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培養細胞を用いた温熱療法の効果判定に関する研究

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はじめに  理学療法では褥瘡部の創傷治癒に電気刺激や超音 波、紫外線照射が適応されることがある1)∼3)。ま た温熱療法4)、5)の一つである赤外線療法は以前、 褥瘡や皮膚潰瘍に有効とされていたが、最近では推 奨されないという報告もある3)。そのため温熱療法 による創傷治癒の促進作用については、培養細胞実 験による最適有効量の決定と効果発現機序の解明が 重要であり、基礎研究の成果が待たれている。  つまり温熱療法の最適有効量は単に循環の改善や 代謝の促進のみならず、結合組織の分裂を促進させ る作用がある。しかしハイパーサーミア(温熱)療 法はガン細胞の分裂を阻害してアポトーシスを誘導 する。この両者の温熱療法に対する細胞反応は、温 熱量の設定が極めて重要となり、結合組織とガン組 織とは反応が異なる。したがってハイパーサーミア の効果発現機序は、温熱療法にも示唆を与えるもの であると考える。  近年、ハイパーサーミアの効果発現機序に関する 基礎研究の進歩は著しい。温熱刺激による細胞死や シグナルトランスダクションの仕組みが明らかにな り、温熱処理は細胞をアポトーシスに導く細胞死と

培養細胞を用いた温熱療法の効果判定に関する研究

平上二九三 元田弘敏 井上茂樹* 若竹雄治 加納良男**

Heat Shock-Induced Three-Dimensional-Like Proliferation of Normal Human Cells Mediated by Pressed Silk

Fukumi HIRAGAMI,Hirotoshi MOTODA,

Shigeki INOUE* ,Yuji WAKATAKE,Yoshio KANO** 要   旨  本研究の目的は、培養細胞に温熱刺激を与え三次元様増殖の形成過程から、温熱効果の最適有効量の 決定と効果発現機序を明らかにすることであった。ヒト線維芽細胞と平面絹を混合し 37、40、43、45℃ で各 10 分間の温熱刺激を与え三次元様増殖の形成過程を 5 週間観察した。その結果、温熱処理後 2 週 間目の三次元様増殖の出来かけの割合が、温熱効果を敏感に反映していた。出来かけの割合は、40℃ 10 分間群は非処理対照群の 3.2 倍、43℃ 10 分間群が 8.6 倍と高率となり、それぞれ有意差がみられた (p<0.05)。また、43℃ 10 分間の温熱処理では 1 週間後に 7.5%がアポトーシスになっていた。ウエスタ ンブロット分析により 43℃ 10 分間の温熱処理によって p38 MAP キナーゼと Hsp27 の活性化が明らか であった。これらの結果から、p38 MAP キナーゼは三次元様増殖に働き、Hsp27 はアポトーシスを阻止 していることが判明した。本研究結果は最適有効量を決定するための温熱療法の基礎となり、温熱療法 の効果判定を分子生物学的に示すための重要な知見になると考えられる。 キーワード:温熱刺激、正常ヒト細胞、平面絹、三次元様増殖

Key words:Heat treatment,Normal human cells,Pressed silk,3D-like proliferation patterns

吉備国際大学保健科学部理学療法学科 〒 716−8508 岡山県高梁市伊賀町8 *吉備国際大学大学院保健科学研究科 〒 716−8508 岡山県高梁市伊賀町8 **吉備国際大学保健科学部作業療法学科 〒 716−8508 岡山県高梁市伊賀町8

Department of Physical Therapy, School of Health Science, KIBI International University 8, Iga-machi, Takahashi-City, Okayama 716-8508, Japan

