「郷土の音楽」学校で学ぶこと・地域で習うこと
Japanese Traditional Music Studying at school and Learning in local community 小長井 博子 Hiroko KONAGAI キーワード:郷土の音楽 生活や社会の中の音や音楽 お囃子づくり 地域素材の教材化 はじめに 文部科学省は平成 29 年 3 月 31 日に学校 教育法施行規則の一部改正と小学校学習指 導要領の改定を行った。新小学校学習指導要 領は令和2年度から全面的に実施される。音 楽科においても中央教育審議会答申において、 (1)目標の改善①教科の目標の改善②学年 の目標の改善(2)内容構成の改善(3)学 習内容、学習指導の改善・充実①「知識」及 び「技能」に関する指導内容の明確化②〔共 通事項〕の指導内容の改善③言語活動の充 実④「我が国や郷土の音楽」に関する学習の 充実に関して、改定の趣旨や要点が示された。 それを受け新小学校学習指導要領(音楽)教 科の目標は次のように改められた。 1.教科の目標 表現及び鑑賞の活動を通して,音楽的な 見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の 音や音楽と豊かに関わる資質・能力を次のと おり育成することを目指す。 この目標は、小学校教育における音楽科が 担うべき役割とその目指すところを示したもの で従前は、教科の目標を総括目標として一文 で示していたが今回の改訂では生活や社会の 中の音や音楽と豊かに関わる資質・能力を育 成することを目指し、その上で,育成を目指す 資質・能力として,(1) に「知識及び 技能」の 習得,(2) に「思考力,判断力,表現力等」 の育成,(3) に「学びに向かう力,人間性等」 の涵かん 養に関する目標を示す構成としてい る。また,このような 資質・能力を育成する ためには,音楽的な見方・考え方を働かせる ことが必要であることを示している。(小学校 学習指導要領解説より) 新学習指導要領(音楽科)で特質すべきは 「我が国や郷土の音楽」「生活や社会の中の音 や音楽を豊かに関わる資質・能力」という文 言である。学習指導要領解説にはこれらの文 言が57カ所あまり記されており重要語句とし て扱われている。これは大幅改定点であり、 目指すべき児童生徒の具現化にむけより一層 の指導の充実が急務であろう。 ここでは、「我が国や郷土の音楽」「生活や 社会の中の音や音楽」の中から馴染みの深い 「大漁節」「ゴム跳び歌」「祭り囃子」を取り上 げてみた。特に「祭り囃子」に関して「学校で 学ぶこと」と「地域で習うこと」に分けてその 現状と課題を考察する。 2.学校で学ぶこと (1)郷土の音楽の教材化 学校で学ぶことには小学校学習指導要領 解説音楽編(平成29年告示)における① 伝統や文化、②我が国や郷土の音楽、③ 和楽器、④生活や社会の中の音や音楽、⑤ 身の回りの様々な音楽 に関わる記述や内容
とする。 しかしこれらに該当する音楽が存在してい たとしても、音楽科の目標にそって教材化する 必要がある。「郷土の音楽」を教材化するた めの手段と方法としては ① 地域またはそれに近い地域に存在してい る音楽文化を知る。知る方法として各市 町村教育委員会、観光課、公民館、文 化課等問い合わせる。 ② 実際に鑑賞する。 お祭りや実際の奉納 や練習でもよい。児童の実態からみて、 表現技能が適当なものであるか。また、 どうすれば可能かを検討する。 ③ 演じ手から様々な特徴や基本的な要素を 入手する。地域の住民や伝承者の学校教 育に対する理解があることが前提となる。 ④ 教師自身も体験する。 ⑤ 要素を分析する。 ⑥ 授業の中での目的とどう教材として取り上 げるのかを検討する。 教材研究の視点としては ① 教材の音楽的価値にかかわる視点 ② 音楽を構成する要素にかかわる視点 ③ 音楽的な技能の獲得にかかわる視点 ④ 教材についての知識・理解的な側面にか かわる視点 教材開発の具体的な工夫としては ① 題材のねらいに応じた教材開発の工夫 ② 指導の系統性と発展性に配慮した教材開 発の工夫 ③ 生活と密着した教材開発の工夫 ④ 個に応じた指導の充実を図る教材開発の 工夫 さらに実践面から検討し吟味することとし て重要なのは ① 価値があるか ② 子どもの実態に即しているか ③ 子どもの興味関心が得られるか ④ 時間的問題など外的条件に適うか ⑤ 「ねらい」にせまれるか 学校で学ぶこれらの音や音楽はその指導の 仕方や学び方からいくつか指導方法があげ られる。 ① 伝承されているとおり教材化する方法 ② 若干アレンジしながら、できるだけ伝承 されているとおり教材化する方法 ③ 教材になりにくい部分は扱わず、部分的 に取り上げて教材化する方法的に取り上 げて教材化する方法 ④ 原型をもとにしながらアレンジする方法 (2)具体的事例 ※伝承されているとおり教材化する方法の例 「大漁節」 これまで伝えられてきた伝統的な音楽をな るべくそのままそして可能な限りそれが伝えら れてきた方法を用いて学んでいく学習である。 伝承の過程で行われることに「模倣」があ る。たとえば銚子大漁節を歌ってみようと言っ たとき、まずは発声。頭声発声を続けてきた 学生たちは自分たちのこれまでの音楽的知識 ではとらえにくい音楽であると気づく。仕事歌 とわかり動作を入れて歌い始める。曲想にあっ た体の動きを取り入れることも効果的な指導 となった。今回は拍のある曲であったが拍の ない追分様式などの民謡に取り組ませても良 かっただろう。 学生たちは独特な練習方法を「模倣」で体 得する。「まねをする」というのはつまらない 作業と思われがちであるが実は主体的に音楽 を探り、自分たちの歌に盛り込もうとする主体 的・対話的で深い学びがなければ模倣はでき ない。途中で彼らの探求意欲がなくなったと すればそれは指導者に課題があったからであ ろう。 ※若干アレンジしながらできるだけ伝承されて いるとおり教材化する方法の例 「ゴムとび歌」 地域の遊び的活動を学校という場で改めて とらえ直し、その中にある音楽科的側面及び 動きやことばを学んでいく学習である。
デューイ(注1)は「授業に遊びをとりいれ るには、子どもの遊びの中に見られる音楽的 要素および創造的活動を音楽学習へと再構成 することが要件となる。」と述べている。 学生に地元に伝わる遊び唄をアレンジさせ た。イメージは掴めるが音楽を形づくってい る要素との関連を具体的に思考判断できる学 生はいなかった。歌いながらゴム紐を飛ぶ。 言語と動きが中心となっていることが明らかと なったが、同時展開ができない。飛ぶことが 主となり音楽的側面を意識化できない。指導 者が声の高さとゴム紐の高さの関係やリズム、 飛び手とゴム紐を持っている持ち手の掛け合 い、すなわち問いと答えなど具体的にアドバイ スしてなんとか進めていった。生活の中の音 を音楽として意識化できるようにすることが重 要である。 ※若干アレンジしながらできるだけ伝承されて いるとおり教材化する方法の例 「お囃子」(佐倉の祭り囃子仁羽) 作曲と演奏の一元化という日本音楽の特徴 に注目し、それを生かして「つくる」「表現する」 を連動させた包括的な学習である。 学習教材としての「祭り囃子」の利点 ○学区内またはそれに近い地域に存在するた めどんな環境ではやされているのかイメー ジしやすい。 ○表現領域・器楽にあたり子どもたちの興味 関心を得やすい分野である。 ○和楽器の中でも扱いやすく、音が出やすい。 またどれも多様な演奏方法や音の出し方を 探求しやすい。 ○決まったリズムの繰り返しが多く覚えやす い。まねしやすい。 ○打楽器アンサンブルとしてそのリズムの組み 合わせが楽しく興味関心を持たせやすい。 ○メロディーが民謡音階で受け入れやすい ○音色、重なり、間を感じ取りやすい。 ○唱歌譜を使用するので音楽経験不足でも取 り組みやすい。 ○各町内が楽器を所有しており貸し出し可能 である。 「仁羽」の「音楽を形づくっている要素」 音色……5種類の楽器が様々な表情をもって いる。篠笛の音色が一番高く美しい。ジャ ズの要素があり、支えるのが大太鼓で即 興性もあるし、秘曲を持つ。また腕前に は個人差もある。テンポを整えるのが小 太鼓、上と下で音程が違いそのミックス された音色を楽しむ。大拍子は甲高い音 で音数が多いため全体を引き締める。 旋律……7 穴の篠笛による。お囃子古典調(律 音階)で「はやしたてる」という言葉の由 来となっているがフレーズは上行型であ る。 リズム…小太鼓、大太鼓、鉦、大拍子が基本 的には一定のリズムをくり返す。小太鼓で 間をつかむことが大切であり、リズムが お囃子の基本である。