新自由主義の帰結としての世界金融危機
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(2) 第7巻. 第1章. 1.サ. 第1号. 新 自由主義の台頭. ッ チ ャー と レー ガ ンの 改 革. 1930年 代 の世 界 恐 慌 の経 験 か ら,第 二 次 大戦 後1960年 代 まで は,世 界 的 に政 府 が 税 制 や 社 会 保 障 を 通 じて,所 得 格 差 是 正 と恐 慌 予 防 な ど経 済 の 安 定 を 重 視 した 経 済 政 策 を 行 う こ とが 普 通 で,ア. メ リカで も自 由市 場 を 信 奉 す る政 治 家 で あ った と して も福 祉 政 策 に も言 及. しな けれ ばな らな か った 。 政 界 で も学 界 で も,市 場 の 自動 調 整 力 だ けで は安 定 的 な 経 済 成 長 は望 め ず,景 気 循 環 を 平 準 化 す るた め に国 家 の 経 済 へ の 介 入 が 必 要 で あ り,不 況 に よ っ て 失 業 者 が 急 増 しな い よ う に雇 用 を 守 る制 度 的 な 保 証 が 必 要 で あ る と考 え られ て い た 。 「市 場 の 失 敗 」 と い う概 念 は,ま だ ア メ リカ,イ ギ リスで も生 きて い た。 国 家 が重 視 す べ き こ と と して 完 全 雇 用,経 済 成 長,市 民 の 福 祉 は共 通 して お り,必 要 と あれ ば市 場 に介 入 し,場 合 に よ って は市 場 に取 って 代 わ る こ と も可 能 と され た 。 こ う した 政 策 が 行 き詰 ま るの は1970年 代 で あ る。 ア メ リカ はベ トナ ム戦 争 に よ って 多 額 の 財 政 赤 字 と,製 造 業 の 競 争 力 の 低 下 に よ る貿 易 収 支 の 赤 字 か ら,財 政 赤 字 と経 常 収 支 の 赤 字 の 「双 子 の赤 字 」 に 陥 り,ア メ リカ所 有 の 金 準 備 が 減 少 し ドル 相 場 を金 に 固定 す る IMFの. 根 幹 が揺 らい だ。 社 会 保 障 と軍 事 費 拡 大 を両 立 させ る(「バ タ ー も大 砲 も」)政 策 が. 行 き詰 ま った こ と は,不 況 下 の イ ンフ レと い う形 で あ らわ れ た 。 ケ イ ンズ 政 策 は,不 況 時 に財 政 支 出を 増 加 させ,需 要 を 喚 起 す る こ と に よ り不 況 を 軽 減 す る処 方 箋 を 用 意 して い る が,不 況 時 にイ ンフ レが お さ ま らず,停 滞 とイ ンフ レー シ ョ ンが 併 存 す る 「ス タ グ フ レー シ ョ ン」 に対 して はケ イ ンズ政 策 で は対 処 で きな か った 。 財 政 赤 字 は軍 事 費 の 削 減 か,社 会 保 障 費 の 削 減 か,増 税 か また はそ の 組 み 合 わ せ に よ って 解 消 す る ほか な か った が,富 裕 層 と 中産 階 級 は増 税 を 忌 避 し,減 税 と社 会 保 障 費 削 減 を セ ッ トに した 「小 さな 政 府 」 を 好 む 高 所 得 ・中所 得 層 の 要 求 を 背 景 に,公 共 事 業 や 社 会 福 祉 事 業 に政 府 が 資 金 を 投 じるの は 市 場 の調 整 力 を 乱 す もの で あ る との 市 場 重 視 の 自 由主 義 思 想 が ア メ リカ の 政 界,メ. ディ. ア,経 済 界,経 済 学 界 で 主 導 権 を 握 る こ と にな った 。1981年 の レー ガ ン政 権 以 来,社 会 福 祉 削 減 と民 営 化 に よ る 「小 さ な政 府 」,高 所 得 層 の 減 税 が 実 施 され,主 流 の経 済 思 想 は 再 び 自 由主 義(=新. 自 由主 義)に 転 換 す る こ と とな った 。. 新 自 由主 義 の 理 念 を 明 確 に掲 げた 政 策 を 先 進 国 で 最 初 に打 ち 出 した の は,1979年5月. に. 発 足 した イギ リス保 守 党 の サ ッチ ャー 政 権 で あ る。 サ ッチ ャー 政 権 は労 働 党 政 権 だ けで な くこれ まで の 保 守 党 政 権 が 経 済 政 策 の 基 本 を 雇 用 重 視 と福 祉 政 策 にお いて いた の を"wet" -212(212)一.
(3) 新 自由主義の帰結 としての世界金融危機(櫻 谷) と攻 撃 し,過 去 の 労 資 協 調 路 線 を 徹 底 的 に否 定 し,そ れ に対 置 して 政 治 理 念 と して は 「小 さ な政 府 」,「民 間 活 力 重 視 」,「自助 精 神 」,「労 働 慣 行 の 改 革 」,「法 と秩 序 の 回 復 」,経 済 政 策 と して はイ ンフ レの 抑 制,減 税 と歳 出削 減,国 有 企 業 の 民 間 へ の 売 却(民 営 化)に. よ. り臨 時 財 政 収 入 を 増 や す こ と,公 企 業 に存 在 す る強 力 な 労 組 を 民 間 企 業 の 労 組 とす る こ と で 労 組 の 力 を 減 殺 す る こ と,資 本 の 流 出入 を 自 由 に して,か つ 規 制 緩 和 を して 海 外 か らの 投 資 を 誘 致 す る こ とを 目標 に した(1)。 10年 以 上 に の ぼ る在 任 期 間 に,彼 女 が実 現 した こ とは,ほ とん どの 公 企 業 を 民 間 へ 売 却 し,持 ち家 促 進 政 策 と して 公 共 住 宅 を 個 人 に売 却 した 。 また 所 得 税 は25%∼80%の11段 か ら,25%と40%の2段. 階 に して 富 裕 層 に有 利 に し,法 人 税 は50%か. と もに,付 加 価 値 税 は8%か. 階. ら35%へ 軽 減 す る と. ら15%に 引 き上 げた 。. サ ッチ ャー の 改 革 に よ って,ア. メ リカ と ヨー ロ ッパ か ら金 融 ・サ ー ビス産 業 の 企 業 が 流. 入 し,ロ ン ドンが 国 際 金 融 市 場 と して の 活 況 を と り もど し,産 業 構 造 は三 次 産 業 の ウ ェイ トが 高 ま った 。 二 次 産 業 従 事 者 は,1980年 者 は,同 期 間 に61%か. の37%か. ら90年 に28%に 減 少 し,三 次 産 業 従 事. ら68%に 増 加 した 。. 民 営 化 され た 企 業 の 経 営 者 の 報 酬 は79年 か ら88年 にか けて4倍. とな り,一 般 の 民 間 企 業. の 経 営 者 も1.9倍に増 加 した。 そ れ に対 して,労 働 者 の賃 金 は,同 じ期 間 に平 均42%の に と ど ま った 。 消 費 者 物 価 は80%高 騰 した の で,実 質 賃 金 は,27%下. 増加. が った こ と にな る。. この よ う にサ ッチ ャー 政 権 は,民 営 化 と規 制 緩 和 と海 外 企 業 の 誘 致 と企 業 ・富 裕 層 減 税 の 先 駆 者 と して 経 営 者 や 金 融 街(シ テ ィ)や 世 界 の 投 資 家 か らは改 革 者 と して 高 く評 価 さ れ,ま. た持 ち家 政 策 に よ り中 産 階 級 か ら人 気 を 獲 得 した。 フ ォ ー ク ラ ン ド戦 争 の勝 利 が. サ ッチ ャー 首 相 の 意 志 の 強 さを ア ピー ル す る こ と にな って 国 民 の 人 気 を 高 め,長 期 政 権 を 維 持 で き た た め 世 界 政 治 の な か で 影 響 力 を 強 め る こ と に成 功 した 。 サ ッチ ャー は執 拗 に 「他 に道 は な い」 と言 い続 け て,世 界 の メ デ ィア は 「新 自由主 義 」 を受 け入 れ た。 か つ て 階 級 融 和 的 な ケ イ ンズ政 策 が 受 け入 れ られ た 前 提 に は,労 働 組 合 の 組 織 率 が 高 く 雇 用 の 削 減 は容 易 で はな い と い う状 況 が あ り,さ らに世 界 に は市 場 経 済 だ けで はな く社 会 主 義 経 済 が あ った 。 そ れ らが 退 潮 な い し消 失 した こ と も,新 自 由主 義 が 容 易 に世 界 に広 が る背 景 に あ った 。 政 府 の 役 割 を 縮 小 す る規 制 緩 和 は市 場 の 機 能 を 高 あ,経 済 を 活 性 化 させ る はず で あ る との イデ オ ロギ ー が,メ デ ィ アや 大 学 か ら広 ま って 行 った 。 サ ッチ ャー 政 権 以 来,上 の よ うな 内 容 の 「新 自 由主 義 」 的 経 済 政 策 が,ア. メ リカ,欧 州. 大 陸,日 本 にお いて 採 用 され る こ と にな った 。 (1)梅. 川 正 美(2001)「. サ ッ チ ャ ー と 英 国 政 治(2)戦 -213(213)一. 後 体 制 の 崩 壊 」 成 文 堂,東. 京。.