Graduate School of Health Science, KIBI International University

8, Iga-machi, Takahashi-City, Okayama 716-8508, Japan

**Department of Occupational Therapy, School of Health Science, KIBI International University

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細胞増殖に導く生存のシグナルを同時に誘導してい ることが判っている6)。熱ショックに曝されると細 胞応答として Hsp70 や Hsp27 および Akt のような 熱ショックタンパク質の合成が誘導される7)∼ 10) ストレス誘導 MAP キナーゼファミリーの一つであ る p38 MAP キナーゼは、熱ストレスが引き金となっ て発現される熱ショックタンパク質として主要なも のである11)  われわれは、C3H10T1/2 マウス線維芽細胞とハイ ドロキシアパタイト(以下、HA)を混合し、40∼ 45℃で 2 ∼ 360 分間の温熱刺激を与えて 10 週間観 察した。すなわち、マウス線維芽細胞を用い温熱刺 激を与え HA と混合培養すると、HA の周りを囲ん だ細胞が立体的に組織形成した三次元様増殖が促進 されることを見いだし、三次元様増殖形成率をパラ メータとして温熱療法の最適条件に関する研究を 行ってきた12)∼ 18)。さまざまな温熱条件を設定し三 次元様増殖形成の最適有効量を決定した。その結果、 三次元様増殖形成の最適有効量は 43℃ 10 分であっ た18)ことや、三次元様増殖形成の効果発現機序は p38 MAP キナーゼの経路を介していることを突き止 めた17)  今回、これらの研究成果をさらに発展させ、臨床 に資する知見を得るため新たな実験を行った。これ までの研究では、マウスの線維芽細胞を使ってきた が、今回はヒト線維芽細胞を用いて培養実験を行う。 つまり、ヒト細胞での研究成果は早期の臨床応用に 期待がもてることになる。また、これまで用いた担 体の HA は生体活性に優れ、歯科や整形外科領域で 臨床実績があった。一方、シルク繊維は優れた機械 的物性と生体内安定性および優れた加工性があり、 手術用の縫合糸としての臨床実績がある。本研究で は、HA に替えて初めてシルク繊維を用いる。線維 芽細胞が分泌するコラーゲンは、カルシウムの結合 体である HA よりも、シルクタンパクの方が接着性 に優れ親和性が高いと考えられる19)∼ 22)。さらに三 次元様増殖に p38 キナーゼに加えて、その下流にあ る転写因子の Hsp27 の働きについて調べ、細胞内 の熱ショック応答を探る。  本研究の目的は、ヒト線維芽細胞の平面絹を媒体 とした三次元様増殖に有効な最適温熱量を決定する ことであった。あわせて、熱ショックによる細胞応 答を調べる実験を行い、温熱療法の効果発現機序を 明らかにすることを目的とした。 対象および方法 1.細胞と培養  本実験に用いた細胞は、新生児包皮由来(ヒト) 線維芽細胞(倉敷紡績株式会社)である。新生児包 皮由来線維芽細胞は、正常なヒトの新生児包皮から 採取し、純粋の皮膚線維芽細胞として分離された初 代培養細胞である。この細胞は、熱処理をした牛胎 児血清を 10% とジェンタマイシン(50 ㎍ /mL)を 加えたイーグル MEM 培地(ヒト線維芽細胞)で継 代し、維持した。細胞の培養は炭酸ガス培養器を用 いて5%CO2・37℃で行い、培地交換は 3 日おきに 行った。継代は、細胞がフラスコ(FALCON,25 ㎠) 一杯になると 0.25% トリプシンで処理し、1×105 個を新しいフラスコに播き直すという方法で行った。 2.平面絹の準備  繭糸(シルク)は古くより手術用縫合糸として使 用され、優れた強度と安全性を有した天然物由来素 材である。独立行政法人農業生物資源研究所の竹澤 らにより、繭糸を平面状に加工した絹糸構造物を平 面絹の担体として開発されたもの19)を使用した。 平面絹はほぼ 0.5 ㎜四角に切った後、100%エタノー ルで滅菌処理後に乾燥させた後、100 枚をフラスコ 内に挿入し混合培養に用いた。 3.温熱処理の方法  温熱刺激装置は、温水槽(ヤマト、Water Bath Shaker Personal-11)を用いた。フラスコ一杯に増殖 したヒト線維芽細胞をトリプシンで剥がし、同時に 滅菌した平面絹 100 枚または HA を 100 個加えて混 合培養した。温熱刺激としては、37、40、43、45℃ で各 10 分間の温熱処理を行った。予備実験でフラ スコ内の培養液の温度を Spot Thermometer(ミノル タカメラ;TA-0510)で測定した。その際、フラス コを温水槽に浸してから熱平衡に達するまでの時間

