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海から陸への進化:巻貝の上陸過程とその要因

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海から陸への進化:巻貝の上陸過程とその要因

(課題番号12440140)

平成12年度∼平成14年度科学研究補助金(事早耳究(BI_(2))

研究成果報告書

平成15年3月

研究代表者 千葉 聡

く東北大学大学院生命科学研究科)

(3)

はしがき

海から陸へ、生物はいつ、どのように進出したのだろうか。そしてそれはなぜ起きたのだ ろうか。この問題を解くことは、生物の大進化のプロセスや、それに地質学的な要因がど のようにかかわったかを明らかにする上で極めて重要である。生物、特に動物の陸上への 進出の理由として、従来、捕食の効果が重視されてきた。なぜなら、陸上へ逃れることに ょって海中の有力な捕食者の影響から免れることができると考えられるからである。しか し近年DNAの塩基配列の変異に基づく分子系統解析により、極めて高い精度で系統関係や 分岐年代の推定が可能になると、それらのデータから、生物の陸上生活への適応進化に・ 種内競争などによって起こる同所的種分化や、地球レベルの環境変動が強く関与してきた 可能性が示唆されるようになってきた。例えば大西洋の島幌に生息する陸生甲殻類の海か ら陸への進出に、海水準の変動と地殻変動が大きな役割を果たした可能性が指摘されてい る。海水準の変動により生じる新しいハビタットは、同所的な種分化が起こりやすい空白 のニッチが多く出現すると考えられる。果たして生物の上陸という革命的なイベントに、 同所的種分化やグローバルなテクトニクスや環境変動は、どの様に関与してきたのだろう か? 本研究では、陸上への進出に成功したひとつの主要なグループである軟体動物の腹足 類(巻具)に注目し、その起源を明らかにすることにより、この間題を解明することを目 的とする。巻異類は「生きている化石」とされる古い系統が数多く残存し、陸上生活に移 行したグループの姉妹群が現在もなお数多く海洋に存続している可能性が高い。また巻具 類は化石を豊富に産出するため、これら海生の姉妹群の化石記録を辿ることにより海域に おける陸貝祖先種の生態的位置を推定できるかもしれない。また、野外、室内での実験を 通して、行動を詳細に調べることで、生態的分化の状況を把握するのも容易である。こう した点から巻貝はすぐれた研究材料であると考えられる。以上の点から、本研究は、以下 のような研究組織、ならびに経費をもとに研究を行った。得られた成果、およびそれにか かる発表とともに以下に記す。

(4)

研究組織

研究代表者:千葉 聡 東北大学大学院生命科学研究科

研究分担者:加瀬友喜 国立科学博物館地学研究部古生物第二研究室

研究分担者:河田雅圭 東北大学大学院生命科学研究科

交付決定額(配分額)

(金額単位:千円) 直接経責 亊I ィニ N 合計 平成12年度 "テs x冷 0千円 "テs x冷 平成13年度 テs x冷 0千円 テs x冷 平成14年度 テ x冷 0千円 テ x冷 総計 R經 x冷 0千円 R經 x冷

研究発表

(1)学会誌等

Davison, A・ Chiba, S・ and Kawata・ M・ Characterisation and cross-amplification of 20 microsatellite loci inthe Japanese land snail genera Mandarina, Euhadra and

Ainohelix (Mollusca, Gastropoda, Pulmonata). Molecular Ecology Notes (in

press) (2003).

Chiba, S・ Species diversltyand conservation ofMandarina, an endemic land snail of the Ogasawara lslands・ Global Environmental Resewch (in press) (2003)

Davison, A・and Chiba, S・ Laboratory temperature variation is a previously

unrecognised source of genotyplng error during capillary electrophoresis・

Molecular Ecology Notes (in press) (2003).

Teshima, H・, Davison, A・, Kuwahara, Y・, Yokoyama, J・, Chiba, S., Fukuda, T.,

(5)

the land snail Ainohelix editha: a phylogenyand hybrid zone analysis. Molecular Ecology (in press) (2003)

Chiba, S. Pacific island land snails: extinction and conservation of the endemic land

snails of the Ogasawara Islands. Tentacle ll:13-14 (2003)・

Chiba, S. Ecologicaldiversltyand speciation in land snails of the genus Mandarina from the Bonin Islands. Population Ecology 44: 179-187 (2002).