ただし篠笛は合間 をおいて繰り返される反復である。 速度…「走り」「小走り」「中走り」などの言葉 で表現される。この言葉にはだんだんに 速くする、だんだん遅くするという意味も ある。 音の重なり…練習において、鉦にすべての楽 器が合わせる。そのため鉦は四助と呼ば れている。複数のリズムや音の高さで響 き合う。 呼びかけとこたえ…篠笛のメロディーそのもの が呼びかけと答えになっている。その呼 びかけと答えに対して大太鼓や大拍子が 絡んで入ってくる。また、他の町内の山車 とすれ違う際、両者の篠笛が模倣でこた えたり呼びかけたりすることがある。ジャ ズのようだ。 反復…「仁羽」で使われている楽器は基本的 にすべて反復している。リズムが連続し て繰り返される反復である。また全体は リピートし続ける。
1時終了後の学生の感想・意見 ○繰り返すリズムをひたすら習っていてどうな るんだろうと思っていました。今日笛と合わ せてだんだん乗ってくる自分がわかってきま した。 ○笛が入ることで一気に明るさや音の厚みが 増しました。音が重なることの素晴らしさが わかりました。 ○演奏に慣れてくると他の楽器に耳が働き「合 わせようよ」という言葉がでてしまいました。 楽しいです。 ○大太鼓にも音色があることがわかりました。 ○笛はずっとなめらかに吹いているわけではな くフレーズの終わりごとにどんどん高くなっ ていくのがわかりました。 ○五線譜にとらわれず演奏ができてほっとし た。図形譜はすばらしい。唱歌譜も分かり やすい。 自分たちの作品の発表会後の感想・意見 ○音楽科の目標に「生活や社会の中の音や音 楽と豊かに関わる資質・能力の育成」とあ るがお囃子はまさに生活や社会の中にある 音楽でありそれについて体験したり学んだ りすることで子どもたちが自分の人生をより 豊かにいきることができると考える。 ○伝統文化の一つとしてのお囃子はとても魅 力があった。先生はいつも「音楽を形づくっ ている要素はなに」と聴いてくるが、音楽 を特徴付けている要素や音楽の仕組みが もっとすーっと意識がいくようになったら音 楽がもっと楽しくなるかもしれないと思った。 ○児童と取り組む際は音色が違う和楽器を取 り入れて合わせる活動をしたいと思いまし た。音楽の縦と横ということで少しずつちが うリズムでたたきリレー奏もしてみたい。 ○「友だちと一緒につくる」という協働のよさ が出ていました。私はリーダーにとても助け られました。「音楽をつくる」ということを 難しく感じていましたが、音楽の要素を使 えばとてもヒントになることもわかりました。 ○かなり集中して練習できた。社会や社会の 中の音や音楽に気づけるようになりたい。 3.地域で習うこと 「地域の音楽」とは 学区内、またはそれに近い地域にある音楽 のこと、すなわち、生活や社会の中の音や音 楽のひとつ。 「地域の音楽」には子守歌、わらべうた、 民謡、民俗音楽、民俗芸能、地域を素材とし た新しい音楽などがある。 また「地域の音楽」 は宗教、慣わし・風習などの地域行事、舞踊、 文学、美術、民話などさまざまな要素と連携 する。 例「祭り囃子」に関連する要素は 山車・神輿・かけ声・踊り・衣装・連帯感 地域の方々の思いを知る。 1.佐倉のお囃子フィールドワーク (1)フィールドワークとは フィールドワークとは、さまざまな地域や社 会を訪れ、その地に暮らす人々の生活や文化 を観察し、さらには研究することをいう。民 族学あるいは文化人類学において不可欠な研 究方法の一つといえる。音楽のフィールドワー クは、世界の諸民族の中には、ヨーロッパ音 楽とは異なった体系とシステムの音楽が存在 しているという事実とその価値を承認すること から出発している。 ここでは、小長井が平成 6 年と平成29年に 調査した「伝承方法」「練習参加者」「練習の 仕方」に関して分析した。(平成30年千葉敬 愛短期大学紀要40号に資料としてのみ掲載) (2)佐倉の秋祭り概要 千葉県の北部、北総台地に位置する佐倉市 は近年、東京や千葉のベッドタウンとして人口 の増加とともに発展してきた。佐倉市は玄和 2年(1616 年)佐倉城が築かれ、城下町とし て栄えた歴史ある町である。明治初年には佐 倉の新町通りには 200 軒ほどの商人や職人の 家が軒を連ね、「佐倉新町 江戸まさり」とよ ばれた。また現在でも当時の面影として、城 下町の町並みには敵の侵入を防ぐための鍵之
