しに関する要綱の概略:要綱に至るまでの議論とと
もに
著者
岡本 智英子, 畑山 正克, 川沼 信夫, 森本 真理,
杉本 ひかり, 土岐 薫
雑誌名
ビジネス&アカウンティングレビュー
号
23
ページ
157-176
発行年
2019-06-30
URL
http://hdl.handle.net/10236/00028157
は じ め に 平成29年2月9日に開催された第178回法制審議会において, 法務大臣から法制審議会 に対し, 諮問 (諮問第104号) がされた。 これに伴い, 会社法制 (企業統治等関係) 部会 (以下 「部会」 という。) が設置され, 平成29年4月26日に第1回会議が開催され, 第10回 会議 (平成30年2月14日) において, 「会社法制 (企業統治等関係) の見直しに関する中 間試案 (以下 「中間試案」1)という。) が決定し, その後パブリックコメントの手続きに付 された2)。 第19回会議 (平成31年1月16日) において 「会社法制 (企業統治等関係) の見 直しに関する要綱案3)」 (以下, 要綱案という。) および 「附帯決議」 が決定された。 附帯 決議は以下のとおりである。 1 株主総会資料の電子提供制度に関する規律については, これまでの議論及び株主総 会の招集の手続に係る現状等に照らし, 現時点における対応として, 本要綱案に定めるも ののほか, 金融商品取引所の規則において, 上場会社は, 株主による議案の十分な検討期 要 旨 平成31年1月16日に会社法制 (企業統治等関係) 部会 (第19回会議) において, 「会社法制 (企業統治等関係) の見直しに関する要綱案」 および 「附帯決議」 が決 定され, 同年2月14日の法制審議会総会 (183回) において部会の要綱案が初認さ れ, 要綱となって法務大臣に答申された。 本稿は, 中間試案に対するパブリックコ メントの結果, その後の法制審議会会社法制部会における議論をもとにして, 要綱 に至るまでの過程を明らかにし, 概要を整理したものである。 IBA 会社法判例研究 会において報告・議論した内容であるが, 私見については各回の担当者の意見であ る。
会社法制 (企業統治等関係) の見直しに関する
要綱の概略
要綱に至るまでの議論とともに
岡本智英子 畑山正克 川沼信夫 森本真理 杉本ひかり 土岐薫 【研究ノート】間を確保するために電子提供措置を株主総会の日の3週間前よりも早期に開始するよう努 める旨の規律を設ける必要がある。 2 株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書に関する規律については, こ れまでの議論及び当該登記事項証明書の利用に係る現状等に照らし, 法務省令において, 以下のような規律を設ける必要がある。 株式会社の代表者から, 自己が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関 する法律第1条第2項に規定する被害者その他の特定の法律に規定する被害者等であり, 更なる被害を受けるおそれがあることを理由として, その住所を登記事項証明書に表示し ない措置を講ずることを求める旨の申出があった場合において, 当該申出を相当と認める ときは, 登記官は, 当該代表者の住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることが できるものとする。 電気通信回線による登記情報の提供に関する法律に基づく登記情報の提供におい ては, 株式会社の代表者の住所に関する情報を提供しないものとする。 3 1及び2の規律の円滑かつ迅速な実現のため, 関係各界において, 真摯な協力がさ れることを要望する。 平成31年2月14日開催された法制審議会の第183回会議において, 部会の要綱案が承認 され, 要綱となって法務大臣に答申された4)。 本稿は, 中間試案に対するパブリックコメントの結果, その後の法制審議会会社法制部 会における議論をもとにして, 要綱に至るまでの過程を明らかにし, 要綱の概要を整理し たものである。 IBA 会社法判例研究会において報告・議論した内容であるが, 私見につい ては各回の担当者5)の意見である。 第一部 株主総会に関する規律の見直し 1 株主総会資料の電子提供制度 電子提供措置をとる旨の定款の定め 要綱の骨子は以下のとおりである。 ①株式会社は株主総会を招集するときは, 株主総会 参考書類等について電子提供措置をとる旨を定款で定めることができる。 ②振替株式を発 行する会社は, 電子提供措置をとる旨を定款で定めなければならない。 ③振替株式を発行 する会社は, 本要綱に基づく改正法の施行日に定款変更したものとみなす。 ④本定款の定 めがあるときは, その旨を登記しなければならない。 上記①②③については中間試案で提起され, そのまま要綱となった。 パブリックコメン トにおいても上場会社の義務化には一部に反対意見があったが, 賛成が多数を占めた。 む
しろ上場会社ほど技術的な問題は少なく, 上場会社は一律に義務化した方が株主や一般投 資家にとっては電子提供しているか否かを調べる手間が省けると思われる。 当研究会は① ②③共に賛成している。 上記④については, 中間試案にはなく要綱案たたき案で示され, 要綱となった内容であるが, 登記されていれば特に非上場会社が電子提供しているか否か の調査が容易となるメリットがあると思われる。 電子提供措置 要綱の骨子は以下のとおりである。 ①電子提供措置をとる旨の定款がある会社 (以下, 当該会社という。) は, 株主総会日の3週間前から総会の日後3ヶ月を経過する日までの 間, 株主総会参考書類等に関し電子提供措置をとらねばならない。 ②電子提供をする情報 は試案と同じ。 ③上記②の情報を有価証券報告書で EDINET を使用して行なう場合は, 電子提供措置を要しない。 上記①の電子提供措置の開始日については, 中間試案では総会日の4週間前と3週間前 の併記であったが, 要綱案仮案で3週間前とされた。 第11回部会及び第16回部会では両案 を巡って相当議論がなされ, 特に会社側 (経団連, 日商等) と機関投資家 (投信会社等) との委員でそれぞれの立場からの意見が対立した。 パブリックコメントでも意見は分かれ たが, 会社側の実情を考慮して当研究会を含め3週間前が多数であった。 かかる議論を踏 まえ要綱では3週間前とするも以下の附帯決議を付けられた。 「金融商品取引所の規則において, 上場会社は, 株主による議案の十分な検討期間を確 保するために電子提供措置を株主総会の日の3週間前よりも早期に開始するよう努める旨 の規律を設ける必要がある。」 本件については, 会社法上でも例えば2年又は3年程度の猶予を設けて, 公開会社でか つ大会社に限って電子提供措置の開始日を4週間前とすべきであると考える。 上記③の EDINET の利用の可否について, 中間試案では要検討事項とされていたが, パブリックコメントにおいて利用に反対の意見はなく, 当研究会も株主の利便性向上に資 するとして賛成し, 要綱案仮案において利用を認めるとされ, 要綱となった。 即ち, 上記 ②の情報 (定時株主総会に係わるものに限り, 議決権行使書面に記載すべき事項を除く。) を記載した有価証券報告書の提出の手続を EDINET を利用して行なう場合には, 当該事 項に係わる情報については, 電子提供措置をとることを要しないとされた。 株主総会の招集通知 要綱の骨子は以下のとおりである。 ①当該会社の株主総会招集通知の発送期限は, 総会 日の2週間前とする。 中間試案では発送期限を総会日の2週間前, 3週間前, 4週間前の3案併記であったが, 本件も電子提供措置の開始日と同様に発送期限の前倒しを求める意見と現状維持 (2週間