Kan0, Y., Chiba, S.and Kase, T. Major adaptive radiation in neritopslne gaSrtOPOds:

estimated from 28S rRNA sequences and fossil records・ Pl10Ceedings oftheRoyal SocietyofLondon ser B. 269:2457-2465 (2002)・

Ohtsuka, S., Hanamura, Y.and Kase, T. New species of Bochusacea (Crustacea:

Peracarida) from submarine cave on Grand Cayman Island. bological Science,

vol. 19, m0. 5, p. 611-624 (2002)・

Hanamura, Y. and T. Kase. Marine cave mysids of the genus Palaumysis (Crustacea:

Mysidacea), witha description of a new species fromthe Philippines・ Joumal of

Natural History, 36(3): 253-263 (2002).

Kase, T.and Y. Kano. TT10gloconcha, a new genus of larocheine Scissurellidae

(Gastropoda: Vetigastropoda) from the tropicalIndo-Pacific submarine caves・

The VeligeT; 45(I): 25-32(2002).

Mikami, 0.K.and M. Kawata. The effects of individualinteractionand habitat preference on spatialstructure in a grassland bird community・ Ecography 25(2):

200-214 (2002)

Kawata, M. hvasion of vacant niches and subsequent sympatric speciation. Pr10Ceedings of the Royal SocityofLondon B, 269(1):55 - 63 (2002)

Yamamura, E., E.H. Lee, A. Kuzumaki, N. Umematsu, T. Nunoshima, M. Kawata, and

K. Yamamoto. Characterization of spontaneous mutation in the DsoxR and So又s

overproducting strains of Escherichia coli, JouwaL of Radiant Research, 43,

195-203 (2002)

Nagata, Y., K. Mashimo, MI Kawataand KI Yamamoto・ Therole of

(6)

instability in Escherichia coli K12 strains. Genetics 160(I): 13-23 (2002) Kawata, M. The influence of neighborhood size and habitat shape on the

accumulation of deleterious mutations. Journal of Thewetical Biology

211(2):187-199 (2001)

Hayashi, T. and M. Kawatai Evolution of postmatlng lSOlation: comparison of three models based on possible genetic mechanisms. Population Ecology 43(2):

179-188 (2001)

Watanabe, T., T. Nunoshiba, M. Kawata and K. Yamamoto. An in vivo approach to

identifying sequence context of 8-oxoguanine mutagenesis. Biochemical and Biophysical Research Communications,284, I 79- I 84 (2001 )

Kawata, M., M. Hayashi and T. Hara. hteractions between neighboring algae and

snail grazing in structuring microdistribution pattems ofperiphyton. Oikos,

92(3):404-406 (2001 )

Watanabe, Y.and Chiba, S. High within-population mitochondrialDNA variation due

to microvicariance and population mlXlng in the land snail Euhadra quaesita

(Pulmonata, Bradybaenidae). Molecular Ecology 10:2635-2645 (2001). Hanamura" Y. and T. Kase. New shallowIWater mySids of the genus HeteT10mySIS

(Crustacea: Mysidacea) from a submarine cave of Christmas Island, easternIndian

Ocean. Species Diversity, 6(l): ll-21 (2001).

Kano, Y.and T. Kase. Reallocation of Teinostoma (Calceolata) pusillum (AdamS,

1850) to the genus Neritilia (Neritopsina: Neritiliida). Venus. 60: 1-6 (2001). Yamasaki, K・, Chiba, S・and Nagal1ama, H・ Anisotropic shape of islands and species

richness of land snail fauna of the Ryukyus. TTr10Pics 10:95-103 (2000). Hayashi, M. and Chiba, S. htraspecific diverslty Of mitochondrial DNA inthe land

snail Euhadra peLiomphala (Bradybaenidae). Biological Joumal of the I,innean

Society70:3911401 (2000).

Otsuka, S・, T・ Kase, and G・ A・ Boxshall・ A new species ofRidgewayia (Copepoda:

Calanoida) from a submarine cave in Palau, western Pacific. Species Diversity,

(7)

Kodama, K., H. Maeda, Y・ Shigeta, T・ Kase, and T・ Thkeuchi・ Magnetostratlgraphy of Upper Cretaceous strata in South Sakhalin, RussianFarEast・ Cretaceous Research・

21(4): 469-478 (2000).