手になった通りや、江戸時代に見られる武家 屋敷通りが残されている。 そして、佐倉市鏑木町には古くから「まかた さま」とよばれ親しまれてきた鎮守守「麻賀 多神社」がある。その歴史はおよそ千年にさ かのぼる。祭られている神様は「稚産霊命」(わ かむすびのみこと)という名前で、人物や作物、 事業の成功や発展を見守ってくださる神様で ある。この神社を中心に繰り広げられる佐倉 の代表的な秋祭りが 10 月第二金土日の 3 日 間盛大に行われる。 秋祭り初日、3 日間にわたるお祭りの無事 と成功を祈願して奉納の式典が神社の境内で 行われる。神社の前に置かれた大神輿は県内 でも最大級のもので、今からおよそ 260 年前 の江戸中期 享保 6 年に江戸から職人 10 人 ほどを呼び、8 ヶ月の月日と当時のお金で 300 両という大金をかけて作りあげたものである。 (麻賀多神社大神輿 佐倉市指定文化財)「さ らばひさし みょうじんまつり」のかけ声とと もに御神体をのせた神輿は氏子の町内を練り 歩くのである。その神輿を迎えるのが各町内 の山車や御神酒所であり、その山車や御神酒 所の上で奏でられるのがお囃子である。 大神輿を最初に出迎えるのは、宮小路の御 神酒所である。御神酒所とはその名のとおり 神輿の中の神様に御神酒を捧げるところであ る。(佐倉では御神酒所を屋台とも呼ぶ)最近 は御神酒を置くことも少なくなり、威勢の良い お囃子(なげあい)で迎えるようになった。こ のほか、鏑木町 並木町 栄町 袋町 野 狐台町 田町 弥勒町 本町が御神酒所 ( 屋 台 ) を持っている。(田町 弥勒町 本町は他 の神社の氏子である)そして横町 上町 二 番町 仲町 肴町 間之町は江戸で使用して いたまたは江戸から買ってきた山車を持ってい た。山車は 5 人位しか乗れず後ろに山車人形 がついていて、横町には石橋(シャッキョウ) 上町には日本武尊(ヤマトタケルノミコト) 二 番町には玉ノ井(タマノイ) 仲町は関羽(カ ンウ) 肴町には竹生島(チクブジマ) 間之 町は猩猩(ショウショウ) がついていた。だ が現在でも使用できるのは横町と仲町の山車 でそれ以外は人形と幕しか残っていない。ま た間之町は焼いてしまったといわれている。 現在ではこの六町も御神酒所を持っていて使 用している。 文化財としての要素 佐倉の秋祭り概要参照 音楽的要素 麻賀多神社の秋祭りに奉納される佐倉囃子 は、江戸祭囃子の流れを汲み粋で軽妙な曲調 を特色とする。編成は篠笛 1 人、大太鼓 1 人、 小太鼓 2 人、鉦 1人の計 5人である。曲目は「屋 台」「昇殿」「鎌倉」「四丁目」「あがり屋台」 の五囃子といわれるものである。曲目構成、 楽器編成が江戸囃子と同じことから、その影 響がうかがえる。 このほかに、「仁羽」という曲があり、大拍 子という横長の締太鼓が加わる。麻賀多神社 の秋祭りで山車、屋台から奏させる曲はほと んどがこの「仁羽」である。この「仁羽」は厳 密には佐倉では 2 種類ある。一つは、笛の梅 沢師匠が伝えたもの、もう一つは、若山流里 神楽の「仁羽」である。この 2 種類の最大の 違いはノリといわれ、「佐倉のお囃子」という と前者をいう。後者では小太鼓を使わず、大 拍子は小太鼓のリズムに近いものを演奏する。 15 町内とも、お囃子の練習は「仁羽」から 始まる。紙に書かれた太鼓の文句を口ずさみ ながら(楽譜を見ながら口唱歌で)、先輩や 師匠の演奏に合わせ、真似する形で練習は進 められる。まずは、基本となる小太鼓のリズ ムをゆっくりとした速さでくり返す。楽器は各 町内 1、2 組しかなく練習場所も限られている ことから、フルタイヤを代用し、順番で楽器 を使うところが多い。小太鼓の練習に約 2、3 年をかける町内もある。そして大拍子、鉦、 大太鼓と進んでいく。篠笛は町内練習では行 わず、師匠と呼ばれる名人に習いに行く。こ こでも口唱歌による昔ながらの手ほどきで行 われている。運指については目で確かめ、メ