前) の意見とで分かれた。 パブリックコメントでは電子提供開始日を4週間前とした団体 は発送期限も4週間前に賛成し, 同開始日を3週間前とした団体は発送期限を3週間前と 2週間前とに分かれている。 要は開始日と発送期限を同じにすべきとする意見であり, 当 研究会は3週間前に賛成であったが, 3案の中では2週間前がやや多かった。 第11回部会 及び第16回部会では相当議論がなされ, 会社側 (経団連, 日商等) と機関投資家 (投信会 社等) との委員で意見が対立したが, 要綱案仮案で2週間前とされ, そのまま要綱となっ た。 但し, 非公開会社は現状では1週間前であるが, 電子提供措置を定款で定めれば2週 間前となる。 本件についても, 電子提供措置の開始日と同じく, 2年又は3年程度の猶予 を設けて, 公開会社でかつ大会社に限って発送期限を3週間前と前倒しすべきであると考 える。 書面交付請求 要綱の骨子は以下のとおりである。 ①当該会社の株主は, 株主総会資料の書面交付を会 社に請求できるものとし, 振替株式の株主はその直近上位機関を経由して請求することが できるものとする。 ②当該会社の取締役は, 株主総会の議決権行使の基準日までに書面交 付請求をした株主に対し, 総会関係資料を書面交付しなければならない。 ③株主総会資料 をウェブ開示によるみなし提供をしている株式会社は, 法務省令に定めるものについては, 上記②による書面に記載を要しない旨を定款で定めることができる。 ④当該会社は, 株主 から書面交付請求のあった日から1年を経過した時に当該株主に書面交付を終了する旨を 通知し, 異議のある場合でも催告期間 (1ヶ月以上) 経過後は請求の効力はなくなる。 上記①については, 書面請求に関し中間試案では株式振替制度を利用するもその具体的 な方式は示していないが (別途, 補足説明で列挙), パブリックコメントでは, 当研究会 を含め振替機関を利用することに賛成が多数を占めた。 一方で株懇といくつかの各地区の 弁護士会から, 画一的な制度設計の要望と管理コストが重むとの理由で, 銘柄毎の請求に は反対の意見もあった。 第14回部会において, 銘柄毎に書面請求を認める A 案と認めな い B 案とが議論され, 部会では A 案に賛成の意見が多数を占めていた。 理由としては, 希望する銘柄を選択でき無駄が省けること, 個々の会社が電子化を推進するインセンティ ブを持てること, 発行会社との間で請求に係わるコストの取り決めが容易になること等が 挙げられている。 そして要綱案たたき台で 「直近上位機関を経由して請求することができ る」 として, 銘柄毎に書面請求できる A 案とされ, 要綱となった。 上記②については, 中間試案と同様の内容である。 パブリックコメントでは書面請求の 期限を基準日とすることに当研究会を含め賛成が殆どで, 反対意見としては, 請求期限が 早過ぎ, 基準日から一定期間後とすべき意見や権利落ち日に株式を購入した者が事実上請 求の機会を奪われる等の意見があった。
上記③については, 中間試案では 「みなし提供制度の見直しの要否については, なお検 討する」 とされていたが, パブリックコメントでは制度の存続に賛成する意見が多く, 理 由として特に書面請求の株主に対して書面の範囲を限定でき業務等の簡素化に寄与するこ とを挙げている。 当研究会も, あえて廃止する必然性はなく, しばらくは併存して様子を 見るのが妥当として賛成意見である。 要綱案たたき台において, これら賛成意見をとって 上記③の内容とされ, 要綱となった。 上記④については, 中間試案では 「株主が書面交付請求をできない旨を定款で定めるこ との可否をなお検討する」 とされていた。 パブリックコメントでは, その旨を定款で定め ることに賛否が分かれ, 当研究会の意見は, その検討の余地なく定款で定めることに反対 とした。 ただ, 一旦書面請求した株主には会社は継続して書面交付を義務づけられるのか との意見があり, 第11回部会での議論を受けて, 要綱案のたたき台で 「書面交付請求のあっ た日から3年を経過した時は, 当該株主に書面交付を終了する旨を通知し (以下省略)」 の内容が提起された。 そして第16回部会での議論を経て, 要綱案仮案で3年が1年に短縮 され, そのまま要綱の上記④の内容となったものである。 本件は書面請求する株主が累増 するのを避けるための措置であり, インターネットを利用できない株主にとっては, 毎年 書面請求せねばならず煩わしい面はあるが, インターネットの利用を促がすことにも繋が る。 逆に会社サイドでは3年とすれば株主を3分類にわけての管理が必要となり, 要綱の 1年はやむをえないものと考える。 電子提供措置の中断 要綱の骨子は以下のとおりである。 電子提供措置期間中に電子提供措置の中断が生じた 場合, 以下に該当する時はその中断は当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさないものと する。 ①当該会社が善意で重大な過失がなく又は当該会社に正当な事由があること。 ②電 子提供措置の中断の時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと。 ③株主総 会日までの期間中に当該中断が生じた時は, 当該期間中の中断時間の合計が当該期間の10 分の1を超えないこと。 ④当該会社が中断が生じたことを知った後速やかにその旨, 中断 が生じた時間及び中断の内容である情報について当該電子提供措置に付して電子提供措置 をとったこと。 中間試案では上記①, ②及び④が示され, パブリックコメントでは当研究会を含め賛成 が多数であったが, 要綱案たたき台で③が追加された。 これはパブリックコメントにおい て, 電子提供措置期間の中でも, 株主総会日までの期間と総会日以後の期間とを分けて扱 うことの意見が出されたのを受けてのことと思われる。 その後の第11回部会で出された部 会資料19で, 「株主総会以前の期間については株主総会招集の手続きとして電子提供措置 をとることが求められているが, 総会日以後の期間については証拠等としての使用に供す