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を求めた。たとえば 43℃ 10 分間の場合、3mL の培 地が入ったフラスコを 44.3℃の温浴槽に浸けると、 3 分後に 43℃の熱平衡に達したことから計 13 分間 浸した。温熱処理後は、CO2インキュベター内で静 置培養した。 4.三次元様増殖形成の観察  細胞は温熱処理後、培養 1 週目から 10 週間に わたって経時的に倒立型位相差顕微鏡(ニコン、 TMS-F)を用いて、倍率 40 倍で増殖形態を観察し、 さらに写真撮影を行った。平面絹の全周を囲んで肥 厚した細胞群が出現したものを三次元様増殖とし、 その形成過程を詳細に観察した。統計処理は、独立 した実験を 3 回以上行い、有意差の検定は一元配置 分散分析を行い、危険率 5%をもって有意差とした。 5.熱ショックによるサバイバル実験  正常ヒト線維芽細胞に対し 40、43、45、47℃で 各 10 分間の熱ショックを与え一週間培養した後、 0.2%のトリパンブルーで染めて生き残った細胞を カウントした。また細胞生存率の実験はトリパンブ ルーだけでなく、最も正確なコロニー形成法で行い 明確にした。それぞれの値は 5 回行ったときの平均 値と標準偏差で示した。 6.p38 MAP キナーゼの検出と Hsp27 の検出  活性化した p38 MAP キナーゼと Hsp27 の検出は 免疫ブロット法によって行った。方法は、ヒト線維 芽細胞 100 万個を 25 ㎠のフラスコに播き、10%ホー スシーラムを含む培地で3日間培養し、その後、さ らに 0.5%の FBS を含む培地で 2 日間培養し、無血 清条件下で 30 分間作用させて、43 ℃ 10 分間の温 熱刺激を与えて p38 MAP キナーゼと Hsp27 活性を 測定した。測定は細胞から全蛋白質を抽出し 10% ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画後ポリビ ニールメンブレンにブロットした。ブロットした蛋 白質はリン酸化 p38 抗体を作用させてリン酸化した p38 MAP キナーゼの検出を行い、またリン酸化し た Hsp27 の検出を行った。 結  果 1.温熱処理による三次元様増殖の形成  温熱処理後、平面絹周辺の細胞の増殖形態を詳細 に 5 週間観察した。43℃ 10 分間の温熱処理後 1 週目、 ほとんどの平面絹が細胞シートに結合し浮遊してい るものは極わずかであった。同様に 1 週目になると、 三次元様増殖のきざしが観察されるようになってき た。2週目になると、平面絹の半周以上を囲んで重 層した三次元様増殖の出来かけのものが多く観察さ れた。なかには平面絹のほぼ全周を囲んで重層して いるものの全周に至っていない三次元様増殖のほぼ 形成が観られた。3 週目では、平面絹の全周を完全 に囲んで重層した三次元様増殖の形成がいくつか観 察されるようになってきた。このことから三次元様 増殖の形成過程にはきざし、出来かけ、ほぼ形成、 形成があることが見いだされた(図1)。 2.温熱処理による三次元様増殖形成率と経過  実験開始から 2 週間後、平面絹周辺の細胞が熱 ショックの影響を受けていた。そこで 37、40、43、 45℃で各 10 分間の温熱処理後 2 週間目に三次元様 増殖の出来かけの割合(出来かけの平面絹の数/平 面絹の総数)を調べた。実験開始後 2 週間目の三次 元様増殖の出来かけの割合は、37℃の非処理対象群 が 5.0±3.4%、40℃ 10 分間の温熱処理は 15.8±5.5%、 43℃ 10 分間の温熱処理は 43.0±11.6%、45℃ 10 分 間の温熱処理は 2.5 ± 5.0% であった(図2)。三次 元様増殖の出来かけの割合は、非処理対象群に比べ 45℃処理群では 0.5 倍であるものの、40℃処理群は 3.2 倍、43℃処理群では 8.6 倍と高率となりそれぞ れ有意差がみられた(p < 0.05)。 3.熱ショックによる細胞死  温熱刺激による細胞ダメージをサバイバルカーブ として図3に示した。細胞生存率は 40、43、45℃ で各 10 分間の温熱刺激を与え 10 日後、コロニー 形成法で明確に調べた。この実験を 5 回繰り返した 結果、45℃ 10 分間の温熱刺激を与えた群では 10 日 後約 50% がアポトーシスになったが、43℃ 10 分間 の温熱刺激を与えた群では 10 日後アポトーシスに

