2021年 1月 22日,アップル社の心電図アプリケー ションの国内使用が認可されました. 筆者は,長年 F社のフィットネストラッカーを 使用してきたため,アップルウォッチに関してはほ とんど関心がありませんでした. しかしながら,その数日後,大阪大学医学部附属 病院の外来で患者さんから「先生,アップルウォッ チで心電図とれるようになったんで,一回見てくれ へんか?」とドヤ顔で言われ,計測開始から 30秒間 半信半疑のまま待って見せられたきれいな波形に, 正直「やられた」と感じました.それ以来,アップル ウォッチユーザーでないために一気に IT弱者と なったことに複雑な思いを抱きながら,悶々とした 日々を過ごしています(この原稿を書いている時点 では,アップル社以外のアプリは国内では認可され ていないようです). さて,今回のアップルウォッチ心電図アプリの日 本での認可は,「医療機器」ではなく「家庭用心電計プ ログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」の承認 であり,かような前例がないため,あらたに厚生労 働省のなかで担当部署が新設されて審査が行われた とのことです.「これも GAFA(注 1)の破壊力か」 と取るのはいささか考えすぎでしょうか……(注 1: Google,Amazon,Facebook,Appleの 4社の総称 で,ガーファと呼ばれている).とは言え,もし アップルウォッチを「医療機器」として審査する必要 があったら,もっと長い年月を要したであろうと推 測されますので,関心のあるユーザーが早期に利用 できるようになったことはよかったと考えます. 昨年来のコロナ禍で,電話やオンラインによる診 療が認められましたが,心電図所見のない状況での 不整脈診療は,正直なところ不安があります.新型 コロナウイルス感染症終息の見通しがたたないこと から,このオンライン診療制度は当面は継続される ようです.そうなると,オンラインで健康状況を判 断する材料が必要となりますが,すでに普及してい る遠隔モニタリングシステムに加え,様々な規制は 残っているものの,スマートウォッチなどのウェア ラブルデバイスがさらに大きな役割を果たすことは 容易に推測されます. さて,不整脈診療や心電学研究に革新的な変化を およぼしそうなスマートウォッチですが,ユーザー が使い方を間違えると大きな問題を起こしかねませ ん.その一つが,ネットワーク上の根拠のない情報 などで多数のユーザーが不安を煽られることで,早 急な対応が必要と考えられます.すでに日本循環器 学会のホームページには,2021年 1月 29日付けで 「厚生労働省からのお知らせ」として,本アプリの使 用に関して医療消費者および医療従事者が留意すべ き点を含めた通知が掲載されていますが1),おそら く,ほかのどの学会・団体よりも本件に深く関連の あるのは本学会と考えられ,今後の積極的な発信に 熱い視線が注がれます. スマートウォッチを用いた不整脈診断については, Apple Heart Studyをはじめ2),国内外でも多数の グループが研究を進めています.2020年 12月発行
スマートウォッチと不整脈
大阪大学大学院医学系研究科
李 鍾國
Editorial
3 心電図 Vol. 41 No. 1 2021 p003_00_N_Editorial_李先生.indd 3 2021/02/17 16:34:49の本誌においても国内グループからの報告が掲載さ れており,日本発の技術としてその発展が期待され ます3). 一方で,上記と同じ号に掲載されているステート メント「心電図自動診断の精度評価ならびに有用性 向上へのアプローチ(心電図自動診断を考える会世 話人)」のなかの次の一節は胸に刺さります. 「今後,AIを用いた心電図診断が世界の主流になっ て行くのは必定で,国内メーカーもより国際的な正確 性をもった心電計の開発を推し進めていく必要があ る.さもなければ我が国の心電計はガラパゴス化しか ねず,日本の心電計メーカーが一丸となって AIの導入 をはじめとする技術的向上を目指すことが,世界の潮 流に取り残されないための唯一の選択肢であろう」4) 長く世界の人々に愛される日本発の技術を世に出 すためにも,世界の潮流にも耳を傾ける努力は必要 であると痛感します. さて,期せずして IT弱者となった筆者は,研究 室の若い先生達がマスク越しに繰り広げるアップル ウォッチ自慢に耳を傾けながら,「こんなこともあ んなこともできる」と不整脈心電学の未来に夢を抱 くことにいたします. 追記:本稿の内容に関して,開示すべき利益相反 関連事項はありません. 〔文 献〕 1 ) 日本循環器学会:「家庭用心電計プログラム」及び「家庭 用心拍数モニタプログラム」の適正使用について(厚生 労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課からのお 知らせ).2021年 1月 29日付.https://www.j-circ.or.jp/ topics/academyinfo20210129/(2021年 2月閲覧) 2 ) Perez MV, Mahaffey KW, Hedlin H, et al ; Apple Heart
Study Investigators : Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation. N Engl J Med, 2019 ; 381 : 1909-1917 3 ) 葉山恵津子,山下武志,大塚崇之,ほか:腕時計型脈 波モニタリングデバイスによる心房細動の検出の妥当 性に関する研究:ホルター心電計との比較(CVI ARO 3 研究).2020 ; 40 : 207-216 4 ) 加藤貴雄,八島正明,髙橋尚彦,ほか(心電図自動診断 を考える会世話人):心電図自動診断の精度評価ならびに 有用性向上へのアプローチ 第 2報:汎用心電計による 心電図自動診断精度の現状と問題点.心電図,40 ; 263-271 心電図 Vol. 41 No. 1 2021 4 p003_00_N_Editorial_李先生.indd 4 2021/02/17 16:34:49