るために電子提供措置をとることが求められており, その趣旨が異なる」 との理由から③ を追加したとしている。 ただ株主総会以前の期間は21日間であり, この10分の1の2.1日 間のシステム障害でこの規程に触れることになり, 部会での議論がなされたが, 東京証券 取引所のホームページをバックアップとして利用することが第18回部会で確認され, 要綱 案たたき台の内容がそのまま要綱となった。 電子提供措置の調査 この項目は要綱案仮案で削除された。 中間試案では, 当該会社は電子提供措置が電子提 供措置期間中正常に稼働しているかについて, 調査機関に調査を求めねばならないとして いた。 パブリックコメントでは当研究会を含め賛成が多数であったが, EDINET を利用 することで調査は不要とする意見もあった。 その後の事務当局の部会資料19で, 調査を求 める期間を電子提供措置開始日から株主総会日までの期間とする案が示された。 そして要 綱案たたき台で, 当該案と調査に関する規律を設けない案とが併記されたが, 要綱案仮案 で本項目の記載が削除された。 ここでの議論は上記電子提供措置の中断と関連するが, 東京証券取引所のホームページをバックアップとして利用できることになったこと, また 要綱案仮案で EDINET の利用が可能となったこともあり, 経費を使ってまで電子提供措 置の本調査を求める必要性は無くなったと考える。 但し, 近年サイバー攻撃による不正ア クセスが増加しており, 株主総会の妨害を狙った外部からの攻撃が想定されるので, 会社 におけるセキュリティ対策は一層重要性を増すことになる。 また, 電子提供を受ける株主 (特に個人株主) の側においても, パソコンの毎月のセキュリティ更新には充分注意を払 う等の対応が求められるところである。 2 株主提案権 株主が提案することができる議案の数の制限 要綱の骨子は以下のとおりである。 株主が提出することができる議案の数は10を超える ことができないものとし, 以下の議案については①から④に定めるところとする。 ①取締 役, 会計参与, 監査役又は会計監査人 (以下役員等) の選任に関する議案は, 当該議案の 数にかかわらず, これを一の議案とみなす。 ②役員等の解任に関する議案は, 当該議案の 数にかかわらず, これを一の議案とみなす。 ③会計監査人を再任しない議案は, 当該議案 の数にかかわらず, これを一の議案とみなす。 ④定款の変更に関する二以上の議案は, 二 以上の議案の内容が相互に矛盾する可能性がある場合は, これらを一の議案とみなす。 ⑤ (注) 株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときにおける10を超える議案の決定 の方法は, 取締役が定めるものとするが, 当該株主が提出議案に優先順を定めている場合 は, その順位に従って決定するものとする。
中間試案での B1 案 (10件以内で役員等の選解任権を各々1件とする) の内容に, 上記 ③と④及び⑤の注書きを追加したのが要綱の内容である。 パブリックコメントでは議案の 数の制限について, 個人からは反対が多かったが, 団体では試案での制限議案数5件以内 (A1 案, A2 案) と同10件以内 (B1 案と B2 案) について, 各々の合計でほぼ同数の賛成 があり, 制限すること自体には反対は少数であった。 当研究会の意見は B2 案 (役員等の 選解任権を除き10件以内) で, 試案の4案の中では提出できる議案数が最も多い案である。 第11回及び第14回の部会では, 試案で要検討とされた定款変更の議案の扱いが議論され, 要綱案たたき台で, 定款変更の内容のみならず, その理由の内容も踏まえて, 整合性を欠 くおそれがある場合は一の議案とする案が示され, 上記③の会計監査人を再任しない議案 と共に追加された。 そして 「整合性を欠く」 は, 要綱案仮案で 「相互に矛盾する」 の表現 に変更された。 「矛盾する」 の表現は解釈によっては一の議案とするくくり方を一層狭く するものであり, 結果として実質的な提案の個数が減ることになる。 要綱案仮案が提示さ れた第16回部会において, 本件について疑問視する意見が出され, それを受けてか否かは 定かではないが, 要綱案仮案で, 「相互に矛盾する可能性がある」 と変更し, 可能性も 含めることにより, 狭める程度を少し緩める表現とし, そのまま要綱となった。 上記⑤の注書きは, 要綱案仮案で示された内容であるが, 部会事務局からは, 取締役が 定める方法とは, 株式取扱規定等で基本的にあらかじめ合理的な方法を定めておくことが 想定されるとの説明がなされている。 株式会社の最高意思決定機関という株主総会の位置付けからして, 議案数を制限するの は本来ありえないと考えるが, 現実の問題として意図的に多数の議案が提案されることが ままあることから, 提案できる議案数を法的に制限することはやむを得ないと考える。 上 記①②③の議案以外では7件の議案が提案できることになり, この程度であれば株主提案 権が侵害されたとまでは言えないと考える。 当研究会のパブリックコメントに対する意見 と比較すれば, 上記①②③の3つの議案数だけ少なくなるが, 定款変更議案の扱いが加わっ たことにより, 当研究会の意見に近づいた内容になったと思われる。 目的による議案の提案の制限 要綱の骨子は以下のとおりである。 株主提案権は以下のいずれかに該当する場合は適用 しないものとする。 ①株主が, 専ら人の名誉を侵害し, 人を侮辱し, 若しくは困惑させ, 又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で株主提案したとき。 ②株主総会の適切 な運営が著しく妨げられ, 株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められるとき。 中間試案での①から④の4項目は, パブリックコメントではいずれも賛成する意見が多 数であったが, 「専ら」 という要件では立証が難しく 「主として」 といったやや穏やかな 要件にすべしとの意見もあった。 要綱案たたき台では, 中間試案の①から③の3項目が上