ロディーの記憶については口唱歌にたよってい る。しかし、最近は篠笛の指穴番号による楽 譜がつかわれ、効率化がはかられている。そ こで、音楽的要素として、まず口唱歌による 練習をし、次に小太鼓を取り上げ口唱歌に合 わせながら打つという学習過程を基本として みたい。 舞踏的要素 「仁羽」は元来、江戸の里神楽で演奏され る神楽囃子の一曲で、道化(もどき)の面を つけて舞うときに囃される曲である。祭囃子と して使われる大きな要因は、祭囃子の中に「踊 り」が加わったからだといわれている。現在、 佐倉の祭においては、町内ごとに創意工夫し、 独自の舞いを披露している。能や日本舞踊的 な知識が加わると幅が広がるであろう。 伝承について(表1参照) どの町内も楽譜(口唱歌の楽譜)を使って「仁 羽」から練習していく。練習は小学校 3 年生 から始めることができるようだ。小太鼓(ツケ) のリズムを繰り返し打つが古タイヤを使用し消 音している。笛の奏者がリーダーとなってひた すら繰り返していく。「仁羽」が安定してくると 続いて、屋台、昇殿、鎌倉、四丁目、あがり 屋台、投げ合いと学んでいく。この学び方は 学校においても活用できる。笛のリーダーは すべて梅沢貞夫師匠から習い上達していった。 5 年から10 年習うと若梅流や鈴木恭介先生 などから本格的な江戸囃子やお神楽の手ほど きをうけるようになる。このことが佐倉のお囃 子を変えていくことになった。 練習参加者人数(表2・表3参照) 練習に参加している総人数は H 6年 272 名、H29 年 347 名と増加している。小学 校高学年から中学生にかけての練習参加者が ここ 23 年間一番多い。山車の上でお囃子を 演奏できるということが小中学生のあこがれで ある。男は H 6年に 153 人、H29 年に 152 人とほぼ横ばい。女は H 6年 119 名、H29 年 195 名と大幅に増加。男は中学時をピーク でその後は減少していく。練習時間の確保が 困難になるとともに家を出て離れたところで働 くなど佐倉市から離れてしまう影響もあるよう だ。女も中学時をピークとし高校生で減少す るものの大学、一般で増加していく。さらに 追加調査を実施したところH6年時6年生だっ た女子が H29 年まで途中で退会したものの、 引き続き練習に参加しリーダーとなっている方 が18 名も存在した。また、結婚し実家にもどっ てきたという方もおり地域への愛着を深くお持 ちの方の存在も素晴らしい。現在 50 歳以上 の女は 28 名おり町内を支えている。 演奏される曲の変化(表4参照) 16 町内で演奏される楽曲がこの 23 年間で どう変化しているのか、変化していないのか調 査した。H6 年には佐倉囃子を演奏していた 町内が 100%であった。ちなみに昭和 30 年 頃は佐倉のお囃子すなわち「仁羽」のみの演 奏が可能な町内が多かった。平成に入ってか ら笛のリーダーが育ち、佐倉囃子全曲の演奏 がほとんどの町内で可能になっている。すばら しい進化である。さらに「佐倉囃子保存会」 のメンバーが東京に出向き葛西囃子を本格的 に習ったり、家元から直にご指導をいただい たりするようになり ( 伝承について参照 )、佐 倉市内に江戸囃子が入ってきた。粋でノリの 軽やかな江戸囃子はとても人気で , あっという 間に佐倉囃子を追い越している。 成果と課題 <成果> ○「大漁節」を歌唱教材として取り組ませた。 仕事唄は映像を鑑賞しながらの模倣が有効 である。 ○「ゴム跳び歌」は保育コースの学生に習い ながら、体を動かし、意見を伝え合いつつ 遊び唄の楽しさを確認できた。 ○鑑賞で学んだ「感じ取ったことを意識化しそ れがどのような構造から生み出されている かについて思考する」という経験を活かし お囃子づくりをすることができた。 ○地域の音楽を直接鑑賞したり、手ほどきを
受け演奏するという体験をしたりすることで これらの音楽を身近に感じ学習意欲を高め ることができた。また生活や社会の中の音 や音楽にも気づき思いや意図を持つように なった。 ○繰り返しの練習から小太鼓を口唱歌しな がら打つことができるようになり、自信がもて て自分たちとの関わりを感じることができる ようになった。 ○生活や社会の中の音や音楽に耳や目が届 き、音楽的見方、考え方を発揮できるよう になりつつある。 <課題> ○郷土の音楽(歌唱、器楽、音楽づくり、鑑賞) から教育的価値のある素材を教材化して効 果的指導法を研究する必要がある。事例が あれば体系化したい。 ○音楽経験のある学生が授業においてリー ダーとして班活動を牽引してくれていたが音 楽を形づくっている要素については無知の 状態であった。