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至ったものは 7.5%であった。 4.p38 MAP キナーゼと Hsp27 の活性化   活性化した p38 MAP キナーゼと Hsp27 の検出は ウエスタンブロット法により行った。43℃ 10 分間 の温熱処理をしたものについて p38 MAP キナーゼ と Hsp27 の活性化が認められた(図4)。この結果 より、p38 MAP キナーゼは三次元様増殖に作用し、 Hsp27 はアポトーシスを防御する重要な役割を担っ ていることが示された 考  察  これまでの研究は、三次元様増殖に温熱刺激が効 果的に働く最適量を示すことを目的としてきた。つ まり、C3H10T1/2 マウス線維芽細胞と HA を混合し、 さまざまな条件下で温熱処理を行った後 10 週間培 養した。三次元様増殖の形成は温熱処理後 5 週間目 に観察され始め、その後、形成率は 8 週間後にピー クとなった。本研究では三次元様増殖の最も高い形 成率が、温熱療法の効果を細胞生物学的に示す指標 として有用であると考えてきた。  今回、新たな研究として行った実験では、ヒト線 維芽細胞と平面絹を混合し、温熱処理後の増殖形態 の変化を詳細に観察した。三次元様増殖の形成は温 熱処理後 3 週間目に観察され始め、その後、形成率 は 7 週間目にピークとなった。つまり、ヒト線維芽 図1 平面絹を媒体とした正常ヒト線維芽細胞の三次元様増殖形成 上の図(Ⅰ、Ⅱ):平面絹と正常ヒト線維芽細胞を混合培養し、43℃ 10 分間の温熱処理後 1 週間(Ⅰ)と 2 週間(Ⅱ)経過 したもの。下の図(Ⅲ、Ⅳ):43℃ 10 分間で温熱処理し、その後 2 週間(Ⅲ)と 3 週間(Ⅳ)経過したもの(位相差顕微鏡像・ 倍率 40 倍)。真ん中の黒いものが平面絹で、その縁で白く光って見えるのが細胞の重層による三次元様増殖を示す。Ⅰ・Ⅲ・Ⅳは同 一の平面絹を示しているが、ⅡとⅢは同じ 2 週間目のものであることから異なった平面絹である。

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た。本研究のヒト線維芽細胞と平面絹の実験では、 43 ℃ 10 分間の温熱処理後 2 週目の三次元様増殖の 出来かけは 43.0%であった。けれども、マウス線維 芽細胞と平面絹の実験で出来かけは 26.0%であった (未発表データ)。また、マウス線維芽細胞と HA の 実験では、温熱処理後 2 週目で三次元様増殖の出来 かけは観察されず、3 週目で始めて 15.0%が観察さ れた18)。したがってこの実験による三次元様増殖の 出来かけが、温熱療法の効果判定を表す指標として 有用であると考えられた。  HA は、骨や歯の補填材料として広く臨床におい て活用されている。HA〔化学式 Ca10(PO4) (OH)6 2〕