(4) 第7巻. 第1号. ア メ リ カで は共 和 党 保 守 派 の レー ガ ンが,1980年. 圧倒 的な支持 を得て大統 領 に当選 し. た 。 レー ガ ン大 統 領 の 経 済 政 策 は連 邦 予 算 の 浪 費 を 告 発 して,企 業 と富 裕 層 に対 す る減 税 と通 信 ・銀 行 ・航 空 な どの 分 野 の 規 制 を 緩 和 し,同 時 に福 祉 受 給 者 に対 して 「怠 けて いな いで 仕 事 に就 きな さ い。 最 貧 層 や 取 り残 され た 人 々 に は慈 善 の 手 が の び るで あ ろ うが,そ れ は国 の 仕 事 で はな い」 との 立 場 か ら福 祉 予 算 の 削 減 を 行 った 。 この フ レー ズ は,中 産 階 級 が70年 代 に い だ い て い た 「働 く者 が 損 を す る」 い う福 祉 政 策 へ の 反 感 と共 鳴 しあ い, レー ガ ン大 統 領 の 人 気 を 高 あ る こ と とな った 。 企 業 は後 援 す る シ ンク タ ンクを 組 織 し,政 党 を と らえ,国 家 権 力 を 獲 得 した 。 宣 伝 戦 で は少 数 エ リー トの 経 済 権 力 を 回復 す る意 図 を 表 面 に 出 さず,伝 統 や 文 化 的 価 値 観 に 訴 え た 。 個 人 の 自 由拡 大 と い う大 義 が 世 界 の 世 論 とな った(2)。企 業,メ デ ィ ア,大 学,職 業 団 体 を 通 じて 「新 自 由主 義 」 思 想 が 流 布 され,民 衆 は,市 場 は競 争 や イ ノベ ー シ ョ ンを 促 進 す る もの と して,「 新 自由主 義 」 を受 け入 れ た。. 2.日. 本 にお け る規 制 緩 和. 日本 にお け る規 制 緩 和 は,米 英 の よ う に国 内 的 要 因 か らで はな く,1970年 代 後 半 か ら80 年 代 前 半 の 日米 貿 易 摩 擦,円 安 是 正 の た あ の1985年 の プ ラザ 合 意,ア. メ リカか らの 規 制 緩. 和 要 求 な ど,主 に ア メ リカか らの 外 圧 に よ って 強 い られ た もの で あ った 。 そ れ まで の 日本 は 中央 官 庁 の 行 政 指 導 と主 要 都 市 銀 行 を 核 とす る メイ ンバ ンク制 に よ る ヒエ ラル ヒー 的 な 経 済 構 造 の 枠 組 み の 中で,経 済 成 長 を 追 求 して きた 。 日本 の 製 造 業 は全 産 業 に対 して ア メ リカ よ り も大 きな ウ ェイ トを 占あ て いた 。(表1) 特 に二 大 業 種 の 自動 車 と電 機 は輸 出競 争 力 が 強 か った が,主 要 輸 出先 の ア メ リカ との 貿 易 摩 擦 は 日本 経 済 に と って 成 長 を 持 続 す る うえ で 大 きな 障 害 で あ った 。 ア メ リカ政 府 は80 年 代 前 半 まで は 日本 の 対 米 輸 出規 制 を 要 求 して きた が,つ. ぎ に 日本 経 済 の 規 制 緩 和,と. り. わ け金 融 面 の 自 由化 を要 求 しは じめ た。 当 時 の 中 曽根 内 閣 は,政 治 的 同盟 関 係 を最 優 先 し,経 済 面 で は対 米 譲 歩 を 重 ね た 。85年 の プ ラザ 合 意 で は 日本 は米 欧 に対 して,(1)国 内 市 場 開 放 計 画 の 実 施,(2)規 制 緩 和 の 実 施,(3)円 安 是 正,(4)内 需 刺 激 の 努 力 を 確 約 した(3)。 中 曽根 首 相 は対 米 経 済 摩 擦 を 緩 和 す る た め に 日本 が 実 施 で き る 方 策 を検 討 す る た め に 「国 際 協 調 の た め の経 済 構 造 調 整 研 究 会 」 とい う首 相 の私 的諮 問 機 関 を設 置 し(座 長 は 元. (2)DavidHarvey"ABriefHistoryofNeoliberalism"(2005)邦 (2007)『 (3)財. 新 自 由 主 義 」 作 品 社,東. 訳 デ ヴ ィ ッ ド ・ハ ー ヴ ェ イ. 京。. 務 省 財 政 総 合 政 策 研 究 所 財 政 史 室(2004)『. 外 関 係 事 項 関 税 行 政 」 東 洋 経 済 新 報 社,東. 京。. -214(214)一. 昭和財政史. 昭 和49-63年. 度7国. 際 金 融 ・対.
(5) 新 自 由主 義 の 帰 結 と して の 世 界 金 融 危 機(櫻 谷) 表1GDPに. お け る製 造 業 と金 融 業 の ウ ェ イ ト比 較(%) 日. 製造業. 本. ア メ リカ. 金融業. 製造業. 金融業. 1960. 35. 4. 25. 14. 1965. 34. 5. 26. 14. 1970. 36. 4. 23. 15. 1975. 30. 5. 21. 15. 1980. 28. 5. 20. 16. 1985. 28. 5. 18. 17. 1987. 27. 6. 17. 18. 1998. 22. 6. 15. 19. 2003. 21. 7. 12. 20. 2006. 20. 12. 21. (出 所)内. 日本 銀 行 総 裁 前 川 春 雄),研. n.a.. 閣 府 統 計 局 お よ びU.S.CensusBureauか. ら作 成. 究 会 が ま とめ た 「前 川 レポ ー ト」 は,そ の 時 の経 済 状 況 を,. 日本 の 大 幅 な 経 常 収 支 の 黒 字 は世 界 経 済 に と って 「危 機 的 状 況 で あ る と認 識 す る必 要 が あ る」,「従 来 の 経 済 政 策 の 転 換 な く して,わ が 国 の 発 展 は あ りえ な い」 と まで 言 い,政 府 は 経 常 収 支 の 黒 字 を 削 減 す る こ と,そ の た あ に内 需 拡 大 と輸 入 増 大 に よ る経 済 の 拡 大 を 世 界 に表 明 す べ きで あ る と提 言 し,「グ ロ ーバ ル な視 点 に た た な けれ ば な らな い」との 認 識 の も と に ア メ リカか らの 要 求 を ほ とん ど受 け入 れ る こ とを 表 明 した もの で あ った 。 具 体 的 な 施 策 と して(1)内. 需 拡 大 の た め に都 市 再 開 発,住 宅 減 税,イ ン フ ラ整 備,消 費 財 の輸 入 促 進,. (2)消費 生 活 の 充 実 の た あ に週 休 二 日制 の 完 全 実 施,(3)産 業 構 造 を 変 え るた あ に不 況 の 基 礎 素 材 産 業 の 構 造 転 換,海 外 直 接 投 資 の 促 進,農 産 物 の 輸 入 促 進,(4)海 外 の 企 業 が 日本 市 場 に参 入 で き る よ う に規 制 緩 和,(5)円 安 の 是 正 と金 融 資 本 市 場 の 自 由化 と 円の 国 際 化,(6)国 際 協 力 の た め の 対 外 援 助 の 増 額 な どを 提 案 した 。 86年4月. に ま とめ上 げ られ た 「前 川 レポ ー ト」 はそ の 後 の 日本 の 財 政 金 融 政 策 の 指 針 と. な った 。 「前 川 レポ ー ト」 の後,日 本 銀 行 は86年 初 め に5.0%だ っ た公 定 歩 合 を86年 中 に4 回 切 り下 げ,87年2月. に さ ら に切 り下 げて2.5%に. した。 そ れ に もか か わ らず ア メ リカ は. さ らに公 定 歩 合 の 引 き下 げを 要 求 し,日 本 は そ れ に 応 じな い か わ りに,6兆 円の 歳 出増 と所 得 税 減 税 を 実 施 した 。 赤 字 国 債 が 累 積 して い る に もか か わ らず さ らな る財 政 資 金 が 市 中 に 撒 布 され た の で あ るが,内 需 拡 大 政 策 が 功 を 奏 して 円高 に よ る不 景 気 は86年11月 を 底 と し て や が て 上 向 き,87年 か ら89年 にか けて 年 率5%成. 長 が 実 現 した 。 同 時 に放 漫 な 財 政 金 融. 政 策 は株 価 の 上 昇,地 価 の 上 昇 の バ ブル 景 気 を もた ら した 。 -215(215)一.
