・コンセントが要求する「説明と同意」と本来のムントテラピーと はほとんど同義ではないかと思えてくる。ただ、ムントテラピー概念には患者の同意(明示又は 黙示)は含まれていない点が異なるだけのようにも見える。 しかし、ムントテラピーが患者を言いくるめる口先の芸であるとの印象がぬぐえない上に、「説 明と同意」がこれまで行われたムントテラピーとあまり違いがないものと考え、その本質を理解 しないままの医療関係者も居るものと思われるので、ムントテラピーとインフォームド・コンセ ント又は「説明と同意」とは異なるものとして扱っていく方が良いと考える。 このように、近年の医療の急速な進歩発展から、医師と患者の関係は変化せざるをえなくなっ た。すなわち、医療技術の発達が治療のためとはいえ、複雑な人体への侵襲を加速させ、そのた め患者に十分な説明を行い、例えば、外科的手術の際の「同意書」のように、患者に納得しても らい同意してもらう必要が生じてきた。人体への侵襲の適法性の問題と捉えることもできる。一 方で患者は、医師の説明に基づく数ある治療方法の中で、どの方法を採るか、自己決定の意識が 強くなり、医師に対して、特定の医療方法を選択し、同意をする権利――それは人格権に基づく ものであるが――自己決定権が認識されるようになってきた。このような背景には医療技術の高 度化だけでなく、高齢化の影響も強い。そして、21世紀に向けての医療のあり方を示すものとい えよう。 このような背景のもとに、近年、我が国でもインフォームド・コンセント6が認識され、議論 されるようになってきた。そして、厚生白書に取り上げられるようになったのは、前掲報告書と 同年の平成2年である。それ以後、我が国にふさわしいインフォームド・コンセント=「説明と 同意」が模索され、ついに医療法の改正につながった。
ちなみに、医療法第1条の2第1項(改正は平成13年法律第84号)は次のように医療の理念を 高らかに謳い上げ、同第2項(改正は平成9年法律第124号、同18年法律第84号)で医療を受け る者の意向尊重を謳い、医療は病院等で効率的に提供されなければならないと次のように規定し た。 第1条の2【医療の理念、医療提供施設】①医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基 づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療 のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なもので なければならない。 ②医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十 分尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する 施設(省略)、医療を受ける者の居宅(省略)において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、 かつ、福祉サービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。 また、同法第1条の4第1項(改正は平成13年法律第153号)は次のように医師等の責務につ いて規定し、同第2項(改正は平成9年法律第125号、同13年法律第153号)は医師の説明と患者 の理解を得るよう務めることを、同第3項(改正は平成18年法律第84号)は必要に応じ転医措置 を講ずることをそれぞれ規定している。 第1条の4【医師等の責務】①医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第 1条の2に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう 努めなければならない。 ②医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切 な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。 ③医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分 担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、 その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供 施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその 他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 以上のように、現行医療法は幾たびかの改正を経ながら、医師による説明、患者の同意、必要 あるときの他の医療施設への紹介等を規定した。しかし、医療法上、これらは努力目標であって、 違反に対しては罰則の適用はなく、いわば責務に過ぎない。「適切な説明を行うこと」「医療を受 ける者の同意を得ること」「必要に応じ他の医療機関に紹介すること」は理念規定であって、こ れらに違反しても、同法を根拠に直ちに民事責任が発生するとは考えにくい。そこで、民事責任 発生の根拠は別に求めなくてはならないことになる。
3.医師の説明義務と患者の同意の意義 医療過誤訴訟は、かつては被害を被ったとする患者側が、医療を施した医師及び医療施設側の 不法行為責任を追及するものが多かったが、近時、医療に伴う診療契約上の債務不履行責任を追 及するものの方が多くなっているといわれている。請求権競合説を認める判例の立場からは、主 位的請求として不法行為責任を、予備的請求として債務不履行責任を主張してもよいし、又はそ の逆で主位的請求を債務不履行責任で、予備的請求を不法行為責任で主張してもよい。両請求権 の違いは、基本的に立証責任の在り方にあるのであり7、不法行為構成の場合は被害者である患 者側が加害者である医療施設側の故意・過失を証明する責任を負う。しかし、現代の医療は複雑・ 高度であり、医師の過失を証明することは困難な場合が少なくない。一方、債務不履行構成の場 合は債務者8たる医師及び医療施設側が帰責事由の無かったことを証明しなければならないこと から、債権者=患者側に有利であるとの指摘もなされてきた9。 しかし、不法行為構成をとっても債務不履行構成をとっても、医療過誤訴訟においては変わり がないとの考え方が生じてきた。すなわち、医師の債務の履行が不完全であったという請求原因 自体はいずれの構成の場合も患者側が証明しなければならない事実である。そうすると履行され るべき完全な債務の内容が特定されていなければならないことになり、それは患者側が証明しな ければならない。 そもそも、診療契約は医師及び医療施設が臨床医学上の知見・技術に基づき、速やかに患者の 疾病の原因を突き止め、患者の苦痛を治癒・改善すべき最善の治療行為を行う事務処理を目的と する契約である。