学校での学びが地域での伝 承に変化をもたらしたり、活かせたりするよ うになると地域で活躍している若者の音楽 観が多様化し、さらにはお囃子そのものが 進化することも考えられる。 まとめ 市内各町においては「町づくり協議会」「コ ミュニティースクール」などの活動から地域の 学校教育への理解が高まり、子どもたちを学 校、地域が一体となって育てようという気運が 高まってきている。音楽教育においても、子ど もたちの一番近くに存在する音楽に興味関心 を持つことのできる機会が増え、環境が整い つつあるということが調査で明らかになった。 音楽科の教科の目標には「生活や社会の中 の音や音楽と豊かに関わる資質・能力」の育 成を目指すこととある。この目標を実現するこ とによって、生活や社会の中の音や音楽と豊 かに関わることのできる人を育てること、その ことによって心豊かな生活を営むことのできる 人を育てること、ひいては心豊かな生活を営 むことのできる社会の実現に寄与することを目 指している。したがって、音楽科の学習で学 んだこと(学校で学んだこと)と地域の音楽 活動(地域で習ったこと)とのつながりを子ど もたちが意識できるようにすることが心豊かな 生活を営むことのできる社会の実現に向けて 重要であり、音楽科の果たす大切な役割なの である。 参考資料 文部科学省 小学校学習指導要領 ( 平成 29 年告示 ) 解説音楽編 文部省 日本の音楽の指導 J. デュ−イ 学校と社会 日本学校音楽教育実践学会 日本音楽を学校で教えるということ 平凡社 日本音楽大事典 平成元年 3 月 音楽之友社 季刊音楽教育研究 平成 4 年 春 佐倉の山車人形保存会 佐倉の祭礼 平成 26 年 3 月 小長井博子 千葉県長期研修生研究報告 平成 8 年 3 月 小長井博子 「地域の音楽」教材化の試み 平成 29 年 3 月 小長井博子「我が国の音楽」学校で学ぶこと・ 地域で習うこと 平成 30 年 3 月 ご協力をいただいた皆様 佐倉囃子保存会 副会長 平野雄一様 佐倉市商工会議所 佐倉市秋祭り実行委員会 表町町内会 佐倉市立井野中学校 佐倉市教育委員会 佐倉市教育センター
表1 伝承について 町 名 調 査 年 伝承について 演奏曲目 祭 り に む け て の 練 習 は いつから だれから習うか 楽 譜 を 使 う か 口 唱 歌 で お ぼ え る か 何 楽 器 か ら 習 う か 笛 の 練 習 は どこへ 仁 羽 屋台 昇殿 鎌倉 四 丁 目 あ が り 屋 台 投 げ 合 い その他 栄 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から週 2 回 町内に住む先輩 から習う桜井さ ん ● 小太 鼓 ● ● ● ● ● ● ● H 29 年 年間通して 佐倉保存会 ● ● 小 太 鼓 平野さん ● ● ● ● ● ● ● 佐倉 田 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前 か ら 毎 日 ( 日 曜 日 除 く) 町内に住む、他 地区の方から習 う 宇井さん 山田 さん ● 小 太 鼓 梅沢師匠の ところへ ● H 29 年 年 間 通 し て 月に 1 回 10 月 1 日からは 毎日 三室さん ● ● 小太 鼓 平野さん ● ● ● ● ● ● ● 佐倉 表 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から週 2 回 (火土) 梅沢師匠 保存会から 平 野さん ● ● 小 太 鼓 梅沢師匠の ところへ ● H 29 年 6 月 ~ 7 月 土曜 8 月~9 月 水曜、土 曜 平野さん ● 小 太 鼓 平 野 さ ん 仁 羽から習う ● ● ● ● ● ● ● 佐倉 並 木 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前 か ら 毎 日 ( 日 曜 日 除 く) 町内に住む方か ら習う鵜沢さん 塚田さん ● ● 小 太 鼓 梅沢師匠の ところへ ● H 29 年 7 月から 木 曜、日曜 平野さん ● ● 小 太 鼓 平野さん ● ● ● ● ● ● ● 佐倉 宮 小 路 H 6 年 年 間 通 し て 月 2 回 町内に住む先輩 から習う 長谷 川さん ● ● 