(6) 第7巻 3.新. 第1号. 自由 主 義 を 支 え る産 業 面 の 変 化. (1)海 ダト生 産 先 進 国 にお け る賃 金 上 昇 と労 働 力 不 足 に よ って,機 械 化,と 械 が 一 体 とな った メ カ トロニ ク ス化 が,70年. くにエ レク トロニ ク ス と機. 代 前 半 の オ イル シ ョ ックの あ と進 ん だ 。 これ. に と もな い付 加 価 値 の な か の 現 業 労 働 の ウ ェイ トが,減 少 しは じあ た 。 さ らに,70年 代 か ら80年 代 前 半 にか けて,ド ル 高 を 好 機 と して 日本 か らア メ リカ市 場 へ 自動 車,電 機 の 輸 出が 急 増 し,そ れ に ア メ リカ製 造 業 は対 抗 せ ざ るを え な くな った 。 こ う した 条 件 に加 え て 世 界 規 模 で の 多 国 籍 企 業 間 競 争(メ ガ ・コ ンペ テ ィ シ ョ ン)の 時 代 に入 り,企 業 は収 益 が 上 が る可 能 性 が 大 き い立 地,す な わ ち 低 賃 金,質 の高 い労 働 力,低 税 率, イ ンフ ラ充 実,市 場 ア クセ スが 容 易 な 場 所 に生 産 拠 点 を 移 設 す る よ う にな った 。 この よ うな 傾 向 は ア メ リカ に続 いて 欧 州,日 本 で も一 般 的 にな った 。 労 働 運 動 が 力 を な く した 最 大 の 要 因 は工 場 の 海 外 移 転 で あ り,労 働 組 合 に と って 安 価 な コ ス トを 求 め て 世 界 最 適 立 地 を もとめ る大 企 業 の 衝 動 を くい止 め る手 段 はな か った 。 1990年 代 か ら企 業 が こ の動 き を さ らに加 速 させ た の は,基 幹 部 品 ご と に工 程 を 分 け る製 造 業 の 「モ ジ ュー ル 化 」 で あ る。 モ ジ ュー ル 化 に よ って 製 造 工 程 の 分 割,し た が って 工 程 の 一 部 を 海 外 移 管 す る こ とが 容 易 とな った 。. (2)IT革. 命 と金 融 業 の技 術 革 新. IT産 業 は,80年 代 に ア メ リカで 開 花 して 世 界 に波 及 した産 業 で,そ の 技 術 革 新 の 速 さが ア メ リカ的 短 期 重 視 経 営 とマ ッチ した 産 業 で あ る。 90年 代 に本 格 的 に利 用 され る よ うに な った イ ンタ ー ネ ッ トは,企 業 内 ・企 業 間 の 情 報 伝 達 コ ス トを 大 幅 に節 約 す る と と もに,伝 送 速 度 の 高 速 化 は,地 球 の 反 対 側 に リアル タイ ム で 情 報 を送 る こ とを 可 能 に した。 この イ ン ター ネ ッ トの普 及 でIT技. 術 の革 新 はIT革. 命. と い う にふ さわ しい効 果 を お よぼ した 。 そ の 意 義 は,製 造 業 の 部 品 調 達,生 産,配 送,販 売 の 一 連 の 過 程 が 企 業 間 で リアル タイ ム の 情 報 を 共 有 す る こ と が 可 能 と な っ た こ と で あ る。 い わ ゆ るSCM(SupplyChain Management)に. よ り販 売 好 調 な 製 品 の 部 品 はた だ ち に調 達 し販 売 不 振 製 品 の 場 合 は部 品. 調 達 を 削 減 して,在 庫 切 れ と過 剰 在 庫 を な く して 仕 掛 か りコ ス トを 削 減 す る こ とが で き る よ う に な った④。 こ れ は 日本 の 企 業 が 製 造 業 の 連 携 の た め に つ くったJIT・ を,米 企 業 がIT技 (4)林. 術 を 用 い て普 遍 化 した もの と言 わ れ て い る。SCMは. 正 樹 ほ か 編(2001)『. 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク 経 営 」 ミネ ル ヴ ァ 書 房,京 -216(216)一. 都。. カ ンバ ン方 式 モ ノ の管 理 だ け.
(7) 新 自由主義の帰結 としての世界金融危機(櫻 谷) で な く,資 金 の 管 理 に も拡 大 され,企 業 経 営 と産 業 組 織 に大 きな 影 響 を 与 え た 。 第2に,国. 際 間 の取 引 は 距 離 を 感 じさせ な い もの とな った 。SCMを. 海 外 の契 約 工 場 ま. で 組 み 込 む こ とで,世 界 か ら安 価 な 部 品 ・部 材 の 調 達 が 可 能 とな った 。 製 造 工 程 の 一 部 を コ ス トの 低 い外 国 に移 す よ う に な り,海 外 調 達 企 業 は大 きな 収 益 を 手 にす る よ う に な っ た 。 また ア メ リカの 場 合 特 に顕 著 で あ るが,ソ. フ トウ ェ アの 一 部 工 程 や コー ル セ ンタな ど. の 単 純 サ ー ビスを 英 語 圏 で あ りか つ 賃 金 の 低 い イ ン ドや ア イル ラ ン ドに外 注 す る こ とが 多 くな った 。 そ の 結 果 特 定 の 途 上 国 の 経 済 成 長 を 促 進 した 。. 4.日. 本 の 「規 制 改 革 論 」. 「規 制 改 革 」 を進 め る べ く論 陣 を 張 った論 者 に よ れ ば,「 規 制 改 革 」 と弱 者 保 護 との 関 係 は次 の よ う にな る。. 規 制 が あ る と本 当 は弱 者 が 保 護 され て いな いの に弱 者 が 守 られ て い る よ うな 気 にな るの が 問 題 あ る。 一 部 の 弱 者 を 規 制 に よ り守 るた め に他 の 大 多 数 が 不 自 由な 思 いを して い る。 日本 で 弱 者 と呼 ばれ る人 は政 治 力 で 自分 た ちの 有 利 な 規 制 を 維 持 して い る既 得 権 益 者 で あ る。 規 制 改 革 はた しか に競 争 を 激 し くす る。 競 争 が 非 常 に激 し くな った と き経 営 者 の 選 択 肢 は四 つ あ る。 一 つ は規 制 強 化 や 弱 者 保 護 を 訴 え る こ とだ が,今 後 この 手 段 は通 用 しな い。 二 つ 目 は もっ と頑 張 る こ とだ が,こ の 手 段 は素 朴 だ が 限 界 が あ る。 三 つ 目 はや め て 別 の こ とを す る。 た とえ ば,受 験 勉 強 で 難 関 校 を み ん な が あ ざ して も必 ず あぶ れ る人 が 出 る。 そ れ だ った ら自分 は勉 強 に向 か な いか ら,日 本 一 の 芸 人 や 料 理 の 鉄 人 を め ざす 。 四 つ 目 は, 差 別 化 で 対 応 す る。 この 四 つ 目が 経 済 の 活 性 化 に繋 が る(5)。 この 規 制 改 革 論 者 は弱 者 が 政 府 に支 援 を 要 求 す る こ とを 嫌 悪 し,政 府 の 政 策 か ら弱 者 保 護 を 除 くこ とを 規 制 改 革 と考 え て い る。 同 じ く規 制 改 革 推 進 の 立 場 か ら格 差 拡 大 論 を 払 拭 しよ う と して 「日本 経 済 新 聞 」 は2007年5月. に 「格 差 論 越 え て 」 と い う特 集 を 組 ん だ 。. そ れ に よれ ば,格 差 拡 大 論 は,結 果 の 平 等 を 主 張 す るが,そ れ は次 の 点 で 間 違 いだ と い う(6)。. 「機 会 の平 等 」 と企 業 家 精 神 が あ れ ば,企 業 間 格 差 はお の ず とな くな る。 成 功 の 機 会. (5)伊. 藤i元 重(2000)「. (6)日. 本 経 済 新 聞2007/05/11。. 市 場 主 義 」 日 本 経 済 新 聞 社,東. -217(217)一. 京。.