契約類型としては準委任契約10 であるとされている。したがって、特約の無い 限り、疾病や傷害の良好な治癒結果の達成までを債務の目的とするものではない。診療行為の結 果、治癒に至らず死亡した場合や急性疾患が慢性に移行して症状は軽減したけれども、病自体が 完全に治癒したとはいえないような外形的事実から、直ちに不完全履行が推認されるわけではな い。 医師側の負う注意義務は、民法644条により、善良な管理者の注意義務である。医師側は善良 な管理者の注意義務をもって診療を行うという抽象的なものである。帰責事由が無かったことの 証明責任が医師側にあるとしても、患者側は履行されるべき債務の内容を特定し、善管注意義務 の具体的な特定をしなければならない。そして、それに対する医師側の違反の事実(不完全履行 の存在)を証明しなければならないという難事業が待ち構えることになる。そうであるなら、医 療過誤を不法行為構成にしても、債務不履行構成にしても、診療行為の特殊性から、あまり変わ らないということができる。今日では「最高裁も、債務不履行構成と不法行為構成のいずれで請 求しているかで区別していない。」11 のである。 医師の診療行為には、身体に対する侵襲を伴うものが多い。これらの行為が適法である旨の医 療法上の明示の規定はないのであるから、その適法性は民法に求められる。違法性阻却の問題で ある。あるいは、身体への侵襲に対する患者の同意があれば、一般規定(信義則、権利の濫用、 公序則等)に反しない限り、違法性が阻却され、身体に対する侵襲行為は適法なものとなる。こ のような患者の同意の前提として、患者は医師がどのような治療を進めようとしているのか、他 にもっと良い方法はないのか、予後はどうなるのか、より専門性を求めて転院の必要はないのか といったことを知らされなければならない。すなわち、医師の説明義務の根拠がここにある。
このような学説に対し、近時、「患者には人格権の一内容として自らの生命、身体及び健康に ついて自ら決めることができるという自己決定権が認められており、その実現を保障するために 医師による説明が必要である」12 という理論が主流になってきた。自己決定権説である。しかし、 この考え方については素朴な疑問も湧いてくる。 そもそも、自己の生命を健康に保持することは、生きとし生けるものすべての最高命題ではな いのか。自己決定権はその範囲で行使されなければならないはずのものであろう。患者は医師の 説明を間違いなく理解する能力を持たなければ、正しい自己決定はできない。複雑な人体の構造、 生命の神秘に関する学理や専門知識、専門技術を持たない一般患者に、完全な説明はかなり難し い作業である。最近は医療に関する情報が巷に氾濫しており、患者側は容易にその情報を知るこ とができるようになってきた。医学の基礎的知識の無い一般市民が、巷に氾濫する医療に関する 情報を信じて、医師の進めようとする医療を信頼しなくなるというような危険すら生じてくる。 また、医学の基本的素養の無い一般市民に、誤解なくすべてを知らしめることは医師にとって難 しい仕事であろう。情報の受け手である一般市民は、一応の理解をもって医師の専門的な説明を 判断し、自己決定権を行使するとすれば、医療上、取るべきではない方向へ決断してしまうこと も生じ得るのではないだろうか。 医師は、すべてを患者に説明し、患者の自己決定権を間違いなく行使させることができるので あろうか。患者の理解が難しい医療処置の方法が複数ある場合など、説明義務違反を問われない ためには多くの処置を羅列し、その中から最も患者に合う方法を選ばせることなど、医師の専門 性放棄ではないかとさえ思えてくる。 医師は、現実に治療方針を定め、いろいろな処置があるけれども、どの処置が患者の病状に合 うかを予後も含め決断するであろう。その場合には患者の希望も聴取したうえで、最善の方法を 提案するものと期待してよいのではないか。医師は患者の自己決定権を行使する支えとしての助 言者ではなく、医師こそプロフェッションとしての指導性を発揮すべき立場ではないのか。この ように考えると自己決定権説には大いなる疑問が生じるのである。 では、説明義務の法的根拠は何か。近藤・石川「医師の説明義務」3頁は「結論からいえば、 端的に診療契約における債務の一内容として医師の説明義務が生じると解すれば足りる」13とさ れており、賛成である。筆者も診療契約は準委任契約であり、医師の説明義務は準委任契約に由 来する債務の内容の一つとして、債務者(医師)に生じる義務の一種であると考える。 もし患者が医師の医療措置を信頼することができないのであれば、転医すればよい。それは診療 契約の将来に向かっての解除14となり、準委任契約上、解除はいつでもできると規定されている (民法651条1項)。 もし、医師の行おうとする医療行為に疑問があるのであれば、医師に尋ねたらよい。医師はそ れに善良なる管理者の注意義務(民法644条)をもって応える義務がある。それは準委任契約上、 受任者(医師)は委任者(患者)の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し なければならないからである(民法645条)。
4.最高裁判決の流れ 医師の説明義務違反を理由に患者側が医師ないし医療機関に損害賠償を求めた事件の最高裁判 決は、最高裁昭和56年6月19日第二小法廷判決をもって嚆矢とするとみてよいのではないだろう か。その後の判決(11判例)については、後掲【資料2】「医師の説明義務違反による最高裁判決」 で紹介するところであるが、そのほとんどは重要判例と思われるので、これらを取上げ、若干の 検討を加えたい。 【資料2】1.最高裁昭和56年6月19日第二小法廷判決、上告棄却(判例時報1011号54頁、判例 タイムズ447号78頁) 「頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師といわゆる説明義務の範囲」 【判決要旨】 「頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者に対して開頭手術を行う医師は、患者又はその法定代理 人に対し、右手術の内容及びこれに伴う危険性を説明する義務を負うが、そのほかに、患者の現 症状とその原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について 不確定要素がある場合にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発現した場合の準備状況 等についてまで説明する義務を負うものではない。」 (検討) 原審(高松高判昭和55年10月27日 未登載)は説明義務違反を認めていないので、上告棄却に より損害賠償請求は認められなかった。 