氏 名 浅川 幸子 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博 4 甲 第 131 号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年3月20日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 Lymphatic Involvement is the Most Important Predictive Factor for Lymph Node Metastasis in Undifferentiated-TYPE Early Gastric Cancer (未分化型早期胃癌ではリンパ管侵襲はリンパ転移の最も重要な 予測因子である) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 加藤 良平 委 員 准教授 柴垣 直孝 委 員 講 師 松田 政徳
学位論文内容の要旨
(研究の目的) 近年、内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD)の技術が進歩し、低侵襲・術後 QOL 等の観点より優れた治療 として普及してきた。Undifferentiated-type early gastric cancer (Undiff-EGC)では、lymph node metastasis (LNM)率が高く予想され、リンパ節郭清を含めた外科手術が必要と考えられていた。 2000 年 Gotoda らは、mucosal cancer (m)、ulceration (UL)陰性、size≤ 2cm、lymphatic-vascular involvement (LVI)のない Undiff-EGC では LNM は 0% (95%CI,0-2.6)と報告し、ESD の可能性を示 唆した。Gastric Cancer Treatment Guidelines 2010 が作成され、上記の基準内病変では適応拡大 としてESD 治療が行われつつある。Undiff-EGC の適応外病変では LNM は 2.8-10.6%と報告され、 約90%以上では転移がなく、低 LNM の 90%の患者を選別出来れば、手術リスクが高い高齢者や様々 な疾患合併症例などでは、不要な外科手術やリンパ節郭清を避けられる可能性が考えられる。本研究 では、胃切除したUndiff-EGC 多数症例を対象として LNM のリスク因子を明らかとし、さらにリス クの組み合わせによるリスク群の層別化を目的として行った。 (方法) 1983 年から 2012 年 4 月までの Undiff-EGC に対して胃切除術+リンパ節郭清を行った 567 症例を 対象とし、局所LNM に関連する臨床病理学的因子の特徴について統計解析に加え、data mining 解 析による検討も導入して解析を行った。Guidelines に準じて組織分類の Poorly differentiated adenocarcinoma (por1、por2)、Signet-ring cell carcinoma (sig)、Mucinous adenocarcinoma (muc) をUndiff-EGC とした。(結果)
567 例中 44 例(7.8%)に LNM を認めた。単変量解析では、size> 2cm、protrusion、submucosal invasion (sm)、mixed type、lymphatic involvement (LI)陽性、venous involvement 陽性が LNM の有意な関連因子であり、多変量解析では> 2cm (OR,3.62; p = .009)、LI 陽性 (OR,40.7; p < .001) が独立因子であった。LVI を除く治療前評価可能因子では、sm (OR,4.37; p < .001)、> 2cm (OR,5.0; p < .001)が独立因子であった。従い size、depth から推定される治療前の LNM のリスクは、m・≤ 2cm 0% (95%CI, 0-2.3%)の低リスク、m・> 2cm 5.6% (95%CI, 2.6-11.7%)と sm・≤ 2cm 6.0% (95%CI, 3.2-11.1%)の中リスク、sm・> 2cm 19.3% (95%CI, 13.8-26.4%)の高リスク群に分けられた。一方、 治療後評価可能因子であるLI は、単独で LNM と強く関連し、LI 陰性全体の LNM は 1.4% (95%CI, 0.6-3.9)、LI 陽性では 28.2% (95%CI,21.3-36.3)と大きな違いを認め、中・高リスク症例でも LI 陰性 であれば、LNM は低値であった。Data mining 解析では depth、size、location、mixed type が LNM リスク因子として選択された。 (考察) 本研究ではLNM のリスク因子を臨床病理学的に検討し、以下の点を明らかにした。1) LI、size、depth の3 因子が LNM に関連する最重要因子であること、2) 上記 3 因子の低 LNM 条件 (m、≤ 2cm、LI 陰性)を満たした 161 例に LNM を認めなかったこと、3) 従来あまり検討されていない低 LNM 条件 以外の LNM リスクを層別化し、LI 陰性では m かつ≤ 2cm でなくとも LNM は 3.0% (95%CI 0.8-10.3%)までで、必ずしもリスクが高くはないことを示した点である。 本研究ではLI、size、depth は LNM の危険因子であり、ESD を想定し術前に得られる脈管侵襲因 子(LI と VI)を除いた多変量解析では、size、depth が、また術後に得られる LVI を含めた解析では LI、size が独立危険因子となった。
Gastric Cancer Treatment Guidelines 2010 において ESD 施行時に UL に関しては、陰性である べき因子となっているが、単変量・多変量の両解析でUL(-)と(+)で LNM と明らかな関連を認めず、 重要性は必ずしも高くはなかった。VI は、単変量解析では LNM と関連あるが多変量解析では独立 因子とはならず、必ずしもLNM リスクとの関連が高くはないことが考えられた。