(8) 第7巻. 第1号. は大 企 業 だ け に あ るの で はな い。 「機 会 の平 等 」を 生 か す 起 業 家 精 神 が 健 在 で あ り続 け れ ば,道 筋 は何 通 りに も増 え,企 業 間 格 差 もお の ず と消 え る。 そ ん な 社 会 を つ くる こ とが 起 業 家 再 興 の 真 の 意 義 で もあ る(7)。. 規 制 改 革 論 者 は 「小 さ な政 府」 論 と 「自己 責 任 」 論 で 公 共 の 利 益 を軽 視 し,「経 済 の 活 性 化 」 論 で,私 的 利 益 優 先 思 想 に理 論 的 根 拠 を 与 え た 。 しか し,こ れ で は国 家 は能 力 に恵 まれ た 者 あ る い は 出 自 に恵 まれ た もの を 富 ませ,そ. う. で な い もの に は 目 を くれ な い こ と に な り,社 会 の貧 富 の 差 は拡 大 す るば か りあ る。 「下 位 に属 す る者 は不 満 を もち,次 は不 満 を もつ 彼 らが,さ. らにそ の 下 の 社 会 階 層 に属 す る者 た. ちへ の ア ク セ ス を 閉 じ る。 こ う して金 持 ち か ら始 ま った分 離 は社 会 全 体 に と ど ろ き わ た る」(8)と の分 析 が正 鵠 を得 て い る な らば,社 会 の分 裂 は深 ま る こ とに な る。. 5.拡. 大 す る貧 富 の 格 差. 2006年. ウ ォ ー ル 街 の 証 券 関 係 者 は 高 額 報 酬 に 沸 い た 。 ゴ ー ル ドマ ン ・サ ッ ク ス 社 の2万. 6,000人 の 社 員 の06年 平 均 年 収 は,62万 5,300万. ドル(62億4,000万. ドル(35億. 円)で,小. 売 業2位. の 給 与 所 得 が あ り,退 (252億 円)相. 円)で. ドル(7,300万. 円)で,CEO(最. 高 経 営 責 任 者)は. あ り(9),小 売 り首 位 の ウ ォ ル マ ー トCEOの の ホ ー ム ・デ ポ 社 のCEOは5年. 年 収 は2,967万. 間 で1億. ドル(117億. 職 時 に 会 社 の 業 績 が 悪 化 し て い る に も か か わ ら ず2億1,000万. 円) ドル. 当 の 現 金 と 自 社 株 を 受 け 取 っ た(1① 。 ア メ リ カ の 上 位0.1パ ー セ ン トの 超 富 裕 層. が ア メ リ カ の 所 得 シ ェ ア の7%を. 占 あ る に い た っ たqD。. 経 営 者 の 報 酬 は 会 社 に 利 益 を もた ら した 見 返 りの 成 功 報 酬 と い う わ け で は な い 。 日本 の 自 動 車 企 業 の 役 員 報 酬(07年 円,ホ. ン ダ6,500万. 円,マ. 度,一. 人 平 均)は,日. ツ ダ6,500万 円,ス. 産2億6,200万. ズ キ3,200万 円,三. 円,ト. 菱2,600万. ヨ タ1億2,200万 円 で あ り,企. 業業. 績 の 反 映 よ り も当 の 会 社 の 経 営 者 の 考 え で 決 ま っ て い る こ と が わ か る ⑰。 証 券 会 社 の メ リル リ ン チ の 調 べ に よ る と,06年 有 す る 富 裕 層 は 世 界 で950万. 末 居 宅 以 外 に100万. 人 と な り前 年 比11.4%増. 均 所 得 の 半 分 以 下 しか な い 貧 困 率 は,OECD諸 σ 侶 ⑨ qo ω ㎎. 日 本 経 済 新 聞2007/05/12。 ダ ニ エ ル ・ コ ー エ ン(2009,原. 著2006)林. ドル 以 上 の 資 産 を 所. で あ っ た 。 他 方,所. 得 が その国の平. 国 の な か で ア メ リ カ が 最 も高 く,そ れ に 次. 昌宏 訳. 「迷 走 す る 資 本 主 義 』 新 泉 社,東. 京。. 日 本 経 済 新 聞2006/12/21。 日 経MJ(流 中谷. 通 新 聞)2007/05/04。. 巌(2008)「. 資 本 主 義 は な ぜ 自 壊 した の か 」 集 英 社 イ ン タ ー ナ シ ョナ ル,東. 日 経 産 業 新 聞2008/07/01。 -218(218)一. 京。.
(9) 新 自 由主 義 の 帰 結 と して の 世 界 金 融 危 機(櫻 谷) ぐの が 日本 と イ タ リ ア で あ る 。 日本 は40歳 以 下 の 層 で10%を 所 得 格 差 を 示 す 代 表 的 な 指 標 で あ る 「GINI係 た が,96年. に は0.395と,徐. え る に つ れ,遂. 々 に 上 昇 し,90年. に2006年. OECDは,06年7月. に はOECDか. 超 え て い る。. 数 」 を み る と,日. 本 は85年 に は0.364だ. っ. 代後半以降成果主義賃金や非正規労働者が増. ら格 差 是 正 につ い て 提 言 を 受 け る ほ どに な った 。. 日 本 の 経 済 政 策 に 対 す る 提 言 を ま と め た 対 日 経 済 審 査 報 告 を 発 表 し,. 「日本 は 貧 困 層 の 割 合 が 最 も高 い 国 の 一 つ に な っ た 」 と経 済 格 差 の 拡 大 に 懸 念 を 表 明 し,企 業 が 非 正 社 員 よ り 正 社 員 を 増 や し や す くす る 政 策 を 打 ち 出 す べ き だ と の 見 解 を 示 した 。 OECDは. ま た 日 本 の 「GINI係. 貧 困 率 は 米 国 に 次 ぐ2番. 数 」 が 加 盟30力. 国 の 平 均 を 上 回 る 水 準 ま で 上 昇 し,相. 目 の 高 さ に な っ た と 指 摘 し,格. 対的. 差 拡 大 の 要 因 と して 高 齢 化 や パ ー. トな ど の 非 正 社 員 の 増 加 を 挙 げ,「 正 社 員 と非 正 社 員 と い う労 働 市 場 の 二 極 化 傾 向 が 固 定 化 す る 恐 れ が あ る 」 と 警 告 した 。 そ して,格 護 を 緩 め る(2)非. 差 是 正 の 具 体 策 と して(1)正. 正 社 員 へ の 医 療 保 険 な ど の 社 会 保 険 の 適 用 を 拡 大 す べ き だ(3)社. の 支 出 を 母 子 家 庭 な ど の 低 所 得 世 帯 に 重 点 化 す べ き だ,と ア メ リ カ の 所 得 格 差 は 日本 以 上 に 大 き く,上 の 正 規 職 員 の 平 均 時 給 は10ド ル51セ 護 を 受 け た 世 帯 は109万 世 帯 で,こ ぶ りで 年 収200万. のCEOの. ン ト(1,260円)で れ は1993年. 会福祉. 勧 告 した(③。 所 得 の例 で あ げ た ウ ォル マ ー ト. あ る 。 日本 で2006年. か ら80%以. 一 年 間 に生 活 保. 上 増 え た こ と に な る 。 ま た21年. 円 以 下 の 人 が1,000万 人 を 超 え た 。. グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン やIT革. 命 が この 傾 向 を必 然 にす る わ け で は な い こ とは 北 欧 諸 国. で は 所 得 格 差 は 拡 大 して お らず,GINI係 富 の 大 き な 格 差 は,こ 働 人 口 の30%の. 社員への雇用保. 数 は0.2台 に と ど ま っ て い る こ と で もわ か る 。 貧. れ を 是 認 す る 経 済 思 想 に よ る の で あ る 。 「現 代 の ア メ リ カ で は 全 労. 人 が 時 給8ド. ル 以 下 で 働 い て い る が,こ. れ で は ワ ンル ー ム ア パ ー トの 部 屋. 代 を 払 う に は 足 りな い 」ω 水 準 で あ る 。 ア メ リ カ のGINI係. 数 は,1975年0.390,80年0.403,85年0.419,90年0.428,95年0.450,. 2000年0.462,05年0.469(U.S.CensusBureau)と 一方で ある. 民 の 所 得 格 差 は開 く. 。. 「今 回 の 危 機 で,CEOと. い う絶 対 権 力 に 頼 る 経 営 シ ス テ ム の 限 界 が あ ら わ に な っ た 」⑮。. 大 企 業 経 営 者 の 高 額 報 酬,ス 拠 に した 経 営 者 評 価,社. ト ッ ク オ プ シ ョ ン に よ る 報 酬 支 払 い,四. 日 本 経 済 新 聞2006/07/20夕. ω. バ ー バ ラ ・エ ー レ ン ラ イ ク(2006)『 東 洋 経 済 新 報 社,東. 半 期 ご との 決 算 を 根. 外 重 役 の 大 き な 役 割 な ど ア メ リ カ 型 ビ ジ ネ ス モ デ ル と は,富. ⑬. ⑮. 推 移 し て お り,国. 裕層. 刊。 ニ ッ ケ ル ・ア ン ド ・ダ イ ム. 京。. 日 本 経 済 新 聞2009/6/5。 -219(219)一. ア メ リカ下 流 社 会 の現 実 』.
(10) 第7巻. 第1号. を よ り富 裕 に す る た め の ビ ジ ネ ス モ デ ル で あ っ た こ と が,明. 第2章2008年. 1.金. らか に な っ た 。. の金融恐慌. 融業の規制緩和. ア メ リカ はか つ て 世 界 恐 慌 時 に,金 融 機 関 が 証 券 業 務 を 兼 営 し株 式 市 場 の 暴 落 で1万 余 りの 銀 行 が 倒 産 した 苦 い経 験 を 教 訓 と して,証 券 業 務 の リス クが 金 融 業 務 に波 及 しな い よ う に1933年 の グ ラ ス ・ステ ィー ガ ル 法 よ って 銀 行 業 と証 券 業 が 分 離 され,ま た 銀 行 が 過 度 の 金 利 競 争 を しな い よ う に預 金 金 利 の 上 限 規 制,小. 口預 金 者 を 保 護 す るた め に預 金 保 険 制. 度 な どを 実 施 して いた 。 1960年 代 後 半 イ ン フ レが進 み,そ れ に伴 って上 昇 す る市 場 金 利 に対 して,規 制 され て い る銀 行 の 金 利 の 改 定 テ ンポが 追 いつ か ず,そ の 結 果 遊 休 資 金 は銀 行 預 金 か ら市 場 で 金 利 が 動 く債 券 市 場 に 移 動 して銀 行 経 営 が 苦 況 に 陥 り,銀 行 の預 金 金 利 の 自 由化 と証 券 業 務 が 徐 々 に認 め られ る よ う にな った 。 また,ロ ー ンな どの 債 権 を 担 保 に して そ れ と見 合 う証 券 を 発 行 す る いわ ゆ る金 融 の 証 券 化(セ キ ュ リタ イゼ ー シ ョ ン)に よ り,売 買 しに くい住 宅 ロー ンや 自動 車 ロー ンが 容 易 に売 買(流 動 化)可 能 とな り,ロ ー ンの 証 券 化 の 面 か ら も銀 行 業 務 と証 券 業 務 の 融 合 が 進 ん だ(1④ 。 1980年 の 「金 融 制 度 改 革 法 」 は金 利 自由化,銀 行 と証 券 の 業 務 範 囲 規 制 の 緩 和 を 法 的 に 明 確 に した もの で あ る。 同 時 に同 法 が 銀 行 倒 産 の 場 合 の 預 金 保 証 額 を 引 き上 げ る,い わ ゆ るセ イ フテ ィー ・ネ ッ トを 強 化 した の は,零 細 銀 行 が きわ あ て 多 く毎 年 の よ う に数 十 の 銀 行 が 破 綻 す る状 況 へ の 対 処 で あ った 。 ア メ リカの 金 融 自 由化 と証 券 化 の 動 き は,イ ギ リスの 証 券 業 界 に波 及 した 。 イ ギ リス は 1979年 に為 替 取 引規 制 の廃 止 に よ り,海 外 資 本 の 流 入 とイ ギ リス資 本 の 海 外 投 資 が 容 易 に な った が,そ れ で もな お 証 券 業 界 の 長 い伝 統 は残 り,ロ ン ドン証 券 取 引 所 は内 部 の 業 務 分 野 規 制 と会 員 外 か らの 資 本 参 加 規 制 に よ り資 本 規 模 が 小 さ く,大 口の 取 引 に伴 う リス ク に は応 じ られ な い と い う問 題 を か か え て いた 。 イ ギ リスの 大 企 業 の 株 式 取 引 は ロ ン ドン証 券 取 引 所 よ り もニ ュー ヨー ク証 券 取 引 所 で の 売 買 が 拡 大 し,国 際 金 融 市 場 の な か で ロ ン ドン の 位 置 が 下 が る こ とを 危 惧 した サ ッチ ャー 政 権 は,86年. に証 券 業 界 内 の 業 務 分 野 規 制,証. 券 会 社 へ の 外 部 か らの 資 本 参 加 規 制,手 数 料 の 固 定 制 を す べ て 廃 止 し,こ れ を や や 大 げ さ に宇 宙 の 大 爆 発 にな ぞ らえ て 「ビ ッグバ ン」 と呼 ん だ 。 これ に よ りア メ リカの 銀 行 や ヨー ⑯. 倉橋. 透 ・小 林 正 宏(2008)『. サ ブ プ ライ ム問 題 の 正 しい 考 え 方 」 中 央 公 論 新 社,東 京 。 -220(220)一.