本件は10歳の子供が自転車で遊んでいるうちに誤って転倒し、左側頭部を打ち、頭蓋骨陥没骨 折のため骨片が脳に刺入している疑いがあるため開頭手術をしたところ、出血多量による心不全 で死亡した事件である。医師の説明義務を認め、その違反があったときは損害賠償責任が発生す ることを明らかにし、説明義務の範囲を、現状と原因、手術による改善の程度、手術しない場合 の具体的予後など不確定要素の下では、その基礎となる症状把握の程度やその要素が発現した場 合の準備状況等まで説明義務は及ばないとした。当時としては、妥当な判断であったと思われる が、説明義務の範囲については患者側にとって厳しい判断と受け取られよう。 【資料2】4.最高裁平成7年4月25日第三小法廷判決、上告棄却(民集49巻4号1163頁) 「胆のうがんの疑いがあると診断した医師が患者にその旨を説明しなかったことが診療契 約上の債務不履行に当たらないとされた事例」 【判決要旨】 「1.医師が、患者に胆のうの進行がんの疑いがあり入院の上精密な検査を要すると診断したの に、患者に与える精神的打撃と治療への悪影響を考慮して手術の必要な重度の胆石症であると説 明し、入院の同意を得ていた場合に、患者が初診でその性格等も不明であり、当時医師の間では がんについては患者に対し真実と異なる病名を告げるのが一般的であって、患者が医師に相談せ ずに入院を中止して来院しなくなったなど判示の事実関係の下においては、医師が患者に対して 胆のうがんの疑いがあると説明しなかったことを診療契約上の債務不履行に当たるということは できない。
2.患者が医師に相談せずに入院を中止したため家族に対する説明の機会を失ったなど判示の 事実関係の下においては、医師が患者の夫に対して胆のうがんの疑いがあると説明しなかったこ とを診療契約上の債務不履行に当たるということはできない。」(第1審・原審とも請求棄却) (検討) 本件はがん告知が患者に大きな精神的打撃を与えることが多いと考えられた頃の事例といえ る。第1審(名古屋地判平成元年5月29日)、原審(名古屋高判平成2年10月31日)共に、損害 賠償請求が認められなかった。最高裁も棄却判決である。 患者は昭和58年1月に上腹部痛のためA日赤病院の診療を受けたが、そのとき、放射線科の医 師は胆のうがんと診断。しかし、消化器内科の医師は治療に悪影響を及ぼすと考えて、本人には 胆石がひどく早急に手術をする必要があると説明し、がんの事実を説明せず、がんについては家 族に告知し、治療方針を説明する予定であった。ところが患者はシンガポールへ旅行の予定があ るとして、医師の入院指示を拒否、そこで医師は帰国後の翌月11日以降速やかに入院の手続きを 取るよう説得し、16日の来院を予約させた。しかし、患者は来院せず、同年6月、病状が悪化し てBがんセンターに入院、12月に死亡した。患者に対する説明義務は、当時の環境では真実の告 知が治療に悪影響を及ぼすことが懸念されることから、告知をしなかったことは医師としてはや むを得ないことという点、患者をして病気が軽いと誤信させ、入院の必要を強く感じさせなかっ たのではないかという点も患者が入院予約をしながら来院しなかったことから、判決が医師に配 慮が欠けていたのではないとした点については容易に承認できる。また、家族に対する真の病名 の告知についても、患者の家族関係が不明で治療に協力してもらえる見込みも不明であったこと から、結果として家族への説明がなかった事実のみをもって、医師の責めということはできない としている点も首肯できる。 本件は、いわば患者のわがままががん治療の手遅れを招いたとされても仕方がない事件ではな いか。がんの本人告知が当たり前になった今日では、生じがたい事件であったといえよう。 次に【資料2】8.最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決、上告棄却(判例タイムズ1106号 87頁)「医師が末期がんの患者の家族に病状等を告知しなかったことが診療契約に付随する義務 に違反するとされた事例」もがん告知をしなかった事案である。 この事件で第三小法廷は判決要旨「患者が末期がんにり患し余命が限られていると診断したが 患者本人にはその旨を告知すべきでないと判断した医師及び同患者の担当を引き継いだ医師らが 患者の家族に対して病状等を告知しなかったことは、容易に連絡を取ることができ、かつ、告 知に適した患者の家族がいたなどの判示の事情の下においては診療契約に付随する義務に違反す る。(反対意見〈原審に差戻し〉がある。)」とした。診療契約に付随する義務の根拠は信義則に 求められるべきなので、「診療契約に付随する信義則上の義務」ということになろう。第1審は 債務不履行も不法行為もないとして請求棄却。原審は患者に対する告知の適否を判断する義務が ありこれを怠ったとして債務不履行又は不法行為による慰謝料120万円を認容した。最高裁が上 告を棄却したので、慰謝料120万円が認められたことになる。 契約に付随する義務は、信義則を根拠に説明されざるを得ないが、信義則が一般規定であるこ とから、出来れば他の理論構成が望ましいと考えるので、この付随義務説には魅力を感じつつも、 にわかに賛成しかねるのである。
【資料2】6.最高裁平成12年2月29日第3小法廷判決、棄却(民集54巻2号582頁、判例時報 1710号97頁、判例タイムズ965号83頁)第1審は東京地裁平成9年3月12日判決(判タ964号 82頁)、原審は東京高裁平成10年2月9日(判時1629号34頁、判タ965号83頁) 「エホバの証人輸血損害賠償請求事件」 【判決要旨】 「医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意 思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待し て入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを 認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っ ていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下において は、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによっ て被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。」 (検討) 第1審は輸血は社会的に正当行為であるとして医師の違法性を否定して請求棄却。原審は全事 情を勘案し、慰謝料50万円、弁護士費用5万円を認容した。 本件は、当時新聞を賑わした事件であるが、エホバの証人の信者である患者は平成4年3月頃、 訴外病院で悪性の肝臓血管腫に罹患していることを告げられ「手術は輸血なしではできません」 といわれて転医を示唆された。