記①に集約され, 中間試案の④の 「著しく」 の文言の位置を 「株主の共同の利益が著しく 害される」 から, 要綱案たたき台で上記②の 「総会の適切な運営が著しく妨げられ」 の位 置に置き換わった。 「著しく」 の対象が 「株主の共同の利益」 から 「総会の適切な運営」 に変わったわけであるが, この変更についての部会事務局の見解は, 内容としては同じで あるが, 「著しく」 の位置が置き替わったことにより, 株主総会の適切な運営に会社の恣 意的な解釈の余地を狭めた, との説明がされている。 株主と会社との唯一のコミュニケーションの場としての株主総会は, 建設的で前向きな 議論が望まれるところであり, それを阻害する議案は避けられねばならない。 特に上記② の内容については, パブリックコメントでの当研究会の意見において一部反対の表明を行 なったところであるが, その文言の解釈はそれぞれの立場によって異なる状況が想定され る。 従って紛争に備えての法制化はやむをえないとしても, 条文化において十分な検討が 望まれるところである。 株主提案権の行使要件及び行使期限の見直し 本件は中間試案において株主提案権の注書きで 「株主提案権の行使要件 (300個以上の 議決権と株主総会の日8週間前の行使期限) の見直しはなお検討する」 となっていたが, パブリックコメントでは当研究会を含め会社関係の団体以外は見直しに反対意見が多かっ た。 第11回部会の事務局資料 (部会資料19) で, 見直しはしないことでどうかと提起され, 本件が議論された数回の部会でも会社側の委員以外からは見直しすることには反対意見が 多く出された。 それらを受けて要綱案たたき台の段階で削除された。 本件については, 個人株主の提案権を守るために300個以上の議決権の引上げや削除を すべきではないが, 株主総会日前8週間の行使期限については, 今回の要綱の附帯決議で 示された電子提供措置開始日の更なる前倒しが実現すれば, 見直しの検討が求められると 考える。 第二部 取締役等に関する規律 1 取締役等への適切なインセンティブの付与 取締役の報酬等 ① 取締役の報酬等の決定方針 パブリックコメントでは, 取締役会が決定方針に沿わない報酬議案を株主総会に提出す ることは考えられないこと, 説明を義務付けることで株主総会が形骸化する可能性がある こと, 決定方針を定めることを控える株式会社が出てくる可能性があることなどを理由と してこれに反対する意見があった一方で, 当該規律を設ける意義は決定方針と実際の報酬
議案との関係性について株主総会において説明することであり, 提出された当該議案が決 定方針に沿うものであることを, 取締役がその理由と共に説得的に株主に対して説明する ことが重要であるとする意見があった。 また, 報酬等の決定方針の決定を, 内部統制シス テムに係る決定と同様に, 取締役会の決議事項とすべき意見もあった。 さらに, 一定の場 合に会社は決定方針の決定をしなければならないことについては賛成の意見が多かった。 パブリックコメントの結果を受け, 要綱案たたき台では報酬等の決定方針の決定を, 取 締役会の決議事項とされた。 また, 報酬等の決定方針の決定をしなければならない一定の 場合については, 部会において, 業績連動報酬等についての議案を株主総会に提出する場 合, 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務の対象の範囲と同じ範囲の株式会 社である場合, の2案について検討がなされた。 この結果, 要綱案たたき台においては, 後者の案が採用された。 要綱では, 監査役会設置会社 (公開会社であり, かつ, 大会社で あるものに限る) であって, 金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式 について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならいもの, 及び監査等委員会 設置会社の取締役会は, 取締役 (監査等委員である取締役を除く) の報酬等の内容として 定款又は株主総会の決議による会社法361条第1項各号に掲げる事項について定めがある 場合には, 当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針 として法務省令で定める事項を決定しなければならないものとするとされた。 中間試案第二部第一1(3)で提案されていた, 取締役の個人別の報酬等の内容に係る決 定を取締役に再一任するためには株主総会の決議を要するものとする A 案 (当研究会は A 案に賛成) と現行法の規律を見直さないものとするという B 案において, パブリック コメントでは意見は分かれたが, A 案のほうが多数を占めた。 要綱案たたき台, 要綱案 (仮案) では A 案で進められたが, 要綱案 (仮案2) において, 取締役の個人別の報酬等 の内容に係る決定の再一任に係る内容が削除された。 結果, B 案である現行法の規律を見 直なさいものとするということになった。 再一任にしているかどうかなどを事業報告で開 示しなければならないので (要綱第2部第1の1(4)③), 現行法よりは一歩前進ではあ るが, 要綱案 (仮案) より後退した。 ② 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め 第361条1項第3号を改め, 金銭でない報酬等について, 定款に定めがないときは株主 総会の決議によって定めるものとされた。 パブリックコメントでは中間試案に対する賛成意見が多かった。 パブリックコメントの 結果を受け, 当該報酬等が取締役に対するインセンティブとしてどのように機能するかと いったことや, 不正な経営者支配を助長するおそれや不正な買収防衛策等に用いられる可 能性があるか, さらには, 既存株主の持株比率の希釈化がどの程度生ずる可能性があるか
などを株主において確認させることが重要であるという論点を中心に検討がなされた。 要 綱に至るまで, 中間試案から変更はなかった。 ③ 取締役の報酬等である株式及び新株予約権に関する特則 パブリックコメントでは中間試案に対し意見が分かれており, A 案又は B 案に反対す る意見の理由としては, 濫用的に利用される懸念があることなどが指摘されている。 同様 の懸念から両案に賛成しつつも, 利用することができる株式会社の範囲を上場会社等に限 定すべきという意見もあった。 また, 株式とは異なり, 新株予約権については, それ自体 に議決権が認められておらず, 現状, 行使価格を1円とする実務が定着していることから, B 案に賛成するという意見もあった。 パブリックコメントの結果を受け, 株式や新株予約 権の発行があった場合に増加する資本金及び資本準備金の額の合計額に関する明示的な会 計処理が確立されておらず, また具体的な定めがなされている会計基準も存在しないこと から, こうした論点を中心に検討がなされた。 その結果, 要綱案たたき台において, 利用 することができる株式会社の範囲を上場会社等に限定した上で, 基本的に中間試案におけ る A 案が採用された上で, 資本金及び資本準備金の額の合計額に関する会計処理につい ては, 法務省令に委ねられることとなり, そのまま要綱となった。 ④ 情報開示の充実等 パブリックコメントでは, 事業報告における開示手続の負担が増すことや, 他の開示書 類で開示されていることなどを理由として反対する意見もあったが, 賛成する意見が多かっ た。 また, 個人別報酬の開示についてはパブリックコメントにおいても意見が分かれてお り, 賛成する意見としては, 有価証券報告書と同様の取扱いをすべきであること, プライ バシーの保護の必要性よりも開示する社会的な意義の方が高いこと, どの程度の報酬でど れだけの実績とパフォーマンスを上げているかということが株主にとって大事であること, 正確な評価をするためには開示が必要であることなどを理由として挙げられた。 一方で, 反対意見としては, 有価証券報告書において開示している以上, これに加えて事業報告に おいて開示する必要がないことや, プライバシーの観点から弊害が大きいこと, 金額のみ を開示したとしても, インセンティブとして適切かどうかを評価することができず, 意味 がないこと, 無用な争いの元となったり, 報酬等の額を引き下げる心理的圧力が働いたり する懸念があること, 報酬等の額が非常に高額であるという状況でない我が国において開 示する必要性は低いことが挙げられた。 要綱案たたき台パブリックコメントの結果を受け て検討がなされたが, 要綱に至るまで中間試案から変更はない。 補償契約 パブリックコメントでは, 主として経済団体から, 会社補償は実務上問題なく運用され ており, あえて会社法に規律を設ける必要はないことを理由として規律を設けることに反