Kano, Y. and T. Kase. PisulinelLa miocenica, a new genus and species of Neritiliidae

(Gastropoda: Neritopsina) from the Miocene of Eniwetok Atoll of the Marshall

Islands. PaLeontological Resewch, 4( I ): 69-74 (2000)・

Yamamura,E., T. Nunoshiba, M. Kawata and K. Yamamoto. Characterization of

spontaneous mutation in the oxyR strain of Escherichia coli・ Biochemical and BiophysicaL Resewch Communications, 279(3): 422-427 (2000)

Kawata, M・and J・ Yoshimura・ Speciation by sexualselection in hybridizing

poplations without viability selection・ EvolutionatT Ecology Research・ 2(6):897-909 (2000)

Gotoh, T・ and M・ Kawataヱ The effects of spatial habitat structure on population

(8)

研究計画

潮間帯上部や汽水域に生息する巻貝、特にウミニナ類をモデルケースとして、生物が海 から陸へと進出するプロセスを明らかにする。陸への進出を直接に示すパターンである、 垂直方向の帯状分布が形成される機構を明らかにするため、種間の資源利用の違いや種間 競争の効果を野外での操作実験により調べる。海域から陸上への進出を遂げ,陸上から淡 水域、海域まで広い生息場所に適応放散したグループであるアマオブネ超科の巻貝に注目 し.分子遺伝学的な方法と化石記録に基づいて系統推定を行い、このグループの海から陸 への進化史を明らかにする。さらに陸域に適応することに成功した巻貝のグループである、 陸生貝類に注目し、その分子遺伝学的な研究により、陸への進出が巻貝の遺伝的性質にど のような変化をもたらしたかを明らかにする。 (1 )潮間帯巻貝の生態調査 潮間帯最上部に生息するホソウミニナとウミニナを材料とし.野外における移植実験や 生息範囲の比較を通して、これらの種間関係の解明を試みる。それぞれの生息場所の高度、 底質を分類し、各種ごとの野外でのすみ場所の違いを調べる。取り除き実験により、種間 競争の有無を調べる。 (2)潮間帯巻貝の野外、室内における行動実験 ホソウミニナの個体群に著しい形態変異が存在することに注目し、上部に住むものと下 部に住むものとの間に、形態的な違いがあるかどうかを解析する。さらに、それらの間に、 住み場所や干出への選好性の違いがあるかどうかを、野外、室内における行動実験により 明らかにする。 (3)集団遺伝学的解析 上記のホソウミニナを材料とし、酵素多型の分析を行い、上部に生息する個体群と、下 部に生息する個体群がランダム交配しているかどうかを調べる。また、個体群間の遺伝子 流動を推定し、個体群構造を明らかにする。

(9)

(4)分子系統解析 より、長い時間スケールの陸上への進化パターンを明らかにするため、アマオブネ超科の 各属を代表する種をもちいて、核28SrRNA遺伝子を用い、分子系統解析を行う。塩基配列 の違いから算出された遺伝距離と、化石記録の産出記録との比較から、分子進化速度を求 め、海から陸へ進出した時期の特定を行う。また、化石記録と分子系統樹との対比により、 進化史を明らかにする。

(10)

研究結果

1.海から陸への進化のメカニズム:同所的種分化によるホソウミニナの帯状分布の形成 (1)ホソウミニナの多型と選好性 潮間帯の干潟に生息する巻貝であるホソウミニナ(Bat/I//ar/'a elm/'ng/'Crosse)の形態 の変異及び、生息場所の選好性を、松島湾の個体群(図1)をもとに調べたところ、垂直 方向の環境傾度に沿って形態上、行動上の違いが認められた(図2)。潮間帯上部に生息す るホソウミニナはサイズが小さく螺塔が低い殻を持っており(Uタイプ)、それに対して潮 間帯下部に生息するものはサイズが大きく螺塔が高い殻を持っている(Lタイプ)ことが分 かった。また、両者を解剖して軟体部を調べたところ、中腸腺の色に違いがあることが分 かった。砂地に近い潮間帯上部に生息する個体は黄褐色の中腸腺を持ち、泥の上に生息す る潮間帯下部の個体は濃褐色の中腸腺を持っていた。この色の違いは生息環境の違いを反 映しているものと考えられる。 生息場所の違いをもたらす要因として両タイプの環境への選好性を調べるため、実験室 において水槽内での行動観察を行ったところ、潮間帯上部に生息する個体は、潮間帯下部 に生息する個体に比べ水の上に出てくる頻度が多いことが明らかになった(図3)。また、 野外においてそれぞれのタイプを採取し、標識をつけて放したところ、潮間帯上部に生息 する個体は上部に、潮間帯下部に生息する個体は下部にそれぞれ移動した(図4)。また、 これらのタイプは海岸に対して水平方向には移動しても垂直方向にはほとんど移動せず、 ほぼ同じ高度に生息していることが分かった。これらの結果は、室内での行動観察の結果 と調和的であり、これら2つのタイプが、生息場所に対して異なる選好性を持っているこ とを示している。 (2)多型間の遺伝的違い これらの多型が、遺伝的にどのような違いがあるのかを調べるため、ミトコンドリアDNA と酵素多型を調べて、両者の比較を行った。その結果、上記のように殻の形態、中腸腺の 色、そして生息場所への選好性の違いがあるにもかかわらず、 2つのタイプにmtDNAのハ プロタイプの違いは見られなかった。日本に生息するウミニナ属の3種間にはmtDNAのハ