そのため被告の一人であるT大学病院の医師の紹介を受けて同病 院に入院し、肝臓右葉付近にある腫瘍の摘出手術を主たる内容とする診療契約を締結し、手術を 受けたが、手術中の出血多量のため、医師らは救命のための輸血を行った。患者は、輸血しない という特約に反して履行補助者である医師らが輸血をした債務不履行に基づく損害賠償を求め、 また、医師らがいかなる事態になっても輸血をしないというかのような振る舞いで、患者に手術 を受けさせ、本件輸血をしたことで患者の自己決定権を犯した不法行為に基づき、損害賠償を訴 求した。 いったい、宗教的信条からといえども、明らかに人の生命にかかわるような場面で、医学上常 識である措置を拒否するような重大決断が医療を受ける患者側に許されるのかどうか。もし、こ れが許されるとしたら、自殺願望のある人の居た場合など、医師は消極ではあるが自殺をほう助 する手段に利用されかねないと心配される。したがって、第1審は医師が患者との間で締結する 診療契約において、輸血以外に救命方法がない事態が生じる可能性のある手術を行う場合に「い かなる事態になっても輸血をしない」との特約を合意することは、公序良俗に反して無効である (判タ964号91頁)として、患者側の損害賠償請求を棄却した。 この点については、個人の人格権に基づく自己決定権の行使といえども、まったく制限がない わけではなく、少なくとも公序良俗に反したり、信義誠実の原則に反するような、又は権利の濫 用に当たるような行使は許されるべきではないと考える。第1審は輸血しないという特約を公序 則違反として無効と判断したが、この点は積極に評価されるべきではないだろうか。 原審は特約の有・無効については判断せず、「できる限り輸血をしないこととすることが、輸 血以外に救命手段がない事態になった場合には輸血する治療方針、すなわち、相対的無輸血の治 療方針を採用していながら、患者に対し、この治療方針の説明をしなかった。」と認定し、「本件
のような手術を行うことについては、患者の同意が必要であり、医師がその同意を得るについて は、患者がその判断をする上で必要な情報を開示して患者に説明すべきものである。もちろん、 これは一般論であり、緊急患者のような場合には、推定的同意の法理によるべきであるし、その 説明の内容は、具体的な患者に則し、医師の資格をもつ者に一般的に要求される注意義務を基準 として判断されるべきものである。」(判時1629号39頁、判タ965号88頁)と説示して、患者の同 意を得るための説明義務の存在とその注意義務の基準を明示した。そして、担当医師Y1は「一 応相対的無輸血の方針を説明していると認められるが、患者がこれに納得せず、絶対的無輸血に 固執していることを認識した以上、そのことを他の担当医師特に責任者であるY2に告げ、担当 医師としての治療方針を統一すべき義務を負い、その内容が患者の固執しているところと一致し なければ、自ら又はY2を通じて、患者に説明してなおT病院における入院治療を継続するか否 か特に本件手術を受けるかどうかの選択の機会を与えるべきであった。」以上から「Y1-3ら3 名は、輸血以外に救命手段がない事態になった場合には輸血する治療方針、すなわち、相対的無 輸血の治療方針の説明を採用していながら、患者に対し、この治療方針の説明を怠ったものであ る。」(前出判時40頁、判タ90頁)として、Y1-3の説明義務違反を認定している。 損害については、原審は患者が侵害されたのは純粋に精神的なものであるとして、損害額は患 者の被った精神損害額50万円、弁護士費用5万円、合計慰謝料55万円を認容した。妥当と考える。 最高裁判決は原審判断を是とし、説明を怠った点で患者の人格権を侵害したものと認め、無輸血 特約の有・無効には触れていない点に注意を要する。 【資料2】7.最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決、破棄差戻(民集55巻6号1154頁、判例 時報1769号56頁) 「乳がんの手術に当たり、当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師 の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務があるとされた事例」 【判決要旨】 「乳がんの手術に当たり、当時医療水準として確立していた胸筋温存乳房切除術を採用した医 師が、未確立であった乳房温存療法を実施している医療機関も少なくなく、相当数の実施例が あって、乳房温存療法を実施した医師の間では積極的な評価もされていること、当該患者の乳が んについて乳房温存療法の適応可能性のあること及び当該患者が乳房温存療法の自己への適応の 有無、実施可能性について強い関心を有することを知っていたなど判示の事実関係の下において は、当該医師には、当該患者に対し、その乳がんについて乳房温存療法の適応可能性のあること 及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在をその知る範囲で説明すべき診療契約上 の義務がある。」 (検討) 本件は、乳がんの専門医である開業医Y医師に、乳房のふくらみのすべてを取る胸筋温存乳房 切除術を受けた患者Xが、未確立であった腫りゅうとその周辺のみを取る乳房温存療法について、 Y医師の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務を認め、説明しなかったことにつき、説明義務 違反として原審判決を破棄し、差戻した事件である。 第1審大阪地裁平成8年5月29日判決(判時1594号125頁)は乳房を取ってしまうことはクオ
リティ・オブ・ライフにかかわることであり、未確立のものでも他に選択可能な療法があり、一 般医師にも広く知れ渡って有効性、安定性が確立しているものなら、説明義務の対象に包含され るとして、説明義務違反を認定し、慰謝料200万円、弁護士費用50万円、合計250万円を認容した。 原審大阪高裁平成9年9月19日判決(判時1635号69頁)は第1審と同様に乳房温存療法について 説明義務があると説示したものの、消極的な説明であるにせよY医師は言及しているところから、 説明義務は一応尽くされているとして、一審判断中Y医師敗訴部分を取消し、患者Xの請求を棄 却した。ただ、かなり普及している様相を見せているといえども、未確立な療法に関する不告知 の慰謝料額としては、高額過ぎると考える。 本件最高裁判決は乳房温存療法が未確立であったことを認めながらも、医師の間では積極的な 評価もされていることから、乳房温存療法の適応可能性のあること、実施している医療機関の名 称・所在等知る範囲で説明すべき義務があると判示、破棄差戻となったものである。 判決の認定どおり、乳房温存療法がよく知られ実施している医療機関も多いとなれば、なぜ「未 確立」の療法なのかとの疑問がないわけではないが、積極的な評価もあるというのであるから、 Y医師は患者Xに説明すべきであったとされたのであろう。 