対であるとする意見があった。 他方で, 弁護士会や大学からは, 法的安定性を確保するた めに会社補償に関する規律を設けることに賛成する意見があった。 部会においても, 会社 補償は利益相反取引に該当するという意見や, 役員責任の趣旨を没却し, 無責任な経営姿 勢を助長する懸念がある一方, 優秀な人材を確保し, 役員等がその職務の執行に伴い損害 賠償の責任を負うことを過度に恐れ, 職務の執行が萎縮することがないようにする仕組み としての意義も認める意見があった。 防御費用について, 悪意又は重過失がある場合を補 償の対象から除外すべきという意見など, 主観的な要件による制限を設けていないことを 問題視する意見があった。 損害賠償金及び和解金について, 中間試案の内容に対して消極 的な立場からは, 「善意でかつ重大な過失がないとき」 という文言について, 役員等が悪 意又は重過失であることが明らかな場合のみが除外されるようにすべきであるという意見 があった。 補償の実行に関する手続について, 反対の意見として, 補償契約に基づく補償 の実行は, 契約上の義務の履行であり, 改めて取締役会決議を擁する必要ないことや, 機 動性を欠くことを理由としているが, 補償の実行は取締役会における慎重な判断を行う必 要があるという賛成意見にもあり, 中間試案に対して意見が分かれた。 補償金額等の開示 について, 事業報告で開示した場合, 会社補償制度を利用することを躊躇することとなり かねないという意見や, 補償の適法性, 適正性をめぐる新たな訴訟を誘発するおそれがあ るとして反対意見もあったが, 会社補償の契約内容を株主が事後的に検証することを可能 にするためには開示が必要であるという意見や, 補償の適切性等を担保するためには開示 が必要であるという意見があった。 要綱案たたき台では, 防御費用について, 役員等が第三者から責任の追及に係る請求を 受けた場合には, 等が役員等に悪意又は重大な過失が認められるおそれがあるときであっ ても, 等が役員等が適切な防御活動を行うことができるように, これに要する費用を株式 会社が負担することが, 株式会社の損害の拡大の防止等につながるという意見や, 悪意又 は重過失があったとしても, 費用であれば, これを補償の対象をしたとしても, 通常は職 務の適正性を害するおそれが高いとまではいうことができないことから, 株式会社の役員 等が悪意又は重過失であったとしても補償することができないものとはされないこととなっ た。 もっとも, 役員等が不当な目的を持って職務を執行していたような悪質な場合であっ ても, 株式会社の費用で防御費用が賄われることとなると, 役員等の職務の適正性を害す ることが懸念されることから, 要綱案たたき台においては, 株式会社が, 事後に, 当該役 員等が自己若しくは第三者の不正の利益を図り又は当該株式会社に損害を加える目的をもっ て職務を遂行していることを知った場合には, 当該役員に対し, 補償した金額に相当する 金銭を返還することを請求することができるものとされた。 損害賠償金及び和解金について, パブリックコメントでは, 「善意でかつ重大な過失が
ないとき」 という文言について, 役員等が悪意又は重過失であることが明らかな場合のみ が除外されるようにすべきであるという意見があったが, 部会において, このような規律 を設けると, 真実は悪意又は重過失であるにもかかわらず, 「明らか」 でないという理由 で補償を実行すれば, 当該補償は有効となり, 悪意又は重過失であったことが後日判明し た場合であっても, 当該補償を受けた役員は当該保証金を返還する必要もないこととなる が, そのような結論となることは, 職務の適正性確保の観点から看過することができない ことから, 現行法の解釈を明文化するという趣旨を超えた提案であると指摘もあったが, 要綱案たたき台では当該文言は削除された。 補償の実行に関する手続について, 決定機関 は, 株主総会又は取締役会となった。 補償金額等の開示について, 中間試案通りとなった。 要綱案 (仮案), 要綱案 (仮案2) において変更はない。 要綱では, 任務懈怠の場合, 悪意重過失の場合には, 費用補償が出来ないということで, 役員の責任追及として取締役に義務違反以上がある場合には, 補償しないという内容となっ ており, 妥当な文言と評価できるため, 当研究会として賛成する。 しかし, 義務違反か否かの確定は, 訴訟で争われるのであり, 裁判所による事実認定の 結果である。 これまでの各判例・事例でも, 任務懈怠の判断が示された結果, 責任を負う ものである。 責任追及をする立場, 特に, 株主からすると責任追及した役員の義務違反が 認められなかった場合には, 会社が費用まで負担するということとなるので, 会社の費用 負担を増やすこととなりかねない。 上記から, 株主代表訴訟を委縮させる可能性があるこ とは, 留意する必要があると考える。 なお, 要綱における文言としては, 補償契約という文言となっている。 契約である以上, 申し込みと承諾の意思表示の合致が必要となるが, 総会決議 (取締役会設置会社において は取締役会) の決議によらない契約の法律上の効果が示されていない。 当然に無効な契約 となるのか, 取消となるのか。 決議以上の内容の契約を会社と取締役が締結した場合の契 約の範囲は, どのようになるのか, 民法上, どのようなロジックを使うかは問題となりえ ると考える。 また, 代表訴訟で責任追及を受ける取締役としては, 当然に任務懈怠・悪意重過失が無 いことを主張し, 認められた場合には, 会社へ補償を求めることとなる。 会社が補償を行 わない場合には補償契約に基づく訴訟を会社に対して提起することになる。 民事訴訟法上 は, 前訴の訴訟物 (代表訴訟) と後訴の補償契約に基づく請求権がことなることから, 既 判力が及ばなくなり, 統一的な運用が出ない場合がある。 これは, 一義的には民事訴訟法 の既判力の問題となり, 争点効理論や信義則で処理されるべき問題となるかもしれないが, 会社法に補償契約の文言を入れる以上は, 統一的に判断されることが望ましい。