(11) 新 自由主義の帰結 としての世界金融危機(櫻 谷) ロ ッパ 大 陸 の 銀 行 が ロ ン ドン証 券 取 引 所 に参 入 し,ロ ン ドンが 金 融 市 場 と して 活 況 を 取 り 戻 した 。 これ を み て,フ. ラ ンスや ドイ ツな ど大 陸 諸 国 も ビ ッグバ ンと同 じよ うな 規 制 緩 和. を す る こ と にな った 。 1981年 以 降 レー ガ ン政 権 の航 空 機 と電 気 通 信 か ら金 融 に い た る まで,あ. りと あ らゆ る も. の に対 す る規 制 緩 和 に よ り,市 場 の 自 由が 大 幅 に広 が った 。 金 融 資 本 は高 い収 益 率 を 求 あ て 海 外 に 目を 向 け る よ う にな った 。 生 産 の 海 外 移 転 が 常 態 化 した 。 法 人 税 は大 幅 に引 き下 げ られ,個 人 所 得 税 の 最 高 税 率 は レー ガ ン政 権 発 足 時 の70%か. ら28%に 引 き下 げ られ た 。. 中道 な い し中道 左 派 を 標 榜 す る ア メ リカの 民 主 党,イ ギ リスの 労 働 党 もまた 政 権 につ け ば規 制 緩 和 を す す め た 。 ク リ ン トン大 統 領 は,投 資 銀 行 の ゴー ル ドマ ン ・サ ック スの 共 同 経 営 者 で あ るル ー ビ ン を 財 務 長 官 に起 用 し,ル ー ビ ン財 務 長 官 は,商 業 銀 行(普 通 銀 行)が 証 券 子 会 社 を 保 有 す る こ とを 許 可 して 銀 行 業 務 と証 券 業 務 の 垣 根 を 著 し く低 め る こ とを 主 張 した 。1999年 に成 立 し た 金 融 制 度 改 革 法(通. 称 「グ ラ ム ・リー チ ・ブ ラ イ リー 法 」)に よ り,グ ラ ス ・ス. テ ィー ガ ル 法20条 お よ び32条 が 廃 止 され 銀 行 が 証 券 子 会 社 を 持 つ こ と と,銀 行 業 と証 券 業 の 両 方 で の 取 締 役 兼 任 が 可 能 とな った 。 商 業 銀 行 本 体 が 株 式 引 受 業 務 を 行 う こ とや,投 資 銀 行 本 体 の 預 金 受 け入 れ は禁 止 され た ま まで あ った が,子 会 社 を 使 って これ を す る こ とが 合 法 とな った(1の の で 規 制 は事 実 上 撤 廃 され た の と同 じこ と にな った 。 ク リ ン トン政 権 は, 州 ご と に商 業 銀 行 の 業 務 地 域 を 区 分 して いた 州 際 業 務 規 制(「 州 際銀 行 法 」)を97年 に完 全 撤 廃 して いた の で,こ の 二 つ の 要 素 が あ い ま って,商 業 銀 行 と投 資 銀 行 は同 じ土 俵 で た た か う こ と にな り,相 互 に規 模 の 拡 大 競 争 の 時 代 に は い ったq8)。. 2.デ. リバ テ ィブ 取 引. デ リバ テ ィ ブ取 引 は,も と はベ トナ ム戦 争 時 の ア メ リカの イ ンフ レと,1971年 ン大 統 領 に よ る金 ドル 交 換 停 止 後 の ドル 相 場 の 変 動,1973年. のニ クソ. の 原 油 の 大 幅 値 上 げ に よ るイ. ンフ レと,為 替 相 場 にお け る不 安 定 性 を ヘ ッジ(損 失 回 避)す. るた め に作 られ た 金 融 派 生. 商 品 で あ る。 デ リバ テ ィ ブの 種 類 に は,現 時 点 で 将 来 の 売 買 条 件 を 約 束 す る先 物 取 引,現 時 点 に お い て二 者 間 が お互 い に等 価 とみ な す将 来 の お金 の 流 れ を 交 換 す るス ワ ップ 取 引 (た とえ ば 固定 金 利 の債 権 ・債 務 と変 動 金 利 の債 権 ・債 務 を交 換 す る),将 来 の あ る時 点 ま で に特 定 の 価 格 で 買 い また は売 る権 利 の 売 買 オ プ シ ョ ン取 引 な どが あ る。 こ う した デ リバ ⑰. 野 々 口秀 樹 ・武 田洋 子(2000)「 米 国 にお け る金 融 制 度 改 革 法 の 概 要 」 『日本 銀 行 調 査 月 報2000 年1月 号 』 q8)神 谷 秀 樹 ・小 幡 績(2009)『 世 界 経 済 は こ う変 わ る」 光 文 社,東 京 。 -221(221)一.
(12) 第7巻. 第1号. テ ィ ブ は80年 代 半 ば以 降 の 国 際 金 融 シ ステ ム にお け る不 安 定 性 を 背 景 に急 速 に普 及 した 。 デ リバ テ ィ ブの 出現 の 必 然 性 を 社 債 引 受 けを 例 に見 る こ と にす る。 元 来,社 債 に投 資 す る投 資 主 体 は社 債 を 購 入 す るた め の 元 本 を 用 意 す る必 要 が あ り,社 債 が 満 期 にな る まで 金 利 を 受 け取 り続 け るか,ま た は満 期 以 前 に債 券 市 場 で 売 却 す るか の 選 択 はで き る もの の,債 務 不 履 行(デ. フ ォル ト)の リス ク も免 れ な い。 そ こで そ の 制 約 を. 乗 り越 え る も の と して1980年 代 末 に社 債 や貸 出 を 担 保 資 産 に した 資 産 担 保 証 券(CDO: collateralizeddebtobligation)が. 作 り出 さ れ た。 原 資 産 を保 有 す る銀 行 な どが,保 有 す. る資 産 を 自 ら作 った 特 別 目的 会 社 に譲 渡 して 信 用 リス クを 削 減 し,特 別 目的 会 社 はそ の 原 資 産 を もと に社 債 や 株 式 発 行 を して 資 金 調 達 す る。 銀 行 の リス ク資 産 は特 別 目的 会 社 に移 転 す るの でBIS規 に新 しいCDOで 合 成CDOの. 制 の枠 外 とな る。 こ れ が原 初 的 な現 物 型CDOで あ る合 成CDOが. あ る が,1990年 代 半 ば. 発 明 され た。. も とに な るの はCDS(Creditdefaultswap)で. あ る。 リス ク資 産 を 保 有. す る銀 行 の金 融 機 関 は毎 年 リス ク引 受 料 を払 う代 わ りに(プ ロ テ ク シ ョンの 買),も フ ォル トが 生 じた と き は,社 債 元 本 相 当 額 を リス ク引 受 者(プ. しデ. ロテ ク シ ョ ンの 売 り手)に. 支 払 って も らう制 度 が あれ ば当 の 金 融 機 関 の リス クを 他 に移 転 す る こ とが で き る。 この プ ロ テ ク シ ョ ンの 買 い 手 が売 り手 に特 定 資 産 を 参 照 に一 定 の 年 限 を くぎ って 毎 年 プ ロテ ク シ ョ ン料 を 払 う取 引 が,CDSで. あ る。 プ ロテ ク シ ョ ンの 売 り手 は,第 三 者 が 債 務 者 の 信 用. リス クを 負 担 す る点 で は保 証 や 保 険 と似 て い るが,違. い も大 き い。 保 証 にお いて は保 証 を. 受 け る者 が 対 象 証 券 の 債 権 者 で あ り,信 用 リス クが 生 じた 場 合 保 証 人 が 債 権 者 に弁 済 す る と同 時 に債 務 者 に対 して 求 償 権 を もつ 。 保 険 の 場 合 は信 用 リス クが 生 じた 場 合 実 損 を 補 填 す るが,CDSの CDSは. 場 合 は保 険 の よ う に対 象 とな る債 権 を 所 有 す る必 要 はな い。. 債 券 投 資 の よ う に元 本 は必 要 で な く,プ ロテ ク シ ョ ンの 売 買 取 引 で あ り,現 物 の. 債 券 は参 照 だ けで あ り現 実 の 債 権 債 務 関 係 と は関 係 が な くて も取 引 が 可 能 で あ る。 む しろ 後 者 の ケ ー ス の方 が多 い。 つ ま りCDSは. 実 際 の 債 権 者 と債 務 者 とは無 関係 に 当 該 債 券 を. 参 照 して,そ の 債 券 の リス ク引 受 けを 売 買 し,現 物 の 債 券 と は別 の 条 件 を 設 定 して そ の 条 件 で の プ ロテ ク シ ョ ンの 売 買 も可 能 で あ る。 保 有 す る社 債 を 契 約 対 象 に して もよ い し,全 く関 係 の な い債 権,貸 付,転 換 社 債,株 式 な どの 複 数 の 資 産 の 組 み 合 わ せ た ポー トフ ォ リ オ を契 約 対 象 に もで き る。 現 実 の取 引 は後 者 が 多 く,リ ス クヘ ッ ジの 意 味 よ りプ ロテ ク シ ョ ンの 売 買 が 主 目的 とな り,投 機 性 商 品 の 性 格 が 濃 厚 とな った 。 1995年3月. 時 点 で 主 要26力 国 の デ リバ テ ィ ブ契 約 の 未 決 済 額 は世 界 総 生 産 額 の 二 倍 と推. 計 され た 。 店 頭 市 場(市 場 取 引 で な く相 対 取 引)の デ リバ テ ィ ブ取 引 残 高 は,1990年3兆 一222(222)一.