なお、差戻審大阪高裁平成14年9月26日判決、変更、上告受理申立(判例タイムズ1114号240 頁)は乳がんの手術に当たり、当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師の 知る範囲で説明すべき診療契約上の義務があると説示して、慰謝料100万円、弁護士費用20万円、 合計120万円を認容した。妥当な慰謝料額である。 【資料2】9.最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決、破棄差戻(判例時報1912号16頁、判例 タイムズ1192号249頁) 「帝王切開術による分娩を強く希望していた夫婦に経膣分娩を勧めた医師の説明が同夫婦 に対して経膣分娩の場合の危険性を理解した上で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断 する機会を与えるべき義務を尽くしたものとはいえないとされた事例」 【判決要旨】 「胎位が骨盤位であることなどから帝王切開術による分娩を強く希望する旨を担当医師に伝え ていた夫婦が、担当医師の説明により経膣分娩を受け入れたところ、経膣分娩により出生した子 が分娩後間もなく死亡した場合につき、帝王切開術を希望する旨の申出には医学的知見に照らし 相応の理由があったこと、担当医師は、一般的な経膣分娩の危険性について一応説明はしたもの の、胎児の最新の状態と経膣分娩の選択理由を十分に説明しなかった上、分娩中に何か起こった らすぐにでも帝王切開術に移れるから心配はないなどと異常事態が生じた場合の経膣分娩から帝 王切開術への移行について誤解を与えるような説明をしたことなど判示の事情の下においては、 担当医師の説明は、上記夫婦に対し、胎児の最新の状態を認識し、経膣分娩の場合の危険性を具 体的に理解した上で、担当医師の下で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与え るべき義務を尽くしたものとはいえない。」 (検討) 本件は、初めての妊娠が確認され、通院していた病院で、胎位が骨盤位(いわゆる逆子)であ ることが判明したため、妊婦Xらが帝王切開術による分娩を再三にわたって強く希望していたに
もかかわらず、医師Y1は胎児は殿位(分娩時には臀部が先行して産道を通過する状態)であっ て経膣分娩が可能であると判断し、経膣分娩による方針をXらに伝えるとともに、もし、分娩中 に問題が生ずれば、帝王切開術にいつでも移行することができると説明した。ところが、出産時 に、当初の診断と異なり、胎児が副殿位(両下肢のひざが屈し、両側のかかとが臀部に接して先 行する状態)であったため難産となり、胎児の心拍数が急激に低下した。Y1は帝王切開術に移 行するのに時間がかかることから、そのまま骨盤位牽出術を続行した結果、新生児は仮死状態で 出生し、約4時間後に死亡した。原審(東京高判平成14年3月19日 未登載)はY1の説明は経 膣分娩の危険性や対応方法に触れているし、Xらが胎児の骨盤位の場合の分娩に関する一応の知 識を有しているとして、Y1に説明義務違反は認められないとして、Xらの請求を棄却したため、 Xらが上告し、破棄差戻判決を得た事件である。Xらが強く、しかも再三にわたって帝王切開術 を希望しているが、帝王切開術にはそれなりの危険があり、経膣分娩が望ましいことはいうまで もない。しかし、Xらが初産であり、当初から逆子出産に対する不安は大きく、医師側は不安を 払拭できるような丁寧な説明が必要であったのではないか。 医師は身体的侵襲を行うために、患者の同意を必要とするとはいえ、治療には患者の選択に拘 束されて、自己が不適切と考える医療を行う義務があるわけではない。もし、説明を尽くしても 患者の同意を得ることができないなら、患者が希望する医療を行う病院に転院することを勧める べきであった。その意味で、本件は転医を勧めなかった点にも説明義務違反が有ったのではない か。判旨は医師が「一般的な経膣分娩の危険性について一応の説明はしたものの、胎児の最新の 状態と経膣分娩の選択理由を十分に説明しなかった」と認定して医師Y1の説明は説明義務を尽 くしたものではないとしている。 【資料2】10.最高裁平成18年10月27日第二小法廷判決、一部上告棄却、一部破棄差戻(判例時 報1951号59頁、判例タイムズ1225号220頁) 「未破裂脳動脈りゅうの存在が確認された患者がコイルそく栓術を受けたところ術中にコ イルがりゅう外に逸脱するなどして脳こうそくが生じ死亡した場合において担当医師に説明 義務違反がないとした原審の判断に違法があるとされた事例」 【判決要旨】 「未破裂脳動脈りゅうの存在が確認された患者がコイルそく栓術を受けたところ、術中にコイ ルがりゅう外に逸脱するなどして脳こうそくが生じ、死亡した場合において、①その治療が予防 的なものであったこと、②医療水準として確立していた療法としては、当時、開頭手術とコイル そく栓術が存在していたこと、③担当医師は、コイルそく栓術の術中に動脈りゅうが破裂した場 合には救命が困難であり、このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるということな どの知見を有していたことがうかがわれること、④患者が開頭手術を選択した後の手術予定日の 前々日のカンファレンスにおいて、開頭手術はかなり困難であることが新たに判明したことなど 判示の事実関係の下では、上記カンファレンスの結果に基づき、その翌日にコイルそく栓術を実 施した担当医師が、同手術を実施することの承諾を患者から得るに当たって、上記の知見や上記 カンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点の具体的内容についての説明をした上で、開頭 手術とコイルそく栓術のいずれを選択するのか、いずれの手術も受けずに保存的に経過を見るこ