役員等のために締結される保険契約 パブリックコメントでは, 賛成意見として, 会社役員賠償責任保険 (以下, D & O 保険 とする。) の位置付けが不明確であり, 必要な手続等についての解釈が必ずしも確立され ていないことや, 当該保険に内容によっては役員等の職務の適正性に影響を与えるおそれ があること, そもそも当該保険には会社と取締役との間に構造上の利益相反性があること 等から会社法上一定の規律を設けるべきとの意見があった。 一方で反対意見としては, 規 律を設けることでかえって D & O 保険が利用しづらくなってしまうこと, 優秀な人材を 確保するためのインフラとして機能させるために各社の事情を考慮して決定されるべきも のであるため法による画一的な規律に馴染まないといった意見があった。 D & O 保険の適用範囲について, 中間試案の定義に賛成する意見が多かったものの, 一 方で, 規律の範囲とする保険契約の範囲が広範であるという懸念が示された上で, 仮に, 規律を設ける場合であっても, 利益相反性の範囲及び内容や立法事実等を明確にした上で 規律の必要性及びその内容の相当性を議論すべきといった意見や, 役員等の株式会社に対 する責任を補対象とする保険契約のうち保険料の全顔を株式会社が負担しているものな どに限定すべきであるという意見もあった。 さらに, 自動車賠償責任保険やいわゆる生産 物賠償責任保険 (PL 保険) 等に係る保険契約は, 対象となる保険事故が限定されている ことに鑑み, 適用範囲から除外すべきであるという意見もあり, 職務執行の適正性が損な われるおそれが低いこと, 会社として業務執行上締結する必要性が高いことなどの理由か ら, そもそも規律の対象から除外すべきであるという意見もあった。 D & O 保険の会社法 上の手続について, 中間試案に対して賛成する意見が多かった。 もっとも, 取締役会を設 置していない株式会社においては取締役の過半数による決定により, 契約の内容の決定を することできるようにするべきであるという意見もあった。 D & O 保険の会社法上の開示についても, 中間試案に対して賛成する意見が多かった。 その理由として, 役員等のモラルハザードを助長しないようにするための歯止めとして, また, 契約の内容等の適正及び株主による監督の実効性を確保するための規律として機能 すると考えられること, 役員の利益のために株式会社費用を負担するものであるという意 味で役員報酬と同様であるため株主への開示が必要であること, 株式会社が締結している D & O 保険の内容等は株主にとっても重要な情報となり得ること, が挙げられた。 これに 対し反対意見の理由としては, 契約の内容は経営上のノウハウ又は秘匿情報といえ開示に 馴染まないこと, 開示により濫訴や訴額又は和解額のつり上げなどを誘発するという弊害 が生じうること, 開示を求める場合には開示を避けるために D & O 保険の利用が後退す る可能性があり, 業務執行が萎縮することで役員人材の確保が困難になること, が挙げら れた。
要綱案たたき台では, 上記①のパブリックコメントの結果を受けて検討したところ, ま ず, 規律の適用範囲については, PL 保険, 企業総合賠償責任保険 (CGL 保険), 使用者 賠償責任保険, 個人情報漏洩保険, 自動車賠償責任保険, 任意の自動車保険, 海外旅行保 険等については, 販売されている保険の種類や数が膨大であり, 仮に, 契約締結に係る手 続や開示に関する規律を適用すると実務上甚大な影響が想定されるという指摘があったこ とから, 政策的な判断として, これらの保険に係る契約には規律の一部を適用しないもの とするとされた。 開示に関する規律については, その内容として, 被保険者, 内容の概要, 保険金額・保険料・保険給付の金額について案として示された。 上記以外の点については, 中間試案の通りとされている。 要綱案 (仮案) において, 適用範囲につき, 上記②から, 使用者賠償責任保険, 個人情 報漏洩保険, 任意の自動車保険が削除された。 開示につき, 上記②から, 保険金額・保険 料・保険給付の金額が削除された。 要綱案 (仮案2) において変更はない。 既に実務において定着している D & O 保険を会社法において明文化することについて は違和感を覚えたものの, 明文化されたことにより現状の実務に影響を与えることを当局 も意図するところではなく, 単に法的安定性を図られるための明文化であることから, 反 対はしないが, 今後において実務に対して与える影響を注視したい。 2 社外取締役の活用等 業務執行の社外取締役への委託 パブリックコメントでは, 本研究会をはじめとして賛成派が圧倒的多数となり, このよ うなセーフ・ハーバー・ルールの設置は, 社外取締役の社外性を失うことなく社外取締役 に期待される機能の円滑な実現を可能にするという意見が多く挙げられた。 一方, 少数で はあるが, 現行の実務で支障が生じていないことから規律を設ける必要性のなさを指摘し た反対意見もあった。 具体的には, 当該規律を設けることにより, 「当該株式会社の業務 を執行した」 (会社法第2条第15号イ) に関する現在の解釈を変更するものでないことな どを明らかにすべきである, 又, 中間試案第2部第2の1①の 「株式会社と取締役との利 益が相反する状況にある場合その他取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の 共同の利益を損なうおそれがある場合」 の意義を明らかにすべきという指摘がなされた。 これを受けて部会でも当該提案に対しての異論はなく, 賛成の意向を示したうえで, 上記 2点の指摘のうち前者については, 「当該規律は現行法の解釈上そもそも業務の執行に当 たらないと評価されている行為について, 当該規律によらない限り業務の執行にあたるも のとすることを意図するものではない。」 と明記している。 後者については, 会社法第356 条第1項第2号及び第3号に掲げる場合のほか, 株式会社が取引の当事者とはならないも