(13) 新 自由主義の帰結 としての世界金融危機(櫻 谷) ドル,95年18兆. ドル,2000年95兆. ドル,05年298兆. ドル と急 成 長 した 。 これ ほ どデ リバ テ ィ. ブが 急 成 長 した 理 由 は,少 な い資 金 で 多 額 の 取 引 を 行 え る こ と,市 場 の 変 動 に柔 軟 に対 応 で き る こ と,デ にBISの. リバ テ ィ ブ資 産 の 損 益 が 確 定 す る まで 貸 借 対 照 表 に載 せ る必 要 が な いた め. 自己 資 本 比 率 規 制 の 枠 外 だ った か らで あ る。. この よ うな デ リバ テ ィ ブ取 引 に対 して ア メ リカ政 府 は,2004年 米 証 券 取 引 委 員 会(SEC) が,自 己 資 本 額5億. ドル 以 上 を 維 持 す る こ とを 条 件 に,米 大 手 投 資 銀 行 に,負 債 は 自己 資. 本 の15倍 以 内 と規 制 され て いた ル ール の適 用 除外 を 認 め た ⑲。 デ リバ テ ィブ は 原 資 産 を 保 有 せ ず に売 買 の み が 可 能 で あ る こ とか ら,投 機 手 段 と して 利 用 され る こ とが 多 く,巨 額 の 利 益 と 巨額 の 損 失 が 同 居 した 取 引 にな った 。 政 策 当 局 はそ れ を 規 制 す るの で はな く,レ バ レ ッジ拡 大 を 容 認 した の で あ る。. 3.サ. ブ プ ライ ム 住 宅 ロー ン問 題. (1)FRBの. 低 金 利 政策. 2000年 に 起 き たITバ 短 期 金 利(FF金. ブ ル の 崩 壊 後,連. 利)を2001年. を 緩 和 した 。2001年9月11日. 邦 制 度 理 事 会(FRB)は. 初 頭 の6.5%か のNYの. ら3.5%に. 段 階 的 に 下 げ,バ. テ ロ 事 件 の 翌 日,グ. に 利 下 げ を 行 っ た の を 手 始 め に,さ. ら にFF金. 不 況 対 策 と して 銀 行 間 ブル 崩 壊 シ ョ ック. リ ー ン ス パ ンFRB議. 利 を 下 げ2003年7月. に1%に. 長 は緊 急 な っ た 。(図. 1). 図1各. 国の政策金利の推移. (出所)内 閣 府 「世 界 経 済 の 潮 流2008年II」,原. こ の 金 利 の 低 さ は50年 ぶ りの こ と で あ り,し イ ン フ レ率 は 年2%だ ⑲. 内 閣 府(2009)『. っ た の で,実. 資 料 は ブル ー ムバ ー グ. か も1年. 間 そ の 水 準 を 維 持 した 。 こ の 時 の. 質 金 利 は マ イ ナ ス と な り,資. 世 界 経 済 の 潮 流2008年H」 -223(223)一. 金 を 借 り る コ ス トは 実 質.
(14) 第7巻. 第1号. ゼ ロ と な っ た の で 住 宅 建 築 ブ ー ム が 生 じた 。 96年 か ら2006年. に か け て,フ. ェ ル ドシ ュ タ イ ンの 推 計 に よ れ ば ア メ リ カ の 消 費 者 は ロ ー. ンの 借 り換 え や 転 売 の 手 法 で,住. 宅 の 市 場 価 格 か ら ロ ー ンの 残 債 を 差 し引 い て9兆. 資 金 を 作 り 出 した ⑫ ①。 住 宅 ロ ー ン 債 務 合 計 額 は,1995年2.5兆 年8.2兆. ドル,2007年11兆. ドル と 拡 大 し,住. 宅 資 産 は 年 換 算10%以. ロ ー ンを 借 り換 え る 方 法 で 住 宅 資 産 を 現 金 化 し,現 年 にGDPの8%に 宅 価 格 指 数(実. 達 し,他. 上 上 昇 し,家. ドル,2006 計 は住宅. 金 化 さ れ た 住 宅 資 本 は ピー ク 時 の2006. 質)は2001年. 方 ア メ リカ の 家 計 貯 蓄 率 は ゼ ロ を 割 り込 ん だ 。 ア メ リ カ の 住. しそ れ が ピー ク で2007年125に. (2)デ. ドル,2001年5.5兆. ドル の. を100と. す る と,2005年132,2006年. に は145に 達 し た 。 た だ. 下 落 し た ⑫D。. リバ テ ィ ブ放 任 政 策. この よ うな 住 宅 バ ブル を もた ら した 住 宅 ロー ンは,次 の よ うな 過 程 を 経 て 市 場 で 売 買 さ れ た 。 最 初 の 住 宅 融 資 自体 は住 宅 貸 付 専 門 の ブ ロー カー が 貸 付 す る。 ブ ロー カー は手 数 料 を 稼 ぐた め に審 査 を 甘 くす る。 次 に住 宅 ロー ン債 権 が 銀 行 に集 め られ,銀 行 は手 数 料 を 取 得 して そ の 債 券 を 証 券 会 社 に売 る。 証 券 会 社 は買 い取 った 住 宅 ロー ン債 権 を 細 分 化 して, 信 用 の あ る高 い格 付 けの 債 券 とサ ブ プ ライ ム ・ロー ンの よ う に低 い格 付 けの 債 券 の 部 分 を 何 通 り に も合 成 して,資 産 担 保 証 券:CDO(collateralizeddebtobligation)を CDOを. さ らに細 分 して合 成 し直 して,CDO2,CDO3と. 作 る。. い う よ う に債 券 の 種 類 を増 や す 。. 組 み 合 わ せ の数 は一 つ の 金 融 商 品 に 対 して1,000種 類 を超 え る こ と も あ る⑳。 合 成CDO は,リ ス クが 分 散 され て い る とい う こ とで,格 付 け会 社 に よ って高 い格 付 け が与 え られ た。 今 回 の 金 融 危 機 で ア メ リカの 債 券 格 付 け会 社 で あ る ムー デ ィー ズ社 やS&P社. が はた し. た 負 の 役 割 は大 き く,批 判 に さ らされ て い る。 債 券 格 付 けの 歴 史 は,20世 紀 の 初 頭 ア メ リ カの 鉄 道 会 社 が 発 行 した 社 債 の 安 全 性 情 報 を 個 人 投 資 家 に販 売 した こ とか ら始 ま った 。 現 在,格 付 け会 社 の 収 益 はそ の85%を. 格 付 け対 象 の 企 業 が 支 払 う手 数 料 に依 存 して お り,顧. 客 の 企 業 は高 い格 付 けを 期 待 し,格 付 け会 社 は顧 客 の 希 望 に迎 合 しが ちで あ る。 不 正 経 理 で 破 綻 した 米 エ ネ ル ギ ー 会 社 の エ ンロ ンの 格 付 けで も,現 在 破 綻 しつ つ あ るサ ブ プ ライ ム 住 宅 ロー ンで も格 付 け会 社 が 高 い評 価 を して いた と い う経 緯 が あ る。 格 付 け会 社 ムー デ ィー ズの 格 付 け利 益 に 占め る合 成 証 券 の 割 合 は,1989年29%,2002年. ②①. 同上. ⑳. ジ ョー ジ ・ ソ ロ ス(2008)『. ⑳. 本 山 美 彦(2008)「. ソ ロ ス は 警 告 す る 」 講 談 社,東. 金 融 権 力 」 岩 波 書 店,東. 京。. -224(224)一. 京。.