ととするかを熟慮する機会を改めて与えたか否かなどの点を確定することなく、担当医師に説明 義務違反がないとした原審の判断には、違法がある。」 (検討) 本件は、未破裂の脳動脈りゅうのある患者がカテーテルで動脈りゅう内にコイルを挿入して留 置し、動脈りゅう内をそく栓するコイルそく栓術を受けたところ、手術中にコイルが動脈りゅう 外に逸脱して脳こうそくが生じ、死亡した事件である。一般に未破裂脳動脈りゅうに対しては、 保存的に経過を見るか治療をするかの選択肢があり、治療をする場合には開頭してクリップで動 脈りゅうを閉じ、血液の流れを止めるか、コイルを入れてりゅう内をそく栓するかの選択肢があ るとされる。担当医師は患者に本件手術の危険性を十分説明し、患者に1か月をかけて熟慮させ、 患者が開頭手術を受ける旨の希望を聞き、開頭手術が実施されることになったが、手術の前々日 になって、開頭手術が困難な状態であることが判明した。そこで急遽、コイルそく栓術を試して みようということになって、翌日、患者に開頭手術が危険なのでコイルそく栓術を試すという話 がカンファレンスであったなど、抽象的なレベルの説明をしたところ、30分ほどで患者の同意を 得た。なお、担当医師は死亡率は2~3%とされていることの説明は行っていた。翌日、コイル そく栓術が行われたが、コイルの一部が動脈りゅう外に逸脱して血流をそく栓することができな い事態が生じたために、コイルを回収しようとしたがうまく行かず、緊急開頭手術を行った。し かし、コイルの一部を除去できず、患者は逸脱コイルにより脳こうそくを起こして脳死を経て死 亡するに至った。 判決は次のようにいう。「四〈2〉イ ……開頭手術では、治療中に神経等を損傷する可能性 があるが、治療中に動脈りゅうが破裂した場合にはコイルそく栓術の場合よりも対処しやすいの に対して、コイルそく栓術では、身体に加わる侵襲が少なく開頭手術のように治療中に神経等を 損傷する可能性も少ないが、動脈のそく栓が生じて脳こうそくを発生させる場合があるほか、動 脈りゅうが破裂した場合には救命が困難であるという問題もあり、このような場合にはいずれに せよ開頭手術が必要になるという知見を有していたことがうかがわれ、また、そのような知見は、 開頭手術やコイルそく栓術を実施していた本件病院の担当医師らが当然に有すべき知見であった というべきであるから、……分かりやすく説明する義務があったというべきである。 ウ ……カンファレンスにおいて……開頭手術はかなり困難であることが新たに判明したとい うのであるから、本件病院の担当医師らは、患者がこの点をも踏まえて開頭手術の危険性とコイ ルそく栓術の危険性を比較検討できるように、患者に対して、上記のとおりカンファレンスで判 明した開頭手術に伴う問題点について具体的に説明する義務があったというべきである。 エ 以上から……患者に対し、上記イ及びウの説明をした上で、開頭手術とコイルそく栓術の いずれを選択するのか、いずれの手術も受けずに保存的に経過を見ることとするのかを熟慮する 機会を改めて与える必要があったというべきである。」原審は以上の点について確定することな く医師らの説明義務違反はないと判断したと判示し、原審を破棄差戻した。 本件の事例は、手術をするかしないか、するとしたらどの方法を選ぶかという判断を患者に求 めるものであり、手術の難易度や死亡率のはっきりしている場合であり、一般市民でも判断しや すいケースではないだろうか。しかし、疾病は常にこのような明確な判断を素人に許さない。医 師の説明を聞いても、なお手技上の問題も加わり、複雑で判断が付かず、治療方針についての同
意や自己決定権の行使が難しい場合も多いと思われる。その意味で、本件判決は医師にとって極 めて厳しいものといえる。 結局は患者自身が信頼できる医師に処置を任せることになるという抽象的同意をせざるを得な いのではないかと思われる。したがって、医師のプロフェッションとしての責務は真に重いもの と考えられる。 【資料2】11.最高裁平成20年4月24日第一小法廷判決、破棄差戻(民集62巻5号1178頁、判例 時報2008号86頁). 「1.チーム医療として手術が行われる場合にチーム医療の総責任者が患者やその家族に 対してする手術についての説明に関して負う義務。 2.チーム医療として手術が行われるに際し、患者やその家族に対してする手術につい ての説明を主治医にゆだねたチーム医療の総責任者が、当該主治医の説明が不十分なもので あっても説明義務違反の不法行為責任を負わない場合。」 【判決要旨】 「1.チーム医療として手術が行われる場合、チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその 家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき 義務を有する。 2.チーム医療として手術が行われ、チーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手 術についての説明を主治医にゆだねた場合において、当該主治医が説明をするのに十分な知識、 経験を有し、同総責任者が必要に応じて当該主治医を指導・監督していたときには、当該主治医 の上記説明が不十分なものであったとしても、同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わ ない。」(第1審は請求棄却、原審はYらの説明義務違反を認め、民法709条に基づきXらの請求 を一部認容している。) (検討) 本件はチーム医療の責任者に関する最高裁の初判断といわれている(判時2008号88頁の解説五 参照)。事案は大動脈弁閉鎖不全の患者Aが、手術を受ける決心をし、本件大学病院の心臓外科 に入院した。医学部心臓外科助手(病院講師)Bが主治医となり、術前検査が行われ、同心臓外 科は患者Aが大動脈弁置換術の手術に適応していることを確認した。B医師は患者A及びAの家 族Xに対し翌日行われる手術の必要性、内容、危険性等について説明した。翌日の手術は同心臓 外科の教授Yが主たる術者になって行われたが、患者Aは手術翌日死亡した。 第1審(大阪地堺支判平成16年11月19日 未登載)は教授Yの過失ないし説明義務違反を否定 し請求を棄却した。原審(大阪高判平成18年6月8日 未登載)は「本件病院におけるチーム医 療の総責任者であり、かつ、実際に本件手術を執刀することになったYには、Aないしその家族 であるXらに対し、Aの症状が重症であり、かつ、Aの大動脈壁が脆弱である可能性も相当程度 あるため、場合によっては重度の出血が起こり、バイパス手術の選択を含めた深刻な事態が起こ る可能性もあり得ることを説明すべき義務があったというべきである。」(判時2008号87頁解説三 より引用)と判示して、教授Yの説明義務違反を認め、Xらの請求の一部を認容した。これに対 して、教授Yのみが上告及び上告受理申し立てを行った。第一小法廷は上告受理決定をし、上記