次に多変量解析で抽出された術前因子size と depth の組み合わせから LNM の risk group (high・ middle・low)を分類した。≤ 2cm・m は low risk group、≤ 2cm・sm と> 2cm・m は middle risk、 > 2cm・sm は high risk と分類され、いずれの 2 群同士の比較で LNM 率に有意差を認めた。Low risk group は ESD の絶対的適応であり、high risk group では原則手術療法が選択されるべきであるが、 middle risk group では条件によっては ESD の相対的な適応を考えてよいかもしれない。一方、size とdepth に LI 因子を加えると、LI の有無によって LNM リスクが各群で有意に 2 分された。すなわ ちlow risk の≤ 2cm・m では LI は全例陰性で LNM 率は 0%であったが、middle risk group の≤ 2cm・ sm では LI 陽性で 11.4%、陰性で 1.6%、> 2cm・m で LI 陽性で 75%、陰性で 2.1%、high risk group の> 2cm・sm で LI 陽性で 32.5%、陰性で 3.0%と各々の群で 2 分され、LI の重要性が明らかとなっ た。すなわちLI は 3 因子中で最も LNM に関連すると考えられた。
さらにdata mining の決定木解析を用い、条件の異なる個々の症例を臨床病理学的因子から、LNM のリスクの程度を具体的に提示しサブグループ化することに成功した。重要因子として抽出された5 因子のうち3 因子 LI、size、depth は、低 LNM 条件 (m、≤ 2cm、LI 陰性)を構成する Gotoda 基準
とほぼ同義な因子であり、data mining 解析の有用性が示された。また多変量解析で抽出された独立 因子LI、size、depth 以外に、mixed type、location が選択された。
LNM リスクの情報は、高齢者など手術リスクの高い症例において、ESD や手術等の治療法選択 において有用な情報となる。手術による治癒切除後の5 年生存率は全年齢で 90%以上であるものの、 80 歳以上では手術による治癒切除後の 5 年生存率は 54-55%であり、死亡原因は他病死が多い。一 方ESD 治療では、治癒切除で 5 年生存率 80%、非治癒切除となり追加手術をしない場合でも 66.7% とする報告があり、日本の一般的な80 歳の 5 年生存率 69%とほぼ同等であり、ESD が手術成績を 上回る。本研究で、LI 陰性では LNM が最大 10%であり、90%以上の症例では局所治療だけで治癒 的な治療である可能性が高い。ESD ガイドライン外病変でも LNM を予測し、胃切除手術が患者の 平均余命を下回る場合は、ESD による局所治療のみで経過観察をすることが妥当な場合があると考 えられた。 (結論)
Undiff-EGC の LNM のリスク因子は術前では depth と size、LVI を含むと LI と size であった。特 にLI は LNM と強く関連し、LI 陰性では LNM risk は低く、高齢者などの手術困難症例では ESD 後に、リンパ節廓清をせず経過観察することも考慮されうる。
論文審査結果の要旨
未分化型早期胃癌(Undifferentiated-type early gastric cancer: Undiff-EGC)はリンパ節転移の頻度 が高く、リンパ節郭清を含めた外科手術が必要とされている。本研究ではUndiff-ECG 多数症例を対 象としてリンパ節転移のリスク因子を明らかとし、さらにリスクの組み合わせによるリスク群の層別 化を目的として検討した。本研究の論文審査会では以下の質問が出され、質疑応答が行われた。 1. 胃癌の取扱い規約には未分化癌という独立した腫瘍名があるが、今回の未分化型早期胃癌とはど ういう癌なのか、一般的な名称なのか? 回答:確かに未分化型早期胃癌と未分化癌は紛らわしい。ここで用いている未分化型早期胃癌は、 粘液癌、印環細胞癌、低分化腺癌などで未分化癌とは異なる。現在、この用語は学会発表や邦文、 英文論文などでも用いられるようになってきた。 2. 用いた症例は 567 例と多数例であるが、その中に術前に EMR か ESD が施行された症例は含ま れているか? 用いた症例は全て手術材料で、EMR 症例や ESD 症例はこの中には含まれていない。 3. 切除標本検討の評価はどうなのか? 回答:ESD の症例に当てはめることができるが、今まではまだ適応していない。 4. リンパ節転移の程度との関係は? 回答:今回の検討はリンパ節転移の有無だけで、リンパ節転移の程度との関係に関してはこれか ら行っていきたい。 5. ESD はいつごろから普及したか? 回答:2006 年ころからだが、2010 年から実施している。
6.リンパ管侵襲の評価は大変か? 回答:通常、リンパ管侵襲は通常のHE 染色では判定が難しいと思う。EVG 染色や免 疫組織化学(D2-40)などを用いているか? 回答:診断は病理診断医による。今回はHE 染色でのみ評価した。 7.食道とか近くでの臓器での検討は? 回答:今後同様の検討をしていきたい。 8.術前の超音波検査では、粘膜下組織への浸潤はどの程度わかるものなのか 回答:術前の超音波検査でおおむねsm 癌の 90%程度は診断しうる。しかし、sm1 に関しては 50% くらいだと思われる。 9. タイトルの「未分化型早期胃癌ではリンパ管侵襲はリンパ節転移の最も重要な予測因子である」 はあまりにも当たり前ではないか? 回答:検討してみたいと思う。 審査の結果、 1)用いたいずれの方法も本研究の目的に合致し、方法論的にも矛盾のないものと考えられた。 2)いずれの結果も著者本人により出されたもので、結果の表現や解釈に矛盾の無いものと考えられ た。 3)まとめにおける結果の解釈、参考文献、そして考察は、矛盾が無く適正なものと判断された。 審査員の質問に対しても的確な回答を得た。