(15) 新 自 由主 義 の 帰 結 と して の 世 界 金 融 危 機(櫻 谷) 37%,2005年46%,2006年52%,2007年52%に 獲 得 す る こ と に な り,世 リー ン ス パ ンFRB議. お よ ん だ ㈱。 結 局CDOの8割. はAAA格. を. 界 中 の 機 関 投 資 家 に リ ス ク の 低 い 安 全 な 債 券 と して 売 られ た 。 グ. 長 は こ う し た デ リバ テ ィ ブ 取 引 に 対 す る規 制(デ. る 証 拠 金 規 則 と 最 低 資 本 規 制)に. リバ テ ィ ブ に 対 す. 反 対 し,「 規 制 が な い 方 が 資 金 調 達 の 選 択 肢 が 増 え,流. 動 性 管 理 が 効 率 的 に な る 」 と 主 張 し て い た ⑳。 こ の よ う に 金 融 当 局 が デ リ バ テ ィ ブ を 規 制 対 象 外 に した こ と が,デ. 4.リ. リバ テ ィ ブ の 急 増 を 助 長 した 。. ス クの 軽 視. リ ス ク の 高 い 証 券 は 最 初 だ れ もが 投 資 を 避 け る の で 価 格 は 極 端 に 安 い 。 した が っ て,無 事 投 資 が 回 収 で き た と き の リ タ ー ン は 著 し く高 くな る 。 こ の よ う な リ ス ク を 取 れ る の は 財 力 が あ る 機 関 投 資 家 や フ ァ ン ドで あ る 。 最 初 に リ ス ク を 取 っ た こ れ らの 投 資 家 は 次 に 参 入 して き た 投 資 家 に 一 部 を 転 売 す る 。 こ れ らの 投 資 家 た ち も高 く転 売 す る の で 価 格 は 上 昇 し は じめ る 。 リ ス ク が 高 くて 将 来 売 却 した い と き に で き な い と い う 流 動 性 の リ ス ク が しだ い に 減 少 し,リ. ス ク と リ タ ー ンだ け の 関 係 に な る 。 こ う な る と リ ス ク の 高 い 債 券 の 価 格 は さ. ら に 上 昇 し,個. 人 投 資 家 や 年 金 基 金 も他 の 優 良 債 券 と 組 成 さ れ て 格 付 け が 高 くな っ て い る. の で 安 心 して 購 入 す る よ う に な る 。 価 格 が 上 昇 す る と,「 儲 か る も の は 何 で も よ い 」 と い う 投 資 家 の 心 理 か ら,ど. ん な 金 融 機 関 もそ の 流 れ に 乗 ら ざ る を え な い 。 と い う の は 慎 重 な 取. 引 を 続 け ハ イ リ ス ク ・ハ イ リ タ ー ン商 品 に 手 を だ さ な い 金 融 機 関 は 利 益 率 が 低 くな っ て し ま い,シ. ェ ア で も 利 益 率 で も 同 業 他 社 に 遅 れ を と る こ と に な る か ら で あ る 。 シ テ ィ ・グ. ル ー プ のCEOだ. っ た チ ャ ッ ク ・プ リ ン ス は 「立 ち 上 が っ て 踊 っ て い な け れ ば 」 市 場 シ ェ. ア を 失 っ て 取 り返 し が つ か な い こ と に な る 懸 念 を 語 っ た ㈱。 こ の よ う な プ ロ セ ス を 経 て, ハ イ リ ス ク の ジ ャ ン ク ボ ン ドに 米 欧 の 投 資 銀 行,ヘ. ッ ジ フ ァ ン ド,年 金 基 金 が 投 資 す る よ. う にな った 。 サ ブ プ ラ イ ム 関 連 債 券 は 利 回 りが 高 く,ア ば した 。2002年. 住 宅 融 資 の7%を. メ リカの 住 宅 融 資 の な か で 急 速 に シ ェ アを 伸. 占 め る に 過 ぎ な か っ た が,2005年. た ⑳。 こ の よ う な 結 果 に な っ た の は,流 動 性 リ ス ク の 減 少,ハ. に は20%に. まで 拡 大 し. イ リ タ ー ン,原 資 で あ る 住 宅. 価 格 の 高 騰 の 三 要 素 の 組 み 合 わ せ が あ っ た か らで あ る 伽。 2000年 以 降 ヘ ッ ジ フ ァ ン ドがCDS業 ⑬ ⑳ ㈱ ⑳ ⑳. 界 に 参 入 し,エ. ン ロ ンや ワ ー ル ドコ ム の 破 綻 の と. 同上 ジ ョー ジ ・ソ ロ ス前 掲 書 。 グ リー ンス パ ン,山 岡 洋 一 訳(2008)「 波 乱 の 時 代 特 別 版 」 日本 経 済 新 聞 社,東 京 。 同上 小 幡 績(2008)「 す べ て の 経 済 は バ ブル に通 じ る」 光 文 社,東 京 。 -225(225)一.
(16) 第7巻 き にCDSが CDS残. 第1号. リ ス ク ヘ ッ ジ に 有 効 で あ っ た こ と も あ り,爆. 高 は1兆. ドル だ っ た の が,投. 資 銀 行 が こ の 市 場 に 参 入 す る に つ れ て,ま. の 資 金 が 流 入 す る に つ れ07年 の 時 点 で は42.6兆 場 株 式 の 時 価 総 額18.5兆. た海外か ら. ドル と 比 較 す る な ら,CDS市. 場 が あ ま り に も 巨 大 に ふ く れ あ が っ た こ と が わ か る。2007年. 5.ア. に. ドル に 拡 大 し た 。 そ の と き の ア メ リカ の 上. ドル お よ び 米 国 債 の 市 場 規 模4.5兆. はCDS(Creditdefaultswap)が. 発 的 に 成 長 し た 。2000年. に合 成 証 券 市 場 の 半 分 以 上. 占 め た。. メ リカへ の 投 資. 米 国 債 は世 界 で 最 も流 動 性 の 高 い金 融 商 品 で あ る うえ,新 た な 高 利 回 り高 格 付 け債 券 の 出現 に よ り,世 界 の 遊 休 資 金 が ア メ リカ に向 か う こ と にな った 。21世 紀 に入 って ア メ リカ へ の 資 金 の 流 れ が 急 増 した 。 図2は,ア. メ リカが 日本,中 国,中 東,ア. ジ ア諸 国 の 資 金 を. 吸 収 して い る こ とが 見 て 取 れ る。 中国 や 日本 や そ の 他 ア ジ ア諸 国 は対 米 貿 易 で 蓄 積 した 資 金 を,中 東 産 油 国 は ロ ン ドン経 由で ア メ リカ に投 資 した 。. 図2主. 1"ロロ. 轟と. 轟¶. 口"轟. 口"り. 要 国 ・地 域 の 対 内 純 投 資 の 推 移. 闇=脚. 『. 脚hH轟=脚. 田. 哩. り『. 吐 」h」=F'. `庸 … 噌)1,1MFよ 口f仁五監 」 2.モ れ ぞ 九 に 音 ま れ τ い 弓 国1訓 払 争'の占 お ㌦ ユ ー 口 口!ヱ ロ 鳳 晶 ナ 、 キ ゴ 官 ス 醍 ぴ 〒 ル 由 童 酷 く 加 盟 ユZか臥 hlIE5=韓 国 、 」 啓港」 壁τ 」曜 ウ ン・ガ ポ ー'㌔ た 曙 し四 年 以 曲 φ 但 に 番 酔 は1暫 ま れ 、 な い。 湘L5[△ 阿 ・5「 イ 、}い 一 三1ア 、7イ リ ビ レ.イ}ド ヰ1ノア 山 中 軍=サ 弊 」プ ラ ピ ア 、 タ 官 昌 一 ト、 リ 甘 プ 、 イ ユ ラ エ ル 等L3か 国 ・地 域 。. (出 所)内. 閣 府. 『世 界 経 済 の 潮 流2008年]1』. また 対 米 投 資 にお け る 日本 独 特 の 事 情 もあ った 。 日本 は 日銀 の 政 策 金 利 が 異 常 に低 い状 態 が 長 期 に持 続 して お り(前 掲 図1参 照),そ. れ を 利 用 した 円 キ ャ リー トレー ドが,世 界. の 金 融 機 関 に と って 確 実 な 収 益 源 とな った こ と も 日本 か らの 資 金 流 出の 一 部 が ドル で 投 資 され る原 因 にな った 。 円キ ャ リー トレー ドは,デ 一226(226)一. リバ テ ィ ブ取 引 が 大 量 に行 わ れ て い るた.