小 太 鼓 長谷川さん から ● ● ● H 29 年 9 月週 2 回 10 月毎日 町内に住む先輩 から習う 長谷 川さん 小 太 鼓 天羽一門(船 橋)鈴木啓修 さん ● ● ● 佐倉 本 町 H 6 年 2 月から第 2 第 4 木曜 町内、他地区の 方から習う 船 蔵さん ● ● 小 太 鼓 梅沢師匠 西村さん ● ● ● ● ● ● ● 神楽の本格的 な舞を関川さ んが教えてい る H 29 年 4 月 ~ 8 月 月 2 回 9 月~ 毎週 船蔵尚一さん ● 小太 鼓 船 蔵 尚 一 さ ん 仁 羽 か ら 習う ● ● ● ● ● ● ● 江戸 弥 勒 町 H 6 年 4 月から毎週 木曜 他地区の方から 習う西村さん ● ● 小 太 鼓 西村さんの ところへ ● ● ● ● 若山流 H 29 年 11 月~8 月 月 2 回 9 月~ 毎週 先輩 加藤かず やさん ● 小 太 鼓 先輩 加藤 かずやさん ● ● ● ● ● ● ● 江戸
鏑 木 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から週 2~ 3 回 町内に住む方か ら習う山崎さん 田村さん ● ● 小 太 鼓 梅沢師匠の ところへ ● 町内の山崎さ んが教えてい る梅沢師匠も 指導に来る H 29 年 6 月 ~ 8 月 月 2 回 9 月 ~ 火 曜、木曜 先輩 平野さん すみれちゃん ● 小 太 鼓 平野さん ● ● 江戸 袋 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から毎日 町内に住む方か ら習う 田端さ ん ● 小 太 鼓 ● 町内の田端さ んが教えてい る H 29 年 年 間 通 し て 月に 2~3 回 こうのさん ● ● 小 太 鼓 船蔵さん ● ● ● ● ● ● ● 江戸 野 狐 台 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から 1 日お き 町内の高校生中 心太田さん ● ● 小 太 鼓 西村さんの ところへ ● 保存会から踊 りを教わる笛 だけ若山流 H 29 年 9 月~ つぼいさん ● ● 小 太 鼓 石渡さん ● ● ● ● ● ● ● 江戸 横 町 H 6 年 H 29 年 千葉神社 佐倉 上 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から週 2 回 他地区の方から 習う 山田さん ● ● 小 太 鼓 ● よその町から 参加している 高校生がいる 若山流 H 29 年 年 間 通 し て 月に 2 回 山田さん ● ● 小 太 鼓 山田さん ● ● ● ● ● ● ● 江戸秘曲 二 番 町 H 6 年 H 29 年 若山流の方々 石渡さん 江戸 仲 町 H 6 年 祭りの 1 ヵ月 前から週 2 回 保存会の中学生 中心 小 太 鼓 ● ● ● ● ● ● ● 保存会メンバ ー 平 野 さ ん (親子)船蔵 さん(父)青野 さん(兄弟) H 29 年 年 間 通 し て 月に 1 回 平野さん ● ● 小 太 鼓 平野さん ● ● ● ● ● ● ● 江戸/佐倉 肴 町 H 6 年 H 29 年 成 田 楽 笑 会 の 方々 江戸 間 之 町 H 6 年 祭りの前 3 回 保存会の中学生 中心 ● 小 太 鼓 船蔵さんの ところ ● ● ● ● ● ● ● よその町から 参加している 中学生がいる H 29 年 祭 り の 前 の み 鈴木さん ● ● 小 太 鼓 平野さん ● ● ● ● ● ● ● 佐倉
表2 練習に参加している児童・生徒数 小 1 以 下 小 2~小 4 小 5~小 6 中学生 高校生 大学一 般 小計 計 町名 調査 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 栄町 平成 6 年 0 0 0 0 0 1 5 1 0 0 1 0 6 2 8 平成 29 年 0 0 0 0 0 4 1 3 0 2 5 10 6 19 25 田町 平成 6 年 0 0 3 1 10 0 5 1 4 2 0 2 22 6 28 平成 29 年 2 2 5 5 2 3 7 2 2 1 3 2 21 15 36 表町 平成 6 年 0 0 4 