は、30 ∼ 200 ㎛の連続した微小気孔をもつ多孔体 顆粒であった。一方最近、シルク繊維は、生体親和 性(生体吸収性が高く毒性がなく生体になじみやす い担体)に優れ生体材料として開発が進められてい る21)。繭糸を材料とした平面絹は、靱帯や腱などの 結合組織を再構築するために開発された19)。ヒト線 図2 40、43、45℃ 10 分間の温熱処理による三次元 様増殖の出来かけの誘導 40℃ 10 分間群と 43℃ 10 分間群では非処理対象群に 比べ有意に高い割合を示した(p<0.05)。 図3 正常ヒト線維芽細胞が生き残る温度の影響 細胞は 40℃ 10 分間と 43℃ 10 分間および 45℃ 10 分 間処理された後 37℃に維持された。37℃のインキュ ベーターで静置培養し 10 日後に各フラスコの細胞数 を計測し、熱ショックに至らなかった細胞をパーセン テージで示した。それぞれの値は 5 回行ったときの平 均値と標準偏差を示す。 細胞の三次元様増殖はマウス線維芽細胞より、温熱 処理後早期に形成されたことが判明した。三次元様 増殖の形成は、担体の全周を完全に囲んでいるもの をカウントしてきたが、その過程には全周の 1/2 以 上を囲んだ三次元様増殖の出来かけが多く観察され た(図1)。  これまでの研究と今回の研究の両方とも、三次 元様増殖に最適な温熱処理は 43 ℃ 10 分間であっ 図4 熱ショックによる正常ヒト線維芽細胞の p38 MAP キナーゼと Hsp27 の活性化 細胞に無血清下で温熱処理をしなかったものと 43℃ 10 分間温熱処理したもので、活性化した p38 MAP キ ナーゼと Hsp27 の検出を行った。

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維芽細胞は、無機質な HA よりも有機成分の平面絹 により強く接着したものと推察された。絹の成分は アミノ酸タンパクのセリシンと頑丈な繊維タンパク であるフィブロインの二つから構成されている20) 加えて、ヒト線維芽細胞の高いコラーゲン分泌物と 天然生物由来のシルク繊維は、アンカリング効果(コ ラーゲンがシルクタンパクに碇をおろして接着する 状況)で強く接着したものと推察された22)。それ故 に、HA より平面絹の方がより早期に三次元様増殖 が形成されたものと考えた。  われわれは、ヒト線維芽細胞に熱ショックを与え 細胞生存率を調べる実験も行った。45℃ 10 分間で 温熱処理したものでは、1 週間後に 50%がアポトー シスに至った(図3)。45℃ 20 分間で温熱処理し たものについては、実際に培養 1 週間後に詳細に細 胞を染色してみたところ、アポトーシスがかなり観 察されるなど細胞にダメージが与えられたことが観 察された。43℃ 10 分間で温熱処理したものでは、1 週間後に 7.5%がアポトーシスとなっていた。この 結果から熱ショックによる細胞損傷後の機能回復が 三次元様増殖に至ったものと考えられる。本研究結 果から、細胞レベルから温熱療法の最適有効量を決 定するための研究意義が示唆される。この三次元様 増殖は、熱ショックにより細胞外環境の変化が閾値 に達した結果、遺伝子発現が起こり、細胞外マトリッ クスが多量に合成されたことにより形成されたので はないかと考えた。  三次元様増殖形成のための温熱刺激の最適有効量 は 43℃ 10 分間であった(図2)。43℃ 10 分間とい う最適有効量の温熱刺激が与えられた細胞は、細胞 損傷からの機能回復過程で三次元様増殖を形成した ものと考えられた。ストレス誘導 MAP キナーゼファ ミリーの一つである p38 MAP キナーゼと、その転 写因子である熱ショックタンパク質の Hsp27 は、 細胞外ストレスが引き金となって発現される 2 つの 重要な蛋白であることが知られている7)。このこと から p38 MAP キナーゼのシグナル伝達を介して Hsp27 が発現し、細胞外マトリックスの形成により 図5 温熱誘導シグナルトランスダクション(細胞内シグナル伝達経路) 温熱は細胞にアポトーシスに導く細胞死と細胞増殖に導く生存のシグナルを同時に誘導している。p38 は温熱誘導の細胞生 存シグナルとして温熱による細胞増殖に作用する。また Hsp27 は p38 の下流にある転写因子で、熱ストレスに対する直接的 な保護作用がある。