(11)

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(12)

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T....-JJ"「.-」

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T・・--1T  - -t T-・・-       ー _1【_-__」 _ CI C2 図2 上部と下部の形態の違い。 A1-3、 Bl、 Clが上部、それ以外が下部 」.ll.r = J.TL.IT.T..

(13)

----I-・ Lower

0   1 0   20   30   40   50   60   70

Time(h)

(14)

(b)Lowershore 3daysl5days 100 80 Z60 40 20 0 劔 劔 ¥: 鶴..-、残耗 劔 建窯、.藍 ・註喜 劔 rjp yゴ X二 お ■】モ + % ・.<1班 1J∼′j:】 劔 UpperLower 劔劔UpperLower 図4 放してから3日後、 15日後に上部、下部でそれぞれ得られた個体のうち、

上部グループのものと、下部グループのものの割合

(15)

プロタイプに変異があることが確認されており、また、種間の変異よりは小さいが、ホソ ウミニナの種内でも、地域間で変異が確認されている。今回調べたホソウミニナの2つの タイプに変異が見られないことから、これらのタイプの一方が別種である可能性は低いと

考えられる。

これらのタイプの遺伝的交流をより詳細に調べるため、酵素多型の解析を行った。多型 が認められた3つの遺伝子座(PGL LAP、 SODH)のうち、 LAPとSODHの対立遺伝子頻度に ー有意な差があることが分かった(図5)。この結果は、異なるタイプ間での遺伝的な交流が 制限されていることを示している。 以上のことから、これらのタイプの分化が同所的ないし側所的に生じ、ウミニナ科に見 られる種間の帯状分布が同所的ないし側所的な種別ヒにより生じる可能性があることを示 唆している。 2.海から陸への進化パターン:アマオブネ超科の上陸史 核28SrRNA遺伝子の塩基配列を分析し、その変異にもとづいてアマオブネ超科の系統 推定を行った。解析に用いたグループは、中生代以前に繁栄したグループで現在は海底 洞窟だけにすむアマガイモドキ(Her/'taps/'s radu/a)、殻を持たないウミウシ状の特異 な形態をもつチチカケガイ(T/'t/scan/'a //'mac/'ne)、陸生のゲル-プとしてゴマオカタ ニシ(Geor/'ssa rub/Ida)とヤマキサゴ類(P/eurapoma sp. )、淡水域に生息するコハク カノコ(Her/'t/'na rub/'da) 、海底洞窟に生息するシラタマアマガイ(P/'sLJ//'naadams/'ana) 、

深海にすむカサガイ状のユキスズメ(C/'nna/epeta pu/che//a)、浅海域に普通に見られ るアマオブネ類(Her/'tapo//'ta)である。また外群として、サザエとヒメタニシをも ちいた。 得られた系統樹は、図6、 7のようである。アマガイモドキは、殻を持たないチチカ ケガイと最も近縁で、本グループの最も祖先的なグループである。陸生のゴマオカタニ シとヤマキサゴは単系統とはならず、上陸は異なる時期に異なる系統で独立に起きたと 考えられる。ヤマキサゴとの共通祖先は、現在は淡水域にすむコハクカノコと、海域の 洞窟中で隠棲的な生活をしているシラタマアマガイで、海から淡水域、陸上という住み

(16)

対立遺伝子の組み合わせ 遺ホモ(1,1) ロ-テロ(1, 2) {ホモ(2, 2) 8 d 4       クー      0 人肌     ∧肌

-

1

-■■

AI A2  人3  人4  A6    BI B2     C1  62

0-●一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一●

0---I---ll----I-I---0

直線は異なるタイプ間で、点線は同じタイプ内での有意差があることを示す。

白丸はPく0. 05、黒丸はPく0. 01を表す。

図5 各地点におけるSODHの遺伝子型頻度

(17)
(18)

Hydrocenidae Helicinidae

ニミミ

Neritiliidae Phenacolepadidae

′戸手完・\〆守F:.\

Neritidae 一 ヽ Neritopsidae

図7 アマオブネ亜目の形態と系統関係、適応放散の模式図

(19)