(17) 新 自由主義の帰結 としての世界金融危機(櫻 谷) め,そ の 総 額 を 把 握 す る こ と はむ ず か しいが,日 本 の 投 資 家 に よ り資 金 の 大 量 海 外 流 出 に この キ ャ リー トレー ド分 を 加 え る とそ の 額 は 巨額 にの ぼ り,経 常 収 支 の 赤 字 を 拡 大 し続 け る ア メ リカへ の 資 金 流 入 が 逆 転 した と きの 混 乱 の 可 能 性 が 言 わ れ て い る㈱。. 図3世. 界各国の経常収支の推移. 'ハ 」■ ■」.'、. り"v略. り". 降. 甲`…v,り`. リ リ. ■冒サ'りoり. (出所)内 閣 府 『世 界 経 済 の 潮 流2008年H」. ア メ リカ は図3の. よ う に長 期 間 の 経 常 収 支 の 赤 字 の 結 果 ドル を 世 界 に散 布 した の で あ る. が,米 国 債 や 収 益 性 の 高 い金 融 新 商 品 な どの 吸 引 力 に よ り,ア メ リカ に資 金 が 環 流 した 結 果,経 常 収 支 の 赤 字 額 は拡 大 す る一 途 で あ る に もか か わ らず,ド ル の 対 外 価 値 は(た とえ ば 円 ドル 相 場)は 図4の. よ う に安 定 して いた 。 海 外 か らの 対 米 投 資 が 収 縮 す る こ とが あれ. 図4円. ㈱. 榊 原 英 資(2008)「. ドル 実 質 実 効 レー ト. 大 転 換 」 藤 原 書 店,東 京 。 -227(227)一.
(18) 第7巻 ば,ド. 第1号. ル 相 場 の 維 持 は 難 し くな る で あ ろ う 。. 6.グ. リー ン スパ ンの 反 省. 2007年8月,フ. ラ ンス の 銀 行BNPパ. リバ が保 有 す る資 産 の一 部 が 流 動 性 を 失 った の. で,三 つ の フ ァ ン ドの 募 集 と償 還 とを 凍 結 した 。 そ れ か ら数 時 間 して 世 界 の 短 期 市 場 で 取 引 が 止 ま り,世 界 の 主 要 中央 銀 行 は,数 千 億 ドル の 流 動 性 を 市 中 に供 給 した 。 危 機 の き っ か け はサ ブ プ ラ ム債 券 で 発 生 した 巨額 の 損 失 で,リ. ス クが あ ま りに も割 安 に見 積 も られ て. い た こ とが 明 らか に な った か らで あ っ た。 グ リー ン スパ ン議 長 は次 の よ う に述 べ た。 「金 融 シ ステ ムが もっ と効 果 的 にみ ず か らを 守 る こ とが で きな か った 点 に シ ョ ックを 受 けた 。 FRBで. は つ ね に銀 行 が リス ク を う ま く避 け る と期 待 して き た。 今 回 の 危 機 で は この 与 信. 管 理 が う ま く働 か な か った こ とを 示 す 明 らか な 事 実 が あ る。 私 は二 重 に失 望 した 。 世 界 に は この 仕 事 を もっ と う ま くこな せ る人 は いな いか らだ 」⑳。 「誰 に もた しか な こ とは い え な い の だ が,事 実 を み て い け ば,今 回 の 危 機 が め った に起 こ らな い規 模 の もの で あ り,百 年 に一 度 か,五 十 年 に一 度 の 事 態 だ とす る見 方 に説 得 力 が あ る」G① 。 「わ た しの経 験 で は は じあ て,現 代 の金 融 シス テ ム の柱 が い くつ も同時 に,深 刻 な 機 能 不 全 に陥 った 」Gl)。 「ア メ リカ で は,金 融 危 機 は市 場 の 力 だ け で解 決 され るべ き だ との 見 方 は は る か 以 前 に 放 棄 さ れ て い る」勧 と述 べ た。 彼 の 見 解 は一 見市 場 へ の 信 頼 を放 棄 した か の よ うに 見 え る が,実. は平 時 に は市 場 に対 して 「規 制 を しな いか ら自 由 に儲 けな さ い,市 場 が 崩 落 した と. き は政 府 が 支 え ます 」 と,金 融 市 場 が 崩 落 した と きを 予 想 し政 府 の 支 援 の 必 要 性 を 述 べ て い るの で あ る。. 7.リ. ー マ ン シ ョッ クー アメ リ力型 ビジネ スモ デ ル の 崩 壊. 2008年9月15日,ア 億 ドル)が. メ リカ 大 投 資 銀 行 の 一一 角 で あ る,リ ー マ ン ・ブ ラ ザ ー ズ(総 資 産6,910. 破 産 を した 。 こ れ ま で こ の よ う な 巨 大 な 投 資 銀 行 が 倒 産 す る こ と は な い と 信 じ. られ て き た が,取. っ て い た リ ス ク が あ ま り に も過 大 で あ っ た こ と が あ き らか に な っ た 。 政. 府 の 規 制 に 反 対 して 自 由 に 儲 け さ せ よ 主 張 して き た 金 融 資 本 が,金. ⑳. グ リー ン ス パ ン 前 掲 書 。. e①. グ リー ン ス パ ン 前 掲 書 。. el)グ 勧. リー ン ス パ ン 前 掲 書 。 グ リー ン ス パ ン 前 掲 書 。. 一228(228)一. 融資産の時価総額の破.
(19) 新 自 由主 義 の 帰 結 と して の 世 界 金 融 危 機(櫻 谷) 表2ア. メ リ力 金 融 資 本 の 資 産 の 収 縮 と公 的 資 金 受 入 額(億. 総資産. 総資産 の時価. ドル). 公的資金投入+ 資本注入額累計. バ ン ク ・オ ブ ・ア メ リ カ. 2,306. 55. 450. JPモ ル ガ ン ・チ ェ ー ス 十 ベ ア ・ス ター ンズ. 2,010. 130. 250. 1,214. 85. 250. ウ ェル ズ ・フ ァー ゴ 十 ワ コ ビア シテ ィー ・グル ー プ. 1,796. 9. 600. ゴ ー ル ドマ ン ・サ ッ ク ス. 816. 60. 100. モ ル ガ ン ・ス タ ン レー. 602. 24. 100. 1,745. 50. 53. 1,459. 30. 13. 2,684. 49. 20. UBS(ス. イ ス). ソ シエ テ ・ジ ェネ ラル (フ ラ ン ス) BNPパ. リ バ(フ. ラ ン ス). (注)時 価 総 額 は,2009年4月 末 現 在 の 株 価 ・為 替 レー トで 換 算,総 資 産 は 2008年12月 現 在 (出所)「 週 刊 東 洋 経 済2009/5/30」 か ら作 成. 綻 の 危 機 を 契 機 に,財 政 資 金 の 支 援 に よ りか か る こ と は,ビ ジネ スモ デ ル と して の ア メ リ カ型 モ デ ル の 魅 力 が 失 せ た こ とを 意 味 す る。(表2) ア メ リカ金 融 業 の 収 益 性 の 高 さ は世 界 の 余 剰 資 金 を 引 きつ けて きた が,今 回 そ の 危 う さ が 明 らか にな った 。 しか し,世 界 に は年 金 基 金,富 裕 層 の 遊 休 資 金 が 毎 年 累 積 して お り, 資 金 は有 利 な 投 資 先 を もとめ て 世 界 を 動 き回 ろ う とす る。 今 回 の 金 融 危 機 が 沈 静 した と し て も,い ず れ また バ ブル とそ の 崩 壊 は繰 り返 され るで あ ろ う。 グ ロー バ ル 資 本 主 義 にお いて は,資 本 はつ ね に安 い労 働 力 を 求 め て 世 界 を 移 動 しよ う と す るの で,か つ て の よ うな 国 内 の各 層 へ の利 益 の再 分 配 は行 わ れず,「 規 模 の経 済 」 に よ っ て 企 業 のCEOや. 大 株 主 の よ う な 「持 て る人 た ち」 は 巨額 の利 益 を獲 得 す るが,し か し,. そ の 「お こぼ れ 」 は労 働 者 に まで 回 って こな い㈱。 ポ ス ト産 業 主 義 社 会 の 分 裂 は豊 か な 国 と貧 しい国 の 間 だ け に あ るの で はな い。 豊 か な 国 の な か にお いて 中心 と周 辺 の 対 立,新 興 工 業 国 にお いて も中心 と周 辺 の 対 立,そ. して そ れ. ぞ れ の 地 域 の 中心 部 が 相 互 に連 携 しあ って 富 裕 にな った 。 そ の 半 面,両 地 域 の 周 辺 部 分 は 低 所 得 の ま まで あ り世 界 経 済 危 機 に よ り底 辺 層 の 雇 用 と生 活 に もっ と も深 刻 な 影 響 が 出て い る。 日本 は教 育 ・医 療 ・農 業 ・文 化 まで も市 場 主 義 に取 り込 ん で 経 済 成 長 を 加 速 させ た ア メ ㈱. 中谷. 巌前掲書。 一229(229)一.
(20) 第7巻. 第1号. リカ型 シス テ ム に対 す る羨 望 が あ り⑳,そ れ に追 随 して 新 自 由主 義 路 線 を 断行 して 政 府 部 門 の 役 割 を 縮 小 し,「儲 け た者 が 勝 ち」と い う市 場 主 義 にゆ だ ね て きた 。 豊 か で あ る はず の 国 の な か の 所 得 格 差 拡 大 にた い して 改 善 の 処 方 箋 を 出す の で はな く,そ れ で よ いの だ と い う言 説 は現 実 離 れ して い る こ とが 明 らか にな った 。 ア メ リカモ デ ル と は異 な るモ デ ル を 世 界 は必 要 と して い る。.
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