判決要旨のような理由により、原判決中のY敗訴部分を破棄し、本件を原審に差し戻した。 そもそもチーム医療の総責任者の責任は、他の関係者の適切な行動を信じて行為をする限り、 不測の事態が生じても法的責任を問われないとする見解、すなわち「少し注意すれば容易に気づ きえた補助者の単純ミス等の場合は格別、医師も他の関係者の適切な行動を信頼して行為する限 り、不測の事態が生じても、法的責任を問われない。」15 がある一方で、チーム全体を統括する医 師に、その代表としての責任が集中するとする見解、すなわち「この中の一医師に不手際があっ て、診療成果の不達成という結果に到達した場合にあっては、まず、各パートの責任を明確かつ 独立したものとして処理してよいかという問題の検討に迫られ、……民事損害賠償責任の成否に 関しては、全体としての診療について、どの主体に最終的な責任を認めるのが適切か否かの考察 が求められ、ここではむしろチーム全体を総括する医師に、その代表としての責任が集中すると 見るのが、一般の医療との差異として強調されるべものであろう。」16もある。 本件最高裁判決は前者の見解を採用したものとみられる。主治医の方が総責任者より患者の状 態をよく知る立場にあるのが普通であるし、患者との接触も頻繁である。説明義務にだけ問題を 絞って考えれば、その主治医に説明義務を課すだけで十分ではないか。むしろ患者の特殊な個性 まで知りえない総責任者に説明義務を課すことは、不十分な説明を呼び込む危険すらあると思わ れる。したがって、この最高裁初判断に賛成である。 5.むすびに代えて――平成20年代の下級審判決 既に本稿「1.問題の所在」で述べたが、医療訴訟は漸減傾向にある。医師の説明義務違反に よる損害賠償訴訟も同様の傾向にあるかどうかについてはデータを得られなかったが、平成20年 以降今日までの7年間、判例集等に登載された判決を見ると、文末【資料3】「説明義務違反に よる損害賠償請求事件判決」にあるとおり18件である。このうち1件は、前節で述べた最高裁平 成20年4月24日判決なので、下級審判例としては17件を容易に見出すことができる。認容判決が 13件、棄却判決が4件であり、公表された下級審判決では、説明義務違反の認容率が高い。 一方、認容された損害額を見ると、ほとんどが慰謝料のみを認容しているに過ぎない。すなわ ち、医療事故が生じても、医師の説明義務違反と相当因果関係のある損害は精神損害(民法710条) であって、財産損害に及ばないのである。前述【資料3】の18、東京高裁平成26年9月18日は術 後白内障治療において、レザーによる後嚢切開術を施術したところ、高価な眼内レンズが破損し たケースであった。東京高裁は医師の説明義務違反と患者の自己決定権侵害を認めながら、高価 な眼内レンズの損害(積極財産損害)は認めなかった。もちろん、逸失利益など、消極財産損害 も認められない。すなわち、説明義務違反や患者の自己決定権侵害と財産損害との間の因果関係 の相当性を認めないのである。筆者も説明義務違反や患者の同意権侵害のみの場合(医療過誤を 伴わない場合)には財産損害との間に法的因果関係は認められないと考える。自然的(事実的) 因果関係が認められたとしても、医師の説明義務違反に対して生じるかもしれない財産損害を認 めることは、むしろ衡平を欠き、賠償責任制度の理念に反すると考える。 今後、一般市民の権利意識は一層高まるであろうし、医学の発達による高度な医療の施術が行 われるであろう。医師は益々多忙となり、説明義務を尽くす余裕を失っていく危険さえ感じられ、 患者との医療知識の差は益々広まって行くであろう。そうなると、患者の不満を一層助長しかね
ないのである。 「専門家職業」として医療業務を見るなら、高度化は一層進み、責任も重くなってくる。医療 処置について、一般市民の的確な選択をもたらすような説明は難しくなるのかもしれないが、結 局は、医師と患者の信頼関係が極めて重要なファクターになってくるように思われるのである。 ――――――――― 1 【資料1】「平成27年1月から同年6月までの判例時報及び判例タイムズに掲載された医事関 係民事訴訟事件判決」 2 http://www.courts.go.jp/saikousai/iinkai/izikankei/による。この統計には、「1.医事 関係の処理状況及び平均審理期間、2.医事関係訴訟の終局区分別既済件数及びその割合、 3.地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率、4、医事関係訴訟事件(地 裁)の診療科目別記載事件数」がある。本稿に示す「医事関係訴訟に関する統計表」はこの 最高裁4統計の一部項目を一つの表にまとめたものである。 3 【資料3】「説明義務違反による損害賠償請求事件判決(平成20年以降の判例)」 4 ジュリスト950号149頁 5 前掲注4 ジュリスト152頁 6 インフォームド・コンセントは、米国において、医療事故裁判における法的概念として発達 したものであり、我が国では「説明と同意」として理解されている。これが議論され出した 平成初年頃は、むしろカタカナ書きで「インフォームド・コンセント」という使い方が多かっ たが、最近では、このようなカタカナ表記はほとんどされなくなった。本稿においても、以 後の記述では、出来るだけ「説明義務と同意」という。 7 その他、近親者慰謝料や時効についても差異がある。 8 診療契約上、医師は診療を患者に施すべき債務を負うので、債務者である。 9 例えば、加藤一郎「医師の責任」『不法行為法の研究』有斐閣3頁、平林勝政「医療過誤に おける契約的構成と不法行為的構成」ジュリスト増刊『民法の争点Ⅱ』228頁等参照 10 民法656条 11 大島眞一「医療訴訟の現状と将来」判例タイムズ1401号9頁 12 近藤昌昭・石川紘紹「医師の説明義務」判例時報2257号3頁 13 前掲注12 14 診療契約は継続契約と解されるから、遡及解除はあり得ず、常に将来に向かっての解除(解 約)と解される。 15 佐久間 修・第2章医療過誤と法律 1総説(1)「医療過誤と注意義務」中川淳・大野真 義編『医療関係者法学』(現代医療と法)平成元年、世界思想社発行90頁 16 稲垣 喬・第2章医療過誤と法律 1総説(2)「チーム医療と民事責任の配分」中川淳・ 大野真義編『医療関係者法学』(現代医療と法)平成元年、世界思想社発行98-99頁
判決年月日 出 典 請求の認否 判決(事件)内容 1 札幌地裁 平成26年 9月17日 判例時報 2241号119頁 【平成27年2月 1日号】 棄却(控訴) 急病センターの医師らが診察した患者が、大動 脈解離により死亡した事故につき、検査義務違 反があっても、結果との間に因果関係が認めら れないとして、病院及び医師に対する損害賠償 請求が棄却された事例 2 名古屋高裁 平成26年 5月29日 判例時報 2243号44頁 【平成27年2月 21日号】 変更・確定 入院して尿管皮膚瘻術を受けた患者が悪性の膀 胱腫瘍により死亡した場合、担当医師に検索治 療義務の違反があったとして病院側の不法行為 責任が認められた事例 3 山形地裁 平成26年 2月25日 判例時報 2244号82頁 【平成27年3月 1日号】 棄却 (控訴棄却・ 確定) 摂食不良により入院中の高齢者に対する栄養管 理のあり方等について医師の過失が否定された 事例 4 名古屋地裁 平成26年 9月5日 判例時報 2244号65頁 【平成27年3月 1日号】 一部認容、 一部棄却 (控訴) 仮死状態で出生した新生児が、医師及び助産師 の分娩監視義務違反により脳性麻痺を発症し重 度の後遺障害が残ったとして、病院に対し求め た診療上の債務不履行に基づく損害賠償請求が 認容された事例 5 名古屋高裁 平成25年 11月22日 判例時報 2246号22頁 【平成27年3月 21日号】 控訴棄却 (請求認容) (確定) 未破裂脳動脈瘤の予防手術として血管内治療を 受けた患者の脳動脈瘤が穿孔して術中出血が生 じ出血性脳梗塞が発症した場合、担当医師に手 技上の過失があったとして病院側の不法行為責 任が認められた事例 6 東京地裁 平成23年 10月6日 判例タイムズ 1409号391頁 【2015年4月号】 一部認容、 確定 イントラレーシック手術による角膜の損傷に よって不正乱視が生じたことについて、スパー テルを角膜の誤った位置に侵入させた注意義務 違反が認められるとして、逸失利益等の損害賠 償請求が一部認容された事例 7 札幌地裁 平成26年 11月12日 判例時報 2248号68頁 【平成27年4月 11日号】 棄却(控訴) 大腸癌の確定診断をしたかのような説明を受け たことによる精神的苦痛等の損害につき、医師 及び医療法人に対する損害賠償請求が棄却され た事例(原告は看護師) 【掲載日順】 【資料1】 平成27年1月から同年6月までの判例時報及び 判例タイムズに掲載された医事関係民事訴訟事件判決