場所の変化が起きたことが推定される。またこれらの陸生のグループはその共通祖先と は、軟体部や殻の面で全く異なる形態をしており、上陸に伴い急激な進化が起きたこと が推定される。 これらの分岐関係は、化石記録中での出現順序とほぼ対応しており、過去に陸上に進 出したグループの姉妹群は、特に中生代には繁栄したが、現在では淡水域か、海底洞窟 で隠棲的な生活を営んでいることがわかる。現在、浅海域でもっとも普遍的にみられる アマオブネ類は、化石記録では比較的新しい時代に出現したグループであるが、このこ とは、分子系統学的にも支持される。このグループに近縁なのは、比較的深い海に住む ユキスズメである。 以上のことから、古いグループは、一部は陸上や淡水域に適応し、残りは海底洞窟や 深海で隠棲的な生活を送っていることが明らかになった。本グループの適応放散は、過 去に浅海域で繁栄したグループが陸上に進出し、新しく出現したグループがそれらに代 わって浅海域を占めるというパターンを示すことがわかった。 3.海域と陸域の分子進化速度の違い 核28SrRNA遺伝子のアマオブネ超科の最尤法による系統樹をみると(図)、陸生のゴマオ カタニシとヤマキサゴの枝長が著しく長くなっていることがわかる。 Tajimaの速度テスト を行ったところ、これらは有意に他の分類群の枝長より長かった。また、他の分類群は、 有意な枝長の違いが認められなかった。このことから、陸生の生活様式が、この遺伝子領 域の分子進化速度を加速するのに貢献している可能性が考えられる。 次に、陸生の有肺類であるマイマイ属(Euhadra)を材料として、ミトコンドリアDNAの

分子進化速度を求めたところ、 16SrRNA、 12SrRNA、 Cytochrome oxidase subunit lの各遺

伝子領域で著しい進化速度の増大が認められた。進化速度は伊豆半島の個体群について、

その地質学的な形成年代と、本土との遺伝距離の関係から求めた。特に、 16SrRMについて は、他の海産の巻貝類で知られている速度の10から20倍という極端な速度が得られた(100 万年あたり10%)。また、各集団に著しい多型が見出され、配列が10%以上異なるハプロタ イプが、同じ集団中に見られることもあった。

(20)

以上の結果から、核とミトコンドリアDNAという全く異なるゲノムで共通に、陸上の巻

貝で著しく早い分子進化速度が観察されたことから、陸上生活が分子進化速度を加速して いると考えられる。これを引き起こすプロセスとしては、紫外線量の増加による突然変異 率の上昇、陸と海の集団構造の違いが可能性として考えられるが、直接の要因は不明であ る。この点の解明は今後の課題である。

(21)

まとめ

1.潮間帯最上部に生息するホソウミニナとウミニナを材料とし、野外における移植実験 や生息範囲の比較を通して、これらの種間関係の解明を試みた。ホソウミニナでは.上部 に殻の形態が大きく異なる個体が分布していた。予察的な採餌行動の調査を行ったところ、 これらの個体は常に上部で採餌、休眠しており、より下部に生息する個体とは住み場所や 環境の干出度に対する好みに、明らかな違いが認められた。 2.これらのタイプ間の遺伝的構成の違いを調べるため、ミトコンドリアCOl遺伝子と酵 素多型の分析を行ったところ、 mtDNAには差が見られなかったが、酵素多型には遺伝子頻度 に上下で有意な差が認められた。このことは、潮間帯の帯状分布が種間相互作用とは無関 係に、種内競争を経た同所的種分化により生じる可能性を示す。そして、巻貝の上陸が同 所的種分化により起こりうる可能性を示唆する。 3.核28SrRNA遺伝子に基づき、アマオブネ超科の系統推定を行った。得られた系統関 係と化石に基づく系統関係から、このグループでは、異なる系統で繰り返し異なる時代 に、海から陸への進出が起きたことが推定された。現在、陸上生活をしているグループ は、その共通祖先とは全く異なる形態をしており、上陸に伴い急激な進化が起きたこと が推定される。そしてそれらとの共通祖先は、現在は淡水域または海域の洞窟中で、隠 棲的な生活をしていることがわかった。 4.陸兵ではミトコンドリアDNAの分子進化速度が海産巻貝より著しく速い(10-20倍)こ とがわかり、また集団内で極端に多様な遺伝的変異が存在していることが判った。また同 様な陸域での海域より著しく速い進化速度が核28SrRNAでも見られた。

(22)

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