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三次元様構造が作られるものと推察される。ウエス タンブロット分析により 43℃ 10 分間の温熱刺激に よって明らかに p38 MAP キナーゼと Hsp27 の活性 化がみられた(図4)。温熱刺激によるヒト線維芽 細胞のサバイバルの実験では現在、Hsp27 の活性阻 害剤である KNK437 によって細胞生存率が強く抑 制される10)ことも調べている。これらの結果から、 p38 MAP キナーゼは三次元様増殖に働き、Hsp27 は アポトーシスを阻止していることが示唆された(図 5)。温熱が誘導する Hsp27 は、ミトコンドリアか ら流出されるアポトーシス誘導タンパクのチトクロ ム C と結合してアポトーシスを防御する8)。このチ トクロム C は Apoptosome 形成を誘導しカスパーゼ 3 などを活性化してアポトーシスを誘導する。  さて、理学療法において温熱療法で多用されてい るホットパックは、皮膚表面温度は 8 分後に 42.5℃ まで達するが、1 ㎝以上の深部においては 38℃以上 には達しない4)。つまり、ホットパックの温熱効果 は皮下 1 ㎝までが限界で、皮下 5 ㎜程度では加温効 果が高いことが知られている。また、マイクロ波治 療では照射 10 分後に表層から 1.6 ∼ 2.6 ㎝の深部で は 44℃付近にも達しているという報告がある5)。一 方、赤外線療法では波長が長ければ深達性が高く、 皮下組織の温熱効果が期待できる。生体深達性の高 い波長帯(0.6 ∼ 1.6 ㎛)の直線偏光近赤外線治療が、 創傷促進作用を有し臨床応用されている。また最近 の研究では、湿潤環境が創傷治癒に適することから 赤外線療法は推奨されないとも言われている3)。さ らに超音波療法は温熱効果というより非温熱効果で ある機械的振動刺激が細胞膜に働き、結果として結 合組織におけるコラーゲン合成や線維芽細胞の増殖 作用を促進すると考えられている2)。加えて近年、 褥瘡部の創傷治癒に有効な治療として推奨さている のは電気刺激療法である。電気刺激により創傷部を 陽極に帯電さすことで殺菌効果が得られ、あわせて 線維芽細胞を電気走性させることで肉芽増殖形成の 促進がはかれると考えられている。最近、この電気 刺激の効果機序を裏付けるものとして特定の遺伝子 が関与していることが報告された1)。しかしながら 物理療法で創傷治癒に決定的な有効性が確認された ものはなく、基礎研究の成果が待たれている。これ らのことから本研究の温熱効果が細胞レベルでの最 適有効量が 43℃ 10 分であったという結果は、温熱 療法の設定温度や治療時間などの適用量を決定する 場合に考慮されるべきであろう。  本研究結果は温熱療法の最適有効量を決定するた めに重要な知見となる。細胞レベルでの最適有効量 は、温熱療法で最適な温熱量とほぼ一致した。この ことから、培養細胞を用いて温熱療法の最適有効量 を決定するという本研究の意義が示唆された。 Abstract

The aim of this study was to determine the optimal heat treatment conditions for enhancement of pressed silk-mediated 3D-like proliferation of normal human fibroblasts, as well as to determine the responses to heat shock of cells and intracellular signaling pathways. Normal human fibroblasts were cultured with pressed silk for 5 weeks after heat treatment at 37, 40, 43 and 45℃ for 10 min. In the second week after the start of the experiment, the optimal condition of heat treatment for induction of beginning of 3D-like patterns formation of cells was determined. The mean rates of beginning of 3D-like patterns formation by cells heat-treated at 43 and 45℃ for 10 min were significantly higher(3.2- and 8.6-fold respectively)than that by untreated cells (p<0.05). We found that apoptosis had occurred in 7.5 and 50.0% of the cells at one week after heat treatment at 43 and 45℃ for 10 min, respectively. Western-blot analysis demonstrated that phosphorylation of p38 MAPK(mitogen-activated protein kinase)and Hsp27 were markedly increased by heat treatment at 43℃ for 10 min. These findings suggest that activation of p38 MAPK by heat shock is associated with 3D-like cell proliferation and that Hsp27 contributes to the induction of apoptosis. The results of this study should be useful for further studies aimed at elucidation of the physiologic mechanisms underlying thermotherapy.

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文  献

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