のの, 取引の構造上取締役と株主との間に利益相反関係が認められると評価されるマネジ メント・バイ・アウトの場合及びキャッシュ・アウトや株式会社と親会社との間の取引と いった少数株主と支配株主との間の利害が対立し得るときであって, 経営者が支配株主の 利益を優先し, 少数株主の利益をないがしろにすることが懸念され得る場合が典型例とし て検討された。 さらに, 「その他取締役が株式会社の業務を執行することにより 株主の 共同の利益 を損なうおそれがある場合」 という表現がキャッシュ・アウトの場合を念頭 においたものとして適切ではないという指摘についても再検討された。 その結果, 要綱案 のたたき台において, 中間試案第2部第2の1①の 「株主の共同の利益」 が 「株主の利益」 に修正され, 「第399条の13第5項各号に掲げる事項に, ①による委託を追加するものとす る。」 という注釈が追加された。 その後, 要綱案に至るまで変更された点はなく, 概ね中 間試案を採用した形となった。 中間試案からパブリックコメント, その後の要綱に至るま で, 一貫して当該規律を採用する姿勢が採られていたが, この過程及び内容について異議 を唱える点はない。 監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任 パブリックコメントでは, 本研究会が賛成していた 「現行法の規律を見直さない」 とす る B 案が若干多数となった。 B 案賛成の意見としては, 機動的な業務執行の決定の要請 等については, 指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社の機関設計に移行すること で対応することができる, 監査役 (会) 設置会社においても, 任意に委員会等を設置する ことによりガバナンスの強化に努めることが可能であるといった旨が挙げられた。 これに 対し, 「監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定を取締役に委任できる」 とする A 案賛成の意見としては, 監査役設置会社についても迅速な意思決定に悪影響が あることや会社の基本的な経営方針等の議論に咲く時間が取れないという問題点に対処す ることができるような枠組みを整備するべきであるといった旨が挙げられた。 これを受け て第12回部会においては, A 案を採用した場合, 監査役の存在意義が薄れることや企業の 機関設計の選択の混乱を招くおそれがあること, また, パブリックコメントにおける経済 団体の支持の低さ等から敢えて現段階で採用する必要性がない等, 審議会において支持が 得られず, 要綱案たたき台において, この項目が削除され, 要綱においても採用は見送ら れることとなった。 当該規律に関しては, 当初本研究会が示したように, 監査役の取締役 会における監督機会を減らし, その監督機能を弱体化させてまで, 取締役会の監督機能を 強化すべきでないと考えており, 今回採用が見送られることになった結果は妥当であると 考える。 社外取締役を置くことの義務付け パブリックコメントでは, 本研究会は 「現行法の規律を見直さない」 とする B 案に賛
成するとしていたが, 結果は 「社外取締役の設置を義務付ける」 とする A 案が若干多数 となった。 A 案賛成の意見としては, 不祥事が多発するといった現状下において, 実効性 の高い監督の強化・実現に対して有用である, 東京証券取引所の上場会社による社外取締 役の選任状況に照らせば, 社外取締役の選任義務化を行なった場合の負担等の観点からも, 大きな問題とならないといった旨が挙げられた。 これに対し, 本研究会を含めた B 案賛 成の意見としては, 会社法は多様な制度設計を認めているため, 社外取締役の設置の判断 はあくまで会社の自治・裁量に委ねるべきである, 社外取締役を置かない上場企業に対し 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務を課す現行制度で十分であり, 規律を 見直す必要はないといった旨が挙げられた。 これを受けて法制審議会においても意見が分 かれ, 複数回議論がなされた。 法制審議会における B 案の賛成意見としては, 既に社外 取締役を選任している上場企業等であっても, 実質的に補欠を含めて2人以上の社外取締 役を確保する必要があり負担が大きいといった意見やガバナンスのあり方については個々 の企業で創意工夫すべきといった意見が挙げられた。 A 案の賛成意見としては, 我が国の 資本市場全体の環境整備のためには最低限満たすべき基本的な要件として, 社外取締役に よる監督がされることを画一的に要求すべきであるという指摘及び B 案を採用した場合, 社外取締役を置くかどうかの判断は経営者に委ねられると考えられるが, その場合, 社外 取締役の監督を受ける立場である経営者が自律的に社外取締役を置くという判断をするこ とが期待されない等の意見が挙げられた。 最終的に要綱案たたき台では, パブリックコメ ントにも留意した上で, A 案に賛成する方向に収束した。 要綱案 (仮案) では, A 案を採 用した場合において, その影響が社外取締役を1名選任することにとどまらないことを懸 念する旨の指摘について議論がなされたが, 社外取締役に欠員が生じたことが直ちに取締 役会決議の効力に影響すると考える必要はないとし, A 案に不備はないという見解を示し た。 その結果, 要綱においても A 案をそのまま採用した形となった。 現行法による監査 役及び監査役会の監督で十分であり, また, 株式会社のガバナンスのあり方は各企業が創 意工夫すべきという意見に賛同するため, 私見としては社外取締役の義務化が要綱におい て採用されたことは残念である。 第三部 その他 1 社債の管理 社債管理補助者 社債管理者の設置義務を定めた会社法第702条の例外規定を活用し, 我が国では社債管 理者不在の社債の発行が多数を占めているのが実態である。 近年デフォルト等の問題が生
じた事実に対して, 問題意識が持たれている背景からか, 社債管理者の権限を限定した 「社債管理補助者」 という新しい資格者設置 (但し任意) の提案には, パブリックコメン トにおいて, 大いに賛同を得た。 結果, 理解を促進する為の文言の修正以外の主な論点は 以下の3点に絞られた。 ①社債管理補助者の資格として, 社債管理者は法人であることが 想定されていたが, 自然人, 例えば弁護士が補助者となった場合の対応をどのように考え るか, ②利益相反行為に対する懸念をどうするか, そして, ③社債管理補助者の権限につ いて, 社債管理者との比較において, どこまで付与するかという点である。 まず, ①である。 社債の償還期間が長期にわたる為, 自然人を受け入れることで, 途中 で死亡等により社債管理補助者が不在となる可能性についての対応が必要である。 「事務 の継承」 という項目が設けられ, 社債管理者 (法人) の解散の場合の条文第714条同様の 規定の適用について検討され, また社債管理補助者の解任についても追明記されている。 要網案たたき台において修正され, 細かい文言の改善は行われたが, 主旨はそのまま変更 なく要網案とし, 自然人への対応がなされたと言えよう。 次に②の懸念は, 弁護士や弁護 士事務所は, 金融機関のように公的な規制が課されているわけではないため, 利益相反の おそれが生ずるというものである。 しかし, そもそも利益相反は, 社債管理補助者に課し た公平誠実義務に反するものである為, 中間試案からの条文修正という形ではなく, 懸念 の払拭のためには弁護士会の会則等による適切な実務対応のルール作りが必要であると説 明している。 ちなみにその後, 日本弁護士連合会からは体制の整えを行うと声明が出され ている。 最後の③は意見が分かれたところである。 