2 10 5 10 10 0 0 1 0 25 17 42 平成 29 年 0 0 0 0 8 13 10 10 2 6 2 1 22 30 52 並木町 平成 6 年 0 0 0 4 2 3 5 5 10 2 0 3 17 17 34 平成 29 年 0 0 3 0 2 2 0 1 5 6 3 5 13 14 27 宮小路 平成 6 年 0 0 4 3 0 0 2 4 2 0 3 1 11 8 19 平成 29 年 2 2 1 4 0 0 2 2 8 3 4 0 17 11 28 本町 平成 6 年 0 0 1 2 4 20 0 0 1 0 0 1 6 23 29 平成 29 年 0 0 2 2 2 8 4 14 0 1 2 3 10 28 38 弥勒町 平成 6 年 0 0 0 0 0 2 11 2 1 2 0 0 12 6 18 平成 29 年 0 0 0 5 2 2 1 4 3 3 5 5 11 19 30 鏑木町 平成 6 年 0 1 2 0 4 5 5 8 0 2 0 1 11 17 28 平成 29 年 0 0 0 0 0 0 5 0 0 0 0 0 5 0 5 袋町 平成 6 年 0 0 0 2 0 0 2 3 2 0 2 1 6 6 12 平成 29 年 0 0 6 1 0 1 0 2 2 0 0 2 8 6 14 野狐台町 平成 6 年 0 0 3 0 5 0 3 3 5 0 0 0 16 3 19 平成 29 年 0 0 0 0 0 0 0 5 1 5 3 0 4 10 14 横町 平成 6 年 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 平成 29 年 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 上町 平成 6 年 0 0 0 0 0 0 0 0 12 1 3 0 15 1 16 平成 29 年 0 0 1 2 4 3 1 3 6 3 5 10 17 21 38 二番町 平成 6 年 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 平成 29 年 0 0 0 0 2 1 0 1 1 0 3 3 6 5 11 仲町 平成 6 年 0 0 0 0 0 4 2 6 0 0 0 0 2 10 12 平成 29 年 1 2 0 0 0 1 0 0 0 0 1 3 2 6 8 肴町 平成 6 年 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 平成 29 年 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 間之町 平成 6 年 0 0 0 0 1 0 3 1 0 0 0 2 4 3 7 平成 29 年 0 0 0 0 1 4 3 3 1 2 5 2 10 11 21 小計 平成 6 年 0 1 17 14 36 40 53 44 37 9 10 11 153 119 272 平成 29 年 5 6 18 19 23 42 34 50 31 32 41 46 152 195 347 合計 平成 6 年 1 31 76 97 46 21 272 平成 29 年 11 37 65 84 63 87 347
表3 練習に参加している児童・生徒数(グラフ) 表4 演奏される楽曲の変化 ※佐倉囃子…佐倉に伝わってきた江戸囃子 ※江戸囃子…若山流のお囃子 ※佐倉のお囃子…仁羽(にんば)のこと 0 10 20 30 40 50 60 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 小1以下 小2~小4 小5~小6 中学生 高校生 大学一般 平成6年 平成29年 並木町 佐倉の囃子 佐倉囃子 田町 佐倉囃子 佐倉囃子 栄町 佐倉囃子 佐倉囃子 弥勒町 江戸囃子 江戸囃子 宮小路町 佐倉囃子 江戸囃子 仲町 佐倉囃子 佐倉囃子 野狐台町 佐倉囃子 江戸囃子 二番町 江戸囃子 江戸囃子 上町 江戸囃子 江戸囃子 袋町 江戸囃子 江戸囃子 肴町 江戸囃子 江戸囃子 間之町 佐倉囃子 佐倉囃子 鏑木町 佐倉囃子 佐倉囃子 横町 佐倉囃子 佐倉囃子 麻賀多神社 本町 江戸囃子 江戸囃子 町名 平成 6 年 平成 29 年