判決年月日 出 典 請求の認否 判決(事件)内容 8 さいたま地裁 平成26年 5月29日 判例時報 2250号48頁 【平成27年5月 1日号】 棄却・確定 幼児が横隔膜ヘルニアを原因とする呼吸不全で 死亡したことにつき、小児科開業医に、転送先 の病院の選択等の判断に誤りがあったとまでは いえないとして原告らの請求が棄却された事例 9 東京地裁 平成25年 12月25日 判例タイムズ 1410号287頁 【2015年5月号】 一部認容 (控訴) 一過性脳虚血性発作(TIA)を看過し適切な処 置を講じなかったことについて、開業医の注意 義務違反が認められた事例 10 大阪地裁 平成25年 9月11日 判例タイムズ 1410号305頁 【2015年5月号】 棄却(控訴) 出産の約2時間後に児に生じた呼吸停止の原因 が、出産直後から実施されたカンガルーケア(早 期母子接触)に起因する低体温によるものであ るとする原告らの主張が排斥された事例 11 前橋地裁 平成26年 12月26日 判例時報 2251号79頁 【平成27年5月 11日号】 一部認容、 一部棄却 (控訴) リンパ節の摘出手術を担当する医師は、副神経 損傷の危険性を十分に念頭に置き、術中に副神 経を損傷しないよう慎重に操作を行う注意義務 があるところ、手術により副神経損傷の結果を 招いたことは、手術手技上、同注意義務に違背 した過失があったとされた事例 12 札幌地裁 平成26年 12月24日 判例時報 2252号92頁 【平成27年5月 21日号】 棄却(控訴) 転院先の病院で敗血症により死亡した両下肢閉 塞性動脈硬化症の罹患患者に対する、転院前に 入院加療をしていた病院の医師の敗血症の感染 防止、その検査・治療及び右閉塞性動脈硬化症 の診察・治療に過誤があったとはいえないとさ れた事例 13 広島高裁 岡山支部 平成26年 8月22日 判例時報 2253号47頁 【平成27年6月 1日号】 控訴棄却 (請求棄却) 確定 入院患者がベッドから転落して死亡した事故に つき、病院側に事故防止義務違反は認められな いとして、病院の損害賠償責任が棄却された事 例 14 東京地裁 平成24年 9月13日 判例タイムズ 1411号374頁 【2015年6月号】 一部認容、 (控訴のち 和解) 歯科医師の行った抜髄及び歯冠形成についての 説明義務違反や補綴治療における診療技術上の 過失等が認められた事例 15 東京地裁 平成26年 2月26日 判例タイムズ 1411号317頁 【2015年6月号】 一部認容 (控訴) イレウスを発症し、腹痛、嘔気等を訴える患者 について、開業医の転送義務違反を認め、大学 病院の開腹手術義務違反を否定した事例 16 東京地裁 平成26年 9月10日 判例時報 2254号52頁 【平成27年6月 11日号】 一部認容、 一部棄却 (控訴) 下大静脈フィルターを抜去された患者が肺塞栓 症により死亡したことにつき、医師が事前に塞 栓子の捕獲状況を確認していれば、患者がその 死亡の時点においてなお生存していた相当程度 の可能性が認められるとして、病院開設者に慰 謝料350万円の支払が命じられた事例
判決年月日 出 典 請求の認否 判決(事件)内容 17 東京高裁 平成26年 9月18日 判例時報 2255号70頁 【平成27年6月 21日号】 変更(上告・ 上告受理申 立て) 眼科医の長男の医院で白内障手術を受け遠近両 用の高価な眼内レンズを挿入していた患者が、 区の実施する後期高齢者医療健康診査のため眼 科診療所で受診した当日に後発白内障のレザー 後嚢切開術を受けたが、右手術をした眼科医側 において合併症である眼内レンズの破損のおそ れの説明義務違反があるとして自己決定権侵害 が認められた事例
判決年月日 出 典 請求の認否 判決(事件)内容 1 最二小判 昭和56年 6月19日 判例時報 1011号54頁、 判例タイムズ 447号78頁 上告棄却 (請求棄却) (参照条文 民法709条) 頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術 を行う医師といわゆる説明義務の範囲 2 最三小判 昭和57年 3月30日 判例時報 1039号66頁、 判例タイムズ 468号76頁 上告棄却 (請求棄却) (参照条文 民法709条、 医師法23条) 昭和44年12月に出生した極小未熟児につき担当 医師において光凝固法の存在を説明し転医を指 示する義務はないとされた事例 3 最三小判 昭和57年 7月20日 判例時報 1053号96頁、 判例タイムズ 478号65頁 上告棄却 (請求棄却) (参照条文 民法709条、 医師法23条) 昭和44年4月に出生した極小未熟児につき担当 医師が眼底検査の必要性を認識せず転医の指示 等の措置を取らなかったことに注意義務の違反 はないとされた事例 4 最三小判 平成7年 4月25日 民集49巻 4号1163頁、 判例時報 1530号53頁、 判例タイムズ 877号171頁 上告棄却 (請求棄却) (参照条文 民法415条) 胆のうガンの疑いがあると診断した医師が患者 にその旨を説明しなかったことが診療契約上の 債務不履行に当たらないとされた事例 5 最二小判 平成7年 6月9日 民集49巻 6号1499頁、 判例時報 1537号3頁、 判例タイムズ 883号92頁 破棄差戻 (参照条文 民法415条、 709条) 昭和49年12月に出生した未熟児が未熟児網膜症 にり患した場合につき、その診療にあたった医 療機関に当時の医療水準を前提とした注意義務 違反があるとはいえないとした原審の判断に違 法があるとされた事例 6 最三小判 平成12年 2月29日 民集54巻 2号582頁、 判例時報 1710号97頁、 判例タイムズ 965号83頁 上告棄却 (慰謝料を 認容) (参照条文 民法709条、 711条) エホバの証人輸血損害賠償請求事件 最高裁昭和56年以降 【資料2】 医師の説明義務違反による最高裁判決