社債管理補助者が社債権者集会の決議 によらなければしてはならない行為の中に, 機動的な対応や緊急性が求められる, 仮差押 え・仮処分等の債権保全手続きや倒産手続きにおける債権査定の申し立てを含むかどうか という点である。 仮差押さえ等は時間の制約上の課題がある為社債権者集会の決議に含め るべきではないという反対意見である。 社債管理者は社債権者集会の決議によらず異議を 述べる権限を有するが, 社債管理補助者は, 基本的に社債発行会社と社債権者との間の情 報伝達の仲介を中心的な職務と位置付けている以上, 社債権者集会の決議によらない行為 は限定的にならざるを得ない。 結論としては, 社債管理補助者は社債管理者よりも責任に ついて厳格な規定を設けないという基本的な位置づけであることから, 債権保全手続は社 債権者集会の決議によらずに行うことを認めるのは難しいとした。 また倒産手続きにおけ る債権査定の申立ても, 債権の届出後の問題となり, 社債権者において期限を徒過するお それは債権届出 (注:中間試案で社債管理補助者の権限として明確化された) の場合ほど に懸念されないとし, 要網案たたき台においては, 中間試案からの文言の改善のみに留め, その後変更なく要網案となった。 なお, 本研究会は, 仮差押え等の時間が差し迫っている 等の実態に即さない点があるのではないかという懸念を持っており, 反対意見に賛成であっ
たことを付け加えておく。 以上, 中間試案との比較において, 要網により, 現行の社債管理者に準じて自然人が社 債管理補助者となれる為の法改正への対応が進んだと言えよう。 社債権者集会 ① 元利金の減免 社債権者集会決議により, 社債の元本及び利息の全部又は一部の免除を認めることにつ いて, 当研究会から 「社債とは会社と債権者の金銭消費貸借契約の側面を持ち, あくまで 契約は個人の合意が不可欠であり, 社債権者集会決議で減免を決定するのは, 全員一致の 場合を除き相当ではない」 と反対意見を申し入れたが, 賛成多数につき, 却下された。 賛 成意見は, 「社債発行会社の破綻より確実に社債を回収したい場合の為に明文化をする」 というものであった。 要網案たたき台の段階で, 文言の整えが行われ, その後変更なく要 網案とした。 なお, 賛成理由の背景として, 一部でも回収したいという個人への考えを多 数決で契約上の全個人の合意とすると言う意見が採択されたが, 個人毎の合意を基本とす るという当研究会の意見とは議論が噛み合わず残念である。 ② 社債権者集会の決議の省略 パブリックコメントの反対意見はなく, また, 適切であるとの意見が多く寄せられたた め, 社債権者全員が同意した場合の社債権者集会の決議の省略が出来るという, 中間試案 の内容で要網案たたき台において文言が整えられ, その後変更なく要網とした。 2 株式交付 株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け, 当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付するという制 度が新設される。 株式交付計画の作成, 事前開示, 株式交付契約, 株主総会の特別決議, 事後開示という株式交付親会社の手続きを経て, 効力発生日に株式交付親会社は株式交付 会社の株式を譲り受けるものとなる。 株式交付親会社の株主は一定の場合に差止請求権と 株式買取請求権を有し, 株式交付親会社の債権者は一定の場合に異議を述べることができ る。 株式交付の無効の訴えも会社法828条以下に新設される。 パブリックコメントでは賛 成意見が多数であり, 反対意見を述べるのは当研究会を含め3か所であり, ほぼ中間試案 のまま要綱に至っている。 要綱案 (仮案) 24頁の補足説明において会社法211条と同様の 規律を設けること, 同26頁において株式交付親会社は効力発生日を変更することができる ものとするという内容が追加されている。
3 その他 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解 株式会社が, 当該株式会社の取締役 (監査等委員及び監査委員を除く) 等の責任を追及 する訴えに係る訴訟における和解をするためには, 監査役等の同意を得なければならない とする。 パブリックコメントではすべて賛成意見であり, 中間試案のまま要綱となった。 議決権行使書面の閲覧等 会社法311条4項の請求をする場合において, 当該請求の理由を明らかにしてしなけれ ばならないものとし, 株式会社は4つの場合に該当する場合を除きこれを拒むことが出来 ないとする条文が新設されることとなった。 パブリックコメントでは一定の場合において 議決権行使書面の閲覧等を制限することについて意見が分かれた (当研究会は賛成)。 試 案①に反対意見はなかった。 試案②アについて意見が分かれたが (当研究会は B 案に賛 成), ②イからエまでについて反対意見はなかった。 2の注について反対意見はなかった。 要綱では, 当研究会も賛成した B 案が採用された。 株式の併合等に関する事前開示事項 パブリックコメントでは反対意見はなく, 中間試案のまま, 要綱となった。 会社の登記に関する見直し ① 新株予約権に関する登記 パブリックコメントでは意見が分かれたが, 要綱では, 当研究会も賛成した B 案が採 用され, 新株予約権に関する登記事項についての規律を改め, 募集新株予約権の払込金額 を登記しなければならないものとなった。 ② 会社の支店の所在地における登記の廃止 パブリックコメントにおいてすべて賛成意見であり, 試案のまま, 要綱においても会社 法930条から932条までが削除されることになった。 取締役等の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備 中間試案にはなかった提案であり, 要綱案のたたき台において, 会社法331条第1項第 2号を削除し, 新設されることになった。 お わ り に 中間試案で提案された内容のまま, 要綱に引き継がれたものが多いが, 取締役の報酬の 決め方においては, 後退した。 当研究会は中間試案に対するパブリックコメントにおいて, 新設される制度について反対したものが多い。 残念ながら, 2019年1月28日に召集された 第198回通常国会には提出されなかったので, 今回の改正が成立し, 施行されるまでには
まだ時間がある。 反対した箇所については, 引き続き, 問題点等検討を続ける予定である。 注 1) 商事法務2160号 (2018年) 7 頁以下。 2) 関西学院大学 IBA 会社法判例研究会の意見として法務省宛てに提出したものに加筆修正し たのが, 「会社法制 (企業統治等関係) の見直しに関する中間試案」 に対する意見 B & A 21 号 (関西学院大学経営戦略研究会, 2018年) 95頁以下である。 3) 商事法務2198号 (2019年)。 4) 商事法務2191号 (2019年) 5 頁。 5) Ⅰは岡本, Ⅱは畑山, Ⅲの1は川沼, Ⅲの2は杉本, Ⅳの1は森本, Ⅳの2と3, Ⅴは岡本 が担当した。